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出航
休憩時間 大質量誘導弾作成
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2機の工作シャトルは対象岩塊に接近すると、大質量誘導弾の完成予定形状図をリアルタイム映像に重ね合わせて観ながら、レーザー削岩機を起動させて岩塊表面の成形作業に入る。
エマ・ラトナーは偵察シャトルで旋回航行を続けながら、岩塊を紙一重で躱す練習を楽しそうにこなしている。
シャトルデッキではリーア・ミスタンテの指揮の元で、通常シャトルから輸送シャトルへのモジュール換装と同時に、必要な装置・部品・機材等の積み込みが行われている。
「コンピューター! 大質量誘導弾完成迄の時間を推定してくれ」
【大質量誘導弾の完成迄、凡そ90分と推定】
「あまり余裕は無いが、それでも好いし、仕方ない。これが出来ると判っただけでも収穫だった。これからは、色々様々な応用も利かせられるだろう」
「例えば? 」
と、シエナが訊く。
「次の出航で入るゲームフィールドは、今よりも確実にグッと狭まる。これは間違い無い。だから、ある艦を基点として同盟参画全艦を集結させる。全艦が集結する迄の間に、基点となる艦にはこれをやって貰う。大体24時間以内には集結出来るだろうから、それだけあれば3.4個は出来るだろう。出来上がった何個かの大質量誘導弾を戦術に組み込めば、同じように集結して接近して来るであろう敵性集団が例え200隻以上でも、戦い様は幾らでもある」
シエナ副長とハル参謀は2人とも眼を観開いて、驚愕と疑念の入り混じったような表情で私の顔を観ていたが、カウンセラーの表情は変わっていない。エレーナ・キーン参謀補佐は、首を傾げながら理解が追い付いていないような風情だ。
なので、補足として説明を続ける。
「敵性集団は統率の執れた艦隊ではなく、一枚岩でもない。部分的には温度差もある。大半は渋々従っているんだろう。射程距離に掛かる直前で、集中した強襲を仕掛けて5隻程度を撃沈し、動揺して混乱している処に大質量誘導弾を突入させて、更に混乱させて動揺させる。もう射程距離内に入っているから、全艦による集中攻撃で3隻ずつ撃沈していく。1割程度が撃沈されたら、シールドをアップさせて守りに入るだろうし、その前に1割から2割程度は離脱して行くかも知れない。シールドをアップさせても、質量誘導弾による突撃は有効だ。動揺と混乱の極みで、整然とした隊列など執り様もない。こちらとしてはそのまま目標を適当に見繕い、集中攻撃でシールドを突破して撃沈していく。頃合いを見計らって降伏と武装解除を勧告するが、受け容れて貰えないようなら仕方ない」
「…分かり…ました…」
シエナの声は、少し掠れていた。
「こちら偵察シャトル。これより着艦シークエンスに入ります」
「ありがとう。ご苦労様。気を付けて着艦してくれ」
「分かりました♪ありがとうございます」
「アドル艦長、今仰られた作戦は、今日中に発信しますか? 」
ハル・ハートリー参謀が私の顔を観ながら訊く。
「いや、次に出航してゲームフィールドの広さと、同盟に参画する全艦の位置関係を把握してからで好い。微妙に段取りや手順を変える必要が出て来るだろうからね」
「しかしアドル艦長、大質量誘導弾を作って戦術に組み込むこの作戦、リアリティ・ライヴショウでどのように取り上げられて、視聴者がどのように受け取るのかが些か懸念されます」
カウンセラーは少し心配そうだ。
「うん…カウンセラーの懸念は解る。だが気にする必要は無い。戦術についてマニュアルには何の規定も規制も無い。だからルール違反ではない。でもまあ、心無い事を言う人はいるだろうし、言われ様がどうしても気になるようなら、私の指示や要請に従っただけだと言えば好い。すれば批判は私だけに集中する。私は何も気にしないし、反論もしない。面と向かって言われれば、応えはするだろうけどね。一々全部に反論するような時間も余裕も無いから…それに敵性集団が全艦集結すれば、その戦力はこちらの10倍以上だ。手段を選んでもいられない…」
