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地上界にて…

3月3日(火)

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 タイマーは設定していなかったのだが、タンクの中で目覚めてクロノ・リストを観ると、03:43だった。

 ソフト・シュノーケルを口から外し、耳と鼻からもウィスパーを外して、立ち上がりながらハッチを開ける。

 タンクのハッチから降り立って、掛けて置いたタオルで身体を拭う。静かだ。この時間だから、まだ誰も目覚めてはいない。私は静かに、忍び足でバスルームに入った。

 熱いシャワーでエプソム・ソルトを洗い流す。それだけだから、10分で終える。昨日着ていた部屋着をまた身に着けて、静かに自室に入る。

 固定端末を立ち上げて、サイン・バード氏のメッセンジャー・アカウントに向け、その後に状況の変化はありますでしょうか? と、その一文だけを送信した。

 次に『DSC24』会議室にアクセスしてタイムラインを観る。21人の艦長・21人の副長全員から、労いと感謝の言葉が連なる。総合して感謝と労いの返礼を書き綴り、土曜日に向けて充分に心身の疲れを癒して欲しい旨を書き綴って締め括る。

 自室を出てまた忍び足でリビングを通り、キッチンに入る。ソファーで4人、寝袋を使って寝ている。顔は見えない。4人は寝室で寝ているのだろう。

 紅茶を濃い目に淹れて、全員分のミルクティーに仕上げる。ミルクティーを総て保温モードに入らせ、自分のコーヒーを点てた。

 静かにダイニング・テーブルに着き、コーヒーを飲む。微かに寝息が聴こえる……充分にお眠り……思い出した事もあるし思い付いた事もあるが、身じろぎもせずに飲み終える。カップを洗って片付け、静かに歩いて自室に入り、コートを着てベランダに出てから、1本の煙草を咥えて点けた。

 喫い終えるのに6分、そのまま風に吹かれて4分……室内に戻り、自室でコートを脱いでからリビングに入って座った……ソファーに座ったまま背筋を直立させて瞑想に入る……色々と済ませてからの瞑想実践なので、比較的スムーズに身体中央部領域への集中観察態勢に入れた……ソファーで眠っていた誰かが寝袋の中で身体を動かし始めた気配で、集中レベルが浅い領域にまで浮上する……。

 シエナ副長が寝袋から顔を出す2秒前に目を開いた。

「……あ……おはよう……ございます……アドルさん……早いですね……」

「……おはよう、シエナさん。目を閉じているから、出ていいよ……」

「……ありがとうございます……」

 正面を向いたままで目を閉じる。暫く体を動かす音が聴こえていたが、止んで数秒。

「……大丈夫です。アドルさん……」

「……おはよう、シエナ……眠れたかい? 」

「……ええ、ぐっすり……」

「……好かった。ミルクティーが保温モードに入ってるよ……」

「……ありがとうございます。先にシャワーをお借りします……」

「……どうぞ。気を付けてね……」

「……ありがとうございます……」

 シエナはソファーで眠っている他の3人を軽く揺すって起こしてから寝室に入り、10秒で出てバスルームに入った。

 ソファーで眠っていた他の3人は、エマとハルとハンナだった。ほぼ同時に3人とも寝袋から顔を出す。

「……おはようございます、アドルさん……早いですね……」

「……おはよう、エマさん、ハルさん、ハンナさん……眼を閉じているから、出て好いよ……」

「……ありがとうございます……」

「……ミルクティーが保温モードに入っているから、飲んで下さい……」

 これは、眼を閉じてから言った。

 それから50分程度で全員がシャワーを浴びて着替え、リビングにて揃い着き、ミルクティーのカップに口を付けた。

 私は全員が揃うまで、瞑想状態に自分の心身を置いていた。

「……シエナ……同盟への参画を希望して、5人の艦長が通信を寄越して来たね? 昨日はその人達と連絡が執れたのかな? 」

「……はい…アドルさんがマッサージを施術されている合間を観て、手分けして連絡を執りました……簡潔に言いますが、5日木曜日の10:00から2組……6日金曜日の10:00から3組……御社のスカイラウンジにて面談の予定を組みました……スカイラウンジを予約して下さったのはリサさんですし、リサさんを通じて御社の皆さんにも連絡が執られて、業務に関しての調整も行われた、との事です……」

