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・・『開幕』・・

・・女性艦長達・・10・・

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・・カクテルグラスを持ったままカウンターの中から出た私は、またセットの中程で立った・・。

「・・こんにちは、初めまして・・ザック・オークマン艦長・・私が、『ディファイアント』のアドル・エルクです・・宜しくお願いします・・ちょっと祝い事がありましたので、失礼して一杯飲らせて頂いております・・貴方と『カオス・カスタリア』が【『ディファイアント』共闘同盟】への参画を希望したい、とのお申し出ですが・・それは、『カオス・カスタリア』のスタッフの皆さんとも協議の上で、意思統一をされての事でしょうか・・?・・少なくとも副長の方とは、統一見解を持って頂きたいと願いますが・・?・・」

「・・これは・・失礼致しました、アドル・エルク主宰・・改めまして軽巡宙艦『カオス・カスタリア』の艦長、ザック・オークマンです・・宜しくお願いします・・申し遅れましたが副長とは勿論、メインスタッフとも協議しましてそちらの同盟への参画を希望するとの意思は統一しておりますので、ご心配には及びません・・改めまして【『ディファイアント』共闘同盟】への参画を希望します・・」

「・・了解しました・・ザック・オークマン艦長・・しかしながら『カオス・カスタリア』を【『ディファイアント』共闘同盟】に参画させるか否かについて、私の一存に於いて今のこの場で決定する事は叶いません・・既に参画している各艦司令部との協議を経なければなりませんので、暫時頂く事になりますがそれでも宜しいでしょうか・・?・・」

「・・それでも結構です・・アドル・エルク主宰・・当然の対応と考えます・・協議の機会を設けて頂きまして、ありがとうございます・・感謝致します・・」

(・・俺は、今・・一体何を観てるんだ・・?・・全く関係の無い外部から、同盟への参画希望が来るなんて誰にも予測できなかっただろうに、アドルさんはあんなにもスムーズに彼と話している・・あの人だけが、これを予想していた・・)

・・ヤンセン・パネッティーヤは、持っているグラスをテーブルに置く事さえ忘れていた・・。

「・・さて・・それでは、ザック・オークマン艦長・・貴方がその情報を得たのは現在、世界で主流である5種類のオンライン・ソーシャル・ネットワーキング・サービスの内のどれでしょうか・・?・・」

「・・はい・・私は『パーソン・ファイル』と『パーソナル・コネクション』の双方でアカウントを持っておりますが、そのいずれにも艦長のグループが設置されております・・そしてその双方で貴方方を攻撃して排除すべしと主張し、艦長達に呼び掛けて煽動し、戦力を糾合しようとして動いている者がおります・・」

「・・どのくらい集まりましたか・・?・・また、貴方も誘われましたか・・?・・」

「・・はい・・誘われましたが、私はそのような行いに徒党を組むのが好みではないので断わりました処、従わないならお前の艦も攻撃すると脅されましたので、そのグループを抜けました・・双方のグループ共に抜けましたのでそれ以降の状況は判りませんが、抜けた当時の状況では双方とも20人程度が煽動されて集まっていたようです・・」

「・・貴方がその2つのグループを抜けたのは、いつですか・・?・・また貴方と同じように、他にそのグループを抜けた方はいらっしゃいますか・・?・・」

「・・4日前です・・それからスタッフ達と話し合った処、アドル・エルク艦長を頼ったらどうか・?・との意見も出されました・・そして昨日、【『ディファイアント』共闘同盟】が成立したのを受けて急遽協議し、参画への希望を申し入れようと決議した次第です・・そうですね・・私と同じように、気に入らない相手を連んで叩くような行いを好まない艦長が、2人いました・・ですがその2人は私が抜ける前に抜けましたので、今はどうしているのか判りません・・またこれは人伝に聞いた話ですが、残る3つのSNSサイト・・『インディビジュアル・ファイル』・・『プライバシー・ブック』・・『インディビジュアル・コネクション』の中にも既に艦長のグループが存在していて、これらの中でも同様に煽動者によって戦力の糾合が諮られているとの事です・・」

「・・成程・・5種類の主流SNSサイトの総てに艦長のグループが設置されていて、そのそれぞれの中に我々を攻撃して排除すべしと主張する煽動者があり、既にその5人の煽動者によってそれぞれのグループの中で、20人前後が糾合されていると言う状況ですか・・やはり・・100隻前後の敵性集団・・と言う事になるようですね・・しかし・・SNSサイトの枠を超えて、リーダーシップを執ろうとする程のキャラクターはいない・・?・・」

