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出航
ファースト・チャレンジ・ミッション・ファースト・ステージ…2…
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「艦長、ダウンピッチ25°です! ロケットアンカー目標に到達まで12秒! 」
「模擬敵艦を動かすプログラムにロケット・アンカーを使っての操艦はまだ気付かれていないと思うが、今回の攻撃で気付かれる可能性は高い。だから今回の攻撃で決着を付ける。エドナ! 最初の奇襲攻撃はハイパー・ヴァリアントを連射で撃ち込む! 初撃と次撃は徹甲弾。3撃目からは炸裂弾を使う」
「了解。セットします」
「カリーナ、敵艦は動いたか? 」
「エンジン始動していません。依然、ロストです」
「アンカー目標に到達! 」
「全力でワイヤー収納始め! パイロットチームで姿勢制御頼む! 」
「了解! 」
「考えられるのはふたつ。防御力2倍だから、待ち受けているのか? 敵艦もロケット・アンカーで変針しているのか? 」
「まさか…まだでしょう? …」
と、ハル・ハートリーが訝し気に言う。
「そうだな…2段跳びでやってみようか? 」
「2段跳び? 」
と、ハンナ・ウェアーが訊く。
「うん、まあ観ていてくれ。これが上手くいけば、敵艦がロケット・アンカーで変針していたとしても、その裏を掻ける。ただ待ち受けているだけにしても、ハイパー・ヴァリアントならまだ射程距離内だから問題は無い…」
「分かりました」
と、シエナ・ミュラー。
「アリシア、4番放出ミサイルはまだ生きている。リア・ミサイル1番を5番放出ミサイルと呼称して、放出してくれ。それから15秒毎に6番、7番、8番と放出してくれ」
「分かりました。リア1番を5番と見做して放出し、以降15秒毎に8番まで放出します。5番放出」
『ディファイアント』は艦首を岩塊に向けたまま、艦体を大きく高速でスライドさせながら岩塊に接近して行く。パイロットチームの3人は、目まぐるしく指を操舵パネルの上で走らせながら、艦体がデプリと接触しないように細かい姿勢制御を施し続ける。
「カリーナ、磁気の揺らぎを感知したか? 」
「分かりません。見逃したかも知れません。すみません」
「好いよ。どの道、もうじきにはっきりする。岩塊までの距離は? 」
「1200mです! 」
「800mで抜錨! 急速に回収しつつ、方位232マーク096に観える岩塊の中央部を目標に艦首右舷ロケット・アンカー2本を撃ち込め! 到達したら急速収納開始! 」
「了解しました! 」
「落ち着いてやってくれよ、エマ! 」
「分かりました! 」
「これが2段跳びですか…!? 」
シエナ・ミュラーが眼を瞠って言う。
「そう…アリシア、次のロケット・アンカーが目標に到達する5秒前に4番を起爆! 」
「了解! 」
「敵艦が磁気の揺らぎを感知しているなら、それも隠さないといけないからな…アリシア! あと3本、9番、10番、11番を放出してくれ! 」
「了解! 15秒間隔で順次に放出します! 」
「あと100mです! 」
「よし! カウントダウン開始! 」
「了解! 15秒前…10秒前…6、5、4、3、2、用意、抜錨! 」
「直ちに全力回収! 右舷アンカー発射! 」
「了解! 発射! 」
「到達までは? 」
「約15秒です」
「敵艦は? 」
「感知できません。依然としてロストです」
「エドナ、アリシア、準備は好いな? 敵艦の第1戦闘ラインに掛かる直前から、ハイパー・ヴァリアントも主砲もミサイルも、全力で無制限連射を掛ける。敵艦がシールドをアップする迄の間に、一定度以上の損傷を与える! 」
「了解! 」
「了解しました」
「4番起爆します! 続けてアンカー到達! 」
「よくやってくれた! 直ちに全力で巻き上げ開始! パイロットチームは姿勢制御、頼む! 」
「了解! 」
「岩塊までの距離は? 」
「1350m! 」
「岩塊まで200mのポイントで抜錨する! 抜錨5秒前に5番起爆! 以降、15秒毎に6番から9番までを順次に起爆! 」
