上 下
274 / 277
セカンド・ゲーム

…2次集結ポイントまで…

しおりを挟む
 ブリッジに戻ると……立ち上がったシエナに代わって、キャプテン・シートに着く。

「……状況は? 」

「……はい……20分前にご指示通りの体制と陣形で、2次集結ポイントに向けて発進しました……3隻の相対距離は、第3戦闘距離です……グループ『A』が、最初に発進しました……各グループの…動向シミュレーションに照らしましたが、それ程に差異はありません……他の8グループも共に…60分前後で、2次集結ポイントに向けて発進できる模様です……」

「……60分か………シエナ……私の名前で各グループリーダーに通達を出してくれ……可能であれば、10%増速するようにと……」

「……分かりました……」

…グループ『B』…
…『サライニクス・テスタロッツァ』…
…ブリッジ…

「……ハイラム艦長…『ディファイアント』から通達です……」

「……読んでくれ……」

「……グループ『A』は20分程前に体制と陣形を整えて、2次集結ポイントに向けて発進しました……通達は簡潔ですが…可能ならば10%、増速して欲しいと……」

「……そうか……イリヤ…10%、増速してくれ……マージョリー……グループ『B』の状況をもう1度頼む……」

「…了解、増速完了しました……」

「……本艦は、あと15分で1次集結ポイントに到達します……『ファム・ファタール』は25分後……『ヘルヴェスティア』は、35分後の予定です……既に3隻相互で、ダイレクト・インターリンク・ネットワークの構築は、確立しました……」

「……分かった……グループ『B』は合流集結後15分で体制と陣形を整え、2次集結ポイントに向けて発進する……本艦が先鋒……『ファム・ファタール』が右翼……『ヘルヴェスティア』を左翼とする……補給についても確認して、必要であれば本艦から供出する……以上で僚艦2隻に通達してくれ……副長……」

「……了解しました……艦長…『ディファイアント』が『ラムール・ハムール』と接触した件については? 」

「……うん……それについては、アドル主宰の判断と対応を信頼して尊重するしかないな……報せを読む限り、かの艦は『ディファイアント』に執着しているようだから……差し当たって当グループに影響はないだろう……鎮静化したとの報せでもあるし、当面はこの予定で行こう……」

「……分かりました……」

…グループ『E』…
…『ロイヤル・ロード・クライトン』…
…ブリッジ…

「……グレイス艦長……『ディファイアント』から通達です……」

「……読み上げて、ハリエット……」

「……はい……グループ『A』は25分程前に準備を整えて、2次集結ポイントに向けて発進したそうです……今回の通達は短いですが……可能ならば10%、増速して欲しいとあります……」

「……そう…分かったわ…スコット君…増速、お願い……副長…僚艦の2隻にも、増速を指示して頂戴……フローレンス…グループ『E』の状況をもう1度お願い……」

「…増速、完了…」

「……本艦は、あと35分で1次集結ポイントに到着します……『バトゥ・ウルス』は45分後……『シムリット・サール』は、60分後の予定です……3隻相互でのダイレクト・インターリンク・ネットワークの構築については…20分後に開始する予定です……」

「……まだ先だわね……長距離偵察機は? 」

「……各艦から1機ずつ出て周回中ですが、合流したら帰艦させる予定です……」

「……スコット君……『ラムール・ハムール』が『ディファイアント』に接触して来た経緯が報告されたけど……貴方はどう考えるかしら? 」

「……はあ……読む限りでは、ブラッドフォード・アレンバーグ艦長なりの挨拶だったように思います……ちょっと衝撃的でしたけどね……それと、通告だったのでしょう……我々の戦場を草刈り場にするよって言う…意思表示のね……」

「……そう……対面した訳じゃないけど…好きになれないタイプみたいね……」

「……先輩は…ああいう手合いの扱いには慣れています……何せ学生時代からの親友が、ミドル級のチャンプでしたからね……ですから…おそらくですが……適切にあしらったのでしょう……」

「……アドル主宰とブラッドフォード艦長とは……個人的な関係があるのかしら? 」

「……さあ? 報告からは読み取れませんでしたが……何かしら感じましたか? 」

「……分からないんだけど……何だか妙な馴れ馴れしさって言うのかな……それが微かにね……いずれにせよ…アドル主宰の判断と対応を信頼して尊重するしかないでしょうね……報告を読む限りでは、『ラムール・ハムール』は『ディファイアント』に執着しているようだから……差し当たって私達に影響はないでしょう……鎮静化したとの報せでもあるし、当面はこの予定で行きましょう……」