「・・はい・・そこ迄のリーダーシップを発揮できるようなキャラクターは・・私がグループを抜けた時点では、おりませんでした・・」

「・・そう・・煽動者同士でお互いに連絡を執り合う事は出来ても、お互いに我を張るだけで100隻前後をまとめ上げる迄には至れないだろうと・・?・・」

「・・はい・・そのように思います・・」

「・・分かりました、ザック・オークマン艦長・・貴重な情報をもたらして下さり、本当にありがとうございます・・これで我々も、その彼等に対しての対抗戦略を練りやすくなります・・貴方の勇気あるお申し出は称賛に値するものです・・これで我々は彼等に対して一歩を先んずる事が出来るでしょう・・重ねて、感謝申し上げます・・それでは、ザック・オークマン艦長・・私達はまだ生配信番組の途中ですので、貴方からのお申し出を俎上に乗せて協議するのは、この番組が終了してからと言う事になります・・この映像通話が終了次第、貴方のメッセンジャーIDアカウントと通話IDアカウントをテキストデータで『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社のメインサイトに送信して下さい・・こちらでの協議が終了次第、結果を返信させて頂きます・・それで宜しいでしょうか・・?・・」

「・・分かりました、アドル・エルク主宰・・それで結構です・・ご丁寧な対応とご配慮に感謝致します・・宜しくお願い致します・・」

「・・いや、勇気を以って映像通話を繋いで下さった事には、改めて感謝します・・どうぞ『カオス・カスタリア』のスタッフ・クルーの皆さんにも、宜しくお伝え下さい・・そしてこれからは、身辺にも充分にお気を付け下さい・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・ご丁寧な対応とお申し出、ご配慮には痛み入ります・・配信番組関係者の皆さん・・【『ディファイアント』共闘同盟】の皆さん・・そして、視聴されている皆さん・・突然にお騒がせ致しまして、申し訳ありませんでした・・この接続を解除しましたら、直ぐに私の通話アカウントとメッセンジャーアカウントを送信させて頂きますので、協議が終わりましたら結果の返信を宜しくお願い致します・・それでは、一先ずはこれにて失礼致します・・皆さんも開幕まで、ご機嫌良くお過ごし下さい・・」

・・通話は、彼の方から切られた・・少し温くなったジン・リッキーを飲み干して、グラスを近くのテーブルに置く・・。

「・・アランシスさん、そして皆さん・・少々お騒がせして、時間を頂きました・・黙認して頂きまして、ありがとうございます・・シエナ副長、ハル参謀・・皆さんへの2つの会議室に関する説明は・・?・・」

「・・はい、既に終わりました・・」

「・・完了しました・・」

「・・宜しい・・リサさん・・皆さんからの掌紋スキャンデータの採集と、暗号秘密通信回線設定用セットアップシステムデータの配布は・・?・・」

「・・はい、それらも総て完了しました・・」

「・・結構・・皆さん、突然にまた急な展開となりましたが、ご覧の通りの状況となりました・・ザック・オークマン艦長の『カオス・カスタリア』に付いての協議は、先程にウチの副長等が説明致しました艦長と副長の専用会議室『DSC24』の中で行います・・この生配信番組の終了直後からでも結構ですので、積極的にご意見を書き込んで下さい・・尚、この生配信中の意見表明はお控え下さい・・おそらく敵性集団の煽動者達も、この配信を観ています・・リサさん・・この番組が終了したら、アランシスさんからザック・オークマン艦長のアカウントを受け取って下さい・・?・・」

「・・分かりました・・」

「・・さて、皆さん・・開幕前にもう1度艦のセットを見学されるようでしたら、暗号秘密通信回線のシステムセットアップをお願いします・・メディアを挿したら、表示されるガイダンスに従って進めて下さい・・それでセットアップまで完了出来ます・・終わりましたら、参謀と機関部長専用の会議室『トゥルーダイス』にセットアップの完了報告をアップして下さい・・また・・重ねてですみませんが、皆さんに調査要請です・・皆さんがお持ちのアクセス・コードを使って、ザック・オークマン艦長と『カオス・カスタリア』を可能な限りに検索して判った事、推察出来る事を『DSC24』に書き込んで下さい・・宜しくお願いします・・さて・・ザック・オークマン艦長とのファーストコンタクトでした・・今ここで彼に付いての協議は始めませんが、皆さんから観た・・彼の印象だけお聴かせ頂けますか・・?・・」

「・・年の頃は36~38才・・若く観えますわね・・その年代で参加費用を自分で用意したとすると、相当優秀な方か相当裕福な家に生まれたかのどちらかでしょう・・あっ、アドル主宰・・とっても美味しいミルクティーと、ジン・リッキーですか・?・ありがとうございます・・美味しくて癒されて感動しました・・絶対また、無性に飲みたくなると思います・・」

・・そう言ってジーン・ヴィダル女史が、ジン・リッキーの味わいを確かめるかのように一口呑む・・。

「・・喜んで頂けて好かったですよ、ジーンさん・・それと、主宰は勘弁して下さい・・普通にアドルと呼んで下さって結構ですから・・」

「・・彼の話し方・・選んだ言葉・・口調・・抑揚から推察出来るのは、誠実さと真摯さですね・・彼が敵性集団から送り込まれたスパイである可能性を考えましたが・・ネガティヴ(否定的)です・・あれが嘘八百だとしたら、相当な演技派ですよ・・それとアドルさん・・私も美味しいミルクティーとライトカクテルを楽しませて頂きました・・ありがとうございました・・アドルさんは営業の方ですが、私の知る営業マンのイメージからは最も遠い方ですね・・特に人心を掌握する能力とテクニックで言えば、天才的な方です・・私が今迄に出会った男性の中では、1番凄い人です・・」

