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地上界にて…

3月4日(水)宣伝企画会議

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 翌日、3月4日(水)は朝食を食べずに早目に社宅を出て、いつもよりかなり早く出社した。

 と言うのも昨夜、リサとのメッセージ交換の中で、朝食は摂らずに早目に出社して欲しいと頼まれたからだ。

 一階のラウンジに入る……まだ早い時間だから、数人しかいない……女性のエスコート・チーフから、大きい花束を貰った。

「おはようございます、アドルさん。おめでとうございます! これは、私からです……」

「……どうもありがとう、ロザンナ。我ながら上手くいったよ……」

「……本当にすごいですね。番組の配信が楽しみです。お疲れ様でした! どうぞ! 」

「……ありがとう、楽しみにしていてね? 君の応援があれば百人力だよ……」

 花束を受け取って喫煙エリアのテーブルに着く。注文しようとして右手を挙げかけると、若いウェイトレスが来る。

「……只今お持ちしますので、ちょっとお待ち下さい……」

 まだ何も注文していないのに、それだけ言って直ぐに離れる。

 (もしかして?)

 30秒も経たずに3人のウェイターがこのラウンジでの朝食として、1番豪華なセットを運んで来た……さては料理長の奢りかな? 

「……おはようございます、アドルさん。おめでとうございます! これらは料理長を含む、私達からの奢りです……配信ニュース報道で観ただけですが、感動しました……私達も応援しています……頑張って下さい……」

「……ありがとう、ハリー……君達の応援があれば、私は負けないよ……その上で君達からのこの心尽くしは、有り難く頂くよ……」

「……どうぞ、お召し上がり下さい……」

「……ありがとう……頂きます……」

 胸に込み上がるものを感じながら食べ始める……10分ぐらい経って、リサが対面に座った。

「……おはようございます、アドルさん……」

「……おはよう、リサ……なんだか久し振りな感じだね? 」

「……そうですね(笑)」

「……朝食は? 」

「……さっき、頼みました……」

「……そう、ここの厨房の人達が朝飯を奢ってくれるから、早く来てって事だったんだね? 」

「……それが主でしたが、それだけじゃありません……お話もありましたし……」

「……そう……僕も君に聞いて貰いたい話があるんだ……接待が終わってからでも、付き合ってくれるかい? 」

「……分かりました。お供します……」

「……ありがとう……処で、昨日スコットは来たかい? 」

「……休暇でした……突発でしたが……」

「……そうか…まあ好いよ……あの2人の事だから、上手くやっただろう……」

 このタイミングで、リサの朝食が来る。モーニングセットの『B』だ……オリジナルブレンド・ハーブティーが入っているのだろう保温ポットをテーブルに置いて、彼女も朝食に取り組み始める。

「……今日の昼飯は、マーリーから弁当を貰うから……」

「……分かりました。ここで食べますか? 」

「……勿論……そうだ。スペシャル・クーポン・チケットを2枚使って、ランチ・バスケットを2つ仕上げて貰おう……多分、皆が色々と話を聞きに来るだろうから、その時に奢ってやろう……」

「……本当にアドルさんは優しいですね……」

「……そりゃあ、そうさ……自分の職場の同僚くらい味方に付けられなきゃ、どうにもならないからね……リサ……後で好いから、接待で持て成すお客様達に付いて、簡単に教えてくれ…会場に向かう前迄にで好いから……」

「……分かりました……メッセージでも、お知らせします……」

「……頼むよ……君も俺がスコットを殴らないか心配だった? 」

「……ええ…心配でした…でも、そうならなくて良かったです……」

「(笑)…エドナが俺の代わりに思いっ切り引っ叩いてくれたからね……溜飲は下がったよ……」

「……ええ、私もエドナさんの気持ちはよく解りましたから……」

「……ありがとう…それで…君の話って? 」

「……いえ…アドルさんがお元気になられたのなら、私は大丈夫なんですが……アリソン奥様やアリシアちゃんや、スタッフ・クルーの皆さんの事も心配ですので……」

「……ありがとう、リサ……僕が君に話したいのも、それらに付いてなんだ……後で話を聞いてくれ……2人っ切りの時にね……」

「……分かりました…お伺いします……」

「……頼むよ……」

 その時にスコット、マーリー、ズライにアンバーさんが連れ立って入って来て、同じテーブルに着いた。このテーブルに6人では、かなりキツイ。

「おはようございます、先輩。お久し振りですね。充分に休まれたようで、顔色も好いですよ。それと、おめでとうございます。まだ配信報道を観ただけですが、流石に同盟主宰艦。パワーアップもトップですね。もう軽巡宙艦5隻分くらいの力にはなってるんじゃないですか? 今から番組の配信が楽しみですよ……」