「……了解したよ、ナンバー・ワン……流石は副長に秘書さんだ。任せて置いても完璧に段取ってくれる。頼もしい限りだよ……因みにその5人とも、副長・参謀・保安部長のセットで観えられるのかな? 」

「……はい、勿論です……」

「……了解したよ……」

「……もう少し具体的にお伝えしましょうか? 」

「……頼む……」

「……軽巡宙艦『ヘルヴェティア』のマグナス・ハンセン艦長……同じく『レディ・ブランチャード』のヘラ・ヒルマー艦長…この方は女性です……続いて『ファム・ファタール』のロレイン・グラスコット艦長…この方も女性です……続けて『グスタフ・アルムフェルト』のブライアン・メイナード艦長……最後が、『ソフィア・ルソワ』のメア・ウィニンガム艦長です……この方も女性です……以上、5隻の軽巡宙艦の……5人の艦長です……」

「……了解しました……どうもありがとう……更に詳しい事は、実際に面会してから訊けば好いだろう……完璧な連絡と段取りだね……」

「……いえ、そんな……どう致しまして……」

「……同盟に参画する各艦から、この面談に出席できる人はいるのかな? 」

「……はい……まだ全艦から返信を受け取っていませんので現状で確実な処だけですが……御社内で行われますので、『ロイヤル・ロード・クライトン』のグレイス・カーライル艦長…カーネル・ワイズ・フリードマン副長…カウンセラーのベアトリス・アードランドさんも出席されます……『サライニクス・テスタロッツァ』からはハイラム・サングスター艦長…ローズ・クラーク副長…カウンセラーのマーラ・ウッドリーさんです……『トルード・レオン』からはヤンセン・パネッティーヤ艦長とシャロン・ヒューズ副長……『フェイトン・アリシューザ』からはザンダー・パスクァール艦長とアレクシア・ランドール副長……『サンダー・ハルヴァード』からはエイミー・カールソン艦長とマチアス・グラナック副長……以上が確定しています……」

「……了解したよ…ご苦労様……本当にありがとう……」

「……いいえ、どう致しまして……」

「……女性艦長の軽巡宙艦が3隻か……これからは女性艦長からの申し入れが増えるかな? 」

「……さあ…どうでしょう? 」

「……この5隻の参画が正式に決まれば、27隻だ……合流単位を3隻にして9グループ……そのように変更しよう……各種連絡についての段取りと情報の共有は面談の時に済ませるとして……私と一緒に出席する副長、参謀、カウンセラー、保安部長は初めて会う出席者の人柄、為人を観察して欲しい……好いかな? 」

