上 下
236 / 294
地上界にて…

来訪者

しおりを挟む
 来客確認用のミニ・モニターを点ける。センターにスコット・グラハム。向かって左にグレイス・カーライル副社長。右にカーネル・ワイズ・フリードマン副社長。後ろ斜め左にリサが立っている……。

(……4人…か…)

 玄関に立ってドアを開ける。

「やあ、いらっしゃい。終業して直ぐに来たんですか? どうしたんです? まあ寒いですから、取り敢えず上がって下さい。今はちょうど、ウチのスタッフが来ていましてね。ちょっと狭苦しいかも知れませんが、どうぞ上がって下さい…」

 そう言いながらスリッパを出して並べ、4人を促す。

 私の後ろにシエナとハルが付いて来ていたので案内は彼女達に任せ、リビングに居たエマ、ミーシャ、エドナ、フィオナ、マレットを手招いてキッチンに入る。

 分けて淹れるのも面倒だから、総て同じシナモン・ミルクティーにする。

 5人に手伝って貰っても、総て仕上げて全員に供するまでには15分程掛かった。

 総て置いて、改めて座る。来客も含めて全員で座れはしたが、かなり狭苦しい。

 一口飲んで息を吐く。

「……お疲れ様でした…終業後にわざわざおいで頂いて、ありがとうございます。グレイスさん、カーネルさん、スコット君、リサさん…それで……どのようなご用向きでしょう? 」

「……お疲れ様でした、先輩……2日間を終えたばかりでお休みの処をすみません……どうしても直接にお会いして、報告と謝罪をしたいと思いまして…お邪魔しました……」

 二口目を飲んで、カップを置いた。

「……座っているのは『ロイヤル・ロード・クライトン』の、メインパイロット・シートだな? 」

「! そうです……」

「……お前が自分から申し入れた? 」

「! はい……」

「……何故……それを決めた? 」

「……先輩と、一緒のフィールドに居たかったのと…先輩を手伝って…助けたかったら…です……」

「……開幕前に俺に言わなかったのと、『クライトン』の司令部とリサにも口止めを掛けたのは、俺の耳に入れば反対してガタガタ言い出すと思ったからだな? 」

「……はい……」

「……お前とだけは、戦いたくなかったのに……」

「……戦いませんよ……」

「…そりゃ俺達が能動的に戦うなんて事は無いだろうさ……だけどな……リサ……明日で好いから、グレイス艦長と常務にサイン・バードさんの事を伝えてくれ……君だけだったな……同僚で、彼の事を知っていたのは……」

「……そうでしたね……分かりました……」

「……グレイス艦長……もうクルー・メンバーは確定しました……一般クルーならともかく、メイン・スタッフは交代させられません……余程の事が無い限りはね……ですが、私が今から言う事は憶えて置いて下さい……スコット・グラハム君には、私よりも高い潜在ポテンシャルでの才能が秘められています……将来的には、私を確実に超える逸材です……今でさえ、彼は私の裏を易々と掻けます……今、この可能性は低いですけれども……『ロイヤル・ロード・クライトン』と『ディファイアント』が、もしも本気で戦ったとしたら……確実に死闘になります……間違い無く血水泥の戦いになるでしょう……確かに私達が私達の意思で、その道を選ぶ可能性は極端に低いでしょうが……外のベクトルからの圧力で、私達にそれが強制される可能性があります……それについては明日、リサさんから聞いて下さい……スコット……お前が昨夜……エドナを迎えに来なかったから、この予感が俺の中に生まれた……俺にはもう、お前とエドナの関係をとやかく言うつもりは無いよ……2人とも大人なんだし……お互いによく考えて、充分に話し合って決めれば好い……俺は只、お前にもエドナにも……幸せになって欲しいだけなんだ……唯…俺に何も言ってくれなかったのは、残念だったな……」

「……すみませんでした……ありがとうございます……」

 その時、スコットの対面斜め右手に座っていたエドナ・ラティスが、ミルクティーを飲み干して、カップを置いてからスッと立ち上がり、廻り込んでスコットの近くまで歩み寄ると左手を取って立ち上がらせる。

「…スコットさん、ちょっと来て下さい…話があります……アドルさん、少しの間、スコットさんをお借りします……」

「……ああ……好いよ……」

 そのままエドナはスコットの左手を引いて、リビングから出て行く。どうやら玄関から外へ出るようだ。

「……グレイス艦長……貴方がたがスコットに付き添って来られたのは……他に何か別のお話が……あったからですか? 」

「……いえ、特にそう言う訳ではありませんでした……ご様子伺い……の意味もありましたが……スコット君を1人でここに来させるのは危ない……と判断した経緯もあります……」