(……こいつ……白ばっくれようも大したもんだな〔苦笑〕)

「……おはよう、スコット…ありがとうな。まあ、我ながら上手くやれたけど、スタッフ・クルーの献身的な協力と奮闘による結果だよ……」

「…おはようございます、アドルさん。お元気そうで、嬉しいです……私も配信ニュースを観ただけですが、すごく格好良かったですし、同じ職場の同僚として、誇りに思いました……」

「……おはよう、マーリー。ありがとうね。今週も宜しく頼むよ。お弁当、作って来てくれた? 今日はここで一緒に食べような? 」

「…はい、作って来ました。嬉しいです。でも、大丈夫ですか? ここで食べていたら皆、集まって来ちゃうと思いますけど? 」

「……大丈夫だよ。対策は考えてあるから……」

「……分かりました……」

「…おはようございます、お疲れ様でした、アドルさん…私もニュースでしか観ていませんが、本当に格好良くて素敵でした。私も同僚として、誇りに思います。今日は第1棟7階の宣伝企画会議室『A』で、9:30 から会議ですので宜しくお願いしますね? 」

「…おはようございます、アンバーさん…ええ、今日の会議については聞いています。5分前には着いているようにしますので、宜しくお願いしますね? 」

「…こちらこそ、宜しくお願いします…」

「……おはようございます、アドル係長。お疲れ様でした。お元気そうで、良かったです。私もニュースで観ただけですけれども、本当に格好良かったです。配信番組も今から楽しみですが、ニュースで報じられる同盟の皆さん達の事も、見逃さずにチェックするようにします……」

「……おはよう、ズライ……本当にどうもありがとう……さあ、まだ朝も早いし、自由に飲んだり食ったりしてくれよ? 」

 若いウェイターが注文を取りに来たので、皆がそれぞれ朝食と飲み物を頼む。

 私はスペシャル・クーポン・チケットを2枚も切って彼に渡した。

「…あれ? 先輩、今日の昼はマーリーと一緒にランチパックじゃないんですか? 」

「……ここで飯を食ってれば、話を聞きたがって皆来るだろうからさ……一緒に食おうか? って感じでね……」

「…さすが先輩……優しいな……」

「……今気が付いたみたいに言うなよ……それでアンバーさん、今日の会議のメンバーは判ります? 」

「…はい、ええと…ここに居る人で言えば、私とリサさんとアドルさんとマーリーさん……チーフ・カンデルは、議長として来られると思います……宣伝部からはアグシン・メーディエフさん……それに、候補に挙がっているCMタレントさんも出席されると聞いています……」

「……CMタレントさん? もうそこまで話が進んでるの? 」

「……へーえ…誰が来るんですか、アンバーさん? 」

「……さあ? 私もそこまでは聞いていませんが……」

「……! いや、まさかな……」

 それ以上は口にしなかったが……多分、この予想も当たるだろう。

 始業時刻まで、あと20分。人も増えてきた。私を観留めて声を掛けてくれる同僚も多い。

 朝食を摂りながら挨拶を返すのも忙しい。皆も食べ終わってコーヒーやお茶を飲みながら談笑して過ごす。

「……よ~し、それじゃ行こうか? 」

 そう言ってコーヒーを飲み干し、ナプキンで口を拭って立ち上がった。

 同日・9:20、本社第1棟7階。

 宣伝企画会議室『A』

 ドアを開けて入ると10数人座れる円卓は中央にあるが、チーフ・カンデルとアグシン・メーディエフとドリス・ワーナー主任は、壁面のタッチパネルやメインビューワやデスク上固定端末のセッティングやら調整をしている。

