『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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セカンド・ゲーム

…帰宅…

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 スターター・セレモニー・ホール迄戻ると、そこには臨時の受付が設えられていた……ひとりひとりが姓名・所属艦・ポスト・ゲーム内専用PIDカードと専用携帯端末の提示をして、本人確認が完了……正式なPIDメディア・カードとその人所有の携帯端末が返還される。

 私やシエナや他のクルー達も、同じ手順を踏んで受付を済ませて通過した。

 私とシエナはお互いの左手と右手を握り合ったまま『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社の1階まで上がった。

 ホールを見遣ると、リサさんが足早に歩み寄って来る……シエナが手を離そうとしたが、私は離さなかった……リサが私の右手を両手で握って傍に立った。

「……お帰りなさい…アドルさん……」

「……ただいま…リサさん……貴重品護送車は? 」

「……入り口の前で待機しています……」

「……貴重品保管庫の準備も大丈夫? 」

「……大丈夫です……」

 正面出入り口に近い場所に立って見遣ると、護送車の運転手と保管庫警備のスタッフ達が出て来たクルー達に声を掛けて、その人が『ディファイアント』のクルーならば、姓名とポストを確認の上で、3種の必須アイテムを受け取っていた。

 不意に右肩に左手が……左肩に右手が置かれる……ハイラム・サングスター艦長とザンダー・パスクァール艦長だ……ハイラムさんは、何も言わずにシガレットのボックスを手渡してくれた。

「……お疲れ様でした…アドルさん……非常に厳しい……悪くすればかなり凄惨な戦いになるのではと、覚悟していましたが……終わってみれば…結果的にはですが、少ない被害で勝てました……これもアドルさんの考えによる準備と指示と……戦術・戦闘指揮に依る処が大きかったと考えます……ご苦労様でした……そして、ありがとうございました……」

「……ハイラムさん……私自身も…まさかこのような形で勝つ事になるとは思いませんでした……誰にも考えられなかったでしょうね……ともあれ、勝てて好かったです……お疲れ様でした……ご苦労様でした……」

「……アドル主宰……本当にお疲れ様でした……結果についての覚悟はしていませんでしたが……凄まじい死闘になるだろうとは、考えていました……結果…これだけの損傷で終われた事については…安堵しています……私もハイラム艦長と同様に…アドル主宰の考えに依る指示と指揮であったからこそ、この結果で終われたのだろうと考えています……ご苦労様でした……早くお帰りになられて、お休み下さい……」

「……ありがとうございます…ザンダーさん……まあ…成り行きはどうであっても、皆さんの艦を…損傷はあっても無事に入港させる事ができたのは、良かったです……胸を撫で下ろしていますよ……本当にね……気を付けて帰って、ゆっくり休んで下さい……」

「……そう言って頂けるのは、如何にも貴方らしいと……改めて思いますよ……ありがとうございます……」

「……どう致しまして……ああ、ランドール副長……無事に帰り着くまで…お願いしますね? 」

「……勿論です。アドル主宰……本当にお疲れ様でした……主宰も早くお休み下さい……では、これで失礼します……」

 そう応えるアレクシア・ランドール副長に、右手を挙げて応える……が、彼女の左後ろで同様に会釈した女性を認めた。

 漆黒の虹彩……同色のストレート・セミロングヘア……そして肌は、かなり白い。

 「……ザンダー艦長……ランドール副長の後ろの彼女は、日本の方ですか? 」

「……ええ…日本の女優さんです……珍しいですか? 」

「……ええ…私が貰ったクルー候補者リストに…日本の方は載っていませんでしたから……」

「……私が貰ったリストには、6人載っていましたね……彼女はその中のひとりで『イトウ・ミユキ』さん……左舷のセンサー・オペレーターとして就いて貰っています……」

「……そうでしたか……初めまして…イトウ・ミユキさん……アドル・エルクです……『フェイトン・アリシューザ』の目と耳を、宜しくお願いしますね? 今回はお疲れ様でした……よく休んで下さい……」

「……ありがとうございます……初めまして、アドル・エルク主宰……イトウ・ミユキです……お任せ下さい……アドル主宰も、早くお休み下さい……」

「……ありがとう……次回も宜しくね? それじゃあ、また……ザンダーさん…お先にどうぞ? 私は一服点けてから出ますから……」

「……分かりました…それでは、お先に失礼します……お気を付けてお帰り下さい……次回も宜しくお願いします……」

 そう言ってから、お互いに差し出した右手をガッチリと握り合う……手を離すとその右手を軽く挙げて、彼と彼女達は出て行った。

 灰皿スタンドを探そうとして振り向いたが、『サライニクス・テスタロッツァ』のサリー・ランド参謀が、もう持って来てくれていた。

「……こちらです…どうぞ、お使い下さい……」

「…ああ、すみませんね…ランドさん……気を遣わせてしまって……申し訳ないです……」

「……いいえ、どう致しまして……サリーと呼んで下さい……」

「……分かりました……」

 応えながらハイラムさんから貰った、プレミアム・シガレット・ボックスの封を切る……3本を取り出して2本をハイラムさんに手渡し、私のライターで先に点けてあげた。

「……ありがとうございます……恐縮です……」

「……いや…これくらいは当然ですよ……」

 2人とも最初の1服を深く喫い、蒸して燻らせる。

「……今夜は…どうします? 」

「……女房に会いたいんで…帰ります……それで明日も休んで…ゆっくりします……」

「……それが好いですね……早く帰ってあげて下さい……」

「……ありがとうございます……そうします……」

 そう応えて3服目を喫って蒸して燻らせる。

「……実戦経験が無いからですかね……先週もそうでしたが…入港後……すごく疲れが出ると言うか、とにかく気が滅入るんですよ……とてもじゃないけど…今はひとりで居たくない……弱音ですね……」

