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出航
セカンド・ステージ
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「セカンド・ステージ開始1分前です。全艦・全システム異常ありません」
「了解だ。皆、ありがとう。少ない休み時間だったが、また宜しく頼む。基本方針は現状で2つだ。同方位で2隻が出現したら、一旦反対方位へと全速離脱して仕切り直す。別方位で出現したら、近い方の敵艦に突撃して一撃を加え、離脱する。総員第1戦闘配置! 」
「セカンド・ステージ、開始されました! 」
「センサー・ヒット! 軽巡宙艦2隻! 別方位です! 」
「コンピューター、第5戦闘距離の範囲内を3D投影! 」
1.5秒で3Dチャートが投影される。
「敵艦のデータリンクを妨害する信号を最大出力で発信! 左をA、右をBと呼称する。Aの方が近いな。エマ! Aに艦首を指向! 衝突コースにセット! リーア! 臨界パワー150%! 噴射出力130%! 最大出力で全速発進! 主砲1番から5番と副砲1番は、臨界パワー130%! 発射出力120%! ハイパー・ヴァリアントは徹甲弾を6発装填! フロント・ミサイル全菅装填! 第1戦闘ラインに掛かる直前から、全兵装無制限全力斉射開始! 」
『ディファイアント』が出力最大で全速発進をかける。
「衝突コースで大丈夫ですか? 」
ハル・ハートリーが訊く。
「心配ない。向こうが先に躱す」
「敵艦AB、共にフロント・ミサイル斉射! 」
「コース、速度に変更なし! 敵艦からのミサイルは、対空兵装で迎撃! 」
「了解! 」
「第1戦闘ラインまで、20秒! 」
「総てのターゲット・スキャナーを調整して、2回絞り込んでくれ。2秒前で攻撃開始だ! 」
「2秒前まで、あと10秒! 」
「敵艦が発砲しても、コースは変えるな! こちらの命中率が上なら勝つ! 」
「4、3、2、1…」
「撃てえ!! 」
ハイパー・ヴァリアントから徹甲弾が先走り、主砲からもビームの奔流が迸り出る。そしてフロント・ミサイルも斉射される。エドナが連射した徹甲弾が、敵艦艦首上部・中部に突き刺さる。主砲のビームも7連射が直撃した時点でシールドがアップされた。流石にプログラム制御の艦だ。反応が早い。
「対艦ミサイル、来ます! 」
「カーラ! セレン! タリア! ローナ! 対空迎撃頼む! 寄せ付けなければ良い! 」
「了解! 」
対空ミサイルのコントロール・オペレーターが、タリア・サルマとローナ・ハートナー。この2人が接近中の対艦ミサイルをまだ距離がある内に迎撃し、撃ち洩らした残弾を対空用レーザー・ヴァルカンとイーゲル・ファランクスを担当する、カーラ・ブルーニとセレン・コンティで1発も残さずに迎撃して掃除する。Bからのビームも届いているが、まだ距離があるせいか命中率は30%程度で、まだそれ程の損傷にはなっていない。プログラム・コントロールのクセに照準が甘いな。
「右舷対空! ビーム撹乱膜形成ミサイル発射! Bからの砲撃は気にするな! コース、速度このままで突撃! 」
「衝突まで20秒! 」
「敵艦『A』、取舵15°、回避行動に入ります! 」
「ホラな?! プログラム・コントロールだと執着が無い。集中全力斉射を続行しながら、このまま同じコースを更に加速して突き抜けろ! 突き抜けたらエンジン停止! 」
「了解! 」
「『A』の損傷率は? 」
「19%です! 」
「そうか、そんなものだろうな…」
「5秒で接触! 」
「擦り抜けたらエンジン停止だ! 」
「了解! 」
『ディファイアント』は『A』の右舷から20mで擦り抜ける。『E・X・F』(エクセレント・フォーミュラ)マスター・パイロットの腕は流石だ。思ったよりディテイルがハッキリと観えた。思う以上に3D映像を造り込んでいるようだ。
