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出航

フィフス・ステージ

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 『ディファイアント』は密集岩塊デプリゾーンの近傍で、半ば紛れるように停止した。

 質量誘導弾はほぼ第2戦闘距離程で離れて、完全にデプリと紛れている。

 150秒で『ディファイアント』は5隻の同型模擬敵艦に包囲された。

 『ディファイアント』を中心として、距離はそれぞれ4000~5000m程。

 ブリッジ内で既に3D投影されている周辺チャート上でも、直ちに色分けされて投影される。

 ほぼ同時に『ディファイアント』は舷側スラスター最大出力噴射で、艦底部方位に移動。

 一瞬遅れて5隻から主砲のビームとヴァリアントの弾体が集中したが、既にそのポイントからは移動していたので総て素通りする。

 エンジン始動。アップピッチで全速発進。同時に質量誘導弾も発進。以降、アップダウンで交互に舵を切りながら、左旋回で航行しつつ模擬敵艦を全主砲で攻撃。

 敵艦の主砲塔の動きを目視で把握しながら舵を切らせているので、この距離でも直撃は掠める程度だ。

 対艦ミサイルも撃ち合っているが、お互いに対空ミサイルとレーザー・ヴァルカンで迎撃しているから、先ず直撃は無い。

 だがお陰でセンサー・レンジが撹乱されていて、質量誘導弾の左旋回接近には気付かれない。

 タイミングを測って質量誘導弾を『イエロー』の右舷から突撃させ、同時にこちらからも肉迫して指向し得る全主砲で斉射3連。

 誘導弾を包囲陣の内側に入り込ませるのと同時に、こちらは外側に抜ける。

 同じようにアップダウンで回避しつつ攻撃を掛け、次は『ブルー』の左舷に誘導弾突撃。

 同時に『ブルー』の右舷に主砲斉射3連。

 また交錯させてこちらは内側に戻り、誘導弾は外側に抜けさせる。

 敵艦隊の対応はこちらと誘導弾とで完全に5:5となり、被直撃比率はますます下がって掠りもしなくなる。

 次は『グリーン』の右舷に誘導弾突撃。

 同時に同艦左舷に主砲斉射3連。

 三度交錯させてこちらは外側に抜け、誘導弾は内側に入る。

 それから5秒後に敵は全艦シールドアップして回避行動に入ったが、こちらは最近に位置していた『レッド』の右舷下部に誘導弾を突撃。

 同時にヴァリアント、主砲、ミサイルを15秒に亘って『レッド』に集中して離脱する。

 模擬敵艦5隻はそれぞれに回避・離脱していく。

 こちらが執拗に追い縋って追撃しても効果は薄いし、それなら待ち受けて迎撃した方が効果は高い。

 なので、また停止して様子を観る事にする。

 誘導弾もまたデプリ群に紛れ込ませた。

 度重なる激突戦で幾つかのアポジ・モーターが壊れ、形が少し変わって離心率も幾らか増大したが、操作を工夫してまだ使うことにする。

 こちらの損傷率は5.3%。動かずに自動修復機能に委ねて養生させる事にする。

 模擬敵艦5隻は第3戦闘距離で反転。

 こちらへのインターセプト・コースを採って接近し始める。

 第2戦闘距離に掛かる手前で、各敵艦それぞれに向けて対艦ミサイルを8基ずつ、計40基発射。

 岩塊質量誘導弾も発進。

 同時に全速発進でスーパーダッシュ! 

 『オレンジ』に艦首軸線を合わせ、エドナ・ラティスの腕に頼んでハイパー・ヴァリアント、炸裂徹甲弾4発を撃ち込む。

 シールドアップして離脱する『オレンジ』は放置。

 この時点で模擬敵艦5隻総てにダメージを与えている。

 6方位へのランダム・ワンステップ回避運動を採りつつ、隣にいた『レッド』の右舷前方から誘導弾を突撃させると同時に、こちらは左舷前方からミサイル連続斉射と主砲斉射3連。

 誘導弾を『レッド』の左舷に抜けさせ、こちらは同艦の艦底を擦り抜けて右舷に出ながら、主砲5番から8番で斉射3連とリア・ミサイルも連続斉射で撃ち込む。

 シールドアップして離脱して行く『レッド』は放置。

 取舵20°、ダウンピッチ5°で全速転進。誘導弾も追随させる。

 接近して来る『グリーン』に照準をロックして、主砲カウンター斉射3連にフロント・ミサイル連続カウンター斉射。そのまま艦底を擦り抜けると同時に、誘導弾をカウンターで左舷に突撃させる。

