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・・・『始動』・・・

・・オンライン・オンタイム・ファースト・トップミーティング・・

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・・翌日(2/19・木)・・

AM : 10:00・・本社第1棟18階・第1役員待機室・・

・・ここには入った事がない・・まあ、当然だが・・待機室と言っても広い・・ウチのフロアの3分の1程はある・・足音が総て吸収され、靴の半分ほども埋まるような高級絨毯が敷き詰められている室内・・コの字型に配置された、15人は座れるほどの超高級ソファーセットの一角にリサさんと一緒に座っているのだが、このソファーも座れば身体がどこまでも沈み込んでいくように感じられる程のものだ・・。

・・眼の前のテーブルには、コーヒー(キリマンジェロ)が淹れてある・・ブルーマウンテンよりは好きな銘柄だから、まあいい・・点対称でほぼ対面の位置に座っているのがグレイス・カーライル副社長・・2席置いて座っているのが、トーマス・クライトン社長・・また2席置いて座っているのがハーマン・パーカー常務・・また2席置いてエリック・カンデルチーフ・・この待機室に灰皿は無い・・今の役員達に喫煙者が居ないからだ・・。

・・左側を見遣ると中型のモニターが2つ併設されており・・その前に3台のカメラが置かれ、会議用の長い机の前にパイプ椅子が3つ置かれている・・既に私達の胸元にはピンマイクが装着されている・・。

・・それらと接続されているのだろうPADを机の左隅に座って操作している若いエンジニアがいて、彼の右側からジェア・インザー営業本部次長がPADと2つの中型モニターを交互に観ながら彼に指示を出していたが、彼が二言ほど次長に応えると振り返って歩きながら言った・・。

「・・両社とも、接続準備OKです・・何時でも始められます・・」

・・受けて常務が社長を見遣る・・社長も観返して眼が合い頷く・・常務も頷いて立ち上り、次長に応えた・・。

「・・始めよう・・」

・・受けて次長がエンジニアに言う・・。

「・・スタンバイ!・・」

「・・了解・・こちらはクライトン・エンタープライズです・・こちらも通信接続準備OKです・・接続30秒前で同期をお願いします・・3・2・1・カウントダウンスタートです・・システムの調整は総て良好です・・」

「・・では、皆さん・・こちらへお願いします・・」

・・インザー次長の呼び掛けに応じて全員が立ち上がり、歩み寄る・・中央の椅子に社長が座り、その右に副社長・・左に常務・・チーフはエンジニアの後ろに立ち、次長と私とリサさんは社長たちの後ろに立った・・。

「・・接続5秒前・・3・2・1・コンタクト!・・」

・・同時にモニターの映像が切り換わり、両社からの参加者が映し出される・・。

「・・お早うございます・・初めまして、マクスウェル・サドスキー社長・・バルサザール・クラムホルツ社長・・『クライトン・インターナショナル・エンタープライズ』のトーマス・クライトンです・・今回は弊社からの呼び掛けと提案に対し、快く応じて頂きまして本当に感謝しております・・これから宜しくお願い致します・・」

「・・お早うございます・・初めまして、トーマス・クライトン社長・・『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』のバルサザール・クラムホルツです・・お会い出来て光栄です・・宜しければ私の事はバルスと呼んで下さい・・今回は大変に有難く興味深いお申し出と呼び掛けをありがとうございます・・こちらこそ、宜しくお願い致します・・」

「・・お早うございます・・初めまして、トーマス・クライトン社長・・『ビューティフル・ドリーム・ヘルス・アソシェーション』のマクスェル・サドスキーです・・私もお会い出来て光栄です・・宜しければ私の事はマックスとお呼び下さい・・私共も今回の大変に有難いお申し出には強く感謝しております・・こちらこそ、宜しくお願い致します・・」

「・・マックスさん・・バルスさん・・大変に暖かく好意に溢れる歓迎のお言葉をありがとうございます・・我々3人の、今日の出逢いが本当により善きものとなったようで感動しつつ、感謝しております・・私の事はトーマスと呼んで下さい・・改めまして、これから宜しくお願い致します・・早速ですが紹介しましょう・・こちらがグレイス・カーライル副社長・・『ロイヤル・ロード・クライトン』の、艦長でもあります・・そしてこちらが弊社役員で営業本部長でもあります、ハーマン・パーカー常務です・・そして後ろに立って貰っていますのが、右からジェア・インザー営業本部次長です・・そして私の後ろに立っているのが、アドル・エルク係長・・『ディファイアント』の艦長です・・そして彼の左に立っておりますのが、アドル・エルクさんの専任秘書として弊社役員会が任命しましたリサ・ミルズ女史です・・」

