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・・・『始動』・・・

社宅にて

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・・買って来た酒類を取り敢えず冷凍庫に入れて冷蔵庫の中を吟味する・・ちょうど舌平目とスズキとサーモンの切身がある・・ムニエルにしよう・・。

・・米を磨いで炊飯器にセットする・・切身に塩胡椒で下味を付けるのだが、ここでもう勝負が決まる・・少し・・控え目にしよう・・その代わりソースは総て用意しよう・・。

・・携帯端末でまた運営本部の総合サイトにアクセスし、自分のマニュアルテキストファイルを呼び出して読み上げ機能を使って朗読させる・・読み上げ音声のパターンに少々違和感があるので調整してみるがあまり変わらない・・それなら誰かの音声を読み上げ音声の基本パターンとして読み込ませてみよう・・。

・・朗読を聴きながらレモンソース、バルサミコソース、タルタルソース、ベシャメルソース、オーロラソース、醤油風味ソースを用意する・・後はお客が来てから小麦の中力粉をまぶしてバターで両面を焼けば好い・・スープの用意と温野菜豚肉サラダの下拵えに入る・・調理の傍らテーブルの用意をする・・花を買って来なかったのはミスったかな・・?・・ライスが炊き上がり、保温モードに入って1時間くらい経った頃合いでアンバー・リアムから通話が繋がる・・後10分程だと言う事だ・・スープの味を観て仕上げる・・サラダは後一手間だ・・。

・・ベランダに出て、前の通りを観ながら一服点ける・・曇って来てはいるが雨が降る気配はない・・アンバー・リアムと誰だろう・・?・・まあ好いか・・喫い終って揉み消したくらいで社宅の前にタクシーが止まる・・中に入り、顔を洗って玄関から外に出る・・ちょうど2人が外に出て、タクシーが走り出した・・。

・・アンバー・リアムとシンシア・ラスターだ・・アンバーは花束を持っている・・買って来てくれたようだ・・シンシアは何かの包みを持っている・・2人とも私に気付くと右手を挙げて振ってくれた・・。

「・・やあ、今晩は、早かったね・・私の社宅にようこそ・・花を買って来てくれてありがとう、アンバーさん・・花を買うのを忘れちゃってさ・・助かったよ・・さ、上がって下さい・・」

「・・今晩は、急なお願いを聴いて下さってありがとうございます・・お花は適当に買って来たので、お好みに合わなかったらすみません・・お邪魔します・・」

「・・今晩は、アドルさん、お邪魔します・・急なお願いに応えて頂いてありがとうございます・・一人住まいにしては結構広くて好いお宅ですね・・」

「・・2人ともいらっしゃい・・今、花瓶を出すね・・アンバーさん・・この花束なら2つに分けて、テーブルの両側に飾ろう・・花瓶は、これとこれで好いかな・・?・・」

「・・あ、私達で活けますから、任せて下さい・・」

「・・それじゃ、お願いしようかな・・シンシアさん、その包みは・・?・・」

「・・あ、これはアドルさんへのお土産に、お酒を買って来ました・・お口に合うと好いのですが・・」

「・・嬉しいですね、シンシアさん・・どうもありがとう・・観ても良いかな・・?・・」

「・・どうぞ・・」

・・包みを受取って解く・・少し細身のボトルケースが2つだ・・。

「・・ほう・・2本とも北海のポートリング・ディスティラリーで造られたシングルモルトだね・・15年物と18年物か・・これは結構珍しいモルトだね、あまり観ないよ・・高かったでしょう・?・こんな好いものを頂いて良いのかな・・?・・」