 この激突で岩塊誘導弾の形状が大きく変わり、コントロールが更に難しくなる。

 『オレンジ』『レッド』『グリーン』は、またシールドアップして離脱して行くが、『ブルー』と『イエロー』は左右から、こちらに挟撃を掛けつつ接近して来る。

 こちらの損傷率も9%を超えている。サークリング・サイド・ステップ回避運動を『ディファイアント』に執らせつつ、フロントとリアの対艦ミサイルを全弾、16基で『イエロー』に向けて発射して向かわせる。

 そして交錯する一瞬を逃さずにエドナ・ラティスがハイパー・ヴァリアントで炸裂徹甲弾を『ブルー』に撃ち込み、質量誘導弾を何とか操って『イエロー』左舷のアップサイドに激突させた。

 この突撃で誘導弾は3分の1程が砕け散り、かなり形も大きく変わって姿勢制御がほぼ不能になったので、残念だったがここで放棄とした。

 『ブルー』『イエロー』共にシールドアップして離脱して行く。

 今度は5隻とも、暫く反転して来ないだろう。

 『ディファイアント』はその場に停止させて、フロントとリアからそれぞれ20基ずつ、計40基の対艦ミサイルを放出させて緩やかに散開させる。

 損傷率は12.7%。これ以上に損傷を被るのは、流石にマズい。

 思った通り、岩塊を成型して作った質量誘導弾はかなり有効だ。

 あれなら敵艦がシールドをアップしていて直撃を防いだとしても、加えられる打撃力は艦内のシステムに相当なダメージを与えるだろう。

 上手く使って敵に2正面戦闘を強いれば、シールドをアップさせていなくてもこちらが被るダメージを半分以下にも出来るだろう。これを使わない手は無い。

 ここで待っていれば、あの5隻はいずれ反転して来る。そのようにプログラムされているのだから。

 既にかなりのダメージを与えているから、次の戦闘で3隻は撃沈させよう。

「皆、聞いてくれ! ここで! この場で! 全員が身に付ける! 全員! 心と肌で憶えてくれ! 僚艦を! 仲間を守れる技を! この場で身に付けるぞ! 」

 シエナとハルとリーアとロリーナに割り振って、岩塊を利用した質量誘導弾の造り方と、次に出航して全艦集結する迄に、基点となる艦は出来得る限り質量誘導弾を造る事。これらを会議室に書き込み、秘密回線を通じても圧縮して全艦に配付させた。

 センサー・チームの3人には先ず熱光学センサーでの、オブジェクト・オートフォーカス・エンラージド・プロジェクション・プログラムを私がパワー・モードで書き上げアップデートして提示し、それにより敵艦主砲・副砲の砲身と砲塔とミサイル発射菅の動きと全スラスター・ノズルの動きを瞬時に捉えて、そのままを即時にパイロット・チームに送る事を指示した。

 パワー・センサーに於いても同様のアップデートをパワー・モードで行い、特に敵艦のプラズマ・フェイズ・インジェクターとデュアルトロニック・プラズマ・マニフォルドのパワーレベルにオートフォーカスして、エネルギーの臨界充填5秒前にはパイロット・チームとアタック・チームに通知するように指示した。

 パイロット・チームに於いては、36方位へのワンステップターンとツーステップターンの回避運動を、01~72迄のコマンド・コードで規定した上で、それぞれの操艦手順をオートコントロール・コマンド・プログラムとして書き上げ、そのまま操舵システムのオートコントロール・アレイを上書きアップデートして、それを使うように指示した。

「リーア、メイン・リアクターの中でゲルガニウムとアルザニウムがどのくらい溜まっているか調べてくれ」

「分かりました」

「アリシア、対艦ミサイルを5基、弾頭を徹甲弾に換装して機関室に送ってくれ。アンバー、ナターシャ、ミサイルが送られて来たら、メイン・リアクター内の放射性廃棄物を掻き集めて、ミサイル5基の炸薬に混ぜ込んで整備を頼む。終わったらフロントの1番から5番に装填だ! 」

「了解しました」

「分かりました」

 口頭での指示はそれまでにして、プログラムの入力に戻る。

 敵艦からの攻撃を最小限・最短距離の最適解ステップターンで回避しつつ姿勢制御して、カウンター・ショットを『ディファイアント』の何処の兵装から敵艦の何処に撃ち込めば最も効果的であるか迄をオートで割り出して、即時にターゲット・スキャナーを連動させるプログラムもパワー・モードで書き上げ、そのままオートアタック・プログラムアレイをアップデートさせた。

