『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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・・・『始動』・・・

・・リーア・ミスタンテ・・ロリーナ・マッケニット・・アンバー・リアム・・ナターシャ・ミアナ・・

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・・今度は固定端末で、スコットが作った会議室をブラウジングさせてアクセスし、中に入る・・さすがはスコットだ・・こう言うものを作る上でも、彼が持つチョイスセンスは光る・・一応、常務とチーフと私を除く全メンバーが書き込んでいたが、初参加の挨拶と簡単な自己紹介のような書き込みがおおよそだ・・私も同じように書き込みをした後で、利益率の提案は全員が明朝のミーティングで出し合い、それを元に議論を尽くそうと呼び掛ける・・。

・・会議室から出ると会社のホームサーバーにアクセスする・・私の社内認識コードとワークアドレスとアクセスコードを入力して、会社の株価動向を調べる・・予想通り、右肩上がりでの上昇を続けている・・私も収入の2%で自社株を購入しているが、このまま行ってくれれば凄い事になるだろう・・更に2つのタスク・ウィンドウを開いて、『ビューティフル・ドリーム・ヘルス・アソシェーション』社と『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社の株価動向をブラウジング・リサーチして表示させる・・ふむ・・3社の資本力・資金力の現状を鑑みれば、アイソレーション・タンクベッドの売り上げに固執して高い利益率を主張する必要は無い・・目的は配信番組の長期化と、タンクベッド販売獲得シェアの拡大だ・・これらを成さしめる為にはこちらで主張する利益率はもっと低くした方が好い・・あの時には然したる根拠もなく、咄嗟に近い形で20%・・15%・・10%と言ってしまったが・・15%・・10%・・5%・・で好いな・・私は3つのリサーチ・データリンクを携帯端末にダウンロードした・・。

・・3つのタスク・ウィンドウを総て閉じて新たにまた開き、ゲーム大会運営本部の総合メインページにアクセスする・・最初のページで大きく出ているのが、今日の16時の時点で運営本部が受け付けた参加艦数だ・・。

・・全艦で88726隻・・以前に観た時から1852隻増えている・・軽巡宙艦が1288隻増えて、59493隻・・重巡宙艦が498隻増えて、21526隻・・戦艦が66隻増えて、7707隻となっている・・やはり締め切りを迎えても十万隻には届かないようだ・・おそらく軽巡宙艦は、六万隻を超えるだろう・・。

・・これぁやっぱり、ミッションをクリアして経験値を積むしかない・・軽巡10隻・・いや15隻分の経験値を積まないと、重巡とまともに渡り合うのさえ無理だな・・。

・・冷えたコーヒーを飲み干して私専用のマニュアルテキストファイルを呼び出す・・読み進めながら、別のタスクで配信ニュースを漫然と眺めているが、頭には入って来ない・・脇に置いてメッセージボックスを開き、隔離保存メッセージカテゴリーを更に3つ増やして振り分けさせる・・返信する必要性なしと判断できるメッセージを一挙に削除し、その他のメッセージに対してはゲーム大会が開幕してから返信するので暫く待って欲しいとの一文を書き、自動で同時返信させた・・この固定端末には仕事上でのメッセージはほぼ来ないから、これで大体良い・・。