 それから70分程度が経過して、8グループは総て1次集結ポイントでの合流・集結を果たし、2次集結ポイントに向けて発進した。

「……アドル艦長……残り8グループの総てが、1次集結ポイントから2次集結ポイントに向けて発進しました……全グループが、ダイレクト・インターリンク・ネットワークを確立しています……」

「……分かった、シエナ……これで次のステップに入れる……全艦に連絡……航走中の長距離デコイから、パワーサインの発信を開始……同時に君とハンナで指揮して…欺瞞交信も開始……センサー・チームと保安部3名…機関部3名との合同で……敵性集団間の交信傍受に注力してくれ……各グループの巡航速度はセカンド・スピードとする……ハル参謀……大質量誘導弾作製に関するあらゆるデータ・ファイルを、改めて全艦に送信・配付……最初から3番目に2次集結ポイントに到着する3グループ、9隻については……早い段階でシャトルにレーザー削岩機を搭載して……工作作業艇として換装するように指示して下さい……エマ……3隻での合同操艦演習訓練ファイルがある……エドナ……同じく3隻での合同砲撃演習訓練ファイルもある……これらを各グループのリーダー艦に送信して……全艦で合流する迄の間……任意に演習訓練を実施するように指示してくれ……取り敢えずは…以上だ……」

「……了解しました……」

「……シエナ…ハル…リーア…エマ…カリーナ…エドナ…ハンナ……控室に来てくれ…作戦を考える……カリーナ…総ての状況データを控室のビューワに表示できるよう、頼む……エレーナ…暫くブリッジを頼む……」

「……分かりました……」

 先に立って控室に入り、ディスペンサーにコーヒーを出させてソファーの端っこに座る……その後6分程してから、指名したメンバーが入室し始める。

「……ご苦労さん……好きな飲み物を出して、適当に座ってくれ……」

 皆が飲み物を出して座り着くまで待つ。

「……改めて、ありがとう……それぞれ…連絡・指示・通達は終わったかな? 」

「……終わりました……」

「……結構……ここで話し合って導き出したいのは、我々の主導で推移させられるタイム・テーブルだ……つまり……2日間しか無い中で、どのタイミングでどのようにアプローチすれば……望み得るベターな効果を導けるかだ……先ず私の考えなんだが……あるタイミングで…何らかの方法で…我々の位置を…敵性集団を煽動する艦長達にリークする……でないと戦いに使える時間が足りなくなる可能性が高くなると思うんだ……折角こちらが準備万端整えても……向こうがこちらに気付いてくれなければ……戦いにもならずにタイムオーバーになり兼ねない……彼等の交信を傍受して、その必要が無いようならしないがね……でもどうやら…気付いてくれそうにも無さそうな感触だしな……意見を頼む……」

「……敵艦隊との交戦可能領域まで、あと3時間と言う時点で……大質量誘導弾が何基あったら好いですか? 」

 ハル・ハートリーがロシアン・ティーに口を付ける。

「……12基は欲しい……15基あれば、万全だな……」

「……お互いに、ある程度集結した敵集団と我々との相対距離……彼等が我々の動きに気付いて、接近して来る迄の所要時間……そして3時間前迄に、大質量誘導弾を何基用意出来るか……厳しくも微妙な判断と言うか……読み合いにはなりますね……」

「……ああ……だが、ある時点を以て……それも…見極めなければならない……しかし、今はまだ無理だな……欺瞞交信を開始して…彼等の反応を観よう……」

「……どうやって……リークしますか? このミルクティー……アドルさんのレシピに近いですね……90%くらいですか……」

 ハンナ・ウェアーが二口飲んでカップを置く。

「……今は私のレシピの……version 3だね……彼に頼むよ……アレンバーグ艦長にね? 」

「……やってくれるでしょうか? 」

 リーア・ミスタンテが飲もうとして取り上げたコーヒーカップを止める。

「……説明すれば、やってくれると思うよ……彼自身の中にも…これは想定にあっただろうからね……」

「……分かりました……」

「……それじゃ、セカンド・ステップ開始だ……パワーサインを発信して、欺瞞交信も開始……彼等の交信を傍受して……反応を観察する……エマ……操艦は暫くハンナに任せてくれ……ソフィーと一緒にまた40分…シミュレーション・トレーニングだ……それが終わったら攻撃チームに私も入って、砲撃演習訓練を行う……その後はまた考える……今は以上だ…質問は? 」