・・そう言ってジン・リッキーの残りを呑み干す、アシュリー・アードランド女史である・・。

「・・アシュリーさん・・褒めて頂けるのは有難いですが、私も普通の人間ですから間違う事もありますし、狙いを外す事もありますよ・・あまり普通の男を褒め過ぎない方が良いです・・それに、上には上がいます・・最少でも1000人の艦長は私よりも確実に優秀です・・そうですね・・今ここには、演技の専門家が10人以上いらっしゃいますから、先程のザック・オークマン艦長の話が演技である可能性については、どう思われますか・・?・・」

「・・私もアシュリー・アードランド艦長と同様にネガティヴ(否定的)ですね・・どんなに上手い役者でも、あそこまで素を装って演技と言うか嘘は吐けないものです・・もしもあそこまで自然に違和感なく嘘が吐けるとしたら、彼は自分の意思で自分の中に全く別の人格を自由に創り出せる人と言う事になるので、否定的なポイントしか無いと思います・・アドルさん・・美味しいコーヒーとライトカクテルを、どうもありがとうございました・・ご馳走様でした・・」

・・と、『ロード・ガラン』のリンデン・アーミセン副長が応えた・・うん・・ベテランの役者さんらしい、尤もな話だ・・支持できる・・。

「・・ありがとうございます・・リンデン・アーミセン副長・・私も同様にネガティヴですね・・ザック・オークマン艦長に嘘は無いと思います・・」

「・・ハイラムさん・・ヤンセンさん・・アドルさんの素晴らしさと言うか凄さは、凄まじい洞察力・・鋭い直感・・優しく誠実な語り・・凡ゆる物作りに於ける天才的才能・・驚異のタイピングスピード・・歌とギターの才能・・他にもあるんでしょうけど、取り敢えず総てを拒絶・否定せずに容認して、正当に評価した上で応える姿勢が、人を惹き付けて惹き込むのでしょうね・・?・・」

「・・全く同感ですね、ザンダーさん・・彼を敵にしなくて本当に良かったよ・・全く勝てる気がしない・・」

「・・僕も全く同感ですよ、ザンダーさん・・もう一つ言えるとしたら、あの優しいアドルさんがもしも怒ったら、怒らせた奴は確実に地獄を観ますね・・」

「・・さて、次はどうしましょうか・?・アランシスさん・・?・・」

「・・あの、アドルさん・・どうして判ったのですか・?・外部から同盟への参画希望が来ると・・?・・」

「・・ああ・・申し訳ありませんが、はっきりとは応えられません・・何となく、そう感じていた・・とも言えますし・・ただ・・ある一つの方位に力が集まるなら、対するもう一つの方位にも力が集まる・・と言う考えはありました・・」

「・・そうですか・・分かりました・・それで・・やはり、100隻前後の敵性集団・・と言う事になるようですが、どのように対抗されますか・・?・・」

「・・どうしても戦闘が避けられない、と言う状況になるのなら、基本的に各個撃破戦術で対抗します・・細かい部分は臨機応変に対応する、と言う事で・・」

「・・避けられるものなら、戦闘は避ける方針ですか・・?・・」

「・・そうですね・・基本的に戦闘は避ける方針で行きます・・まあ、こちらがその方針でも、突っ掛かって来る艦は突っ掛かって来ますがね・・戦闘で経験値を上げるのは、コスパが悪いですよ・・我が同盟は、基本的にチャレンジ・ミッションクリアで経験値を上げる方針で行きます・・」

「・・そして行く行くは、重巡宙艦とも亘り合おうと・・?・・」

「・・いや・・それは、フィフス・シーズンの終盤に入っても難しいでしょう・・軽巡が重巡と互角に亘り合うとしたら、軽巡30隻分くらいの経験値を積み上げないと、お話にもならないと思います・・と言うか、アランシスさん・・今日の主役はこちらの皆さんですから・・皆さんからお話を引き出した方が、番組として良くないですか・・?・・」

「・・アドルさん・・少なくとも私は貴方に対して全幅の信頼を寄せています・・貴方の指示には総て従います・・」

・・そう言って立ち上がり、私の顔を観たのは、エイミー・カールソン女史だ・・私も立ち上がって彼女と視線を合わせる・・。

「・・エイミーさん・・そして皆さん・・主宰と言う言葉は使いたくないのですが、敢えて・・その立場で皆さんに最初の指示を伝えます・・私を信頼して下さるのは結構ですし、多大に感謝しますが盲信は禁物です・・私も普通の人間ですから、時に間違いますし見当外れの発言もあるでしょう・・私の姿勢・態度・言動に違和感を感じたら、すぐさま指摘して下さい・・それが今後の成功と失敗を分ける事にもなり得ます・・これが、私から皆さんへの最初の指示です・・宜しいでしょうか・・?・・」

「・・了解しました・・」

・・エイミーさんはそれだけ言って着席し、他の皆は無言で頷く・・見渡してそれを確認してから、私も座った・・。

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