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地上界にて…
リアル・バラエティ・ライヴ・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』3/6 …5…
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「……はい……そうですね……先ず、アドル・エルクさんですが……とても素人には観えません……彼はこの時点で既にマニュアルを完璧に近く……読み込んでいるようです……軽巡宙艦のカタログ・データも熟知しているようですし……デプリや障害物の多い、無重力空間での対艦戦闘に於いても……充分に心得ているようです……特に…エンジン停止して、自艦より質量の大きい岩塊にアンカーを撃ち込み……ワイヤーを引き込む事で自艦を変針させ、敵艦に接近しようとする手法を直ぐに採った事には……驚きましたし、感心もしました……」
発言の後を引き取り、ジョン・ドーフマン氏も口を開く。
「……私もマッキーンさんに同感です……この操艦手法を採り得ると言う事は、開発チームでも想定されていましたが……これ程早くに目の当たりにするとは……正直、想いも依りませんでした……アドル・エルク艦長の先見性には、目を瞠るものがあります……」
「……先見性と言えば……お互いの位置を確認した『ディファイアント』と模擬艦が、更に接近して撃ち合う直前……アドル艦長は先にミサイルを撃ってから……模擬艦が『ディファイアント』を狙って撃った主砲のビームを、下げ舵を切らせて躱し……直ぐに上げ舵で戻してカウンター・ショットをキメました……これは並じゃ出来ません……と言うよりも……予感が無ければ出来ません……私はアドル・エルクさんが持つ……凄まじく鋭い感性に、とても驚いています……」
ハーヴェイ・カイテル氏の発言を直ぐに引き取り、メリッサ・エクスタイン女史が付け加える。
「……アドル主宰の鋭い感性もそうですが……彼の指示に応えるスタッフ・クルーの反応・操作スピードも凄いです……パイロット・チームも攻撃チームも……私でもあそこまで速く出来るかどうか……」
「……アドル・エルク艦長のみならず……彼が自身で選び抜いたスタッフ・クルーが持つ、高い即応力をも併せて構成された『ディファイアント』の……初回会戦の模様をご覧頂きました……ルカ・アラナさん……ここまでご覧になられて、如何ですか? 」
「……はい……先ず、ネヘマイヤ・パーソフさんへ……だいぶ遅れましたが……お誕生日、おめでとうございました……開幕日が誕生日ですから、これは間違いなくずっと記憶に残りますね……あの時点でトップ女優の皆さんから、あれほど熱烈なお祝いを受けられたのですから……夜の親睦パーティーでは、さぞかし熱烈なお祝いを受け取られたのだろうと思います……これ程印象的な誕生日も……なかなか無いでしょうね……」
「……でもあんなにベタベタキスされて……奥様の事を考えるとお気の毒です……」
と…インナ・リチョワ女史が口を挟むが……
「……唇にキスした訳じゃないし……特別な誕生日ですから……あれくらいはまあ…好いでしょう……」
と…カムリン・マンハイムが執り成した。
「……お祝いを鷹揚に受けておられたネヘマイヤさんの、器の大きさを感じましたね……」
エスター・ロッサム女史も、ネヘマイヤ艦長を擁護する。
「……そして……模擬戦とは言え『ディファイアント』の初戦ですね……アドル・エルク艦長の感性と才能が際立って観えたのは勿論ですが……緊迫する状況でもゲームを楽しんでいるのが分かりましたし……何よりもあのチームワーク……アドル・エルクさんが持つ最も素晴らしい才能は、人を観る眼の確かさだと感じました……」
カムリン・マンハイムがそう締め括ると、司会のアランシス・カーサーが2回頷く。
「……私も全く同感ですね……アドルさんが持つ才能で特筆すべきがこの……人物観察と評価の力だろうと思います……それでは……まだ途中ですので…『ディファイアント』がファースト・ステージをどうクリアしたのか……最後まで、ご覧頂きましょう……どうぞ……」
【…「……艦長、ダウンピッチ25°です! ロケットアンカー目標に到達まで12秒! 」
と、カリーナ・ソリンスキー。
「……模擬敵艦を動かすA Iに、ロケット・アンカーを使っての操艦はまだ気付かれていないと思うが、今回の攻撃で気付かれる可能性は高い……だから今回の攻撃で決着を付ける……エドナ! 最初の奇襲攻撃は、ハイパー・ヴァリアントを連射で撃ち込む! 初撃と次撃は徹甲弾……3撃目からは炸裂弾を使う…。」
「……了解…セットします……」
「……カリーナ、敵艦は動いたか? 」
「……エンジン始動していません。依然、ロストです……」
「……アンカー目標に到達! 」
「……全力でワイヤー収納始め! パイロットチームで姿勢制御頼む! 」
「…了解! 」
「……考えられるのはふたつ……防御力2倍だから、待ち受けているのか? 敵艦もロケット・アンカーで針路を変針させているのか? 」
「……まさか…まだでしょう? …」
と、ハル・ハートリーが訝しんで言う。
「……そうだな……2段跳びでやってみようか? 」
「……2段跳び? 」
ハンナ・ウェアーが訊く。
「……うん、まあ観ていてくれ……これが上手くいけば、敵艦がロケット・アンカーで変針していたとしても、その裏を掻ける……ただ待ち受けているだけにしても、ハイパー・ヴァリアントならまだ射程距離内だから問題は無い……」
「…分かりました…」
と、シエナ・ミュラー。
「……アリシア、4番放出ミサイルはまだ生きている……リア・ミサイル1番を5番放出ミサイルと呼称して、放出してくれ……それから15秒毎に6番、7番、8番と放出してくれ……」