・・そこで携帯端末に通話が繋がる・・エマ・ラトナーからだ・・スピーカーに切り換える・・。

「・・もしもし、こんばんは! エマです!・・今、大丈夫ですか・・?・・」

「・・こんばんは、大丈夫だよ・・どうしたの・・?・・」

「・・今日、ジェットで飛びました・・それで、新記録を出しました!!・・」

「・・ご苦労さん! お疲れ様! よくやったね! MAXは・・?!・・」

「・・Mach 2.48 です!!・・」

「・・そいつはスゴイな、エマ! よくやったよ! 宿題、コンプリートだな!・・」

「・・ありがとうございます・・それとあの・・ジェットに乗って飛べって言ってくれたことも、ありがとうございました・・久し振りにスピード感を思い出せました・・」

「・・そいつを思い出して欲しかったんだよ・・でもな、エマ・・『ディファイアント』はもっと速いぞ・!?・」

「・・はい! 分かっています! 必ず、乗りこなします・・」

「・・よし! それを聞けて安心したよ・・今日はすごく緊張して疲れているから、ゆっくり寝みなさい・・金曜日には、また会社で待っているから・・な?!・・」

「・・はい、分かりました・・お先に失礼します・・お休みなさい・・」

「・・お休み、エマ・・お疲れさん・・」

・・通話は彼女の方から切れた・・私も切って彼女を思い遣る・・彼女に来て貰えて本当に好かった・・。

・・暫くそのまま座っていたが気を取り直すと、配信ニュースサイトで『ハイラム・サングスター』・・『ヤンセン・パネッティーヤ』・・『ザンダー・パスクァール』・・『エイミー・カールソン』を検索する・・が・・然程に眼を引くような記事もインタビューも出て来ない・・まあ油断すべきでない事は充分に感じられる・・彼等から観て私も、そのように捉えられているのだろう・・だが彼等が揃えた陣容は総て、モリー・イーノス女史によってこちらにもたらされている・・開幕10日程前を目処に、メインとサブスタッフには彼女の事を打ち明けて、彼女からもたらされた情報の裏取りを指示しよう・・うん・?・開幕10日前と言えば、明後日の18日(木)だ・・そしてその次の日は営業本部での壮行会でもあるし、まあ丁度好いか・・。

「・・重要情報の共有とそれに基づいての情報確認任務の指示を行いたい故、メインとサブスタッフは明後日の18日(木)の19:30に、社宅に参集されたい・・尚、一般クルーにはこのメッセージを伝達しないように・・」

・・と、この一文をメインとサブスタッフの全員に送信した・・。

・・何か飲み物でも作ろうかと立った時に、ドアチャイムが鳴る・・壁掛けのクロノ・メーターを観ると、22:40だ・・訝しく思いながらも出ると、機関部長に副機関部長・・それに、機関部主任の2人が立っていた・・。

「・・こんばんは、アドルさん・・夜分遅くに申し訳ないとは思いましたが、報告もありましたので4人で来ました・・お邪魔しても、宜しいでしょうか・・?・・」

と、リーア・ミスタンテ機関部長がそう言って会釈する・・。

「・・ああ、こんばんは、リーアさん、いらっしゃい・・わざわざ済みませんね・・入って下さい、寒いですから・・さあ、皆さんも上がって下さい・・今日も1日、お疲れ様でした・・」

・・そう言って4人を招き入れる・・リビングに案内してコートを預かり、座って貰う・・。

「・・ゆっくりくつろいで下さい・・ミルクティーを淹れますね・・?・・」

「・・ありがとうございます・・」

「・・楽しみです・・」

・・4人の為に、結構気持ちを込めてミルクティーを淹れる・・。

「・・さあどうぞ、召し上がれ・・」

「・・本当に・・こんなに美味しいミルクティーは飲んだ事がありません・・」

「・・私もです・・言葉がありません・・」

「・・何て言ったら良いのかも分かりません・・」

「・・ありがとう・(笑)・ゆっくり飲んでね・・お代わりもあるよ・・」

「・・アドルさんがカフェを開いたら、大繁盛間違いなしですよ・!・」

「・・ありがとう、リーアさん・・あ、昨日はエマさんのジェットの機体を整備してくれてありがとうね・・」

「・・いいえ・・こちらこそ、久し振りにジェット機の整備をやらせて貰ったので、カンが戻りました・・ありがとうございました・・あの・・エマから連絡は来ましたか・・?・・」

「・・ああ、ついさっき、通話で来ましたよ・・最高速の新記録を出せたって、喜んでいましたよ・・」

「・・そうですか・・私も今日、連絡を貰いました・・あの・・エマは結構長い間、ジェットには乗っていなかったんです・・ギリギリのスピードで凌ぎを削るのは、地上だけで沢山だから・・私が空を飛ぶのは・・ゆったりと休んで過ごしたい時なんだから・・って・・」