「了解しました! 」
2つ目の大型岩塊に艦首を向けたまま『ディファイアント』は艦体を大きくスライドさせながら高速で変針していく。パイロットチームの3人は操舵パネルの上で30本の指を目にも止まらぬ程の速さで走らせ、艦体に細かく姿勢制御を施し続ける。あの3人には昼飯の時に一杯奢らないといけないな。それと、時間を見付けてマッサージもしてやろう…。
「岩塊まで1200m! 」
「シエナ、秘密回線を通じて各艦の状況は流れて来ているか? 」
「切れ切れにしか入って来ていませんが、各艦ともに苦戦しているようです…が、敗北を喫した艦はまだありません」
「そうか…皆、初めてだし…慣れてないからな…」
「貴方だって、初めてでしょう? 」
と、シエナが微笑みながら私の顔を観る。
「そりゃあまあ、そうだけどね…シエナ、形勢不利と観たら、粘らずに全速で離脱して仕切り直すようにと流してくれ」
「分かりました」
「岩塊まで1000m! 敵艦は依然ロスト! 」
「了解…マレット、昼飯になったら全乗員に私から献杯する。全員から好みを訊いて、チーフ・リントハートに送信してくれ」
「分かりました」
「それとミーシャ、こいつとの決着を付けたら次のステージまで30分しか無いが、希望者に私がマッサージを施す。ジムのマッサージ・ルームを準備して置いてくれ? 」
「分かりました…マッサージ、出来るんですか、アドル艦長?! 」
「ああ、君等に言うのは初めてだけど、結構得意だよ」
そう応えると、ブリッジ内に驚きの波紋が拡がる。
「岩塊まで700m! 加速しています! 」
「よし! リーア、全エンジン臨界パワー120%へ! 始動と同時に全力噴射用意! 」
「了解! 」
「エマ! 始動と同時に全力全速発進だ! ぶつけるつもりで突っ込ませろ! 」
「了解! 任せて下さい! 艦長のマッサージに応募します! 」
「ああ、任せて置け…」
「岩塊まで500m! 急速変針します! 」
「抜錨回収用意! 5番起爆用意! 」
「了解! 」
「用意好し! 」
「あと100m! 抜けそうです! 」
「5番起爆して抜錨回収!! 」
放出ミサイル5番が爆発して余波を宙域に拡げる。次いでエマはアンカーを離脱させて回収に掛かる。
「エンジン始動! 全力全速発進! 面舵30°! ダウンピッチ7°! インターセプト・ポイント687:452:190! その線上に敵艦がいる筈だ! 行け!! 」
「了解! 」
撮影セットではあるのだが、振動が拡がる。音まで再現するのなら轟音が轟くだろう。『ディファイアント』はその艦尾から爆発的な噴射炎を艦体の2倍以上にまで伸ばし、弾かれるように前に跳び出す。かなり強めの加速感が身体をシートに押え付ける。
「15秒毎に放出ミサイルを順次に起爆! 」
「了解! 」
『ディファイアント』は2個目の岩塊を10秒で廻り込んで摺り抜ける。そして目指す線上で模擬敵艦を視認した。
「敵艦発見! こちらとほぼ同方位に向けて、ファーストスピードで移動中! エンジン始動していません! 距離、第1戦闘距離の1.7倍! 」
「照準セット! 全兵装、集中全力連射開始! 敵艦のシールドを突破して、損傷率40%まで連射続行! 」
「了解! 」
エドナ・ラティスは5秒でターゲット・スキャナーを絞り込んで照準を付けると、総てを解放した。
『ディファイアント』の、敵艦を指向し得る全兵装が集中全力連射を掛ける。ハイパー・ヴァリアントから発射された2発の徹甲弾が、模擬敵艦の艦尾左舷に僅かな角度の差で突き刺さり、貫通はしなかったが艦内を破壊的に跳ね回る。主砲の連射ビームも敵艦の左舷艦尾に突き刺さる。奇襲攻撃開始5秒後…。
「敵艦エンジン始動! シールドアップ! 面舵を切って離脱コースに入る模様! 」
「カリーナ、アクティブ・スキャンして状態を観てくれ? 」
「了解…敵艦損傷率22%…ヴァリアントが効いています…エンジンが不調の模様…パワー・フローが安定しません…シールド・パワー92%から減衰中…」
「よし! 艦尾に直撃させたのが好かったな。更に接近して肉薄し、攻撃続行! シールド・パワーを読み続けてくれ」