「分かりました」
「それよりも、リアリティ・ライヴショウに関心が行きがちだったけど、通常ニュース配信の中でブリッジとかバーラウンジでの録画映像が使われる可能性は無いんだろうか? ハル参謀はどう思うかな? 」
「私もその点が開幕前に気になりまして、『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』のメイン・サイトから、『リアリティ・ライヴショウの制作と配信について』と言うタイトルでの総ての記事を読みましたが、収録された動画映像は厳重に保管されるので、配信前での動画映像の流出・漏洩は有り得ない、との事ではありました」
「そうですか。まあその点は、信じるしかないだろうね」
そう応えた時に、エマ・ラトナーがブリッジに帰って来た。
「エマ・ラトナー、偵察哨戒から帰還しました」
「おう、ありがとう。ご苦労様。早かったね。じゃあ、砲術長と交代して下さい。エドナ砲術長もご苦労様。交代して下さい」
「ありがとうございます。分かりました」
「了解しました」
「エマさん、シャトルはどうですか? 」
「最高の乗り物ですね。全く申し分の無い機体です。総てのモジュール・キットと一緒に、プライベートで持ちたいぐらいです」
「そう。印は付けたの? 」
「はい、簡単な目印だけ付けさせて貰いました」
「分かった。副長、席に着いているクルーには飲み物を許可すると通達して下さい」
「分かりました」
シエナがそう応えると、ナレン・シャンカー副補給支援部長とヘザー・フィネッセー副生活環境支援部長が立ち上がって、ブリッジの皆から注文を取り付けた上でドリンク・ディスペンサーに向かう。私はコーヒーをブラックで頼んだ。
「こちらシャトルデッキ、リーアです。輸送シャトルの発艦準備が完了しました」
「了解。岩塊の成形作業が終わったら、直ちに発艦して貰いますので、そのままスタンバイ」
「分かりました」
それから10分後。
「こちらソフィーです。聴こえますか? 」
「よく聴こえるよ、どうだい? 」
「はい、現状で形状類似率で97.6%。軸線に対する離心率で、1.86%ですが? 」
「そうか…どうだろう? もうちょっと詰められそうか? 」
「正直に言って、ちょっと厳しいですね」
「そうか。分かった。了解だ。成形作業としてはこれで終了とし、直ちに輸送シャトルを発艦させる。そちらの2機には、推進剤の残量が許す程度で哨戒航行を頼みたいがいけるか? 」
「分かりました。半径第3戦闘距離で、点対称旋回航行に入ります」
「宜しく頼む。推進剤が残り10%を切ったら、着艦してくれ」
「了解」
「アドルより以上。ブリッジよりシャトルデッキ、リーア機関部長、聴こえるか? 」
「はい、よく聴こえます」
「岩塊の成形作業は終了した。輸送シャトルは全機、直ちに発艦してくれ」
「了解しました。直ちに発艦して取り付け作業に入ります」
「君は残ってくれよ? 」
「分かっています」
「宜しく頼む。気を付けて出てくれ。アドルより以上」
「両舷シャトルデッキ解放。輸送シャトル6機、3機ずつ順次に発艦します」
「思っていたよりも早いな。これならランデブー航行テストも出来るかな? 」
「そうですね。おそらく出来るでしょう」
「うん、ああ、ありがとう」
そう応えて、コーヒーを受け取る。
輸送シャトル6機は『ディファイアント』両舷から3機ずつが順次に発艦した。ゆっくりと岩塊に接近して取り着き、必要な装備・装置の取り付け作業に入る。カーゴ・ペイロードが開かれ、取り付け作業人員が船外スーツを着てそれぞれ工具を手にして、岩塊に取り着いていく。船内に残るスタッフは作業アームを操作して様々な装備・装置・機材を船内から吊り出して運び出し、岩塊の付近にまで押し出す。
