上 下
137 / 277
・・『開幕』・・

・・インタビューと対談と・・4・・

しおりを挟む
「・・宜しくお願いします・・ヤンセン・パネッティーヤです・・『トルード・レオン』を指揮します・・33才と8ケ月です・・WEBデザインと、絵を描くと言う仕事をフリーでやっています・・趣味はこのようなバーチャル体感ゲームを除けば、バスケットボール、テニス、水泳・・です・・習慣としている行動で皆さんにご紹介できるようなものは、ありません・・抱負としてはとにかく・・ファーストシーズンを生き延びます・・現状での取り組みとしては、やはり莫大な量に昇るテキストデータを全体で共有して、可能な限り身に付ける事です・・最初の4日間の方針ですか・・?・・それは訓練しか有り得ないでしょう・・それと・・例の親睦パーティーを安全に開催する為の場所探しですね・・」

「・・場所探し・・ですか・・?・・」

・・このマルセルさんの反問には私を含めて他の艦長達も、むうっとして彼を見遣る・・マスタープロデューサーとして、そこにまで想像が到らないとは・・開幕直前の連日激務で疲れているのだろうとは理解できるが、それを差し引いても問題視されざるを得ない反応だろう・・。

「・・そうですよ・・親睦パーティーは全員の参加が義務付けられている・・全員が集まってワイワイ出来るのは、バーラウンジ以外に無い・・数時間に亘ってブリッジを空にしても、艦の安全を担保できる停泊ポイントが絶対に必要になる・・そのポイントを探し出すのに、掛かる時間と労力と神経がどれ程になるか・・しかも訓練をしながらだ・・それを考えると、今から頭が痛いですよ・・」

・・これぐらいは普通に想像して欲しいと言うようなニュアンスで、ヤンセン・パネッティーヤが言う・・この前彼と初めて顔を合せた時よりも、明らかに少し感情的になっている・・。

・・数人が頷いて首肯する・・尤もな話だ・・私は右手を挙げた・・。

「・・いっその事、20隻全艦で岩塊やデプリの浮遊密度が適当な宙域に同時刻に集まり、お互いに第5戦闘距離の間隔を置いて球形陣を敷いて展開して停泊した上で、同時に開催したらどうでしょう・・?・・パッシブ・センサースキャンの出力を調整して、センサースキャン・パワージェネレーターを20艦で同期させる必要がありますが、センサースキャン・ウェイブの最大到達範囲が第5戦闘距離のざっと50倍なので、第5戦闘距離×50×第5戦闘距離×20隻で・・物凄く広大な範囲を共同のセンサーレンジとして設定できます・・この設定が整えられた上で、それぞれの艦内で同時刻にパーティーを開催する・・そうすればそれぞれのバーラウンジでパーティーが最高潮に盛り上がっている時に、他艦が外からセンサーレンジ内に入って来たとしても、悠々と余裕を持って対応できます・・」

・・話を終えるとその場を沈黙が支配する・・もうすぐ30秒・・司会者が喋らない・・。

「・・あの~・・すみませんね・・思い付きで喋っちゃいました・・ちゃんと計算すれば、正確な数値は変わって来ると思いますが・・理論的にはそれ程変わらないと思います・・」

・・ハイラム・サングスター氏が大きい拍手を10回して、ソファーに座り直す・・。

「・・いや・・アドルさん・・貴方はやはり凄いアイデアマンで・・素晴らしい才能の持ち主だ・・貴方の存在が我等20艦の中での・・重要なキーの一つになるであろう事は、最早疑い無いね・・」

「・・お褒めに与り、光栄です・・ハイラム・サングスター艦長・・」

「・・貴方とは、既に友誼を結んでいる・・ハイラムで好いよ・・アドルさん・・」

「・・ありがとうございます、ハイラムさん・・失礼しました・・」

・・マルセル・ラッチェンスが漸く反応を見せる・・。

「・・あ、配信をご覧の皆さん、失礼致しました・・私も驚いてしまって頭が廻らずに、言葉が暫く出ませんでした・・申し訳ありません・・マスタープロデューサーとして、恥ずかしいと思います・・ですが只今のアドル・エルクさんからの提言は、私にとっても大変に興味深く、また驚くべきものでした・・まだ皆さんからの自己紹介が途中ですので、このまま続けさせて頂きますが・・一通り終わりましたら、今の提言についての議論もやってみたいと思います・・それでは・・ヤンセン・パネッティーヤさん・・まだ話足りない事はございますか・・?・・ございませんか・・それでは、パネッティーヤさんの左隣の方・・宜しくお願いします・・」

