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地上界にて…

リアル・バラエティ・ライヴ・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』3/6 …4…

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「……何だかさ……今の処…褒められたり、感心されたり、驚かれたりか……引かれないだけ、まだマシだけど……擽ったいんだよね……いずれ必ずあの掌は引っ繰り返るとも、判っているからな……」

 ソファーに深く座り、グラスの酒を一口含んで、そう言ってみる。

「……今はまだ好いんじゃないかしら……始まったばかりだし……」

 隣に座るアリソンが、私の右手に左手を添えた。

「……そうだね……申し訳ない……お客様方の前なのに愚痴を言ってしまった……やはりウチに居ると気が緩みます……重ねて、申し訳ない……誰に何を言われようが思われようが、気にしないでやっていこうと心に決めていたんだから……日々、そこに立ち帰ってやっていきます……逆に、改めて気付かせて貰えた事は有り難い……こう言うものは、只眺めるだけにしよう……」

「……アドルさん……何の力もありませんし、何のお手伝いも出来ないと思いますけれども……僕達も居ますので…何かの時には、声を掛けて下さい……」

「……ありがとう……テレンス君……今は君達が…本当に力強く…頼もしく観えるよ……何かの時には、手伝って貰おう……」

「……ありがとうございます……」

 正司会のアランシス・カーサーがハーヴェイ・カイテル氏に改めて顔を向ける。

「……なるほど……ひとつの予測は的中しましたがもうひとつは外れて、チャレンジ・ミッションは発表されました……だから、その訓練プログラム・プランの構築に携わった艦長方が、言及されていたと言う訳ですね……私もそのプランの内容に、興味が湧いて来ました……」

「……あの……よろしいでしょうか?……」

「…はい! どうぞ、どうぞ! ダーラ・ジスキンさん……遠慮なくご発言下さい……突撃レポートですか? 」

「…はい! ありがとうございます! 先程にも申し上げましたが『バトゥ・ウルス』のネヘマイヤ・パーソフ艦長に、43才のお誕生日をお祝いしてのインタビューをお願いして、ご協力を頂きました……先ずその模様をご覧頂きましてから…その後に『バトゥ・ウルス』が初出航を完了するまでを、ご覧頂きます……それではどうぞ……」

 場面が切り替わってゲート・ポートに左舷を接舷させて聳える、クリーム・イエローにカラーリングされた艦体の『バトゥ・ウルス』……左舷から展開されてポート・デッキにまで設置されたタラップのたもとで、ダーラ・ジスキンは右手のマイクをネヘマイヤ・パーソフ艦長に向ける。

「……おはようございます。初めまして。ネヘマイヤ・パーソフ艦長……搭乗前のお忙しい処を申し訳ありません……ほんの少し、お時間をお願い致します……」

 呼び止められ、少し驚きつつ振り向く……マイクとカメラを認識して、息を吐いた。

「……ああ…おはようございます……取材ですか? まあ、構いませんが出航前で時間が切迫していますので、手短かにお願いします……ああ、君達は先に乗艦して? バー・ラウンジで待っていて下さい……直ぐに行くから……」

 艦長が呼び止められて立ち止まっているので、廻りにクルー達が集まって人だかりになりかけた処を、声を挙げて先に乗艦するよう促す……が、メアリー・ケイト・シェルハート副長とフェリッサ・ローハン参謀の2人は彼の左右に立った。

「……はい…ネヘマイヤ・パーソフです……で、貴女は? 」

「……あ、はい! 申し遅れました…ダーラ・ジスキンと申します……宜しくお願いします! 」

「……宜しくお願いします……」

「……先ず、ネヘマイヤ・パーソフ艦長…お誕生日、おめでとうございます! 」

「……ああ、ありがとうございます……流石に知られていますよね? 」

「……ええ、それはもう……クルーの皆さんからお祝いなどはありましたか? 」

「……いや……まだセレモニー・ホールで全員集合したばかりで……艦に乗ったら全体で少し話してから、プレ・フライトチェックに入りますので……個人的な話はまだ何もしていません……でもまあ、今夜はパーティーもありますので……色々とお祝いして貰えるとは思っています……」

