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・・『開幕』・・
・・開幕前日・・ラウンジからハンナの自宅へ・・
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・・料理長特製の薬膳スープは胃から身体を温める、食欲を刺激する味わいだ・・この前に食べさせて貰った物とはタイプが違う・・食べながらレシピを探ろうとしたが、複雑過ぎる味わいで諦めた・・薬膳スープを頂きながら食べると、普通のランチ・プレートやサイドメニューも美味しく食べられる・・。
「・・アドルさん・・アドルさんの考えとか計画とかを、全部私達に教えて下さい・・それがどんな事でも精一杯に手伝いますから、何でも言い付けて下さい・・アドルさんの負担を少しでも軽くしたいです・・アドルさんが明るく元気でないと、私達もダメになりますから・・」
・・ミーシャ・ハーレイが食べる手を止めて言う・・私は食べながら応えた・・。
「・・皆、食べながらで聴いてくれ・・時間が無い・・今から言うのは、私の考えの大前提だ・・この話は明日、プレ・フライト・チェックに入る前に、全員に向けても言う・・私は・・私を信頼して付いて来てくれる仲間を、誰一人として犠牲にはしない・・私や『ディファイアント』を守ろうとして、眼の前で犠牲になろうとする者がいたら・・私は必ず全力でそれを止める・・私の心や身体が、例え壊れる事になっても必ずそれを止める・・勿論そのような局面にならないよう、全力は尽くす・・それでもどうしてもそのような局面になってしまった場合には・・私は必ずそうするよ・・それがどうしても嫌なら・・私がそれをする前に、私をぶん殴って気絶させるか・・私が乱心したとして拘束して監禁するか・・精神衛生上の理由を付けて、私を艦長職から罷免したら良い・・・まあ・・心配しなくてもサード・シーズンが終わる迄・・そんな局面にはならないと思うよ・・多分ね・・だから・・そのような局面になったとしても、誰も傷付かずに無理なく対応できるようなやり方を・・私も考えるから君達も考えてくれ・・容れて置いて欲しい、私の考えの大前提がこれだ・・私の眼の前で・・仲間が戦死扱いになるなんて耐えられないんだよ・・ハイパー・モードで45分・・それまでに助けが来れば、私は大丈夫だ・・」
「・・分かり・・ました・・考えますし・・私達も全力を尽くします・・アドル艦長と一緒に・・私達も全力でそれを止めます・・」
・・シエナ・ミュラーが、私の眼を視ながら、ゆっくりとそう応えた・・。
「・・ねえ、リサさん・・最近、マーリー・マトリンさん以外で、アドルさんにモーションを掛けそうな人は、社内に居るの・・?・・」
・・エマ・ラトナーが、食べながら訊く・・。
「・・そう・・いますね・・1人・・警戒すべき人が・・」
「・・何て言う人・・?・・」
・・シエナとハルとリーアがエマの顔を強めに観たが、口に出しては言わなかった・・。
「・・アンヴローズ・ターリントン・・アドルさんが本社に来られて直ぐに一目惚れしたようですが、最近まで関わりはありませんでした・・それが業務提携プロジェクトの中で関係が出来たので、アプローチを掛けて来ています・・」
「・・リサさん、何もそこまで・・」
「・・いいえ、アドルさん・・スタッフの皆さんにも、知って置いて欲しい話です・・」
「・・結構、強力に来ているの・・?・・」
・・と、スープを飲み・食べながらハンナも訊く・・。
「・・ええ、かなり強いですね・・しかも油断できません・・それにアドルさんは、女性の押しに弱いですから・・」
「・・リサさん・・!・・」
「・・すみません・・ですが、本当に危険ですから・・」
「・・ふうん・・そうなんだ・・?・・それならもう1度、アドルさんの職場を皆で訪問して、見学がてら女性社員の皆さんを牽制した方が好いかも知れないわね・・?・・」
・・ハンナがそう言ってオレンジジュースを飲み干すと、シエナも食べる手を止める・・。
「・・ハンナ、エマ、その話は日曜日の夜に入港して、まだ憶えていたらしましょう・・今ここで、決めるべき話でもないから・・」
「・・分かった・・」 「・・了解・・」
・・2人がそう応えた頃合いで私は食べ終わり、コーヒーを飲み干して、ナプキンで口を拭った・・リサを見遣ると彼女も食べ終わって、ハーブティーを飲んでいる・・。
「・・よし・・リサさん、ちょっと行こう・・スコットとマーリーとズライから、ヘッドセット・ヴァイザーを借りて行きたい・・月曜日の朝に返すからって事でね・・?・・」
「・・分かりました・・」