「エンジン停止しました! 」
「よし! アポジモーターで取舵2°。コンピューター、グリッド6-7と6-8を80%拡大投影! 」
直ぐに拡大投影される。私は眼の前のパネルに指で触れて、空間の中でカーソルを動かす。
「観えるか? エマ? こことそことあそこにある大型の岩塊3個を使って3段跳びを掛ける。今のコースをこのままのスピードで行って……40秒後に右舷のアンカーを最初の岩塊のこちらから観て裏側を目標にして撃ち込んでくれ。好いかな? 」
「分かりました。お任せを」
「3段跳びを掛けて最後に大きく廻り込めば、おそらく『B』の後方に出てインターセプト・コースを採れる筈だ。頼むぞ! 」
「了解! 」
「『A』はどうしている? 」
「擦り抜けた後で大きく面舵を切って反転中。こちらに対してのインターセプト・コースを採ろうとしているようです」
「エンジンを停止しているから、捉えられてはいないだろう? 」
「おそらくエンジンを停止する前までのコースと速度を観て、大方のアタリを付けているのでしょう」
「ふん、だったら捉えられる前に3段跳びをキメて観せるさ。何秒前だ?! 」
「ちょうど10秒前です! 」
「よし、頼むぞ、エマ! 」
「了解! 5、4、3、2、用意! 発射! 第1目標に到達まで、23秒! 」
「よし、アリシア! 対艦ミサイル1基放出! アンカー到達3秒前に起爆! 次にパイロットチーム! 大変だとは思うがまた宜しく頼む! 経験値を付与して多少は操作性が上がっていると思う。頑張ってくれ! 」
「分かりました、ミサイル放出! 」
「了解です! 」
「分かりました! 」
「お任せ下さい! 」
「『B』に奇襲攻撃を加え、ある程度のダメージを与えたら離脱して仕切り直す! 無理をして押し切ろうとはしない! 」
「ミサイル起爆! 」
「アンカー、目標に到達! ワイヤー巻き上げ、開始します! 」
「よし! パイロットチームは姿勢制御、頼む! 」
「了解! 」
「艦長! 暗号秘密回線を通じて『サライニクス・テスタロッツァ』が勝利宣言です! 激闘の末に模擬敵艦を航行不能にまで追い込み、ファーストステージ・クリアの判定が出ました! 」
「そうか! やったな! 本艦の署名で祝電を頼む! 」
「了解! 」
「他の僚艦の状況は判るかな? 」
「各艦ともに忙しいようで切れ切れにしか入って来ませんが、男性艦長が指揮される艦は、概ね互角か優勢のようです。『トルード・レオン』と『フェイトン・アリシューザ』は優勢を堅持しているようです。『チャッカラタナ・ヴァルティン』と『アレクサンドラ・フランクランド』は苦戦中ですが、一旦離脱して仕切り直すようです」
「女性艦長達の艦は? 」
「概ね劣勢ですが、『サンダー・ハルヴァード』と『カレドン・カサンドラ』はやや優勢。『ロード・ヴィンセンス』と『ロード・ガラン』はほぼ互角との事です。他は劣勢であるとの発信がありましたが、敗北したとの報告はありません」
「そうか。無理せず一旦離脱して態勢を立て直すように…難しいならとにかく逃げて隠れて遣り過して時間を稼ぐようにと流してくれ」
「分かりました…」
『ディファイアント』は全力でワイヤーを捲き上げ続け、最初の岩塊に艦首を向けて接近しながら高速で艦体を大きくスライドさせていく。
「エマ! アンカー抜錨15秒前! 続けて左舷のアンカーを次の岩塊に撃ち込む! 」
「了解! 」
パイロットチームの3人は、例に依って30本の指を忙しく操舵パネルの上で走らせ続けている。だが前回に比べると幾分か余裕があるようだ。その余裕が経験値付与による操作性の向上によるものなのか、私が先程3人に施したマッサージによるものなのかは不分明だが。
