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出航

フォース・ステージクリア 休憩時間 隠し弾

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 『カレドン・カサンドラ』 ブリッジ

「アシュリー艦長、『ディファイアント』がフォース・ステージをクリアしました」

「へえ、早かったわね。さっきまで『モーニング・アドベンチャー』が聴こえていたと思っていたけど。確か『ディファイアント』のステージでも、一隻残っていたわよね? コンラート副長? 」

「ええ、つい先程に『ディファイアント』から勝利宣言と圧縮された戦闘記録を、暗号秘密通信回線を通じて受信しました。もう解凍されていると思いますので観て頂きたいですが、巧妙に擬態して近付く模擬敵艦の技術手法を看破したアドル主宰の慧眼が凄まじいです」

「…そうなの…? アンジェロウ艦長が聞いたら、泣いて喜びそうだわね…コンラート副長…こちらもデイ・タイムに移行して、そろそろ100分にもなろうと言うのに、こちらの『ブルー』をまだ探知出来ない…同じ技術手法で擬態して来ている可能性があるわね? 」

「…そうですね…その可能性は、充分に考えられるでしょう…」

「私のノート端末に戦闘記録を回して頂戴? そして、機関部とも相談して準備に掛かりましょう? 」

「分かりました。直ちにかかります」

「お願い…」

 『ヴィンセント・ガラン』 ブリッジ

 キャプテン・シートに座って左手でPADを持ち、右手の指で記事をスクロールさせながら読んでいたマヤ・アンジェロウ艦長だったが、PADを膝の上に置くとハンカチを取り出して、そっと眼に当てた。

「艦長? 」

「ペイントン副長、貴方も含めて参謀と機関部長とパイロット・チームに、先程アドル主宰から送られた戦闘記録を読んだ上で艦長控室に集まるよう、伝えて下さい」

「分かりました。直ちに伝えます」

 『サライニクス・テスタロッツァ』

「ローズ、サリー、セレーナ、これはもう間違い無いな? 」

「そう思いますね。そうでなければ、2時間経っても敵艦を探知出来ない理由が解りません」

 セレーナ・サイラス機関部長が応える。

「しかし、それにしても…アドル主宰の直感と言うか…」

 言い掛けるローズ副長の後を引き取って…

「ああ…敵の擬態技術手法を瞬時に看破し、対抗策を考え出して実行に移す辺りは…驚異的な早さと的確さだ…怖いくらいだよ…私が3人いても、アドルさんには勝てない。各個撃破されるだけだ…ヤンセン艦長が言っていたが、『アドルさんを怒らせたら、怒らせた奴は地獄を観る』…私もそう思うね。そう言えば昨夜のパーティーで、アドルさんに突っ掛かって来た奴がいたな。あの通信があれ以上続いていたら、割り込んで怒鳴り付けてやろうかと思ったがね。あいつがアドルさんの前に現れたら、文字通りに瞬殺されるだろう。いや、ちょっと喋り過ぎたな。それじゃ早速、アドル主宰が送ってくれた戦闘記録に基づいて、準備に掛かろう。全員で行動開始だ。それとローズ副長。この状況の可能性が高くあると言う事を、同盟参画全艦に向け、暗号秘密通信回線を通じて私の名前で注意喚起してくれ」

「了解! 」

「分かりました! 」

 『ディファイアント』

 マンデリンとブルーマウンテンを6:4のブレンドで強目に煎って点て、深く淹れて一杯に仕上げる。

 デスクに着いて煙草を喫いながら少しずつ飲む。うん、好い味わいだ。

 10分弱で喫い終わり、飲み終わると顔を洗ってブリッジに向かう。

 ブリッジに入ったが誰もいない。艦長控室に入ると、既に全員が飲み物を前にして座っていた。

 私は回り込み、デスクを前にして立つ。

「改めて全クルーの献身的な協力と奮闘に感謝する。本当にご苦労でした。フォース・ステージ迄クリア出来たのは皆のおかげで、それ以外には無い。それでは、報告を頼む」

「艦内全システムのダブルチェックを完了しました。何の異常もありません。『ディファイアント』のポテンシャルは最高の状態です」

 と、シエナ・ミュラー副長。

「ハイラム・サングスター艦長から暗号秘密回線を通じ、模擬敵艦が同じ擬態技術を使っている可能性についての注意喚起が為されました。既に『サライニクス・テスタロッツァ』、『カレドン・カサンドラ』、『ヴィンセント・ガラン』、『サンダー・ハルヴァード』、『フェイトン・アリシューザ』が本艦が置かれたのと同じ状況にあるようです」