「・・ご丁寧な紹介をありがとうございます、トーマスさん・・やあ、お早うございます、アドル・エルクさん・・お久し振りです・・昼食会の時にご一緒しましたが、ろくにお話も出来ずにすみませんでした・・今回は貴方の発案で、大変に興味深く有難いビジネスプランを提案して頂きまして、本当にありがとうございます・・トーマス社長・・ウチのプロデューサー連中もディレクター連中も、20人の艦長達の中では断トツでアドル・エルクさんを絶賛しておりましてね・・エルク氏の持つ豊かな見識、鋭い先見性、暖かく優しさに溢れる現場への気遣いには、挙って感服させられております・・」

「・・お早うございます・・お久し振りです・・クラムホルツ社長・・お元気そうで安心しました・・こちらこそ、昼食会でご一緒させて頂きましたが、あまりお話しできずに申し訳ありませんでした・・私がこのビジネスプランを構築できましたのは、私自身がこのゲーム大会を長く楽しむにはどうしたら良いかと考えた結果です・・結果として3社が共にウィンウインのプロセスを経られるビジネスプランとなりました事は、私にとっても意外な幸運でした・・今日は初めてではありますが、より善い話し合いの場となれれば好いなと思っております・・」

「・・トーマス社長、ご丁寧なご紹介をありがとうございます・・それに今回提案されたビジネスプランの発案者である、アドル・エルクさんにこれ程早くお逢いできるとは思っておりませんでしたので、とても光栄ですし感動しております・・バルサザール社長からアドル・エルクさんの事を伺ってはおりまして・・今回初めてお会いした訳ですけれども・・とても魅力的な人柄のお方のようにお見受けしました・・アドル・エルクさん・・今後とも宜しくお願いします・・」

「・・ありがとうございます・・マクスウェル・サドスキー社長・・そして初めまして、アドル・エルクです・・初対面ですのに、そんなにお褒め頂いて恐縮しております・・こちらこそ、宜しくお願い致します・・」

「・・それでは・・マックスさん・・バルスさん・・宜しければ、お隣の方々をご紹介頂けますか・・?・・出来れば、バルスさんからお願いします・・」

・・と、トーマス・クライトン社長が呼び掛ける・・。

「・・!・これは・!・紹介が遅れまして申し訳ありません・・私の隣に座っているのが、副社長のウォルター・クランストンで・・その隣に座っているのが、専務のブランドン・キャスティールです・・改めて、宜しくお願いします・・」

「・・こちらも紹介が遅れまして申し訳ありません・・こちらが弊社で副社長を務めております、デボラ・ヴァン・フォルケンバーグ女史です・・改めて、宜しくお願いします・・」

「・・バルスさん、マックスさん・・快くご紹介して頂きまして、感謝します・・皆さんも共に、これから宜しくお願いします・・さて・・皆さんもお忙しいかと思いますので、そろそろ本題に入りたいと思います・・『ビューティフル・ドリーム・ヘルス・アソシエーション』社で製造・販売されているアイソレーション・タンク・ベッドの宣伝・販売・配送・設置・アフターケアを3社合同での、共同業務提携事業とする、と言う案件については・・ご賛成を頂けるでしょうか・・?・・」

「・・はい、『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社として、賛成致します・・」

「・・はい、我々『ビューティフル・ドリーム・ヘルス・アソシエーション』としても、賛成させて頂きます・・」

「・・ありがとうございます・・お二方共から即答で賛成の意思を表明して頂きました事には、深く感謝申し上げます・・本来であれば直に面会してガッチリと握手を交わすべき処でありますが、ご承知のようにゲーム大会の開幕が迫っていて、もうあまり時間的な余裕がありませんので、このような形での面会とさせて頂きました事には・改めて深い感謝とお詫びを申し上げるものです・・」

「・・いいえ、トーマス社長・・大丈夫です・・会談の形式に拘りはありません・・仰られる通り、時間が切迫しております・・3社合同・共同業務提携契約条項をこれからの交渉でスピードを上げて協議し、細部まで煮詰めて決定しませんと、現場が動けません・・」

・・と、マクスウェル・サドスキー社長・・。

「・・全く同感ですね、トーマス社長・・事務・実務の交渉を急ぎませんと、21艦の全個室にアイソレーション・タンクベッドを配備する事さえ間に合わなくなる可能性が高くなります・・」

