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出航

30分間

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コーヒーを3口飲んだ辺りで、メイン・スタッフが続々と艦長控室に入室して来る。その中にはエマ・ラトナーも居る。

「エマ…」

「大丈夫です。終わったら直ぐに行きます。お疲れ様でした。アドル艦長…♡」

「お疲れさん。本当にありがとうな」

この言葉にエマ・ラトナーは、物凄く可愛い満面の笑顔で返した。

「皆、お疲れさん。本当にありがとう。好きな飲み物を出して座ってくれ。シエナ、今回の戦闘記録を圧縮して秘密通信回線を通じ、全艦に送信してくれ」

「既に送信は完了しました」

「おう、流石はシエナ・ミュラー副長。余計な指示だったな。いつもありがとう。感謝するよ」

「それはこちらの台詞ですよ、アドル艦長…♡」

「カリーナ、賞金と経験値に関しての本部からの通達を読んでくれ」

「はい、賞金は1千万。経験値は300%です」

「よし、ハル・ハートリー参謀?  」

「はい」

「君の責任に於いて口座を開設し、賞金をプールして欲しい。以後授与される賞金は総てその口座にプールし、以降口座の管理は君に一任する。好いかな?  」

「承知しました。そのように行います…♡」

「基本的にファースト・シーズンの間は、その口座預金に手は付けない。チャレンジ・ミッションをクリアする為に効果的・効率的と思われるパワーアップパーツ・オプションパーツがあった場合には、その都度に集まって貰って協議する。好いかな?  マレット・フェントン補給支援部長は、別購入パーツ・カタログを読んで置いてくれ?  では次に経験値の取扱いに移る。先に経験値を付与できる対象項目について挙げていこう。先ず攻撃力について。主砲はビーム・ジェネレーターの臨界パワーと発射出力の増強。そしてビームの集束率の向上だ。各種ミサイルは積載上限の増量。1機相当破壊力の増強。航続距離の伸長。爆雷や機雷の装備もできるようになる。ハイパー・ヴァリアントは発射出力の増強。各種弾体の積載上限増量。パルス・レーザーキャノンはレーザー出力の増強。ファランクス・イーゲル・シュテルンは発射出力の増強と弾体積載上限の増大と徹甲弾と焼夷弾を装備できるようになる。次に防御力に移る。シールドパワー基本設定値の増大と20%程度のパワーアップができる。もっと経験値を積み上げれば、既存のシールド・ジェネレーターにパワー・ブースターを取り付けられるし、シールド・ジェネレーターの増設もできる。次に機動力だ。総ての推進システムに於ける臨界パワーアップと噴射出力アップと耐久性能を向上させられる。総ての操舵システムと姿勢制御システムの操作反応感度の向上。操作速度の向上が図れる。ざっとこんな処かな?  新装備と付帯装備を除いた項目で挙げれば、18項目だな。均等に分けるのなら15%強ずつ、と言う事になる。300%を15%で割るなら20項目になるから、主砲の発射出力とミサイルの破壊力増強にダブルで付与したらどうだろう?  積極的に意見を頼む」

「はい…あの…マニュアルを読んだのですが、フェイザー・キャノンはどの位の経験値で装備できるのでしょう?  」

と、エドナ・ラティスが右手を挙げて訊く。

「今回付与される300%を総て使えば、タイプ5のフェイザー・クリスタルとフェイザー・バンクスが装備できる。フェイザー・キャノンは強力な兵装だ。レベル10、フルパワーで撃ち込めばシールドパワーを一気に30ポイントは減衰させられる。だが、100から150回撃ったらどちらも整備しなけりゃならない。これには結構金が掛かる」

「私は先程に提示された艦長の提案で好いと思います。ある特定の項目を大きく強化しても、担当のクルーがそれに充分対応できるかどうかは未知数ですし、まだ始まったばかりですから比較的に均等な付与で好いと思います…このミルクティー、艦長が淹れて下さるものに比べると40%ですね…」

と、ハンナ・ウェアーがミルクティーのカップを置いて言う。

「ありがとう、ハンナ…時間があったらコンピューターに私のレシピを入れてみるよ」

「でも次のステージでは、2隻出現しますよね?  エンジンパワーを増強した方が良いように思いますが…?  」

と、フィオナ・コアーが背筋を伸ばして言う。尤もな意見だ。

「そうだな。それじゃあ、主砲の発射出力とミサイルの破壊力増強に上乗せダブルで廻した15%からそれぞれ5%ずつ、10%をメイン・エンジンのパワーに上乗せして付与しよう。それで好いかな?  」

「私のこの返答に、フィオナは笑顔で頷いた」

「他に意見・提案はあるかな?  」

発言を促したが、誰も声を挙げなかった。

「好いだろう。それじゃあ、この通りに付与しよう。副長、この通りでの経験値付与を頼む。次のステージでの作戦については、集合後に説明する。皆には悪いがそれぞれの担当システムをダブルチェックしてくれ。チェックしてから休んでも好いし、集合してからチェックしても好い。他には何かあるかな?  よし、無ければ解散。副長、私は自室で一服してからジムに行くよ。カリーナ、他艦とは出遭わないと思うが一応、長距離センサーのオートアラートを設定してくれ。以上だ…」