「・・こんにちは・・宜しくお願いします・・私の名前は、アジェイ・ナイデュと言います・・艦の名前は、『ダルモア・エレクトス』と付けました・・年齢は48才です・・私の仕事は、色々な部品を製作する様々な産業工作機械の整備や修理や補修や調整や改造や改善を行う、マシン・システムエンジニアです・・このようなバーチャルゲーム以外での趣味としては、サイクリングとバイオリンの演奏とボードゲームです・・毎日の習慣として挙げられるのは、起床直後のヨガと体操です・・抱負ですか・・最後まで残りたいですね・・あと、このゲーム大会が終わる頃には定年で退職しているだろうと思いますので、老後の活動資金を準備する為にもギャラと賞金は預金して置きたいです・・次に今取り組んでいるのは、私より前に仰られた皆さんと大体同じで・・準備と勉強と話し合いです・・最初の4日間での活動方針にも絡んできますが、私は今のアドルさんの提言に賛成です・・満足できる程の安全な停泊ポイントは、まず見付からないだろうと思います・・だったらパーティーの開催時だけでも集まり、協力してセンサーレンジ・エリアを拡大すれば安全性は高くなります・・パーティーの開催時だけでも協力するべきです・・それが決められれば、それまでの時間を訓練に打ち込んで費やす事が出来ます・・また話せる機会はあると思いますので、取り敢えずは以上です・・」

・・アジェイ・ナイデュさんか・・アラフィフにしては若く見える・・髪に白いものがまだ観えないせいかな・・マシン・エンジニアらしい、落ち着いた冷静さを湛えている・・思い付きの提言に賛同してくれたのは嬉しい・・。

「・・ありがとうございました、アジェイ・ナイデュさん・・アドルさんの提言は我々にとっても大変に興味深いものですので、後程皆さんで論議して頂きたいと思います・・それでは、左隣の方・・お願いします・・」

「・・皆さん、こんにちは・・初めまして・・私はアリミ・バールマンと言います・・どうぞ宜しくお願い致します・・艦には『ラバブ・ドゥーチェン』と名付けました・・年齢は53才です・・貿易商をやっています・・時間があれば、一人乗りのヨットで沖に出ています・・毎日の習慣として行っている行動で、宗教的な意味合いでの行為を除けば・・読書とモデルクラフトと天体観測があります・・抱負ですか・・?・・このゲーム大会が終わる頃・・私は65才になっているだろうと思いますので、最後まで健康で元気にキャプテンシートに座っていたいと思います・・私も老後の活動資金を貯めたいと思っています・・現状での取り組みは、皆さんが言われている事と然程には変わりません・・ゲーム大会の中ではどんなミッションが紹介されるか、今から楽しみなのです・・と言うのは、商売するようなミッションも必ずあると思うので、そのようなミッションが紹介された場合には、申し訳ありませんが私が頂きます・・出航して最初の4日間での活動方針、と言う事についても皆さんが言われた事と然程に変わりません・・商人と言うのは利に敏い処がありますので、私も先程のアドルさんの提言には賛同します・・私はアドルさんが勤めておられる会社の中で開催されました、激励壮行会を報道した配信ニュースを観ましたが・・その中でアドルさんは、私達20人は協力し合うべきであると仰っておられました・・私はこの意見にも賛成します・・私達20人に、モメていられる程の暇や余裕はありません・・軽巡宙艦の参加だけでも6万隻を超えるでしょうし、私達は確実に狙われています・・私達20人がお互いにモメていたら、ファーストシーズンが終わる頃には半数になっているでしょう・・全員がお互いに邪魔をせず邪険にもせず、お互いに融通して補って折り合いを付けて少しでも協力し合えば、全艦が得をして儲かります・・私はパーティーが終わるまで、アドルさんの『ディファイアント』と行動を共にしても良いと思っています・・長い話になってしまいました・・ご静聴、ありがとうございました・・」

・・正直に言ってここまで私に賛同してくれる人が、20人の中で1人でもいるとは想像していなかった・・後で連絡先を交換して話してみよう・・今見聞きして感じた印象だけで考えるなら、裏があるようには思えない・・まあ、話してみる事だ・・。

