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・・『開幕』・・

・・自宅壮行会・・

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・・午後の業務もスピード・モードで集中して取り組んだ・・パワー・モード迄レベルを上げると、疲れが残る・・今夜は自宅で壮行会だから疲れを残したまま帰りたくない・・15:00の休憩時間に休憩室で皆と同じテーブルに着いて紙コップのコーヒーを飲みながら一服していると、アンバーさんが話し掛けて来る・・。

「・・アドル係長・・今日の終業後にお時間、ありますか・・?・・」

「・・アンバーさん・・悪いんだけど、もう開幕まで忙しいんだ・・本来なら明日は月次決算集計業務で毎月一番神経を使う日なんだけど、僕は10時くらい迄しか出来ないんだよ・・その後はもう30分刻み位での予定でね・・来月の平日になら話を聞けるけど、それでも好い・・?・・」

「・・はい・・それでも大丈夫です・・お忙しい処なのに、すみませんでした・・」

「・・好いんですよ・・でも、DMだったら何時でも受け付けますけど・・?・・」

「・・あ・いえ・・私は、DMだと言いたい事の3分の1も言えない性質ですので・・」

「・・そう・・じゃあ、仕方ないね・・」

・・スコットもマーリーもズライも今夜の壮行会に来てくれるので、口を噤んで喋らなかった・・休み時間も終わって仕事に戻る・・また仕事に集中している内に、あっと言う間に終業時刻になった・・最後の記録作業と後片付けを済ませ、皆と挨拶を交わすとバッグを手に駐車スペースに降りる・・車に乗った処で携帯端末から通話要請の通知音が鳴り響く・・リサからだ・・」

「・・今、仕事が終わって出る処だよ・・どうしたの・・?・・」

「・・今夜の壮行会に出席します・・」

「・・大丈夫なの・・?・・」

「・・大丈夫です・・今日1日で、私に出来る事は総てやり終えました・・父も落ち着いて安定していますし、母と叔母と妹に任せます・・」

「・・意識は戻ったの・・?・・」

「・・はい、2時間ほど前に・・」

「・・ご家族に壮行会の事は伝えたの・・?・・」

「・・はい・・行かないと悔いを残す事になるだろうから、行ってらっしゃいと叔母にも言われました・・」

「・・そうか・・分かった・・19時までにね・・?・・」

「・・分かりました・・では、後程・・」

「・・ああ・・」

・・通話はリサの方から切れた・・直ぐにエレカーをスタートさせた私は、エスター・セーラ・ヴェレス女史がご主人と経営されている生花店に向かう・・。

・・30分弱で生花店の駐車スペースに車を乗り入れて、店内に入る・・。

「・・こんばんはー・!・お邪魔します・・!・・」

「・・いらっしゃいませ・!・あ!・アドルさん、いらっしゃいませ・!・こんばんは・・あ、今夜、ご自宅での壮行会でしたね、ご来店頂きましてありがとうございます・・それでは、どのようにお作りしましょうか・・?・・」

・・そこで私はアリソンの好きな花を5種類とアリシアの好きな花を3種類伝えて、組み合わせはお任せと言う事で花束を3つ作って欲しいとお願いした・・。

「・・どうもありがとうございます・・只今からお作りしますので、暫くお待ち下さい・・」

「・・宜しくお願いします・・あの・・今、ご主人はご在宅でしょうか・・?・・宜しければ、ご挨拶を申し上げたいのですが・・?・・」

「・・ああ、申し訳ありません・・主人は今、配達と仕入れに出ておりまして、まだ戻っておりませんので・・」

「・・そうですか・・分かりました・・残念ですが、仕方ありませんね・・同盟の主宰として、一度ご挨拶を申し上げようと思っておりますので、それでは、またの機会にお伺いします・・」