「アンカー抜錨! 直ちに回収! 続けて左舷アンカー発射! 目標到達まで…25秒! 」
「アリシア、対艦ミサイル放出! 到達3秒前で起爆! 」
「了解! 」
「マレット、コーヒーを頼む。『A』の様子はどうだ? カリーナ? 」
「反転を終えて航行中ですが、こちらを捉えてはいないようです。『B』と合流しようとしているのかも知れません」
「アリシア、15秒の間隔でデコイプログラムを入力した対艦ミサイルを8本放出してくれ。デコイとしても、起爆撹乱としても使えるように」
「分かりました。入力の上、放出します! 」
「頼む…ありがとう…」
と、マレット・フェントンからコーヒーを受取りながら応える。
「アンカー到達5秒前! 」
「ミサイル起爆! 」
「アンカー到達! 即時全力巻き上げ開始! 」
「アレッタ、最初のデコイ・ミサイルを起動。方位463マーク107に向けて、デコイ信号を発信させながら走らせてくれ。これで『B』に合流しようとして接近中の『A』を、出来れば釣らせて引き離す…」
「分かりました。起動。コースセット。信号発信。スタート…」
と、サブ・ミサイル・コントローラーを務めるアレッタ・シュモールが、スムーズに操作してスタートさせた。
「アリシア、デコイ・ミサイルを追加で後5本、15秒間隔で放出してくれ…どうせ模擬戦だ。ケチる必要は無い…」
「了解! 続けて放出します! 」
「どうだ、エマ? 抜錨のタイミングは任せる。あまり堪えなくても良いぞ? 」
「分かりました…あと…35秒で抜錨します! 」
「かなりスピードが出ている。巻き上げのスピードを弛めても良いからな? 」
「分かりました…」
「カリーナ、『A』はどうだ? 釣られたか? 」
「はい、こちらのデコイに対して、インターセプト・コースを採りつつあります。『B』のパワーサインはありません」
「そうか、まあ上出来だな…エマ、最後の3個目ではギリギりまで接近して大きく廻り込む。100mまでは抜錨しないから、かなりスピードが出る。気を付けて姿勢制御してくれ。そして抜錨したら一気にスタートダッシュだ! 」
「了解しました! 抜錨8秒前…5秒前…3、2、1、抜錨! 全力回収! 続けて右舷アンカー発射! 到達まで22秒! 」
「よし、到達3秒前に放出ミサイル起爆! そろそろあれがデコイだと気付かれるだろうから、光学迷彩を1レベルアップして、マスカー・ジェルとミラージュ・コロイドをそれぞれレベル2で展開してくれ。これでアクティブ・パワースキャンを掛けられても、本艦の位置が把握される事は無い…」
「了解! 」
「了解しました! 」
「放出ミサイル起爆! 」
「アンカー到達! 全力巻き上げ開始! 」
「よし、岩塊に距離100mまで抜錨は堪える! かなりスピードが出るから姿勢制御はタイミングに注意してくれ! 抜錨したら全速発進と同時にアクティブ・パワースキャンを1度だけ発振して『B』の位置を把握し、インターセプト・コースを採る! そして第1戦闘ラインに掛かる5秒前から、ハイパー・ヴァリアント・主砲・副砲・フロント・ミサイルでの集中全力連続斉射を行う! エドナ! ヴァリアントは徹甲弾を4連射! 主砲・副砲は無制限連続斉射だ! アリシア! フロント・ミサイルも無制限連続斉射だ! 私が止めるまで続行だ! 」
「分かりました! 」
「了解しました! 」
最後の3段跳びが始まる。アンカーワイヤーは全力で捲き上げられ、それまでの慣性スピードとも相俟って、『ディファイアント』の艦体は進行方向に対しほぼ真横で高速スライドをかけられながら、最後の岩塊を廻り込もうとしていく。凄まじい遠心力が撮影セットの中に居ても感じられ、何故かシートからも振り落とされそうな程だ…。
