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・・『開幕』・・

・・インタビューと対談と・・5・・

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・・ライトが落ちて、休憩時間に入る・・私はソファーから立ち上がるとスタジオから出てレストルームに行き、用を足してから隣の喫煙休憩室に入った・・。

・・ドリンク・ディスペンサーにグラスをセットし、甘味を抑えたジンジャー・エールを出させる・・グラスを持つと手近なテーブル(7人掛けくらいの)に着いて、灰皿を引寄せる・・ポケットから煙草とライターを取り出してテーブルに置いた処で、カバーを開けたシガレット・ケースが視界の中に置かれた・・。

・・見遣ると、既にハイラム・サングスター氏がプレミアム・シガーを咥えて火を点け、一服を燻らせて微笑んでいる・・(彼がそこに座った気配を感じなかった)・・。

「・・お元気そうで安堵しましたよ、アドルさん・・どうぞ・・我等の友誼の徴として、です・・」

「・・これは・・どうもありがとうございます、ハイラムさん・・それでは遠慮なく頂きます・・」

・・そう言って一本を取り上げると、カバーを閉めて火を点ける・・馥郁足る馨りに圧倒される・・この一本を、たった10分の間で喫い終りたくない・・蒸して燻らせて・・馨りの余韻を反芻しながら、ジンジャー・エールを一口飲む・・原酒のカスク・モルトが欲しい・・。

「・・改めて、貴方の才能は素晴らしく・・稀有なものですな・・お勤め先でも言われるでしょう・・?・・」

「・・言われますね・・自分の感覚では、こんなものは大したものじゃないってのが本音ですが・・」

・・そう言ってもう一服、喫って蒸して燻らせて馨りを楽しむ・・ああ・・これでモルトがあったら最高だ・・。

「・・貴方のその・・自分で自分を凄いと思わない感覚も・・それでも自分の思考と判断を自然に信じて疑わない処も・・貴方の素晴らしい才能の一つですな・・既にもう何人かは、貴方を支持しているようですから・・」

・・そう言って僅かに顎で示す・・彼から流れて来る馨りの余韻も素晴らしい・・見遣ると、クマール・パラーナ氏とヤンセン・パネッティーヤ氏と、アジェイ・ナイデュ氏とアリミ・バールマン氏とアーロン・フォスター氏が、それぞれ自分の飲み物を持って同じテーブルに着いている・・。

「・・アドル・エルクさん・・お会い出来て良かったです・・改めて、アリミ・バールマンです・・宜しくお願いします・・お勤め先で開催されました、激励壮行会を報じるニュース動画を拝見しましたが、その時からお話したいと思っていました・・先程の貴方の提言にも賛同します・・以後は、アリミと呼んで下さい・・」

・・そう言いながら自分のメディアカードを取り出すと、差し出してテーブルの上に置く・・。

「・・ありがとうございます、アリミさん、初めまして・・アドル・エルクです・・皆さんも初めまして・・以後は、アドルと呼んで下さい・・失礼して一服させて貰ってます・・さっきの思い付きで喋った提案に賛同して下さってありがとうございます・・」

・・そう言って自分のメディアカードをアリミさんの前に置き、彼のカードを取って内ポケットに仕舞ってから、もう一服喫って蒸して燻らせ・・馨りの余韻を楽しみながら、ジンジャーエールを二口飲む・・。

「・・改めて、宜しくお願いします、アドルさん・・艦内の撮影セットを見学する時に、特に何処を観たら好いでしょう・・?・・」

・・そう問い掛けてクマール・パラーナ氏も、私の前にメディアカードを置いてくれる・・。

「・・そうですね・・私はクルーの皆と一緒に、各デッキの個室や各施設の中に配置されている、メンテナンス・ハッチの場所を確認しました・・」

「・・何故、メンテナンス・ハッチの位置を確認したのですか・・?・・」

・・ヤンセン・パネッティーヤ氏も、自分のメディアカードを私の前に置いて、そう訊いた・・。

「・・そうですね・・ひとつには、クルー全員で艦内構造を実体験として把握し、理解する為・・ふたつには、戦いのシチュエーションとして・・ターボリフトが使えない・・或いは、使うべきでない状況を想定して・・メンテナンスチューブを通って艦内を移動する事に慣れる為・・ですかね・・」

・・そう言いながら、クマールさんとヤンセンさんの前にも自分のメディアカードを置き、彼等が置いてくれたメディアカードを取って内ポケットに仕舞い、もう一服シガレットを喫って蒸して燻らせる・・。