「……ネヘマイヤさんはご家族を中心に農園を経営されていらっしゃいますので……今朝はご家族の皆様からお祝いされましたか? 」

「……いえ、今朝はかなり早くに家を出ましたので、まだ誰からも受けていません……身内での誕生会は、月曜日の夜になるでしょう……」

「……そうですか……アドル・エルク主宰の【『ディファイアント』共闘同盟】に参画されましたが、感想とか今のお気持ちをお聞かせ下さい……」

「……アドル主宰の共闘同盟に参画したのは、最良の選択でした……今日と明日のファースト・ゲームではまだ大丈夫でしょうが、セカンド・ゲームでは狙われる可能性がかなり高くなると思います……それを予測し、見越して同盟の結成を提唱されたアドル艦長の見識は、天才的であり驚異的であると言えるでしょう……これで我が『バトゥ・ウルス』が生き延びられる可能性も、長期間に亘ってこのゲームを楽しめる可能性も高まりました……同盟全体の今後の為に、私個人としても『バトゥ・ウルス』としても微力を尽くすつもりです……」

「……お応え頂きまして、ありがとうございました…ネヘマイヤさん……『バトゥ・ウルス』が最後まで残れますように、お祈り申し上げます……」

「……ありがとうございます……ダーラ・ジスキンさんも、益々ご活躍されますように、ね? 」

「……ありがとうございます……お気を付けて、行ってらっしゃい! 」

 そう言って会釈しマイクを下げるダーラに、ネヘマイヤは左手でサムズアップをキメて観せると、メアリー・ケイト・シェルハート副長とフェリッサ・ローハン参謀の2人を伴って、タラップを駆け昇って行った。

 スタジオに場面が戻る。

「……ハイ! ここまで、ネヘマイヤ・パーソフ艦長へのインタビューをご覧頂きました……」

「……ご苦労様でした。ダーラさん……」

「……ありがとうございます……」

「……ネヘマイヤ・パーソフ艦長…なかなか気さくな方ですね……」

「……そうなんですよ……お忙しい時でしたのに…立ち止まって下さって……」

「……アドル・エルク主宰をすごく信頼なさっている様子も窺えました……」

「……はい……」

「……それでは、ダーラ・ジスキンさん……続きましては? 」

「……ハイ! 続いては『バトゥ・ウルス』の初出航完了までをご覧頂きます……それでは、どうぞ! 」

 『バトゥ・ウルス』…バー・ラウンジ

 バー・カウンターを前にして立つネヘマイヤ・パーソフ艦長。

 全クルーは既に着席し、それぞれの前にはフレッシュ・グレープフルーツ・ジュースで満たされたグラスが置かれている。

 サラ・ローマー保安部長が歩み寄る。

「……ネヘマイヤ艦長…全員乗艦しました……欠員はありません……」

「……ありがとう…ローマー保安部長…」

「……おはよう、皆……ついにこの日が来たね……全員集まってくれて、ありがとう……これからプレ・フライトチェックに入り、確認と準備が整い次第、出航します……おそらく『ディファイアント』が1番先に出航するだろうけど、そんなに遅れたくはないから急いでやろう……そうは言っても、慌てなくても焦らなくても好い……調整と確認を急いでこなしていけば好い……知っての通り、『バトゥ・ウルス』は【『ディファイアント』共闘同盟】の行動方針とアドル・エルク主宰の指示に従って行動するものだ……それは前提として承知して欲しい……フライトチェックでは、私も可能な限り手伝う……各部門・部所では、それぞれチーフの指示に従って効率的・合理的に頼む……他に発言はあるかな? 」

 誰も発言しなかった。

「……皆の前には新鮮なグレープフルーツ・ジュースが置いてある……毎日飲めば、筋肉が柔らかくなって痙攣やこむら返りや筋肉の断裂を予防できる……『バトゥ・ウルス』が無事に入港できるように……皆が元気でケガをしないように……同盟に貢献できて、長く存続してゲームを楽しめるように……沢山賞金を稼いで、皆が幸福になるように……乾杯! 」