・・私が立ち上がると、リサも応じて立ち上がる・・禁煙スペースに入ると、3人は同じテーブルに着いてまだ食べている・・歩み寄って事情を説明し、ヘッドセット・ヴァイザーを借用したい旨を要請すると、快く承諾してくれたので礼を言ってその場を離れ、リフトに乗って自分達のワーク・フロアまで上がり、3人のデスクからヘッドセット・ヴァイザーをケースごと取り上げ、そのままリフトで1階まで降りると私のエレカーのトランクに3つとも入れて閉めた・・ラウンジに戻ると皆は自分達で淹れたらしいお茶を飲んでいたが、私達を観ると直ぐに立ち上がった・・。
「・・ご馳走様でした、アドルさん・・それでは行きましょうか・・?・・」
・・シエナ・ミュラーが笑顔で言う・・。
「・・うん、行こう・・」
・・カウンターで支払いを済ませて駐車スペースに入る・・。
「・・先に紙とプリント・カートリッジを買ってから、ケーキを買いに行こう・・」
・・私の車にシエナとリサとハンナとリーアとフィオナが乗り、エマの車にハルとカリーナとパティとミーシャが乗って私の車から先に出る・・15分程走って普段からよく使っているステーショナリー・ストアに入り、B5サイズの紙を800枚とプリント・カートリッジを10セット買って出た・・メリッサ・エメリックさんの生菓子店を目的地にセットして走り出す・・。
「・・アドルさん、さっきはすみませんでした・・」
「・・何が・・?・・」
「・・女性の押しに弱いなんて言ってしまって・・」
「・・ああ・・別に間違いじゃないから、好いよ・・俺は普通の男だからね・・」
「・・アドルさんを押し倒そうとする女が居るとしたら、それは奥様の事を知らないか、奥様の事を理解できない女だね・・?・・」
・・と、リーア・ミスタンテがそう評すると、リサは頷いて・・。
「・・そうです・・それが彼女なんです・・」
「・・確かに危ないですね、そう言う女性は・・職場が同じだけに逃げ回れない・・なら、何らかの対処が必要でしょうか・・?・・」
・・そう言って、フィオナ・コアーは腕を組むが・・。
「・・そこ迄の危険人物じゃないし、話の解らない人でもないよ・・もし仮にどのように話しても解らないような人なら、こちらから彼女の扱いは幾らでも切り換えられる・・心配は要らないよ・・それに今ここでこれ以上話すべき必要も無い・・」
「・・分かりました・・」
・・それから25分の走行でエメリック生菓子店に到着した・・。
「・・御免下さい・・!・・」
「・・はい・!・いらっしゃいませ・・!・・何をご用意しましょう・・?・・」
・・呼び掛けに応えて現れたのは、30代半ばに観える長身でライト・マッチョな男性・・この方がご主人だな・・。
「・・初めまして、私はアドル・エルクと申します・・こちらにお邪魔させて頂くのはこれで3回目になりますが、メリッサ・エメリックさんはご在宅でしょうか・・?・・」
「・・初めまして、アドル・エルクさん・・妻からお話は伺っております・・ようこそおいで頂きました・・私は夫のトーマス・エメリックです・・以後、宜しくお願い致します・・生憎ですが妻は今『シムリット・サール』のスタッフの皆さん達と、開幕前最後のミーティングに出ておりまして不在です・・代わりにご用命を伺いますが、宜しいでしょうか・・?・・」
「・・ご丁寧なご挨拶をありがとうございます・・こちらこそ宜しくお願い致します・・実は私も『ディファイアント』のスタッフの皆と最後の打合せがてら、誕生会を行おうと思いましてバースデー・ケーキを求めに伺いました・・やはり開幕前日ですから、お互いに当然ですね・・それじゃ、何が好いかな・?・ハンナ・・?・・」
「・・そうですね・・ザッハ・トルテとガトー・ショコラのハーフホールでお願いします・・サイズは8号で・・」
「・・承知しました・・キャンドルはお付けしますか・・?・・」
「・・いえ、キャンドルは結構です・・」
「・・分かりました・・暫くお待ち下さい・・」
「・・メリッサさんにも申し上げましたが、とても雰囲気の好い素敵なお店ですね・・」
「・・ありがとうございます・・先日はお越しの際に、記念撮影をして頂きまして、ありがとうございました・・当店のサイトにて掲載させて頂きました処、お陰様で多くのお問合せを頂いております・・流石に有名な方は違いますね・・」
「・・いや・・これからはメリッサさん目当てのお客さんが沢山来るようになりますから、大繁盛しますよ・・!・・間違いありません・・」
「・・ありがとうございます・・そうなってくれると本当に嬉しいですし、有難いです・・さあ、仕上がりました・・お買上げ頂きまして、ありがとうございました・・お早目にご賞味下さい・・」
「・・ありがとうございます・・頂きます・・こちらにはいずれまた、人を連れて伺います・・」
・・そう言って支払いを済ませ、ケーキの箱を受け取る・・。
「・・それでは、また・・奥様に宜しくお伝え下さい・・」
