『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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出航

初出航記念艦内親睦パーティー…5…

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 次に登場したのは、ミーアス・クロスとリアン・ビッシュの8人に、エレイン・ヌーン、カレン・ウェスコット、ハンナ・ハーパー、モアナ・セレン、リサ・カント、リサ・ダービン、シーラ・メロを加えた15人での、ジャズ・ミュージカル・ダンスショウだ。

 大昔のキャバレーのような店を舞台にしたジャズ・ミュージカル・ダンスメドレーは20曲にも及び、全員が魅力的な役柄でそれぞれ個人の魅力を充分に活かして歌い、踊り、演じ、舞う。

 呑みながら食べながら観ているのだが、観ていると言うよりもステージ上から眼を離せない。総てが素晴らしく魅力的で感嘆に値するショウだ。

 目の保養にも耳の保養にもなるのだが、私の奥底から湧き上がって来るのは、激情のような感動とこれ以上ない程に強い、決定的な使命感だった。

 最後の大合唱が終わって、全員でのカーテンコール。多くのクルーと共に立ち上がり惜しみ無い拍手を贈っていた私は、同時に滂沱と涙を流していた。

 拍手が静まって皆が座っても呆然と立ち尽くしている私の眼の前に、何時の間にか傍に寄り添って立ったフィオナが、以前に私がその手に握らせたハンカチを差し出した。

「ありがとう、フィオナ」

 フィオナに笑顔を向けて受け取ると、彼女は私に顔を寄せたが、何かをぐっと堪えた様子で笑顔を作ると、一緒に座った。彼女の右手を左手で握って笑顔を向ける。

「じゃあ、パティ、ミーシャ、演ろうか? 」

 グラスに残っているブッシュ・ミルズを呑み干して、テーブルの反対側に座っている2人に声を掛けながら立ち上がる。

「アイ・サー! キャプテン! 」

 3人でステージに上がってピアノの椅子を真ん中に置き、ギターを構えて座る。2人は左右両側に立つ。

「もう何回も言っている事だけど、皆は本当に素敵で素晴らしい。素晴らしく魅力的な個性と、溢れる才能と高い能力を併せ持っている君達をクルーと出来て本当に好かった。だから『ディファイアント』は必ず最後まで勝ち残る。皆と一緒に必ず最後まで勝ち残る」

「それじゃ、『たとえ世界中が敵になっても』」

 みっつのパッセージを繰り返して、イントロに入る。私が主旋律を採り、パティが高音でのハーモニー・ラインを、ミーシャが低音でのそれを採って歌い始める。

「♪懐かしくなってもう一度♫
解けた日々を♩なぞり返した夜の淵♬
♬最後に交わした優しい♫ふたりの嘘は♩
♪罪と呼ぶべきでしょうか♫」

「♫さよなら(さよなら)♪また会う日まで♬手を振るこの場所を頼りに♩必ず巡り会おう♫」

「♪人は誰もがきっと旅人♩
♬長い道の途中で♫出逢ったり♪別れたり♩繰り返しながら♫
♬だけど街は君を待ってる♪君の帰りを待ってる♫例え世界がそっぽ向いても♩」

「♪もう二度と会えないような顔した君を♩
♬両手で抱き寄せたあの日♬
♩何も言わずに黙って見送ったそれを♬
♬「愛」と言えば楽になるでしょうか♩」

「🎵さよなら(さよなら)涙の跡も♫
♪この街で過ごした幸せの♫証だと笑おう♩」

「♪人の心は夢追い人♫
♩今は道の途中で♪過ちや躓きを時に知るけれど♬
♬いつも僕はここで待ってる♩
♪どんな君でも待ってる♬
♩たとえ世界に何が起きても♪」

【間奏】

「♪人は誰もがきっと旅人♩
♩長い道の途中で♫出逢ったり♪別れたり♩
♪繰り返しながら♫
♫だけど街は君を待ってる♪君の帰りを待ってる♬
♪例え世界が敵になっても♫
♩例え世界が敵になっても♪」

 パティ・シャノンとミーシャ・ハーレイがスカートの裾を軽く持ち上げ、膝を曲げてステージから降りる。

「えっと、予定では次で最後の曲になるよ。楽しんで貰えてるかな? あと3曲ぐらいは歌えるけど、あんまり歌うとレパートリーが無くなるし、出過ぎだって言われそうだし、後片付けもあるし、ナイト・シフトに就くクルーもいるしね。形としてはこの1曲で終わりと言う事にして、それぞれフェイドアウトで終わろう。『シークレット・ブギ』って言う曲なんだけど、これは結婚して半年くらいでアリソンとふたりで作ったものでね。あの当時に感じていた結婚生活の大変さを、ファンキーなディスコ・チューンに仕上げたものです。それじゃ、いきます。今夜は付き合ってくれて、ありがとう」

