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出航

…昼食休憩…

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私を先頭にメイン・スタッフ全員で、バーラウンジへと向かう。

大きな両開きのドアが開いて足を踏み入れると、ざっと観て既にもう殆どのクルーが思い思いにまとまって席に着き、飲んだり食べたりしている。昼食休憩時間に入ってまだ直ぐなのに、皆早いな。勿論ユニフォームを着ているがパンツルックの者も巻きスカートの者も、プリーツスカートの者もいる。タイト・ミニを穿いている娘は殆どいない…振り返ると、メイン・スタッフの内の6名はタイト・ミニだ…。

私の姿を観て立ち上がる者もいたが、右手を軽く挙げてそのままでと促した。貴重な休憩時間だ。邪魔する気は毛頭無い。そのまま奥の大型丸テーブルまで自然に観えるような足取りで歩いて行って座る。メイン・スタッフの全員も、それぞれ思い思いに座った。

サポート・バーテンダー兼ウェイトレスとして就任してくれている、ミレーナ・ファルチ女史とラリーサ・ソリナ女史と、サポート・クルーとして通常時にはバーラウンジを手伝ってくれている、コディ・ホーン、ララ・ハリス、マルト・ケラー…それに何故かラニ・リー、ディア・ミルザ、ローナ・ハートナー、サラ・ペイリン、イリナ・スタム、アーシア・アルジャントが、冷水のピッチャーを5つとお湯の入った保温ポットを4つと、オレンジ・ジュースのピッチャーとホット・コーヒーの保温ポットと林檎ジュースのピッチャーと野菜ジュースのピッチャーと、人数分のグラスと熱いお絞りを持って来てくれて、グラスを皆の前に置いてお絞りを配ってくれている。

「何でこんなに大人数で来てくれるんだ?  」

「さあ?  私達だからじゃないですか?  」

と、ハル・ハートリー。

「…アドル艦長、ハル参謀…『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』ですよ…」

と、エマ・ラトナーが教えた。

「ああ!  そうか。でも何でだ?  」

「いらっしゃいませ、アドル艦長にメイン・スタッフの皆さん。お疲れ様でした。初日の半日で模擬敵艦とは言え3隻と戦って撃沈されるなんて、本当に凄いですね…驚きました。『ディファイアント』を守って下さってありがとうございます♡これで私も安心して、この艦に乗っていられます…」

そう言いながらミレーナ・ファルチ女史が、手ずから熱いお絞りを渡してくれる。

「ありがとう、ミレーナさん…熱っ、いや、総てはスタッフ・クルーのお陰ですよ。私がブリッジで何をどう喚き散らした処で、スタッフ・クルー全員の見事で頼れる働きが無ければ『ディファイアント』はもう沈んでいますよ…」

「…フフッ♡ご謙遜ですわね♡さて、何をお召し上がりになりますか?  」

「僕は、君らと同じもので好いよ。酒はまだ呑まないから…」

私の希望を受けてシエナはハンナとハルとも少し話して、コンビネーション・セットランチのA~D迄の中で、誰がAとか誰がDとかを決めさせていく。その中で『ミーアス・クロス』の4人と『リアン・ビッシュ』の4人が、私の廻りに集まって来る。

「あの、アドル艦長、お邪魔してすみません…私達の『ARIA』を流して下さって、本当にありがとうございました。ここでこんな形で私達の曲が流されるなんて思っていなかったので、初めは凄く驚いたんですが、段々と感動して来て感激してしまって、4人とも泣いてしまいました。でも本当に嬉しかったです。今考えても、出航直後のシチュエーションにピッタリの歌だと思います。改めて、ありがとうございました」

と、『リアン・ビッシュ』のリーダーでもあるアーシア・アルジャントが礼を言い、4人で一緒に可愛らしく頭を下げる。4人とも22才だが、恐縮して観せられると子供っぽくて可愛い。

「どう致しまして(笑)君達の『ARIA』は以前から気に入っていた曲でね。初出航のシチュエーションでは、ゲームフィールドの全域に流してやろうと決めていたんだよ。好い名乗りになっただろ?  喜んで貰えて僕も嬉しいよ♡」

