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地上界にて…
3月2日(月)
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目覚めようとする意識と、眠り続けようとする肉体がせめぎ合っているようだった。
認識する意識と肉体のズレが、僅かに拡がったり縮んだりしている。
ズレの拡大はいつしか止まり、僅かずつ縮まっていく。
ズレがほぼ無くなると、安心感からか安定したリラックスが深まり、睡眠レベルが心地よく上がって更に安定した。
アイソレーション・タンクベッド内で目覚めた時の壮快感には及ばないが、スムーズに気持ち良く目覚めた。
ベッド上、右横屈脚位で意識が戻る。
寝袋で寝た筈? いや、急に眠った。
厚手だが軽く大きい毛布が2枚掛けられていて、全く寒くない。
そろそろと起き上がるが、寝室には他に誰もいない。昨夜着替えたトレーナー姿のままだ。
まさか、皆帰ったのか?
そう思いながらベッドから脚を降ろすが、外からは物音や話し声も聴こえる。
良かった。
寝癖が酷い。首を回して肩も回す。
上体を伸ばして腰を捻る。
腕も伸ばして、肩甲骨周りの筋肉も解す。
足首も回して立ち上がり、身体を目覚めさせるストレッチをゆったりと数分。
深呼吸をしてドアを開けると、何かを持って歩いて来たエドナと顔を合わせた。
「あ、おはようございます、アドルさん。よく眠れました? 」
「うん、よく眠れたよ、エドナ。ありがとう。今は何時だい? 」
「…9:20ですね。顔色は好いですよ。寝癖は酷いですけど。シャワーですか? コーヒーですか? それとも? 」
「何だって?! もうそんな時間かい? 大変だ。バードさんにシステムデータを送信して、バードさんから貰ったデータファイルを同盟の艦長達に配信しないと…! 」
そう言いながらそのままの恰好で固定端末席に着こうとしたが、リビングに顔を出したシエナに呼び止められる。
「あっ、アドルさん、それでしたら私がもう全部配信しておきましたから、大丈夫ですよ!? 」
「…もう…終わった…? 」
端末を立ち上げようとした手が止まる。
「…ええ、終わりました。おはようございます、アドルさん。シャワーにしますか? コーヒーにしますか? それとも? 」
「…この端末のロックコードって、教えたっけ? 」
「とっくに教えて貰っていますよ。ここに来たの、もう何回目だと思ってます(笑)? 」
「…それで、返信は? 」
「…バードさんからの返信は、簡単な朝のご挨拶程度のものでした。送ったのは私ですと、名乗りましたので……艦長の皆さんからの返信は、確認できていません…」
「…そう…ありがとう…」
「…おはようございます! アドルさん。さあ! マッサージして差し上げますから、その前にシャワーを浴びましょう! 身体を温めて頂いて、背中を流しますね! その後にフルコースでマッサージを施術しますので、終わってからコーヒーと朝食にしましょう。じゃあ、行きましょう! 」
そう言いながらタオルやオイルや様々な小物を抱えて元気良く現れたフィオナが、バスルームに向かって私を追い立てるように促す。
「…ああ、はいはい……分かったよ。分かったから、その前にこれだけ。シエナ、昨夜の事は、皆に知らせたか? 」
「…はい、客観的事実関係だけでしたが……」
「…誰か、来るって言ったか? 」
「…はい…マレットとカリーナとミーシャは、昼までには来ると……アリシアは明日になると言ってましたが、他のクルーからの返信は、まだありません…」
「…そうか…分かった…ありがとう…じゃあ、フィオン…頼む…」
そう応えて、フィオナと共に脱衣所に入る。ここまでの遣り取りの中で今日一日は、彼女達の言う通りにしようと思った。
もうフィオンには1度観られているから、スムーズに脱げる。だが、明るい所で彼女の裸体を観るのは、刺激が強い。
「前部脱がなくったって良いんじゃないか? 」
「水着があるなら着替えますけど? 下着だって、これしか無いんですから。皆が近くに居るんですからね、アドルさん。反応しないで下さいよ? 」
「…フィオン…起きたばかりでストレスを掛けるなよ(笑)それに、反応するなって言うんだったら、触るなよ(笑)? 」
結局2人とも全裸になって、バスルームに入る。髪を洗って髭を剃る間に、フィオナは丁寧に上半身の前後を洗って流した。
「…睡眠薬の事は、忘れていたよ…」
「…そうでしょうね…期限切れ寸前でしたから…」
「…睡眠薬は、ハンナが回収したのか? 」