「……そんな事ありませんよ……私も同じです……どうですか? 呑み明かすなら、付き合いますよ? 」

「……2人じゃ足りませんよ……あと4人は居ないとね……それに今それをすると…女房に対しての務めが果たせない……それは来週の入港後にやりましょう……男性艦長達に…声を掛けておいて下さい……ハイラムさん……引き留めてすみませんでした……帰りましょう……睡眠が必要です……おやすみなさい……」

 そう言って煙草を揉み消し、ハイラムさんに向けて右手を軽く挙げると、シエナの右手を引きながら外に出る……貴重品護送車の前で、ハルとリーアが待っていたので…自分の3種アイテムを渡した。

「……頼む……火曜の夜には、社宅に戻っているようにするから……連絡があれば、その時に頼む……ああ…リーア……『ヘルヴェスティア』と…『レディ・ブランチャード』の参謀と機関部長を呼んでの会合を……火曜日にやるんだったな……どこでやるんだ? 」

「……私のマンションで、日中に行います……」

 リサ・ミルズがそう告げた。

「……そう……何人集まる? 」

「……参謀、機関部長ともに…それぞれ10名ずつ……20名、集まります……」

 ハル・ハートリーが応えた。

「……俺が行かなくても、大丈夫か? 」

「……大丈夫ですよ……私とハルとハンナも参加しますから……任せて下さい……」

 シエナが私の左耳元で、そう言う。

「……そう……分かった……それなら任せよう……宜しく頼むよ……」

「……お任せ下さい……」

「……うん……それじゃあ、お先に失礼するよ……おやすみなさい……君達も早く寝てくれ……」

「……おやすみなさい……」

 そう言い置いてシエナからも離れ、リサの手を引いて会社が寄越した社用車(黒のリムジン)に歩み寄る……運転手が後部座席のドアを開けてくれたので、乗り込む……この前と同じ運転手さんだった。

「……こんばんは……宜しくお願いします……自宅までお願いします……」

「……分かりました……」

 リサも乗ったので、リムジンは発車した。

 スモーク・シェードとサウンド・シールドも上げる……リサにライト・ビアのボトルを取って貰って、自分で栓を抜いた。

「……君は? 」

「……私は大丈夫です……」

 右手でボトルを掲げて口を付ける……ちょっと苦い……やはりメンタルが低下している時には何を口にしても、あまり旨くはない。

「……火曜日の朝は、またこの車を自宅に寄越して? それで出社するよ……俺のエレカーは、火曜日中に社宅のガレージに入れて? これがガレージ・シャッターの開閉キーと裏口の鍵だから……」

 そう言ってふたつをポケットから取り出し、リサに手渡す。

「……分かりました……」

「……社長の様子は? 」

「……明日、退院します……」

「……良かった……私からおめでとうございますと…」

「……伝えます……」

 そこで端末を取り出して、アリソンに繋ぐ。

「……ああ、俺だ……終わって…そっちに向かってる……着いたら直ぐに寝るから、タンク・ベッドの準備を頼む……明日は休むから、気にしなくて好いよ……土産も無くて悪いね……大丈夫だよ……今は眠りたいだけだから……じゃあ、後でな……」

 そこで切ってポケットに入れた。

「……リサさん……今週で決まっている予定はある? 」

「……水曜日、木曜日、金曜日と……アシュリー・アードランドさん……ネヘマイヤ・パーソフさん……アリミ・バールマンさんが、相次いで来社されます……目的は、業務提携条項締結に向けての…最初の協議です……」

「……分かった……3人とも大事な人だからね……俺も出席するよ……」

「……ありがとうございます……助かりますが…大丈夫ですか? 」

「……うん……もしかしたら火曜日も…休むか半休かにするかも知れない……えっと…月曜日に訊いてくれるかな……火曜日に俺が居ないとマズい…何かがあるかどうか……まあ、マズくなくても…調子が良ければ行くよ……有給休暇の残り日数は、まだ充分にあると思うんだ……」

「……分かりました……訊いてみます……」

「……ありがとう……しかし……」

「……どうしました? 」

「……ブリッジ・スタッフの皆に訊いてみたいな……ゲームの最中…緊張はしてるけど、楽しいしワクワクしてるし充実してるし、闘争心も高くなっていてメンタルとしては強い……なのに入港したら、何でこんなに低下するのかな……今度…訊いてみよう……君も…こんな今の俺とはキスしたくないよな? 」

「……そんな事は…💦…」

「……好いよ……車が出てから全然近寄って来ないんだから……認めたくなくても解るさ……」

「………」

「……まあ…今夜は早く眠ってリセットするだけだ……明日は明日で……やりたい事がある……」

 リサはそれが何か知りたいと思ったが、口にはしなかった。

「……あの……冷蔵庫の中を観て貰って…何か足りないような物があると思ったら……君の裁量で構わないから、注文しておいて貰えないかな? 」

「……分かりました……」

「……頼みます……」

 車内での会話は、それで途切れた。

 リサはアドルに近寄らなかったので、手を握る事も無かった……それから45分で、リムジンはアドル・エルクの自宅に着いた。

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