「・・ご丁寧にありがとうございます・・何時でもご来店ください・・」

「・・こちらこそ、ありがとうございます・・それで・・これは男性艦長達の生年月日が記載されておりますので、このまま進呈します・・」

・・そう言いながら小さいソリッド・メディアを取り出すと、彼女に手渡す・・。

「・・わあ・!・ご丁寧にありがとうございます・!・このまま頂いても宜しいんですか・・?・・」

「・・どうぞ、どうぞ・・こんな物は安いですから・・」

「・・分かりました・・それでは有難く頂戴致します・・あっ、ちょっとお待ち下さいね・・」

・・そう言って彼女は棚の上の保温ポットを取り上げると、カップにハーブティーを注いで手渡してくれる・・。

「・・どうぞ、飲みながらお待ち下さい・・まだ少し掛かりますので・・」

「・・ありがとうございます・・頂きます・・」

・・そう言って一口飲む・・。

「・・ああ、カモミールですね・・とても好い味わいです・・」

「・・ありがとうございます・・お詳しいんですか・・?・・」

「・・いや、秘書として就いてくれているリサさんのお母様がハーブティーマニアの方ですので、私も知るようになりました・・それにしても、好いお店ですね・・」

「・・ありがとうございます・・始めた当初には苦しい時期もありましたが、今では徐々に上向いて来ています・・」

「・・これからは間違い無く大繁盛しますよ・・2ヶ月後には貴女のファンでここはごった返すでしょうね・・弊社もこれから社用で花が必要な場合には、こちらのお店に注文するように提案させて頂きます・・」

「・・感謝します、アドルさん・・そうなったら本当に嬉しいです・・さあ・・これで・・出来上がりました・・如何でしょうか・・?・・」

・・そう言ってエスター・セーラさんは、出来上がった3つの花束を花束立てに立てて見せてくれる・・。

「・・素晴らしい・・形と色合いのコンビネーションですね・・こんなに素晴らしく奇麗な花束は見た事がありません・・妻と娘もきっと喜ぶでしょう・・」

「・・ありがとうございます・・精魂込めて作らせて頂きました・・」

「・・ああそうだ、セーラさん・・この花束立てを私達で挟んで写真を撮りましょう・・それをお店のサイトで飾って下さい・・幾らかの宣伝にはなるでしょう・・」

「・・アドルさん・・ありがとうございます・・深いお気遣いとご配慮に感動していますし、感謝します・・よく思い付かれますね・・?・・」

「・・なに、営業課の係長なら誰でも思い付きそうな事ですよ・(笑)・端末をカメラモードにして頂けますか・・?・・」

「・あ、はい・・これで・・お願いします・・」

・・と、彼女の携帯端末を受取り・・。

「・・分かりました・・それじゃ、ここに置いてですね・・私は左の花束を持ちますから、セーラさんは右の花束を持って下さい・・それで、真ん中の花束を挟んで立ちましょう・・それじゃ、セットしますよ・・3枚撮ります・・ハイ、笑って・?・」

・・2人とも花束を持って笑顔を作る・・シャッター音が3回響いた・・。

「・・セーラさん、すみませんが1枚をコピーして私の端末に送って頂けますか・?・記念に私のライブラリィに加えたいと思いますので・・」

「・・分かりました、直ぐに送らせて頂きます・・本当にどうもありがとうございました・・」

「・・こちらこそ・・お話が出来て好かったですよ・・」

・・支払いをビットカードで済ませて3つの花束を持ち上げて抱えた時に、彼女が申し訳なさそうに言う・・。

「・・あの、アドルさん・・お勤め先で催される接待の席を、お手伝いできなくてすみません・・」

「・(笑)・貴女がそんな事を気にする必要は無いんですよ、エスターさん・・誰にも得手不得手はありますし、貴女に執ってはこのお店でのお仕事の方が遥かに重要ですからね・・それでは、ありがとうございました・・スターティング・セレモニーでお会いしましょう・・それと、アドル・エルクが宜しく言っていたとお伝え下さい・・」

「・・分かりました・・ご丁寧にありがとうございます・・セレモニーでお会いしましょう・・どうぞ、お気を付けてお帰り下さい・・」

・・彼女の最後の言葉に対し笑顔での会釈で応えると、花束を抱えて店を後にした・・車の後部座席に花束を置いて運転席に乗り込み、メリッサ・エメリック女史がご主人と一緒に営む生菓子店を目的地に設定してコースをセツトし、スタートさせる・・件の生菓子店にも、30数分のドライブで到着した・・。

