上 下
64 / 277
・・・『始動』・・・

社宅にて 2

しおりを挟む
「・・分かりました・・でも・・リサさんやマーリーさんともキスしたのは、どうしてなんですか・?・・」

・・と、アンバー・リアムが訊く・・シンシア・ラスターは口を開かずに、私の顔を観ている・・。

「・・そこまで聞いているのか・・彼女達とそのような関係になってしまって・・結果としてその関係に引き摺られてしまった自分の、自制力の弱さ・・自己本位性を抑制し切れなかった処にある・・高潔な人格には程遠い・・こんな僕を信頼して慕ってくれるのは本当に有り難いんだけど・・どうして皆、口々に僕を好きだと言うのかな・・?・・」

・・と、食べながら言う・・。

「・・アドルさん以上の男性がいないからです・・」

・・と、シンシア・ラスターも食べながら言う・・。

「・・いるよ・!・どこにでも、いくらでもいるよ・・!・・ウチの会社にだって、僕より若くて、イケメンで、格好が良くて、優秀で、将来性があって、高潔な人格の男が、100人はいるよ・・それにゲーム大会が開幕すれば、艦長だけで約10万人が同じゲームフィールドの中に集う事になる・・全艦長の中で5%・・5千人は、僕よりも確実に優秀で能力的にも人格的にも上だろうね・・それに10人の女性艦長が指揮する艦のクルーは男性芸能人だ・・出航するのは土日だけだから平日は普通に芸能の仕事をするだろう・・ゲームの中で新しい彼らの側面が発見できれば、平日に同じ現場で顔を合わせた時に、そこから新しい交流が始まるかも知れない・・」

「・・でも、アドルさん以外に私達を一つには出来ません・!・・」

・・と、アンバー・リアムもキールを飲み干して言う・・。

「・・うん、そうだったね・・ありがとう・・それは僕もそう思うよ・・君達を一つに出来たのは、とても不思議で・・得難い経験だった・・まあ・・僕よりも優秀で高い能力を持つ人は何千人もいるんだけど・・そう言う人達を相手にどう戦えば勝てるのかを考えるのは、ワクワクして楽しいしゾクゾクして高揚するね・・僕も大概変態的だけど・・何とか百位以内には入れるように考えてやってみるから・・君達も力を貸してくれる・・?・・」

「・・勿論です! 任せて下さい!・・」

「・・大丈夫です! 頑張ります!・・」

「・・2人ともありがとう・・沢山食べてって・?・お代わりは・・?・・」

「・・じゃあ、サラダを少しお願いします・・」

「・・私もサラダを少しお願いします・・」

「・・ああ・・デザートワインは買ったんだけど、アイスクリームを買って帰るのを忘れたな・・ごめんね・・ちょっと冷凍庫の中を観て、考えるからね・・?・・」

・・と、2人の皿に温野菜豚肉サラダを3分の1程よそってあげ、スープも新しくよそってあげながら言う・・。

「・・あの・・難しいようなら大丈夫ですよ・・もうそろそろお腹も胸も一杯になりますので・・」

・・と、シンシア・ラスターが少し腰を浮かせながら言ったが・・。

「・・大丈夫ですよ・・そんなに大盛りにはしないから・(笑)・」

・・そう言って右手を軽く挙げると、キッチンに入る・・冷凍庫を開けて観ると、バニラとチョコレートと抹茶のアイスがそれぞれ半分ほど残っている・・同じ冷凍庫に入れてあるアイスグラスを2つ取り出してお盆に乗せ、大きめのスプーンでチョコ・バニラ・抹茶の順に、それぞれ一かきずつ掬い取ってアイスグラスに重ね入れて、その上からクレーム・ド・カシスを20mlずつ程掛けて、スプーンと一緒に2人の前に持って行き、眼の前に置いた・・。

・・2人とも食べる手を止めて、眼を見開いて観る・・。

「・・アドルさんはお料理でもスイーツでも、盛り付けのバランスがすごく好くて綺麗で感動します・・勿論どれも、とっても美味しいですし・・」

・・と、アンバー・リアム・・。

「・・そんなに褒めなくて好いよ・・少しでも見映えの好いように、体裁を取り繕って盛っているだけだからさ・・まだ食べ終わっていないのに持って来ちゃってごめんね・・アイスグラスも冷やしてあるから、そんなに早くは融けないから・・ムニエルは食べ切れなかったら残しても良いよ・・後で僕が食べるから・・サラダは食べ終わってくれた方が好いかな・・?・・」