 誰も発言しなかった。

「……よし…それじゃ、行こう……」

 控室からブリッジに出る……エマにソフィーを呼んで貰って、3人でまたセカンド・エクササイズ・トレーニング・デッキに入る……適当にシミュレーション・ポッド・カプセルを選んで、ハッチを開けた。

「……シャトル・ファイターですか? 」

 中に滑り込む直前…エマが訊く。

「……いや、操艦シュミレーションだ……軽巡宙艦のコントロール・システムデータをロード……OSも含めて、設定は好きなように調整してくれ……終わったら、一声掛けてな? 」

「……分かりました……」

 私はスピード・モードでOSの設定改変……各種反応設定の調整を行い、3分で終える……エマから声が掛かったのがそれから5分後で、ソフィーからのコールは更に4分後だった。

「……アドルさん…準備できました……」

「……ちょうど好いレベルで終われたか? 」

「……はい…お待たせしました……」

「……好いよ…じゃあ、システム・リンク確立5秒前…3…2…用意…コネクト! ……どうだ? 」

「……良好です……ディファレンスは許容範囲内……どうしますか? 」

「……君達から先に発進して、俺を攻撃しろ……どんなコンビネーションでも好い……俺はそれを躱して、反撃を加える……40分間、休み無しでいくぞ? 」

「…了解! 」

「……よ~し……じゃ、GO! 」

 エマとソフィーのペアも同時に急速発進して、素速いコンストラクト・コンビネーションで私を挟撃しようとするが、私はパワー・モードの操作でタッチパネルを通じてシミュレーションでの艦体を操り、2人の攻撃を躱して的確な反撃を加えていく……エマとソフィーのコラボレート・コンビネーションも素晴らしく多彩なバリエーションで私を挟撃しようとして来るが、私はそれらの総てを躱して反撃を加えて摺り抜けた……シミュレーション・データで彼女らの損傷率が30%前後……私が3%で、アラーム・タイマーが鳴り響く……もう40分か……セーフティ・ライトを点滅させて減速する……ソリッド・メディアをふたつ取り出し、OSの改変設定…動作設定や反応設定もコピーしてダウンロードした。

 データをセーブし、ハッチを開けて出る。

「……ご苦労さん……こっちで調整した各種設定はこれに入れたから……参考にしてくれ……操艦シミュレーションは初めてか? 7:3の割合で好いからこっちもやってくれ……ブリッジに戻ろう……」

 そう言いながらソリッド・メディアを2人に渡して歩き出す。

「……アドルさんは…何をされてもスゴイですね……」

「……これはエマにも言ったけど……俺がスゴイのは虚構世界の中でだけだ……外では総て普通だよ……本物の操艦システムにスピード・モードでアプローチしても……艦は普通にしか動かないよ……今度、サーキットに車を持ち込んで…4人で競走しよう……必ず俺が周回遅れでビリになるから……」

「……周回遅れにはならないと思いますよ……」

「……もしも周回遅れにならないで終われたとしたらさ、エマ……それは君達が手加減してくれたからだよ……」

 ブリッジに戻ると、メイン・ビューワの前まで歩いて振り返る。

「……これから私も入っての主砲による砲撃演習訓練を行う……担当は私が1番…エドナが2番…レナが3番…ローナが4番…グラディスが5番…カーラが6番…セレンが7番…アリシアが8番だ……臨界パワーは120%…発射出力は100%で固定する……基本的には、射程距離内にある小さめの岩塊をそれぞれ任意に早く捕捉して、速く狙撃してくれ……出来ると思うのなら射程距離外の目標も狙撃して好い……全員でトリガーを持ち、ヴァイザーを装着してターゲット・スキャナーとリンクしてくれ……それじゃ、用意に掛かろう……」

 私もシートに着いて、タッチパネルとタッチPADを起動する……ヴァイザーを取り出し、起動して装着する……ターゲット・スキャナーを呼び出してリンクし、トリガー・キーを設定する……パワー・モード・スピードでの操作に対応できるよう、OSも含めて動作と反応の設定を調整する……これらの準備・調整を5分で終えた。

