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地上界にて…
3月2日〔月〕・5・
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俺は黙って視線を落とし、自分の携帯端末を視界の中に入れていたが、意識してはいなかった。彼女達も黙っていたが、お互いにチラチラと顔を見遣っている。
やがて顔を上げた俺は立ち上がってキッチンに入り、自分のコーヒーと彼女達のミルクティーを点てて、淹れて気持ちを込めて仕上げた。
「……重い話を聞かせて悪かったね…気分を換えていこう……どうぞ、召し上がれ……」
そう言いながら彼女達の前にミルクティーを置いていき、最後に自分のコーヒーを持って、また座る。
「……どうだい? 」
「……これを1日に2杯も頂いたのは初めてです……それだけでも幸せです……すごく…。」
と、エマ・ラトナー。
「……ここで……アドルさんの傍で……これを2杯も頂けて……本当に嬉しいです……私の夢のひとつでした……幸せです……」
と、ミーシャ・ハーレイ。
「……2杯目だから、なのかも知れませんが……これまでに頂いてきた中でも、格段に美味しいですし……深く癒されます……アドルさんの気持ちが……一際強く、込められているように感じます……」
と、ハル・ハートリー。
「……正直に本音で言うと、これを毎朝頂けるようになりたいです……これは私だけじゃなく、10数人はそう思っている筈です……無理ですけどね……でも、苦しいとか悔しいとか切ないとか悲しいとかの感情は、とても小さいです……それよりも、アドルさんと一緒に居られるこのような時間が、とてもとても嬉しいです……」
と、ハンナ・ウェアー。
「……皆…ありがとうな………それじゃ、フィオナ……気分を換える意味でも、もう少し休んだら施術するよ……」
「……分かりました……」
コーヒーを飲み終えると、セルフ・ストレッチを10分程度こなしてから、フィオナと2人で寝室に入った。
フィオナは自分の心身を良くリラックスさせていて、マッサージ施術を受けるフィジカル・コンディションとしては、今居るメンバーの中でも最高レベルのセルフ・コントロール・コンディションだった。
呻き声はあがるが非常に小さいから、私も集中して施術を行える。フィオナからは既に数回マッサージを施術して貰っているので、お礼の意味も込めて55分でマッサージを終えた。
2人でゆっくりとシャワーを浴びる。途中で3回抱き合ってキスもした。
あがると丁寧に水分を拭き取り、下着から身に着けてちょっとお洒落目の部屋着を着込んだ。
そのままコートも着込んでベランダに出る。座って1本に火を点ける。
終業時刻まで、もう1時間もない。終わって直ぐに出て来るとして、ここに着くのは18:30くらいか……あの人が付き添って来るのなら、おそらくもう1人は来るだろう……何にせよ、今日は人が多過ぎる……感情の持って行き場を、どうにかしないとな……ちょっと走りにでも行くか〔苦笑〕
喫い終えて揉み消して、室内に戻る。コートを脱いで掛けると、袖を捲ってキッチンに立つ。
アールグレイにオレンジとレモンのピールを等量加えたレディグレイを2杯。
特別にアッサム種の茶葉で紅茶を点て、乳脂肪分を高くした成分調整牛乳と微量のシナモンも使って、先程と同じ要領で2杯仕上げる。
かなり手間は掛かるが、ロイヤル・ミルクティーを2杯。
ホットミルクチョコレートを2杯。
マンデリンとキリマンジェロでの、スペシャル・ブレンド・コーヒーを3杯。
この10杯を仕上げるのに25分掛かったが、先に仕上がったものは保温モードに入らせていたので、総て熱々のままでテーブルに置けた。
皆に総てを説明して選んで貰う。自分はコーヒーを取る。
シエナもスペシャル・ブレンドコーヒーを取り、ハルも残ったコーヒーを取る。