 私とリサ……マーリーとアンバーさんは適当に着席しようとするが、私を観留めたチーフが立ち上がる。

「…おう、艦長殿のお見えだ……こちらへどうぞ? 」

 そう言って円卓の上座を指し示す。

「…いいですよ(笑)チーフが座って下さい……」

 そう言って、目の前の席に座る。

「…何だよ、ノリが悪いな……」

「…チーフに向かってマウントは取れないでしょ(笑)? 」

「…別に取っても好いんじゃないか?(笑)…何せ君は今や、世界でも有数の著名人だからな……」

「……チーフ……冗談が過ぎますよ(笑)……」

「……悪い……ちょっとイジリが過ぎたな……まあ、イジリ序でにこれが最後だ……えっと……今ここに居るメンバーなら、別に知られても構わんな?……」

「……何なんです? 」

「…来週の月曜日には、内示が出るぞ……」

「……結構早まりましたね……」

「……そりゃまあ、アドル艦長の大活躍があったからじゃないか(笑)? 」

「……私じゃありません…クルー達ですよ……明日と明後日の初回配信で何を言われるか解らないし、土曜日はまた出航だし、月曜日には内示ですか……目紛しく動きますね……」

「……バラエティ配信なんぞで何を言われようが、歯牙にも掛ける必要は無い……ああ言う手合いは所詮、人の行いを揶揄して笑いを採ろうとするだけなんだからな……」

「……まあ、それもそうなんでしょうが……」

「……来週に入れば色々と打ち合わせも入って来るし、研修の話も来るからな……」

 「……分かりました……そろそろ始めませんか? 」

「……ああ、そうだな……それじゃあ始めよう……席に着いて……このメンバーならもう、紹介は必要無いな……早くからご苦労様……今日の議題は、我が社でも取り扱う事になったこれからの主力商品である、アイソレーション・タンクベッド『ニュー・ヘルシードリーム7』の我が社に於ける宣伝についてだ……概要はメーディエフ君から説明して貰おう……」

「…はい、宣伝部のアグシン・メーディエフです……朝イチで皆さんの端末に送らせて頂いた資料をご参照下さい……今回の宣伝商品は購入費用から視れば、乗用エレカーとほぼ同等の比較的高額な商品ですが、様々な段階的販促キャンペーンを打っており、それも宣伝のひとつとしております……その上で今回は更に、我が社独自のCMを制作して販促に拍車を掛けようと言うプランです……」

 ここで彼に代わり、アンヴローズ・ターリントン女史が発言する。

「……CM制作にあたり宣伝部の担当グループとも協議しましたが、この商品の宣伝・営業・販売・アフターケアに亘る合同業務提携事業の、発案者であり立役者でもあり顔でもあるアドル・エルク氏には、是非ともこのCMに出演して頂きたいと言う事で、一致を観ました……」

 予測していなかった訳じゃないが、仰天する。

「!……予想はしていましたよ……どんな形であれ、協力出来る事には協力するとも言いましたが、本当に私が出演しても好いんですか? 確認ですが……」

「……逆に言えばこのCMの主演者として、君以上の適任者はいない……これは取り巻くこの状況を知る者なら、誰もが肯定するだろう……」

「……分かりました……協力しますが、他にも出演候補者がいるらしいとの話も聴こえています……どんな方ですか? 」

 そう問うと、ドリス・ワーナー主任がスッと立ち上がる。

「……出演候補者の方々には、只今別室にてお待ち頂いておりますので、お招きして参ります……」

 そう言って一旦退室し、40秒程で4人を伴って戻った。

「……どうぞ、こちらです。お好きな席にお着き下さい……」

 これも何割かは予想していたが、当たった……ナンバー・ワンとカウンセラーだ……他の2人は、それぞれのマネージャーだろう。

「……失礼致します……」

「……お邪魔致します……」

 そう言って副長は私の右隣に。カウンセラーは左隣に着く。マネージャーの2人は、少し離れて座った。2人とも紺のレディース・パンツスーツに、白く細いネクタイを更に細く締め込んで来た。着座する前に軽く会釈した2人に、私も会釈を返す。

「……アグシン……この2人にオファーを出したのは君なんだろうが、口止めまでしたのはサプライズを狙っての事だったのか? 」

「……ああ、そのつもりだったんだが…効果は無かったようだな? 」

「……いや、効果はあったよ……ただまあ、4割程度は予想もしていたからね……」

「……なるほどね…アドル・エルクを出し抜くのは、俺程度じゃ無理って訳だ……」

「……そんなこともないさ……」

「……2人とも内輪の話はそれぐらいにしてくれ……アドル・エルク係長、改めてお二方の紹介を頼む……」

「……失礼しました……私の右側に座られたのが『ディファイアント』の副長に就いて頂いた、シエナ・ミュラー女史……左側に着座されたのが同艦のカウンセラーとして就任して頂いた、ハンナ・ウェアー女史です……」

「……宜しくお願いします。エリック・カンデルです……急にお呼び立てしましたのに、快く応じて頂きましてありがとうございます……では、制作されるCMの内容についての提案をお願いします……」