 フリードマン副長がミルクティーを半分まで飲んで応えた。

「……ここに来たい、と言い出したのも…スコットですね? 」

「……はい…そうです……」

 グレイス艦長も二口飲み、カップを置いて応える……。

「……まあ、確かにあいつが1人で来ていたら……今頃2発は殴っていましたね……」

 その時……微かな反響の余韻を曵いて、乾いた音が外から聞こえた……それが……スコットがエドナに平手打ちされた音だと気付くのに、10秒は掛かった……リビングで座る皆は一様に驚いた風情を観せたが、口にしては何も言わなかった……音が聴こえてから30数秒で、2人がリビングに戻って来た……ほお……こりゃ何とも……思いっ切りよく引っ叩いたもんだな……

「……マレット……フリーザーから手頃な保冷剤をふたつ持って来てくれ……早く腫れを退かさないと、恥ずかしくて外にも出られないだろ? 」

 言われてマレットは、黙って立って行く。

「……エドナ……スコット……気が済んだんなら座れ……エドナ……代わりにやらせて悪かったな……ありがとう……ちょっと待っててくれ…飲み物を作るから……」

 そう言って立ち、エマ、ミーシャ、フィオナ、カリーナと一緒にキッチンに入る……入れ違いにマレットが戻って、保冷剤を2人に手渡した。

「……何を作りますか? 」

 と、ミーシャ。

「……ジン・リッキーだ……ライムとライムジュースとソーダ水を頼む……」

 細身のカクテルグラスを人数分出し、小さいカットアイスを2個……タンカレー・ジンを10ml……ライムジュースで半分まで……スライスライムを1枚入れてソーダ水で満たし、軽くステアして出来上がりだ。

 皆に頼んでリビング迄運んで貰い、1人1人の前に供する。私もリビングに戻って座り、グラスを右手で掲げた。

「……それじゃ改めて、無事に2日間を過ごせた事に乾杯! 」

「乾杯! 」

 一口で3分の1を呑み、グラスを置く。

「……とても美味しいです……アドルさん…貴方は何を作っても、お上手なんですね? 」

「……ありがとうございます、グレイスさん……そう言えば、私の淹れるお茶を飲んで頂くのは、初めてなんですね? 」

「……はい…噂には聞いていましたが…想像以上でした……」

「……ありがとうございます……エドナ…スコット……落ち着いたか? 」

「……はい……ありがとうございます……アドルさん……」

「……口の中がちょっと切れちゃったんで…酒が沁みます……」

「……そのくらい我慢しろ、スコット……」

「……はい……すみません……」

「……エドナの平手打ちを……今回は観なかったけど……聴いたのは、5年振りくらいだね……スコットさん……エドナがあの平手打ちをするのはね……その相手に本気だからですよ……エドナは……貴方に本気ですよ、スコットさん……私達は昔からの仲間だから、お互いの事はよく解っています……貴方はサプライズがお好きな性格ですけど……今回はやり過ぎましたね……エドナがどうして貴方を本気で窘めたのか、解りますか? 貴方がアドルさんを落胆させたからですよ……」

「……よく解りました……ありがとうございます、ハンナさん……この事は肝に銘じまして、これからは出過ぎないようにします……」

「……よし…スコット……その一杯を呑んで、腫れが退いたらエドナを送って行け……後はお前達に任せるからな……」

「……はい……分かりました……」

「……グレイス艦長…メインパイロットとしての彼は、どうですか? 」

「……勿論、非常に有能ですよ……」

「……そうですか……スコット…メインパイロットとしての有り様について訊きたい事があったら、エマ・ラトナー女史に質問しろ……きっと良く教えてくれる……」

「……分かりました……」

「……『クライトン』が入港したのは『ディファイアント』よりも後だったんだな? 」

「……はい……15分程遅れました……」

「(笑)それなら、迎えにも来れない訳だな……グレイス艦長、対峙する相手の思惑を読み、その裏を易々と掻くスコット・グラハムは……『ロイヤル・ロード・クライトン』に於ける……強大な力となるでしょう……是非、篤く信頼してやって下さい……」

「……それは勿論です……ですが改めて、ありがとうございます。アドル艦長……」

「……恐れていた……と言う事は……こうなる予感も…最初からあった……と言う事なんですね……今想えば……もう腫れも退いただろ? スコット……エドナを送って帰れ……俺は明日も休むから、あとは頼むな? 」

「……分かりました……お先に失礼致します……今日は突然にお邪魔してお騒がせしまして…大変に申し訳ありませんでした……そして、出過ぎた真似を許して下さり、本当にありがとうございました……」

 立ち上がって深々と頭を下げるスコット・グラハム。

「……おう…グレイス艦長に世話を掛けさせるなよ……それと、エドナを大事にな……もしもエドナがお前の事で泣いたりしたら……覚悟しろ……」

「……充分に胆に銘じて、承知しました……それでは……」

 もう一度頭を下げてスコットは退室して行く。エドナも静かに立ち上がった。

「……アドルさん……皆……グレイス艦長……カーネル副長……リサさん……ありがとう……感謝の気持ちで一杯です……申し訳ありませんが……お先に失礼します……」

「……おう…気を付けてな……スコットに強請って、1番高いものを食って帰れ……」

「……分かりました(笑)……」

 そう応え、エドナも頭を下げて退室した。2人が出て行って30秒……。

「……グレイスさん…カーネルさん…改めて私の社宅においで頂き、ありがとうございました……どうでしょう? 夕食をご一緒に如何ですか? あまり凝ったものは披露出来ないと思いますけれども……」