「・・ねぇ・?・何だかウチの艦長の独壇場になりそうな気がして来ない・・?・・」

・・と、ハンナ・ウェアー・・。

「・・そうね・・最初に自己紹介したのが効いてるみたいね・・」

・・と、シエナ・ミュラー・・。

「・・いつもと変わらない・・自然体なのが好いですね・・」

・・と、リサ・ミルズ・・。

「・・さすがはリサさん・・」

「・・沢山お話頂きまして、どうもありがとうございました、アリミ・バールマンさん・・私もアドルさんが勤めておられる会社の中で開催されました、激励壮行会の模様を報道した配信ニュースは興味深く拝見しました・・それでは続きまして、次の方にお願い致します・・どうぞ・・」

「・・皆さん、こんにちは・・初めまして、宜しくお願いします・・アーロン・フォスターと申します・・私は、『アレクサンドラ・フランクランド』と艦に名付けました・・現在は33才です・・私立のハイスクールに教師として勤めています・・クラス担任でもありますし、担当教科は『歴史』です・・趣味は読書と自分勝手な歴史研究・・たまにハーモニカとか、オカリナを奏でます・・ハイスクールの教師と言う者はどうしても業務量が多いもので、仕事を自宅に持ち帰ってしまう事がちょくちょくあります・・なのでお恥ずかしいのですが、在宅ワークが日常的な習慣になってしまっていますね・・抱負ですか・・まあ、皆さんと同じですね・・ポカミスをやらかして沈められないようにしたいです・・やっとあの・・クルーメンバーを確定できましたので、これも皆さんと同じで情報の共有と勉強とセットの見学とか初期設定にも、まだ少しですが取組んでいます・・出航早々に沈められないように、細心の注意を払って行きます・・私もアドルさんの提言には賛成ですね・・宜しければ参加させて頂きたいと思っています・・私が33才なので、クルーはほぼ20代で揃えました・・ので・・上手く統率して行けるように頑張りたいと思います・・簡単ではありますけれども、取り敢えずは以上です・・」

・・アーロン・フォスターさんか・・短髪で背は私と同じくらい・・顔付や身体付きからも精悍な印象を受ける・・体操選手を彷彿とさせるような体育会系のイメージなのだが、性向は文系のようだ・・33才と言えばまだ若手だがクラスを担任して『歴史』教科も担当しているとは、若くても有望で有能な先生だね・・全体からも若い情熱が顕れている・・顔もなかなかのイケメンだから、これは女子生徒達が大変だろうなあと思いながら、私は彼に向って右手を挙げた・・。

「・・初めまして、アーロン・フォスターさん・・アドル・エルクです・・宜しくお願いします・・これは私自身の考えと実践なのですけれども・・クルーの統率は、副長に任せた方が良いと思います・・艦の代表者は勿論艦長であって、艦長は操艦を指揮するのですけれども・・私はクルーの統率は副長に任せてやって貰っています・・両方とも艦長が担うのは、長期的には無理であって不可能です・・程無くして潰れるでしょう・・副長に統率を任せれば、クルーは副長を中心にしてまとまります・・副長だけでなく、艦長に対して直言の出来る人材を何人かメインスタッフとして配置する事が重要で、私はそうしました・・すみませんね・・偉そうに喋っちゃいました・・何かの際に参考にして下さい・・改めて、宜しくお願いします・・」

「・・こちらこそ、お話をありがとうございました、アドル・エルクさん・・参考にします・・改めて、宜しくお願いします・・私の事は、アーロンと呼んで下さい・・」

「・・ありがとう・・それじゃ、僕の事はアドルでね・・?・・」

「・・ちょっと、何・?・ウチの艦長、段々調子に乗って来てるわよね・・?・・」

「・・大丈夫ですよ、ハンナさん・・営業本部での壮行会の時に、エリック・カンデルチーフが言っていました・・お前は少しくらい調子に乗っていた方が皆が安心するから、そのままで好いよって・・」

「・・そう・・エリックさんが・・」と、ハンナ・ウェアー・・。

「・・確かにそうだわね・・弱気で萎縮しているアドルさんなんか、観たくもないからね・・」

・・と、シエナ・ミュラー・・。

「・・若い情熱と気概に溢れた自己紹介をどうもありがとうございました、アーロン・フォスターさん・・またお話を覗う事もあると思いますので、その時には宜しくお願いします・・さて、只今から10分間の休憩時間を頂きます・・接続されている皆さんに於かれましても、休憩されて一息吐いて頂いても構いませんが・・出来ればこの時間を利用して頂き、どしどしとメッセージをお寄せ頂ければと思います・・ゲストの皆さんにも休憩して頂きますので、それぞれご自由にお過ごし下さい・・それでは、10分後に再びお会い致します・・」

しおりを挟む

処理中です...