『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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・・『開幕』・・

・・シエナ・ミュラー 3・・

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・・その後程無くしてシエナ・ミュラーをエレカーに乗せた私は、パーキングエリアから出た・・彼女は走り出すと直ぐハル・ハートリーにコールし、スピーカーに切り換えた・・。

「・・シエナ・!・アナタ、私の言った事聞いてなかったの・!?・あれ程アドルさんに恥を搔かせるなと言ったでしょ・!?・アドルさんにお姫様抱っこを強要するなんて、どういう積りだったのよ・?!・・ハンナもアナタも・!・これからのアドルさんは艦長としてだけの立場じゃない・!・同盟のリーダーなんですからね・!・もっと自覚・自重して浮ついた態度や言動は慎んで、しっかりとサポートしなきゃダメじゃない・・!?・・」

「・・ごめん・・ハル・・」

「・・ハハ・・ハル参謀・・もうその辺で勘弁してやって良いよ・・もう充分に反省しているようだから・・」

「・!・アドルさん・!?・一緒に居るんですか・・?・・」

「・・そう・・今社宅に帰る途中なんだ・・リサさんはカウンセラーに送って貰ったよ・・君の言う通り、同盟のリーダーになったもんだから仕事が大幅に増えてね・・副長にも手伝って貰って少しでも進めたい・・どんなに進めても間に合うかどうか、ギリギリだよ・・それで君にも頼みがふたつある・・」

「・・はい・・何でしょうか・・?・・」

「・・ひとつは明日の生配信にカウンセラーと交代して、君に出演して欲しい・・こちらとしては私と副長と君とリサさんだ・・配信開始は14:00からだけど、30分前にはスタジオに入って欲しい・・好いかな・・?・・」

「・・分かりました・・出演します・・」

「・・スタジオは5階だ・・ガードステーションで止められて訊かれるからPIDカードを見せて、私の補佐で来たと言えば好い・・場所は分かるね・・?・・」

「・・分かります・・」

「・・OK・・もうひとつは、明日出演する10人の女性艦長と、彼女らが連れて来るであろう10人の男性芸能人副長についてを出来得る限りに調べて、明日の朝9時までにメッセージで送って欲しいんだ・・好いかな・・?・・」

「・・了解しました・・出来得る限りに調べて、その時間までに送ります・・」

「・・こんな話題はマズいとか、こんな話し方はマズいとかの注釈を付けて貰えると助かる・・」

「・・分かりました・・気が付いた事があれば、書きます・・」

「・・ありがとう・・助かるよ・・感謝します・・今日の生配信が始まるまで、同盟は2隻からスタートする積りだったんだ・・だからメインスタッフ・ミーティングの議題にも掛けていなかった・・考える暇も無く出来上がってしまった同盟だけど・・君達には申し訳ないと思っているよ・・」

「・・そんな・・私達の事は気にしないで下さい・・私達は、アドルさんに付いて行けるだけで幸せなんですから・・」

「・・本当にありがとう・・泣かせるセリフだな・・それじゃ、明日も宜しく頼むよ・・?・・」

「・・分かりました・・お休みなさい・・シエナ・・しっかりしなさいよ・・」

「・・分かったよ、ハル・・お休み・・」

・・回線は閉じられた・・。

「・・シエナ・・これでリサに繋いでくれ・・彼女にも同じ事を頼みたい・・」

・・そう言うと、自分の携帯端末をポケットから取り出して副長に手渡す・・。

「・・分かりました・・」コールを掛けると通話は直ぐに繋がった・・。

「・・ああ、僕だけど頼みたい事があるんだ・・好いかな・・?・・」

「・・好いですよ・・どうぞ・・」

「・・明日の生配信で集められる10人の女性艦長と、彼女達が連れて来るであろう10人の男性芸能人副長の事を出来得る限りに調べて、明日の朝9時までにメッセージで送って欲しいんだ・・好いかな・・?・・」