・・そう言って会釈し、店を後にする・・車中ではハンナにケーキの箱を持って貰う・・ハンナの住むマンションを目的地に設定してスタートする・・到着迄の予定時間は50分強と出た・・。
「・・夕食は、ハンナのマンションからネット・デリバリーで頼もう・・その方が何でも好きな物を頼めるだろう・・?・・」
・・そう言って、15分後・・。
「・・シエナ・・さっき食った薬膳スープ・・ウィルにも食わせてやりたいな・・て言うか、早くウィルにコラントーニ兄弟を引き会わせてやりたいよ・・」
「・・ありがとうございます・・ウィルも喜ぶでしょう・・」
・・その後は特に話もせずに車を走らせ、ほぼ予定時間通りにハンナ・ウェアーの住むマンションの地下来客用駐車スペースに車を駐めた・・ヘッドセット・ヴァイザーのケースを持ってリフトに乗る・・ハンナの居宅は7階だった・・。
「・・いらっしゃいませ・・散らかっていますが、どうぞ・・」
「・・お邪魔します・・」
・・上がらせて貰い、ケースを置くとコートを脱いでリサに渡す・・女性の1人暮らしにしては、かなりレベルの高い居宅だ・・。
「・・ミルクティーとコーヒーを淹れるよ・・ひと休みしてから始めよう・・」
・・そう言ってキッチンに立ち、ミルクティーの準備とコーヒーを点て始める・・コーヒーの所望が5杯でミルクティーの所望が6杯だった・・茶葉にしても豆にしても、高いレベルの物が揃えられているし、用具にしても器具にしても機能的で使いやすい、好いセンスの物が揃えられている・・カップとソーサーの趣味も好い・・程無くして11杯が仕上がり、全員に配る・・私はコーヒーを持ってベランダに出て立ち、一服点ける・・風が無いからそんなに寒くない・・コーヒーを二口飲み、煙草を3服喫って蒸して燻らせた頃合いで、ハンナもベランダに出て来た・・。
「・・ハンナ・・私が送って行くって言った時・・データベースが出来てないのに、アドルさんが誘って来た・・どうしよう・?・って思ったか・・?・・」
「・・いえ・!・そんな・・事は・・」
「・・(笑)・私も説明不足だったけどな・・が、まあ・これだけ人数がいれば、データベースも早く仕上がるだろう・・ハンナの誕生日は、ちゃんと祝おうと思っていたんだよ・・以前からね・・」
「・・ありがとう・・ございます・・」
「・・あ!・ああ・・車から酒を持って来るのを忘れた・・データベースが仕上がったら取りに行くから、リフトの前で待っていてくれ・・気付かれるなよ・・?・・」
「・・あ・は、はい・!・」
「・・さっき、チラっと観えたんだけど、ギターが置いてあるね・・弾いてるの・・?・・」
「・・あ・たまにです・・まだまだ下手ですけど・・」
「・・借りても好いかな・・?・・」
「・・どうぞ・・嬉しいです・・」
「・・いつか、ツイン・ギターで演れたら好いね・・?・・」
「・・はい・・!・・」
「・・よし・・じゃあ、入ろう・・」
・・そう言ってコーヒーを飲み乾し、煙草を携帯灰皿で揉み消すとハンナを促して部屋に戻った・・。
「・・さあ・!・始めよう・・!・・ハンナ、固定端末を起動して原稿を用意してくれ・・ヘッドセット・ヴァイザーを起動して固定端末とリンク・・ここにある総ての端末を起動して固定端末とリンクしてくれ・・ヴァイザーは私とリサとハンナとカリーナで使用する・・携帯端末でも好いがPADの方が反応が早いから優先してくれ・・よし・・ヴァイザーを頭に装着してくれ・・ペルスペクティブ・フォーカスコントロールと音声入力も併用する・・固定端末のキーボードは私が使う・・ハンナ、譜面台を総て出して原稿を順番通りにセットしてくれ・・私が固定端末からそれぞれの端末に向けて指示を出すから、聴こえたり観えたら即時に実行してくれ・・確認や復唱は必要ない・・即時にやってくれ・・それぞれのヴァイザー、端末のリンクを確認・・アプリの状態を調整・・好いかな・・?・・最初はゆっくり始める・・それぞれの端末での作業状況は私が確認しつつ次の作業を指示するから、落ち着いて慌てずにやってくれ・・好いかな・・?・・少し待ってくれ・・固定端末での作業環境を整える・・」
・・私はテータベース作成用の作業ウィンドウを60個開き、状態を確認して作業環境を整えた・・4個の譜面台の上では、ハンナの書いた原稿が順番通りにセットされている・・そして自分の携帯端末を取り出し、会議室『DSC24』をブラウズして表示、メンバー認証をしてタイムラインに入り、端末をキーボードの左に見易いように立て掛ける。
ハンナ・ウェアーが書き上げた原稿を基に『ディファイアント』全乗員心理動向データベースと、ザンダー・プラン、ハイラム・プラン、ヤンセン・プランを基にして、最初の4日間での単艦訓練プログラム・プランを書き上げる準備が整った。
「・・よし・・始めるぞ・・スタート・・!・・」