 だが、トリガーはアタック・チームに任せると伝えた。攻撃の意思は人が示さなければならないと思うからだ。

 これらのプログラムをパワー・モードで書き上げるのに20分。

 総てのオート・コントロール・アレイをアップデートして再起動させた。

 一々私のアクセス承認コードを口頭で言わなきゃならないのが1番の手間だ。

「艦長、放射性廃棄物ですが、ギリギリ廃棄パックひとつ分です」

「それで好い! 5つに分けて、ミサイル5基の炸薬に混ぜ込んでくれ」

「分かりました」

 艦を停止させて各部のオート・システムアレイ・プログラムを書き上げ、アップロードからアップデート、システム再起動までの準備を終えるのに30分。

 対艦ミサイル5基の改造・整備を終えてフロント・ミサイルの発射管に装填するまで更に30分。

 この頃合いで模擬敵艦5隻が、また反転してこちらに接近し始める。

 欲を言えば敵の攻撃を受けて被弾・損傷し、インパルス・フェイズ・パワーラインやプラズマ・フェイズ・マトリックスがダメージを被った場合に備え、パワーラインをオートでバイパスさせるコマンド・コードも書き上げたかったのだが、そこまでの時間は無かった。

 だがまあ、待ち受け体制としてはこれでも充分だろう。これで仕上げよう。

 大きい左旋回での螺旋航行(レフト・メールシュトローム・ライン)を採りながら相対距離を詰めていく。

 向こうからの初撃を躱し、同時に攻撃位置にマウントしてハイパー・ヴァリアントで炸裂徹甲弾を連射で同ポイントに狙撃。

 拓いた破損口に改造徹甲弾頭ミサイルを撃ち込むプログラムをアップロードして指示した。

 エドナ・ラティス、レナ・ライス、アリシア・シャニーン、アレッタ・シュモールの腕なら、第2戦闘距離の70%でも狙撃してくれるだろう。

 例え1発が外れたとしても、悪い結果にはならない。

 放出させていた40基の対艦ミサイルを10秒に1基ずつ起爆させてセンサー・レンジを撹乱させる。

 左舷仰角12°から接近する『イエロー』の艦首軸線を避けつつ砲塔・砲身の動きを観切り、コード17でワンステップターン。

 即時に的確な姿勢制御で『イエロー』左舷ダウンサイドにポイントロック。

 ハイパーヴァリアント炸裂徹甲弾の連射狙撃で拓いた突破口に改造徹甲弾頭ミサイルを撃ち込む。

 艦内での炸裂で放射性廃棄物が拡散された『イエロー』はシールドアップして面舵ダウンピッチで離脱。

 仰角2°で擦り抜けると残る4隻が包囲の輪を狭めて接近する。

 コード07・12・29・32・46の連続ワンステップターンで4隻からの集中砲火を掻い潜りつつ、即時の姿勢制御で『オレンジ』の右舷ダウンサイドにポイントロック。

 ヴァリアントの連射狙撃で拓いた突破口に、また改造徹甲弾頭ミサイルを撃ち込む。

 『オレンジ』もシールドアップして取舵アップピッチで離脱した。

 体当たりして来るかのように肉迫する『グリーン』の艦首に主砲1番から4番で斉射を浴びせ、ダウンピッチ5°で擦り抜けると艦尾後方に抜ける。

 取舵60°で急速回頭しつつコード16・22・28・32で『レッド』と『ブルー』からの砲撃を躱しながら、迫る対艦ミサイルを対空ミサイルとレーザー・ヴァルカンで総て迎撃。

 即時の姿勢制御で『レッド』右舷アップサイドにポイントロックし、ヴァリアント連射狙撃と徹甲弾ミサイルの撃ち込み。

 『レッド』もシールドアップして、面舵アップピッチで離脱。

 『グリーン』と『ブルー』による前後からの集中挟撃を、9パターンでの回避コマンド・コードで実行した連続ワンステップ・ターンでその殆どを回避したが、5回直撃を受けた。

