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・・『開幕』・・

・・病院・・

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・・直ぐに搬送先の病院を目的地としてコースを再設定するが、やや遠い・・もう渋滞の時間帯は過ぎているが到着まで50分弱と出ている・・仕方ない・・これ以上速く行くには、空を飛ぶしかない・・到着してもまだ手術中か、もうある一定度の処置を受けてICUで絶対安静とされているだろう・・病院に到着するまで何も話さなかった・・空腹を感じ始めていたが仕方ない・・そのまま運転を続けて、到着予定時間を5分短縮して辿り着いた・・。

・・社長は手術室で施術中だ・・奥様のご様子が痛々しい・・待合室のベンチで、パメラさん・アマーリエさんと観られる女性2人に付き添われ、支えられて座っている・・到着したのは私達が最初のようだ・・お三方に歩み寄り、名前を告げて挨拶とお見舞いを申し上げる・・3人とも顔を上げて私を観たが、返礼を下さったのはパメラさんと観られる女性だ・・。

・・リサは私の左後ろに控えて立っている・・お三方ともリサを見遣ったが、お互いに何も言わない・・リサの表情は覗えないが、双方ともすごい自制力だ・・社長の様子は担当医師から聞く事にしよう・・失礼を申し上げて少し離れ、端末を取り出すとグレイス・カーライル副社長に通話を繋ぐ・・カーネル・ワイズ・フリードマン副社長と一緒に、ここに向っているとの事・・ハーマン・パーカー常務とエリック・カンデルチーフもそれぞれ別方向から向かっているだろうとも言われた・・役員達は全員社長の変事を報らされているが、取り敢えずリサの事を知らない役員は今の処ここに向っていないとの事で、私はリサとお三方にその事をさり気なく伝えた・・。

・・するとリサもお三方に歩み寄り、妹さんが間を空けたので奥様の右隣に座って両腕で奥様を抱き支えるようにして、言葉を掛けながら左手で奥様の背中を擦り始める・・通話を切って10分程で施術が終った・・担当医師が出て来たので全員で様子を訊く・・中等症程度の狭心症であったとの事で、心臓カテーテル検査で病変を描出して状態を確認した上で、そのまま経皮的冠動脈形成術に移行して特にトラブルも無く、成功裏に終了したと言われた・・。

・・正直、胸を撫で降ろす・・4人ともショックと悲痛と安堵の表情が入り混じって、泣いている・・無理もない・・現在はICUにて加療中だが、状態が安定すれば個室に移されるとの事だ・・頑健な肉体だし、生命力も強い・・不安定状態も改善されつつあるので、心配は要らないだろうと言われる・・勿論、そのまま入院と言う事だ・・私は医師に礼を述べて4人を見舞って労い、またグレイス副社長と通話を繋いで状況を説明した・・。

・・通話を終えるとリサとパメラさんとも話して、取り敢えず病院の売店で当座必要な物を買い揃え、後日に御宅から持って来ると言う話になる・・リサと一緒に1階の売店に向かう・・。

「・・好かったな・・?・・」

「・・ええ、ありがとうございます・・」

「・・落ち着いてな・・?・・」

「・・はい・・」

・・買い物を終えた頃合いで、2人の副社長が到着した・・1階のロビーで少し話してから、ICU病棟に上がる・・グレイス副社長は歩み寄ると膝立ちで座り、手を添えながらお三方を見舞い労う・・カーネル副社長も片膝立ちで腰を降ろして話を聴いている・・私はリサの右手を左手で握っている・・無事に収容できたとの事でICU病室の社長を見舞う・・麻酔が効いていて眠っている・・酸素吸入は受けているが、呼吸は自発で出来ている・・一安心だ・・点滴は3本・・暫くはこれが社長の命の綱だ・・少し熱が出たとの事で、頭をアイス・ピローの上に乗せられて額には氷嚢が当てられている・・顔色は好い・・一頻観て確認したので、外に出た・・。

・・リサも含めてご家族は、今夜病院にて宿泊される・・リサは明日休暇取得と言う事になった・・ウチでの壮行会は無理して来なくても好い旨を伝えたが、後で連絡すると私に返答した・・その頃合いでハーマン・パーカー常務とチーフ・カンデルが到着した・・グレイス副社長と私で状況を報告する・・改めて話し合って、私には帰着が指示される・・注目されていると言う事もあるし、大人数で居ても出来る事はあまりない・・今夜は常務とチーフで後を引き継いで様子を観ると言う事になり、他の人は帰宅する事となった・・宿泊の手配と準備を進めてそれも終わる・・面会時間ももう終わっている・・私はリサと暗がりの片隅で立ち、彼女の両手を握る・・。

「・・じゃあ、帰るよ・・お父さんは大丈夫だ・・そんなに心配しなくて良い・・仕事は俺達に任せて心配するな・・連絡を待ってるよ・・」

「・・はい・・分かりました・・ありがとうございました・・」

・・顔を寄せて軽くキスを交わすと、右手でリサの左肩を力付けるように優しく掴み、そのまま離れて外に出て病院を後にする・・車をスタートさせる前に端末をシステムとリンクさせ、マーリー・マトリンの携帯端末に通話要請を送信して車をスタートさせる・・。

「・・はい、マーリーです・・」

「・・僕ですけど、今は大丈夫・・?・・」

「・・大丈夫ですよ、どうかされましたか・・?・・」

「・・明日には社内でもある程度の規模で発表されると思うけど、君はリサさんの事情を知っているから君だけには今伝えるよ・・社長が中等症の狭心症で倒れて救急搬送されて、手術と処置は無事に終わってICUに入りました・・僕はリサと一緒に病院に行って担当の医師から話を聴いて社長の状態も確認したけど、社長は大丈夫だよ・・容体は安定しているし、ちゃんと診て貰っているから順調に快復すると思います・・リサはご家族と一緒に今夜は病院に宿泊して、取り敢えず明日は休暇になる・・これだけ君には伝えて置くから、明日リサが来ていなくても憶測的な事は言わないで欲しい・・好いかな・・?・・」

「・・はい・・分かりました・・誰にも何も言いません・・」

「・・結構・・だから・・ウチでの壮行会に彼女が来れるかどうかは分からない・・無理しなくても良いとは言ったよ・・後で連絡をくれるとは言って貰ったけどね・・」

「・・そうですか・・分かりました・・」

「・・以上だよ・・明日は朝早くから、今日社宅に搬入されて設置されたタンクベッドの説明を、アンバーさんからラウンジで聴いてるから・・明日のお弁当・・宜しくね・・?・・」

「・・はい!・美味しくて綺麗で栄養のバランスも良いお弁当にします・・!・・」

「・・ありがとう、マーリー・・楽しみにしてるよ・・それじゃお休み・・」

「・・お休みなさい・・お気を付けて・・」

「・・ああ・・」

・・通話を終えた私は、その後50分程で社宅に帰り着いた・・タンクベッドは寝室に設置されている・・予想より少し大きい・・おかげで寝室が狭くなった・・キットの状態で搬入して組み立てたらしい・・清掃は行き届いている・・説明される前からあれこれ触るのも危ないだろうから、やめておこう・・腹が減っているから手早く食事の準備をして食す・・食べ終わって片付けてから、ベランダに出てモルトを呑みながら一服点ける・・複雑な気分だ・・リサの心が心配だが、私が悩んでも仕方ない・・連絡を待つしかない・・シャワーは明日の朝に浴びる事にして、寝た・・。

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