「…ええ…」
「…俺の狼狽え様を観て、引いたか? 」
「…いいえ、もっと好きになりました…」
「…そうか…」
俺は自分で腕と下半身を洗い、フィオナも自分で自分を洗いながらの遣り取りだった。
「背中を流そう」
「お願いします」
フィオンの背中を丹念に洗って流し、少し熱めにして一通りに流してから上がった。
水気をよく拭き取り、お互いにバスローブだけを着て出る。リーアがコーヒーを点てて淹れてくれたので、先に頂く事にした。彼女のお手前もなかなか好いし、結構美味い。
「…美味しいよ…洗濯もしてくれたんだね? ありがとう…」
「…結構溜めていましたね。春物も含めて洗濯していますので、今回っているのは3回目です。朝食はもう出来上がって保温モードに入っていますので、乾いた服の補修をしながら収納しています…」
「…本当にありがとう…昨夜は、見苦しい狼狽え様を観せたね。引いただろ? 」
「い~え。どうせフィオナにも訊いたんでしょうけど、益々惚れました。と言うか、あたし達がいないとアドルさんは、駄目ですね」
「そうだ。君達がいないと俺は駄目だ。だからこれからも宜しく頼む…」
「どう致しまして。さ、もう飲んで、行って下さい。フィオナも私達も、お腹が空いてますから(笑)」
「分かった。もうちょっと待ってくれ」
そう言って立ち上がり、フィオナと一緒に寝室に入る。バスローブを脱いで掛け、両手を拡げて俯せに寝た。
フィオナ・コアーのマッサージ施術は素晴らしい。
マッサージ施術に於ける、アプローチベクトル・パターン・プロセスが男女で異なるのは当然且つ自然でもあるのだが、それでも彼女の施術には気付かされる処も学ばされる処も多い。
その都度に質問したり確認したりしながら受けていった。
姿勢を様々に換えさせながら、実に深く安定したリラックス状態に促され、心身共に充分解されて癒されていく。
それでいて俺が眠ってしまわないように適切な間隔・タイミング、適度な強さで痛覚にも刺激を与える。大したものだ。いたく感心させられた。
仰向けにさせられて暫く痛みが来ないなと思っていたら突然、局部から背筋を貫く快感が走る。完全に油断していた。
「! フィオン! 触るなって言っ…ウッ! 」
「声を出さないで! 手は使ってません! 皆近くにいますから、気付かれますよ! (小声)」
慌てて両手で口を塞ぐ。あとはフィオンの為すがままだった。彼女の口に支配されるのは2度目だが、何処でこれ程のテクニックをと訝る間も無く、俺は華々しく散った。
素早くタオルで口を拭った彼女を抱き締めて、深いくちづけを交わす。
5分程ベッドの上で絡れ合っていたが、お互いに腹が鳴ったので笑い合って離れ、立った。
「ローブを着て。下着と部屋着です。もう一度シャワーで、オイルだけ流して出ましょう…」
一緒に寝室からバスルームに移る。ボディソープでお互いを洗い、手速くシャワーでオイルを流し落として出た。
しっかりと水気を拭き取り、部屋着を着込んでリビングに出ると、ダイニング・テーブルには総ての朝食が並んでいた。
「ハイ、アドルさん。おはようございます。朝食にしましょう。皆、お腹が空いています…」
「おはよう、エマ。皆、先週にも増して綺麗だよ。今の環境と境遇が自分でも信じられないよ…」
「あ~ら、お上手ですこと❤️ハイ、どうぞ❤️」
そう言いながらリーアがドリンクヨーグルトのグラスを手渡してくれる。
「ありがとう、リーア。よし、食べよう! 腹ペコだ…」
「アドルさん、随分とスッキリしましたね。嫉妬します❤️マレットが居たら、何か投げ付けられますよ(笑)」
ハンナが流し目で睨み観ながらそう言って、キャロットジュースのグラスをくれる。
「ありがとう、ハンナ。そんなに分かりやすいか?(笑)」
「バレバレですよ、アドルさん…」
と、エドナもすましてそう応える。
「スープとリゾットから始めて、温野菜肉サラダを食べ下さいね? 私のお手製ですよ? ❤️」
「ありがとう、シエナ。頂きます。美味しいよ。お袋の味だなぁ…懐かしくなる…スープストックは、まだあるのか? 」
「まだ充分にありますよ。あれがある限り、私達がどんなに工夫したって、アリソン奥様の掌の上ですね…」
「ウン? このエッグ・ベネディクトは美味いな。ハルが作ったのかい? 」
「! そうですよ。よく分かりますね? 」
「ああ、何となくだな。これも説明は出来ない…本当に美味いよ。また食べたくなる…」
「ありがとうございます❤️」
卵料理はエッグ・ベネディクトも含めれば5種類に亘って揃えられていたが、そのどれもが美味い。