「・・分かりました・・出来得る限りに調べて、朝9時までに送ります・・」

「・・その際に、この話題はマズいとか・・こんな話し方はマズいとか・・そのような事に気付いたら、注釈として書き添えて貰えると助かる・・」

「・・分かりました・・気が付いた事があれば、書きます・・」

「・・助かるよ・・宜しく頼みます・・明日は30分前までにスタジオ入りと言う事で頼むね・・?・・」

「・・分かっています・・アドルさんも無理はしないで、今夜は早く寝んで下さい・・疲れていますよ・・?・・」

「・・ありがとう・・無理はしないで早く寝るよ・・それじゃあお休み・・」

「・・お休みなさい・・」

・・通話は終えられた・・端末を受取ってポケットに仕舞う・・。

「・・ありがとう・・シエナ・・リサから掌紋スキャンデータのコピーは貰ったね・・?・・」

「・・貰いました・・」

「・・よし・・帰る前に店に寄るから君の着替えと、明日着て行く服を選んでくれ・・?・・買うから・・」

「・・はい・・あの・・今夜は泊まるんですか・・?・・」

「・・そう・・泊って貰うよ・・やる事が多いからね・・?・・」

「・・はい・・分かり・・ました・・」

「・・ハンナはハルと交代する事になって、不満そうに観えたかい・・?・・」

「・・そんな程でも無かったと思います・・残念そうではありましたが・・でも確かに全乗員の心理動向データベースの作成は遅れていますので、納得はしていたようです・・実は、本社に向かっている時にハルから通話がありまして・・あなた達2人でアドルさんのサポートは大丈夫なのかと訊かれました・・その時に私が配信終了直後にハンナがアドルさんに抱き付いた事を話すと、ハルがハンナにアナタは私と交代しなさいと指示しました・・」

「・・フ・・参謀らしいな・・シエナ・・ナビのモニターに、ニュースサイトを出してくれ・・もう報道されているのか・・?・・」

・・2.3のニュースサイトを閲覧したが、どこでもお姫様抱っこのシーンは大きく採り上げられている・・別にセンセーショナルと言うほどでもなかったが・・。

「・・アドルさん・・本当にすみませんでした・・もっと自制するべきでした・・」

「・・別に構わないよ・・恥を掻いたなんて言う体でもない・・ただ・・何人か敵は増えたね・・」

「・ああ・!・もう・!・」

「・・大丈夫だよ・・どんなに増えても統制が採れていないのなら、烏合の衆だから心配ない・・突き崩す方法は幾らでもあるさ・・シエナ、婦人服飾店をナビで検索してセットして・・?・・高そうな店でも良いから・・」

「・・分かりました・・」

・・それから40分弱で着いたその服飾店は、高級ブティックと言える程でもないように観えたが、高級そうな雰囲気は醸し出していた・・シエナには選び終わったら呼ぶように言って、私は休憩室に入る・・休憩室に備え付けられているドリンクディスペンサーにコーヒーを出させて、プレミアムシガーを咥える・・。

・・誰かに通話を繋ごうか、とも思ったが中途半端な時間帯なので止めた・・考えてみれば、中途半端な時間帯でも通話できるような友人が、私にはいない・・仕事上でもそうでなくとも、知己はかなりの人数に及ぶが、時を選ばず話せる程の友誼を結ぶと言うのは、存外に難しいようだ・・。

・・休憩室で待つ事35分弱、シエナが呼びに来たのでビットカードで支払い、品物を車に乗せて一路進路を社宅へと向ける・・夕陽がもうかなり傾いている・・。

「・・君の買い物はカミさんと同じくらいだね・・」

「・・何がですか・・?・・」

「・・掛かる時間が、さ・・シエナ・・シャワーを浴びてからミルクティーを飲むのと、飲んでから浴びるのとどっちが好い・・?・・」

「・・難しいですね・・」

「・・明日の朝も浴びるとしたら、どうだ・・?・・」

「・・先に浴びます・・」

「・・OK・・決まりだ・・」

・・それから30分程で社宅が見えた・・車内から操作してガレージのシャッターを開けて入庫し、シャッターを閉める・・直ぐには降りずにシエナの顔を観る・・。

「・?・どうしたんですか・・?・・」

「・・何だかんだで、君と2人っきりになるなんて事は無かったね・・?・・」

「・・そう言えば、そうですね・・」

「・・どこか別の世界・・パラレル・ワールドって言うのかな・・?・・君と僕が夫婦になっている世界も・・きっとあるんだろうな・・この世界では、このように出会ったんだけどね・・キスしても好いかい・・?・・」

