『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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セカンド・ステージ…2…

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『ディファイアント』艦首、ハイパー・ヴァリアントの砲口が3発の徹甲弾を2秒間隔で連射した。

「着弾まで、12秒!  」

「エマ! 取舵40°! ダウンピッチ10°で両舷全速発進! 」

「了解! 」

「着弾します! 」

ハイパー・ヴァリアントから発射された3発の徹甲弾が、『A』の艦首左舷と左舷舷側と左舷艦尾に命中して突入し、『A』の艦内部で破壊的に跳ね回った。

「全弾命中しました! 」

「よくやった! エドナ! 流石だな! 凄いよ! 」

「ありがとうございます! 艦長のマッサージのおかげです! 」

「カリーナ、『A』の損傷率は?  」

「42%です。艦尾に命中した3発目が効きました。『A』のシールド・ジェネレーター1基を破壊して、もう1基も損傷させました。『A』は面舵40°、アップピッチ10°に切って回避・離脱コースです」

「『A』のシールド・パワーはどうだ?  」

「60%!  加えてシールド・バブルが不安定です」

「かなりいったな。リーア、アンチ・センサージェルとミラーシュ・コロイドはまだ効いているか?  」

「はい、まだ充分に機能しています」

「両艦の分断には、取り敢えず成功した。これより、『A』に対して追撃戦を掛ける! 」

「艦長! 『A』『B』共に光学迷彩レベル3! 続けてアンチ・センサージェル、ミラージュ・コロイドも展開しました! 」

「エンジン停止してくれ。そうか…これでお互いにアクティブ・スキャンでも位置を確認できなくなった。おそらくダメージから回復する為の時間を稼ぐつもりなんだろう…」

「どうしますか?  艦長…」

シエナが少し心配そうに訊く。

「うん。ちょっと手間は掛かるがやりようはある。アリシア、フロント・ミサイル1番と2番にデコイ・プログラムを入力してくれ」

「了解…プログラム入力しました」

「よし…1番は放出後、半径第2戦闘距離を左回りに旋回するコースを採り、本艦の艦首前方500mを左から通過するコースをプログラム。2番は放出後、方位104マーク79に向けて直進するコースをプログラム。終わり次第放出して、直ちにスラスター起動…」

「了解。プログラム入力始めます…」

「1番で『A』を誘導し、2番で『B』を誘導するのですね? 」

と、ハル・ハートリーが訊く。

「そうだ。これで『A』を本艦の眼の前まで誘き寄せて奇襲攻撃を掛ける」

「でも、どうやって照準を付けるんですか? 」

「ああ、エドナ…それを今から説明するよ…ハイパー・ヴァリアントは2発目までを炸裂弾とし、近接起爆信管に換装。そして弾頭には閃光照明弾をセットしてくれ。以降6発目迄は徹甲弾をセット。それ以降は炸裂弾を装填してくれ」

「分かりました。そのようにセットして装填します」

「デコイ1番が左から本艦の眼の前を通過したら、それを追跡して『A』のパワーサインが通過しようとする。それを狙って炸裂閃光照明弾発射。『A』のパワーサインに近接して2発の閃光照明弾が起爆すれば、ミラージュ・コロイドを展開していても、複数方位から波動係数の異なる明滅脈動変閃光に照らされて、艦影がはっきりでなくても視認出来る筈だ。それを狙って徹甲弾を撃ち込む。続けてミサイル・ビームも無制限連続斉射だ…この攻撃で、出来れば『A』を無力化する。シールドが展開されても『B』が殺到して来る迄に突破して、『A』の継戦能力を奪う。『B』に捕捉されて撃たれるだろうが、シールドアップして脱出。何とか逃げて隠れて遣り過ごす。以上だ。直ちに用意してくれ」