「……分かりました。リア1番を5番と見做して放出し、以降15秒毎に8番まで放出します。5番放出……」
『ディファイアント』は艦首を岩塊に向けたまま、艦体を大きく高速でスライドさせながら岩塊に接近して行く……パイロットチームの3人は、目まぐるしく指を操舵パネルの上で走らせながら、艦体がデプリと接触しないように細かい姿勢制御を施し続ける。
「……カリーナ、磁気の揺らぎを感知したか? 」
「……分かりません……見逃したかも知れません…すみません……」
「……好いよ……どの道、もうじきにはっきりする……岩塊までの距離は? 」
「……1200mです! 」
「……800mで抜錨(ばつびょう)! 急速に回収しつつ、方位232マーク096に観える岩塊の中央部を目標に、艦首右舷ロケット・アンカー2本を撃ち込め! 到達したら急速収納開始! 」
「……了解しました! 」
「……落ち着いてやってくれよ、エマ! 」
「……お任せを! 」
「……これが2段跳びですか…!? 」
シエナ・ミュラーが眼を瞠って言う。
「……そう…アリシア、次のロケット・アンカーが目標に到達する5秒前に4番を起爆! 」
「……了解! 」
「……敵艦が磁気の揺らぎを感知しているなら、それも隠さないといけないからな……アリシア! あと3本、9番、10番、11番を放出してくれ! 」
「……了解! 15秒間隔で順次に放出します! 」
「……あと100mです! 」
と、エマ・ラトナー。
「……よし! カウントダウン開始! 」
「……了解! 15秒前…10秒前…6、5、4、3、2、用意、抜錨! 」
「……直ちに全力回収! 右舷アンカー発射! 」
「……了解! 発射! 」
「……到達までは? 」
「……約15秒です…」
「……敵艦は? 」
「……感知できません……依然としてロストです……」
「……エドナ、アリシア、準備は好いな? 敵艦の第1戦闘ラインに掛かる直前から、ハイパー・ヴァリアントも主砲もミサイルも、全力で無制限連射を掛ける……敵艦がシールドをアップする迄の間に、一定度以上の損傷を与える! 」
「……了解! 」
「……了解しました……」
「……4番起爆します! 続けてアンカー到達! 」
「……よくやってくれた! 直ちに全力で巻き上げ開始! パイロットチームは姿勢制御、頼む! 」
「…了解! 」
「……岩塊までの距離は? 」
「……1350m! 」
「……岩塊まで200mのポイントで抜錨する! 抜錨5秒前に5番起爆! 以降、15秒毎に6番から9番までを順次に起爆! 」
「…了解しました! 」
2つ目の大型岩塊に艦首を向けたまま『ディファイアント』は艦体を大きくスライドさせながら高速で変針していく……パイロットチームの3人は操舵パネルの上で30本の指を目にも止まらぬ程の速さで走らせ、艦体に細かく姿勢制御を施し続ける。
「……岩塊まで1200m! 」
「……シエナ、シークレット・チャンネルを通じて各艦の状況は流れて来ているか? 」
「……切れ切れにしか入って来ていませんが、各艦ともに苦戦しているようです……が、敗北を喫した艦はまだありません……」
「……そうか……皆、初めてだし……慣れてないからな……」
「……貴方だって、初めてでしょう? 」
と、シエナが微笑みながら私の顔を観る。
「……そりゃあまあ、そうだけどね……シエナ……形勢不利と観たら、粘らずに全速で離脱して仕切り直すようにと流してくれ……」
「…分かりました…」
「……岩塊まで1000m! 敵艦は依然ロスト! 」
「……了解……マレット、昼飯になったら全乗員に私から献杯する……全員から好みを訊いて、チーフ・リントハートに送信してくれ……」
「…分かりました…」
「……それとミーシャ……こいつとの決着を付けたら、次のステージまでは30分しか無いが、希望者に私がマッサージを施す……ジムのマッサージ・ルームを準備して置いてくれ? 」
「……分かりました……マッサージ、出来るんですか、アドル艦長?! 」
「……ああ、君等に言うのは初めてだけど、結構得意だよ……」
「……岩塊まで700m! 加速しています! 」
「……よし! リーア、全エンジン臨界パワー120%へ! 始動と同時に全力噴射用意! 」
「……了解! 」
「……エマ! 始動と同時に全力全速発進だ! ぶつけるつもりで突っ込ませろ! 」
「……了解! 任せて下さい! 艦長のマッサージに応募します! 」
「……ああ、任せて置け……」
「……岩塊まで500m! 急速変針します! 」
「……抜錨回収用意! 5番起爆用意! 」
「……了解! 」
「……用意好し! 」
「……あと100m! 抜けそうです! 」
「……5番起爆して抜錨回収!! 」
放出ミサイル5番が爆発して余波を宙域に拡げる……次いでエマはアンカーを離脱させて回収に掛かる。
「……エンジン始動! 全力全速発進! 面舵30°! ダウンピッチ7°! インターセプト・ポイント 687:452:190! その線上に敵艦がいる筈だ! 行け!! 」
「……了解! 」
撮影セットではあるのだが、振動が拡がる……音まで再現するのなら轟音が轟くだろう……『ディファイアント』はその艦尾から爆発的な噴射炎を艦体の2倍以上にまで伸ばし、弾かれるように前に跳び出す……かなり強めの加速感が身体をシートに押え付ける。
「……15秒毎に放出ミサイルを順次に起爆! 」
「……了解! 」
『ディファイアント』は2個目の岩塊を10秒で廻り込んで摺り抜ける……そして目指す線上で模擬敵艦を視認した。
「……敵艦発見! こちらとほぼ同方位に向けて、ファーストスピードで移動中! エンジン始動していません! 距離、第1戦闘距離の1.7倍! 」