・・心理動向データベースと訓練プログラム・プランの作成作業を同時に開始した・・全員に作業を割振り、指示を出してから自分でも始める・・全員の作業状況を確認しながら、私はスピード・モードで始めた・・作成は順調に進む・・10分毎に10%ずつスピードアップさせていく・・メンバーそれぞれの作業の進捗を確認しながら指示を出していく・・開始後50分でパワー・モードに入る・・皆落ち着いて作業を進めている・・一つの作業が終わってから次の作業を割り振って指示を出しているから、慌てさせるような事も無い・・私自身はパワー・モードの30%増しまでスピードを上げて、そこで維持した・・それから60分、最後の作業指示を分配して私自身は作業を終え、皆の作業状況を観察しながら全体を確認しつつ修正を加えていく・・それから30分で入力と修正を終えた私達は、ヴァイザーを装着しているメンバーでデータベースの全体を俯瞰してダブルチェックで確認し、最後にハンナ・ウェアーに確認して貰ってOKが出てから、私が保存してアップロードした・・。
・・ヴァイザーを外してスイッチを切る・・スピードはそれ程上げなかったが、皆の作業状況を観察しつつ作業指示を出していたからだったせいか、意外に疲れた・・関節と筋肉がかなり堅くなっている・・。
「・・誰か水を頼む・・」
・・そう言ってその場でストレッチ的な柔軟体操を15分程行い、うつ伏せに寝る・・。
「・・フィオナ、悪いがマッサージを頼む・・意外に疲れた・・皆、今のスピードがパワー・モードの30%増しだ・・」
・・フィオナ・コアーのマッサージに20分程身を委ねる・・漸く体が楽になって軽く感じられて来る・・。
「・・ありがとう、フィオナ・・」
・・礼を言って起き上がり、グラスを受け取って水を飲み干す・・深く息を吸って吐く・・やっと元に戻った・・。
「・・プリントアウトを始めてくれ・・それと、食事のデリバリーを頼む・・俺は車に戻って酒を取って来るから・・」
・・見遣るとハンナの姿が無い・・上手く出たのか・・手を振って大丈夫だとアピールし、廊下に出てリフトに向かう・・ハンナはドアの前で待っていた・・リフトに乗ってドアが閉まるとハンナの手を掴んで引き寄せ、抱き竦めて唇を重ねる・・1階に降りる迄数秒、お互いにキツく抱き締め合って唇を貪る・・1階に着いてドアが開いてから、お互いの身体を離した・・。
「・・誕生日おめでとう、ハンナ・ウェアー・・」
「・・ありがとう・・ございます、アドルさん・・それに、手伝って頂いて、ありがとうございました・・」
・・少し息が上がっている・・。
「・・いや、こっちこそ時間的にかなり厳しい仕事を君に頼んだ・・乗員総数で観れば、1人ではとても間に合わない仕事だったのに、原稿だけとは言え完璧に仕上げられていたのは、流石売れっ子心理学者のハンナ・ウェアーだな・・だから、君に無理な重圧を掛けてしまったのは私の誤りだった・・本当に済まない、悪かった・・このくらいの事にも気付けなかったんだから、俺は凄くも何ともないよ・・只の普通の女好きの男さ・・」
・・言いながら自分の車まで歩き、トランクを開けようと掛けた手をハンナは取り、自分の背に廻させると自分から唇を重ねて舌を絡めて来る・・さっき程激しくはないが、エロチックなセックスアピールは2倍以上だ・・ハンナは両手で私の顔を挟んで舌を絡めている・・これ以上されると膝から崩れ落ちそうだ・・足腰が覚束なくなってきた頃合いで、ハンナが私を離した・・。
「ふう、すごいね。惹き込まれそうだったよ」
「私も、イッちゃいそうでした♡愛しています♡アドルさん♡誰よりも♡」
「・・チーフは、どうするんだい・・?・・」
「・・シエナに任せます・・私より彼女の方が、あの人にはお似合いだと思うから・・」
「・・まだ時間はあるさ。ゆっくり考えれば好いよ。さあ、ハンナ・ウェアーの誕生会だ!時間が無いから密度を上げていくよ!?」
「はい!」
車のトランクを開けてブッシュミルズのボトルを取り出し、右手でハンナの腰を引寄せてリフトに向かう・・7階に上がる迄の間、また濃厚なキスを交わした・・玄関のドアを開けると、乾いた高い大きな音が連続して10数回鳴り響き、細かい紙吹雪や細い紙テープが吹き掛けられる・・クラッカーだ・・誰か用意していたのか・・。
「おめでとう!!ハンナー!」
「誕生日、おめでとう!!ハンナ!」
「なに、2人で抜け出してキスしてたのよー!!?」
「えー!?、何で知ってるのー?!」
「ああ、多分カリーナだよ。彼女がそこの固定端末で、地下駐車場の監視カメラをハッキングして覗いていたんだな」
「リフトの中も観てましたよ、アドルさん!」
「ズルいですよ!アドルさん!私達だって、もっとキスしたいのに!」
「分かった、分かった。悪かった。でも今日はハンナの誕生日だし、ハンナの開幕前の仕事はさっき全部終わったからさ、勘弁してくれよ。さあ、ケーキによく合うブッシュミルズを持って来たから、ケーキを酒のつまみにして呑もう。グラスを出して。ディナーのデリバリーは頼んだのか?」
