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出航

初出航2日目・ラストバトル

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 『ディファイアント』がアポジ・モーターだけを使用しての、一点回頭を観せる。180°の回頭を終えて、艦尾姿勢制御スラスターの最小噴射で発進した。

「カリーナ、模擬敵艦5隻の艦体遮蔽状況もこちらと同じだな? 」

「はい、全く同じです」

「5隻の損傷率はどうだ? 」

「総じて20%前後です」

「…結構回復させたんだな…よし、暫くはこのままで相対距離を詰める…」

「了解」

 それから50分を掛けて『ディファイアント』はゆっくりと接近した。

 レスト・ルームには1度入ったが、ドリンク・ディスペンサーの前には立たなかった。

「艦長、間も無く第3戦闘距離です」

「了解。リーア、中継ビーコン8基をダスト・ハッチから放出。アポジ・モーターで散開・併走させてくれ。メインエンジン・サブエンジン共に臨界パワー150%へ。アリシア、フロント・リアの発射管から対艦ミサイル40基を順次に放出。これもアポジ・モーターで散開・併走させてくれ。放出後、フロント・ミサイル徹甲弾頭で全弾装填して『オレンジ』に照準。エマ、アポジ・モーターで針路修正。『オレンジ』に艦首軸線を合致させてくれ。速度このまま。エドナ、ハイパー・ヴァリアント、炸裂徹甲弾最大出力で3連射用意。指示で狙撃だ。レナ、主砲1番~4番『オレンジ』に照準。臨界パワー150%、発射出力130%で斉射5連用意」

 指示を受けた全員がそれぞれ口々に応答して、準備・用意に入る。

「第3戦闘距離を割り込みました」

「中継ビーコン放出完了。散開併走中。エンジン臨界パワー、150%に到達」

「針路修正。艦首軸線、目標に合致」

「ハイパー・ヴァリアント、連射用意好し」

「主砲、斉射用意好し」

「ミサイル40基、放出完了。散開・併走中。フロント・ミサイル装填完了。照準好し」

「…よし…20秒後から、放出ミサイルを1基ずつ10秒間隔で起爆。同時にエンジン始動、全速発進。続けてヴァリアント狙撃。更に続けて主砲・ミサイルでも攻撃開始。8秒前……5秒前……3……爆破!! 」

 最初のミサイルが起爆した。

「始動! オーバーブースト! ハイパーダッシュ! 」

 青白い噴射炎光が爆発的に放射して、『ディファイアント』の艦体を推進方位に弾き跳ばす。

「エドナ! 撃て! 」

「はい! 」

 ハイパー・ヴァリアントの炸裂徹甲弾体3基が『オレンジ』のほぼ同ポイントに着弾。2基が艦内に突入して炸裂し、内部構造を引き裂く。

 2基目のミサイルが起爆。

 「主砲、ミサイル斉射! 」

 8条のビームが『オレンジ』の艦体に突き刺さる。斉射3連目からシールドに阻止される。徹甲弾頭ミサイル8基も斉射されたが阻止された。

「『オレンジ』シールドアップ! ですが、パワーは15%! 」

「他の4隻は? 」

「インターセプト・コースで接近中! 20秒で射程距離です! 」

 3基目のミサイルが起爆。

「攻撃中止! エンジン停止! 右舷スラスターで取舵30°! 姿勢制御して『グリーン』に艦首軸線を合致させよ! 」

「了解! 」

「『オレンジ』の損傷率は? 」

「48%です…」

「もう一息だったな…」

「間も無く『グリーン』に艦首軸線が合致します! 」

 4基目のミサイルが起爆。

「エドナ! 3連射用意! 」

「用意…好し! 」

「ヴァリアント3連射、フロント主砲斉射5連で『グリーン』を攻撃! 同時にフロント・ミサイルは隣向こうの『イエロー』を狙撃! 同時にリア主砲は『オレンジ』に斉射5連、用意! 」

 5基目のミサイルが起爆。

「5…4…3…用意! 狙え! 撃て! 」

 『グリーン』左舷アップサイドの1点に炸裂するヴァリアント徹甲弾3基。

 2基の徹甲弾が艦内に突入して炸裂し、内部構造を引き裂くと同時に8条のフロント主砲ビームが、一射・二射・三射と突き刺さる。四射目からはアップされたシールドに阻止された。