リーアはホットミルクチョコレートを取り、ハンナも残ったホットミルクチョコレートを取る。
フィオナはレディグレイを取り、マレットも残ったレディグレイを取る。
エドナはロイヤル・ミルクティーを取り、エマも残ったロイヤル・ミルクティーを取る。
ミーシャ・ハーレイとカリーナ・ソリンスキーは、アッサム種の茶葉で点てて仕上げたシナモン・ミルクティーを取った。
リビングのテーブルの隅にハンドタオルが置いてあるのを取り上げて畳んで右のポケットに入れようとしたが、ハンナが私の右手を押さえた。
見遣るとハンナは私の目を観ながら、顔を横に振っている。
「(苦笑)……お見通しだな……」
そう言って、タオルをハンナに渡した。
「……そうですよ。これでも私は『ディファイアント』のカウンセラーですからね(笑)……」
「……ああ……例えどんなに怒っても、君達の目の前でグラハム・スコットを殴る気はもう無いよ……胸倉は掴むかも知れないがね……ただ、この感情の持って行き場をどうしようかと思ってさ……一通り片付いたら、ちょっと走りにでも行くかな? (苦笑)……」
「……その時には、お供します……」
と、フィオナ・コアー。
「……ああ、宜しく頼むよ……それで、どうだい? 滅多に作らないスペシャル・バージョンのアフタヌーン・ティーのお味は? 」
「……もう……言葉なんか出ませんよ……特別過ぎて……蕩けそうです……」
と、マレットがカップを両手で持って溜息を吐く。
「……奥様にもこれらを……作って差し上げているのですか? 」
と、カリーナもうっとりとした表情で一口飲んで訊く。
「……アリソンにも飲ませた事はあるけど……普段作るミルクティーの方が好いってさ……」
「……朝はカフェ・モーニング……お昼はランチ・カフェ……夕方からはレストラン・ダイナーで……新しいお店はフルタイムで大繁盛間違いなしですね……」
と、ミーシャも満足そうな笑顔で言う。
「……君達全員を店で雇うとして、満足な給料を支払えるかどうかが心配だよ……」
「……そんな事、気にしなくても好いですよ……当分は無給だって構いません……時々は女優の仕事だってしますからね……」
と、リーアは至って事も無げだ。
「……何だか俺の人生も、好い形での展望が観えてきたかな?……このゲーム大会の終わり頃には、役員にさせられていると思うけど……辞める時には何があろうと、誰に何をどう言われようとも、全部ぶっち切って辞めてやるさ……」
「……アドルさんは、本当に凄い人ですよね……どんなに感情が昂っている人でも、お茶を一杯淹れて飲ませれば落ち着かせられる……女性だったらそれだけで好きにはならなくても、アドルさんに対して強く興味を引かれる筈です……私には妹がいますが……彼女には飲ませたくないです……」
と、エドナがカップを置いて言う。
「……へえ、そうなんだ……妹さんも芸能人? 」
「……いいえ、まだ大学生です……」
「……アドルさん……スコットさんは、何方と一緒に見えられると思いますか? 」
ナンバー・ワンは、ちょっと心配気だ……。
「……グレイス・カーライル艦長とカーネル・ワイズ・フリードマン副長……そしておそらく……リサも来るだろう……」
「……リサさんまで来たら……」
と、ハル・ハートリー……。
「……ああ……彼女まで来たら……もう俺には何も出来なくなる……まあ、好いさ……走って来るよ……」
「……アドルさん……サイン・バードさんから貰ったファイルを、ここで観ましょう……皆それぞれに確認出来ますが、ここでも観て情報と意見を共有しましょう……」
ありがたくもエマ・ラトナーが建設的な意見を言ってくれたから、気持ちが切り替わった。それにも増して自分でも読んで確認したい……。
固定端末を起動して、リビングの壁掛けモニターとリンクさせる。メールボックスの中にあるバードさんからのファイルを総てモニタートップに移し込み『敵対勢力について』とタイトリングされたファイルを順次に表示するよう段取る。