「もう頼みました。プリントも順調です」
「よし、じゃあ先ずは、ハンナの誕生日を祝って乾杯しよう!」
「・・アドルさん・・アドルさんの考えとか計画とかを、全部私達に教えて下さい・・それがどんな事でも精一杯に手伝いますから、何でも言い付けて下さい・・アドルさんの負担を少しでも軽くしたいです・・アドルさんが明るく元気でないと、私達もダメになりますから・・」
・・ミーシャ・ハーレイが食べる手を止めて言う・・私は食べながら応えた・・。
「・・皆、食べながらで聴いてくれ・・時間が無い・・今から言うのは、私の考えの大前提だ・・この話は明日、プレ・フライト・チェックに入る前に、全員に向けても言う・・私は・・私を信頼して付いて来てくれる仲間を、誰一人として犠牲にはしない・・私や『ディファイアント』を守ろうとして、眼の前で犠牲になろうとする者がいたら・・私は必ず全力でそれを止める・・私の心や身体が、例え壊れる事になっても必ずそれを止める・・勿論そのような局面にならないよう、全力は尽くす・・それでもどうしてもそのような局面になってしまった場合には・・私は必ずそうするよ・・それがどうしても嫌なら・・私がそれをする前に、私をぶん殴って気絶させるか・・私が乱心したとして拘束して監禁するか・・精神衛生上の理由を付けて、私を艦長職から罷免したら良い・・・まあ・・心配しなくてもサード・シーズンが終わる迄・・そんな局面にはならないと思うよ・・多分ね・・だから・・そのような局面になったとしても、誰も傷付かずに無理なく対応できるようなやり方を・・私も考えるから君達も考えてくれ・・容れて置いて欲しい、私の考えの大前提がこれだ・・私の眼の前で・・仲間が戦死扱いになるなんて耐えられないんだよ・・ハイパー・モードで45分・・それまでに助けが来れば、私は大丈夫だ・・」
「・・分かり・・ました・・考えますし・・私達も全力を尽くします・・アドル艦長と一緒に・・私達も全力でそれを止めます・・」
・・シエナ・ミュラーが、私の眼を視ながら、ゆっくりとそう応えた・・。
「・・ねえ、リサさん・・最近、マーリー・マトリンさん以外で、アドルさんにモーションを掛けそうな人は、社内に居るの・・?・・」
・・エマ・ラトナーが、食べながら訊く・・。
「・・そう・・いますね・・1人・・警戒すべき人が・・」
「・・何て言う人・・?・・」
・・シエナとハルとリーアがエマの顔を強めに観たが、口に出しては言わなかった・・。
「・・アンヴローズ・ターリントン・・アドルさんが本社に来られて直ぐに一目惚れしたようですが、最近まで関わりはありませんでした・・それが業務提携プロジェクトの中で関係が出来たので、アプローチを掛けて来ています・・」
「・・リサさん、何もそこまで・・」
「・・いいえ、アドルさん・・スタッフの皆さんにも、知って置いて欲しい話です・・」
「・・結構、強力に来ているの・・?・・」
・・と、スープを飲み・食べながらハンナも訊く・・。
「・・ええ、かなり強いですね・・しかも油断できません・・それにアドルさんは、女性の押しに弱いですから・・」
「・・リサさん・・!・・」
「・・すみません・・ですが、本当に危険ですから・・」
「・・ふうん・・そうなんだ・・?・・それならもう1度、アドルさんの職場を皆で訪問して、見学がてら女性社員の皆さんを牽制した方が好いかも知れないわね・・?・・」
・・ハンナがそう言ってオレンジジュースを飲み干すと、シエナも食べる手を止める・・。
「・・ハンナ、エマ、その話は日曜日の夜に入港して、まだ憶えていたらしましょう・・今ここで、決めるべき話でもないから・・」
「・・分かった・・」 「・・了解・・」
・・2人がそう応えた頃合いで私は食べ終わり、コーヒーを飲み干して、ナプキンで口を拭った・・リサを見遣ると彼女も食べ終わって、ハーブティーを飲んでいる・・。
「・・よし・・リサさん、ちょっと行こう・・スコットとマーリーとズライから、ヘッドセット・ヴァイザーを借りて行きたい・・月曜日の朝に返すからって事でね・・?・・」
「・・分かりました・・」
・・私が立ち上がると、リサも応じて立ち上がる・・禁煙スペースに入ると、3人は同じテーブルに着いてまだ食べている・・歩み寄って事情を説明し、ヘッドセット・ヴァイザーを借用したい旨を要請すると、快く承諾してくれたので礼を言ってその場を離れ、リフトに乗って自分達のワーク・フロアまで上がり、3人のデスクからヘッドセット・ヴァイザーをケースごと取り上げ、そのままリフトで1階まで降りると私のエレカーのトランクに3つとも入れて閉めた・・ラウンジに戻ると皆は自分達で淹れたらしいお茶を飲んでいたが、私達を観ると直ぐに立ち上がった・・。