「…乾杯!! 」

 全員がジュースを飲み干してグラスを置き、立ち上がる……各部所のチーフが声を掛けてメンバーを集合させ、動き始める。

 場面が変わり、副長・参謀・参謀補佐・カウンセラーと共にブリッジに入るネヘマイヤ艦長……艦長控室で上着を脱いで吊るすと、クローゼットからエンジニアリング・ジャンプスーツを出して着替える……キャビネットからツールケースを出した処でチャイム響いた。

「…どうぞ……」

 メアリー・ケイト・シェルハート副長がPADとレイを携えて入室……ネヘマイヤ艦長の首にレイを掛けると、軽くハグしながら彼の右頬にキスをした。

「……副長…他にもこれを掛けてくれる人はいるよね? 」

「……ええ…いますね……」

「……じゃあ、通達を頼む……これから忙しくなるから…出航完了後にまとめて受け取るとね? 」

「……分かりました…」

「……ブリッジを頼む……私は機関室を手伝ってくるよ……あそこが1番人手が要るようだからね……」

「……了解しました…お気を付けて……」

「…ああ、それじゃ……」

 ツールケースを左手で提げると、ネヘマイヤ艦長はそう言いながら右手でメアリーの左手を軽く握って、艦長控室から出て行った。

 また場面が変わってターボ・リフトのドアが開く……エンジニアリング・ジャンプスーツをかなり汚したネヘマイヤ艦長が、ツールケースを右手で提げてブリッジに戻り着く……顔にも油汚れが付いているが……キスマークも5個に増えていた。

 副長・参謀・カウンセラーに対して左手を軽く挙げてから艦長控室に入る……彼に続いて参謀とカウンセラーも艦長控室に入った。

 ジャンプスーツを脱ぐと参謀が受け取って畳み、すかさずカウンセラーが熱いタオルを渡す……拡げて丁寧に顔の油汚れとキスマークを拭き取り、タオルを返して熱い湯で顔を洗う……別のタオルを受け取って丹念に水気を吸わせ、元の上着に袖を通して着る……自分でやろうとしたのだが、カウンセラーが先にヘアブラシを取って髪をセットしてくれた。

「……ありがとう……じゃ、行こう……」

 控室を出て、キャプテン・シートに座る。

「……副長、報告してくれ……」

「……はい、プレ・フライトチェックは総て完了しました……ネヘマイヤ艦長……『バトゥ・ウルス』……発進・出航準備完了です……」

「……了解だ……メアリー・ケイト・シェルハート副長……フェリッサ・ローハン参謀……シンシア・アップルビー、カウンセラー……アドリアナ・アルダ機関部長……パメラ・アパトー副機関部長……ゼルダ・ヴィッツ、メイン・パイロット……サラ・ローマー保安部長……アレクシス・アークエット参謀補佐……アリエル・ウィンフリー、メイン・センサーオペレーター……兼ねてからのシュミレーション通りに、発進・出航シークエンスを開始……出航完了までは総て君達に一任する……」

「……了解しました……イエロー・アラート! 第2警戒配置! 発進シークエンス、開始! 」

 それ以降、出航完了までの手順は『ディファイアント』のそれと、殆ど変わらなかった。

「……う…ん…ネヘマイヤ艦長……なかなかの人物だね……素晴らしいリーダーシップだし、流石にレベルの高い経営者でもあるからカリスマ性も高い……艦内での支持力は『ディファイアント』でのそれよりも高いかも知れない……」

「……それは謙遜でしょう? 」

 と、ルカ・アラナ君が言う。

「……いや……あの日が彼の誕生日であった事を差し引いても『バトゥ・ウルス』のクルーが彼に寄せる信頼は、強くて高い……私にとっても同盟にとっても、彼と『バトゥ・ウルス』は得難い僚友だよ……」