「・・するとアドルさんは、艦内での白兵戦も想定しているのかね・・?・・」

・・そう訊いてハイラム・サングスター氏は、一服喫って眼を見開く・・。

「・・ええ・・初めて撮影セットを見学させて貰った時、マルセルさんに訊いたんですが、可能性は否定出来ないと・・でなけりゃベッドの下に、シークレット・ウェポンキットなんて仕込みやしないでしょ・・?・・」

「・・確かに・・」

・・と、アジェイ・ナイデュ氏が渋い表情でそう漏らす。

「・・その可能性もあるので、私はクルー全員に一程度の射撃訓練も科します・・これは医療部や厨房も関係ありません・・ですがまあ・・自分の艦内で白兵戦が起きるような展開になったら、戦いは大概敗けでしょうから・・そうはならないように操艦しますよ・・」

・・そう言ってもう一服燻らせ、ジンジャーエールを飲む・・。

「・・それで・・どうしましょう・・取り敢えずこの7人・・7隻でパーティーを開催する前に集まる事にしますか・・?・・」

・・と、アリミ・バールマン氏が問い掛ける・・。

「・・いや、先ずは連絡先を交換しましょう・・アジェイ・ナイデュさん・・アーロン・フォスターさん・・話し合うのにも打ち合わせをするのにも、まだ時間はありますよ・・今日は皆さんそれぞれ副長さんとご一緒においででしょう・・?・・でしたら次の休み時間は、それぞれ副長さんと話し合って下さい・・私も次の休み時間は副長と話します・・出来れば、それぞれの艦内司令部で討議された方が良いかも知れません・・」

・・そう言って、アジェイ・ナイデュ氏とアーロン・フォスター氏の前にも自分のメディアカードを置く・・彼らもそれぞれ自分のメディアカードを私にくれた・・。

「・・そろそろ、休み時間も終わりますね・・戻りましょうか・・?・・こんなに早く皆さんと連絡先を交換できて好かったですよ・・これからは気楽にアドルと呼んで下さい・・」

・・そう言ってプレミアム・シガレットを喫い切り、灰皿で揉み消すと残りのジンジャーエールを飲み干す・・。

「・・宜しくお願いします・・私の事はアジェイと呼んで下さい・・」

「・・同じく・・私の事はアーロンと呼んで下さい・・」

「・・アドルさん・・貴方の為人や人柄も貴方の才能の一部で、つくづく不思議でファンタスティックで素晴らしい・・話をするだけで友誼を結べるとは驚くばかりですよ・・」

・・そう言ってハイラム・サングスター氏も、シガレットを喫い終って灰皿で揉み消す・・。

「・・職場の後輩にも言われましたよ・・話すだけでファンを増やせるのは、先輩ぐらいのものだって・・」

・・7人とも立ち上がって休憩室から退室し、スタジオへと戻って行く・・。

・・10人ともスタジオに戻り、また同じソファーに座る・・マルセル・ラッチェンスも席に着いている・・ハイラム・ケラウェイが指示してまたメイクとスタイリストが呼び入れられ、私達の最終調整が行われる・・終わると彼女達は退がりライトが焚かれ、ハイラム・ケラウェイが進み出て右手を挙げる・・。

「・・はい!皆さん、それでは宜しいでしょうか・・?・・配信再開20秒前です・・また先程と同じ姿勢で落ち着いてお座り下さい・・深呼吸を2回お願いします・・はい・・結構です・・それでは・・10秒前です・・またにこやかな笑顔でお願いします・・6・・5・・4・・3・・2・・用意・・(キュー)・・」

「・・はい、皆さん、こんにちは・・再開致しました・・マルセル・ラッチェンスです・・本日は、『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』の第5スタジオより、『サバイバル・スペース・バトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』にご出演頂ける10人の男性艦長の皆さんを招聘させて頂きましての、インタビューと対談とフリートークを軸とした、スペシャルプログラムを双方向通信にてお届けしております・・もう既に、様々なメッセージを皆様から沢山頂いております・・これらのメッセージをご紹介するのも勿論ですが、お寄せ頂きました疑問や質問や提言に付きましても、お寄せ下さいました方と音声・画像共にこちらと繋いで直接艦長の皆さん方に、ぶつけて頂こうと言う試みも時折挿みながら、進めて参りたいと思います・・さあ、それでは・・先程の続きに戻りましょう・・先程は、アーロン・フォスターさんまで自己紹介を頂きました・・では、フォスターさんの左隣の方、お願いします・・」