「……照準セット! 全兵装、集中全力連射開始! 敵艦のシールドを突破して、損傷率40%まで連射続行! 」
「……了解! 」
エドナ・ラティスは5秒でターゲット・スキャナーを絞り込んで照準を付けると、総てを解放した。
『ディファイアント』の、敵艦を指向し得る全兵装が集中全力連射を掛ける……ハイパー・ヴァリアントから発射された2発の徹甲弾が、模擬敵艦の艦尾左舷に僅かな角度の差で突き刺さり、貫通はしなかったが艦内を破壊的に跳ね回る……主砲の連射ビームも、敵艦の左舷艦尾に突き刺さる……奇襲攻撃開始5秒後……
「……敵艦エンジン始動! シールドアップ! 面舵を切って離脱コースに入る模様! 」
「……カリーナ…アクティブ・スキャンして状態を観てくれ? 」
「……了解……敵艦損傷率22%……ヴァリアントが効いています……エンジンが不調の模様……パワー・フローが安定しません……シールド・パワー、92%から減衰中……」
「……よし! 艦尾に直撃させたのが好かったな……更に接近して肉薄し、攻撃続行! シールド・パワーを読み続けてくれ……」
「……了解……シールド・パワー86%……82%……76%……シールド・ジェネレーターも不調のようです……72%……65%……60%……53%……」
「……エドナ! シールドを突破したらヴァリアントは徹甲弾に戻して撃ち込む! エマ! 敵艦まで200mに接近してくれ! 」
「…了解! 」
「…分かりました! 」
『ディファイアント』の加速率は模擬敵艦を僅かに上回っている……エマ・ラトナーは30秒で敵艦から200mに着ける。
『ディファイアント』からの対艦ミサイルもハイパー・ヴァリアントの炸裂弾も、勿論主砲の連射ビームも模擬敵艦のシールド面に突き刺さってシールド・バブルを揺るがせている。
「……敵艦シールド・パワー、38%……32%……25%……シールド・バブルが安定しないようです! 」
「……あと一息だ! 更に集中して連射続行! これが本当の戦闘なら、そろそろミサイルが弾切れになるな……」
「……敵艦シールド・パワー、18%……12%……5%……シールド消失!! 」
「…撃ち込めえ!! 」
ミサイル、ビームの集中連射が模擬敵艦の右舷に突き刺さる……エドナは3秒でヴァリアントの弾体を徹甲弾に切り換え、敵艦の右舷艦尾に照準を採った。
「……発射!! 」
連射で撃ち込まれたハイパー・ヴァリアントの徹甲弾が、模擬敵艦の艦内を破壊的に引き裂き、2発目が左舷中部から貫通して出た。
「……敵艦損傷率35%……40%……45%……敵艦パワー・フロー崩壊! オーバー・フローからオーバー・ロードに入ります! …損傷率55%! 間も無くです! 」
「……全兵装攻撃中止! シールドアップ! 取舵40°で全速離脱!! 」
「……了解! 」
『ディファイアント』は全兵装の攻撃を中止してシールドをアップさせ、取舵を切って離脱コースに入る……模擬敵艦は艦体の各部から小爆発が起こり、焔とガスが放出されてスパークが艦体を彩る……そして『ディファイアント』が1500m程離れた時に、爆発した。
「……敵艦…爆沈しました……」
「……放出ミサイルは総て起爆したか? 」
「……はい、総て起爆しました……」
「……コンピューター、艦内オール・コネクト・コミュニケーション……」
【コネクト】
「……更に…同盟参画各艦に対しても、シークレット・チャンネルを通じてオール・コネクト・コミュニケーション……」
【スタンバイ…………コネクト】
「……こちらは『ディファイアント』! ブリッジより同盟に参画する総ての乗員に告げます! アドル・エルクです! 『ディファイアント』はたった今、ファースト・ミッションのファースト・ステージをクリア! 模擬敵艦1隻を損傷無しで完全撃破しました! ここに勝ち名乗りを挙げます! 本艦の戦闘記録は直ちに各艦に向けて送信配付します! 是非とも参考とされたい! 形勢が不利な状況なら無理せず、粘らずに全速で一旦離脱して態勢を整えて仕切り直して下さい! 各艦の健闘を祈り、期待しています! アドル・エルクより以上です! 」
回線は閉じられた……ブリッジに拍手と歓声が湧き起こる。
「……エドナ! 主砲1番、2番砲塔を最大仰角へ! 勝ち名乗りの砲撃を3連斉射で行う! 用意! 」
「……了解! お待ち下さい……用意完了! 」
「……撃て! 」
『ディファイアント』の主砲1番2番が、4本のエネルギー・ビームを撃ち挙げる……2秒の間隔で撃ち挙げられた3連斉射が、静かに虚空に吸い込まれて消えた。
「……おめでとうございます……驚きました…アドル艦長……」
シエナが左側から座ったまま右手を差し出して来たので握手を交わし、左手で彼女の身体を引寄せてハグし合った。
「……おめでとうございます……素晴らしかったです……アドル艦長……」
身体を離すと右側のハル・ハートリー参謀とも握手を交わしてハグし合う。
更に左隣のハンナ・ウェアーとも、更に右隣のエレーナ・キーン参謀補佐とも右手を伸ばして握手を交わすと立ち上がった。
「……皆、本当にありがとう……皆のお陰で勝てた……感謝してもし切れない……全システムはオート・コントロールにして30分しか無いが自由に休んでくれ……パイロット・チームの3人は、ジムに行ってマッサージ・ルームで待機してくれ……直ぐに行くから……他のメイン・スタッフは私の控室に来てくれ……授与される賞金と経験値の処理について協議する……この30分は何でも許可するが撮影されているから注意してくれよ……それでは30分後にまたここに集合だ……以上…解散! 」
そのまま歩き出して艦長控室に入ると、ドリンク・ディスペンサーから濃い目のコーヒーを出させてデスクに着き、大きく息を吐いて一口飲む……】