「……分かります……」

「……『バトゥ・ウルス』…出航完了しました…ネヘマイヤ艦長…お誕生日、おめでとうございます❤️…」

 そう言いながら参謀のフェリッサ・ローハンが、彼の首にレイを掛けて右頬にキスをする……その後はサラ・ローマー保安部長……アレクシス・アークエット参謀補佐……カウンセラーのシンシア・アップルビー……メイン・パイロットのゼルダ・ヴィッツ……レスリー・カーツマン砲術長……サブ・パイロットのズーイー・ネイコン……ヘザー・オルーク補給支援部長が次々と彼の首にレイを掛け、お祝いの言葉と共に熱いキスを送る……最後にアネット・オトゥール生活環境支援部長が手作りの飾り帽子を彼の頭に被せて、両頬にキスした。

「……ああ…これか……この程度だったら特に問題は無いだろう……批判されたにしても、スルーして好いんじゃないかな? 」

 そうは評したのだが、アリシアが鋭い視線を数秒送り付けて来たので、それ以上は口を開かなかった。

 場面は変わってスタジオへ。

「……ハイ! ネヘマイヤ・パーソフ艦長が指揮を執る『バトゥ・ウルス』の、初出航完了までをご覧頂きました! 如何だったでしょうか?! 」

「……ありがとうございました。ダーラ・ジスキンさん…ご苦労様でした……ネヘマイヤ・パーソフさん……成功されている経営者でもあって、とても落ち着かれていて懐も深く、優しくてカリスマ性も高い方ですね? 」

 デザレー・ラベル女史が感想を述べるように問い掛ける。

「……そうなんですよ! 私から観てもアドル・エルク主宰に並ぶ、とっても素敵で優しい方でした……包容力も同じくらいにありそうでしたし……とてもナイスなお兄様でした……」


「……まあ…おじ様って言われなかったのは、良かったね……包容力ならハイラムさんの方がありそうだけど……ザンダー艦長を目の前にしたら彼女……何と言うだろうかな? 」

「……ザンダー……パスクァールさん…ですよね? 確かに……あれ程の……超絶イケメンの男性は……なかなかいないと思いますけど……私だったら……何も話し掛けられないかも? 」

 と…アデリーン嬢が言う。

「……ネヘマイヤ・パーソフさんの為人や人柄が素晴らしいのは、男性艦長へのインタビューと対談の配信番組に出た時から解っていたからね……あの様子からすると……『バトゥ・ウルス』の親睦パーティーじゃあ、さぞかし熱烈なお祝いを貰ったんだろうね……まあ、問題になるような様相でもなかったんだろうけど……」

 CMが終わって、またスタジオが映し出される。

「……さて…それでは先ず『ディファイアント』に於ける、ファースト・チャレンジミッション・ファースト・ステージの模様をご覧頂きましょう……」


【「…センサー・ヒット!」  

 カリーナ・ソリンスキーが叫ぶ。

「…エンジン停止!  光学迷彩レベル3!  アポジ・モーターで取舵2°!  」

 5秒も経過させずに、シエナ・ミュラー副長が応じて指示を発する。

「…左舷後方7時!  ダウンピッチ5°!  距離、第2戦闘距離の1.7倍!  敵艦もエンジン停止して光学迷彩展開!  」

 続いてまたカリーナが、模擬敵艦の情報を伝える。

「……やはり近いな……取舵を切ったのは結果的に正解だった……敵艦の航路をトレースして投影!  エマ!   方位206マーク159に観える大型岩塊右側面に、艦首左舷のロケット・アンカー2本を撃ち込め!   アリシア!  対艦ミサイルをフロント、リアともに全発射管に装填!   」

「…了解! 発射用意…照準よし! 発射! 」

「…了解! 装填します! 」

「…艦長! シークレット・チャンネルを通じ、同盟参画各艦も模擬敵艦と接触! 」

 ハル・ハートリー参謀が報告する。

「……対処・対応は各艦司令部に一任する! 距離があり過ぎて、ダイレクト・インターリンクは確立出来ない! これはチャレンジ・ミッションであって、相手は模擬敵艦だから例え敗けても損傷しないし、何の被害も無いと伝えてくれ! 」