「・・はい、皆さん、こんにちは、初めまして・・ガンナー・ヴァン・ハンプトンと申します・・どうぞ、宜しくお願いします・・私の艦には、『アグニ・ヤマ』と名付けました・・年齢は34才です・・自治体の職員として、勤務しております・・趣味はこのようなゲームをプレイする事と、ペットの世話と、ジョギングや筋トレ・・サイクリング・・等です・・日常の習慣と言えるかどうかですが、健康的な食生活を心掛けております・・抱負ですか・・まあ、せっかく艦長に当選しましたので・・自分の全知全能を駆使して精一杯悔いの無いように楽しんでチャレンジし続けたいです・・ミッションにも積極的に参加します・・その上で出来得る限り長く在り続けたいですね・・現状で取り組んでいる事は、皆さんと変わりません・・最初の4日間での方針ですか・・私達も訓練で過ごすと思います・・簡単ですが、また話せる時もあると思いますので、以上です・・」

「・・ありがとうございました、ハンプトンさん・・非常に前向きな姿勢での抱負であると感じました・・またお訊きする事もあると思いますので、その時には宜しくお願いします・・それでは、次の方・・お願いします・・」

・・カメラがまたパンして、ハンプトンさんの左隣の男性の姿を、そのフレームに捉える・・それまで俯き加減でいたその男性が顔を上げて真っ直ぐ前を向いた・・。

(・・ほう・・これはまた・・)

「・・ねえ、シエナ・・すごいわね、あの人・・」   「・・そうね・・」

・・何故今迄脚光を浴びなかったのか・?・と思える程の美形だ・・余りにも整い過ぎている、とも言えるだろう・・微笑みをも見せていないのは緊張しているからだろうか・?・これで笑顔を見せれば核爆発級の衝撃波を発生させるかも知れない・・細いフレームの眼鏡を掛けているので幾分かは鋭さが和らげられているが、外して笑ったら無敵だな・・イケメンの男達を今迄色々と観てきたつもりだったが、彼以上の超絶イケメンはおそらくいないだろう・・。

「・・初めまして・・宜しくお願いします・・ザンダー・パスクァールです・・『フェイトン・アリシューザ』を指揮します・・29才です・・国立大の教授をしています・・趣味は料理とテニスと乗馬です・・習慣としているのはジョギングとヨガと瞑想です・・抱負はミッションを総て達成して、ファーストシーズンの最終回をトップの経験値でゴールします・・現状での取り組みは皆さんと変わりません・・最初の4日間は、実戦も含めた訓練で過ごします・・」

(・・30前で国立大の教授・・?・・満ち溢れる才能とは、彼にしか当てはまらない表現だな・・今はまだ判らないが、話しやすい人柄なら女学生が大変だろう・・)

「・・アドルさんの方が好い男よ・・色々な意味でね・・」

・・と、シエナ・ミュラー・・。

「・・同感ね・・」

・・と、ハンナ・ウェアー・・。

「・・私もそう思います・・」と、リサ・ミルズ・・。

「・・ありがとうございました、ザンダー・パスクァールさん・・また宜しくお願いします・・さて、それでは最後の方になりました・・私達の誰もがその名前を知っている人物ですが、この方からも自己紹介を頂きましょう・・宜しくお願いします・・」

「・・宜しくお願いします・・ハイラム・サングスターです・・『サライニクス・テスタロッツァ』の指揮を執ります・・54才です・・海洋沿岸警備庁内・海上輸送航路護衛警備局内・第3護衛警備艦隊所属で……軽巡洋警備護衛駆逐艦サラマンドラ Ⅲ の艦長です・・階級は中佐です・・現在は、有給休暇と併せて半年間の休職中です・・趣味としては、数種類のボードゲームを時折嗜みます・・オンライン・バーチャル体感ゲームは未経験です・・が、船乗りとしては長いので慣れるだろうと思います・・習慣として継続しているのは、格闘技の訓練とサバイバル技術の研究です・・抱負としては、20隻全艦でファーストシーズンを突破します・・現状での取り組みとしては、皆さんと然程に変わりはありません・・開幕後、最初の4日間の中での方針と言う事ですが・・これはまだ副長とも話していませんし、艦内司令部にも諮っていない私自身の希望なのですが、少なくともパーティーが終わるまで・・『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』の両艦と行動を共にしたいと思っています・・我々20艦は確実に狙われていますので、模擬戦闘訓練を充分に積む事が緊急の課題であると感じています・・3艦合同で模擬戦闘訓練を繰り広げられれば、対艦戦闘技術・技能・センスの向上に高く寄与できるでしょう・・何せ軽巡宙艦だけでも6万隻以上が参加するでしょうから、彼等他艦に先んじるにはこれしか無いと考えます・・柄にも無く長時間喋りました・・一先ずは以上です・・」

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