「・・こんばんは・・御免下さい・・お邪魔します・・アドル・エルクです・・」

「・あ・?!・あの・?・アドルさん・?・し、失礼しました・!・い、いらっしゃいませ・!・あ、あの、こんばんは・!・ごめんなさい・!・私、何言ってるんだろう・・?!・・」

「・(笑)・落ち着いて下さい、メリッサさん・・ケーキを買いに伺いました・・」

「・・あ・はい・ありがとうございます・・いらっしゃいませ・・!・そう言えば、今夜はご自宅で壮行会でしたね・?・当店にご用命を頂き、ありがとうございます・・何をご用意致しましょう・・?・・」

「・・それでは・・ベイクド・チーズケーキとプラム・タルトをハーフ・ホールで合わせて・・ガトー・ショコラとザッハ・トルテとガトー・バスクを3分の1ずつのカットで合わせて1つのホールとして・・ベリー尽くしの生クリーム・デコレーションケーキと、キルシュ・トルテをハーフ・ホールで合わせて下さい・・形態として、3つのホール・ケーキと言う構成でお願いします・・」

「・・分かりました、沢山のお買い上げをありがとうございます・・キャンドルはご用意致しますか・・?・・」

「・・いえ、キャンドルは結構です・・」

「・・分かりました、暫くお待ち下さい・・あの、そのテーブルの上の保温ポットにコーヒーを用意しておりますので、掛けて頂いて飲みながらでもお待ち下さい・・?・・」

「・・ありがとうございます、お言葉に甘えます・・宜しくお願いします・・」

・・そう応えた私は小さいガーデン・テーブルセットの椅子に座ってポットからカップにコーヒーを注ぎ、カップを取り上げて香りを確かめる・・。

「・・おっ、ブルー・マウンテンですね・・!・・しかもこの香りの高さは・!・かなり新鮮な豆ですね・・頂きます・・」

・・そう言って一口飲み、味を確認してもう一口飲む・・。

「・・ふう・・この豆の煎り具合も、私好みの深さです・・とても美味しいです・・」

「・・ありがとうございます、お詳しいんですか・・?・・」

「・・ええ、自分でもコーヒーにはかなりうるさい方だと思っています・・処であの・・今、ご主人はご在宅でしょうか・・?・・宜しければ、ご挨拶を申し上げたいのですが・・?・・」

「・・ああ、申し訳ありません・・夫は今、配達を含む営業と仕入れに出ておりまして、まだ戻りませんので・・」

「・・そうですか・・分かりました・・残念ですが、仕方ないですね・・同盟の主宰として、一度ご挨拶を申し上げようと思っておりますので、それでは、またの機会にお伺いします・・」

「・・ご丁寧にありがとうございます・・夫が戻りましたらお伝えします・・また何時でもご来店ください・・」

「・・こちらこそ、ありがとうございます・・それで・・これは男性艦長達の生年月日が記載されておりますので、このまま進呈します・・」

・・そう言いながら立ち上がり、小さいソリッド・メディアを取り出すと、彼女に手渡す・・。

「・・わあ・!・ご丁寧にありがとうございます・!・このまま頂いても宜しいんですか・・?・・」

「・・どうぞ、どうぞ・・こんな物は安いですから・・」

「・・お気遣いをありがとうございます、アドルさん・・感謝します・・これは有難く頂戴致します・・」

「・・どう致しまして・・ここにお伺いするのは、これで2度目ですが・・素敵なお店ですね・・開業されてどの位ですか・・?・・」

・・また座らせて頂いて、コーヒーを飲みながら訊く・・。

「・・2年弱になります・・始めて1年間くらいは苦しい状態が続きましたが、今では少しずつ上向くようになりました・・」

「・・ケーキはしっかりと作り込まれていますし味も素晴らしいですから、これからは間違い無く大繁盛するでしょう・・きっと2か月後には、ここは貴女のファンでごった返すようになるでしょうね・・」

「・・そうなってくれたら本当に嬉しいですし、有難いです・・さあ・・これで、ご用意出来ました・・8号サイズのホール・ケーキが3つと言う形になりました・・お車までお運び致します・・」