「分かりました。用意します」

「デコイ・ミサイル、プログラム入力完了」

「直ちに放出してスラスター起動」

「了解、放出します」

「エマ、デコイ1番のコースに合わせて艦の姿勢とピッチ角度の調整だ。精密に頼む」

「了解しました。調整します」

「カリーナ、両艦は動いたか?  」

「はい、デコイ1番を追って『A』が、2番を追って『B』のパワーサインが移動しているのを観測しています。ですが、センサーによる観測と表示との間にタイムラグがあるので、正確な位置ではありません」

「よし、こちらの思惑通りに誘導されているようだな。射程距離内に追い付かれないよう、速度の調整を頼む」

「分かりました…」

「艦長!  『トルード・レオン』が勝利宣言です!  損傷率42%まで追い込まれましたが、逆転して模擬敵艦を航行不能・戦闘不能にまで追い込み、運営推進本部のミッションAIより勝利判定・ファーストステージ・クリアの判定を得ました」

「おう!  やったな!  ヤンセン艦長。逆転勝利とは彼らしい。尤も敵艦が2倍のスペックじゃ、最初は誰でも圧されるだろうがね」

「その際の戦闘記録も圧縮データで送信配付されました」

「直ちにダウンロードして、戦術シミュレーション・アレイにて解凍。他に僚艦からの報告は?  」

「具体的にはまだですが、『フェイトン・アリシューザ』も間も無く決着が付きそうな様相です」

「そうか、『トルード・レオン』宛て本艦の署名で祝勝のメッセージを頼む。文面は任せる」

「了解」

「カリーナ、改めて私の署名で参画全艦に向けて発信。模擬戦闘であるから戦果にも痛手にも拘らずに、思い切って色々と試して欲しい。それらの経験は総て貴重なものとなる。各艦に於いては、今回のミッション中の全戦闘記録をこの回線を通じて共有されたい。以上だ」

「了解…そのように発信します…艦長…やっぱり貴方以上の人はいません…」

「ありがとうな、カリーナ。それで、どうだ?  」

「間も無くデコイ1番が最後のターンに入ります。本艦の眼前を通過するまで…130秒!  」

「よし、準備だ。エンジン始動用意。始動したら臨界パワー150%で最大出力全速発進。衝突コースで突撃だ。アリシア、エドナが炸裂閃光照明弾を発射したらデコイ1番を起爆。エドナ、『A』の艦影が少しでも観えたら徹甲弾4発を全弾撃ち込め。その後は炸裂弾を無制限連射だ。徹甲弾の着弾が観えたら主砲・副砲・ミサイル共に無制限斉射だ。ジェネレーターがオーバーヒートしても構わん。『B』から本艦に向けての攻撃が始まるまで続行する」

「分かりました!  」

「了解しました!  」

「あと1分」

「アポジモーター起動して、少~しずつ前進」

「了解」

「40秒前」

「エドナ、パワーサインに集中して、よく狙ってくれ?  」

「分かりました」

「20秒前、デコイが通過します」

「10秒前」

「用意」

「用意好し」

「6、5、4、照準、絞り、固定、発射!  」

ハイパー・ヴァリアントが連射で2発を撃ち出す。エドナはほんの僅かに射角を左右で分ける。炸裂閃光照明弾が『A』のパワーサインの前後で起爆し、脈動変幻閃光が『A』のパワーサインを照らし出すと、朧気ながら陽炎の向うにあるように『A』の艦体が観え隠れし始める。エドナはターゲット・スキャナーを1回だけ絞り、『A』の艦影をスコープの中で視認すると、射角を左に1°ずつ変えながら即座にヴァリアントのトリガーを絞り切った。

『ディファイアント』のハイパー・ヴァリアントが1.2秒の間隔で徹甲弾4発を発射し、それらが『A』の右舷艦首から艦尾にかけて撃ち込まれると、艦内に突入して破壊的に引き裂いて跳ね回り、3発目の破片が左舷中部から跳び出した。