「…シエナ? 」
「ハイ❤️ 」
「…サイン・バードさんから送られた、総てのテキスト・データファイルは、スタッフ全員に配信してくれ。取り敢えず読んで貰って、承知して置いて欲しい…」
「分かりました」
「…ハンナ? 」
「ハイ…」
「回収した薬は廃棄してくれ。俺にはもう必要ない…」
「分かっています」
「頼む…ありがとう……皆とはこの2日間、一緒に居られるのかな? 居られるなら出来れば1人ずつ時間を採って、マッサージをさせて欲しい…まあ、せめてものお礼として受け取って欲しいんだ…今日・明日で都合が悪ければ、次回に廻すよ…」
「…そんな事訊かなくても、皆貴方と一緒に居ますよ…安心して下さい❤️…」
「ありがとう、フィオナ…実は寝室でひとり目覚めた時、皆帰ったのかと不安になったんだ…これでやっと安心出来たよ…」
「…アドルさん…私達は皆、本当に貴方を愛しているんですよ…❤️…」
「それは改めて確認したよ。俺としても、これからずっと一緒に…宜しく頼む…」
それからは皆で配信ニュースを観ながら、食べていった。
同盟についても敵対勢力についても詳細と言う程ではないが、ある程度の尺で紹介されていた。
チャレンジミッションでの成績については、まあ正しく報じられている。蓄積された経験値についても同様だ。
『ディファイアント』よりも優秀な軽巡宙艦はもう少し居ると思っていたが、最初はこんなものなのかも知れない。まあこの先沢山の艦が急速に成長して台頭して来るだろう。
パーティーを含む艦内での様子や私達の言動が紹介されないのは当然として、珍しい戦術でも紹介されないかと思って観ていたが、それも報道はされなかった。番組の配信が始まれば、報道のスタイルが変わる可能性もあるだろう。
食べ終えたので、片付けて洗って拭いて収納する。人数が多いから早く終わる。私も含めて全員で、シナモンとアンゴスチュラ・ビターズをほんの少しだけ使った、ミルクティーを頂く事にする。
丁寧に注意深く、私のレシピ通りに順序通りに点てて、淹れて仕上げる。
ほぼ同時に仕上げて、皆の前にもほぼ同時に置いた。
「…さあ、どうぞ。召し上がれ? 」
「…頂きます…」
「…最高ですね。この一杯が頂けるのなら、何でも出来ますし何でもします❤️」
と、フィオナ・コアー。
「…もう…これしか飲めなくなっていると思います❤️」
と、ハル・ハートリー。
「…アドルさんに抱いて貰った後で、これを頂けたら❤️って思います…」
と、エドナ・ラティス。
「…もう…何を言っても❤️追い付けないです…」
と、シエナ・ミュラー。
「…今直ぐ何もかも辞めて❤️ずっとここに居たいです…」
と、エマ・ラトナー。
「皆、ありがとうな。今のは俺にとっても渾身の出来だった。ちょっと同じ物はそうそう出来ないな。とにかく、喜んで貰えて好かったよ。少し休んでから、マッサージを始めよう。順番を決めておいてくれ。3人が来たら、彼女達も含めてね? 」
「分かりました…」
「……本当なら、ウチに帰るべきなんだろうけどな……でもどうしても、その気持ちにはなれなかったよ……俺もやっぱり、普通の男だ……」
「…それで好いと思いますよ、アドルさん……あたし達だって、今はひとりになれません…なっても直ぐここに来たでしょうね……」
と、ハンナ・ウェアー。
「…明日になれば、何かやるべき事を思い付くかも知れないけど、今は何も浮かばない…君らはどうだ? 」
「…マッサージを受けたいだけです…」
と、エドナ・ラティス。
「…そうか…じゃ、悪いけど最初の人は俺が決めるよ。ハルさんにします。これを飲み終わったらベランダで一服して戻るから、寝室に入って準備しておいて? 好い? 」
「分かりました」
「2人目からの順番は決めておいて? 宜しくね? 」
そう言い終えるとミルクティーを飲み干して立ち上がり、自室でコートを着ると灰皿を持ってベランダに出た。
認識する意識と肉体のズレが、僅かに拡がったり縮んだりしている。
ズレの拡大はいつしか止まり、僅かずつ縮まっていく。
ズレがほぼ無くなると、安心感からか安定したリラックスが深まり、睡眠レベルが心地よく上がって更に安定した。
アイソレーション・タンクベッド内で目覚めた時の壮快感には及ばないが、スムーズに気持ち良く目覚めた。
ベッド上、右横屈脚位で意識が戻る。
寝袋で寝た筈? いや、急に眠った。
厚手だが軽く大きい毛布が2枚掛けられていて、全く寒くない。
そろそろと起き上がるが、寝室には他に誰もいない。昨夜着替えたトレーナー姿のままだ。
まさか、皆帰ったのか?