「・・うん・・それは・・初めて会った時にも、そんな感じの事を聞いたね・・」

「・・エマがスピード・レーサーを休んでまで『ディファイアント』に乗る事を決めたのは、アドルさんの事が好きだからです・・その上、エマは以前よりもっと明るくなりましたし・・成長もしていると思います・・開幕して『ディファイアント』のパイロットシートに座ったら・・きっと自分でもビックリするでしょうね・・」

「・・そうなんだ・・それは楽しみだね・・ところで、今日は何をしていたの・・?・・」

「・・ああ!・すみません、報告が遅れました・・実は今日、機関部全員で撮影セットの見学をして来ました・・」

「・・ああ!、それはご苦労様・・それで4人で来てくれたんだね・・それでどうだった・・?・・」

「・・すごく好かったです・・新しい発見も感動も学びも疑問もありました・・」

・・と、ロリーナ・マッケニットがミルクティーを一口飲んで言う・・。

「・・プロデューサーのマルセル・ラッチェンスさんから、意見を求められたんです・・総ての個室にアイソレーション・タンクベッドを入れる事になったんだけど、どこに置いたら好いだろうかって・・」

・・と、アンバー・リアム・・。

「・・へえ・・もうそこまで話が進んでいるんだね・・こっちも急がないとな・・それで・・発見について教えてくれるかな・・?・・」

「・・色々な部屋のメンテナンス・ハッチを開けて、中に入って触ったり・・機関室からメンテナンス・チューブに全員で入って、這い回りながらパネルを開けて、メンテナンス・キットを使って点検したりしました・・」

・・と、ナターシャ・ミアナ・・。

「・・ほお~・・結構本格的に触って来たね・・面白かった・・?・・」

「・・面白かったですし、楽しかったですし、驚きました・・撮影セットとは到底思えない程の本物っぽいシステムでした・・」

・・と、リーア・ミスタンテ・・。

「・・良かった・・体験を通じて君達のスキルが上がっていくのを観るのは、嬉しいよ・・それじゃ・・疑問に思った点に付いて、教えてくれるかな・・?・・」

「・・私達が全員で『ディファイアント』のパワー・アセンブリ・システム・ラインを辿りながら確認していった時に感じたのですが・・・」

・・と、ナターシャ・ミアナが話し始める・・。

「・・ごめん、ちょっと待っていて・・直ぐに戻るから・・」

・・そう言って自室に入り、ラップトップ端末を持って戻る・・起動し、ゲーム大会運営本部総合メインページをブラウズさせ、私のPIDナンバーと艦長としてのアクセス承認コードを入力して、私専用のデータベース・ファイルに入る・・。

・・『ディファイアント』の内部構造ファイルを呼び出して3Dで空間に表示させると、その後は手を使って空間表示を拡大させて観る・・。

「・・これがまあ、『ディファイアント』のインパルス・パワー・アセンブリ・システム・ラインなんだけれども・・どの辺かな・・?・・」

「・・ここです・・この・・インパルス・パワー・トランスファー・コンバーターの配列を観て下さい・・?・・」

・・と、そう言ってロリーナ・マッケニットが、その部分を自分の手で拡大して観せる・・。

「・・うん・・2列で18基のパワー・トランスファー・ソケット・ジャックが配列されていて・・それぞれ交互に、インパルス・パワー・トランスファー・インジェクターと、インパルス・パワー・トランスファー・スチュミレーターが接続されているよね・・?・・」

「・・はい・・でも2列で18基のソケット・ジャックで・・後方4基は何も接続されていません・・インジェクターとスチュミレーターの予備は、それぞれ4基ずつが収納されているのを確認しましたが、何故接続されていないのでしょう・・?・・」