「了解…シールド・パワー86%…82%…76%…シールド・ジェネレーターも不調のようです。72%…65%…60%…53%…」
「エドナ! シールドを突破したらヴァリアントは徹甲弾に戻して撃ち込む! エマ! 敵艦まで200mに接近してくれ! 」
「了解! 」
「分かりました! 」
『ディファイアント』の加速率は模擬敵艦を僅かに上回っている。エマ・ラトナーは30秒で敵艦から200mに着ける。
『ディファイアント』からの対艦ミサイルもハイパー・ヴァリアントの炸裂弾も、勿論主砲の連射ビームも模擬敵艦のシールド面に突き刺さってシールド・バブルを揺るがせている。
「敵艦シールド・パワー、38%…32%…25%…シールド・バブルが安定しないようです! 」
「あと一息だ! 更に集中して連射続行! これが本当の戦闘なら、そろそろミサイルが弾切れになるな…」
「敵艦シールド・パワー、18%…12%…5%…シールド消失!! 」
「撃ち込めえ!! 」
ミサイル、ビームの集中連射が模擬敵艦の右舷に突き刺さる。エドナは3秒でヴァリアントの弾体を徹甲弾に切り換え、敵艦の右舷艦尾に照準を採った。
「発射!! 」
連射で撃ち込まれたハイパー・ヴァリアントの徹甲弾が、模擬敵艦の艦内を破壊的に引き裂き、2発目が左舷中部から貫通して出た。
「敵艦損傷率35%…40%…45%…敵艦パワー・フロー崩壊! オーバー・フローからオーバー・ロードに入ります!…損傷率55%! 間も無くです! 」
「全兵装攻撃中止! シールドアップ! 取舵40°で全速離脱!! 」
「了解! 」
『ディファイアント』は全兵装の攻撃を中止してシールドをアップさせ、取舵を切って離脱コースに入る。模擬敵艦は艦体の各部から小爆発が起こり、焔とガスが放出されてスパークが艦体を彩る。そして『ディファイアント』が1500m程離れた時に、爆発した。
「敵艦…爆沈しました…」
「放出ミサイルは総て起爆したか? 」
「はい、総て起爆しました」
「コンピューター、艦内オール・コネクト・コミュニケーション」
【コネクト】
「更に、同盟参画各艦に対しても、暗号秘密回線を通じてオール・コネクト・コミュニケーション」
【コネクト】
「こちらは『ディファイアント』! ブリッジより同盟に参画する総ての乗員に告げます! アドル・エルクです! 『ディファイアント』はたった今、ファースト・ミッションのファースト・ステージをクリア! 模擬敵艦1隻を損傷無しで完全撃破しました! ここに勝ち名乗りを挙げます! 本艦の戦闘記録は直ちに各艦に向けて送信配付します! 是非とも参考とされたい! 形勢が不利な状況なら無理せず、粘らずに全速で一旦離脱して態勢を整えて仕切り直して下さい! 各艦の健闘を祈り、期待しています! アドル・エルクより以上です! 」
回線は閉じられた。ブリッジに拍手と歓声が湧き起こる。
「エドナ! 主砲1番、2番砲塔を最大仰角へ! 勝ち名乗りの砲撃を3連斉射で行う! 用意! 」
「了解! お待ち下さい…用意完了! 」
「撃て! 」
『ディファイアント』の主砲1番2番が、4本のエネルギー・ビームを撃ち挙げる。2秒の間隔で撃ち挙げられた3連斉射が静かに虚空に吸い込まれて消えた。
「おめでとうございます。驚きました。アドル艦長…」
シエナが左側から座ったまま右手を差し出して来たので握手を交わし、左手で彼女の身体を引寄せてハグし合った。
「おめでとうございます。素晴らしかったです。アドル艦長…」
身体を離すと右側のハル・ハートリー参謀とも握手を交わしてハグし合う。
更に左隣のハンナ・ウェアーとも、更に右隣のエレーナ・キーン参謀補佐とも右手を伸ばして握手を交わすと立ち上がった。
「皆、本当にありがとう。皆のお陰で勝てた。感謝してもし切れない。全システムはオート・コントロールにして30分しか無いが自由に休んでくれ。パイロット・チームの3人は、ジムに行ってマッサージ・ルームで待機してくれ。直ぐに行くから。他のメイン・スタッフは私の控室に来てくれ。授与される賞金と経験値の処理について協議する。この30分は何でも許可するが撮影されているから注意してくれよ。それでは30分後にまたここに集合だ。以上。解散! 」