そう思いながらベッドから脚を降ろすが、外からは物音や話し声も聴こえる。
良かった。
寝癖が酷い。首を回して肩も回す。
上体を伸ばして腰を捻る。
腕も伸ばして、肩甲骨周りの筋肉も解す。
足首も回して立ち上がり、身体を目覚めさせるストレッチをゆったりと数分。
深呼吸をしてドアを開けると、何かを持って歩いて来たエドナと顔を合わせた。
「あ、おはようございます、アドルさん。よく眠れました? 」
「うん、よく眠れたよ、エドナ。ありがとう。今は何時だい? 」
「…9:20ですね。顔色は好いですよ。寝癖は酷いですけど。シャワーですか? コーヒーですか? それとも? 」
「何だって?! もうそんな時間かい? 大変だ。バードさんにシステムデータを送信して、バードさんから貰ったデータファイルを同盟の艦長達に配信しないと…! 」
そう言いながらそのままの恰好で固定端末席に着こうとしたが、リビングに顔を出したシエナに呼び止められる。
「あっ、アドルさん、それでしたら私がもう全部配信しておきましたから、大丈夫ですよ!? 」
「…もう…終わった…? 」
端末を立ち上げようとした手が止まる。
「…ええ、終わりました。おはようございます、アドルさん。シャワーにしますか? コーヒーにしますか? それとも? 」
「…この端末のロックコードって、教えたっけ? 」
「とっくに教えて貰っていますよ。ここに来たの、もう何回目だと思ってます(笑)? 」
「…それで、返信は? 」
「…バードさんからの返信は、簡単な朝のご挨拶程度のものでした。送ったのは私ですと、名乗りましたので……艦長の皆さんからの返信は、確認できていません…」
「…そう…ありがとう…」
「…おはようございます! アドルさん。さあ! マッサージして差し上げますから、その前にシャワーを浴びましょう! 身体を温めて頂いて、背中を流しますね! その後にフルコースでマッサージを施術しますので、終わってからコーヒーと朝食にしましょう。じゃあ、行きましょう! 」
そう言いながらタオルやオイルや様々な小物を抱えて元気良く現れたフィオナが、バスルームに向かって私を追い立てるように促す。
「…ああ、はいはい……分かったよ。分かったから、その前にこれだけ。シエナ、昨夜の事は、皆に知らせたか? 」
「…はい、客観的事実関係だけでしたが……」
「…誰か、来るって言ったか? 」
「…はい…マレットとカリーナとミーシャは、昼までには来ると……アリシアは明日になると言ってましたが、他のクルーからの返信は、まだありません…」
「…そうか…分かった…ありがとう…じゃあ、フィオン…頼む…」
そう応えて、フィオナと共に脱衣所に入る。ここまでの遣り取りの中で今日一日は、彼女達の言う通りにしようと思った。
もうフィオンには1度観られているから、スムーズに脱げる。だが、明るい所で彼女の裸体を観るのは、刺激が強い。
「前部脱がなくったって良いんじゃないか? 」
「水着があるなら着替えますけど? 下着だって、これしか無いんですから。皆が近くに居るんですからね、アドルさん。反応しないで下さいよ? 」
「…フィオン…起きたばかりでストレスを掛けるなよ(笑)それに、反応するなって言うんだったら、触るなよ(笑)? 」
結局2人とも全裸になって、バスルームに入る。髪を洗って髭を剃る間に、フィオナは丁寧に上半身の前後を洗って流した。
「…睡眠薬の事は、忘れていたよ…」
「…そうでしょうね…期限切れ寸前でしたから…」
「…睡眠薬は、ハンナが回収したのか? 」
「…ええ…」
「…俺の狼狽え様を観て、引いたか? 」
「…いいえ、もっと好きになりました…」
「…そうか…」
俺は自分で腕と下半身を洗い、フィオナも自分で自分を洗いながらの遣り取りだった。
「背中を流そう」
「お願いします」
フィオンの背中を丹念に洗って流し、少し熱めにして一通りに流してから上がった。
水気をよく拭き取り、お互いにバスローブだけを着て出る。リーアがコーヒーを点てて淹れてくれたので、先に頂く事にした。彼女のお手前もなかなか好いし、結構美味い。