「・・メインエンジンとサブエンジンのパワーゲインは確認しているよね・・?・・」

「・・勿論、確認しています・・」

・・と、アンバー・リアム・・。

「・・この接続状況で必要とされるパワーゲインが保証されていると言う事は、これ以上の接続が通常では必要とされないと言う事・・戦闘での結果か不慮の事故などが原因で、接続中のソケット・ジャックが破損した場合・・未使用のソケット・ジャックが4基あれば、インジェクターやスチュミレーターを直ぐに外して付け替えれば、手当てにはなる・・他に考えられるとしたら、もっと強力なパワーゲインを必要とする状況が発生した場合・・だね・・まあ取り敢えず・・パワー・アセンブリ・システム・ラインに余裕・余力を持たせて構築してくれた事には、感謝しよう・・」

「・・そうですね・・でも・・・」

・・と、ナターシャ・ミアナ・・。

「・・よし、じゃあ機関部長も含めて機関部全員に宿題を出そう・・今保証されているパワーゲインであれば・・通常時は勿論、戦闘時でも緊急事態でも、パワーの供給に問題はない・・ならば・・これ以上のパワーゲインが必要となる状況を想定して欲しい・・個人で考えても、話し合っても好いよ・・開幕までに想定を出してくれれば嬉しいけれども、開幕してからでも好いよ・・」

「・・分かりました・・考えてみます・・」

・・と、機関部長・・。

「・・アドルさんには、もう想定がありますか・・?・・」

・・と、ロリーナ・マッケニットが訊く・・。

「・・あるよ・・3つある・・でも今は言わないから、皆も暫く考えてみて・・?・・」

「・・分かりました・・やってみます・・」

「・・ありがとう・・それじゃあ、他にはあるかな・・?・・」

「・・アドルさん・・こちらに着く前に送られたメッセージですが・・・」

・・と、またロリーナ・マッケニットが言う・・。

「・・うん、いや、その事についてここでは言わないよ・・集まってくれた時に話すから・・」

「・・アドルさん・・アンバーとナターシャはサブスタッフではありませんが、機関部の主任です・・重要情報の共有と言う事でしたら、この2人も含めるべきだと思います・・」

・・と、ロリーナが私に対して食い下がる・・。

「・・分かった・・今回の会議に関しては、機関部主任の2人も参加メンバーに含める事にする・・ロリーナ・・後でメッセージの内容を2人に伝えてくれ・・リーア・・後でこの決定を副長に連絡してくれ・・」

「・・分かりました・・」

「・・了解しました・・」

「・・他にはあるかな・・?・・」

・・4人とも無言だった・・。

「・・それじゃ、今日はこれで終わりましょう・・タクシーを呼びますから、気を付けて帰って下さい・・早く寝んで下さいね・・もうこんな時間ですから、食べたり飲んだりはマズいでしょうけど・・ミルクティーかレモンティーでもどうですか・・?・・」

・・リーアとアンバーがミルクティー・・ロリーナとナターシャがレモンティー、と言う事だった・・丁寧に淹れて、それぞれに供する・・飲んで貰っている間にタクシーを呼ぶ・・ロリーナとナターシャは何か不満そうな素振りも見せていたが、お茶を飲み終える頃には落ち着きを取り戻してくれていた・・。

・・その後、暫く雑談していたがタクシーが来たので、運賃を支払って4人に乗って貰い、お帰り頂いた・・ここに来たのがもう既に、22:40だったのでギターを弾いて歌って欲しいとか、キスして欲しいとか言う事にはならなかったのだろうかとも思う・・酒を飲ませなかったのも良かったのだろう・・ロリーナとナターシャには、それに類するような想いもあったのかも知れないが・・何とか抑えて貰えたようだ・・だがいずれは、応えなければならないのだろう・・。

・・妙に私も精神的に疲れた・・ウィスキーグラスにモルトを注ぎ、プレミアム・シガーとライターと灰皿と共にトレイに乗せ、ベランダに持って出て座る・・10分程掛けて両方とも充分に堪能してから室内に戻る・・そのまま顔を洗って寝んだ・・。
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