岩塊に取り着いている作業人員がそれらを受け取り、岩塊の内外に設置して取り付けていく。初めての作業だが、手際が良くて早い。流石は機関部長。リーア・ミスタンテ女史を機関部長として招いたのは、間違い無かった。大正解だ。
「ナンバー・ワン、流石にミスタンテ女史は凄い。改めて凄いと思った。初めてやる作業なのに。船外活動も初めてなのに、これ程スムーズに行えるとは。それを支えて保証する段取りと手順も素晴らしい。トップ女優の中でも唯一、修理出来ない機械は無い。材料・部品・工具があれば、造れない物も無い。自分もエンジニアの端くれだと自惚れちゃいたが、全く及ばないね。彼女の方が3枚は上手だよ。全く以って脱帽だし、素晴らしいの一言だ。彼女を機関部長として招く事が出来た私は、本当に幸運だ」
「ありがとうございます。伝えてあげれば、泣いて喜びますよ」
「ああ、入港したら本当に労って頭を下げるよ」
嘆息して、コーヒーを飲み干す。
それから30分後。
「こちらシャトル・デッキ、リーアです。聴こえますか? 」
「良好だ。状況を頼む」
「予定していた作業は終了しました」
「そうか、早いな。ご苦労様。よくやってくれた。そちらからリモートでスイッチング出来るか? 」
「はい、出来ます」
「よし、人員と機材をシャトルに撤収したら、岩塊から距離を取ってくれ。始動試験を行う。距離が取れたら連絡してくれ」
「分かりました」
「頼む。アンバー、カレン。制御・誘導アプリのダウンロードは? 」
「終わっています」
「完了しています」
「よし、開いていてくれ。制御・誘導試験も行う」
「了解」
それから7分後。
「ブリッジへ、リーアです。退避完了しました」
「よし。じゃ、始動テストに掛かってくれ」
「了解。補助パワー起動。システム通電」
「アンバー、カレン。リーアの制御・誘導システムを、そちらのアプリともリンクしてくれ」
「了解。リンク完了しました」
「エマ、エンジン始動。係留・碇泊解除。アンカー収納。発進用意」
「了解、アンカー離脱して収納します。サブ・エンジン始動。メイン・エンジンも、始動しました。インパルス・パワー、フロー、サーキュレーション共に良好。噴射スタンバイ…」
「質量誘導弾、補助エンジン始動。インパルス・パワー、フロー正常、サーキュレーション共に良好。臨界パワー、15%から順調に上昇中」
「よし、リーア。この時点から制御と誘導をアンバーとカレンに渡してくれ。そして、輸送シャトル全機は着艦させてくれ」
「了解。ユア・アンダー・マイ・コントロール。こちらの制御アレイはロックしましたので、どうぞ…」
「了解、アンバー・リアムです。受け取りました。補助エンジン噴射開始。大質量誘導弾、発進します」
「よし、カレン。こちらも発進する。誘導弾を本艦の右舷並び、距離300mでランデブーさせてくれ」
「了解。ランデブー・コースに入る為の、インターセプト・コースを採ります」
「よし、エマ、輸送シャトルと工作シャトルが全機着艦してから発進だ。コースは任せる。速度は0.8。時折適当に変針してくれ」
「了解。両舷シャトルデッキ解放。シャトル全機の着艦を待って発進します。臨界パワー60%。噴射出力30%で発進して、30秒毎に変針します」
それから20分で、輸送シャトル6機と工作シャトル2機は、順次安全に着艦した。
「シャトル全機、着艦完了。シャトルデッキ、エアロック・ハッチ閉鎖します」
「よし! カリーナ、残り時間は? 」
「フィフス・ステージ開始まで、残り15分です」
「分かった。エマ、発進してくれ。悪いがランデブーは10分だけだ。カレン、残り時間が5分になったら、誘導弾は右に転進。デプリ群に紛れ込ませて停止させてくれ」
「了解。0.8で発進」
「分かりました」
艦尾のメイン・スラスターとサブ・スラスターから、青白い噴射炎を小規模に曳いて『ディファイアント』が前進を始める。
