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・・『開幕』・・

・・女性艦長達・・6・・

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・・食事中の社員の皆さんから、再び歓声と拍手が湧き起こる・・。

「・・遅くなってすみません・・あちこちを探したんですが、これしか見付けられませんでした・・」

「・・ああ、大丈夫ですよ、デザレーさん・・わざわざすみません・・ありがとうございました・・結構好いギターじゃないですか・・充分です・・」

・・そう言いながら彼女からギターを受け取る・・一見して、あまり手入れが為されていないと言う事は判る・・弦も張りっ放しにされていて、しかも古い・・がまあ・・1曲弾き語るくらいなら、充分だろう・・ストラップを肩に掛けて立ち上がり、チューニングに入る・・これに暫く時間が掛かった・・なかなか合わない・・5分程を掛けて、何とか満足のいく状態にまで持っていった・・軽く掻き鳴らしながら最終調整を済ませて、『・・たとえ世界中に嫌われても・・』のイントロに入る・・。

・・少しテンポを落としてゆっくり目に入り、情感を込めて歌い始める・・周りの皆さんもしわぶき一つ発せずに聴き入ってくれていたので、こちらも自然と情感が高まっていく・・そのまま・・ゆっくり目のテンポで情感を高めた状態で保持して推移させ、情感を高めた状態のままで最後まで謳い上げて、余韻を曳かせるようにしてフェイドアウトさせた・・。

・・絃を押えて余韻を止め、頭を下げる・・また万雷の拍手と歓声が湧き起こる・・笑顔で周りの皆さんを広く見渡しながら再度のチューニングを行い、幾つかのパッセージを弾いてから『夢の船乗り』のイントロに入る・・これも情感を強く込めて歌うのだが、ちょっと早目のテンポで少し軽快な感じで歌い出した・・そのままテンポは変えずにもっと情感を高めて歌唱を推移させ、クライマックスのサビをリフレインさせてスパッと終わらせるつもりだったのだが、最後のストロークで3絃が切れて跳ね跳んだ・・指先に痛みは感じたが切れてはいなかった・・ストラップを肩から外してギターをテーブルに置き、頭を下げる・・三度万雷の拍手と歓声が湧き起こる・・笑顔でラウンジ内を見渡しながら静まるのを待って口を開く・・。

「・・皆さん、ご静聴、ありがとうございました・・ここで歌わせて頂くのは2度目なんですが、この前よりは緊張もせずに気持ちの良い弾き語りが出来ました・・皆さんも気持ち良く聴いて頂けたのでしたら、私も嬉しいです・・お借りしたギターですが3絃が切れてしまいましたので絃は外して置きます・・新しい絃を附けられましても、張りっ放しにはして置かない方が好いですね・・ネックが反ってしまいますので・・それと、また美味しい昼食のご相伴に与る事が出来まして嬉しかったですし、本当に助かりました・・ご馳走様でした・・ありがとうございました・・我々はここで一先ず失礼させて頂いて控室に戻りますが、デザレー・ラベルさんにお願いがあります・・私の車に『ディファイアント』に持ち込む予定のギターが積まれているのですが、それを携えてスタジオに入りたいと思いますので申し訳ないのですがガードステーションの方にご連絡して頂いて、控室かメイクルームかスタジオに届けて頂けないでしょうか・・?・・結果として使わなかったとしても、それはそれで構いませんし・・弾き語り一つで場を和ませる事が出来て皆さんとも打ち解けられるのなら、これ程に安い事はありません・・ので、宜しくお願い致します・・それではこれで失礼させて頂きますが、食器を返却口に持って行きますので宜しくお願いします・・以上です・・またお会いしましょう・!・」

・・そこで私は話を終えて、ギターから絃を外して傍らに置き、食器を重ねて返却口まで持って行こうとしたのだが、人の列が長く混んでいて近寄れそうにもない・・すると周りの社員の皆さん方が手渡しリレーで食器を返却口まで運んでくれた・・私達は繰り返しお礼を述べながらラウンジを後にして控室に戻った・・。