「…了解! 」

「……ロケット・アンカー目標に到達! 」

「…よし! ワイヤーが張ったら全力で収納! 」

「! 敵艦からと思しきミサイルの発射反応!  2本です!  」

「…コースは?  」

「……こちらに接近するものではありません……」

「……ふん…驚かせるか釣らせるかして、エンジンを始動させようと言うんだな……ミサイル積載本数も倍の200本だから、バカスカ撃っても大丈夫って事なんだろう……ミサイルの発射ポイントを敵艦のトレース・コースと照合……敵艦のパワーサインは採れたのかな? 」

「……いえ、採れませんでした……」

「……まあ好いよ……いずれ採れる……こちらのパワーサインもいずれ採られる……採られてからが勝負だ……」

「……トレース・コースと照合しました……敵艦のコースはほぼ変わらないようです……」

「……艦長! ワイヤーが張りました! 全力収納開始! 」

「……よし! エマ! 岩塊の質量の方が大きいから、こちらが引き摺られて変針し始める……周囲のデプリに艦体が接触しないよう、姿勢制御を頼む……アポジモーターの起動はセンサースイープでも捉えられないが、艦体がデプリと接触すれば磁気反応で気付かれる!  」

「…了解! 」

 『ディファイアント』の艦体が慣性航行スピードとアンカーワイヤーの巻き上げにより、それまでのコースから外れて変針し始める……艦首を岩塊に向けたまま大きく艦体をスライドさせて、岩塊を大外から廻り込むように接近して行く……エマ・ラトナーは操舵パネルの上で指を凄まじい速さで走らせ、艦体に細かい姿勢制御を加える事でデプリとの接触を回避し続けていく。

「……ワイヤー順調に収納中。艦体が大きくスライドしながら高速で岩塊を廻り込むように接近中!  」

「……ソフィーとハンナも手伝ってエマの姿勢制御に対応してくれ! 岩塊との距離100mでアンカーを離脱させて回収するからカウントダウン頼む! アリシア! リア・ミサイル1番を放出!  」

「……放出、ですか?  」

「……そうだ。発射ではなく放出だ……」

「……分かりました…放出! 」

「……よし! 10秒間隔で2番、3番、4番と放出! 」

「…了解!  」

「……艦長! 敵艦が先に発射したミサイル2本が変針しました! 」

「……どこに向かっている? 」

「……アンカーを撃ち込んだ岩塊です…」

「……ふん、撃ち込んだ時の磁気反応を捉えたな……当たって爆発した時の余波を利用させて貰おう……敵艦のミサイルが岩塊に命中した時、本艦と岩塊との距離は? 」

「……このまま接近して行けば……約700mです……」

「……ミサイルが岩塊に命中したらエンジン始動! 同時にアンカーを離脱させて回収! 岩塊を左側から廻り込んで敵艦が居ると思しきポイントを目指し、加速15秒でエンジン停止!  」

