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出航

艦長・ハル・ハートリー

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「これより、ハル・ハートリー参謀に本艦の指揮権を1隻撃沈するまで移譲する。それでは、ハル・ハートリー艦長。宜しく頼む」

 艦長控室から出て歩み寄りながら言う。

「分かりました」

 ハル・ハートリーは立ち上がると、スムーズにキャプテン・シートに滑り込む。

 シエナ副長は自分のシートに座り、エレーナ・キーン参謀補佐は参謀の席に座る。私はまた参謀補佐の席に座った。

「これよりハル・ハートリーが暫時、指揮を執ります。エマ、アポジ・モーターだけで左1点回頭180°。回頭終了後、艦尾アポジ・モーターで減速開始。そのまま前進に転換」

「了解! 」

「本艦はこれより『レッド』を攻撃して撃沈します。『レッド』からの漏洩放射線に対して、ホーミング及びインターセプト・モーションをセット。フロント1番2番からデコイを放出後、5秒で起動。艦首軸線に対して左右両舷に30°開き、直線コースで航走開始。続けてフロントから対艦ミサイル20基を放出し、アポジ・モーターで散開。その後20分は、このまま前進…」

 カリーナとアリシアとエマが、それぞれ応答する。

 5分経過。

「ミサイル放出完了、散開中。フロント・ミサイル徹甲弾頭で装填完了! 」

「デコイに対して両艦とも反応無し! 」

「各種兵装の状況を報告! 」

「ハイパー・ヴァリアント、炸裂徹甲弾で連射4連セット! 」

「前部主砲5砲塔、斉射5連セット! 」

「フロント・リア発射菅、全管装填! フロントは徹甲弾頭装備で、5連斉射セット! 」

「両舷長距離ミサイル、発射準備好し! 」

「デコイ2基の起爆用意。左から先に起爆させ、6秒置いて右も起爆。左起爆と同時に、放出ミサイルは全基起動させて『レッド』に集中! また同時にエンジン始動して両舷最大加速全速発進! 5秒後に両舷から長距離ミサイルを2基ずつ発射して『ブルー』に集中! その後ヴァリアント、主砲、フロント・ミサイル発射のタイミングと照準は任せます。『ブルー』や『レッド』からどれ程の反撃を受けようと、損傷率20%に到達する迄は、回避行動を採らずに連続攻撃を『レッド』に集中させます……では、左起爆7秒前…発進用意……4……2……fire!! 」

「左起爆! ミサイル航走開始! 着弾まで20秒! 」

「エンジン始動! 両舷全速発進! 直進衝突コース! 」

「右起爆! 長距離ミサイル全4基発射! 『ブルー』へ! 」

「放出ミサイル着弾まで10秒! フロント・ミサイル初回斉射! 長距離ミサイル着弾まで17秒! 」

「ヴァリアント、主砲、連続同時攻撃開始まで、8秒。照準は『レッド』艦首全面、5……3……用意! FIRE!! 」

「フロント・ミサイル2回目斉射! 」

 第2戦闘距離の165%で、ハイパー・ヴァリアントと主砲前半5砲塔の集中連続斉射が始まる。

 炸裂徹甲弾が2基命中して『レッド』艦首前面の装甲を破壊し、開いた大孔に3基目が突入して艦内を引き裂く。

 フロント・ミサイル3回目斉射。

 前部主砲の5砲塔から10条のビームが、斉射3回で30本突き刺さる。

 直後に『レッド』はシールドアップさせたが、放出ミサイル20基と初回フロント斉射炸裂徹甲弾頭ミサイル8基と、ハイパー・ヴァリアント炸裂徹甲弾4基目と、前部主砲の5砲塔から斉射2連で20条のビームが突き刺さって、『レッド』のシールドを吹き散らかした。

 フロント・ミサイル4回目斉射。

 同時に『ブルー』に対して、長距離ミサイル4本が着弾。

 エドナ・ラティスは、炸裂徹甲弾2基を連射で大孔に撃ち込んだ。

 フロント・ミサイル斉射2回目が、剥き出しの『レッド』に着弾。内の3基が艦内に突入して炸裂。

 フロント・ミサイル最後の斉射。

 レナ・ライスは主砲1番と3番砲塔連射で『レッド』を攻撃すると同時に、2番と4番砲塔でも同じく連射で『ブルー』を攻撃した。

 フロント・ミサイル斉射3回目、炸裂徹甲弾頭ミサイル8基が『レッド』に命中。内の3基が、また艦内に突入して炸裂。

「アリシア! フロント・ミサイル斉射4回目と最終斉射の16基は、『ブルー』に向けて転進! 」

「了解! 」

「以上で攻撃中止! 戦闘終了! 取舵45°! 両舷全速離脱! 12分でエンジン停止! 」

「了解! 」

 エマがそう応えるのと同時に、『レッド』は『ディファイアント』の右舷後方で爆発した。

 『ブルー』はこちらからのミサイル攻撃に対処していて、こちらを追跡出来る状況にはないようだ。

「アドル艦長、1隻撃沈しましたので、指揮権を返還致します。試させて頂きまして、ありがとうございました。如何でしたでしょうか? 」

「ハル・ハートリーさん、満点ですし、完璧です……申し分ありません……どうも…シエナ副長やハル参謀には、簡単過ぎる課題だったかも知れないね……エンジン停止後、また20分の休憩とします。カウンセラーは参謀との面談を副長の控室を使って、簡単に行って下さい。それじゃ、また短いけど自由に過ごして下さい。リーア、エマ、エドナ、アリシア、カリーナ…ごく短時間で、システムにはかなりの負荷が掛かったようだ。エンジン停止する迄の間で好いから、ダブルチェックを頼む。終わったら休憩にしてくれ。以上だ…」

 言い終えると立ち上がって、自分の控室に入る。

 シエナも直ぐに入って来た。

 彼女の腰を引き寄せようとして手を伸ばし掛けるが、撮られているのを思い出してソファーに座る。

 シエナは左隣に座った。

「…あれ程に高い指揮統率スキルが、君達2人に備わっているとは思わなかったよ…」

「フフ(笑)全部、アドルさんからの受け売りですよ(笑)」

「トップ女優ってのは、凄まじい模倣力も持っているんだね(笑)」

「……そうですね…ええ、そう思います…模倣力ですか……好い表現ですね(笑)」

「…基本方針さえ明確であれば、例え私が病気やケガで指揮の執れない状態であっても、君達2人になら充分任せられると確認したよ(笑)」

「…そんな…まだまだですよ…」

「…実際…教えられる事は、もう殆ど無いと思うよ(笑)でもまあ、まだ始まったばかりだし…ここでサボったりしちゃうと、僕の存在が忘れられちゃうかも知れないから(笑)まだまだ頑張るけどね(笑)」

「…アドルさん……」

「…シエナ…『ブルー』を撃沈すれば、フィフス・ステージクリアだ。また賞金に経験値と休み時間が貰える。やろうと思えば、また質量誘導弾を造る事も出来るだろうが、その事も含めてちょっと皆で話し合いをしよう。君もその心積りでいてくれ? 」

「…分かりました……」

 お互いに指一本触れていないが、視線は凄い熱量で目紛しく絡み合わせていた。撮られてないなら、強烈なディープキスを交わしていただろう。

 やがて立ち上がり水を一杯飲み干してから、2人でブリッジに戻った。
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