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・・・『始動』・・・

・・面談昼食会・・4・・

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「・・あ、・いや・詳しく話して下さって、ありがとうございます・・なかなか腑に落ちるお話でした・・確かに、当選された皆さんは狙われるでしょうね・・ある程度協力しないと全員で突破するのは、難しいでしょう・・」

「・・ええ・・ですが少しでも協力し合えるなら、突破は充分に可能です・・他の参加艦は大体が単独行動でしょうし、先程に言及した可能性として事前から示し合せてつるもうとしている人達と言っても、5隻以上では難しいでしょう・・5隻ともなればもう艦隊です・・強く統率されていなければ、寄集っているだけの烏合の衆です・・隙を突けば容易に崩せますし、無ければ作る事も出来るでしょう・・」

「・・分かりました・・ありがとうございました・・あの、もう一つ、宜しいですか・・?・・」

「・・どうぞ、イアンさん・・」

「・・あの、リサ・ミルズさんは『ディファイアント』に乗られないのですか・・?・・」

・・訊かれたのは私だったが、それには応えずに左隣のリサを見遣る・・。

・・リサは手を止めてナイフとフォークを置くと、口を拭い水を飲んで、イアン・サラッドを観た・・。

「・・イアンさん・・私は会社に選抜されてアドル・エルクさんを担当する事になりました、専任秘書ですので『ディファイアント』のクルーではありません・・ですから、大会が開幕してからの『ディファイアント』には乗れません・・ですが、専任秘書の立場で撮影セットは見学させて頂きました・・」

「・・そうですか・・『ディファイアント』のバーラウンジで、貴女にカクテルをお薦め出来ないのが、残念です・・」

「・・申し訳ありませんが・・」

「・・いえ、大丈夫です・・今日、バーラウンジのセットを観せて頂いて・・現状で何かが搬入されていれば、それでお造り出来るかも知れませんから・・」

・・それには応えずに、微妙な笑顔を観せるリサだった・・。

「・・失礼・・私からも質問させて下さい・・アドル艦長は、艦隊司令官になりたいのですか・・?・・」

・・と、カーステン・リントハートがステーキの最後の一切れを食べ終えて訊く・・。

「・・いやあ、私にはそんな器や望みも能力もありませんよ、チーフ・・私は種を蒔いてある程度育てるだけで、まとめ上げるのは荷が重すぎる・・ですから、結果的には2.3隻程度撃沈されてしまうかも知れません・・それでも戦い抜いて勝ち抜けたと言う状況を示した上で全体から観れば、充分に成功したと言えるでしょう・・まあ、ハイラム・サングスター艦長でしたら、充分にまとめ上げられるでしょうけどね・・」

「・・確かに・・ハイラム・サングスター艦長でしたら、可能性は高いですね・・20人の中では実績・人望ともに随一ですし・・あのカリスマ性の高さですから・・でも、貴方にも可能性はある・・言い出しっぺのアイデアマンってのは、強いですからね・・副司令官とか参謀長なら、充分に務まりますよ・・」

・・と、ドクター・アーレンも食べ終えて言い、そのまま件の彼を呼び寄せてデザートとコーヒーを頼んだ・・。

「・・どうもありがとうございます・・ドクター・・」

・・と、少々苦笑い気味に応じる・・退室しようとしていた件の彼を手招いて、チーフも何事かを頼んだようだ・・一つ頷いて、退室する・・。

「・・ドクター・アーレン・・憶えておられるでしょうか・・?・・3年前に放映された連続医療配信ドラマでは、監修と言う形でお世話になりました・・その上撮影現場にもおいで頂いて、適切な助言とアドバイスを頂きました・・私とハルとハンナと、今日この場には同席しておりませんがもう1人、そのドラマに出演しておりました・・あの節には大変にお世話になりました・・またここでご一緒できて光栄です・・改めて、これから宜しくお願いします・・」

・・食べ終えて水を飲み、口をナプキンで拭ったシエナ・ミュラーがそう言う・・ドクターも居住まいを正した・・。

「・・これはご丁寧にありがとうございます、シエナ・ミュラー副長・・勿論、憶えております・・と言うよりも、今のお言葉で細部まで思い出しました・・医療ドラマの監修は、あれが初めての経験でしたので私もかなり緊張していましたが、皆さんの美しさには癒されたのを憶えています・・こちらで再会できるとは思っていませんでしたが、こちらこそ、再びご一緒できて光栄です・・これから宜しくお願いします・・皆さんの医療ケア・サポート・マネジメントについては、我が医療部チームにお任せ下さい・・」