少し、時間を戻す。

『ロイヤル・ロード・クライトン』…ブリッジ…。

「針路上に観える岩塊を敵艦に対し盾にするように廻り込んで、一旦離脱するわよ!  エンジン全開!  」

「了解!  エンジンは順調です。損傷はありません」

「お互いの損傷率を報告して?  」

「こちらが12%。向こうが8%です。カーライル艦長」

「とにかく充分に距離を稼いで仕切り直すわよ。シールド・ジェネレーターは直せるの、カーネル?!  」

「10…いや、15分でイケます!  」

「岩塊を盾にした操艦は任せるわよ、パイロット!  15分は逃げ続けて!  」

「了解!  」

「グレイス!  『ディファイアント』から秘密回線で音声通信です!  」

「繋いで!  」

「こちらは『ディファイアント』!  ブリッジより同盟に参画する総ての乗員に告げます!  アドル・エルクです!  『ディファイアント』はたった今、ファースト・ミッションのファースト・ステージをクリア!  模擬敵艦1隻を損傷無しで完全撃破しました!  ここに勝ち名乗りを挙げます!  本艦の戦闘記録は直ちに各艦に向けて送信配付します!  是非とも参考とされたい!  形勢が不利な状況なら無理せず、粘らずに全速で一旦離脱して態勢を整えて仕切り直して下さい!  各艦の健闘を祈り、期待しています!  アドル・エルクより以上です!  」

「おお、勝ったわよ、カーネル。『ディファイアント』が勝ったわよ!  」

「ええ、無傷で完全撃破です!  それに戦闘記録も今、圧縮データとして受信しました!  」

「直ぐに解凍してメイン・コンピューターの戦術サブルーチンにアップして!  」

「了解!  」

「やったわね、アドル主宰…流石だわ。この報せは私達を盛り上げるわよ、カーネル。さあ、私達も勝つわよ!  相手は1隻なんだし、彼がくれた戦闘記録からも学んで、勝って『ディファイアント』に続くわよ!  」

「その意気ですよ、グレイス艦長。なあに、僕がメイン・パイロットとして座っている以上、これ以上の遅れは取りません。仕切り直して反転逆撃といきましょう!  」

グレイス・カーライル艦長は立ち上がり、歩み寄ってそう言った彼の右側に立つと、左手を彼の右肩に柔らかく置いた。

「ありがとう。貴方がそう言ってくれて嬉しいし、貴方が来てくれて本当に好かったわ。でも貴方の事をアドル主宰に言わなくて本当に好かったのかしら?  」

「大丈夫ですよ、グレイス艦長。アドル艦長は絶対に解ってくれます。あの人に対してこれが僕の思い付ける最高のサプライズですから!  でもこれがバレて、お互いに顔を合わせたら打っ飛ばされるかも知れませんけどね(笑)」

そう言って笑いながら右上のグレイス・カーライル艦長を見上げたその男は…スコット・グラハムだった…。

それから20分後。『ディファイアント』…マッサージルーム…。

私は壁際の床にへたり込んで、肩で大きく息を吐いている。凄く疲れたがやれるだけの事はやった。この部屋にあるマッサージ・ベッドは2台だったが、他にストレッチャーを2台運び込んで1人5分で4人にマッサージを施した。

4人とも下半身はジャージだったが、上はスポーツ・ブラにランニング・シャツ1枚で、うつ伏せになって寝ている…時間が無かったから重点的にしかやれなかった。首と肩と腕と指全体。肩甲骨を重点に背中全域。頭と顔面の表情筋。それらのマッサージケアだけで時間が終わった。次のステージが始まる迄10分も無い。私は傍で見守っていた4人に声を掛けて、ようやっと立ち上がる。

「…終わったから、この4人を起して連れて行ってくれ。私は自室でシャワーを浴びて着換えて一服してから上がるから、頼むな…?  」

そう言い置くとそこから出て、自室に向かう。

「ホラ、しっかりしなさい、エマ!  シャンとして起きて、上着着て立ちなさい!  もう始まるから行くわよ!  」

シエナ・ミュラーがエマ・ラトナーを抱き起して立たせようとする。

「ああ…あ…あ、私もう駄目です…もうイケません…」

「何言ってるのよ、この娘は。7回もイキまくったクセに…」

「まったく…こっちはとんだ眼の毒だったわよ!  ホラ!  エドナ!  しっかりして起きなさい!  もう始まるわよ!  」

ハル・ハートリーがエドナ・ラティスを強引に起こし、2.3回軽く頬を叩いてから上着を着せようとする。

「ああ…アドルさん…ごめんなさい…アタシもう…アドルさんじゃないと、ダメです…」

「まったく、この娘も何言ってるのよ。ホラ、エドナ!  もう始まるわよ!  撮られてるのよ!  彼氏に観られちゃうじゃないのよ!  」

その直ぐ近くではこの2人と同じように、サブ・パイロットのソフィー・ヴァヴァサーとハンナ・ハーパーがハンナ・ウェアーとエレーナ・キーンに抱き起されて軽く叩かれながら上着を着せられようとしていた。

私は自室に入ると服を脱ぎ散らかしてシャワー・ルームに跳び込み、超速で熱いシャワーを浴びて汗を流しただけで出ると、下着を替え、服を着替えて水を飲みながら一服点ける。

デスクに着いて水を飲みながら喫う。あと3分だ。2分で喫い終えてブリッジに上がろう。自分でも疲労の色が濃いのは解るが仕方ない。あの4人へのケアは必要な事だった。これじゃ昼飯食いながらうたた寝しそうだな…。

一本を喫い終えて灰皿で揉み潰す。私はコンピューターに強めの換気を指示すると、自室から出てブリッジに向かった。

ブリッジに入ると、全員が笑顔で私を観る。お互いに何とか間に合ったな。皆好い顔をしている。

ちょっと自分で肩甲骨を動かしながらシートに座る

「報告?!   」
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