「・・ご馳走様でした、アドルさん・・それでは行きましょうか・・?・・」
・・シエナ・ミュラーが笑顔で言う・・。
「・・うん、行こう・・」
・・カウンターで支払いを済ませて駐車スペースに入る・・。
「・・先に紙とプリント・カートリッジを買ってから、ケーキを買いに行こう・・」
・・私の車にシエナとリサとハンナとリーアとフィオナが乗り、エマの車にハルとカリーナとパティとミーシャが乗って私の車から先に出る・・15分程走って普段からよく使っているステーショナリー・ストアに入り、B5サイズの紙を800枚とプリント・カートリッジを10セット買って出た・・メリッサ・エメリックさんの生菓子店を目的地にセットして走り出す・・。
「・・アドルさん、さっきはすみませんでした・・」
「・・何が・・?・・」
「・・女性の押しに弱いなんて言ってしまって・・」
「・・ああ・・別に間違いじゃないから、好いよ・・俺は普通の男だからね・・」
「・・アドルさんを押し倒そうとする女が居るとしたら、それは奥様の事を知らないか、奥様の事を理解できない女だね・・?・・」
・・と、リーア・ミスタンテがそう評すると、リサは頷いて・・。
「・・そうです・・それが彼女なんです・・」
「・・確かに危ないですね、そう言う女性は・・職場が同じだけに逃げ回れない・・なら、何らかの対処が必要でしょうか・・?・・」
・・そう言って、フィオナ・コアーは腕を組むが・・。
「・・そこ迄の危険人物じゃないし、話の解らない人でもないよ・・もし仮にどのように話しても解らないような人なら、こちらから彼女の扱いは幾らでも切り換えられる・・心配は要らないよ・・それに今ここでこれ以上話すべき必要も無い・・」
「・・分かりました・・」
・・それから25分の走行でエメリック生菓子店に到着した・・。
「・・御免下さい・・!・・」
「・・はい・!・いらっしゃいませ・・!・・何をご用意しましょう・・?・・」
・・呼び掛けに応えて現れたのは、30代半ばに観える長身でライト・マッチョな男性・・この方がご主人だな・・。
「・・初めまして、私はアドル・エルクと申します・・こちらにお邪魔させて頂くのはこれで3回目になりますが、メリッサ・エメリックさんはご在宅でしょうか・・?・・」
「・・初めまして、アドル・エルクさん・・妻からお話は伺っております・・ようこそおいで頂きました・・私は夫のトーマス・エメリックです・・以後、宜しくお願い致します・・生憎ですが妻は今『シムリット・サール』のスタッフの皆さん達と、開幕前最後のミーティングに出ておりまして不在です・・代わりにご用命を伺いますが、宜しいでしょうか・・?・・」
「・・ご丁寧なご挨拶をありがとうございます・・こちらこそ宜しくお願い致します・・実は私も『ディファイアント』のスタッフの皆と最後の打合せがてら、誕生会を行おうと思いましてバースデー・ケーキを求めに伺いました・・やはり開幕前日ですから、お互いに当然ですね・・それじゃ、何が好いかな・?・ハンナ・・?・・」
「・・そうですね・・ザッハ・トルテとガトー・ショコラのハーフホールでお願いします・・サイズは8号で・・」
「・・承知しました・・キャンドルはお付けしますか・・?・・」
「・・いえ、キャンドルは結構です・・」
「・・分かりました・・暫くお待ち下さい・・」
「・・メリッサさんにも申し上げましたが、とても雰囲気の好い素敵なお店ですね・・」
「・・ありがとうございます・・先日はお越しの際に、記念撮影をして頂きまして、ありがとうございました・・当店のサイトにて掲載させて頂きました処、お陰様で多くのお問合せを頂いております・・流石に有名な方は違いますね・・」
「・・いや・・これからはメリッサさん目当てのお客さんが沢山来るようになりますから、大繁盛しますよ・・!・・間違いありません・・」
「・・ありがとうございます・・そうなってくれると本当に嬉しいですし、有難いです・・さあ、仕上がりました・・お買上げ頂きまして、ありがとうございました・・お早目にご賞味下さい・・」
「・・ありがとうございます・・頂きます・・こちらにはいずれまた、人を連れて伺います・・」
・・そう言って支払いを済ませ、ケーキの箱を受け取る・・。
「・・それでは、また・・奥様に宜しくお伝え下さい・・」
・・そう言って会釈し、店を後にする・・車中ではハンナにケーキの箱を持って貰う・・ハンナの住むマンションを目的地に設定してスタートする・・到着迄の予定時間は50分強と出た・・。
「・・夕食は、ハンナのマンションからネット・デリバリーで頼もう・・その方が何でも好きな物を頼めるだろう・・?・・」
・・そう言って、15分後・・。
「・・シエナ・・さっき食った薬膳スープ・・ウィルにも食わせてやりたいな・・て言うか、早くウィルにコラントーニ兄弟を引き会わせてやりたいよ・・」