「……はい……『ディファイアント』がファースト・チャレンジミッションのファースト・ステージをクリアするまで……また長尺でしたが、ご覧頂きました……それではまた……感想など…頂きましょう……司会ですので、アーミセンさんから指名させて頂きますが……順番はありません……ご自由に…ご随意に…いつでも、ご発言下さい……如何でしたか? 」
「……はい……私は1人のジャーナリストとして……率直に、このスクープ・ニュースを公表できるのが…今なのだ、と言う事が悔しいです……開幕してこのぐらいの短時間で、ファースト・ステージをクリアした艦は他にもありました……ですが選ばれた20隻の中では『ディファイアント』が断トツでした……これは充分にトップのスクープ・ニュースだったのですが……公表は今とせざるを得ませんでした……運営推進委員会としても配信番組としても、大きく重要な方針でしたので……組織人としての私は従いましたが……ジャーナリスト個人としての私は、残念に思っております……それについてはこの場をお借りして、お詫び申し上げます……ですがともあれ……『ディファイアント』を操艦されている皆さんには、驚嘆致しました……本当に…乗っておられる皆さんの……1人1人が優秀です……この先が非常に楽しみです……」
「……はい……大変に情熱的な感想を、どうもありがとうございました…アーミセンさん……私も個人的に『ディファイアント』の今後は……非常に楽しみにしております……それでは……また…どなたか?…… 」
「……それでは、私から……」
と、ニール・マッキーン准将が手を挙げる。
「……ありがとうございます。マッキーンさん……では…お願いします……」
「……はい……私はどうしても職業軍人でありますので……アドル・エルク艦長個人に注目してしまうきらいを否めない側面があります……その面を自分でも認識した上で、正直・率直に申し上げさせて頂くなら……アドル・エルク氏には入隊をお勧めしたい……私は空軍の人間ですが、海軍でも構いません……それに……ハイラム・サングスターさんなら……もっと以前からそう感じているでしょうから……アドル・エルク氏を軍属に勧誘するぐらい……1度や2度でもなかったでしょう……言い換えればそれくらい、アドル・エルク氏が特筆レベルで備える感性と才能が……稀有なものであると言う事なのです……この配信は海軍参謀本部の関係者も視聴するでしょうから……近々にアドル・エルクさんに対して、何らかの接触があるかも知れませんね……」
「……ありがとうございました。マッキーンさん……それであの……マッキーンさんはハイラム・サングスター艦長と、お知り合いなのですか? 」
「……ああ……彼と私は士官学校で同期だったのですよ……あまり親しく付き合っていた訳でもないのですが……彼の為人や人柄は……解っているつもりです……」
「……パパ……軍隊から誘いが来るの? 」
「……うん……何かの……ちょっとした話はあるかも知れないけど……パパは何処にも行かないから心配しなくて好いよ……会社も上手く対応してくれるだろうし……パパだってハッキリ断るからさ……でも、面倒臭くなるのは困るな……まあ……気にしないで行くよ……直ぐにどうのこうのはないだろうからね……」
「……あの……私からも幾つか……宜しいでしょうか? 」
「……ああ、どうぞ…ドーフマンさん……ありがとうございます……お話し下さい……」
「……はい……またアドル艦長の話なんですけれども(少し苦笑)……艦のセンサーシステムは磁気反応を感知しますが……鉄鉱石成分の多い隕石デプリが艦体と接触した場合には、火花が散ったりもします……その際には一瞬ですが強力な電磁波の揺らぎが発生して、それが磁気センサーで捉えられます……ですがマニュアルに書かれているのは、一定の距離にまで他艦が接近していれば……その艦体から静かに発せられている電磁波を、捉える事が出来る……程度の記載なんですね……ですがアドル艦長の理解は……我々の想定を超えていました……アンカーがデプリに突き刺さった時に生じる磁気反応を、デコイ・ミサイルの起爆で隠したり……岩塊に引き摺られて変針していく時にも……細かい姿勢制御を艦体に加えて、デプリが艦体に当たらないようにしたり……とにかく……先読みと言うのか、深読みと言うのか……それらが凄いです……もうひとつは……模擬艦の制御A I が、岩塊デプリとロケット・アンカーを使って艦を変針させる操艦手法を既に模倣していると、看破された事ですね……あの時には私も流石に声が出ました……正直、脱帽でした……長々とすみません……取り敢えず、以上です……」
「……このジョン・ドーフマンと言う人は、パパを買い被っている……あの時にあの戦術を採ったのは……敵艦が動いていても止まっていても、対応できるように…だったんだ……だから別に看破なんてしてなかったんだけどね……でも、まあ好いか……」
「……あの……先にお三方から、詳細なお話を伺えましたので……ゲーマー如きが改めて述べられるような事も……もうあまりありませんが……ゲーマーの立場でひとつだけ強調させて頂けるとするなら……情報の共有から始まって、的確・適切な指示から発動される……あの素晴らしいチームワークですね……『ディファイアント』の勝因は……チームワークにあると、言い切ってしまっても好いのではないのだろうかと、個人的にはそう思います……横から口を挟んでしまって、すみませんでした……ああ、最後にひとつだけ! 損傷無しで1隻撃沈は快挙です! 間違いありません! 」
「……ハーヴェイさん……情熱的なコメントをありがとうございました……損傷無しでの1隻撃沈は、私も本当に快挙だと思います……それでは……他にはございますか?……」
「……私は……アドル・エルクさんが施されるマッサージに興味があります……観てみたいですし…受けてもみたいです……」