「総員、シートベルト装着! 座れない者は床に伏せろ! 」
「岩塊まで400m…スピードと遠心力が凄くて…制御が追い付きません…小さいデプリが当たっています! 」
「放出ミサイルを15秒毎に全弾起爆! アンカー抜錨して回収! 全エンジン始動! 最高臨界パワー、最大出力で全速発進! アクティブ・パワースキャン、打て! 」
「発振! …『B』を感知! 距離、第1戦闘距離の1.75倍! 」
「衝突コースを採れ! 突撃する! ハイパーダッシュ! 全兵装集中全力連続斉射攻撃開始! エドナ! 徹甲弾全弾狙撃! 艦体を実際に後ろからぶつけて弾き跳ばしても構わん! 」
敵艦『B』はこちらに対して右舷後部を観せている。その部分を目標にして『ディファイアント』の集中全力連続斉射攻撃が始まった。
エドナは先にハイパー・ヴァリアントで、4発の徹甲弾を0.2°ずつ射角をずらして『B』の右舷後部に叩き込み、それから主砲と副砲の連続斉射を始めた。フロント・ミサイルの連続斉射も始まるが、主砲・副砲の2斉射目が突き刺さった時点で『B』がシールドアップさせたので後の攻撃は阻止されたが、それでも止めずに連続斉射を掛けつつ加速を掛けて肉薄していく。
「『B』がエンジン始動! 最大噴射で面舵20°! 離脱コースを採ります! 」
「出来るだけ肉薄して攻撃続行! 『A』はどうした? 」
「第5戦闘距離の87%ポイントで取舵反転中! こちらへのインターセプト・コースを採る模様! 」
「カリーナ、『B』のシールド減衰率を読んでくれ。『A』が殺到して来るまでに突破できそうかな? 」
「無理ですね。減衰率はそれ程に高くありません。このままですと40%そこそこで『A』の射程距離内に入ります! 」
「損傷率は? 」
「32%! ヴァリアントの徹甲弾4発が効いていますが、まだエネルギーは充分です」
「よし! では目標を『A』に変更する! 『A』に一撃を掛けて、それで離脱する! エドナ! また徹甲弾を3発セットだ! 『A』のコントロール・プログラムは、自分が攻撃されるとは想定しない筈だ! 最大加速で『A』に突撃! 砲術長の判断で、当てられると確信したら徹甲弾を全弾撃ち込め! そしてシールドアップして離脱する! 」
「了解! 」
エドナ・ラティスは即座にヴァリアントの弾体を再び徹甲弾に切り換えて3発装填し、15秒でターゲット・スキャナーの調整と照準の絞り込みを3回重ねて行った。
「エマ! 『A』を艦首軸線に乗せて! 」
「分かった! ちょっと待って! ……乗ったわよ! 」
「ありがとう! 」
まだ距離は遠かったがエドナは、スキャナーのクロスゲージに『A』の艦影を重ねて集中しながら、コントロール・スティックを軽く握ってほんの少しずつ操り、息を吐き切るタイミングでトリガーを絞った…。
「了解だ。皆、ありがとう。少ない休み時間だったが、また宜しく頼む。基本方針は現状で2つだ。同方位で2隻が出現したら、一旦反対方位へと全速離脱して仕切り直す。別方位で出現したら、近い方の敵艦に突撃して一撃を加え、離脱する。総員第1戦闘配置! 」
「セカンド・ステージ、開始されました! 」
「センサー・ヒット! 軽巡宙艦2隻! 別方位です! 」
「コンピューター、第5戦闘距離の範囲内を3D投影! 」
1.5秒で3Dチャートが投影される。
「敵艦のデータリンクを妨害する信号を最大出力で発信! 左をA、右をBと呼称する。Aの方が近いな。エマ! Aに艦首を指向! 衝突コースにセット! リーア! 臨界パワー150%! 噴射出力130%! 最大出力で全速発進! 主砲1番から5番と副砲1番は、臨界パワー130%! 発射出力120%! ハイパー・ヴァリアントは徹甲弾を6発装填! フロント・ミサイル全菅装填! 第1戦闘ラインに掛かる直前から、全兵装無制限全力斉射開始! 」