「……分かりました……お任せ下さい……」

「……話しながら一緒に昼食も摂って、14:00には終わろう……その後は直ぐに持ち込む私物の届け出に行かなきゃならない……」

「……分かりました……そのように進めましょう……」

「……連絡は通話で執ったのかい? 」

「……はい…そうですが……」

「……何か印象に残ったかな? 」

「……そうですね…感情的には5人とも安定していたようでした……困っているような……切羽詰まっているような様子も、観受けられませんでしたが……」

「……そうか……私からサイン・バードさんに、この5隻と5人の艦長については事前調査を依頼しよう……今日中にメッセージで送るよ……」

 そう言い終わると直ぐに立ち上がって固定端末を起動させ、サイン・バードさんのメッセンジャー・アカウントに向けてメッセージを1分で書き上げると、そのまま送信した。

「……今のは、スピードモードですか💦? 」

 と、ミーシャ・ハーレイ……。

「……うんにゃ、半分にもいかないな……3000文字にも満たないようなメッセージなら、こんなもんだよ……」

「……何だかもう、色々と……凄過ぎます……」

 と、リーア・ミスタンテ機関部長……。

「……おいおい、リーアならこのくらい軽いだろ? 引かないでくれよ? 」

「……無理ですよ、アドルさん…そんな速さ……勿論私は、今更引きませんけどね……ただ色々と驚かせられてばかりだから……」

「……俺だって、まだリーアの何%も知らないぜ……でもまあそこは、これから長い付き合いだし…観せてくれると思ってるよ?…」

 そう言うと、左目を閉じてウインクして観せる……リーアは顔を赤くして左手で私の右肩を叩いた。

「……もう! アドルさんったら…そんな事をサラっと言うから……ググって惹かれちゃうんですよ!……」

 そう言って両手で顔を隠すリーアが可愛いと思う。

「……ホントだよねー?……アドルさん…今の台詞もヤバいですよ……2人きりの時に聴かせたら、イカせられるぐらいのレベルです……あんまりプレイボーイ化しないで下さいね、アドルさん? そうでなくても最近は、女性の関係者が増えて来ているんですから……同じ女優ならアタシ達も少しは言えますけど、女性の艦長さんには言えませんから💦……」

「……マレット……君達はこのくらいのセリフなら、言われ慣れているんじゃなかったのか? 」

 これも彼女達には失言だった。我ながら成長が遅いな。

「……アドルさん! シナリオのあるドラマじゃないんです! 貴方に言われるから! ショックと言うか、破壊力が大きいんです! そのくらい全員が貴方にぞっこんなんですよ! それだけで好いですから、解って下さい……」

「……ハンナ、分かった…悪かった……どうもまだ俺は朴念仁の気が強いな……気さくで気軽な軽口で、リラックスして欲しかっただけなんだ……これからはちょっと気を付けるよ……俺が早く起きたから、君達も早く起こしてしまったな……朝飯にはまだ早いし……ちょっとひとっ走りして来るよ……帰ってシャワーでも浴びれば、サッパリするし腹も減るだろう……今日来る4人は、何時頃に着くって? 」

 そう言いながら立ち上がる。

「……10:00迄には着くかと……」

 と、シエナ。

 フィオナも立ち上がる。

「……お供します……」

「……俺のウェアだからフィオンには大きいけど、好いかい? 」

「……大丈夫です…絞り上げて格好良く観せる方法があります……」

「……そう…ちょっと待って……」

 自室に入ってブルーラインのウェアに着替えてから、レッドラインのウェアを手にリビングに戻り、フィオナに手渡す。

 彼女は直ぐに脱衣所にて着替えて来ると、細長い紐を手にして襷掛けに上着を締め上げ、パンツは膝上まで捲り上げた。

「……へえ…上手いもんだね、動きづらくない? 」

「……いえ、大丈夫です。じゃ、行きましょうか? 」

「……分かった。行こう。シエナ……戻って来るまでに固定端末からで好いから、『ディファイアント』の全スタッフと同盟参画艦の艦長・副長宛てに、サイン・バードさんからのデータファイルを総て送信してくれ……これを元に踏まえて、次の2日間での航行予定とフォーメーションを決めるとね……一般クルーには、知らせなくて好いから……」

「……分かりました、お任せ下さい……」

「……頼むよ…じゃ、行こう! 」

 2人で玄関から外に出る。協力し合ってWストレッチで筋肉と各部の腱を伸ばして解してから、100歩程歩き、それからゆっくりと走り始める。

 この辺は歩道が広いから、並んで走る。まだ朝としても早い時間帯だから、通行人や車も少ない。

 10分毎に5%ずつ、スピードを上げていく。流石にフィオナだ……余裕のフィジカルスキル……加速はこの辺でホールド……このままのスピードで走ろう……道なりに3km程走って左折……また道なりに走り、5km程走ってまた左折……考えてみれば、社宅の周辺をここまで出歩いたことは無い……周りにも色々と、小ぢんまりとした店があるものだな……やがてもう一度左折した……このまま3km程走れば社宅に帰着できる……こっちはもう息が上がってきているが、フィオナの様子は最初から変わらない……舌を捲くとはこの事だな……社宅まで200mの所で、私は歩きに戻った……激しく深い息を吐きながら、歩く……フィオナも歩きに戻った……言葉が出ない……幸い身体は何処も痛くない……やはり喫煙の影響からか、心肺機能が低下しているようだ……四十路に入ったら、本当に禁煙しよう……玄関に辿り着いて、立ったまま深呼吸を続ける……フィオナは深呼吸しながら整理運動に入っている……少し落ち着いたので一緒に整理運動を、手伝って貰いながらやった……ハンドタオルで汗を拭いてからドアを開ける。