アクセラレータ・パネルをリビングのテーブルに置き、固定端末と壁掛けモニターともリンクさせて準備は完了だ。
「……よし……じゃあいくよ……先ずはパーティーの最中に、無粋にも割り込んで来た彼だ……軽巡宙艦『マーズテリア』のアーリング・ハーランド艦長……彼は『パーソン・ファイル』の中で、38人の艦長を糾合している……他に『パーソン・ファイル』の中では、『マラク・ターウース』のアジズ・アズナー艦長が32人の艦長をまとめている……」
「……アーリング・ハーランド艦長について言いますが……短気で気に入らない事、思い通りにならない場合、不満な状況・状態では、冷静さを保てずに激昂して、周囲に当たり散らす性格ですね……艦長として、グループリーダーとしても不向きで不適格な性格・性質であると判定出来ます……」
「……うん、流石はカウンセラーだ……俺も全く同意するよ……ひとつの敵性集団に、相対する反対方位から大質量誘導弾を突入させ、その混乱に乗じて我々から集中攻撃を加える……5.6隻を無力化して、10数隻に20%以上の損傷を与えれば集団としては、ほぼ瓦解するだろう……」
「……大質量誘導弾は、本当に有効ですね……」
と、ハル・ハートリー。
「……そう。だから、早期に合流した艦には岩塊の成形作業に掛かって貰う……最低でも7個完成させられれば、敗けはしないだろう……さて、次だ……『インディビジュアル・コネクション』では、『ラキア・ヴィロン』のエムジェイ・アンダーソン艦長が34人……『ハギト・ファレグ』のダナ・ヴァルタン艦長が35人の艦長を集めている……」
「……それぞれの集団を合流させない事が重要ですね? 」
ハル・ハートリーが、私の顔を観て訊く。
「正にその通りだよ、ハル……それが我々の基本戦略になる……その上で、各個に相手をして無力化していく……まあ、合流してしまいそうな状況でも間隙を突いた攻撃とか、欺瞞の通信で陽動撹乱や仲違いでも促せられれば、無力化させるのも然程難しくはないだろう……」
「……分かりました……」
「……もう、個々に艦名や艦長の名前まで挙げなくても良いだろうが、残る3つのSNS……『パーソナル・コネクション』・『インディビジュアル・ファイル』・『プライバシー・ブック』に於いても2人ずつ……我々への敵愾心を煽って自分の廻りに戦力を集めようと、周囲を煽動している艦長が居る……『パーソナル・コネクション』で、36隻と32隻……『インディビジュアル・ファイル』で、39隻と42隻……『プライバシー・ブック』で、38隻と34隻……合計して、360隻だな……こちらの16倍ちょっとか……もう少し居てもおかしくはないが……」
「……16倍以上ですか……集結させる事だけは、避けなければいけませんね? 」
と、フィオナ・コアー。
「……そうだね……が、まあ……総て集結させてしまっても、やり様がない訳じゃない……こうして観ると……それぞれのグループで気炎を揚げているのは、多くても5人……同じグループ内でも、我々に対しての温度差は顕著なようだ……渋々・嫌々ながらに従っている艦長も少なくはないだろう……その辺の感情的な間隙を突くのも、充分に効果的だろうな……まあ何にせよ我々が全艦集結する迄の間に、出来るだけ多くの大質量誘導弾を準備して置く事が大事だ……それが重要なキーのひとつになるだろう……」
「……そうですね……適当な岩塊を大質量誘導弾に仕上げる迄の、成形・工作・改造作業を見直して、もっと効率的に短時間で完成させられる改善作業案を『トゥルーダイス』会議室にアップします……」
「…ああ! ありがとう、リーア・ミスタンテ機関部長。やっぱり君は最高のチーフ・エンジニアだよ! これからも宜しく頼む! 」
「……どう致しまして! こちらこそですよ。アドルさん……❤️」
「……うん……敵性集団は現状で360隻だが、100隻程度を無力化すれば残る内の7割は戦意を失うだろう……その後はどうにでもなるだろうし、どうなったとしても然程の差は無いだろう……」