『ディファイアント』が出力最大で全速発進をかける。
「衝突コースで大丈夫ですか? 」
ハル・ハートリーが訊く。
「心配ない。向こうが先に躱す」
「敵艦AB、共にフロント・ミサイル斉射! 」
「コース、速度に変更なし! 敵艦からのミサイルは、対空兵装で迎撃! 」
「了解! 」
「第1戦闘ラインまで、20秒! 」
「総てのターゲット・スキャナーを調整して、2回絞り込んでくれ。2秒前で攻撃開始だ! 」
「2秒前まで、あと10秒! 」
「敵艦が発砲しても、コースは変えるな! こちらの命中率が上なら勝つ! 」
「4、3、2、1…」
「撃てえ!! 」
ハイパー・ヴァリアントから徹甲弾が先走り、主砲からもビームの奔流が迸り出る。そしてフロント・ミサイルも斉射される。エドナが連射した徹甲弾が、敵艦艦首上部・中部に突き刺さる。主砲のビームも7連射が直撃した時点でシールドがアップされた。流石にプログラム制御の艦だ。反応が早い。
「対艦ミサイル、来ます! 」
「カーラ! セレン! タリア! ローナ! 対空迎撃頼む! 寄せ付けなければ良い! 」
「了解! 」
対空ミサイルのコントロール・オペレーターが、タリア・サルマとローナ・ハートナー。この2人が接近中の対艦ミサイルをまだ距離がある内に迎撃し、撃ち洩らした残弾を対空用レーザー・ヴァルカンとイーゲル・ファランクスを担当する、カーラ・ブルーニとセレン・コンティで1発も残さずに迎撃して掃除する。Bからのビームも届いているが、まだ距離があるせいか命中率は30%程度で、まだそれ程の損傷にはなっていない。プログラム・コントロールのクセに照準が甘いな。
「右舷対空! ビーム撹乱膜形成ミサイル発射! Bからの砲撃は気にするな! コース、速度このままで突撃! 」
「衝突まで20秒! 」
「敵艦『A』、取舵15°、回避行動に入ります! 」
「ホラな?! プログラム・コントロールだと執着が無い。集中全力斉射を続行しながら、このまま同じコースを更に加速して突き抜けろ! 突き抜けたらエンジン停止! 」
「了解! 」
「『A』の損傷率は? 」
「19%です! 」
「そうか、そんなものだろうな…」
「5秒で接触! 」
「擦り抜けたらエンジン停止だ! 」
「了解! 」
『ディファイアント』は『A』の右舷から20mで擦り抜ける。『E・X・F』(エクセレント・フォーミュラ)マスター・パイロットの腕は流石だ。思ったよりディテイルがハッキリと観えた。思う以上に3D映像を造り込んでいるようだ。
「エンジン停止しました! 」
「よし! アポジモーターで取舵2°。コンピューター、グリッド6-7と6-8を80%拡大投影! 」
直ぐに拡大投影される。私は眼の前のパネルに指で触れて、空間の中でカーソルを動かす。
「観えるか? エマ? こことそことあそこにある大型の岩塊3個を使って3段跳びを掛ける。今のコースをこのままのスピードで行って……40秒後に右舷のアンカーを最初の岩塊のこちらから観て裏側を目標にして撃ち込んでくれ。好いかな? 」
「分かりました。お任せを」
「3段跳びを掛けて最後に大きく廻り込めば、おそらく『B』の後方に出てインターセプト・コースを採れる筈だ。頼むぞ! 」
「了解! 」
「『A』はどうしている? 」
「擦り抜けた後で大きく面舵を切って反転中。こちらに対してのインターセプト・コースを採ろうとしているようです」
「エンジンを停止しているから、捉えられてはいないだろう? 」
「おそらくエンジンを停止する前までのコースと速度を観て、大方のアタリを付けているのでしょう」
「ふん、だったら捉えられる前に3段跳びをキメて観せるさ。何秒前だ?! 」
「ちょうど10秒前です! 」
「よし、頼むぞ、エマ! 」