「好かったわね、アーシア…アドルさん、コディは私達と一緒に居ましたけど、眼を瞠って両手で口を押えてポロポロ泣いていたんですよ(笑)」

「…ラリーサさん!💦言わないで下さいよ💦恥ずかしいじゃないですか💦!  」

「ゴメンゴメン。でもコディは泣いていても、すごく可愛かったからさ♡」

「まあまあ、それだけ喜んで貰えたんだから好かったよ。それで、『ミーアス・クロス』の4人はどうしたんだい?  」

そう言って『ミーアス・クロス』の4人に顔を向ける。彼女達は4人とも21才で、この艦内では最年少だ。はち切れそうな若さが眩しくて、とても瑞々しい娘達だ。

「アドル艦長、今度は私達『ミーアス・クロス』の曲も流して下さい♡宜しくお願いします」

『ミーアス・クロス』のリーダーでもあるディア・ミルザがそう言い、4人一緒に頭を下げる。美少女達の頼みは、断れる訳もない。

「ディア…それに皆、『ミーアス・クロス』の曲も、どこかで必ず流すと約束しよう。楽しみにしていてくれ」

「うわあ! 本当ですか?! アドル艦長!? ありがとうございます!♡嬉しいです…」

ディア・ミルザはそう応えながら、もう涙ぐみそうになっている…それも可愛い。

「…そうだな…そうだ!  今夜の親睦パーティーの時に、『リアン・ビッシュ』にもう1度『ARIA』を生で歌って貰って、それをそのままゲームフィールドの全域に、また流そう。生中継だ。『ミーアス・クロス』の曲では『モーニング・アドベンチャー』!  これを明日の朝に流そう。それで昼には『マイン・キャプテン』を流す。そして明日の夜の入港直前には、『リアン・ビッシュ』の『SERENATО』を流す。これでどうだい?  」

『ミーアス・クロス』と『リアン・ビッシュ』の8人とも、眼を瞠り、両手で口を押えて絶句している。

「…あ、あの…ありがとうございます…本当に…すごく…嬉しいです…楽しみにしてます!  」

アーシア・アルジャントがやっと、それだけ言った。

「ああ、楽しみにしていてな?  」

私がそう応えると彼女達は8人とも、眼を瞠って両手で口を押えたまま、ピョコッと頭を下げて退がって行った。

「…アドル艦長…女の娘の喜びそうな事を考え付くのが、いつもお上手ですわね♡?  」

「お褒めに与って光栄ですな♡カウンセラー♡」

「…それにしてもアドルさんがマッサージの名手でもあったとは意外でした…本当に最高ですね、アドルさんは♡かなり本格的な施術に観えましたが、どちらで学ばれたのですか? 」

と、ハル・ハートリーが溜息を交えて訊く。

「ハルさん、1人に附き、たった5分のマッサージだったけど、本格的に観えたのかな?  だとしたら、ありがとう。いや、独学なんですよ。色々なマッサージについては学んだけど、体系の構築とか施術の構成は我流だし、マッサージする個所の順番は、相手を観てから決める事にしています。私がフル・コースで施術するとしたら、基本的に60分だからね♡」