・・と、バルサザール・クラムホルツ社長・・。

「・・改めまして、お二方ともありがとうございます・・それでは・・今日は初回の会合ではありますが、『クライトン・インターナショナル・エンタープライズ』として主張する、利益率を提案させて頂きます・・既に両社の間で合意決定された利益率配分が、あるであろうとは思いますが・・我が社の提案も含めて、改めて練り直して参りたいと思います・・では、口頭ではありますが具体的に申し上げます・・配信されるリアル・バラエティ・ショウのファーストシーズンが終わるまでは、15%・・セカンドシーズンが始まってからは、10%・・サードシーズンが始まってからは、5%・・フォースシーズンが始まってからは、3%に変移させて・・それ以降はファイナルシーズンの最終回まで、3%で固定します・・尚10%と5%に於いては、その時局での状況・状態に合わせて柔軟・臨機応変に対応できるように、プラスマイナス2%の振れ幅での、設定許容範囲を持たせます・・以上が我が社として提案する、利益率です・・」

・・2分間程の沈黙を置いて、マクスウェル・サドスキー社長が口を開く・・。

「・・なるほど・・随分と考え抜かれて出された、変移性利益率のようですね・・?・・」

「・・いや、サドスキー社長・・これも基本的には私の提案なのですが、そんなに悩んで考え抜いて出した利益率でもありません・・我が社のこの案件に於ける基本姿勢を説明させて頂きますと・・先ず、『ビューティフル・ドリーム・ヘルス・アソシエーション』社に於かれましては、とにかくタンクベッドを大量に生産して頂き・・3社の協力、協同でそれらを売り尽くす程迄に売り捌いて、利益の大半はそちらで納めて頂いて・・獲得販売シェア率を拡大させましょう・・最終的には最低でも、2位まで浮上しましょう・・と言うよりも、2位までの浮上は充分に出来ると思います・・次に『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社に於かれまして、ですが・・20隻全艦の全個室にタンクベッドが配備されれば、それは我々20隻にとって戦略上でも戦術上にも一日の長となり、20隻全艦でファーストシーズンを生き延びられる可能性が高くなります・・勿論私も全艦で生き延びられるように全力を尽くします・・御社に於かれましては、是非とも早い段階でフォースシーズンの制作を決定して頂きたいのです・・タンクベッド配備の件は、配信番組独自の演出上の決定であるとして、ゲーム大会開幕後に発表しましょう・・そうすれば、我々の実戦実績からも話題が話題を呼んで、おそらくはゲーム大会に参加する全艦が、新規顧客となり得るでしょう・・そうなり得る可能性の高さも鑑み・・タンクベッドの販売単価を出来る範囲で引き下げる事も検討して頂ければと思います・・まあとにかく、『ディファイアント』と『ロイヤル・ロード・クライトン』が撃沈される迄は、続行させる事の出来るビジネスプランである事は確実ですし、私とグレイス・カーライル艦長も最後まで諦めませんので、結果として長期間に亘って続行出来るビジネスモデルとなるでしょう・・如何でしょうか・・?・・」

・・水が欲しい・・立ってるのもちょっと辛くなってきた・・まあ、もう少し我慢しよう・・。

・・暫くの間沈黙が流れたが、バルサザール・クラムホルツ社長が口火を切った・・。

「・・マクスウェル・サドスキー社長・・こちらで5%を割きますので、そちらで10%、割けませんか・・?・・もしも厳しいようでしたら、こちらで7%を割きますので、そちらで8%、お願いできませんか・・?・・」

「・・トーマス・クライトン社長・・バルサザール・クラムホルツ社長・・我が社が10%を割いて60%・・クラムホルツ社長の所が5%を割いて25%・・それでクライトン社長の所が15%・・我ら3人の独断と一存で・・ここで決定しましょうか・・?・・」

「・・いや、やはり一度持ち帰りましょう・・皆さんそれぞれ、交渉チームを既にお持ちでしょうから・・持ち帰って討議して頂いて、来週の月曜日・・22日のまた同じ時間に、また我々でこの形態で会合を持つと言う事で、宜しいでしょうか・・?・・」

・・トーマス・クライトン社長がそう提案すると、他の2人の社長も頷く・・。

「・・そうですね・・では持ち帰って討議するとしましょう・・」

「・・分かりました・・ではその代わりに、利益率の配分は次の会合で必ず決定すると言う事で、よろしくお願いします・・」

「・・了解です・・朝からお疲れ様でした・・」

「・・ありがとうございました・・では、来週の月曜日に・・同じ時間で・・」

「・・承知しました・・お疲れ様でした・・」

「・・ありがとうございました・・お疲れ様でした・・」

・・3人とも頷いてから2秒で接続は解消された・・。
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