「……よし…皆はどうかな? 」

「……すみません、もう少しお願いします……」

「……分かった……」

 ヴァイザーを外して降り立とうとすると、目の前にソーサーに乗せられたコーヒーカップが差し出された。

「……マンデリンのホット・ブラックです……宜しかったですか? 」

「……ああ…ありがとう、ナレン……助かるよ……」

 ナレン・シャンカー副補給支援部長から左手でソーサーごと受け取り、右手を握り合う……10秒以上離さなかったので、彼女の方が恥ずかしがって手を離した。

 座り直してコーヒーに口を付ける……一服点けたくもなってきているが、それは我慢するしかない……だがコーヒーのおかげで気持ちが落ち着いてくる……コーヒーを飲みながら、シエナ…ハル…ハンナ…エレーナ…リーア…マレットの顔を観る……皆、微笑みを返してくれる……これだけでも、更に落ち着いて安心してくる。

「……艦長、お待たせしました。全員、準備完了です……」

「……分かった、エドナ…ありがとう…カリーナ…システム・リンク同期10秒前から頼む……」

 そう言いながらヴァイザーを装着し直す。

「…了解……同期10秒前……7秒前……5…4…3…2…用意…コネクト! 」

「……よし……皆、どうかな? 」

「……良好です…ディファレンスは許容範囲内……」

「…分かった、エドナ…皆! 40分間休み無しでいくぞ! それじゃ、スタート! 」

 私はスピード・モードの2割り増しで始めた……少しずつ上げながら設定の微調整もする……『ディファイアント』主砲の射程距離は積み上げた経験値もあって現在、第2戦闘距離の150%程度だがターゲット・スキャナーにも経験値が積まれているから、眼と思い切りとフォロースルーが良ければ第3戦闘距離ギリギリの標的も狙撃できる……更に私は自分のステージに呼び出したターゲット・スキャナーにセルフ・アヂュスティングも施したので、第3戦闘距離の145%の距離にある標的にも当てた。

 アラーム・タイマーが鳴り響いた時…私はちょうどパワー・モード・スピードで、第3戦闘距離の185%の距離にある岩塊を20秒に1個のペースで狙撃して、的中率は88%だった……調整設定と推移・到達データを保存してから、ヴァイザーを外して切る。

「……よし! 終了だ! お疲れさん……ヴァイザーを外して聞いてくれ……今回初めての砲撃演習訓練だったが、現状の各種データは個々に保存するように……メンバー間での現状比較は、共に切磋琢磨して精進し合うと言う意味に於いてのみ推奨する……私の調整設定は自由に閲覧・参照してくれ……参加したメンバーには40分間の休憩を許可する……副長…暫くブリッジを頼む……私も自室で一服して来る……戻って来たら、欺瞞交信とあちらさん方の交信について…レポートを頼む……」

「……分かりました…ごゆっくり……」

 そう応えるシエナに右手を挙げて観せてシートから降り立ち、自分のヴァイザーをケースに仕舞って、ブリッジを後にした。

 5分後、自室で上着を脱ぎポールに掛ける……エアコンのレベルを上げさせ、シガレット・ケースと灰皿とライターをデスクに出し、キッチンからグレン・グラント20ヴィンテージ・カスクのボトルとウィスキーグラスを持って来て、座り着く……グラスにツーフィンガーで注ぎ、香りを確かめてひと口呑んでからシガレットを咥えて点けた。

 何だか既にかなりの仕事をこなしたかのような気分だ……大質量誘導弾の作製に目鼻と言うか、目処が立つ迄は気を抜けないな……努めて気持ちを落ち着けさせ、琥珀の酒を含み、シガレットを喫い、蒸し燻らして香り・味わい・喉越しのコンビネーションを堪能して、反芻して楽しむ……出来ればこのまま1時間、こうして過ごしたいが…そうもいかない……一杯を呑み終わり、1本を喫い終わるのに8分を掛けた……灰皿を洗って片付けた時に、インターコールが鳴る。

「…どうぞ……」

 エドナ・ラティスがPADを左脇に挟んで入って来た……ちょっと笑ってソファーに座るよう促す。

「……お邪魔します……」

「……好いよ…一杯いくか? 」

「……頂きます……」

 キッチンからショットグラスを持って来てハーフショットでグラントを注ぎ、さっき私が使ったグラスにもまたツーフィンガーで注いで、そちらをエドナに手渡す……ショットグラスを取り上げて、エドナの右隣に座る。