 その間、フロント徹甲弾頭ミサイル8基が『グリーン』の隣向こうからこちらに接近中の『イエロー』に向かって殺到して行き、同時にリア主砲6番~8番から発射された6条のリア主砲ビームが、シールドを解いてこちらを追い掛けて来た『オレンジ』に、1射・2射と突き刺さる。

 3射目からは再びアップされたシールドに阻止されたが『オレンジ』は取舵を切って離脱して行く。

 6基目のミサイルが起爆。

「『オレンジ』損傷率54%! 『グリーン』48%! 『イエロー』29%! 」

「面舵12°! ダウンピッチ7°! 全速前進! 『ブルー』にヴァリアント3連射用意! 」

「了解! 」

 7基目のミサイルが起爆。

「ワン・ステップターン5! 7! 9! 14! 18! 」

 5方位へのワン・ステップターン回避で『レッド』と『ブルー』からのヴァリアントと主砲による攻撃を躱しつつ、ライトサイド・パワースライドを掛けて艦尾を右に滑らせながら、艦首軸線を『ブルー』に合致させる。

「撃て!! 」

 ハイパー・ヴァリアント3連射と主砲4砲塔からの斉射が『ブルー』に叩き付けられるのと同時に『レッド』から漏れる放射線反応にホーミングセットして、フロント徹甲弾頭ミサイル8基を斉射。

それらとほぼ同時に、8基目のミサイルが起爆した。

 『ブルー』艦首左舷に最初の炸裂徹甲弾が大孔を開け、後の2基が跳び込んで炸裂し、艦内部構造を引き裂く。

 艦前部4砲塔からの斉射は、3斉射までが突き刺さったが、4斉射と5斉射はアップされたシールドによって阻止された。

 『レッド』を狙って斉射されたホーミング・ミサイル8基は総て着弾したのだが、『レッド』は直ぐにシールドをアップさせた。

 9基目のミサイルが起爆。

「『ブルー』損傷率48%! 『レッド』29%! 」

「アップピッチ17°! 面舵38°! 両舷全速12秒でエンジン停止! 」

「了解! 」

「停止したら、正面右に観える岩塊の左後背部に照準を採って、右舷艦首のロケット・アンカー2本を撃ち込め! 」

「了解! 」

 10基目のミサイルが起爆。

 エンジン停止した『ディファイアント』は艦首右舷からロケット・アンカーを発射。8秒飛翔して目標岩塊の左後背部に突き刺さる。

 11基目のミサイルが起爆。

 急速にアンカー・ワイヤーを巻き上げ、収納する事で岩塊に左側から接近する。

 12基目のミサイルが起爆。

 パイロット・チームの3人が30本の指を目紛しく走らせて、猛スピードで左スライドする『ディファイアント』の艦体に細かく姿勢制御を加え、艦体とデプリとの衝突を防ぐ。

 13基目のミサイルが起爆。

 岩塊まで距離100mでアンカーを離脱させて収納。横っ跳びでレフトサイド・スライドする中、エンジン始動、両舷全速発進! 

 14基目のミサイルが起爆。

「『オレンジ』はシールドアップのまま離脱中! 他は向かって来ます! 」

「『グリーン』と『ブルー』を狙う! 回避パターンΣ4! Δ7! Γ5! レフトサイド・ダウンハーフ・サイクルターン! 」

 15基目のミサイルが起爆。

「エマ! 艦首姿勢制御をエドナに渡せ! 炸裂徹甲弾3連射で『グリーン』を狙撃! 同時にフロント4砲塔も5連斉射で『グリーン』を撃つ! フロント徹甲弾頭ミサイルは一斉射で『ブルー』を攻撃! 用意! 」

 16基目のミサイルが起爆。

「了解! 」 「用意好し! 」

「撃ってーー!! 」

 『グリーン』の右舷前部を炸裂徹甲弾2基で破壊し、残る1基が艦内に突入して内部構造を引き裂く。直後にフロント主砲からのビームが3斉射まで突き刺さる。フロント・ミサイルも全弾『ブルー』に着弾した。