それから3分で岩塊誘導弾はカレン・ウェスコットにコントロールされ、『ディファイアント』の右舷300mに着いてランデブーに入った。
エマ・ラトナーは30秒毎に左右で20°ずつ舵を切って航行を続けたが、岩塊誘導弾はピタリと付いて併走を続けた。
そして7分後。
「艦長、フィフス・ステージ開始まで、後5分です」
その報告とほぼ同時に、サブ・パイロットの2人と、機関部長と副機関部長、保安部長と副保安部長がブリッジに帰って来て席に着いた。
「分かった。エマ、エンジン停止。逆噴射して停止してくれ。カレン、誘導弾面舵15°。デプリ群に紛れ込ませて停止させてくれ。全乗員の働きには改めて感謝する。本当にありがとう。ご苦労様でした。それではこれより、改めて指示する。ブリッジ・スタッフは全員、オーヴァー・ヘッド・ヴァイザーを起動して装着し、総てのシステムとのリアルタイムでのリンクを構築してくれ。間も無く始まるフィフス・ステージで出現する5隻の模擬敵艦に対して、私はテキストと音声とシステム上での指示を、スピードモードで君達に伝える。応答や復唱は必要無い。指示を受け取ったら即時に実行してくれ。岩塊誘導弾とこの指示システムで、フィフス・ステージを切り抜ける。質問はあるかな? 」
「スピード・モードですよね? 」
と、シエナがヴァイザーを手にして訊いた。確認したいのだろう。
「ああ、パワー・モードには入らなくても大丈夫だと思うよ。スピード・モードで…入っても3割り増しまでだろうな…」
「分かりました」
「よし! じゃあ装着してくれ。直ぐに始めるよ」
そう言うと起動させたヴァイザーを頭に装着して、タッチパネルの下からキーボードを引き出す。
ブリッジ・スタッフ全員との間で、コマンド・ウィンドウを開いて書き込みを始める。キーボードと音声入力とペルスペクティブ・フォーカスコントロールで、4:4:2の割合で入力しながら指示を出していく。
フィフス・ステージが、開始された。
エマ・ラトナーは偵察シャトルで旋回航行を続けながら、岩塊を紙一重で躱す練習を楽しそうにこなしている。
シャトルデッキではリーア・ミスタンテの指揮の元で、通常シャトルから輸送シャトルへのモジュール換装と同時に、必要な装置・部品・機材等の積み込みが行われている。
「コンピューター! 大質量誘導弾完成迄の時間を推定してくれ」
【大質量誘導弾の完成迄、凡そ90分と推定】
「あまり余裕は無いが、それでも好いし、仕方ない。これが出来ると判っただけでも収穫だった。これからは、色々様々な応用も利かせられるだろう」
「例えば? 」
と、シエナが訊く。
「次の出航で入るゲームフィールドは、今よりも確実にグッと狭まる。これは間違い無い。だから、ある艦を基点として同盟参画全艦を集結させる。全艦が集結する迄の間に、基点となる艦にはこれをやって貰う。大体24時間以内には集結出来るだろうから、それだけあれば3.4個は出来るだろう。出来上がった何個かの大質量誘導弾を戦術に組み込めば、同じように集結して接近して来るであろう敵性集団が例え200隻以上でも、戦い様は幾らでもある」
シエナ副長とハル参謀は2人とも眼を観開いて、驚愕と疑念の入り混じったような表情で私の顔を観ていたが、カウンセラーの表情は変わっていない。エレーナ・キーン参謀補佐は、首を傾げながら理解が追い付いていないような風情だ。
なので、補足として説明を続ける。
「敵性集団は統率の執れた艦隊ではなく、一枚岩でもない。部分的には温度差もある。大半は渋々従っているんだろう。射程距離に掛かる直前で、集中した強襲を仕掛けて5隻程度を撃沈し、動揺して混乱している処に大質量誘導弾を突入させて、更に混乱させて動揺させる。もう射程距離内に入っているから、全艦による集中攻撃で3隻ずつ撃沈していく。1割程度が撃沈されたら、シールドをアップさせて守りに入るだろうし、その前に1割から2割程度は離脱して行くかも知れない。シールドをアップさせても、質量誘導弾による突撃は有効だ。動揺と混乱の極みで、整然とした隊列など執り様もない。こちらとしてはそのまま目標を適当に見繕い、集中攻撃でシールドを突破して撃沈していく。頃合いを見計らって降伏と武装解除を勧告するが、受け容れて貰えないようなら仕方ない」