・・全員にコーヒーとデザートが配される・・チーフ・リントハートが求めた物も届けられたようだ・・。

「・・合縁奇縁・・縁は意なもの奇なもの味なもの・・ですな・・艦長・・?・・」

「・・全く同感です・・マエストロ・・」

・・このコーヒーはブレンドだがかなり旨い・・淹れ手は、かなりの腕だな・・マエストロも満足気だ・・私はシエナと顔を見合わせて頷く・・彼女は口を拭ってから立ち上がった・・。

「・・それでは皆さん・・お食事やお話も楽しんで頂けたようで、ありがとうございます・・これより、エレイン・ヌーン機関部員の誕生会に移行します・・バースデー・ケーキの入場です・!・・」

・・シエナはそう宣して右手で入口を示したが、先ず入って来たのは6人の男達・・マリアッチ・バンドだ・・ギター・ドラム・トランペット・トロンボーンを携えて奏で、ステップを踏みつつフラメンコ調でバースデーソングを歌い挙げながら、室内を練り歩く・・3曲を披露して整列すると深々と最敬礼する・・。

・・次いで件の彼がバースデーケーキを乗せたワゴンを押して入場する・・フルーツをふんだんに使ったホールケーキで少し大きい・・25本のショートキャンドルが立てられ、既に灯されている・・ワゴンがエレインの後ろで停められると、チーフ・リントハートが立ち上がる・・。

「・・エレイン・ヌーンさん、お誕生日おめでとうございます・・ここでまた少しお時間を頂きまして、私からエレインさんに誕生日プレゼントを進呈致します・・1年・365日それぞれには、1つのカクテルが割り当てられております・・今日・・2月22日に割り当てられているのは『ゴールデン・マルガリータ』でありまして、酒言葉は『理想像をハッキリと持つ創造者』であります・・今からそれをお造りして、エレインさんに差し上げます・・」

・・そう言うとチーフ・リントハートは、カットしたレモンでカクテルグラスの縁に果汁を塗り、少量の塩をグラスの縁に廻し付けてからシェーカーにテキーラを20ml、オレンジキュラソーを40ml、レモンジュースを10ml入れ、軽やかにシェイクしてグラスに注ぎ入れると、手ずからエレインの前に置いて言う・・。

「・・お誕生日、おめでとうございます・・これからの1年が健康でありますように・・」

・・エレインはグラスを右手にして立ち上がり、掲げて皆の顔を見渡す・・。

「・・皆さん、誕生日のお祝いをどうもありがとうございます・!・25回目の誕生日ですが、こんなに素敵なお祝いを頂いたのは初めてです・・これからも健康で元気に過ごしますので、どうぞ宜しくお願い致します・・」

・・そう応えると右手でグラスを掲げたまま、左手でスカートの裾を少し持ち上げ、右足を踏み出して左足を後ろにして両膝を曲げて頭を下げる・・そのまま姿勢を戻して真っ直ぐ立つと、両手でグラスを持って口を着け、半分ほどまで飲んだ・・拍手と歓声が1分程続き、シエナがグラスを受取って促す・・。

「・・さあ、願い事をしながら吹き消して・・!・・」

・・ワゴンに歩み寄りながら大きく息を吸い、一息で吹き消す・・すかさず件の彼が長いケーキナイフを彼女に手渡すと、エレインは私を呼んだ・・。

「・・アドルさん・!・アドル艦長・!・一緒にやりましょう・!・」

「・・何だって・?!・・俺と一緒にケーキカットなんてマズいだろう・?!・・」

・・そう言いながら周りを観ると、皆拍手して囃しているし、リサは笑顔で頷いているし、シエナやハンナもハルも、まあ仕様がないんじゃないのと言う感じの表情を作っている・・。

「・・ええ・!・すみませんが撮影は勘弁して下さい・・後々問題になり兼ねませんので・・」

・・そう言うと立ち上がり、エレインの右に立つ・・。

「・・ホラ・・!・・」

・・そう言って差し出して来るケーキナイフを、彼女の両手の上から両手で持ち、静かに奥まで入れて抜く・・また湧き上がる歓声と拍手の中でエレインと握手を交わし、差し出して来る頬っぺたに軽くキスしてから、そそくさと自席に戻った・・。

「・・いやあ、若い娘と一緒にケーキカットなんて気恥ずかしいものですな・・・」

「・・いや・・なかなかに素敵なお兄さんのようでしたよ・(笑)・・」

「・・ハッ(笑)・・お戯れですな・・マエストロ・コラントーニ・・あ・・マエストロ・・不躾ですが、ご兄弟はいらっしゃいますか・・?・・」

「・・は・?・ああ・・4才年上の兄がおります・・ラッサール・コラントーニと言いますが・・それが何か・・?・・」

「・・マエストロと同じように、豪華客船の料理長でいらっしゃるのですか・・?・・」

「・・いいえ・・兄はその・・体質的に海が合わない人でしてね・・陸で料理長をしています・・何と言いましたかな・・?・・ある大きな会社の本社であるビルの1階のカフェラウンジで料理長をやっていると聞いていますが・・?・・」