「…お帰りなさい! お疲れ様でした! 」

「……ああ……ただいま……悪いけど、微温湯をくれないか? 随分と久し振りだったから、結構疲れたよ……」

 そう言いながら上がって上着を脱ぎ、リビングで座る……マレットから微温湯を貰って飲んだ……飲み頃の温度で、軽い塩味が付けてある……流石はマレット……気遣いが嬉しい……まだ時間が早いようで……4人はまだ来ていない……時間を掛けて、飲み終えた。

「……大丈夫ですか? アドルさん……マッサージしましょうか? 」

「……ああ、ありがとう…フィオナ……一緒にシャワーを浴びよう? その後で、朝飯が仕上がる迄、マッサージをゆっくりで頼む……好いかな? 」

「……分かりました。行きましょう……」

 一緒にシャワーを浴びる……ソープは少ししか使わない……出て水気を拭き取り、バスローブを絡っただけで寝室に入る……フィオナの施術は今回50分程だったが、非常に良く解して貰えた……彼女も気を遣ってくれて、施術以外のアプローチは一切ない……それは有り難いと思う……ライトなストレッチを教えて貰い、更に身体が軽くなる……フィオナの知識・スキル・テクニックは私よりも余程豊富で高い……これからは素直に教えを乞うとしよう……また軽くシャワーを浴びて服を着直す……髪も整えて貰ってリビングに戻ると、既に4人が来ていた。

「……おはようございます! アドルさん……お疲れ様でした! 大丈夫ですか? 」

 アリシア・シャニーンが1番に声を掛けてくれながら、水で満たしたグラスを手渡してくれる。

「……ああ…おはよう、アリシア……ありがとう……大丈夫だよ……久し振りに走って、気持ちもスッキリしたよ……」

「……おはようございます! アドルさん……連絡を貰った時には、心配しましたよ💦……でも今顔を観たら、大丈夫そうですね? 立ち直ったみたいで好かったです……」

「……おはよう、エレーナ……皆んなが助けてくれたんでね……ヤバい事にはならずに済んだ……感謝しかないよ……」

「……おはようございます。アドルさん……私も顔を観て安心しました……それに……先に来た皆んなの顔色が、すっごく好く観えるんですけど……何かやりました? 」

「……おはよう、パティ……心配掛けたね……流石は観測室長だな……どんなに小さい変化も、見逃しはしない……掛け替えの無い仲間である君達に……俺として示せる最大の感謝の徴しとして、スペシャル・マッサージを施させて貰ったのさ……勿論、今日来てくれた君達にも……同じマッサージを施術するよ……」

「…! やったあ! ありがとうございます! アドルさん。楽しみにしてたんです! 嬉しいです! あっ、おはようございます! 私も心配していましたよ? 」

「……おはよう、ロリーナ…勿論、君の心配は分かっていたよ……楽しみにしていてくれて、ありがとうな……4人で話して順番を決めてくれ……マレット! …エマルジョン・アルヴェーズド・ペイントの艦体への塗布については、連絡してくれたのかな? 」

「……はい、それもアドルさんが施術されている合間を観て、運営推進本部に申し入れました……」

「……分かったよ、マレット。好くやってくれた……いちいち訊いて悪かった……」

「……そんな……どう致しまして……何でも言って下さい……」

「……それじゃあ、朝飯はそろそろ仕上がるのかな? モーニング・ティーを点てれば、完璧かな? 」

「……総て、仰られる通りです。アドル艦長……最後の仕上げを宜しくお願い致します……」

「……了解だ……」

 そう言って立ち上がり、キッチンに入った。
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