「…分かり…ました…」
シエナの声は、少し掠れていた。
「こちら偵察シャトル。これより着艦シークエンスに入ります」
「ありがとう。ご苦労様。気を付けて着艦してくれ」
「分かりました♪ありがとうございます」
「アドル艦長、今仰られた作戦は、今日中に発信しますか? 」
ハル・ハートリー参謀が私の顔を観ながら訊く。
「いや、次に出航してゲームフィールドの広さと、同盟に参画する全艦の位置関係を把握してからで好い。微妙に段取りや手順を変える必要が出て来るだろうからね」
「しかしアドル艦長、大質量誘導弾を作って戦術に組み込むこの作戦、リアリティ・ライヴショウでどのように取り上げられて、視聴者がどのように受け取るのかが些か懸念されます」
カウンセラーは少し心配そうだ。
「うん…カウンセラーの懸念は解る。だが気にする必要は無い。戦術についてマニュアルには何の規定も規制も無い。だからルール違反ではない。でもまあ、心無い事を言う人はいるだろうし、言われ様がどうしても気になるようなら、私の指示や要請に従っただけだと言えば好い。すれば批判は私だけに集中する。私は何も気にしないし、反論もしない。面と向かって言われれば、応えはするだろうけどね。一々全部に反論するような時間も余裕も無いから…それに敵性集団が全艦集結すれば、その戦力はこちらの10倍以上だ。手段を選んでもいられない…」
「分かりました」
「それよりも、リアリティ・ライヴショウに関心が行きがちだったけど、通常ニュース配信の中でブリッジとかバーラウンジでの録画映像が使われる可能性は無いんだろうか? ハル参謀はどう思うかな? 」
「私もその点が開幕前に気になりまして、『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』のメイン・サイトから、『リアリティ・ライヴショウの制作と配信について』と言うタイトルでの総ての記事を読みましたが、収録された動画映像は厳重に保管されるので、配信前での動画映像の流出・漏洩は有り得ない、との事ではありました」
「そうですか。まあその点は、信じるしかないだろうね」
そう応えた時に、エマ・ラトナーがブリッジに帰って来た。
「エマ・ラトナー、偵察哨戒から帰還しました」
「おう、ありがとう。ご苦労様。早かったね。じゃあ、砲術長と交代して下さい。エドナ砲術長もご苦労様。交代して下さい」
「ありがとうございます。分かりました」
「了解しました」
「エマさん、シャトルはどうですか? 」
「最高の乗り物ですね。全く申し分の無い機体です。総てのモジュール・キットと一緒に、プライベートで持ちたいぐらいです」
「そう。印は付けたの? 」
「はい、簡単な目印だけ付けさせて貰いました」
「分かった。副長、席に着いているクルーには飲み物を許可すると通達して下さい」
「分かりました」
シエナがそう応えると、ナレン・シャンカー副補給支援部長とヘザー・フィネッセー副生活環境支援部長が立ち上がって、ブリッジの皆から注文を取り付けた上でドリンク・ディスペンサーに向かう。私はコーヒーをブラックで頼んだ。
「こちらシャトルデッキ、リーアです。輸送シャトルの発艦準備が完了しました」
「了解。岩塊の成形作業が終わったら、直ちに発艦して貰いますので、そのままスタンバイ」
「分かりました」
それから10分後。
「こちらソフィーです。聴こえますか? 」
「よく聴こえるよ、どうだい? 」
「はい、現状で形状類似率で97.6%。軸線に対する離心率で、1.86%ですが? 」