「了解! 5、4、3、2、用意! 発射! 第1目標に到達まで、23秒! 」
「よし、アリシア! 対艦ミサイル1基放出! アンカー到達3秒前に起爆! 次にパイロットチーム! 大変だとは思うがまた宜しく頼む! 経験値を付与して多少は操作性が上がっていると思う。頑張ってくれ! 」
「分かりました、ミサイル放出! 」
「了解です! 」
「分かりました! 」
「お任せ下さい! 」
「『B』に奇襲攻撃を加え、ある程度のダメージを与えたら離脱して仕切り直す! 無理をして押し切ろうとはしない! 」
「ミサイル起爆! 」
「アンカー、目標に到達! ワイヤー巻き上げ、開始します! 」
「よし! パイロットチームは姿勢制御、頼む! 」
「了解! 」
「艦長! 暗号秘密回線を通じて『サライニクス・テスタロッツァ』が勝利宣言です! 激闘の末に模擬敵艦を航行不能にまで追い込み、ファーストステージ・クリアの判定が出ました! 」
「そうか! やったな! 本艦の署名で祝電を頼む! 」
「了解! 」
「他の僚艦の状況は判るかな? 」
「各艦ともに忙しいようで切れ切れにしか入って来ませんが、男性艦長が指揮される艦は、概ね互角か優勢のようです。『トルード・レオン』と『フェイトン・アリシューザ』は優勢を堅持しているようです。『チャッカラタナ・ヴァルティン』と『アレクサンドラ・フランクランド』は苦戦中ですが、一旦離脱して仕切り直すようです」
「女性艦長達の艦は? 」
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「そうか。無理せず一旦離脱して態勢を立て直すように…難しいならとにかく逃げて隠れて遣り過して時間を稼ぐようにと流してくれ」
「分かりました…」
『ディファイアント』は全力でワイヤーを捲き上げ続け、最初の岩塊に艦首を向けて接近しながら高速で艦体を大きくスライドさせていく。
「エマ! アンカー抜錨15秒前! 続けて左舷のアンカーを次の岩塊に撃ち込む! 」
「了解! 」
パイロットチームの3人は、例に依って30本の指を忙しく操舵パネルの上で走らせ続けている。だが前回に比べると幾分か余裕があるようだ。その余裕が経験値付与による操作性の向上によるものなのか、私が先程3人に施したマッサージによるものなのかは不分明だが。
「アンカー抜錨! 直ちに回収! 続けて左舷アンカー発射! 目標到達まで…25秒! 」
「アリシア、対艦ミサイル放出! 到達3秒前で起爆! 」
「了解! 」
「マレット、コーヒーを頼む。『A』の様子はどうだ? カリーナ? 」
「反転を終えて航行中ですが、こちらを捉えてはいないようです。『B』と合流しようとしているのかも知れません」
「アリシア、15秒の間隔でデコイプログラムを入力した対艦ミサイルを8本放出してくれ。デコイとしても、起爆撹乱としても使えるように」
「分かりました。入力の上、放出します! 」
「頼む…ありがとう…」
と、マレット・フェントンからコーヒーを受取りながら応える。
「アンカー到達5秒前! 」
「ミサイル起爆! 」
「アンカー到達! 即時全力巻き上げ開始! 」
「アレッタ、最初のデコイ・ミサイルを起動。方位463マーク107に向けて、デコイ信号を発信させながら走らせてくれ。これで『B』に合流しようとして接近中の『A』を、出来れば釣らせて引き離す…」
「分かりました。起動。コースセット。信号発信。スタート…」
と、サブ・ミサイル・コントローラーを務めるアレッタ・シュモールが、スムーズに操作してスタートさせた。
「アリシア、デコイ・ミサイルを追加で後5本、15秒間隔で放出してくれ…どうせ模擬戦だ。ケチる必要は無い…」
「了解! 続けて放出します! 」
「どうだ、エマ? 抜錨のタイミングは任せる。あまり堪えなくても良いぞ? 」