「……是非、ご一緒させて頂きたいです……」

 そう言いながら観せるグレイス・カーライル副社長の笑顔には、強い親近感を覚えた。

「……お腹が空いていなければ、もう少ししてから準備に掛かりたいと思いますが、宜しいですか? 」

「……はい、それで結構です……」

「……それで、如何でしたか? 艦長…副長としての2日間は? まあ、終わってみれば…あっと言う間だったようにも感じますが……今日は会社でどうでした? 騒がれましたか? 」

「…いや、私達よりアドルさんと『ディファイアント』の話で持ち切りでしたよ。報道もされていましたからね……『クライトン』については……『同盟』の中の1艦…と言う程度での報道しかありませんでしたから……」

 フリードマン副長は、やや悔しそうだ。

「……アドルさんこそ……明後日のお昼休みは、大変な騒ぎになるんじゃないかしら? ファンの皆さんが男女問わずに押し掛けそうですわね……どちらでお昼を頂かれますか? 役員専用のラウンジを利用されては? 」

 微笑みながらグレイス・カーライル副社長は、優しい申し出をしてくれる。

「……いやあ、お誘いは大変に有難いのですが……どうせ見世物になるのなら、思い切り良く見世物になってやろうと決めていますのでね……普通に1階のラウンジで食べますよ……そうだ、料理長から貰っているスペシャル・ランチバスケット・クーポンチケットがありますので、2枚切ってふたつ作って貰います……それで周りに誰か来たら、サンドイッチを1人にひとつ奢ります……せっかくの昼休みですからね……楽しく食べて喋って過ごしますよ……」

「……アドルさん……貴方の素晴らしい一面を、また一つ知りました……リサさんは、もうとっくに知っているんでしょうけれど……」

 グレイス副社長の言葉に、リサは笑顔で頷く。

「…(笑)それ程の事じゃありませんよ……皆、私の事を少々買い被り過ぎています(笑)ごく普通の男ですからね、私は……それはそうと…社長の容体はどうですか? 快復傾向にあるとは聞いていますが……」

「……ご推察の通り、順調に快復されています……『ディファイアント』の大活躍と大戦果には懐く歓ばれていて、それが快復にも拍車を掛けているようです……」

 今度は少し誇らし気に応えるカーネル副長だ。

「……好かったです。退院の日程はまだ? 」

「……ええ、でももう少しですね……」

 と、グレイス艦長……リサの笑顔も明るく観える。

「……それじゃ、そろそろ準備に入りますね? ……お二方とも、今暫くお待ち下さい……」

 そう言いながらマレットが立ち上がり、カリーナとミーシャとフィオナとでキッチンに入る。私も立って告げた。

「……私は食前酒を見繕って来ます。暫くお待ちを……」

 私はボトル・ストッカーを観て30秒考え、プリマス・ドライジンとアンゴスチュラ・ビターズを取り出して小振りのワイングラスを人数分揃えると、それぞれのグラスにジンを3割注ぎ、ビターズを6滴加えて仕上げ、リビングに運び込んでそれぞれの前に供した。

「……まだ夕食を準備していますので、乾杯はもう少し待ちましょう……これは食前酒としてもよく飲まれている、ピンク・ジン又はジン&ビターズとも呼ばれているものです……」

 程なくして今夜のメインディッシュかリビングに運び込まれる。

 昨夜の帰宅途中にマーケットで購入した特大舌平目の切り身を2枚、ムニエルに調理してソテーした鞘インゲンを添えたものだ。

 レモンソース、バルサミコソース、タルタルソース、ベシャメルソース、オーロラソース、醤油風味ソースも用意されている。

 その他には、今日の昼食で残った料理に二つ手間を加えて仕上げた、賄いの一品料理が3点。更にライス、ブレッド、スープ、ミルクに各種ジュースも供せられた。

「……ムニエル以外は、賄い料理になってしまいました。申し訳ありません。お口に合えば幸いです。宜しくお願い致します……」

 そう言ってマレット・フェントンは頭を下げて着座する。他の3人も会釈をして座った。

 「……それでは、期せずして開催致します夕食会ですが、ごく近しい身内での慰労会とさせて頂きます……お互いに2日間の健闘、お疲れ様でした。ご苦労様でした。乾杯! 」

「…乾杯! 」

 私が座ったまま右手でグラスを掲げて乾杯を宣すると、その場の全員が呼応した。

「……美味しいカクテルですわね。レシピを伺っても? 」

「……古くからあるカクテルのひとつで、プリマス・ドライジンにアンゴスチュラ・ビターズを数滴垂らしたものです……ビターズに整腸と消化器系活性作用が認められていますので、食前酒としても嗜まれていますね……さあ、蘊蓄と言うか能書はこれくらいにして頂きましょう? 」

「…頂きま~す! 」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...