「・・ここの社員の皆さんって、すごく好い方ばかりなんですね・・?・・感動しました・・」

・・と、シャロン・ヒューズさんが感じ入ったように言う・・。

「・・そうだね・・僕もここの皆さんにはすごく感謝しているし、感動もしているんですよ・・それで・・デザレーさんが迎えに来るまで、どのくらいかな・・?・・」

「・・10分程ですね・・」

・・シエナが教えてくれると思っていたが、ローズ・クラークさんが応えてくれる・・。

「・・ああ・・そうなんだ・・ありがとう・・それじゃ、一服するぐらいしか出来ないね・・」

・・そう言ってポケットから煙草を取り出したが、一本を取り出す前にカバーを開けたシガレットケースが差し出される・・。

「・・ハイラムさん・・貴方からそう何本も頂けませんよ・・自分のがありますから・・大丈夫です・・」

「・・アドルさん・・私が差し上げるこの一本は、先程に貴方が披露して下さった素晴らしい演奏と歌声とお話に対しての、返礼です・・どうぞ取って下さい・・強く感動させて頂きましたし、大変に感銘も受けました・・」

「・・分かりました、ハイラムさん・・そこまで仰って頂けるんでしたら、遠慮なく頂きます・・ありがとうございます・・」

・・そう応えて一本を受取る・・ライターを取り出そうとする彼を制して、自分のライターで火を点けて喫い、燻らせる・・。

「・・アドルさん・・喫煙されるとビタミン C が破壊されますので、こちらをどうぞ・・?・・」

・・アレクシア・ランドールさんが、グラスをレモンジュースで満たして渡してくれる・・お礼を述べて受取り、一口飲んでその酸っぱさに驚く・・。

「・・う・!・これは・・!?・・100%ですね・・?!・・ありがとうございます・!・頂きます・・」

・・一服蒸す毎に一口飲む・・これはこれで、なかなかイケる・・。

「・・アドルさん・・僕も感動させて頂きました・・素晴らしい演奏でしたし、非常に魅力的な歌声でした・・ありがとうございました・・まあ、ギターがショボかったんで、ちょっとアレでしたけどね・・もっと良いギターだったら、もっと好い演奏だったでしょうね・・僕もちょっとギターを弾くんで、解ります・・」

「・・ありがとう、ヤンセンさん・・最後で3絃を切っちゃったんだけど、指まで切らなくて良かったよ・・皆さんは如何でしたか・・?・・」

「・・とっても素敵で素晴らしかったです・・演奏も歌も・・感動して鳥肌が立っちゃって涙が出ました・・2曲とも素敵でした・・生で観れて聴けて好かったです・・ありがとうございました・・想像以上でした・・」

・・アレクシア・ランドールさんが、両手で両腕を擦りながら興奮気味に言う・・。

「・・僕も感動させて頂きましたし、魅了されました・・ありがとうございました・・もっとコンディションの良いギターだったら、更に感動したと思います・・素晴らしかったです・・」

・・ザンダー・パスクァールさんがそう言いながら握手を求めて来る・・ガッチリと交わし合った・・。

「・・ありがとうございます・・喜んで頂けて、好かったです・・」

「・・私も感動させて頂きました・・とっても素敵な演奏と歌声でした・・涙ぐむほどでした・・2曲とも素晴らしかったです・・ありがとうございました・・ウチのヤンセン艦長も時折ギターの弾き語りで歌って下さるんですが・・申し訳ないですけれども、断然上でした・・」

・・シャロン・ヒューズさんが、ヤンセン艦長を気にしながらも言い切る・・私が彼を見遣ると、笑顔を見せた・・。

「・・大丈夫ですよ、アドルさん・・自分でも充分に自覚していますんで・・」

「・・私も皆さん同様に、とても感動させて頂きました・・歌にも演奏にも・・そしてお話にもアドルさんの人柄が、とても好く顕れていると感じました・・素晴らしかったです・・ありがとうございました・・『ディファイアント』のクルーの皆さんは、よくアドルさんの歌を聴かれているのでしょうね・・?・・何だかとても羨ましいです・・でも・・アドルさんは憶えていらっしゃいませんか・・?・・あの時・・私にもギターを弾きながら歌って下さいましたよね・・?・・」