「…美味しいよ…洗濯もしてくれたんだね? ありがとう…」
「…結構溜めていましたね。春物も含めて洗濯していますので、今回っているのは3回目です。朝食はもう出来上がって保温モードに入っていますので、乾いた服の補修をしながら収納しています…」
「…本当にありがとう…昨夜は、見苦しい狼狽え様を観せたね。引いただろ? 」
「い~え。どうせフィオナにも訊いたんでしょうけど、益々惚れました。と言うか、あたし達がいないとアドルさんは、駄目ですね」
「そうだ。君達がいないと俺は駄目だ。だからこれからも宜しく頼む…」
「どう致しまして。さ、もう飲んで、行って下さい。フィオナも私達も、お腹が空いてますから(笑)」
「分かった。もうちょっと待ってくれ」
そう言って立ち上がり、フィオナと一緒に寝室に入る。バスローブを脱いで掛け、両手を拡げて俯せに寝た。
フィオナ・コアーのマッサージ施術は素晴らしい。
マッサージ施術に於ける、アプローチベクトル・パターン・プロセスが男女で異なるのは当然且つ自然でもあるのだが、それでも彼女の施術には気付かされる処も学ばされる処も多い。
その都度に質問したり確認したりしながら受けていった。
姿勢を様々に換えさせながら、実に深く安定したリラックス状態に促され、心身共に充分解されて癒されていく。
それでいて俺が眠ってしまわないように適切な間隔・タイミング、適度な強さで痛覚にも刺激を与える。大したものだ。いたく感心させられた。
仰向けにさせられて暫く痛みが来ないなと思っていたら突然、局部から背筋を貫く快感が走る。完全に油断していた。
「! フィオン! 触るなって言っ…ウッ! 」
「声を出さないで! 手は使ってません! 皆近くにいますから、気付かれますよ! (小声)」
慌てて両手で口を塞ぐ。あとはフィオンの為すがままだった。彼女の口に支配されるのは2度目だが、何処でこれ程のテクニックをと訝る間も無く、俺は華々しく散った。
素早くタオルで口を拭った彼女を抱き締めて、深いくちづけを交わす。
5分程ベッドの上で絡れ合っていたが、お互いに腹が鳴ったので笑い合って離れ、立った。
「ローブを着て。下着と部屋着です。もう一度シャワーで、オイルだけ流して出ましょう…」
一緒に寝室からバスルームに移る。ボディソープでお互いを洗い、手速くシャワーでオイルを流し落として出た。
しっかりと水気を拭き取り、部屋着を着込んでリビングに出ると、ダイニング・テーブルには総ての朝食が並んでいた。
「ハイ、アドルさん。おはようございます。朝食にしましょう。皆、お腹が空いています…」
「おはよう、エマ。皆、先週にも増して綺麗だよ。今の環境と境遇が自分でも信じられないよ…」
「あ~ら、お上手ですこと❤️ハイ、どうぞ❤️」
そう言いながらリーアがドリンクヨーグルトのグラスを手渡してくれる。
「ありがとう、リーア。よし、食べよう! 腹ペコだ…」
「アドルさん、随分とスッキリしましたね。嫉妬します❤️マレットが居たら、何か投げ付けられますよ(笑)」
ハンナが流し目で睨み観ながらそう言って、キャロットジュースのグラスをくれる。
「ありがとう、ハンナ。そんなに分かりやすいか?(笑)」
「バレバレですよ、アドルさん…」
と、エドナもすましてそう応える。
「スープとリゾットから始めて、温野菜肉サラダを食べ下さいね? 私のお手製ですよ? ❤️」
「ありがとう、シエナ。頂きます。美味しいよ。お袋の味だなぁ…懐かしくなる…スープストックは、まだあるのか? 」
「まだ充分にありますよ。あれがある限り、私達がどんなに工夫したって、アリソン奥様の掌の上ですね…」
「ウン? このエッグ・ベネディクトは美味いな。ハルが作ったのかい? 」
「! そうですよ。よく分かりますね? 」
「ああ、何となくだな。これも説明は出来ない…本当に美味いよ。また食べたくなる…」
「ありがとうございます❤️」
卵料理はエッグ・ベネディクトも含めれば5種類に亘って揃えられていたが、そのどれもが美味い。