 エイトビートのファンキーなパッセージから、イントロに入る。

「🎶Oh yeah (fufufu)came on baby ♩

♫一目惚れの♩恋でも続く♪

♩人生(いのち)賭けて🎶

♬証明♩してあげるから♫

♬ただ眼が合うだけで胸がキュンとしたよ♩

♫long long ago ♪

♩触れるだけで溶けちゃいそうなその手♪素肌♫唇🎶

♩不器用な♫ふたりに♪吹き付ける♬風は激しくて近頃🎶それでも♪

(dance with me )まぶた♫

(bump with me )閉じて♬

(funk with me )踊る♩boogie woogie ♪

(dance with me )君と🎶

(sway with me )いれば♫

(stay with me )それが♩ secret boogie ♪」

【間奏】

(fu fu fu)

「♪理屈じゃない♩愛は♫dry だね🎶

♪言い訳なら♫あの日で♩全部捨ててる♬

🎶光の速さだよ愛は♫追えば♩逃げる♪

far faraway ♫

♪世界でふたりしか知らない♩歴史♫気持ち♬ 温もり♪

♩不機嫌な♪季節が♬過ぎてゆく🎶

♩その日を待ってる♬背中を♪抱き締め♬

(come to me )もっと♪

(run to me )傍に♩

(next to me )おいで ♪boogie woogie ♬

(come to me )君と🎶

(speak to me )語る♬

(talk to me )愛は ♩secret boogie 🎶」

【間奏】

(fu fu fu. dance with me. bump with me. funk with me. secret boogie )

(boogie woogie woogie. boogie woogie. boogie woogie woogie. boogie woogie. boogie woogie woogie. boogie woogie. boogie woogie woogie. boogie woogie. )

「(dance with me )まぶた♬

(bump with me )閉じて♪

(funk with me )踊る♩boogie woogie 🎶

(dance with me )ふたり♫

(sway with me )いれば♬

(stay with me )怖い♩ものはない🎶

(come to me )もっと♪

(run to me )傍に♫

(next to me )おいで🎶 boogie woogie ♩

(come to me )君と♫

(speak to me )語る♬

(talk to me )愛は♩ secret boogie ♪」

 歌い切って立ち上がり、頭を下げる。拍手と歓声と口笛が湧き起こる中、マレットとハンナがステージに上がってファイナル・チアーズの音頭を執った。グラスビアを貰ったので、私も掲げて半分まで呑んだ。

 続けてふたりが後片付けについての指示を出している。私はギターをケースに仕舞い、楽譜ファイルを左腋に挟み、左手で畳んだスタンドと譜面立てを持ち、ケースを右手に提げてステージから降りると、シエナとフィオナの間に座る。

「お疲れ様でした、アドルさん」

「ありがとう、楽しんでくれた? 」

 訊きながらふたりのグラスに自分のグラスを触れ合わせる。

「とっても素敵でした。最後の曲には奥様がコーラスで参加されていましたね? ご夫婦でのデュエットが聴きたくなりました」

 そう言ってエマ・ラトナーもグラスを掲げる。

「ありがとう、エマ。俺もアリソンと一緒に演るのは、歌でも楽器でも最高に楽しくノれるセッションになるよ。それを皆に聴いて貰いたい気持ちもある。いずれそう言う企画があるかも知れないし、こっちから持ち掛けても良いだろうな。ファン感謝デーのイベントみたいな感じでさ。うん、好いね。今度プロデューサーに会えたら、提案してみよう。ああ尤も、もう撮られているんだから直ぐに分かるか(笑)」

「あの、アドルさん。まだ今日はアドルさんのお茶を頂いていません」

 エドナ・ラティスのおねだりは新鮮に映る。

「ああ、最後にミルクティーで〆て寝るってのも好いよな、エドナ? じゃあこの後、来れるメンバーで私の個室にティーカップとソーサー持参で集合だ。厨房にも言って茶葉とミルクを分けて貰おう」

「分かりました。厨房へのお願いはマレットにやって貰って、私はクルーに声を掛けます」

「君との出逢いが総ての好い事の始まりだった、シエナ・ミュラー。君は最高のクルーを束ねて率いる最高の副長だ。これからも宜しく頼むよ。『ナンバー・ワン』そして、いつもありがとう」

 そう言われて染めた頬を右手で押さえながらも、満面の笑顔を魅せるシエナ・ミュラーである。

「最後に何と言っても今日最大の成果は、フィオナ・コアーを解放出来た事だ。フィオナの解放に一役買えた事が誇らしいし、役に立てた事が率直に嬉しい。私をマッサージしてくれる人材も見付かったしね(笑)」

「あの、フィオナのマッサージってどんな感じなんですか? 」

「それについてはまた後で話すよ、ローナ。結構生々しい話だからさ。それじゃ、ここにある物を片付けて解散しよう。私は私物を持って個室に戻るよ。後は皆で宜しく頼む。今日は本当にご苦労様でお疲れ様。出来れば早く寝て明日に備えてくれ。本当にありがとう」

 そう言いながら、ローナ・ミトラを含むそのテーブルに着いている全員のグラスに自分のグラスを触れ合わせ、残りのビールを飲み干してから、私は立ち上がった。
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