エスター・ロッサム女史が挙手してそう言うと、直ぐにインナ・リチョワ女史とイナ・ピエハ女史も口を揃える。
「……私もそう思います……観たいですし、受けてみたいです……」
「……私も全く同感です……」
「……(笑)……分かりました(笑)……この後直ぐに、艦長控室でアドルさんとスタッフの皆さんがミーティングをされるので……その後に観て頂こうと思います……ので、ご視聴の皆さんもそのままお待ち下さい……では、CMに入ります……」
発言の後を引き取り、ジョン・ドーフマン氏も口を開く。
「……私もマッキーンさんに同感です……この操艦手法を採り得ると言う事は、開発チームでも想定されていましたが……これ程早くに目の当たりにするとは……正直、想いも依りませんでした……アドル・エルク艦長の先見性には、目を瞠るものがあります……」
「……先見性と言えば……お互いの位置を確認した『ディファイアント』と模擬艦が、更に接近して撃ち合う直前……アドル艦長は先にミサイルを撃ってから……模擬艦が『ディファイアント』を狙って撃った主砲のビームを、下げ舵を切らせて躱し……直ぐに上げ舵で戻してカウンター・ショットをキメました……これは並じゃ出来ません……と言うよりも……予感が無ければ出来ません……私はアドル・エルクさんが持つ……凄まじく鋭い感性に、とても驚いています……」
ハーヴェイ・カイテル氏の発言を直ぐに引き取り、メリッサ・エクスタイン女史が付け加える。
「……アドル主宰の鋭い感性もそうですが……彼の指示に応えるスタッフ・クルーの反応・操作スピードも凄いです……パイロット・チームも攻撃チームも……私でもあそこまで速く出来るかどうか……」
「……アドル・エルク艦長のみならず……彼が自身で選び抜いたスタッフ・クルーが持つ、高い即応力をも併せて構成された『ディファイアント』の……初回会戦の模様をご覧頂きました……ルカ・アラナさん……ここまでご覧になられて、如何ですか? 」
「……はい……先ず、ネヘマイヤ・パーソフさんへ……だいぶ遅れましたが……お誕生日、おめでとうございました……開幕日が誕生日ですから、これは間違いなくずっと記憶に残りますね……あの時点でトップ女優の皆さんから、あれほど熱烈なお祝いを受けられたのですから……夜の親睦パーティーでは、さぞかし熱烈なお祝いを受け取られたのだろうと思います……これ程印象的な誕生日も……なかなか無いでしょうね……」
「……でもあんなにベタベタキスされて……奥様の事を考えるとお気の毒です……」
と…インナ・リチョワ女史が口を挟むが……
「……唇にキスした訳じゃないし……特別な誕生日ですから……あれくらいはまあ…好いでしょう……」
と…カムリン・マンハイムが執り成した。
「……お祝いを鷹揚に受けておられたネヘマイヤさんの、器の大きさを感じましたね……」
エスター・ロッサム女史も、ネヘマイヤ艦長を擁護する。
「……そして……模擬戦とは言え『ディファイアント』の初戦ですね……アドル・エルク艦長の感性と才能が際立って観えたのは勿論ですが……緊迫する状況でもゲームを楽しんでいるのが分かりましたし……何よりもあのチームワーク……アドル・エルクさんが持つ最も素晴らしい才能は、人を観る眼の確かさだと感じました……」
カムリン・マンハイムがそう締め括ると、司会のアランシス・カーサーが2回頷く。
「……私も全く同感ですね……アドルさんが持つ才能で特筆すべきがこの……人物観察と評価の力だろうと思います……それでは……まだ途中ですので…『ディファイアント』がファースト・ステージをどうクリアしたのか……最後まで、ご覧頂きましょう……どうぞ……」
【…「……艦長、ダウンピッチ25°です! ロケットアンカー目標に到達まで12秒! 」
と、カリーナ・ソリンスキー。
「……模擬敵艦を動かすA Iに、ロケット・アンカーを使っての操艦はまだ気付かれていないと思うが、今回の攻撃で気付かれる可能性は高い……だから今回の攻撃で決着を付ける……エドナ! 最初の奇襲攻撃は、ハイパー・ヴァリアントを連射で撃ち込む! 初撃と次撃は徹甲弾……3撃目からは炸裂弾を使う…。」
「……了解…セットします……」
「……カリーナ、敵艦は動いたか? 」
「……エンジン始動していません。依然、ロストです……」
「……アンカー目標に到達! 」
「……全力でワイヤー収納始め! パイロットチームで姿勢制御頼む! 」
「…了解! 」
「……考えられるのはふたつ……防御力2倍だから、待ち受けているのか? 敵艦もロケット・アンカーで針路を変針させているのか? 」
「……まさか…まだでしょう? …」
と、ハル・ハートリーが訝しんで言う。
「……そうだな……2段跳びでやってみようか? 」
「……2段跳び? 」
ハンナ・ウェアーが訊く。
「……うん、まあ観ていてくれ……これが上手くいけば、敵艦がロケット・アンカーで変針していたとしても、その裏を掻ける……ただ待ち受けているだけにしても、ハイパー・ヴァリアントならまだ射程距離内だから問題は無い……」
「…分かりました…」
と、シエナ・ミュラー。
「……アリシア、4番放出ミサイルはまだ生きている……リア・ミサイル1番を5番放出ミサイルと呼称して、放出してくれ……それから15秒毎に6番、7番、8番と放出してくれ……」
「……分かりました。リア1番を5番と見做して放出し、以降15秒毎に8番まで放出します。5番放出……」
『ディファイアント』は艦首を岩塊に向けたまま、艦体を大きく高速でスライドさせながら岩塊に接近して行く……パイロットチームの3人は、目まぐるしく指を操舵パネルの上で走らせながら、艦体がデプリと接触しないように細かい姿勢制御を施し続ける。
「……カリーナ、磁気の揺らぎを感知したか? 」