「分かりました…あと…35秒で抜錨します! 」
「かなりスピードが出ている。巻き上げのスピードを弛めても良いからな? 」
「分かりました…」
「カリーナ、『A』はどうだ? 釣られたか? 」
「はい、こちらのデコイに対して、インターセプト・コースを採りつつあります。『B』のパワーサインはありません」
「そうか、まあ上出来だな…エマ、最後の3個目ではギリギりまで接近して大きく廻り込む。100mまでは抜錨しないから、かなりスピードが出る。気を付けて姿勢制御してくれ。そして抜錨したら一気にスタートダッシュだ! 」
「了解しました! 抜錨8秒前…5秒前…3、2、1、抜錨! 全力回収! 続けて右舷アンカー発射! 到達まで22秒! 」
「よし、到達3秒前に放出ミサイル起爆! そろそろあれがデコイだと気付かれるだろうから、光学迷彩を1レベルアップして、マスカー・ジェルとミラージュ・コロイドをそれぞれレベル2で展開してくれ。これでアクティブ・パワースキャンを掛けられても、本艦の位置が把握される事は無い…」
「了解! 」
「了解しました! 」
「放出ミサイル起爆! 」
「アンカー到達! 全力巻き上げ開始! 」
「よし、岩塊に距離100mまで抜錨は堪える! かなりスピードが出るから姿勢制御はタイミングに注意してくれ! 抜錨したら全速発進と同時にアクティブ・パワースキャンを1度だけ発振して『B』の位置を把握し、インターセプト・コースを採る! そして第1戦闘ラインに掛かる5秒前から、ハイパー・ヴァリアント・主砲・副砲・フロント・ミサイルでの集中全力連続斉射を行う! エドナ! ヴァリアントは徹甲弾を4連射! 主砲・副砲は無制限連続斉射だ! アリシア! フロント・ミサイルも無制限連続斉射だ! 私が止めるまで続行だ! 」
「分かりました! 」
「了解しました! 」
最後の3段跳びが始まる。アンカーワイヤーは全力で捲き上げられ、それまでの慣性スピードとも相俟って、『ディファイアント』の艦体は進行方向に対しほぼ真横で高速スライドをかけられながら、最後の岩塊を廻り込もうとしていく。凄まじい遠心力が撮影セットの中に居ても感じられ、何故かシートからも振り落とされそうな程だ…。
「総員、シートベルト装着! 座れない者は床に伏せろ! 」
「岩塊まで400m…スピードと遠心力が凄くて…制御が追い付きません…小さいデプリが当たっています! 」
「放出ミサイルを15秒毎に全弾起爆! アンカー抜錨して回収! 全エンジン始動! 最高臨界パワー、最大出力で全速発進! アクティブ・パワースキャン、打て! 」
「発振! …『B』を感知! 距離、第1戦闘距離の1.75倍! 」
「衝突コースを採れ! 突撃する! ハイパーダッシュ! 全兵装集中全力連続斉射攻撃開始! エドナ! 徹甲弾全弾狙撃! 艦体を実際に後ろからぶつけて弾き跳ばしても構わん! 」
敵艦『B』はこちらに対して右舷後部を観せている。その部分を目標にして『ディファイアント』の集中全力連続斉射攻撃が始まった。
エドナは先にハイパー・ヴァリアントで、4発の徹甲弾を0.2°ずつ射角をずらして『B』の右舷後部に叩き込み、それから主砲と副砲の連続斉射を始めた。フロント・ミサイルの連続斉射も始まるが、主砲・副砲の2斉射目が突き刺さった時点で『B』がシールドアップさせたので後の攻撃は阻止されたが、それでも止めずに連続斉射を掛けつつ加速を掛けて肉薄していく。
「『B』がエンジン始動! 最大噴射で面舵20°! 離脱コースを採ります! 」
「出来るだけ肉薄して攻撃続行! 『A』はどうした? 」
「第5戦闘距離の87%ポイントで取舵反転中! こちらへのインターセプト・コースを採る模様! 」