「……アドルさん……戦いをどのように始めてどのように終わらせても、遺恨は残るでしょう……私達への強い恨みを持たせてしまうと、サイン・バードさんが懸念する事態の発生を促してしまう可能性が高くなります……」
「……ああ、それも君の言う通りだね、カウンセラー……あまり向こう側に被害を与えないように、戦いを収めるよう努めるつもりではいるけど……こればっかりは終わってみないと分らない……戦闘の推移はバードさんも知る処になるだろうから、状況は把握して貰えるだろうし、懸念する兆候が見付かれば、彼から連絡も入るだろう……その後の事は、彼と彼のチームに任せるしかないだろうな……何にせよ、こちらは素人だからね……エドナ……君は銃の所有・所持・携行の許可証は持っているのかい? 」
「……ええ、所持しています。付け加えれば、レナやローナやグラディスも所持しています……」
「……そうか……ちょっと思い付いて、訊いてみただけだよ……へえ……これは面白いな……ジェフリー・ロックウェル艦長とラモン・レブホーン艦長……アンドリュー・ロビアンコ艦長とサミュエル・リーブマン艦長……そしてウィルフレッド・ラッツェンバーガー艦長はいずれも軽巡宙艦の艦長なんだが、5人とも我々を支援する旨を周囲に表明されていて、それぞれ志を同じくする数隻を組織しているそうだ……連絡を寄越してくれれば、何らかの形で協力・協同する事が出来るかも知れないな……」
「……それが実現出来れば、心強い味方になりますね?……」
と、ミーシャ・ハーレイ。
「……ああ、どこまで期待出来るかは、判らないがね……取り敢えず連絡は、心待ちにしていようか? 」
「……こちらから、連絡は執らないのですか? 」
と、リーア・ミスタンテ。
「……ああ、まだ確定していない動きに対して、こちらからアプローチするのはあまり宜しくない……こちらを支援したいと言うのなら、あちら様から言って来るのがスジと言うものだろう? さて……おっ……こりゃすごい……ブラッドフォード・アレンバーグ艦長の『グレタ・ガルボ』……リッチモンド・アンダーウッド艦長の『マレーネ・ディートリッヒ』……カートウッド・スワンバーグ艦長の『マリア・カラス』……この3隻は同じ2日間の中で、6th・ステージをクリアした……『ディファイアント』よりも確実に経験値を積んでいる……この3人は確実に俺よりも優秀だし、現状では出逢いたくない3隻だな……天才と言っても好いくらいのレベルだ……まったく……上には上が居るものだよ……」
「……この3隻も、何隻か連れているのでしょうか? 」
と、シエナ・ミュラー。
「…それに関しては、記載が無いね。どうやら単独艦のようだね……この3人がどんな人柄・為人の艦長なのか、興味がある……ゲームの中で出逢ってお互いに撃ち合うのが先か、平日にどこかで出逢って酒を酌み交わすのが先か、楽しみにして待つとしようか……」
「……艦長だけじゃありません……」
と、シエナ・ミュラー。
「……そう……この3隻でメインスタッフとしてポストに就いているメンバーも、普通の人じゃありません……」
と、マレット・フェントン。
「……普通でも尋常でもない感性・捉え方・認識域・思考スピード……」
と、ハル・ハートリー。
「……並外れた知識量・経験値・テクニックスキル……」
と、エマ・ラトナー。
「……比類の無い先見明察性・洞察力・推理力……」
と、フィオナ・コアー。
「……艦長だけでなく、3隻のメインスタッフ全員にこれらが備わっていなければ、ファースト・チャレンジミッションの6th・ステージまでクリアするなど、とても不可能です……」
と、最後にリーア・ミスタンテが言い切った。
「……確かにそうだな……それとともに……いや、それ以上にメインスタッフ全員が、とても魅力的な人柄・為人なんだろうね……そちらにも強く興味を引かれるよ……」