「……分かりません……見逃したかも知れません…すみません……」
「……好いよ……どの道、もうじきにはっきりする……岩塊までの距離は? 」
「……1200mです! 」
「……800mで抜錨(ばつびょう)! 急速に回収しつつ、方位232マーク096に観える岩塊の中央部を目標に、艦首右舷ロケット・アンカー2本を撃ち込め! 到達したら急速収納開始! 」
「……了解しました! 」
「……落ち着いてやってくれよ、エマ! 」
「……お任せを! 」
「……これが2段跳びですか…!? 」
シエナ・ミュラーが眼を瞠って言う。
「……そう…アリシア、次のロケット・アンカーが目標に到達する5秒前に4番を起爆! 」
「……了解! 」
「……敵艦が磁気の揺らぎを感知しているなら、それも隠さないといけないからな……アリシア! あと3本、9番、10番、11番を放出してくれ! 」
「……了解! 15秒間隔で順次に放出します! 」
「……あと100mです! 」
と、エマ・ラトナー。
「……よし! カウントダウン開始! 」
「……了解! 15秒前…10秒前…6、5、4、3、2、用意、抜錨! 」
「……直ちに全力回収! 右舷アンカー発射! 」
「……了解! 発射! 」
「……到達までは? 」
「……約15秒です…」
「……敵艦は? 」
「……感知できません……依然としてロストです……」
「……エドナ、アリシア、準備は好いな? 敵艦の第1戦闘ラインに掛かる直前から、ハイパー・ヴァリアントも主砲もミサイルも、全力で無制限連射を掛ける……敵艦がシールドをアップする迄の間に、一定度以上の損傷を与える! 」
「……了解! 」
「……了解しました……」
「……4番起爆します! 続けてアンカー到達! 」
「……よくやってくれた! 直ちに全力で巻き上げ開始! パイロットチームは姿勢制御、頼む! 」
「…了解! 」
「……岩塊までの距離は? 」
「……1350m! 」
「……岩塊まで200mのポイントで抜錨する! 抜錨5秒前に5番起爆! 以降、15秒毎に6番から9番までを順次に起爆! 」
「…了解しました! 」
2つ目の大型岩塊に艦首を向けたまま『ディファイアント』は艦体を大きくスライドさせながら高速で変針していく……パイロットチームの3人は操舵パネルの上で30本の指を目にも止まらぬ程の速さで走らせ、艦体に細かく姿勢制御を施し続ける。
「……岩塊まで1200m! 」
「……シエナ、シークレット・チャンネルを通じて各艦の状況は流れて来ているか? 」
「……切れ切れにしか入って来ていませんが、各艦ともに苦戦しているようです……が、敗北を喫した艦はまだありません……」
「……そうか……皆、初めてだし……慣れてないからな……」
「……貴方だって、初めてでしょう? 」
と、シエナが微笑みながら私の顔を観る。
「……そりゃあまあ、そうだけどね……シエナ……形勢不利と観たら、粘らずに全速で離脱して仕切り直すようにと流してくれ……」
「…分かりました…」
「……岩塊まで1000m! 敵艦は依然ロスト! 」
「……了解……マレット、昼飯になったら全乗員に私から献杯する……全員から好みを訊いて、チーフ・リントハートに送信してくれ……」
「…分かりました…」
「……それとミーシャ……こいつとの決着を付けたら、次のステージまでは30分しか無いが、希望者に私がマッサージを施す……ジムのマッサージ・ルームを準備して置いてくれ? 」
「……分かりました……マッサージ、出来るんですか、アドル艦長?! 」
「……ああ、君等に言うのは初めてだけど、結構得意だよ……」
「……岩塊まで700m! 加速しています! 」
「……よし! リーア、全エンジン臨界パワー120%へ! 始動と同時に全力噴射用意! 」
「……了解! 」
「……エマ! 始動と同時に全力全速発進だ! ぶつけるつもりで突っ込ませろ! 」
「……了解! 任せて下さい! 艦長のマッサージに応募します! 」
「……ああ、任せて置け……」
「……岩塊まで500m! 急速変針します! 」
「……抜錨回収用意! 5番起爆用意! 」
「……了解! 」
「……用意好し! 」
「……あと100m! 抜けそうです! 」
「……5番起爆して抜錨回収!! 」
放出ミサイル5番が爆発して余波を宙域に拡げる……次いでエマはアンカーを離脱させて回収に掛かる。
「……エンジン始動! 全力全速発進! 面舵30°! ダウンピッチ7°! インターセプト・ポイント 687:452:190! その線上に敵艦がいる筈だ! 行け!! 」
「……了解! 」
撮影セットではあるのだが、振動が拡がる……音まで再現するのなら轟音が轟くだろう……『ディファイアント』はその艦尾から爆発的な噴射炎を艦体の2倍以上にまで伸ばし、弾かれるように前に跳び出す……かなり強めの加速感が身体をシートに押え付ける。
「……15秒毎に放出ミサイルを順次に起爆! 」
「……了解! 」
『ディファイアント』は2個目の岩塊を10秒で廻り込んで摺り抜ける……そして目指す線上で模擬敵艦を視認した。
「……敵艦発見! こちらとほぼ同方位に向けて、ファーストスピードで移動中! エンジン始動していません! 距離、第1戦闘距離の1.7倍! 」
「……照準セット! 全兵装、集中全力連射開始! 敵艦のシールドを突破して、損傷率40%まで連射続行! 」
「……了解! 」
エドナ・ラティスは5秒でターゲット・スキャナーを絞り込んで照準を付けると、総てを解放した。
『ディファイアント』の、敵艦を指向し得る全兵装が集中全力連射を掛ける……ハイパー・ヴァリアントから発射された2発の徹甲弾が、模擬敵艦の艦尾左舷に僅かな角度の差で突き刺さり、貫通はしなかったが艦内を破壊的に跳ね回る……主砲の連射ビームも、敵艦の左舷艦尾に突き刺さる……奇襲攻撃開始5秒後……