そのまま歩き出して艦長控室に入ると、ドリンク・ディスペンサーから濃い目のコーヒーを出させてデスクに着き、大きく息を吐いて一口飲む。一服喫いたいが後だな…。
「模擬敵艦を動かすプログラムにロケット・アンカーを使っての操艦はまだ気付かれていないと思うが、今回の攻撃で気付かれる可能性は高い。だから今回の攻撃で決着を付ける。エドナ! 最初の奇襲攻撃はハイパー・ヴァリアントを連射で撃ち込む! 初撃と次撃は徹甲弾。3撃目からは炸裂弾を使う」
「了解。セットします」
「カリーナ、敵艦は動いたか? 」
「エンジン始動していません。依然、ロストです」
「アンカー目標に到達! 」
「全力でワイヤー収納始め! パイロットチームで姿勢制御頼む! 」
「了解! 」
「考えられるのはふたつ。防御力2倍だから、待ち受けているのか? 敵艦もロケット・アンカーで変針しているのか? 」
「まさか…まだでしょう? …」
と、ハル・ハートリーが訝し気に言う。
「そうだな…2段跳びでやってみようか? 」
「2段跳び? 」
と、ハンナ・ウェアーが訊く。
「うん、まあ観ていてくれ。これが上手くいけば、敵艦がロケット・アンカーで変針していたとしても、その裏を掻ける。ただ待ち受けているだけにしても、ハイパー・ヴァリアントならまだ射程距離内だから問題は無い…」
「分かりました」
と、シエナ・ミュラー。
「アリシア、4番放出ミサイルはまだ生きている。リア・ミサイル1番を5番放出ミサイルと呼称して、放出してくれ。それから15秒毎に6番、7番、8番と放出してくれ」
「分かりました。リア1番を5番と見做して放出し、以降15秒毎に8番まで放出します。5番放出」
『ディファイアント』は艦首を岩塊に向けたまま、艦体を大きく高速でスライドさせながら岩塊に接近して行く。パイロットチームの3人は、目まぐるしく指を操舵パネルの上で走らせながら、艦体がデプリと接触しないように細かい姿勢制御を施し続ける。
「カリーナ、磁気の揺らぎを感知したか? 」
「分かりません。見逃したかも知れません。すみません」
「好いよ。どの道、もうじきにはっきりする。岩塊までの距離は? 」
「1200mです! 」
「800mで抜錨! 急速に回収しつつ、方位232マーク096に観える岩塊の中央部を目標に艦首右舷ロケット・アンカー2本を撃ち込め! 到達したら急速収納開始! 」
「了解しました! 」
「落ち着いてやってくれよ、エマ! 」
「分かりました! 」
「これが2段跳びですか…!? 」
シエナ・ミュラーが眼を瞠って言う。
「そう…アリシア、次のロケット・アンカーが目標に到達する5秒前に4番を起爆! 」
「了解! 」
「敵艦が磁気の揺らぎを感知しているなら、それも隠さないといけないからな…アリシア! あと3本、9番、10番、11番を放出してくれ! 」
「了解! 15秒間隔で順次に放出します! 」
「あと100mです! 」
「よし! カウントダウン開始! 」
「了解! 15秒前…10秒前…6、5、4、3、2、用意、抜錨! 」
「直ちに全力回収! 右舷アンカー発射! 」
「了解! 発射! 」
「到達までは? 」
「約15秒です」
「敵艦は? 」
「感知できません。依然としてロストです」
「エドナ、アリシア、準備は好いな? 敵艦の第1戦闘ラインに掛かる直前から、ハイパー・ヴァリアントも主砲もミサイルも、全力で無制限連射を掛ける。敵艦がシールドをアップする迄の間に、一定度以上の損傷を与える! 」
「了解! 」
「了解しました」
「4番起爆します! 続けてアンカー到達! 」
「よくやってくれた! 直ちに全力で巻き上げ開始! パイロットチームは姿勢制御、頼む! 」
「了解! 」
「岩塊までの距離は? 」
「1350m! 」
「岩塊まで200mのポイントで抜錨する! 抜錨5秒前に5番起爆! 以降、15秒毎に6番から9番までを順次に起爆! 」
「了解しました! 」