「『グリーン』『ブルー』シールドアップ! ですが『グリーン』はバブルが安定しません! 」

 17基目のミサイルが起爆。

「回避コマンド・コード3・7・9・12・17・22! ヴァリアント、主砲で『グリーン』に攻撃続行! 」

 6方位へのワン・ステップターンで『イエロー』『レッド』からの攻撃を躱しながら、『グリーン』に対して炸裂徹甲弾と主砲のビームを撃ち込み続ける。

 18基目のミサイルが起爆。

 更に10秒が経過して19基目のミサイルが起爆したのと同時に『グリーン』のシールドは消失。3基のヴァリアントが艦内に突入して炸裂し、主砲の斉射も3回突き刺さった。

「攻撃中止! 取舵40°! 両舷全速! 」

 取舵を切って更に加速。震える『グリーン』の右舷を通過する途中で爆発。

「『オレンジ』にインターセプト! この爆発の余波の間に仕留める! 最大出力噴射! 」

 20基目のミサイルも起爆。

 凄まじい加速で『オレンジ』との距離を詰め、フロント徹甲弾頭ミサイルを『オレンジ』に向けて2斉射。確実に軸線を合わせて炸裂徹甲弾を4連射。フロント4主砲塔からも斉射6連でビームを浴びせ掛ける。

 21基目のミサイルが起爆。

 この攻撃で不安定であった『オレンジ』のシールドは消失。漸く気付いた『レッド』『ブルー』『イエロー』がこちらに艦首を向けて加速を始めた頃には、炸裂徹甲弾3基が左舷から『オレンジ』の艦内に突入して内部構造を引き裂き、主砲の4連斉射も同じく左舷から『オレンジ』を貫いた。

 22基目のミサイルが起爆。

「攻撃中止! ミサイルの起爆も中止! 取舵45°! アップピッチ7°! 無制限最大出力噴射で離脱! 加速続行6分でエンジン停止! 」

 取舵を切って青白い噴射炎を爆発的に拡げながら跳び出す『ディファイアント』の右後方で『オレンジ』は爆発した。

「…ふう……」

 長く大きく息を吐く。座ってはいたが、ずっと半身を前のめりに乗り出していた。脚を伸ばして座り直す。

「やっと2隻か……案外、しぶとかったな……」

「アドル艦長、お疲れ様でした。とても真似など出来ない程の凄い操艦でした。でも大変、勉強になりました…」

「お疲れ様でした、艦長…凄まじく速く激しかったですが、的確な戦い振りでしたね。同じ事は出来そうにもありませんが、私なりに参考とさせて頂きます…」

「ありがとうございました、アドル艦長。物凄いお手本を観せて頂いて、圧倒されました。今も興奮しています。お疲れ様でした」

 3人とも短い感想だったが充分に刺激的で、満足のいく学びでもあったようだ。

「3人ともありがとう。それぞれの個性と考えで、参考にしてくれれば好いよ。真似する必要はない。この場合の真似は、却ってマズい状況を呼び寄せてしまうだろうからね。焦らず、慌てず、気負わずに、自分の直感を信じて指揮すれば好い…」

「分かりました。ありがとうございます」

 キャプテン・シートから立ち上がってドリンク・ディスペンサーに歩み寄り、深煎りコーヒーを出させて戻るが席には座らない。一口だけ飲む。

「コンピューター! 艦内オール・コネクト・コミュニケーション! 」

【コネクト】

「ブリッジより、全乗員に告げる! こちらは艦長だ。これより一時的に『ディファイアント』の指揮権を、シエナ・ミュラー副長、ハル・ハートリー参謀、エレーナ・キーン参謀補佐に順次移譲し、それぞれが1隻ずつ模擬敵艦と戦闘して、これを撃沈するまで指揮を執る! 総員は艦長の指揮に従い、命令・指示を過たず迅速に実行して欲しい! 後3隻撃沈すれば、フィフス・ステージ・クリアであり、この2日間での戦闘航程も、ほぼ終了する。全員の力を、ここに集中して欲しい! アドル・エルクより、以上…」

「それじゃ、ナンバー・ワン。指揮を頼む」

 そう言いながら左手でシエナに、キャプテン・シートを示す。

「了解」

 それだけ応えてシエナは立ち上がり、席を移る。

 空いた副長席にはハルが座り、参謀の席にはエレーナが座る。

 私はコーヒーカップとソーサーを両手で持ちながら、参謀補佐の席に座った。

「6分経過。エンジン停止します」

 と、カリーナ・ソリンスキーが報告した。

 シエナは座り直して脚を組み替え、笑みを浮かべて正面に顔を向けた。
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