「……敵艦エンジン始動! シールドアップ! 面舵を切って離脱コースに入る模様! 」
「……カリーナ…アクティブ・スキャンして状態を観てくれ? 」
「……了解……敵艦損傷率22%……ヴァリアントが効いています……エンジンが不調の模様……パワー・フローが安定しません……シールド・パワー、92%から減衰中……」
「……よし! 艦尾に直撃させたのが好かったな……更に接近して肉薄し、攻撃続行! シールド・パワーを読み続けてくれ……」
「……了解……シールド・パワー86%……82%……76%……シールド・ジェネレーターも不調のようです……72%……65%……60%……53%……」
「……エドナ! シールドを突破したらヴァリアントは徹甲弾に戻して撃ち込む! エマ! 敵艦まで200mに接近してくれ! 」
「…了解! 」
「…分かりました! 」
『ディファイアント』の加速率は模擬敵艦を僅かに上回っている……エマ・ラトナーは30秒で敵艦から200mに着ける。
『ディファイアント』からの対艦ミサイルもハイパー・ヴァリアントの炸裂弾も、勿論主砲の連射ビームも模擬敵艦のシールド面に突き刺さってシールド・バブルを揺るがせている。
「……敵艦シールド・パワー、38%……32%……25%……シールド・バブルが安定しないようです! 」
「……あと一息だ! 更に集中して連射続行! これが本当の戦闘なら、そろそろミサイルが弾切れになるな……」
「……敵艦シールド・パワー、18%……12%……5%……シールド消失!! 」
「…撃ち込めえ!! 」
ミサイル、ビームの集中連射が模擬敵艦の右舷に突き刺さる……エドナは3秒でヴァリアントの弾体を徹甲弾に切り換え、敵艦の右舷艦尾に照準を採った。
「……発射!! 」
連射で撃ち込まれたハイパー・ヴァリアントの徹甲弾が、模擬敵艦の艦内を破壊的に引き裂き、2発目が左舷中部から貫通して出た。
「……敵艦損傷率35%……40%……45%……敵艦パワー・フロー崩壊! オーバー・フローからオーバー・ロードに入ります! …損傷率55%! 間も無くです! 」
「……全兵装攻撃中止! シールドアップ! 取舵40°で全速離脱!! 」
「……了解! 」
『ディファイアント』は全兵装の攻撃を中止してシールドをアップさせ、取舵を切って離脱コースに入る……模擬敵艦は艦体の各部から小爆発が起こり、焔とガスが放出されてスパークが艦体を彩る……そして『ディファイアント』が1500m程離れた時に、爆発した。
「……敵艦…爆沈しました……」
「……放出ミサイルは総て起爆したか? 」
「……はい、総て起爆しました……」
「……コンピューター、艦内オール・コネクト・コミュニケーション……」
【コネクト】
「……更に…同盟参画各艦に対しても、シークレット・チャンネルを通じてオール・コネクト・コミュニケーション……」
【スタンバイ…………コネクト】
「……こちらは『ディファイアント』! ブリッジより同盟に参画する総ての乗員に告げます! アドル・エルクです! 『ディファイアント』はたった今、ファースト・ミッションのファースト・ステージをクリア! 模擬敵艦1隻を損傷無しで完全撃破しました! ここに勝ち名乗りを挙げます! 本艦の戦闘記録は直ちに各艦に向けて送信配付します! 是非とも参考とされたい! 形勢が不利な状況なら無理せず、粘らずに全速で一旦離脱して態勢を整えて仕切り直して下さい! 各艦の健闘を祈り、期待しています! アドル・エルクより以上です! 」
回線は閉じられた……ブリッジに拍手と歓声が湧き起こる。
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『ディファイアント』の主砲1番2番が、4本のエネルギー・ビームを撃ち挙げる……2秒の間隔で撃ち挙げられた3連斉射が、静かに虚空に吸い込まれて消えた。
「……おめでとうございます……驚きました…アドル艦長……」
シエナが左側から座ったまま右手を差し出して来たので握手を交わし、左手で彼女の身体を引寄せてハグし合った。
「……おめでとうございます……素晴らしかったです……アドル艦長……」
身体を離すと右側のハル・ハートリー参謀とも握手を交わしてハグし合う。
更に左隣のハンナ・ウェアーとも、更に右隣のエレーナ・キーン参謀補佐とも右手を伸ばして握手を交わすと立ち上がった。
「……皆、本当にありがとう……皆のお陰で勝てた……感謝してもし切れない……全システムはオート・コントロールにして30分しか無いが自由に休んでくれ……パイロット・チームの3人は、ジムに行ってマッサージ・ルームで待機してくれ……直ぐに行くから……他のメイン・スタッフは私の控室に来てくれ……授与される賞金と経験値の処理について協議する……この30分は何でも許可するが撮影されているから注意してくれよ……それでは30分後にまたここに集合だ……以上…解散! 」
そのまま歩き出して艦長控室に入ると、ドリンク・ディスペンサーから濃い目のコーヒーを出させてデスクに着き、大きく息を吐いて一口飲む……】
「……はい……『ディファイアント』がファースト・チャレンジミッションのファースト・ステージをクリアするまで……また長尺でしたが、ご覧頂きました……それではまた……感想など…頂きましょう……司会ですので、アーミセンさんから指名させて頂きますが……順番はありません……ご自由に…ご随意に…いつでも、ご発言下さい……如何でしたか? 」