2つ目の大型岩塊に艦首を向けたまま『ディファイアント』は艦体を大きくスライドさせながら高速で変針していく。パイロットチームの3人は操舵パネルの上で30本の指を目にも止まらぬ程の速さで走らせ、艦体に細かく姿勢制御を施し続ける。あの3人には昼飯の時に一杯奢らないといけないな。それと、時間を見付けてマッサージもしてやろう…。
「岩塊まで1200m! 」
「シエナ、秘密回線を通じて各艦の状況は流れて来ているか? 」
「切れ切れにしか入って来ていませんが、各艦ともに苦戦しているようです…が、敗北を喫した艦はまだありません」
「そうか…皆、初めてだし…慣れてないからな…」
「貴方だって、初めてでしょう? 」
と、シエナが微笑みながら私の顔を観る。
「そりゃあまあ、そうだけどね…シエナ、形勢不利と観たら、粘らずに全速で離脱して仕切り直すようにと流してくれ」
「分かりました」
「岩塊まで1000m! 敵艦は依然ロスト! 」
「了解…マレット、昼飯になったら全乗員に私から献杯する。全員から好みを訊いて、チーフ・リントハートに送信してくれ」
「分かりました」
「それとミーシャ、こいつとの決着を付けたら次のステージまで30分しか無いが、希望者に私がマッサージを施す。ジムのマッサージ・ルームを準備して置いてくれ? 」
「分かりました…マッサージ、出来るんですか、アドル艦長?! 」
「ああ、君等に言うのは初めてだけど、結構得意だよ」
そう応えると、ブリッジ内に驚きの波紋が拡がる。
「岩塊まで700m! 加速しています! 」
「よし! リーア、全エンジン臨界パワー120%へ! 始動と同時に全力噴射用意! 」
「了解! 」
「エマ! 始動と同時に全力全速発進だ! ぶつけるつもりで突っ込ませろ! 」
「了解! 任せて下さい! 艦長のマッサージに応募します! 」
「ああ、任せて置け…」
「岩塊まで500m! 急速変針します! 」
「抜錨回収用意! 5番起爆用意! 」
「了解! 」
「用意好し! 」
「あと100m! 抜けそうです! 」
「5番起爆して抜錨回収!! 」
放出ミサイル5番が爆発して余波を宙域に拡げる。次いでエマはアンカーを離脱させて回収に掛かる。
「エンジン始動! 全力全速発進! 面舵30°! ダウンピッチ7°! インターセプト・ポイント687:452:190! その線上に敵艦がいる筈だ! 行け!! 」
「了解! 」
撮影セットではあるのだが、振動が拡がる。音まで再現するのなら轟音が轟くだろう。『ディファイアント』はその艦尾から爆発的な噴射炎を艦体の2倍以上にまで伸ばし、弾かれるように前に跳び出す。かなり強めの加速感が身体をシートに押え付ける。
「15秒毎に放出ミサイルを順次に起爆! 」
「了解! 」
『ディファイアント』は2個目の岩塊を10秒で廻り込んで摺り抜ける。そして目指す線上で模擬敵艦を視認した。
「敵艦発見! こちらとほぼ同方位に向けて、ファーストスピードで移動中! エンジン始動していません! 距離、第1戦闘距離の1.7倍! 」
「照準セット! 全兵装、集中全力連射開始! 敵艦のシールドを突破して、損傷率40%まで連射続行! 」
「了解! 」
エドナ・ラティスは5秒でターゲット・スキャナーを絞り込んで照準を付けると、総てを解放した。
『ディファイアント』の、敵艦を指向し得る全兵装が集中全力連射を掛ける。ハイパー・ヴァリアントから発射された2発の徹甲弾が、模擬敵艦の艦尾左舷に僅かな角度の差で突き刺さり、貫通はしなかったが艦内を破壊的に跳ね回る。主砲の連射ビームも敵艦の左舷艦尾に突き刺さる。奇襲攻撃開始5秒後…。
「敵艦エンジン始動! シールドアップ! 面舵を切って離脱コースに入る模様! 」
「カリーナ、アクティブ・スキャンして状態を観てくれ? 」
「了解…敵艦損傷率22%…ヴァリアントが効いています…エンジンが不調の模様…パワー・フローが安定しません…シールド・パワー92%から減衰中…」
「よし! 艦尾に直撃させたのが好かったな。更に接近して肉薄し、攻撃続行! シールド・パワーを読み続けてくれ」
「了解…シールド・パワー86%…82%…76%…シールド・ジェネレーターも不調のようです。72%…65%…60%…53%…」