「・・そんな事ないですよ、アドルさん・・アドルさんがカフェを開くのなら、常連の女性客が沢山付いて繁盛すると思いますよ・・」

・・と、シンシア・ラスター・・。

「・・ああ、それは娘にも言われたよ・・でも僕には店舗経営の才能は無いし・・それに料理の腕は奥さんの方が数段上だからね・・せいぜいアシスタントシェフだろうね・・でもね・・ゲーム大会が終って落ち着いて・・もしも会社を辞めるような事になったら・・カフェを開くって言うのも好いかも知れないね・(笑)・もしもそう言う事になったら、宣伝してくれるかい・(笑)・?・・」

「・・勿論ですよ! 任せて下さい! 全員でコマーシャルに出ますよ! 」

「・・そうですよ! 全員で口コミでも広めますし、毎日誰かが必ず手伝いに来るようにしますよ! 」

「・・2人とも本当にありがとう・(笑)・その時になったら宜しく頼むね・(笑)・それじゃ、デザートワインを持って来るよ・・」

・・またキッチンに戻り、冷凍庫からシャトゥー・ラモット・ギニャールを取り出す・・拭き上げて細身のワイングラス3つと一緒に持って行き・・3つともに7割ほどに注ぐ・・。

「・・乾杯・・」 「・・乾杯!・・」

「・・どう・・?・・」

「・・美味しいです・!・・このワインは飲んだ事が無かったので、すごく新鮮です・!・・」

・・と、アンバー・リアムが興奮気味に言う・・。

「・・そう・・君の新しい初体験を演出出来て好かったよ(笑)・・アイスも融けないうちに食べてね・・」

「・・はい、頂きます!・・」

・・2人とも一口目では驚いていたが、二口目ではしっかりと味を堪能した・・。

「・・すごい・!・・3種類のアイスの味とカシス・リキュールの味が相俟って、とてもハイレベル・ハイセンスな味になっています・・これは選んだアイスの種類と、それぞれの分量が絶妙だからですね・・それにこのデザートワインともお互いを引き立て合っていて、高め合っているようです・・」

「・・シンシアさん、素晴らしく褒め称えてくれて、本当にありがとう・・何だか照れ臭くて、身の置き所に困るぐらいだよ・・ブランデーがあったら、掛けた上で火を点けてみたかったんだけど・・今はちょうど無かったからね・・でもリキュールなら、相性は好いだろうと思ったんだ・・」

「・・いいえ、率直で正直な感想です・・アドルさんは、メンタルとしては普通の方なのに・・今回の環境変化は余りにも性急で激しいものでした・・特に人間関係に於いては、一時的に圧倒されてしまって、そのまま引き摺られてしまう事になってしまったのも、ある程度の理解は吝かでないと思います・・でも、リサさんとマーリーさんとの関係は、徐々にフェードアウトさせていくべきだと思います・・」

「・・シンシアさんは心理学を勉強していたの・・?・・」

「・・はい、学生時代の専攻・選択科目の中には入れていませんでしたが、個人的に学んでいました・・なので、ハンナ・ウェアーさん程ではありませんが、ある程度は分かります・・」

「・・ほう・・そうですか・・表層の記録には顕れない、経歴やスキルもありますね・・今、新しい人材を得られたようです・・ハンナさんにも話をしますが、もしも彼女と貴女からも了承を得られるなら、貴女の機関室での勤務が通常直時の場合に限り、アシスタント・カウンセラーを兼任して頂く、と言うのはどうでしょう・・?・・」

「・・望外のお申し出をありがとうございます・・私も・・個人的にですが、学んだ事を少しでも活かせればと思っていました・・もしも許されるのならば、お手伝いさせて頂きたいと思います・・」

・・と、シンシア・ラスターは30秒程無言で私の顔を観ていたが、笑顔になるとそう言った・・。

「・・ok・・副長も交えてハンナさんやリーアさんとも一緒に話をして・・諒承が得られれば君も交えて話をしよう・・まあ、平常時なら然程の問題は無いだろう・・それと・・リサさんやマーリーとの・・余分な関係は・・徐々にフェードアウトさせていく方が、僕も良いと思うから・・そのようにしていくよ・・」