その時に、インターコールが来客を告げる。壁掛けモニターをOFFにして息を吐く。
「……ふん……事前連絡無しか……」
そう言って立ち上がりながら、上着の裾を引いた。
やがて顔を上げた俺は立ち上がってキッチンに入り、自分のコーヒーと彼女達のミルクティーを点てて、淹れて気持ちを込めて仕上げた。
「……重い話を聞かせて悪かったね…気分を換えていこう……どうぞ、召し上がれ……」
そう言いながら彼女達の前にミルクティーを置いていき、最後に自分のコーヒーを持って、また座る。
「……どうだい? 」
「……これを1日に2杯も頂いたのは初めてです……それだけでも幸せです……すごく…。」
と、エマ・ラトナー。
「……ここで……アドルさんの傍で……これを2杯も頂けて……本当に嬉しいです……私の夢のひとつでした……幸せです……」
と、ミーシャ・ハーレイ。
「……2杯目だから、なのかも知れませんが……これまでに頂いてきた中でも、格段に美味しいですし……深く癒されます……アドルさんの気持ちが……一際強く、込められているように感じます……」
と、ハル・ハートリー。
「……正直に本音で言うと、これを毎朝頂けるようになりたいです……これは私だけじゃなく、10数人はそう思っている筈です……無理ですけどね……でも、苦しいとか悔しいとか切ないとか悲しいとかの感情は、とても小さいです……それよりも、アドルさんと一緒に居られるこのような時間が、とてもとても嬉しいです……」
と、ハンナ・ウェアー。
「……皆…ありがとうな………それじゃ、フィオナ……気分を換える意味でも、もう少し休んだら施術するよ……」
「……分かりました……」
コーヒーを飲み終えると、セルフ・ストレッチを10分程度こなしてから、フィオナと2人で寝室に入った。
フィオナは自分の心身を良くリラックスさせていて、マッサージ施術を受けるフィジカル・コンディションとしては、今居るメンバーの中でも最高レベルのセルフ・コントロール・コンディションだった。
呻き声はあがるが非常に小さいから、私も集中して施術を行える。フィオナからは既に数回マッサージを施術して貰っているので、お礼の意味も込めて55分でマッサージを終えた。
2人でゆっくりとシャワーを浴びる。途中で3回抱き合ってキスもした。
あがると丁寧に水分を拭き取り、下着から身に着けてちょっとお洒落目の部屋着を着込んだ。
そのままコートも着込んでベランダに出る。座って1本に火を点ける。
終業時刻まで、もう1時間もない。終わって直ぐに出て来るとして、ここに着くのは18:30くらいか……あの人が付き添って来るのなら、おそらくもう1人は来るだろう……何にせよ、今日は人が多過ぎる……感情の持って行き場を、どうにかしないとな……ちょっと走りにでも行くか〔苦笑〕
喫い終えて揉み消して、室内に戻る。コートを脱いで掛けると、袖を捲ってキッチンに立つ。
アールグレイにオレンジとレモンのピールを等量加えたレディグレイを2杯。
特別にアッサム種の茶葉で紅茶を点て、乳脂肪分を高くした成分調整牛乳と微量のシナモンも使って、先程と同じ要領で2杯仕上げる。
かなり手間は掛かるが、ロイヤル・ミルクティーを2杯。
ホットミルクチョコレートを2杯。
マンデリンとキリマンジェロでの、スペシャル・ブレンド・コーヒーを3杯。
この10杯を仕上げるのに25分掛かったが、先に仕上がったものは保温モードに入らせていたので、総て熱々のままでテーブルに置けた。
皆に総てを説明して選んで貰う。自分はコーヒーを取る。
シエナもスペシャル・ブレンドコーヒーを取り、ハルも残ったコーヒーを取る。
リーアはホットミルクチョコレートを取り、ハンナも残ったホットミルクチョコレートを取る。
フィオナはレディグレイを取り、マレットも残ったレディグレイを取る。
エドナはロイヤル・ミルクティーを取り、エマも残ったロイヤル・ミルクティーを取る。