「…シエナ? 」
「ハイ❤️ 」
「…サイン・バードさんから送られた、総てのテキスト・データファイルは、スタッフ全員に配信してくれ。取り敢えず読んで貰って、承知して置いて欲しい…」
「分かりました」
「…ハンナ? 」
「ハイ…」
「回収した薬は廃棄してくれ。俺にはもう必要ない…」
「分かっています」
「頼む…ありがとう……皆とはこの2日間、一緒に居られるのかな? 居られるなら出来れば1人ずつ時間を採って、マッサージをさせて欲しい…まあ、せめてものお礼として受け取って欲しいんだ…今日・明日で都合が悪ければ、次回に廻すよ…」
「…そんな事訊かなくても、皆貴方と一緒に居ますよ…安心して下さい❤️…」
「ありがとう、フィオナ…実は寝室でひとり目覚めた時、皆帰ったのかと不安になったんだ…これでやっと安心出来たよ…」
「…アドルさん…私達は皆、本当に貴方を愛しているんですよ…❤️…」
「それは改めて確認したよ。俺としても、これからずっと一緒に…宜しく頼む…」
それからは皆で配信ニュースを観ながら、食べていった。
同盟についても敵対勢力についても詳細と言う程ではないが、ある程度の尺で紹介されていた。
チャレンジミッションでの成績については、まあ正しく報じられている。蓄積された経験値についても同様だ。
『ディファイアント』よりも優秀な軽巡宙艦はもう少し居ると思っていたが、最初はこんなものなのかも知れない。まあこの先沢山の艦が急速に成長して台頭して来るだろう。
パーティーを含む艦内での様子や私達の言動が紹介されないのは当然として、珍しい戦術でも紹介されないかと思って観ていたが、それも報道はされなかった。番組の配信が始まれば、報道のスタイルが変わる可能性もあるだろう。
食べ終えたので、片付けて洗って拭いて収納する。人数が多いから早く終わる。私も含めて全員で、シナモンとアンゴスチュラ・ビターズをほんの少しだけ使った、ミルクティーを頂く事にする。
丁寧に注意深く、私のレシピ通りに順序通りに点てて、淹れて仕上げる。
ほぼ同時に仕上げて、皆の前にもほぼ同時に置いた。
「…さあ、どうぞ。召し上がれ? 」
「…頂きます…」
「…最高ですね。この一杯が頂けるのなら、何でも出来ますし何でもします❤️」
と、フィオナ・コアー。
「…もう…これしか飲めなくなっていると思います❤️」
と、ハル・ハートリー。
「…アドルさんに抱いて貰った後で、これを頂けたら❤️って思います…」
と、エドナ・ラティス。
「…もう…何を言っても❤️追い付けないです…」
と、シエナ・ミュラー。
「…今直ぐ何もかも辞めて❤️ずっとここに居たいです…」
と、エマ・ラトナー。
「皆、ありがとうな。今のは俺にとっても渾身の出来だった。ちょっと同じ物はそうそう出来ないな。とにかく、喜んで貰えて好かったよ。少し休んでから、マッサージを始めよう。順番を決めておいてくれ。3人が来たら、彼女達も含めてね? 」
「分かりました…」
「……本当なら、ウチに帰るべきなんだろうけどな……でもどうしても、その気持ちにはなれなかったよ……俺もやっぱり、普通の男だ……」
「…それで好いと思いますよ、アドルさん……あたし達だって、今はひとりになれません…なっても直ぐここに来たでしょうね……」
と、ハンナ・ウェアー。
「…明日になれば、何かやるべき事を思い付くかも知れないけど、今は何も浮かばない…君らはどうだ? 」
「…マッサージを受けたいだけです…」
と、エドナ・ラティス。
「…そうか…じゃ、悪いけど最初の人は俺が決めるよ。ハルさんにします。これを飲み終わったらベランダで一服して戻るから、寝室に入って準備しておいて? 好い? 」
「分かりました」
「2人目からの順番は決めておいて? 宜しくね? 」
そう言い終えるとミルクティーを飲み干して立ち上がり、自室でコートを着ると灰皿を持ってベランダに出た。
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