「・・あの・・差し出がましい事を言ってしまってすみません・・」

「・・良いんだよ、シンシアさん・・ゲーム大会が終わっても会社勤めは続けるんだから、同僚達との関係は適正に修正するべきなんだ・・」

「・・アドルさん・・御社のトーマス・クライトン社長は、リサさんとアドルさんを娶せようとしているのではありませんか・・?・・」

・・と、アンバー・リアムが少し酔ったのか、そう訊いた・・。

「・・アンバーさん・・それはちょっと飛躍した推論だね・・もしも本当にそれを企図するなら、僕の離婚が前提になるけど・・そんな事は有り得ない・・また更に言うなら、例え今の僕が独身でもそんな事は有り得ない・・何故なら僕にあんな大企業を経営出来るスキルは無いから・・」

「・・すみません・・変な事を言いました・・」

「・・良いんですよ・・ワインのお代わりは・・?・・」

「・・あ、もう充分です・・ご馳走様でした・・本当に美味しかったです・・ありがとうございました・・」

「・・私も充分に頂きました・・ご馳走様でした・・本当に美味しくて感動しました・・ありがとうございました・・」

「・・こちらこそ、思い付きで作った料理を美味しそうに食べてくれて、どうもありがとう・・それじゃ、買ってきてくれたモルトの味見をして終わろうか・?(笑)・・」

「・・好いですね、頂きます・・」

「・・お相伴に与ります・・」

・・了承を得たので、頂いたポートリング・シングルモルトの18年物のボトルとウィスキーグラスを3つ持って来て、封を切る・・。

「・・ツーフィンガーで好いよね・・?・・」

・・2人とも頷いたので、3つのグラスにきっちりツーフィンガーで注ぐ・・。

「・・それじゃ、最後の乾杯!・・」

「・・乾杯!・・」

・・馥郁たる芳醇且つ豊潤な香りを楽しみ、光に透かせて色合いを愛で、口に含んで豊潤な仕上がりと風味を確認し、飲み下して味わいを楽しむ・・。

「・・旨いね・・やはり・・北海で鍛えられた、骨太で力強い優しさと豊かさを感じさせる味わい・・と思う・・」

「・・詩人ですね、アドルさん・(笑)・ウィスキーはあまり慣れていないのですが、美味しいと思います・・」

・・と、シンシア・ラスターが少しずつ飲みながら言う・・。

「・・私はブレンデッド・ウィスキーが多くて、モルトは偶にしか頂かないのですが、この鮮烈な味わいには、強いインパクトを感じます・・」

・・そう言って、アンバー・リアムが溜息を吐く・・。

「・・うん・・本当に好い物をありがとう・・アンバーさん・・今日、君が払ったお金を精算するからレシートを見せて・・?・・」

「・・アドルさん・・これらは私達からのほんの気持ちですので、お金は結構です・・大丈夫ですから、気にしないで下さい・・」

「・・アンバーさん・・駄目ですよ・・私は皆さんに金銭的な負担はさせないと約束しました・・だから、私に関わる事案で支払われたお金は総て精算します・・レシートを見せて下さい・・」

・・アンバー・リアムは渋々自分の携帯端末のモニターで、支払い明細を表示して私に見せる・・端末を受け取った私は、ビットカードを彼女の端末のスキャナーにセタッチして、彼女の口座に同額を振り込み、笑顔で端末を返す・・。

「・・ご馳走様でした・・それじゃあ片付けますので、手伝って貰えますか・・?・・」

・・残った料理の保存、総ての片付け、洗浄、拭き上げ、収納と、3人で行えば30分も掛からずに終わる・・キッチンの清掃も終えて、リビングでソファーに座った2人にレモンティーを振舞って、その労を労うとレモンティーの味にも感動してくれる2人である・・。

「・・アドルさんが作るものって、総て完璧じゃないですか・!?・・もう1度言いますけど、アドルさん以上の男性はいませんよ・!・アドルさんが最高なんですよ・・!・・」

「・・私も全く同感です・・」

「・・普通に淹れたお茶なんだけどね・・褒め過ぎなんだよ皆・・そんなに大したものじゃないんだよ・・」

・・フルフルと2人とも首を振る・・。

「・・まあ、褒めてくれるのは嬉しいし、有り難く受け取るよ・・じゃあタクシーを呼ぶね・・?・・」

「・・アドルさん・・泊まっても好いですか・・?・・」

「・・う・・ん・・まあ別に好いんだけど、ゲストルームは一つだけだから、2人で使ってくれる・・?・・クローゼットを見せるから、着替えとして使えそうな服を選んでね・・?・・お風呂は先に使って下さい・・その間にゲストルームを整えるんで・・歯ブラシは新しいのを出すよ・・明日の朝食は、君達に任せても好いかな・・?・・食べた後で、君達を最寄りのステーションまで送ってから、僕は会社に行くから・・そんなプランでOK ? ・・」