ミーシャ・ハーレイとカリーナ・ソリンスキーは、アッサム種の茶葉で点てて仕上げたシナモン・ミルクティーを取った。
リビングのテーブルの隅にハンドタオルが置いてあるのを取り上げて畳んで右のポケットに入れようとしたが、ハンナが私の右手を押さえた。
見遣るとハンナは私の目を観ながら、顔を横に振っている。
「(苦笑)……お見通しだな……」
そう言って、タオルをハンナに渡した。
「……そうですよ。これでも私は『ディファイアント』のカウンセラーですからね(笑)……」
「……ああ……例えどんなに怒っても、君達の目の前でグラハム・スコットを殴る気はもう無いよ……胸倉は掴むかも知れないがね……ただ、この感情の持って行き場をどうしようかと思ってさ……一通り片付いたら、ちょっと走りにでも行くかな? (苦笑)……」
「……その時には、お供します……」
と、フィオナ・コアー。
「……ああ、宜しく頼むよ……それで、どうだい? 滅多に作らないスペシャル・バージョンのアフタヌーン・ティーのお味は? 」
「……もう……言葉なんか出ませんよ……特別過ぎて……蕩けそうです……」
と、マレットがカップを両手で持って溜息を吐く。
「……奥様にもこれらを……作って差し上げているのですか? 」
と、カリーナもうっとりとした表情で一口飲んで訊く。
「……アリソンにも飲ませた事はあるけど……普段作るミルクティーの方が好いってさ……」
「……朝はカフェ・モーニング……お昼はランチ・カフェ……夕方からはレストラン・ダイナーで……新しいお店はフルタイムで大繁盛間違いなしですね……」
と、ミーシャも満足そうな笑顔で言う。
「……君達全員を店で雇うとして、満足な給料を支払えるかどうかが心配だよ……」
「……そんな事、気にしなくても好いですよ……当分は無給だって構いません……時々は女優の仕事だってしますからね……」
と、リーアは至って事も無げだ。
「……何だか俺の人生も、好い形での展望が観えてきたかな?……このゲーム大会の終わり頃には、役員にさせられていると思うけど……辞める時には何があろうと、誰に何をどう言われようとも、全部ぶっち切って辞めてやるさ……」
「……アドルさんは、本当に凄い人ですよね……どんなに感情が昂っている人でも、お茶を一杯淹れて飲ませれば落ち着かせられる……女性だったらそれだけで好きにはならなくても、アドルさんに対して強く興味を引かれる筈です……私には妹がいますが……彼女には飲ませたくないです……」
と、エドナがカップを置いて言う。
「……へえ、そうなんだ……妹さんも芸能人? 」
「……いいえ、まだ大学生です……」
「……アドルさん……スコットさんは、何方と一緒に見えられると思いますか? 」
ナンバー・ワンは、ちょっと心配気だ……。
「……グレイス・カーライル艦長とカーネル・ワイズ・フリードマン副長……そしておそらく……リサも来るだろう……」
「……リサさんまで来たら……」
と、ハル・ハートリー……。
「……ああ……彼女まで来たら……もう俺には何も出来なくなる……まあ、好いさ……走って来るよ……」
「……アドルさん……サイン・バードさんから貰ったファイルを、ここで観ましょう……皆それぞれに確認出来ますが、ここでも観て情報と意見を共有しましょう……」
ありがたくもエマ・ラトナーが建設的な意見を言ってくれたから、気持ちが切り替わった。それにも増して自分でも読んで確認したい……。
固定端末を起動して、リビングの壁掛けモニターとリンクさせる。メールボックスの中にあるバードさんからのファイルを総てモニタートップに移し込み『敵対勢力について』とタイトリングされたファイルを順次に表示するよう段取る。
アクセラレータ・パネルをリビングのテーブルに置き、固定端末と壁掛けモニターともリンクさせて準備は完了だ。