「エドナ! シールドを突破したらヴァリアントは徹甲弾に戻して撃ち込む! エマ! 敵艦まで200mに接近してくれ! 」
「了解! 」
「分かりました! 」
『ディファイアント』の加速率は模擬敵艦を僅かに上回っている。エマ・ラトナーは30秒で敵艦から200mに着ける。
『ディファイアント』からの対艦ミサイルもハイパー・ヴァリアントの炸裂弾も、勿論主砲の連射ビームも模擬敵艦のシールド面に突き刺さってシールド・バブルを揺るがせている。
「敵艦シールド・パワー、38%…32%…25%…シールド・バブルが安定しないようです! 」
「あと一息だ! 更に集中して連射続行! これが本当の戦闘なら、そろそろミサイルが弾切れになるな…」
「敵艦シールド・パワー、18%…12%…5%…シールド消失!! 」
「撃ち込めえ!! 」
ミサイル、ビームの集中連射が模擬敵艦の右舷に突き刺さる。エドナは3秒でヴァリアントの弾体を徹甲弾に切り換え、敵艦の右舷艦尾に照準を採った。
「発射!! 」
連射で撃ち込まれたハイパー・ヴァリアントの徹甲弾が、模擬敵艦の艦内を破壊的に引き裂き、2発目が左舷中部から貫通して出た。
「敵艦損傷率35%…40%…45%…敵艦パワー・フロー崩壊! オーバー・フローからオーバー・ロードに入ります!…損傷率55%! 間も無くです! 」
「全兵装攻撃中止! シールドアップ! 取舵40°で全速離脱!! 」
「了解! 」
『ディファイアント』は全兵装の攻撃を中止してシールドをアップさせ、取舵を切って離脱コースに入る。模擬敵艦は艦体の各部から小爆発が起こり、焔とガスが放出されてスパークが艦体を彩る。そして『ディファイアント』が1500m程離れた時に、爆発した。
「敵艦…爆沈しました…」
「放出ミサイルは総て起爆したか? 」
「はい、総て起爆しました」
「コンピューター、艦内オール・コネクト・コミュニケーション」
【コネクト】
「更に、同盟参画各艦に対しても、暗号秘密回線を通じてオール・コネクト・コミュニケーション」
【コネクト】
「こちらは『ディファイアント』! ブリッジより同盟に参画する総ての乗員に告げます! アドル・エルクです! 『ディファイアント』はたった今、ファースト・ミッションのファースト・ステージをクリア! 模擬敵艦1隻を損傷無しで完全撃破しました! ここに勝ち名乗りを挙げます! 本艦の戦闘記録は直ちに各艦に向けて送信配付します! 是非とも参考とされたい! 形勢が不利な状況なら無理せず、粘らずに全速で一旦離脱して態勢を整えて仕切り直して下さい! 各艦の健闘を祈り、期待しています! アドル・エルクより以上です! 」
回線は閉じられた。ブリッジに拍手と歓声が湧き起こる。
「エドナ! 主砲1番、2番砲塔を最大仰角へ! 勝ち名乗りの砲撃を3連斉射で行う! 用意! 」
「了解! お待ち下さい…用意完了! 」
「撃て! 」
『ディファイアント』の主砲1番2番が、4本のエネルギー・ビームを撃ち挙げる。2秒の間隔で撃ち挙げられた3連斉射が静かに虚空に吸い込まれて消えた。
「おめでとうございます。驚きました。アドル艦長…」
シエナが左側から座ったまま右手を差し出して来たので握手を交わし、左手で彼女の身体を引寄せてハグし合った。
「おめでとうございます。素晴らしかったです。アドル艦長…」
身体を離すと右側のハル・ハートリー参謀とも握手を交わしてハグし合う。
更に左隣のハンナ・ウェアーとも、更に右隣のエレーナ・キーン参謀補佐とも右手を伸ばして握手を交わすと立ち上がった。
「皆、本当にありがとう。皆のお陰で勝てた。感謝してもし切れない。全システムはオート・コントロールにして30分しか無いが自由に休んでくれ。パイロット・チームの3人は、ジムに行ってマッサージ・ルームで待機してくれ。直ぐに行くから。他のメイン・スタッフは私の控室に来てくれ。授与される賞金と経験値の処理について協議する。この30分は何でも許可するが撮影されているから注意してくれよ。それでは30分後にまたここに集合だ。以上。解散! 」
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