 と、ハル・ハートリー参謀が報告する。

「そうか…このチャレンジ・ミッションは2日間だけで終わる…言わばご祝儀ミッションとも言えるようなものだから、このようなプログラムにしたのかも知れない。ハル参謀、軽巡宙艦と同程度の岩塊がゆっくりと接近していたら、先ずそれに間違い無いと、秘密回線を通じて注意喚起を頼みます」

「分かりました」

「他に無ければカリーナ、本部からの通達を読んでくれ。祝辞は読まなくて好いから」

「分かりました。先ず、フィフス・ステージが開始されるまでの休憩時間ですが、150分間です。次に、授与される賞金は総合して4千万です。更に、付与される経験値は2000%です。以上になります」

 カリーナは立ち上がってそう報告すると座った。

「了解した。ハル参謀」

「はい」

「賞金は新設口座にプールして下さい」

「了解しました」

「よし。では改めて指示を出します。公式には150分の休憩時間ですが、我々は動きます。機関部はシャトル1機のセンサー・システムを強化ユニットに換装して、リザーブ・タンクも装備する。エマがそのシャトルに搭乗して発艦し、センサー・チームと共同で本艦との対比で80%程度の岩塊を探索する。発見したらサブ・パイロットの操艦でその場に急行。到着後にエマは帰還。サブ・パイロットの両名はレーザー削岩機搭載のシャトル2機に搭乗して発艦。岩塊に対する整形工作作業に入る。機関部は作業の進捗を観ながら、岩塊に対する推進と姿勢制御システムと誘導システムの装着装備に入る。岩塊に装備させる誘導システムは、アンバーとカレンがそれぞれ担当するコンソール・パネルと同期する。休憩時間内に作業が終わらないと判断したら作業は中断して撤収し、一旦その場を離れる。次は経験値の付与について。前回付与の前に抽出した20項目に於いて、それぞれに100%の経験値を付与する。以上だが、具体的な付与先をもう1度言った方が好いかな? カリーナ? 」

「いいえ、大丈夫です。記録がありますので。お任せ下さい」

「分かった。経験値付与は君に任せる。それとカリーナ、最後にひとつ。これから始まる作業の段取り・手順・内容は、総て3方向から撮影して、克明な動画映像記録として保存する。指示は以上だが、質問は? 他に提案や改善があれば、自由に発言してくれ。また、一定時間休みたいと言うクルーには許可を出すよ」

 言葉を切って待ったが、発言は無かった。

「パイロット・チームには長時間に亘ってシャトルで出て貰う事になるが、発艦から着艦迄安全に注意して航行して貰いたい。慌てなくても焦らなくても好い。休憩時間内に作業が終わらなくても、やり様はいくらでもある。カウンセラーはクルー全員を観察して、休憩出来ない事でストレスを溜めているように観えたら、君の判断で休ませてあげて欲しい。その場合に報告の必要は無い。それでは、発言が無いようなら作業に掛かってくれ。私はここかブリッジにいるから…」

 言葉を切ると、初めてデスクに着く。

「さっ! 急いで掛かるわよ! 私達の動き次第で間に合うかどうかが決まるんだから! 」

 そう言ったリーア・ミスタンテ機関部長を先頭に、私を残してスタッフ達がブリッジに出て行く。

 ふと観ると、シエナ・ミュラー副長とハル・ハートリー参謀が離れてソファーに座っているので、私は立って2人の間に腰を降ろす。

「適正な判断、だったかな? 」

「だった、と思いますよ。来週のゲームフィールドはおそらくグッと狭くなりますから、このテストは今日しか出来ないでしょう」

 と、シエナ副長。

「それに150分を只休んでいるのも長いですし、勿体無いでしょう」

 と、ハル参謀。

「ありがとう。ナンバー・ワン。それにハル参謀も…」

「ナンバー・ワンって呼ばれるのは好いですね。嬉しいです」

「どう致しまして。今回はまた20項目に亘って100%の経験値を付与したから、フィフス・ステージでは多少戸惑う状況にもなるかも知れないけど、注意しながら指揮して行こう。宜しく頼むね? 」