「……よし……じゃあいくよ……先ずはパーティーの最中に、無粋にも割り込んで来た彼だ……軽巡宙艦『マーズテリア』のアーリング・ハーランド艦長……彼は『パーソン・ファイル』の中で、38人の艦長を糾合している……他に『パーソン・ファイル』の中では、『マラク・ターウース』のアジズ・アズナー艦長が32人の艦長をまとめている……」
「……アーリング・ハーランド艦長について言いますが……短気で気に入らない事、思い通りにならない場合、不満な状況・状態では、冷静さを保てずに激昂して、周囲に当たり散らす性格ですね……艦長として、グループリーダーとしても不向きで不適格な性格・性質であると判定出来ます……」
「……うん、流石はカウンセラーだ……俺も全く同意するよ……ひとつの敵性集団に、相対する反対方位から大質量誘導弾を突入させ、その混乱に乗じて我々から集中攻撃を加える……5.6隻を無力化して、10数隻に20%以上の損傷を与えれば集団としては、ほぼ瓦解するだろう……」
「……大質量誘導弾は、本当に有効ですね……」
と、ハル・ハートリー。
「……そう。だから、早期に合流した艦には岩塊の成形作業に掛かって貰う……最低でも7個完成させられれば、敗けはしないだろう……さて、次だ……『インディビジュアル・コネクション』では、『ラキア・ヴィロン』のエムジェイ・アンダーソン艦長が34人……『ハギト・ファレグ』のダナ・ヴァルタン艦長が35人の艦長を集めている……」
「……それぞれの集団を合流させない事が重要ですね? 」
ハル・ハートリーが、私の顔を観て訊く。
「正にその通りだよ、ハル……それが我々の基本戦略になる……その上で、各個に相手をして無力化していく……まあ、合流してしまいそうな状況でも間隙を突いた攻撃とか、欺瞞の通信で陽動撹乱や仲違いでも促せられれば、無力化させるのも然程難しくはないだろう……」
「……分かりました……」
「……もう、個々に艦名や艦長の名前まで挙げなくても良いだろうが、残る3つのSNS……『パーソナル・コネクション』・『インディビジュアル・ファイル』・『プライバシー・ブック』に於いても2人ずつ……我々への敵愾心を煽って自分の廻りに戦力を集めようと、周囲を煽動している艦長が居る……『パーソナル・コネクション』で、36隻と32隻……『インディビジュアル・ファイル』で、39隻と42隻……『プライバシー・ブック』で、38隻と34隻……合計して、360隻だな……こちらの16倍ちょっとか……もう少し居てもおかしくはないが……」
「……16倍以上ですか……集結させる事だけは、避けなければいけませんね? 」
と、フィオナ・コアー。
「……そうだね……が、まあ……総て集結させてしまっても、やり様がない訳じゃない……こうして観ると……それぞれのグループで気炎を揚げているのは、多くても5人……同じグループ内でも、我々に対しての温度差は顕著なようだ……渋々・嫌々ながらに従っている艦長も少なくはないだろう……その辺の感情的な間隙を突くのも、充分に効果的だろうな……まあ何にせよ我々が全艦集結する迄の間に、出来るだけ多くの大質量誘導弾を準備して置く事が大事だ……それが重要なキーのひとつになるだろう……」
「……そうですね……適当な岩塊を大質量誘導弾に仕上げる迄の、成形・工作・改造作業を見直して、もっと効率的に短時間で完成させられる改善作業案を『トゥルーダイス』会議室にアップします……」
「…ああ! ありがとう、リーア・ミスタンテ機関部長。やっぱり君は最高のチーフ・エンジニアだよ! これからも宜しく頼む! 」
「……どう致しまして! こちらこそですよ。アドルさん……❤️」
「……うん……敵性集団は現状で360隻だが、100隻程度を無力化すれば残る内の7割は戦意を失うだろう……その後はどうにでもなるだろうし、どうなったとしても然程の差は無いだろう……」
「……アドルさん……戦いをどのように始めてどのように終わらせても、遺恨は残るでしょう……私達への強い恨みを持たせてしまうと、サイン・バードさんが懸念する事態の発生を促してしまう可能性が高くなります……」