「・・ローズ・・アドルさんに会った事があるのか・・?・・」

・・ハイラムさんが驚いている・・ローズ・・さん・・?・・。

「・・ローズ・・って・・あの・・ローズ・・ちゃん・・??!・・あの時・・ロースクールの確か・・3年生だった・・?!・・」

「・・そうです・!・その時のローズです・!・あの時のアドルさんはハイスクールの3年生で、3ヶ月くらいしか勉強を観て貰えませんでしたね・・?・・」

「・・へえ~・・あの時のローズちゃん・・すごく綺麗になったね・・女優さんになったんだから当然か・・顔にソバカスを散らして、元気に跳び跳ねてた娘だったけど・・?・・」

「・・もう・!・アドルさん・・!・・恥ずかしいですから、あまり言わないで下さい・・」

「・・ご近所だったのですか・・?・・」

・・と、ハルが訊く・・。

「・・ええ・・僕がハイスクールを卒業する迄、お互いの実家が歩いて20分ぐらいだったかな・?・そのぐらいの近所でしたね・・お互いの母親が友人として仲が良かったので、彼女の勉強を時折に観てあげていました・・大学進学に伴って入寮する事になったので、僕が実家を出て以来は交流がありませんでしたが・・まさかここで再会するとはね・・僕の事はいつから気付いていたの・・?・・」

「・・選ばれた20人の艦長が発表された時に気付きました・・アドルさんに選んで欲しかったですけど、選んで貰えませんでした・・」

「・・そう・・僕が貰ったクルー候補者リストに、君は載っていなかったからね・・」

「・・残念です・・」

「・・世間とは狭いものですね、アドルさん・・」

「・・全くですね、ザンダーさん・・」

・・そう応えた時にドアがノックされて、デザレー・ラベル女史がギターケースを携えて入室した・・。

「・・お待たせ致しました・・アドルさん・・ギターをお持ちしました・・そして皆さん、メイクルームへご案内致しますので、私に続いておいで下さい・・」

「・・ああ、デザレーさん、わざわざどうもありがとうございます・・助かります・・それでは皆さん、行きましょう・・!・・」

・・そう応えてギターケースを受取ると、彼女に続いて控室から出る・・皆も続いて出て来る・・メイクルームは4階にある、以前にも入った処だ・・他の艦長と副長の皆さんを先に入らせて私は、廊下のベンチに座ってケースを開けるとギターを取り出し、新品の絃を取り付けていってチューニングを始める・・流石にさっき弾いたギターとは格段に違う・・チューニングも3分程でピシッと合った・・ハーモニクスを様々に響かせて調整を施し、ネックとボディを軽く拭き上げてケースに戻した・・。

・・ギターケースを持ってメイクルームに入る・・まだ半数ぐらいしか終わっていない・・ケースを隅に立て掛けて、腕を組んで立って待つ・・メイクと言っても、大した事を施す訳じゃ無い・・ふと思い出してリサに訊く・・。

「・・そう言えばさっき、厨房に入ったよね・?・どうして・・?・・」

「・・ちょっとしたサプライズを考えました・・スタジオに入れば、解ると思いますよ(微笑)・・」

・・そう応えたリサは、悪戯っぽく微笑む・・少し気になるが、まあ良いだろう・・。

・・次々とメイクが施されて終わっていき、私の番になる・・私達が主役ではないからメイクと言っても簡潔なものだ・・10分少々で終わった・・今日の主役は女性艦長達とおそらく男性芸能人副長達・・オブザーブ・アドバイザーとして呼ばれた我々だが、10人もいて大丈夫なのだろうか・・一抹の懸念を感じつつも全員が終わった・・。