「・・ありがとうございます・・ウィルも喜ぶでしょう・・」
・・その後は特に話もせずに車を走らせ、ほぼ予定時間通りにハンナ・ウェアーの住むマンションの地下来客用駐車スペースに車を駐めた・・ヘッドセット・ヴァイザーのケースを持ってリフトに乗る・・ハンナの居宅は7階だった・・。
「・・いらっしゃいませ・・散らかっていますが、どうぞ・・」
「・・お邪魔します・・」
・・上がらせて貰い、ケースを置くとコートを脱いでリサに渡す・・女性の1人暮らしにしては、かなりレベルの高い居宅だ・・。
「・・ミルクティーとコーヒーを淹れるよ・・ひと休みしてから始めよう・・」
・・そう言ってキッチンに立ち、ミルクティーの準備とコーヒーを点て始める・・コーヒーの所望が5杯でミルクティーの所望が6杯だった・・茶葉にしても豆にしても、高いレベルの物が揃えられているし、用具にしても器具にしても機能的で使いやすい、好いセンスの物が揃えられている・・カップとソーサーの趣味も好い・・程無くして11杯が仕上がり、全員に配る・・私はコーヒーを持ってベランダに出て立ち、一服点ける・・風が無いからそんなに寒くない・・コーヒーを二口飲み、煙草を3服喫って蒸して燻らせた頃合いで、ハンナもベランダに出て来た・・。
「・・ハンナ・・私が送って行くって言った時・・データベースが出来てないのに、アドルさんが誘って来た・・どうしよう・?・って思ったか・・?・・」
「・・いえ・!・そんな・・事は・・」
「・・(笑)・私も説明不足だったけどな・・が、まあ・これだけ人数がいれば、データベースも早く仕上がるだろう・・ハンナの誕生日は、ちゃんと祝おうと思っていたんだよ・・以前からね・・」
「・・ありがとう・・ございます・・」
「・・あ!・ああ・・車から酒を持って来るのを忘れた・・データベースが仕上がったら取りに行くから、リフトの前で待っていてくれ・・気付かれるなよ・・?・・」
「・・あ・は、はい・!・」
「・・さっき、チラっと観えたんだけど、ギターが置いてあるね・・弾いてるの・・?・・」
「・・あ・たまにです・・まだまだ下手ですけど・・」
「・・借りても好いかな・・?・・」
「・・どうぞ・・嬉しいです・・」
「・・いつか、ツイン・ギターで演れたら好いね・・?・・」
「・・はい・・!・・」
「・・よし・・じゃあ、入ろう・・」
・・そう言ってコーヒーを飲み乾し、煙草を携帯灰皿で揉み消すとハンナを促して部屋に戻った・・。
「・・さあ・!・始めよう・・!・・ハンナ、固定端末を起動して原稿を用意してくれ・・ヘッドセット・ヴァイザーを起動して固定端末とリンク・・ここにある総ての端末を起動して固定端末とリンクしてくれ・・ヴァイザーは私とリサとハンナとカリーナで使用する・・携帯端末でも好いがPADの方が反応が早いから優先してくれ・・よし・・ヴァイザーを頭に装着してくれ・・ペルスペクティブ・フォーカスコントロールと音声入力も併用する・・固定端末のキーボードは私が使う・・ハンナ、譜面台を総て出して原稿を順番通りにセットしてくれ・・私が固定端末からそれぞれの端末に向けて指示を出すから、聴こえたり観えたら即時に実行してくれ・・確認や復唱は必要ない・・即時にやってくれ・・それぞれのヴァイザー、端末のリンクを確認・・アプリの状態を調整・・好いかな・・?・・最初はゆっくり始める・・それぞれの端末での作業状況は私が確認しつつ次の作業を指示するから、落ち着いて慌てずにやってくれ・・好いかな・・?・・少し待ってくれ・・固定端末での作業環境を整える・・」
・・私はテータベース作成用の作業ウィンドウを60個開き、状態を確認して作業環境を整えた・・4個の譜面台の上では、ハンナの書いた原稿が順番通りにセットされている・・そして自分の携帯端末を取り出し、会議室『DSC24』をブラウズして表示、メンバー認証をしてタイムラインに入り、端末をキーボードの左に見易いように立て掛ける。
ハンナ・ウェアーが書き上げた原稿を基に『ディファイアント』全乗員心理動向データベースと、ザンダー・プラン、ハイラム・プラン、ヤンセン・プランを基にして、最初の4日間での単艦訓練プログラム・プランを書き上げる準備が整った。
「・・よし・・始めるぞ・・スタート・・!・・」