 ダメージはあったが4秒で姿勢制御し、『ブルー』の艦首右舷にポイントロックしてヴァリアント連射狙撃と徹甲弾頭ミサイルを撃ち込む。

 『ブルー』もシールドアップして、取舵40°で離脱。

 残る最後の『グリーン』が後方から追い縋りつつ、ミサイル、ビームでの猛攻を仕掛けて来る。

 それを8方位へのランダム・ワンステップ・ターン回避で躱しつつミサイルは対空迎撃で排除して全速発進。

 30秒突っ走り、プラス8パターンのコマンド・コード・ワンステップ・ターンを追加して回避しながら、速度は落とさず取舵70°で急速ターン。

 これまでに被ったダメージのせいか、ランダム回避パターンに生じるタイム・ラグの隙を突かれ、更に4回の直撃を受けたが構わずに艦首軸線を『グリーン』に向ける。

 距離第1戦闘距離の160%で『グリーン』からの主砲斉射をライトサイド・ダウン・ワンステップターンで躱し、艦首左舷にポイントロック。

 ハイパーヴァリアント炸裂徹甲弾の3連射で大孔を拓き、最後の徹甲弾頭ミサイルを撃ち込んで内部爆発させる。

 そして最後に、放棄していた質量誘導弾のサブ・エンジンを始動して、直線コースで『グリーン』の右舷艦尾に激突させた。

 この攻撃には『グリーン』も堪らずシールドアップして、蹌踉めきながらも取舵を切って離脱して行く。

 現時点で撃沈はさせていないが、戦闘の目的は達した。

 『ディファイアント』も面舵40°、アップピッチ10°で全速発進。取り敢えず離脱する。

「よし! 取り敢えずこれで好い! 全員、ヴァイザーを切って外してくれ。戦闘の目的は充分に達成した。お疲れさん! 一区切りしよう。エマ! コースこのまま。フィフス・スピードまで加速したらエンジン停止。リーア! 停止したら熱光学迷彩level5、アンチ・センサー・ジェルもlevel5で展開だ。カリーナ、本艦の損傷率は? 」

 と、ヴァイザーを切り、外しながら言い、訊く。

「…19.8%ですね…」

「…そうか…案外やられたな。リーア、エマ、航行・操舵に支障・影響はあるか? 」

 「今の処は大丈夫ですが、長時間加速航行を続けると振れてきますね」

「こちらも同様ですね。パワーフローは正常値を保てますが、長時間の加速航行ではサーキュレーションが不安定になるでしょう」

「分かった。暫く時間を置いて、状態を安定させよう。シエナ、ハル、エレーナ、これまでの戦闘記録を圧縮して、同盟参画全艦に秘密回線を通じて配付してくれ」

「分かりました」

「全員配置はそのままで悪いが、力を抜いて休んでくれ。簡単な飲食は許可する。昼食休憩時間まで、どのくらいだ? 」

「…83分ですね…」

「うん、5隻ともケリを付けるには時間的に厳しいな。あんまり早くに片付けちまったら、6th・ステージが始まっちまう。流石にそれは勘弁して欲しいからな。まあ、焦る必要も急ぐ必要も無い。これならどれ程隠れようが、位置情報は筒抜けだ。ゆっくり1隻ずつ沈めて行けば好い。よし、戦闘配置解除。通常直へ。20分交代で半舷休息に入る。航程はさっきの指示通りでオートセット! 」

「了解しました」

 私は立ってコーヒーを出させに行き、戻る。

「副長、先に休んで? 20分で交代しよう。お疲れ様」

 そう言って座る。

「分かりました。では、お先に」

 そう応えてシエナは立ち上がり、私が挙げた左手を軽く握って出て行った。

「フィフス・スピードに到達」

「エンジン停止」

「熱光学迷彩とアンチ・センサー・ジェルを、共にlevel 5 で展開」

「ご苦労様。そのまま現状維持で頼む」

「了解」

 コーヒーを飲み終えてカップとソーサーを返して戻ると、またヴァイザーを起動させて被り、先程にやろうと思い付いたが時間が許さずに出来なかった、インパルス・フェイズ・パワーラインを要所で的確・適切にバイパスさせる、オート・コマンド・バイパス・コードの入力をスピード・モードで始める。

 17分で書き上げて、アップロードしてアップデート。無事に再起動まで終わらせ、ヴァイザーを切り頭から外して左を観るとシエナが既に座り、笑顔で私を観ていた。

「お疲れ様です」

 ヴァイザーをシートの背凭れに掛け、キーボードを収納する。

「ありがとう。好い笑顔だね。癒されるよ」

 そう言いながらシエナの右手を左手で握る。

 キスしたい気持ちも湧いたがそのまま20秒、視線を絡み合わせるだけにした。

「じゃあ、頼む」

「はい」

 立ち上がって退室し、自室に戻る。

 マンデリンとキリマンジェロの豆を7:3 の比率で混ぜ、深く煎って粗熱を取りミルに掻ける。

 ネルドリップでゆっくりと蒸らして点て、2杯淹れる。

 香りを堪能しながら少しずつ飲み、煙草を咥えて点ける。

 13分掛けて2杯のコーヒーを飲み干し、1本の煙草を喫い終える。

 念入りに顔を洗い、髪を整えてブリッジに戻ると、入れ替わりにハルとハンナとエレーナが出て行った。

 その後の40分間、私とシエナは左手と右手を握り合わせながら、時折視線を絡めて微笑み合い、動かずに座り続けた。

 この時の私達の様子を撮影した画像がその後多くの人に引用され、様々なコメントと共にサイバー・スペースの中でシェアされる事で、物議とまではいかずとも多くの話題が提供される事になるのだが、この時の私達には勿論、知る由も無い。