私がそう言うと、その場の全員が少し驚いたようだった。

「美味しいお茶に、お料理にスイーツにカクテルまで作れて♡それにマッサージまで超絶の技巧だなんて…♡…これでアドルさんに惚れない女は、この地上にいませんよ♡」

と、マレット・フェントンが、少し呆れたような体で言う。

「そんなに褒めたって、何も出ないぞ♡マレット♡ああ、そうだ。今夜のパーティーでデュエットするからな。詳しくは私の部屋に集まった時に説明するから♡」

「ええ! 私とですか?! 」

「君だけじゃない。詳しい話は部屋でするから…」

「分かりました…」

マレットがそう応えた頃合いで、全員のコンビネーション・セットランチが運ばれて来る。

「やあ、来た来た。食べよう食べよう。コーヒーとオレンジ・ジュースを頼むよ…やあ、結構お腹も空くもんだね」

「…あの、アドルさん…マッサージですけれども、奥様にも施術なさるんですか? 」

と、エドナ・ラティスが訊いた。

「…ああ、ゆっくりできる日には、やるよ…どうして?  」

と、食べながら応えて訊き返す。

「…アリソン奥様が羨ましいです…私は5分だけでしたけど、すごく気持ち好かったですから…」

「ありがとう、エドナ…時間が無くて悪かったね…」

「いいえ、いつかフル・コースで施術して頂きたいです…」

「ああ、そうだな…今回はもう時間が無いけど、来週以降でなら出来るだろう…」

「ありがとうございます。あんなに気持ち好かった事って、生まれて初めてでしたので…」

「今度、基本的なやり方をスコットに教えておくからな?  」

「いいえ、私はアドルさんにフル・コースで施術して頂きたいです…」

「分かった分かった。また今度な?  」

「分かりました。お待ちしています」

「アドルさん…奥様以外の人に施術された事は、ありましたか? 」

と、リーア・ミスタンテが訊く。

「なかったね。『ディファイアント』に乗って、初めてだよ…ああ、そうだった。アリソンに言われていたよ。私以外の女の人に、マッサージしないでねって…」

「…なのに、どうしてやって下さったんですか?  」

と、エマ・ラトナーが少し驚いたように訊く。

「どうしてって…君達は特別だからだよ。僕が選び抜いた君達は、僕にとっても『ディファイアント』にとっても特別だ。アリソンは妻で家族だ。でも君達は違う意味で特別なんだ。だからやった。特に今回は、パイロット・チームとエドナに疲れが観えていたからね。たった5分だけで悪かったけどさ…」

「悪かっただなんてそんな…5分だけでしたけど、凄く癒されました…それまで感じていた疲れが、嘘みたいに消えましたから…それに…私もエドナと同じで、あんなに気持ち好く感じたのは生まれて初めてでしたから…」

エマとエドナは、少し熱でもあるのかと見紛う程に顔が上気していて赤い。

「…そりゃそうだよね。5分で7回もイッたんだから…」

「…ハンナ。ちょっと言い方を抑えなさい。撮られているわよ…」

シエナがハンナを少し強めに視て釘を刺す。

「…りょうかい…」

「…みんなさ、マッサージくらい定期的に受けているだろ?  プロから観れば、僕のマッサージなんて雑なものだと思うけどな…」

この発言には、あの時マッサージルームに居た8人が、揃って首をフルフルと振る。

「…最高の施術でした…」

と、エマ・ラトナー。

「…観ていただけでも、最高の施術だと解ります…」

と、ハンナ・ウェアー。

「…そうか。それじゃ、こうしよう。毎週1人に施術する。土曜日のナイトタイムでね。順番は皆で決めてくれ。解っているとは思うが、緊急事態の場合は中止する。60分のフルコースだと私もヘトヘトになるからさ…取り敢えず、30分でも好いか?  」

「…アドル艦長、本当にありがとうございます。30分でも充分に結構だと思います…順番は私達で決めますからお任せ下さい…来週の土曜日からで宜しいですか?  」

と、シエナ・ミュラー副長が嬉しそうに訊く。

「…ああ、それで好いよ…」

「…分かりました…」

「…やったね♡アドルさんのマッサージを30分受けられるなら、3時間デートにも匹敵するわよ♡」

マレットも嬉しそうだ。

「そっちも必ずやるからな♡何をしたいか、考えておいてよ♡」

「はい♡あの、アドルさん…お勤め先での接待の席を、私もお手伝いしたいです♡」

「好いのかい? 」

「はい♡大丈夫です♡」

「分かった。宜しくお願いします」

「はい♡」

そこへ、アーシア・アルジャントとディア・ミルザが、またやって来た。

「…どうしたんだい?♡ 2人とも…」

「アドルさん…あの、お勤め先で接待されると言うお話を聞きました。私達8人にも、お手伝いさせて下さい…」

「…アーシア、ディア…気持ちは本当に嬉しいよ。でも君達は売れっ子のアイドルでもあるから、マネージャーの人に日程を確認して貰って、8人とも無理なく来れるようなら、もう1度来てくれないか? 」