「そうか…どうだろう? もうちょっと詰められそうか? 」
「正直に言って、ちょっと厳しいですね」
「そうか。分かった。了解だ。成形作業としてはこれで終了とし、直ちに輸送シャトルを発艦させる。そちらの2機には、推進剤の残量が許す程度で哨戒航行を頼みたいがいけるか? 」
「分かりました。半径第3戦闘距離で、点対称旋回航行に入ります」
「宜しく頼む。推進剤が残り10%を切ったら、着艦してくれ」
「了解」
「アドルより以上。ブリッジよりシャトルデッキ、リーア機関部長、聴こえるか? 」
「はい、よく聴こえます」
「岩塊の成形作業は終了した。輸送シャトルは全機、直ちに発艦してくれ」
「了解しました。直ちに発艦して取り付け作業に入ります」
「君は残ってくれよ? 」
「分かっています」
「宜しく頼む。気を付けて出てくれ。アドルより以上」
「両舷シャトルデッキ解放。輸送シャトル6機、3機ずつ順次に発艦します」
「思っていたよりも早いな。これならランデブー航行テストも出来るかな? 」
「そうですね。おそらく出来るでしょう」
「うん、ああ、ありがとう」
そう応えて、コーヒーを受け取る。
輸送シャトル6機は『ディファイアント』両舷から3機ずつが順次に発艦した。ゆっくりと岩塊に接近して取り着き、必要な装備・装置の取り付け作業に入る。カーゴ・ペイロードが開かれ、取り付け作業人員が船外スーツを着てそれぞれ工具を手にして、岩塊に取り着いていく。船内に残るスタッフは作業アームを操作して様々な装備・装置・機材を船内から吊り出して運び出し、岩塊の付近にまで押し出す。
岩塊に取り着いている作業人員がそれらを受け取り、岩塊の内外に設置して取り付けていく。初めての作業だが、手際が良くて早い。流石は機関部長。リーア・ミスタンテ女史を機関部長として招いたのは、間違い無かった。大正解だ。
「ナンバー・ワン、流石にミスタンテ女史は凄い。改めて凄いと思った。初めてやる作業なのに。船外活動も初めてなのに、これ程スムーズに行えるとは。それを支えて保証する段取りと手順も素晴らしい。トップ女優の中でも唯一、修理出来ない機械は無い。材料・部品・工具があれば、造れない物も無い。自分もエンジニアの端くれだと自惚れちゃいたが、全く及ばないね。彼女の方が3枚は上手だよ。全く以って脱帽だし、素晴らしいの一言だ。彼女を機関部長として招く事が出来た私は、本当に幸運だ」
「ありがとうございます。伝えてあげれば、泣いて喜びますよ」
「ああ、入港したら本当に労って頭を下げるよ」
嘆息して、コーヒーを飲み干す。
それから30分後。
「こちらシャトル・デッキ、リーアです。聴こえますか? 」
「良好だ。状況を頼む」
「予定していた作業は終了しました」
「そうか、早いな。ご苦労様。よくやってくれた。そちらからリモートでスイッチング出来るか? 」
「はい、出来ます」
「よし、人員と機材をシャトルに撤収したら、岩塊から距離を取ってくれ。始動試験を行う。距離が取れたら連絡してくれ」
「分かりました」
「頼む。アンバー、カレン。制御・誘導アプリのダウンロードは? 」
「終わっています」
「完了しています」
「よし、開いていてくれ。制御・誘導試験も行う」
「了解」
それから7分後。
「ブリッジへ、リーアです。退避完了しました」
「よし。じゃ、始動テストに掛かってくれ」
「了解。補助パワー起動。システム通電」
「アンバー、カレン。リーアの制御・誘導システムを、そちらのアプリともリンクしてくれ」
「了解。リンク完了しました」
「エマ、エンジン始動。係留・碇泊解除。アンカー収納。発進用意」
「了解、アンカー離脱して収納します。サブ・エンジン始動。メイン・エンジンも、始動しました。インパルス・パワー、フロー、サーキュレーション共に良好。噴射スタンバイ…」
「質量誘導弾、補助エンジン始動。インパルス・パワー、フロー正常、サーキュレーション共に良好。臨界パワー、15%から順調に上昇中」