 また例に依って、その時は唐突に訪れる。総ての映像処理が凍り付いて、昼食休憩時間に入った事が告げられる。

「コンピューター! 艦内オール・コマンド・コネクト・コミュニケーション! 」

【コネクト】

「続けてライブラリィ・データベースにアクセス! 」

【アクセス】

「検索。グループ名、『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』…楽曲名、『マイン・キャプテン』」

【コンプリート】

「これを、ヴォリューム7で再生スタンバイ! 」

【スタンバイ】

「続けてコミュニケーション・アレイにアクセス! 」

【アクセス】

「再生スタンバイ中の音声データを、ゲームフィールド・オールスペースにヴォリューム7で、通常平文発信用意! 」

【レーディング】

「ブリッジより全クルーに告げる。こちらは艦長だ。午前中の活動と奮闘に改めて心から感謝する。初出航も後半日だ。しっかりと昼食を摂って休んで英気を養い、後半日のスパートに備えて欲しい。後半日、宜しく頼む…スタート! 」

 『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』による初めての共作・共演で、『マイン・キャプテン』がゲームフィールド・オールスペースに響き渡る。曲調はアップポップで軽快なものだが、具体名は明かさないものの明らかに私に向けた熱い想いを綴っている。事前に試聴していなかったので、これはかなりに気恥ずかしい。

「さあ、昼飯だ。行こう、行こう。腹減ったよ」

 そう言いながら、センサー・チームの3人がタラップを伝って降りるのを手伝う。

「かなり力を使って腹が減ったからね。ちょっとガッツリ食べたいね」

 そう言って皆と一緒に歩き出す。腹も鳴ったので、自然と急ぎ足になる。

 『マイン・キャプテン』は軽快で力強い、熱い想いに溢れた好い歌だ。だが私が個人として感想を述べるのは憚られるだろう。

 そう思いながら歩いていると、エマ・ラトナーが私の左腕に自分の右腕を絡める。

「どうですか、アドルさん? こんなにも熱くご自身が歌い上げられている、と言う事については? 」

「やっぱり、すごく気恥ずかしいよ。この歌が流れている通りを歩くのは、かなりシンドイね。まあ、いつかは胸を張って歩けるように、飯を食って頑張ろう」

 そう応えながら、皆でバー・ラウンジへと向かう。

 両開きの大扉が開くと、『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』の8人が泣きながら跳び付いて来た。どうやら私が来るのを泣きながら待ち構えていたらしい。

 ポロポロと涙を溢しながら顔をくしゃくしゃにしてありがとうございます、ありがとうございましたと繰り返す彼女達を抱き止めて、背中や頭を撫でながら優しい言葉と口調で応えていく。

 そうこうする内にまた私の腹が鳴ったので、彼女達も私を解放した。

「さっ、皆で一緒に食べよ? 」

 シエナが明るく誘い掛け、メイン・スタッフの皆で8人を促して、ラウンジで最大のテーブルに着く。

「シエナ、俺は野菜も食べられるステーキ・パワーランチで頼むよ。細かい内容は任せるけど、パフェとプディング。コーヒーにミルクとオレンジ・ジュースも頼む。後は何でも好いよ…」

 そう言いながら熱いお絞りをふたつ貰ってひとつで丁寧に手を拭き、もうひとつで入念に顔を拭って水を飲む。

【アドル艦長、応答出来ますか? 】

 唐突にメイン・コンピューターが私を呼ぶ。

「好いよ。何だい? 」

「お食事中の処を失礼しますが、『サライニクス・テスタロッツァ』・『サンダー・ハルヴァード』・『カレドン・カサンドラ』・『ヴィンセント・ガラン』・『フェイトン・アリシューザ』・『トルード・レオン』・『アレクサンドラ・フランクランド』からアドル艦長を指名しての、通話要請を受信しています。音声通信のみですが接続して応答なさいますか? 」

(皆、昼飯時に入ったのか…にしても反応が早い…衝撃的な内容だったかな? )

「好いよ。接続してくれ。食べながら話す」

【了解】
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