「・・少しお待ち下さい・・」

・・そう応えた私は、隣で眼を瞠っているリサの顔を横目にしながら携帯端末を取り出すと、本社のメインページから私が勤める営業本部ビル1階のラウンジスタッフを検索し、料理長の画像を呼び出して端末をマエストロの前に置いた・・。

「・・こちらの方でいらっしゃいますか・・?・・」

「・・!・そうです・!・おお・・!・兄をご存知なのですか・?!・・この画像は最近のものですか・?・もう何年も会っておりません・・お恥ずかしい話ですが・・私達は同じ料理人でありながら、その・・色々と意見の合わない処があって・・疎遠になっておりました・・まさかアドルさんから兄の事を知らされようとは・・教えて下さって感謝します・・」

「・・いや何・・私は本社に転勤になって間も無く19ヶ月になりますが、昼はいつもラウンジで食べますので、料理長にはお世話になっています・・特に艦長に選ばれてからは眼を掛けて下さるようになって、時折特別に美味しいものを奢って貰えるようにもなりました・・ファーストネームは存じ上げなかったのですが、コラントーニさんと言う姓は覚えがありましたのでもしやと思い、伺った次第です・・」

「・・そうだったのですか・・いや・・アドルさんを通じて兄とも繋がる事になろうとは・・重ねて感謝します・・あの・・御社は何と仰るのですか・・?・・」

「・・ああ、『インターナショナル・クライトン・エンタープライズ』です・・『クライトン国際総合商社』ですね・・それで艦にも、クライトンと付けたようです・・すみませんが、メディアカードを頂けますか・?・マエストロ・・?・・」

「・・あ、はい・・これです・・」

「・・ありがとうございます・・それではマエストロのアドレス宛に、ウチの料理長のデータを送りますね・・久し振りに、話して差し上げてみて下さい・・私の名前を出して、『ディファイアント』のバーラウンジの厨房にセカンドシェフとして入る事になったと伝えてあげれば、お話も弾むでしょう・・それと・・開幕前ではちょっと時間が無いかも知れませんが、ウチの本社にも是非おいで下さい・・挙って歓迎させて頂きます・・ウチのラウンジは、殆ど夕食を出しておりませんので・・16:00過ぎになれば料理長は大体暇になると思います・・通話なさるのでしたら、そのくらいの時間帯が宜しいでしょう・・お二人を繋ぐお手伝いが出来て、私も嬉しいですし、光栄に思います・・」

「・・アドルさん・・本当にありがとうございます・・何とお礼を申し上げたら良いのか・・これで兄との関係を修復する事が出来るかも知れません・・明日の夕方にでも、通話を掛けてみます・・」

「・・善かったですね・・落ち着いて・・リラックスして話して下さい・・お話が弾むように、祈っています・・」

・・ハンカチを取り出して目頭を押さえるマエストロの右手を、私は両手で握った・・観るとリサやシエナやハンナやハルもハンカチで目頭を押さえている・・思い掛けない処で、大事な橋渡しが出来たようだ・・。

「・・リサ・・この事は、常務かチーフに言って置いた方が好いかもな・・?・・」

「・・はい・・そうですね・・伝えます・・」

「・・シエナ・・いつかマエストロをアーネットの食堂にもご招待しよう・・?・・ウィルのやつ・・喜ぶかな・・?・・」

・・シエナとハンナもまともに返事が出来ない・・ハンカチで眼を押さえながらウンウンと頷く・・と、大きく切り分けられて皿に乗せられたケーキが眼の前に置かれた・・あれからずっとエレインはケーキを切り分けていたようだ・・件の彼がそれを手伝って、皿に切り分けて乗せたケーキを配っている・・。

「・・エレイン・!・俺、こんなに沢山食えないよ・・!・・皆にも配ってるのか・・?・・」

「・・そうですよ、アドルさん・!・今日は私の誕生日ですからね・!・全部食べて下さい・!・」

「・・ああ・・こんな事になるんだったら、もっとクルーを呼べば好かった・・ええ、皆さん、すみません・・この後の予定もありますし、ケーキなので持ち帰るのも難しいですから食べ切りましょう・・ホラ、君もこっちに来て食べて・・良いから・・」

・・そう言って、件の彼も呼び寄せる・・。

「・・大丈夫ですよ、アドルさん・・」

・・と、マレット・フェントン・・。

「・・このくらいのケーキ、私達の別腹にも入りません・・」

・・と、フィオナ・コアー・・。

「・・そんなに気張らなくても、15分も掛かりません・・」

・・と、ミーシャ・ハーレイ・・。

「・・楽勝です・・」

・・と、エレーナ・キーン・・。

「・・おう・・頼もしいね・・」

・・そう言って、一口目を口に運んだ・・。
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