「……了解…あと7秒… 5、4、3、2、命中します!  」

 岩塊にミサイル2本が命中した。閃光が起こり、爆発が拡がる。

「……エンジン始動! 全力噴射! 全速発進! エマ! 岩塊を左舷ギリギリに掠めて加速! 13秒で放出したリア・ミサイル1番を起爆! 」

「……了解! 行きます!  」

 『ディファイアント』のメインエンジンが唸りを挙げ、メインスラスターから爆発的な噴射炎が拡がる。

 強い加速感で身体がシートに抑え付けられ、艦体が前に跳び出した。

 僅か数mの間隔で岩塊の右側を『ディファイアント』の左舷が掠め摺り抜けて跳び越える。

「…8秒です!  」

「……1番起爆して更に加速! 観えるか!?  」

「…ダメです! まだ観えません!  」

「……10秒走って、エンジン停止! 一度だけアクティブスキャンで位置を確認して2番起爆! 全速発進で間合いを詰める! 全兵装発砲用意!  」

「……了解…7、8、エンジン停止! 」

「……アクティブ・スキャン、打て! 」

「…発振! 」

「! 敵艦の位置確認! 左舷14°、アップピッチ7°、距離、第2戦闘距離の1.4倍!  」

「……2番起爆! エンジン始動、全速発進! インターセプトコース! 全兵装敵艦に照準!  」

「……敵艦もこちらに気付きました! こちらに艦首を向けてエンジン始動! 」

「……フロント・ミサイル第1波斉射して直ぐに装填! 3番起爆してダウンピッチ5°で10秒! 直ぐに舵を戻せ!  」

 艦首から対艦ミサイル第1波を斉射して、下げ舵を切る『ディファイアント』……コースを変えて5秒で、敵艦からのビームが8本、こちらの直上を掠め過ぎる。

「……アップピッチ7°……全速前進! カウンターショットだ! 主砲4番迄、照準採れ次第斉射4連! 続けて第2波斉射して装填! 」

 転じて上げ舵を切る『ディファイアント』……対艦フロント・ミサイル第1波8本が模擬敵艦へと航跡を伸ばす……第2波の8本も斉射される。

「……照準セット! 」 「ってー!! 」

 『ディファイアント』の主砲4番までからのビーム斉射が1射2射3射と模擬敵艦艦首左舷に撃ち込まれる……直ぐに面舵を切ってコースを変え始める模擬敵艦……そこに第1波の8本が敵艦の左舷舷側に命中したが、艦体に届いて爆発したのは4本で、残りの4本と主砲の第4斉射は、展開されたシールドに依って阻止された。

「……敵艦、シールドアップ! 面舵反転して離脱コース! 」

「…逃がすな、エマ! 全速で接近して肉薄しろ! 主砲5番まで敵艦に無制限全力連射! 」

「……ミサイル第2波命中します! 」

「……最接近して全力連射続行! 」

 面舵を切り続けて反転し、加速を始めて離脱しようとする模擬敵艦……フロント・ミサイル第2波も命中したがシールドに依り全弾が阻止される。

「……カリーナ! 敵艦のシールド減衰率をスキャン! 」

「……敵艦シールドパワー94%…92%…90%…あまり減衰しません……」

「……敵艦の損傷率は? 」

「……敵艦損傷率12%……」

「……艦長! 敵艦のエンジンパワーはこちらより上です……加速率も上です……距離が開きます……」

「……やはり2倍のスペックではこれだけ違うか……こちらはまだノーマルのままだし、初撃はハイパー・ヴァリアントにするべきだったな……」

「……どうしますか? 」

 と、シエナ・ミュラー副長が私の顔を観て訊く。

「……仕切り直そう……砲撃中止……面舵30°…全速で20秒走ってエンジン停止……まだ4番の放出ミサイルが生きている……カリーナ、敵艦のパワーサインは採れたか? 」

「…採れました…」

「……うん…採れたと言う事は、こちらのパワーサインも採られたと言う事だ……それは構わないが、小手調べの初戦を無傷で済ませられたのは僥倖だったな……同盟参画各艦も、これでは苦戦しているだろう……最初から2隻のセットで始めていたら、脱出する方が先って事になっただろうな……敵艦のコーストレースは継続してくれ……」

「……了解…20秒です……」

「……エンジン停止。敵艦は? 」

「……敵艦もシールドダウンしてエンジン停止しました……」

「……敵艦は再び面舵を切ってこちらに接近しようとするだろう……アリシア、フロント・ミサイル5番にデコイ・プログラムを施して放出してくれ……」

「……了解…プログラム完了、放出します……」

「……よし、敵艦はまだこちらのロケット・アンカーを使った操艦には気付いていない……もう一度仕掛ける……エマ、アポジモーターでダウンピッチ20°……続けて方位272マーク79に観える大型岩塊の下部面を目標にして、左舷のロケット・アンカー2本を発射……岩塊を廻り込んで敵艦に対してのインターセプト・コースに着ける! 」

「……了解…発射!! 」】

 ここで記録動画が止まり、スタジオに切り替わる。

「……はい! だいぶ長尺にてご覧頂きましたが……『ディファイアント』と最初の模擬敵艦とのファースト・コンタクトから、第1次会戦までの模様をご覧頂きました……視聴されている皆さんは、どのようにご覧になられましたでしょうか? ニール・マッキーンさんは、どのようにご覧になりましたか? 」

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