 そう言って立ち上がる。

「分かりました」

「了解です」

 彼女達もそう応えて立ち上がり、3人一緒に控室からブリッジに出た。

 既にパイロット・チームの3人と機関部の2人と、保安部の2人とカウンセラーは席を外している。シャトル格納庫に行ったのだろう。

 他の者はパネルの上で忙しく指を走らせている。センサー・システムやターゲット・スキャナー等の再調整に取り組んでいるのだろう。

「カリーナ、経験値付与で問題か? 」

「いえ、特にありません。アップデートと再起動もスムーズに終わりました。システム上で問題はありませんでした。強いて言えば、メイン・フレームがそろそろ一杯です」

「そうか。ありがとう。次回はメイン・フレームの拡張も項目に入れよう」

「はい」

「ターゲット・スキャナーはどうだ? 操作や反応が、繊細過ぎないか? 」

「今の処は、まだ大丈夫ですね。反応が過敏で面倒と言う程でもありません。まあ、私達の方が慣れて馴染めば、違和感なく扱えるようになるでしょう。それよりも、臨界パワー・発射出力・標的集中精度も倍増しましたから、これなら第2戦闘距離より遠くても狙撃出来ます」

 エドナ・ラティス砲術長が、攻撃部門を代表するようにして言う。

「ありがとう、エドナ。流石だな。任せられるし、頼れるし、頼める。眼を大事にして無理はするな。疲れたらいつでも言ってくれよ」

「分かりました。ありがとうございます」

「マレット、月曜日でも火曜日でも好いから、入港中の艦体にエマルジョン・アルヴェーズド・ペイントの塗布を本部に申請してくれ。購入資金は、ハル参謀が新設する口座からの引き落としと言う事で頼む。これが出来れば、主砲のビームが直撃しても2割は無効化させられるだろう」

「分かりました。月曜日に申請します」

「宜しく頼む。ハル参謀、新設する口座情報が必要になったら、補給支援部長に伝えて下さい」

「了解しました」

 ここで言葉を切って立ち上がり、ドリンク・ディスペンサーの前に立ったが何を飲もうか迷った挙句に、結局甘くないソーダ水を出させてシートに戻る。

 自分のタッチパネルを再起動させ、中のOSも再起動して調整に入る。これは6分程で終わる。

 皆タッチパネルの調整作業に忙しいようなので、ひとりで控室のワーク・ツール・ボックスからスタッフ全員分のオーヴァー・ヘッド・ヴァイザーを取り出して持ち込み、それぞれのシートの背凭れに掛けていく。シエナとハルが私を観て立ち上がろうとしたが、いいからと眼と手で制した。

「何故ヴァイザーを? 」

 と、ハルが訊く。シエナも訊きたそうに私を観る。

「ああ、フィフス・ステージでは新戦術を試そうと思ってね」

「そうですか、分かりました」

「こちらシャトルデッキ。リーアです! 聴こえますか? 」

「よく聴こえるよ、機関部長」

「偵察シャトルの発艦準備が完了しました! 」

「了解だ。ご苦労さん。偵察シャトル、聴こえるか? 」

「よく聴こえます、エマです」

「座り心地はどうだい? 」

「最高です」

「発艦を許可する。気を付けて出てくれ。出たら直ぐにセンサーシステム・リンクを頼む」

「了解です。行きます」

「無事に戻れ。アドルより以上」

「偵察シャトル、左舷デッキから発艦しました。センサーシステムのリンクを確認。同期運用中」

「よし。カリーナ、それじゃモノ探しに掛かってくれ。エドナ、悪いが暫くメイン・パイロットシートに座ってくれ。モノが見付かったら、そこに向かう」

「分かりました」

 エドナ・ラティスは直ぐに自席を立ち、スムーズにメイン・パイロットシートに滑り込む。戸惑う様子を観せないのは流石だ。

 それから3分。

「適性の高いオブジェクトを発見! 確認しました! 方位、395マーク024。距離、第4戦闘距離の82%! 」

「映してくれ。倍率最大で」

 対象となる岩塊をビューワー越しに取り敢えず観たが、形はまあ好いようだ。まだかなり距離があるので、細部までは判らないが。

「よし、これにしよう。偵察シャトルは向かってくれ。こちらもエンジン始動して発進だ。エドナ、ファースト・スピードまで加速。直線コースで向かってくれ。距離100mに着けたら停止して碇泊。工作シャトルは発艦準備。接近して微速にまで減速したら、発艦を許可する」