「……宜しくお願いします…宣伝部のアグシン・メーディエフです……宣伝部としましても、ご来訪を歓迎致します……それでは提案致します……制作するCMは2本……そのいずれもにアドル・エルク氏には、主演として参加して頂きます……2本の内の1本にシエナ・ミュラーさんを助演としてお迎えし、残る1本にはハンナ・ウェアーさんを助演としてお迎えします……もう少し踏み込んだ設定としては、営業部からご提案します……」

「……おはようございます。営業第3課のアンヴローズ・ターリントンです。私どもとしましても、お二方のご来訪に感謝致します……では制作するCMの基本的な設定について、提案します……1本のCMではアドルさんとシエナさんとで夫婦役……もう1本ではハンナさんとのペアで夫婦役としてお願いします……脚本は現在執筆中でありまして、まだ詳細をご説明出来る状態にはありませんけれども、『ある夫婦の朝の風景』と……また『ある夫婦の夜の風景』と言うシチュエーションで、ストーリーを考案しております……」

 そこまで語ってアンバーさんは座った。代わってリサさんが立ち上がる。

「……それでは、CMの撮影日程を提案します……3月18日の水曜日を撮影の予定日としまして、翌日の19日木曜日をその予備日として提案します……」

 それだけ言って座る。

「……はい、ご苦労様でした。それではこれより、具体的な討論に入ります……先ず、アドル係長からどうぞ……」

「……あの……すごく感じているんですけれども……まさか裸で撮影しますか? 」

「……そうですね……本来、アイソレーション・タンクベッドは全裸で利用するものですから、リアリティを追求するならそのようになるでしょう……」

 と、アンバーさん……何だかにべも無いな。

「……あの……私はいいですけれども、トップ女優のお二方ですから、影響は大きいでしょうし……事務所の営業方針としても、宜しくないのでは? 」

「……大丈夫でしょう……そこら辺は監督の演出で、観えないように撮って頂ければ、問題は無いと思います……」

 と、シエナと初めて会った時に同行していたマネージャーの女性が、そう応える。

「……あの……ものすごく薄くて身体にフィットする、ボディスーツを着用したら如何でしょう? 」

 マーリー・マトリンが助け船を出してくれたが、それは即座にリサ・ミルズが却下した。

「……それはダメです。エプソムソルト水溶液の中で密閉性の高いものを着用すれば、皮膚呼吸が著しく阻害されます……」

「……私達なら大丈夫ですよ……アドルさん……監督にお任せして、演出指示に従います……」

 シエナ・ミュラーが、私の顔を観ながら微笑んで言う。私は息を吐いて、アンバーさんの顔を観ながら軽く頷く。

「……ご了承を頂きまして、ありがとうございます……撮影日程については、如何でしょうか? 」

「……私は大丈夫ですが、お二方の方は? 」

「……お気遣い、ありがとうございます。その日程でしたら、2人とも大丈夫です……充分にお手伝いできます……」

 先程のマネージャーの女性がまた応える。エリック・カンデルがおもむろに立ち上がる。

「……快いご協力を表明して頂きまして、本当にありがとうございます。撮影日までに脚本は必ず仕上げますので、お任せ下さい……他にご要望、ご用命がございましたら、何なりとお申し付け下さい……またどのようなご提案に付きましても、検討させて頂きますので遠慮なくご発言下さい……」

「……それではお言葉に甘えさせて頂いて申し上げます……ふたつのCMを、シーズン・シチュエーションで分けて制作する事を提案します……願わくば私とアドルさんのペアの場合には、夏のシチュエーションで……シエナさんとのペアの場合には、冬のシチュエーションが宜しいかと思います……付け加えさせて頂ければ、私とアドルさんのペアの場合には海辺に構えられた、別荘の撮影セットでお願い出来ればと思います……」

「!……ハンナ……あなた、ちょっと何をそんなに……」

「……いやいや、シエナさん、大丈夫です。貴重なご提案です。何でも仰って頂いて結構ですし、とてもクリエイティブなご提案でしたので、こちらとしても鋭意に検討させて頂き、最大限実現に向けて努力・尽力させて頂きます……ありがとうございました……他に何かアイデアはございますか? 」