「ファイヤー!!   アンド・ダッシュ!!!    」

『ディファイアント』そのものがミサイルになったかのように跳び出し、総ての攻撃兵装が集中連続斉射を始める。『A』はそれが始まって5秒後にシールドをアップさせたが、シールド・ジェネレーターが既に1基しか機能しておらず、シールド・バブルを定着させられない。加えてエンジンへのダメージも相当なようで、推進噴射のバランスさえ整合させられない状態になっていた。

「損傷率とシールド・パワーは?  」

「損傷率55%!  撃沈寸前です!  シールド・パワーは、25%程度ですがバブルがまともに形成出来ていないので、あっても無きが如しです!  エンジン出力も上がりません!  ほぼ航行不能状態。今しかありません!  」

「同意する!  肉迫しつつ攻撃続行!  衝突しても構わん!  『B』はどうだ?  」

「ミラージュ・コロイドを解除して、面舵回頭中!  こちらへのインターセプト・コースを採る模様!  距離は第5戦闘距離の3.28倍です!  」

「微妙な距離だが押し切るぞ!  今しかない! エドナ!  シールドが消えたら焼夷徹甲弾を撃ち込め!  主砲はビームの集束率を限界まで上げてくれ!  ミサイルは『A』の損傷部位に撃ち込め!  カリーナ!  シールド・パワーの減衰率と『B』の動きを読んでくれ!  」

「シールド・パワー18%!  『B』の射程距離に入る迄7分!  イケます!  10%…5%…消失!  」

「ってえ!!   」

焼夷徹甲弾が撃ち込まれ、主砲ビームの斉射が突き刺さり、ミサイルが損傷個所に叩き込まれる。たちまち『A』はその艦体のあちこちからガスと火花とスパークと焔を噴き出して、自らを華麗に彩り始める。

「艦長!  爆発します!  」

「攻撃中止!  噴射絞れ!  シールドアップ!  取舵80°!  バレルロール左40°!  離脱する!  別に近くで爆発したって被害が出る訳じゃないんだが、まあこれがセオリーだからな…」

『ディファイアント』が艦体を翻して離脱コースに入る。その13秒後に『A』が爆発した。

「『A』の撃沈を確認!  」

「『B』はどうだ?  」

「こちらに対してのインターセプト・コースで加速中!  距離は、第5戦闘距離の86%です!  」

「取り敢えず離脱し、引き離して距離を取る!  『B』も損傷しているから、スピードではこちらが上だ。エマ、基本コースとして方位901マーク241に沿って走れ!  最短時間で第5戦闘距離の3倍迄引き離せ!  距離が取れたらエンジン停止して気配を消す。アンチ・センサージェルはそのままにして、ミラージュ・コロイドは解除!  シエナ…1隻撃沈したけど、セカンド・ステージをクリアしないと経験値は付与されないのかな?  」

「付与されません。賞金や経験値はステージの終了後に決裁されます」

応えたのは、ハル・ハートリー参謀だ。私は右側を振り向いて彼女と顔を見合わせた。

「ありがとう、ハル参謀…よく分かったよ。向こうのシミュレーションAIにこちらの手の内を、ほぼ知られたのは仕方ない…結果的にそうはなったが、示さなければ勝てなかった。だが、まだやりようはある。次は『B』を複層する地形の罠に落とし込んで沈める。そしてAIに教えてやろう…この『ディファイアント』を沈めるなら、3隻以上は必要だってね…さあ、行こうか!  カリーナ、『A』との戦闘記録も圧縮して同盟参画全艦に秘密回線を通じて配付してくれ」

「分かりました」

「それじゃあ、皆さん!  しばらくの間、つかまっていて下さいね!  行きますよ!  」

そう言いながらエマ・ラトナーは嬉しそうに噴射出力を最大まで引き上げる。

『グゥワァオオオーーーーーーン!!!』

メイン・スラスターから爆発的に青白い光が拡がり、青い噴射炎が『ディファイアント』の艦体の3倍以上にも伸びて、艦体をスリング・ショットの玉のように前方に向けて跳び出させた。

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