「・・あの・・ここでは・・まだ・・」

「・・分かった・・中に入ろう・・」

そのままガレージ内から荷物を持って室内に入る・・荷物を置くと、振り向いて彼女を抱き竦めた・・。

「・・相変わらず好い香りだね・・惹き込まれそうだよ・・さ、シャワーを浴びておいで・・取って置きのミルクティーを淹れて置くから・・」

・・3秒見詰め合って、5秒キスした・・シエナは荷物を解いて、着替えを取り出し始める・・私は小用を足して顔を洗ってから、固定端末を起動させる・・バッグから使い捨ての携帯端末と手帳を取り出し、携帯端末も起動させる・・。

・・フリー・ルポライターを自称するモリー・イーノス女史の個人クラウドデータ格納庫を、使い捨て携帯端末でブラウジングしてアクセスし、パスワードでもある彼女のPIDナンバーを入力して、その中に入る・・個人クラウドデータ格納庫の中に特別格納庫がある・・手書きの手帳を観て、前回特別格納庫に入った際、見付けて手帳に書き留めた次回入る時に必要なパスワードとパスコードを入力し、特別格納庫の中に入る・・。

・・新たに質問箱が設けられていたので中に入り、こう書き込んだ・・私のアクセスコードでもゲームフィールドに関するデータにはアクセス出来ない・・フィールドの広さだけでも何とか調べて欲しい・・それと、既に連絡を執り合って私達の同盟を協力して攻撃しようと画策し、段取りを進めつつある参加艦と艦長についても調べて欲しい・・。

・・それだけ書き込むと質問箱から出た・・以前に私が貼付した530人の乗員候補者名簿に、彼女からの新しいコメントが付けられている・・。

・・この名簿の構成パターンと掲載されている総ての氏名・・530人を10のグループに区分けした上でも、様々な側面から深いクロス検索とラーニングを掛けては観たが、作為を以てこの名簿を構成したと観測されるような確たる証拠は判別できなかった、との事だ・・まあ良い・・少し深読みし過ぎたのかも知れない・・。

・・次回、この特別格納庫に入る為に必要なパスワードとパスコードが書き込まれていたので、手書きの手帳に書き写してから特別格納庫から出て、個人クラウドデータ格納庫からも出る・・閲覧履歴やクッキーも削除した上でブラウザーを閉じ、携帯端末の電源を切る・・。

・・シエナはまだシャワーを浴びている・・よし・・同盟首脳部会議室に書き込む、準備・段取り・確認事項・実際の訓練活動計画についての文章を書き始めるとするか・・。

・・ヘッドセット・バイザーを取り出して起動させ、頭に装着する・・固定端末からゲーム大会運営本部のメインサイトをヴラウズしてアクセスし、私のアクセスコードで軽巡宙艦の艦長としてアクセスできるデータベースに入る・・テキストエディターのウィンドウを30個開き、ペルスペクティブ・フォーカスコントロールと音声入力も併用して、書き込みを始める・・時折データベースの掲載内容を確認しながら、順序立てて準備と段取りの行動について、3Dモニターに集中して指を走らせ続け、音声でも入力し続ける・・30のウィンドウを次々と切り換えながら、スピードを上げていく・・。