・・心理動向データベースと訓練プログラム・プランの作成作業を同時に開始した・・全員に作業を割振り、指示を出してから自分でも始める・・全員の作業状況を確認しながら、私はスピード・モードで始めた・・作成は順調に進む・・10分毎に10%ずつスピードアップさせていく・・メンバーそれぞれの作業の進捗を確認しながら指示を出していく・・開始後50分でパワー・モードに入る・・皆落ち着いて作業を進めている・・一つの作業が終わってから次の作業を割り振って指示を出しているから、慌てさせるような事も無い・・私自身はパワー・モードの30%増しまでスピードを上げて、そこで維持した・・それから60分、最後の作業指示を分配して私自身は作業を終え、皆の作業状況を観察しながら全体を確認しつつ修正を加えていく・・それから30分で入力と修正を終えた私達は、ヴァイザーを装着しているメンバーでデータベースの全体を俯瞰してダブルチェックで確認し、最後にハンナ・ウェアーに確認して貰ってOKが出てから、私が保存してアップロードした・・。
・・ヴァイザーを外してスイッチを切る・・スピードはそれ程上げなかったが、皆の作業状況を観察しつつ作業指示を出していたからだったせいか、意外に疲れた・・関節と筋肉がかなり堅くなっている・・。
「・・誰か水を頼む・・」
・・そう言ってその場でストレッチ的な柔軟体操を15分程行い、うつ伏せに寝る・・。
「・・フィオナ、悪いがマッサージを頼む・・意外に疲れた・・皆、今のスピードがパワー・モードの30%増しだ・・」
・・フィオナ・コアーのマッサージに20分程身を委ねる・・漸く体が楽になって軽く感じられて来る・・。
「・・ありがとう、フィオナ・・」
・・礼を言って起き上がり、グラスを受け取って水を飲み干す・・深く息を吸って吐く・・やっと元に戻った・・。
「・・プリントアウトを始めてくれ・・それと、食事のデリバリーを頼む・・俺は車に戻って酒を取って来るから・・」
・・見遣るとハンナの姿が無い・・上手く出たのか・・手を振って大丈夫だとアピールし、廊下に出てリフトに向かう・・ハンナはドアの前で待っていた・・リフトに乗ってドアが閉まるとハンナの手を掴んで引き寄せ、抱き竦めて唇を重ねる・・1階に降りる迄数秒、お互いにキツく抱き締め合って唇を貪る・・1階に着いてドアが開いてから、お互いの身体を離した・・。
「・・誕生日おめでとう、ハンナ・ウェアー・・」
「・・ありがとう・・ございます、アドルさん・・それに、手伝って頂いて、ありがとうございました・・」
・・少し息が上がっている・・。
「・・いや、こっちこそ時間的にかなり厳しい仕事を君に頼んだ・・乗員総数で観れば、1人ではとても間に合わない仕事だったのに、原稿だけとは言え完璧に仕上げられていたのは、流石売れっ子心理学者のハンナ・ウェアーだな・・だから、君に無理な重圧を掛けてしまったのは私の誤りだった・・本当に済まない、悪かった・・このくらいの事にも気付けなかったんだから、俺は凄くも何ともないよ・・只の普通の女好きの男さ・・」
・・言いながら自分の車まで歩き、トランクを開けようと掛けた手をハンナは取り、自分の背に廻させると自分から唇を重ねて舌を絡めて来る・・さっき程激しくはないが、エロチックなセックスアピールは2倍以上だ・・ハンナは両手で私の顔を挟んで舌を絡めている・・これ以上されると膝から崩れ落ちそうだ・・足腰が覚束なくなってきた頃合いで、ハンナが私を離した・・。
「ふう、すごいね。惹き込まれそうだったよ」
「私も、イッちゃいそうでした♡愛しています♡アドルさん♡誰よりも♡」
「・・チーフは、どうするんだい・・?・・」
「・・シエナに任せます・・私より彼女の方が、あの人にはお似合いだと思うから・・」
「・・まだ時間はあるさ。ゆっくり考えれば好いよ。さあ、ハンナ・ウェアーの誕生会だ!時間が無いから密度を上げていくよ!?」
「はい!」
車のトランクを開けてブッシュミルズのボトルを取り出し、右手でハンナの腰を引寄せてリフトに向かう・・7階に上がる迄の間、また濃厚なキスを交わした・・玄関のドアを開けると、乾いた高い大きな音が連続して10数回鳴り響き、細かい紙吹雪や細い紙テープが吹き掛けられる・・クラッカーだ・・誰か用意していたのか・・。
「おめでとう!!ハンナー!」
「誕生日、おめでとう!!ハンナ!」
「なに、2人で抜け出してキスしてたのよー!!?」
「えー!?、何で知ってるのー?!」
「ああ、多分カリーナだよ。彼女がそこの固定端末で、地下駐車場の監視カメラをハッキングして覗いていたんだな」
「リフトの中も観てましたよ、アドルさん!」
「ズルいですよ!アドルさん!私達だって、もっとキスしたいのに!」
「分かった、分かった。悪かった。でも今日はハンナの誕生日だし、ハンナの開幕前の仕事はさっき全部終わったからさ、勘弁してくれよ。さあ、ケーキによく合うブッシュミルズを持って来たから、ケーキを酒のつまみにして呑もう。グラスを出して。ディナーのデリバリーは頼んだのか?」
「もう頼みました。プリントも順調です」
「よし、じゃあ先ずは、ハンナの誕生日を祝って乾杯しよう!」
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