「・・OK です、最高です、ありがとうございます・・宜しくお願いします・・」

「・・ありがとうございます・・宜しくお願いします・・美味しい朝ご飯を作ります・・」

「・・2人ともありがとう・・じゃあクローゼットはこっちね・・」

・・自室のクローゼットに案内して観て貰っている間に、新しい歯ブラシを卸して2人に渡す・・着替えが選べたようなので、2人を浴室に連れて行ってタオルを渡して入って貰い、私はその間にゲストルームを整えた・・。

・・バスから出た2人に水を飲ませてリビングで座らせ、私は超短時間でシャワーを浴びる・・。

「・・今日はお疲れ様でした・・手伝ってくれて、ありがとう・・じゃあ、休もうか・・?・・」

「・・あ、あの、アドルさん・・私達もアドルさんに、要請します・・」

「・・フウ・・分かりました・・自室に入って待つから、1人ずつ来て下さい・・」

・・そう言って立ち、自室に入って椅子に座って待つ・・1分程でノックと共にアンバー・リアムが入って来る・・。

・・立ち上がって歩み寄り、彼女の手を取って寄り添う・・。

「・・アンバー・・何を言っても何をしても、今の君の望みの総てに応えることはできない・・」

「・・分かっています・・大丈夫です・・」

「・・今ここで僕が君にどう接したかは・・出来れば言わないでくれる・・?・・」

「・・誰にも言いません・・」

・・彼女を優しく抱きしめて、左頬を胸に付けさせる・・そのままで1分程・・顔を離して見詰め合い、ゆっくりと優しく唇を重ね合わせる・・あくまでも優しく求め合う接吻が3分程続き・・ゆっくりと離れた・・。

「・・ありがとう・・ございます・・」

・・かなり顔を赤くして、少しふらつきながら出て行く・・すぐにシンシア・ラスターが入って来る・・。

「・・シンシア・・君には時折り・・僕の心の弱さを指摘して欲しい・・ハンナさんもしてくれるだろうとは思うけど・・彼女は僕と2人きりになると甘えてくるから・・」

「・・分かりました・・心掛けておきます・・」

・・お互いの手を慈しみ合うように、握り合いながら言葉を交わす・・やがて優しく抱き締める・・。

「・・シンシア・・君の望みの総てに応えられない事を許して欲しい・・」

「・・大丈夫です・・承知しています・・」

・・頭を抱いて髪から肩・背中を撫でる・・顔を離してお互いの眼を20秒程見詰め合い、ゆっくりと優しく唇を重ねる・・シンシアとのキスも、優しく求め合うものだった・・2分と少し続けて顔を離す・・もう一度優しく抱き締め合って身体を離し、2人で部屋を出る・・。

「・・じゃあ、お休みなさい・・入ったら内からロックしてね・・明日の朝は・・6時過ぎくらいにチャイムを鳴らすんで宜しく・・何か要る・・?・・」

「・・いいえ、大丈夫です・・お休みなさい・・」

「・・ありがとうございます・・大丈夫です・・お休みなさい・・」

・・そう言って2人ともゲストルームに入る・・私は大きく息を吐き、ウィスキーグラスに先程の18年ものをワンフィンガー分だけ注ぎ、それといつぞやのプレミアムシガーを取り出し、ライターと灰皿と一緒にプレートに乗せてベランダに出ると座った・・。

・・シガーを1本取り出して咥え、ゆっくりと点ける・・少し深く喫って蒸し、燻らせてモルトを一口含む・・夜風はかなり寒いが、申し分の無い旨さを堪能している・・明日から新しい業務提携プロジェクトが始まるが、明日の仕事の事は明日考えれば良い・・その他にはあまり何も考える事もなく、シガーとモルトの味を堪能しながら時を過ごし・・喫い終わり、飲み終わってから部屋に引き揚げ、顔を洗い、歯を磨いて自室に入った・・。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

弟子と師匠と下剋上?

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:64

→誰かに話したくなる面白い雑学

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:74

二度目の恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:13

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:738pt お気に入り:4,591

君の笑顔が大好きで -モテないオレとイケメン親友の恋-

mii
BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:190

転生したので堅物な護衛騎士を調教します。

BL / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:3,095

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:667

処理中です...