「カリーナ、『B』のシールド減衰率を読んでくれ。『A』が殺到して来るまでに突破できそうかな? 」
「無理ですね。減衰率はそれ程に高くありません。このままですと40%そこそこで『A』の射程距離内に入ります! 」
「損傷率は? 」
「32%! ヴァリアントの徹甲弾4発が効いていますが、まだエネルギーは充分です」
「よし! では目標を『A』に変更する! 『A』に一撃を掛けて、それで離脱する! エドナ! また徹甲弾を3発セットだ! 『A』のコントロール・プログラムは、自分が攻撃されるとは想定しない筈だ! 最大加速で『A』に突撃! 砲術長の判断で、当てられると確信したら徹甲弾を全弾撃ち込め! そしてシールドアップして離脱する! 」
「了解! 」
エドナ・ラティスは即座にヴァリアントの弾体を再び徹甲弾に切り換えて3発装填し、15秒でターゲット・スキャナーの調整と照準の絞り込みを3回重ねて行った。
「エマ! 『A』を艦首軸線に乗せて! 」
「分かった! ちょっと待って! ……乗ったわよ! 」
「ありがとう! 」
まだ距離は遠かったがエドナは、スキャナーのクロスゲージに『A』の艦影を重ねて集中しながら、コントロール・スティックを軽く握ってほんの少しずつ操り、息を吐き切るタイミングでトリガーを絞った…。
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『サバイバル・スペース・バトルシップ』
この『運営推進委員会』にて一席を占める、データストリーム・ネットワーク・メディア。
『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が企画した
『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』と言う連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが、民間から男性艦長演者10名と女性艦長演者10名を募集し、アドル・エルクはそれに応募して当選を果たしたのだ。
彼がこのゲーム大会に応募したのは、これがウォー・ゲームではなく、バトル・ゲームと言う触れ込みだったからだ。
ウォー・ゲームであれば、参加者が所属する国・団体・勢力のようなものが設定に組み込まれる。
その所属先の中での振る舞いが面倒臭いと感じていたので、それが設定に組み込まれていない、このゲームが彼は気に入った。
だがこの配信会社は、艦長役演者に当選した20名を開幕前に発表しなかった。
連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが配信されて初めて、誰が選ばれたのかが判る仕掛けにしたのだ。
艦長役演者に選ばれたのが、今から90日前。以来彼は土日・祝日と終業後の時間を使って準備を進めてきた。
配信会社から送られた、女性芸能人クルー候補者名簿から自分の好みに合い、能力の高い人材を副長以下のクルーとして選抜し、面談し、撮影セットを見学し、マニュアルファイルを頭に叩き込み、彼女達と様々な打ち合わせや協議を重ねて段取りや準備を積み上げて構築してきた。
彼の目的はこのゲーム大会を出来る限りの長期間に亘って楽しむ事。
会社からの給与とボーナス・艦長報酬と配信会社からのギャラ・戦果に応じた分配賞金で大金持ちになる事と、自分が艦長として率いる『ディファイアント』に経験値を付与し続けて、最強の艦とする事。
スタッフ・クルー達との関係構築も楽しみたい。
運営推進委員会の真意・本当の目的は気になる処だが、先ずは『ディファイアント』として、戦い抜く姿を観せる事だな。
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