「了解」

 メイン・スラスターが青い噴射炎を曳いて、『ディファイアント』が加速を始める。

「カリーナ、対象物をスキャンして3D投影」

「了解、出します」

 対象とされた岩塊の3D映像が、様々なアングルで投影される。

「うん、これはなかなかに良いモノが見付かったな。これならそれ程に加工しなくても、しっかりとした軸線が採れそうだ。リーア、聴こえるか? 」

「聴こえています。何でしょう? 」

「シャトル6機のモジュールを組み換えて、ペイロードの大きい輸送シャトルに換装してくれ。それらに予備のサブ・エンジンと姿勢制御スラスター、アポジ・モーターを含む必要機材・装備と工作取り付け装備、そして必要な作業人員を搭乗させて発艦させる。作業人員は機関部から選抜してくれ」

「分かりました。直ちに掛かります」

「頼む。ああ、フィオナ。輸送シャトル6機のパイロットは保安部から選抜してくれ。この輸送シャトルを速く飛ばす必要はない。安全に慎重に飛ばせられれば好いから」

「了解しました」

「ファースト・スピードに到達しています。目標到着まで、5分40秒」

「了解だ。さて…これで…他に打つ手は、あるかな? リーア、人手は足りているか? 」

「充分に足りています。これ以上来て貰っても、作業時間の短縮にはなりません」

「そうか…分かった…」

 それから数分。

「目標まで第1戦闘距離です」

「エンジン停止。艦首逆噴射、減速開始」

「了解。停止まで40秒。目標まで距離120mで停止します」

「了解。よくやってくれた、エドナ」

「ありがとうございます」

「偵察シャトルへ。本艦は30秒で停止する。半径第3戦闘距離で旋回し、安全を確認してくれ」

「了解しました。旋回航行に入ります」

「シャトルデッキへ。工作シャトル、発艦用意」

「用意好し。スタンバイします」

「『ディファイアント』停止します。速度0…」

「よくやってくれた! 近隣の岩塊デプリにロケット・アンカーを撃ち込んで、艦体を固定して碇泊! 」

「了解! 目標にロックしてロケット・アンカーを発射します」

「リーア、『ディファイアント』は碇泊する。工作シャトル2機、発艦! 」

「了解! 左右両舷より発艦します! 」

「ソフィー、ハンナ、聴こえるか? 」

「はい、よく聴こえます! 」

「通話状態は、良好です! 」

「続けてで悪いが、気を付けて出てくれ。神経を使っていて疲れているとは思うが、着艦まで安全に注意して航行してくれ。大丈夫だな? 」

「はい、大丈夫です! 」

「お任せ下さい! 」

「了解だ。宜しく頼む。頼りにしてるよ。アドルより、以上! 」

「工作シャトル…両舷より…発艦しました! 」

「リーア、輸送シャトルの準備は? 」

「あと30分で終わります! 」

「分かった! 慌てないでな? 」

「分かっています! 」

「頼む。エマ! あと2周したら、戻って着艦してくれ。今操舵席には、エドナに座って貰っている」

「了解しました」

「シエナ、残り時間は? 」

「まだ100分以上あります。大丈夫。間に合いますよ」

「岩塊の成形が40分で終われば、各種装置の取り付け作業は、それ程掛からないと思うがな…間に合えば好いな…カリーナ、フィフス・ステージで顕れる模擬敵艦は5隻だ。『レッド』『ブルー』『グリーン』『イエロー』と…後は何色が好い? 」

「そうですね…『オレンジ』か『ブラウン』? 」

「『オレンジ』にしよう。色の割り振りは任せる」

「分かりました」
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