・・突然誰かの手が左肩に置かれて、ギクッとして止まる・・観るとシエナだ・・もう着換えている・・いや、シャワーから出たのか・・。

「・・驚かせてすみません・・出ましたので・・」

「・・あ・・ああ・・そうか・・分かった、お茶を淹れるよ・・」

・・指、手首、肘、肩の関節を解し、状況はそのままにしてバイザーを頭から外して立ち上がる・・。

「・・どのくらい経った・・?・・」

「・・40分弱です・・」

「・・そうか・・ちょっと待ってね・・」

・・上体を後ろに反らしたり、左右に捻ったりしてキッチンに向かう・・大分身体が固くなっていたようだ・・。

「・・物凄いスピードでしたけど、会議室にアップする記事を書いていたのですか・・?・・凄い分量ですね・・」

・・モニター画面をスクロールさせながら、シエナが眼を瞠っている・・。

「・・そう・・最初にモリー・イーノス女史の特別格納庫に入ってね・・僕が最初に貰った乗員候補者名簿が作為的に編纂されたんじゃないかって事で、検証して貰ってたんだけど・・『作為を以てこの名簿を構成したと観測されるような確たる証拠は判別できなかった』だってさ・・」

「・・そうだったんですか・・」

「・・それと彼女、特別格納庫の中に質問箱を作っていたんで、調査の依頼を2つ書き込んだよ・・」

「・・何の調査を依頼したのですか・・?・・」

「・・僕の艦長としてのアクセスコードを以てしても、ゲームフィールドのデータにはアクセス出来ない・・何とか調べて欲しい・・せめてフィールドの広さだけでも知りたいってね・・もう一つは、既に私達を協力共同して攻撃する為に連絡を執り合って、段取りを進めている艦長達が何人かはいる筈だ・・何人いて誰なのか・?・艦名も調べて欲しいとね・・ゲームフィールドの広さだけでも判らないと、どのくらい情勢が逼迫しているのかさえ判らないからね・・さあ、出来たよ・・一休みしよう・・」

・・ミルクティーを2つ、ダイニングテーブルに置いて座る・・彼女は対面に座った・・。

「・・頂きます・・」

・・一口飲んで、大きく息を吐く・・やはりかなり疲れているな・・。

「・・どう・・?・・」

「・・とっても美味しいです・!・癒されます・!・幸せです・!・・」

「・・ありがとう、シエナ・・君には正直に言うよ・・昨夜はリサと愛し合った・・」

「・・あ・・はい・・」

「・・リサの様子で判った・・?・・」

「・・いえ・・気付いたのはハンナで・・率直に訊いたら、リサさん・・明るく肯定しました・・」

「・・そうなんだ・・君とハンナは、僕の前だと子供っぽくなるけど・・リサはならないよね・・?・・」

「・・そうなんですよね・・すごいと思います・・」

「・・愛し合ったんだけど、最後まではしなかったんだ・・って信じてくれる・・?・・」

「・・信じますよ・・リサさんは私達に嘘を吐きませんから・・」

「・・そうだよね・・リサが自分は社長の娘ですって、皆の前で告白したのを思い出すよ・・」

「・・私達には皆、ファザコンの気質があるんですけど、リサさんにはそれが無いからだと思います・・」

「・・そうだね・・トーマス・クライトン社長は、何処から観てもすごい大人物だからね・・」

「・・はい・・そうですね・・」

「・・それでさ、シエナ・・もっと正直に言うけど、今夜は君とそんな風に愛し合いたいと思っていたんだ・・でも体力的に続きそうもないし、明日も大事な生配信がある・・だから今夜君と眠る迄の計画を言う・・お茶を飲み終わったら僕はシャワーを浴びる・・君は僕の固定端末を使って会議室の設定をする・・シャワーから出たら、僕は設定された会議室に記事をアップして出来る範囲で書き込んでいく・・その間、君は夕食の支度をする・・準備が出来たら仕事は終えて、2人で夕食だ・・食べ終えたら2人で片付けて仕舞って、暫くくつろぐ・・それで2人で眠ろう・・もしかしたら1回位は愛し合えるかも知れないけど、どうする・・?・・」

「・・ふたりで一緒に眠りましょう・・」

「・・OK・・それでいこう・・ああ、君の方が早く起きそうだから・・朝食の支度も頼めるかな・・?・・」

「・・はい(笑)・分かりました・・」

・・応えながらクスッと笑った彼女が、たまらなく可愛い・・私達はお茶を飲み終える迄の間、お互いの左手を握り合っていた・・まるで、手だけでも愛し合っているかのように・・。

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