「・・恐縮です、メリッサさん・・ああそうだ・・こうしましょう・・この3つのホール・ケーキをこのテーブルに置いて頂いて、私と貴女で両側に座りましょう・・そのままを写真に撮って、お店のサイトの中で飾って下さい・・幾らかの宣伝にはなるでしょう・・」

「・・アドル・エルクさん・・本当にありがとうございます・・深いお気遣いとご配慮には感動と感謝しかありません・・でも、よく思い付かれますね・・?・・」

「・・なに、営業に携わる者なら誰でも思い付きそうな事ですよ・(笑)・それじゃあ、端末をカメラモードにして頂けますか・・?・・」

「・あ、はい・・これで・・お願いします・・」

・・と、彼女の携帯端末を受取り・・。

「・・分かりました・・それじゃ、ここに置いてですね・・3つの箱の上だけを開けて、こう並べましょう・・それでメリッサさんにはそちらに座って頂いて・・それじゃ、セットしますよ・・3枚撮ります・・ハイ、笑って・?・」

・・2人とも笑顔を作る・・シャッター音が3回響いた・・。

「・・メリッサさん、すみませんが1枚をコピーして私の端末に送って頂けますか・?・記念に私のライブラリィに加えたいと思いますので・・」

「・・分かりました、直ぐに送らせて頂きます・・本当にどうもありがとうございました・・」

「・・こちらこそ・・お話が出来て好かったですよ・・」

・・こちらでの支払いもビットカードで済ませて2人で3つのケーキを運び、車のトランクを開けて箱を並べて中に置いてトランクを閉める・・その後に彼女が申し訳なさそうに言った・・。

「・・あの、アドルさん・・お勤め先で催される接待の席を、お手伝いできなくてすみません・・」

「・(笑)・貴女がそんな事を気にする必要は無いんですよ、メリッサさん・・誰にも得手不得手はありますし、貴女に執ってはこのお店でのお仕事の方が遥かに重要ですからね・・それでは、ありがとうございました・・スターティング・セレモニーでお会いしましょう・・それと、アドル・エルクが宜しく言っていたとご主人にお伝え下さい・・」

「・・分かりました・・ご丁寧にありがとうございます・・セレモニーでお会いしましょう・・どうぞ、お気を付けてお帰り下さい・・」

・・彼女の最後の言葉に対して笑顔での会釈で応えると、握手を交わして運転席に乗り込む・・運転席のウィンドゥを少し開け、軽く右手を挙げてからスタートさせた・・。

・・最後に寄るのは酒屋だ・・昔から懇意にしている店で気兼ねなく来訪できるし、気兼ねなく中で出物を探せる・・艦長に選ばれてからは初めて来るので何を言われるだろうかと思っていたが、特段余所行きな物言いはされなかった・・。

「・・艦に持ち込むヤツを観に来たのかい・・?・・」

「・・それもあるけど、今夜はウチで壮行会でね・・出来たら女性受けの好いモルトがあったら好いんだけど・・」

「・・こっちに来な・・」

・・と、連れて行かれた先は、あまり観た事のない棚だった・・。

「・・へえ・・なかなか好いのがあるね・・じゃあ先ず『グレンフィデック』の18年・・次に『マッカラン』の18年・・それと『グレンリベット』の18年・・それにこいつは『ブッシュミルズ』かい・?・珍しいのがあるじゃないか・・じゃあこの4本を貰うよ・・」

「・・毎度、ありがとさん・・いつも買ってくれるしさ・・艦長への就任祝いって事で、4割引きにしておくよ・・」

「・・大丈夫なのかい、親父さん・・?・・」

「・・大丈夫だよ・・これからも買ってくれるんだろ・・?・・それじゃ、頑張ってな・・?・・」

「・・ありがとう、頑張るよ・・」

・・親父さんとも握手を交わし、ここでもビットカードで支払う・・親父さんは店のサイトを作ってない・・それでも結構繁盛しているのは、昔からの固定客が多いからだ・・両手で2本を持ち、親父さんも両手で2本を持って来てくれる・・車の助手席に4本を横並びに置いて、右手を挙げて挨拶して車をスタートさせた・・。

・・ここから自宅までは、20分程度で着ける・・そろそろ腹が減って来た・・。

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