「……出演者は、2人だけなのでしょうか? 」

 今度はシエナが訊く。

「……そうですね……現状では2人と言う設定で想定しています……キャラクターがひとり増えますと、そのキャラクターにも由りますが……脚本が複雑になりますので……」

 この時のアグシン・メーディエフは、ちょっと悩んでいるような風情を観せる。

「……そうですか…分かりました……」

「……ちなみに、どんなキャラクターが増えれば、良くなるとお考えですか? 」

 チーフが訊くとは珍しい。

「……そうですね……旦那さんの妹か、奥さんの妹……そんな処ですね……」

 ハンナもアイデアが浮かんでいるようで、調子が良さそうだ。

「……なるほど……非常に興味深いキャラクター設定ですね……あの……例えばですけれども……検討の上で、そのキャラクターを設定する事になった場合ですね……キャストとして、お心当たりの方はいらっしゃいますか? 」

 何か少しオズオズとした感じで、アグシン君が訊く。

「……キャラクター設定と、幾つかの印象的な特徴を教えて頂ければ『ディファイアント』の中で、イメージに近いクルーが居るかも知れません……もしもイメージに近いクルーがいないようでも、同盟に参画する艦の中には女性芸能人クルーの艦が他に9隻おりますので、イメージに近いクルーは必ず見付かると思いますよ……」

 何かしら確信的な心当りがあるようで、ハンナ・ウェアーの応答は自信有り気だ。

「……分かりました、ハンナ・ウェアーさん……撮影日までには検討を重ねて、新しいキャラクターを設定するかどうかも含めて鋭意に考慮・検討して決定し、脚本を完成させて準備万端を整えます……きっとご満足頂けるCM撮影となりますように、努力・尽力して整えますので当日はどうぞ、宜しくお願いします……」

 チーフがもう一度立ち上がって言い終える。

「……それでは、他にご用命、ご要望、ご相談、ご提案が無いようでしたら、今日の会議はここで終了とさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか? 」

「……では、最後にひとつだけ……もしも水着が必要なようでしたら、私自身の水着を持参したいのですが、宜しいでしょうか? 」

 ハンナの問い掛けにアグシン・メーディエフはゆっくりと立ち上がる。

「……大丈夫でしょう……そのように決定しましたなら即時にご連絡致しますので、宜しくお願いします……」

「……ありがとうございます……」

 そう応えてハンナは微笑みながら私の顔を観る。その笑顔から、その時にはアドルさんもあの水着でね? と言う声が聴こえたような気がした。

「……それではこれを以ちまして、この会議は散会と致します……私とメーディエフ君は、引き続きここでマネージャーのお二方との協議に入りますので、宜しくお願い致します……最後にお二方に対しまして、ターリントンさんから宜しければのご提案があるそうです……」

「……はい、ありがとうございます……改めて本日はこちらの要請にお応え頂きまして、ありがとうございました……あの……もしもお時間が宜しければで結構なのですけれども……お手伝いのお願いがございまして、お話だけでも宜しいでしょうか? 」

「……好いですよ、どうぞ続けて下さい……」

 シエナはにこやかに応じる。

「……はい、ありがとうございます……実はアドル係長を指名して商業取引を申し込まれる新規の顧客様が激増しておりまして、そのほぼ全員が係長との直接対話を望んでおられます……ですが勿論それは到底不可能ですので、私達は係長にお願いして質疑応答の補足となるビデオメッセージを、数十のパターンで制作致しました……その後暫くはそれで対応していたのですが、最近はそれでも不評を被るようになって参りました……それで新たなパターンでの質疑応答用ビデオメッセージの制作を思い立ちまして今回、この機会を利用させて頂いてお二方にもご協力を頂き、係長とご一緒にビデオメッセージの制作にご協力を頂ければと考え、ここにお願い申し上げる次第なのですが、如何でしょうか? シナリオパターンは既にこちらで用意出来ておりますので……」

「(笑)大丈夫ですよ、アンヴローズ・ターリントンさん。喜んで、協力させて頂きます……」

「……本当にありがとうございます、シエナ・ミュラーさん……それでは係長と一緒に録画スタジオへご案内致しますので、女性陣全員でご一緒に参りましょう……本当に助かります……あと、私の事はアンバーと呼んで下さい……」

「……分かりました……それじゃ、私の事はシエナでね? こっちはハンナで好いから……」

「……分かりました。お気遣いをありがとうございます……それではご案内致しますので、ご一緒にこちらへどうぞ……」

 CM制作企画会議は取り敢えず散会し、その後の段取りもまとまって私は女性陣と一緒に、チーフとアグシン・メーディエフとマネージャーのお二人をその場に残して、宣伝企画会議室から退室した。
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