「よし、リーア。この時点から制御と誘導をアンバーとカレンに渡してくれ。そして、輸送シャトル全機は着艦させてくれ」
「了解。ユア・アンダー・マイ・コントロール。こちらの制御アレイはロックしましたので、どうぞ…」
「了解、アンバー・リアムです。受け取りました。補助エンジン噴射開始。大質量誘導弾、発進します」
「よし、カレン。こちらも発進する。誘導弾を本艦の右舷並び、距離300mでランデブーさせてくれ」
「了解。ランデブー・コースに入る為の、インターセプト・コースを採ります」
「よし、エマ、輸送シャトルと工作シャトルが全機着艦してから発進だ。コースは任せる。速度は0.8。時折適当に変針してくれ」
「了解。両舷シャトルデッキ解放。シャトル全機の着艦を待って発進します。臨界パワー60%。噴射出力30%で発進して、30秒毎に変針します」
それから20分で、輸送シャトル6機と工作シャトル2機は、順次安全に着艦した。
「シャトル全機、着艦完了。シャトルデッキ、エアロック・ハッチ閉鎖します」
「よし! カリーナ、残り時間は? 」
「フィフス・ステージ開始まで、残り15分です」
「分かった。エマ、発進してくれ。悪いがランデブーは10分だけだ。カレン、残り時間が5分になったら、誘導弾は右に転進。デプリ群に紛れ込ませて停止させてくれ」
「了解。0.8で発進」
「分かりました」
艦尾のメイン・スラスターとサブ・スラスターから、青白い噴射炎を小規模に曳いて『ディファイアント』が前進を始める。
それから3分で岩塊誘導弾はカレン・ウェスコットにコントロールされ、『ディファイアント』の右舷300mに着いてランデブーに入った。
エマ・ラトナーは30秒毎に左右で20°ずつ舵を切って航行を続けたが、岩塊誘導弾はピタリと付いて併走を続けた。
そして7分後。
「艦長、フィフス・ステージ開始まで、後5分です」
その報告とほぼ同時に、サブ・パイロットの2人と、機関部長と副機関部長、保安部長と副保安部長がブリッジに帰って来て席に着いた。
「分かった。エマ、エンジン停止。逆噴射して停止してくれ。カレン、誘導弾面舵15°。デプリ群に紛れ込ませて停止させてくれ。全乗員の働きには改めて感謝する。本当にありがとう。ご苦労様でした。それではこれより、改めて指示する。ブリッジ・スタッフは全員、オーヴァー・ヘッド・ヴァイザーを起動して装着し、総てのシステムとのリアルタイムでのリンクを構築してくれ。間も無く始まるフィフス・ステージで出現する5隻の模擬敵艦に対して、私はテキストと音声とシステム上での指示を、スピードモードで君達に伝える。応答や復唱は必要無い。指示を受け取ったら即時に実行してくれ。岩塊誘導弾とこの指示システムで、フィフス・ステージを切り抜ける。質問はあるかな? 」
「スピード・モードですよね? 」
と、シエナがヴァイザーを手にして訊いた。確認したいのだろう。
「ああ、パワー・モードには入らなくても大丈夫だと思うよ。スピード・モードで…入っても3割り増しまでだろうな…」
「分かりました」
「よし! じゃあ装着してくれ。直ぐに始めるよ」
そう言うと起動させたヴァイザーを頭に装着して、タッチパネルの下からキーボードを引き出す。
ブリッジ・スタッフ全員との間で、コマンド・ウィンドウを開いて書き込みを始める。キーボードと音声入力とペルスペクティブ・フォーカスコントロールで、4:4:2の割合で入力しながら指示を出していく。
フィフス・ステージが、開始された。
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俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
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