「……ああ、それも君の言う通りだね、カウンセラー……あまり向こう側に被害を与えないように、戦いを収めるよう努めるつもりではいるけど……こればっかりは終わってみないと分らない……戦闘の推移はバードさんも知る処になるだろうから、状況は把握して貰えるだろうし、懸念する兆候が見付かれば、彼から連絡も入るだろう……その後の事は、彼と彼のチームに任せるしかないだろうな……何にせよ、こちらは素人だからね……エドナ……君は銃の所有・所持・携行の許可証は持っているのかい? 」
「……ええ、所持しています。付け加えれば、レナやローナやグラディスも所持しています……」
「……そうか……ちょっと思い付いて、訊いてみただけだよ……へえ……これは面白いな……ジェフリー・ロックウェル艦長とラモン・レブホーン艦長……アンドリュー・ロビアンコ艦長とサミュエル・リーブマン艦長……そしてウィルフレッド・ラッツェンバーガー艦長はいずれも軽巡宙艦の艦長なんだが、5人とも我々を支援する旨を周囲に表明されていて、それぞれ志を同じくする数隻を組織しているそうだ……連絡を寄越してくれれば、何らかの形で協力・協同する事が出来るかも知れないな……」
「……それが実現出来れば、心強い味方になりますね?……」
と、ミーシャ・ハーレイ。
「……ああ、どこまで期待出来るかは、判らないがね……取り敢えず連絡は、心待ちにしていようか? 」
「……こちらから、連絡は執らないのですか? 」
と、リーア・ミスタンテ。
「……ああ、まだ確定していない動きに対して、こちらからアプローチするのはあまり宜しくない……こちらを支援したいと言うのなら、あちら様から言って来るのがスジと言うものだろう? さて……おっ……こりゃすごい……ブラッドフォード・アレンバーグ艦長の『グレタ・ガルボ』……リッチモンド・アンダーウッド艦長の『マレーネ・ディートリッヒ』……カートウッド・スワンバーグ艦長の『マリア・カラス』……この3隻は同じ2日間の中で、6th・ステージをクリアした……『ディファイアント』よりも確実に経験値を積んでいる……この3人は確実に俺よりも優秀だし、現状では出逢いたくない3隻だな……天才と言っても好いくらいのレベルだ……まったく……上には上が居るものだよ……」
「……この3隻も、何隻か連れているのでしょうか? 」
と、シエナ・ミュラー。
「…それに関しては、記載が無いね。どうやら単独艦のようだね……この3人がどんな人柄・為人の艦長なのか、興味がある……ゲームの中で出逢ってお互いに撃ち合うのが先か、平日にどこかで出逢って酒を酌み交わすのが先か、楽しみにして待つとしようか……」
「……艦長だけじゃありません……」
と、シエナ・ミュラー。
「……そう……この3隻でメインスタッフとしてポストに就いているメンバーも、普通の人じゃありません……」
と、マレット・フェントン。
「……普通でも尋常でもない感性・捉え方・認識域・思考スピード……」
と、ハル・ハートリー。
「……並外れた知識量・経験値・テクニックスキル……」
と、エマ・ラトナー。
「……比類の無い先見明察性・洞察力・推理力……」
と、フィオナ・コアー。
「……艦長だけでなく、3隻のメインスタッフ全員にこれらが備わっていなければ、ファースト・チャレンジミッションの6th・ステージまでクリアするなど、とても不可能です……」
と、最後にリーア・ミスタンテが言い切った。
「……確かにそうだな……それとともに……いや、それ以上にメインスタッフ全員が、とても魅力的な人柄・為人なんだろうね……そちらにも強く興味を引かれるよ……」
その時に、インターコールが来客を告げる。壁掛けモニターをOFFにして息を吐く。
「……ふん……事前連絡無しか……」
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