「……はい……私は1人のジャーナリストとして……率直に、このスクープ・ニュースを公表できるのが…今なのだ、と言う事が悔しいです……開幕してこのぐらいの短時間で、ファースト・ステージをクリアした艦は他にもありました……ですが選ばれた20隻の中では『ディファイアント』が断トツでした……これは充分にトップのスクープ・ニュースだったのですが……公表は今とせざるを得ませんでした……運営推進委員会としても配信番組としても、大きく重要な方針でしたので……組織人としての私は従いましたが……ジャーナリスト個人としての私は、残念に思っております……それについてはこの場をお借りして、お詫び申し上げます……ですがともあれ……『ディファイアント』を操艦されている皆さんには、驚嘆致しました……本当に…乗っておられる皆さんの……1人1人が優秀です……この先が非常に楽しみです……」
「……はい……大変に情熱的な感想を、どうもありがとうございました…アーミセンさん……私も個人的に『ディファイアント』の今後は……非常に楽しみにしております……それでは……また…どなたか?…… 」
「……それでは、私から……」
と、ニール・マッキーン准将が手を挙げる。
「……ありがとうございます。マッキーンさん……では…お願いします……」
「……はい……私はどうしても職業軍人でありますので……アドル・エルク艦長個人に注目してしまうきらいを否めない側面があります……その面を自分でも認識した上で、正直・率直に申し上げさせて頂くなら……アドル・エルク氏には入隊をお勧めしたい……私は空軍の人間ですが、海軍でも構いません……それに……ハイラム・サングスターさんなら……もっと以前からそう感じているでしょうから……アドル・エルク氏を軍属に勧誘するぐらい……1度や2度でもなかったでしょう……言い換えればそれくらい、アドル・エルク氏が特筆レベルで備える感性と才能が……稀有なものであると言う事なのです……この配信は海軍参謀本部の関係者も視聴するでしょうから……近々にアドル・エルクさんに対して、何らかの接触があるかも知れませんね……」
「……ありがとうございました。マッキーンさん……それであの……マッキーンさんはハイラム・サングスター艦長と、お知り合いなのですか? 」
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「……パパ……軍隊から誘いが来るの? 」
「……うん……何かの……ちょっとした話はあるかも知れないけど……パパは何処にも行かないから心配しなくて好いよ……会社も上手く対応してくれるだろうし……パパだってハッキリ断るからさ……でも、面倒臭くなるのは困るな……まあ……気にしないで行くよ……直ぐにどうのこうのはないだろうからね……」
「……あの……私からも幾つか……宜しいでしょうか? 」
「……ああ、どうぞ…ドーフマンさん……ありがとうございます……お話し下さい……」
「……はい……またアドル艦長の話なんですけれども(少し苦笑)……艦のセンサーシステムは磁気反応を感知しますが……鉄鉱石成分の多い隕石デプリが艦体と接触した場合には、火花が散ったりもします……その際には一瞬ですが強力な電磁波の揺らぎが発生して、それが磁気センサーで捉えられます……ですがマニュアルに書かれているのは、一定の距離にまで他艦が接近していれば……その艦体から静かに発せられている電磁波を、捉える事が出来る……程度の記載なんですね……ですがアドル艦長の理解は……我々の想定を超えていました……アンカーがデプリに突き刺さった時に生じる磁気反応を、デコイ・ミサイルの起爆で隠したり……岩塊に引き摺られて変針していく時にも……細かい姿勢制御を艦体に加えて、デプリが艦体に当たらないようにしたり……とにかく……先読みと言うのか、深読みと言うのか……それらが凄いです……もうひとつは……模擬艦の制御A I が、岩塊デプリとロケット・アンカーを使って艦を変針させる操艦手法を既に模倣していると、看破された事ですね……あの時には私も流石に声が出ました……正直、脱帽でした……長々とすみません……取り敢えず、以上です……」
「……このジョン・ドーフマンと言う人は、パパを買い被っている……あの時にあの戦術を採ったのは……敵艦が動いていても止まっていても、対応できるように…だったんだ……だから別に看破なんてしてなかったんだけどね……でも、まあ好いか……」
「……あの……先にお三方から、詳細なお話を伺えましたので……ゲーマー如きが改めて述べられるような事も……もうあまりありませんが……ゲーマーの立場でひとつだけ強調させて頂けるとするなら……情報の共有から始まって、的確・適切な指示から発動される……あの素晴らしいチームワークですね……『ディファイアント』の勝因は……チームワークにあると、言い切ってしまっても好いのではないのだろうかと、個人的にはそう思います……横から口を挟んでしまって、すみませんでした……ああ、最後にひとつだけ! 損傷無しで1隻撃沈は快挙です! 間違いありません! 」
「……ハーヴェイさん……情熱的なコメントをありがとうございました……損傷無しでの1隻撃沈は、私も本当に快挙だと思います……それでは……他にはございますか?……」
「……私は……アドル・エルクさんが施されるマッサージに興味があります……観てみたいですし…受けてもみたいです……」
エスター・ロッサム女史が挙手してそう言うと、直ぐにインナ・リチョワ女史とイナ・ピエハ女史も口を揃える。
「……私もそう思います……観たいですし、受けてみたいです……」
「……私も全く同感です……」
「……(笑)……分かりました(笑)……この後直ぐに、艦長控室でアドルさんとスタッフの皆さんがミーティングをされるので……その後に観て頂こうと思います……ので、ご視聴の皆さんもそのままお待ち下さい……では、CMに入ります……」
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