「・・皆さん、お疲れ様でした・・それではスタジオにご案内しますので、私に続いておいで下さい・・」

・・と、デザレー・ラベル女史が我々を促してメイク・ルームから出ようとする・・。

「・・もうメイン・ゲストの皆さんは、お集まりなんでしょうか・・?・・」

・・と、ヤンセンさんが訊く・・。

「・・もう本番30分前ですので、お集まりの筈です・・」

「・・分かりました、行きましょう・・」

・・そう応えて左手でギターケースを持ち、彼女の後に続いて出る・・。

・・皆で彼女の後に続いて5階のスタジオに入る・・今日組まれている撮影セットは2種類・・高級ソファー30個を20個と10個で2列に分けて、座って対面になるように並べられている・・2列の間隔は2m程だ・・もうひとつのセットは昨日も観た・・カフェダイナーの店内を模したようなセットだが、規模が昨日の3倍はある・・これなら30人全員で座っても不自然には観えないし、違和感も無いだろう・・ギターケースをダイナーの片隅に立て掛けると、アランシス・カーサー・マスターディレクターが歩み寄って来る・・。

「・・どうも、皆さん・・アドルさんを始めとして、こんにちは・・アランシス・カーサーです・・ようこそ、おいで頂きました・・本日の司会を担当させて頂きますので、どうぞ宜しくお願いします・・もう本番まで30分を切りましたので、どうぞ入って暫くの間、お寛ぎ下さい・・」

・・そう言って、私達をセット内へと促す・・今日のメインゲストである女性艦長達と男性芸能人副長達はもう全員が来ていて、それぞれ思い思いにカウンター席に着いていたりテーブル席に着いていて、好みの飲み物で満たしたカップやグラスを前に置いている・・空いている席は彼等を通り過ぎた奥のテーブル席しか無いようだ・・私達はゆっくりと歩き出して、私達を見詰める彼らに笑顔で会釈しながら通り抜けて奥のテーブル席に着いた・・。

・・私はリサと並んで座り、対面にシエナとハルが座る・・ハイラムさんとローズさんはシエナとハルの後ろ側のテーブルに着き、ヤンセンさんとシャロンさんは私とリサの後ろ側のテーブルに着き、ザンダーさんとアレクシアさんは私達の座るテーブルの右隣のテーブルに座った・・。

「・・ふう・・ちょっと緊張して来たね・・ねえ、そろそろ教えてよ・・サプライズも好いけど、私が知らないのはマズいんじゃないの・・?・・」

・・と、リサに顔を向けて小声で訊く・・。

「・・そうですね・・実はこのセットのカウンターバックに、コーヒーをも含む様々なお茶を点てて淹れられるように、一通りの材料と用具の一式を揃えて頂けるように、お願いしに行きました・・」

「・・そうか・!・私が彼らにお茶を淹れて振る舞う事で、和んで貰おうと言う作戦・・?・・」

「・・そうです・・」

「・・用意してくれるって・・?・・」

「・・はい・・もう揃えられている筈です・・」

「・・それは好いアイデアですね・・アドルさんの淹れるお茶を飲んで、和まない人はいないでしょう・・」

・・と、ハル・ハートリー・・。

「・・リサさん、グッジョブ・!・」

・・と、シエナ・ミュラー・・。

「・・ありがとうございます・・」

「・・問題は、どう言う風に話を持って行くか、だな・・?・・」

「・・その点は、我々に任せて下さい、アドルさん・・話し合いを続けていればお茶も飲みたくなるでしょうから、頃合いを見計って私から提案させて頂きますよ・・後はザンダーさんやヤンセンさんにもプッシュして頂ければ、スムーズに行くでしょう・・」

・・と、ハイラムさんがシエナとハルの向う側から応えてくれる・・。

「・・ありがとうございます、ハイラムさん・・心強いです・・宜しくお願いします・・」

「・・このくらいのお膳立てはサポートさせて頂きますよ、アドルさん・・任せて下さい・・」

・・そう言ってヤンセンさんが、私の後ろから振り向いて私の右肩をポンと叩いた・・。

「・・ありがとうございます、ヤンセンさん・・お願いします・・」

「・・アドルさん・・貴方が答え難いような事や話し出し難いような事は我々が担当して話しますから、任せて安心していて下さい・・それ位の事が出来なければ、同盟の首脳部とは言えないでしょう・・」

「・・ありがとうございます、ザンダーさん・・頼りにしてます・・」

・・その時に、セカンド・プロデューサーのミンディ・カーツ女史が、セットに入って来て告げた・・。

「・・皆様、お待たせ致しました・・間も無く本番となりますので、あちらのソファーセットの方への移動をお願いします・・」

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