「……それじゃ、ご苦労さん…お疲れ様……訓練演習の成果に……」

「……乾杯……」

 グラスを触れ合わせて、少し含む。

「……それで? 初めての砲撃演習訓練だったけど…手応えとしてはどうだった? 」

「……好い経験になりましたし……とても勉強になりました……主砲での砲撃に於ける…自分の現状レベルを把握できました……結果は全員で比較し合いましたが……落胆したメンバーはいませんでした……それどころか、次回に向けての励みになりました……全艦集結の前に、またやりますよね? やりたいです……」

「……メンバーそれぞれを見渡して…やった方が好いと思うか? 」

「……はい…またやって欲しい…やりたいと全員が言っています……」

「……そうか…じゃあ、やろう……集結前にもう1回な? 」

「…はい、ありがとうございます……あと……アドルさんが調整された設定を観ましたが…驚きました……ちょっと信じられませんでした……」

「……あの設定だと…エドナの手には余るか? 」

「……今の私では、まだ無理ですね……指示動作が速過ぎますし…反応が鋭敏過ぎます……」

「……いつか…君やレナと3人で……射撃競技会に出たいな……多分ぶっち切りで君らふたりに先行されて……俺が最下位になるだろうけどね……」

「……そんな事もないでしょう……好い勝負になるど思いますよ……」

「……いや……それが虚構と現実の差だよ……俺がスゴイのは、虚構世界の中でだけさ……」

 そう言って、ショットグラスを干すと、ゆっくりテーブルに置く。

「……処で、スコットとは話したか? 俺は金曜日の昼前にスカイラウンジで話しただけでさ……その後は通話も繋がなかった……エドナは話せたか? 」

「……はい…金曜日の夜に話しました……通話でしたが……」

「……昨日…あの後でスコットと話せなかったのがちょっと心残りでね……元気で乗れたら好かったんだが……」

「……元気そうでしたよ……通話の中でしたが……」

「……そうか……まあ、任せるしかないがね……」

「……それよりアドルさん……さっき、ハンナの部屋でキスしてたんでしょ? 」

「……ああ……キスしながら、一緒に寝ていたよ……40分ぐらい…一緒に眠ってしまったね……」

「……疲れていらっしゃったんですね……今は如何ですか? 」

「……ハンナと一緒に過ごして…だいぶ癒されたんだが……強迫性衝動障害の…ごく軽い症状だって事でね……さっき…一杯呑みながら一服点けていたんだけど……またかなり強迫性の緊張が高まっていたのが解れてね……こりゃあ…戦闘が始まったら、どうなる事やらな……」

「……大丈夫ですよ、アドルさん……その為に私達が居ます……合図してくれれば……近くの部屋で…抱き合ってキスしながら20分も一緒に寝ていれば…アドルさんは復活します……」

「……復活できるのなら、別にそれでも好いんだけれどもね……傍目にはエラク恰好悪いな……こんな事が外に知られたら…どれだけ叩かれるか、分かったものじゃない……」

「……でもまあ……本当にこの先ずっとそうしなければならないのか、どうかまでは……まだ判りません……順調に準備を…充分に進められて……余裕を持って戦えるようになれば……強迫性の緊張衝動なんて…起きなくなるかも知れません……」

「……そうだな……そうなってくれる事を…強く期待してみよう……」

 エドナがグラスを干してテーブルに置いた……PADもテーブルに置いている……左手をエドナの背中から腰に回して引き寄せる……右手も腰に回して引く……距離5cmで、視線を絡み合わせて5秒……口付けて接吻……唇と口と舌を絡め合わせ…貪り合って30秒……それで顔を離す。

「……暫く一緒に寝ますか? 」

「……いや…眠っちまうのはマズい……そろそろ戻らないとな……シャワーを浴びないとマズいかな? 」

「……大丈夫だとは思いますけど……」

「……よく顔を洗って行くか……」

 立ち上がってシャツも脱ぎ、洗面室に入る……入念に顔を洗い…整髪料も少し使って整える……タオルを使い、シャツを着直して整髪した……上着を着直して身なりを整え、髪と全身をチェックする。

「……どうする? エドナ……一緒に上がるか? 」

「……私はまだ休憩中です……」

「……そうだったな……ゆっくりしてくれ……先に行くよ……」

「……行ってらっしゃい……愛しています……」

「……俺もだよ……それじゃ、また後でな……」

「……はい……」

手を挙げて自室を後にし、ブリッジに向かった。

しおりを挟む

処理中です...