「分かりました。ありがとうございます。マネージャーに確認してから、もう1度来ます」

そう応えて、2人とも退がった。若い娘は元気で好い。

「…あの8人がもしも来たら、何人です? 」

シエナが訊く。

「…会社の人を除けば、今の処19人だな…マレット、もう一杯コーヒーを頼む。砂糖は一杯でな?  」

「…アドル艦長、『ディファイアント』としては、スタッフの全員でお手伝いをさせて頂きます…」

「えっ、サブも含めて全スタッフと言う事かい?…なんでまた…? 」

「…当然です。今回は他艦の艦長及び副長の方もいらっしゃいますので、失礼や粗相があってはいけません。それにアドルさんの御社に対しても、接待するお客様に対しても、対応は同様でなければなりませんので、全スタッフでのお手伝いとさせて頂きました…」

「…マルティーヌ副長が気になるのかい?…ありがとう…」

そう言って、マレットからコーヒーを受け取った。

「…気にならない、と言えば嘘になりますが、カーラについては大丈夫だろうと思っています…」

「僕も彼女は大丈夫だと思うよ。子供じゃないんだしね。よし、分かった。これで手伝いの募集は締め切るよ。売れっ子アイドル達のスクジュール確認を待って、最終参加人数を常務に報告して部屋を決めて貰う…」

「…現状で何人ですか?  」

と、フィオナ・コアーが訊く。

「…会社の人間とアイドル達を除いて、33人だね…お客さんを15人招いても、1人を3人で取り囲めるだろう(笑)…さてと…それじゃ、話を変えよう。シエナ…同盟に参画を希望するとの要望を寄越したのは、軽巡で5隻なんだな?  」

「はい」

「5人の艦長達の連絡先は訊いたかい?  」

「はい、伺いました」

「では月曜日の午前10時までに、こう連絡してくれ。来週・平日・日中のいずれかで、本社においで願いたい。おいで頂きたいのは、艦長・副長・参謀・保安部長だ。出来れば4名でおいで願いたい。同盟の主宰として参画への意向を改めて確認し、様々な打ち合わせを行いたいと。現参画各艦の司令部にもこの事は伝えてくれ。そして出来れば同じ日に、来れる人には来て欲しい。来れる場合には、艦長・副長・カウンセラーを同伴して欲しいと。本艦としては、私と副長、参謀、カウンセラー、保安部長で出迎える。全員で集まれるように、日程を調整して欲しい。好いかな?  」

「分かりました。お任せ下さい」

「宜しく頼むよ。さ~て…ご馳走様、と言う事にするかな?  もう少し食べたいけど、太るとアリソンとアリシアが好い顔をしないんでね。どのみち今夜はパーティーで、結構飲み食いするだろうからな…」

「…アドル艦長、あの3隻には勝てるでしょうか?  」

パティ・シャノンがオレンジ・ジュースのグラスを置いて訊いた。

「…さあ…ね?  やってみないと分からないが、今回の制御AIは3隻を緊密に連携させている。デコイで釣ったがお互いに必要以上には離れないだろう…今、ゆっくりと減速して3隻の後方に移動しようとしているが、これもいずれ気付かれるだろうな…だが今回の模擬戦は、統率の執れた艦隊と戦う場合に於ける好い訓練になる。今回の経験は、記録や記憶にもしっかりと残そう…模擬戦なんだからナーバスにならずに、かと言って油断もせずにやっていこう…現状で考え得る戦術としては、さっきも言ったお互いに必要以上離れない点を逆手に取った、超高速での一撃離脱を3隻連続で敢行すると言うのがあると思う。またセンサー・操舵・エンジン・攻撃の緻密で迅速、スムーズな連携が必要になるんで宜しく頼む…何とか一定の戦果を挙げて、気持ち好くパーティーを楽しめるようにしよう♡」

「…アドルさん♡…お話を聞くだけで、もう本当にアドルさんには…惚れますよ♡…」

と、ミーシャ・ハーレイが言う。ほんのりと染まった頬が気になるのか、両手で押さえている。

「ありがとうな、ミーシャ♡3時間デート、考えて置いてくれよ♡…それじゃあ、みんな、僕は一足先に自室に戻って、打ち合わせの準備をするから皆は食べ終わって落ち着いたら、来てくれ…それじゃあな♡?  」

私はそう言うとコーヒーを飲み干し、水を一口含んでからナプキンで口を拭って立ち上がった。右手を挙げて周りに軽く会釈してから歩き出し、バーラウンジから退室した。
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