「・・どうぞ、お納めください・・」

「・・どうもありがとう・・有難く頂戴するよ・・後で3人で飲もう・・」

・・そう言いながらケースからボトルを出す・・うん、好いボトルだ・・一目で気に入った・・。

「・・本当にどうもありがとう・・これは2本とも『ディファイアント』に持ち込むよ・・」

・・2つの花瓶に活けられた花を、ダイニングテーブルの両側の端に置く・・うん・・これだけで華やかさがぐっと上がる・・。

・・アンバー・リアム・・30才・・背は私よりも少し低い・・面長の顔にライトグリーングレーのスリークボブの髪が好く似合う・・切れ長の眼が時折儚げな表情を魅せる・・当然だが魅力的な女性だ・・。

・・シンシア・ラスター・・27才・・背は私とほぼ同じくらいか・・シンプルなフェミニンショートをライトマゼンタに染め上げている・・だが違和感はない・・寧ろ明るい笑顔が髪色によく映えて、似合っていると思う・・この前観た時には違う色だった・・。

「・・髪の色・・変えたんだね・?・」

「・・はい!、似合いますか・?・やっぱり赤系統の方が合うんじゃないかと思って・?・」

「・・うん・・笑顔がよく映えて、似合っていると思うよ・・」

「・・ありがとうございます!、嬉しいです・・」

「・・さて・・取り敢えず、お茶にしようか・・?・・それとも、もう食前酒の方が好いかな・・?・・」

「・・あの・・宜しければ、食前酒の方でお願いできますか・・?・・実はもう、お腹がペコペコでして・・」

「・・畏まりました(笑)・・では、ダイニングテーブルへどうぞ・(笑)・」

・・2人をダイニングに招き入れて、椅子を引いて座って貰う・・冷凍庫から白ワインとカシス・リキュールのボトルと予め冷やして置いた少し大きめのワイングラスを2つ出して、ボトルをタオルで拭いて2人の前に置く・・。

「・・本日の食前酒は、ワインカクテルの『キール』でございます・・白ワインは、『ブルゴーニュ・アリゴテ』を・・カシスリキュールは、『クレーム・ド・カシス』を使います・・それでは、失礼します・・」

・・そう説明して先にカシスリキュールの封を切り、60mlを2つのグラスに注ぎ、白ワインを開栓して240mlをそれぞれ注ぎ、軽くステアして2人の前に置く・・。

「・・どうぞ、ごゆっくりお楽しみください・・僕はメニューを仕上げて順次にお持ちします・・」

「・・ありがとうございます・・宜しくお願いします・・頂きます・・」

「・・すごいですね・・宜しくお願いします・・楽しみです・・頂きます・・」

・・一礼してキッチンに入る・・温野菜豚肉サラダの一部を流用して、マリネサラダを作り、同時にサラダも完成させる・・。

・・2人はグラスを持ち上げて触れ合わせてから、一口飲む・・。

「・・乾杯・・・美味しい!、どう・?・」

「・・凄く美味しい!・・『キール』も『キール・ロワイヤル』も飲んだ事はあるけど、これが1番美味しい・!・」

「・・お待たせしました・・マリネサラダと、温野菜豚肉サラダです・・お摘みとしてもどうぞ・・そしてこちらが、オリジナルのスープです・・ごゆっくりどうぞ・・」

・・さて、いよいよメインディッシュだ・・直径36cmのフライパンにたっぷりとバターを融かす・・3枚の切り身に小麦粉を適度に塗し、中火でバター焼きに入る・・ここから先は眼を離せない・・。

「・・ねえ、奥様が凄い料理上手な方だってリーアに聞いたんだけど、アドルさんも凄いじゃない・・?・・」

「・・うん・・アドルさんも凄く料理が上手だよって、ハンナやエマも言ってた・・」

「・・もうアドルさんがどれだけ凄い人なのかって、分からなくなってきたよ・・」

「・・本当にそうだね・・」

「・・!ここだ!・・」

・・と、見極めて取り出し、皿に入れてカットライムを潰して果汁を絞り掛け、サフランをほんの少し乗せ、付け合わせの温野菜を添える・・別の皿にライスを控えめに盛り付ける・・。

「・・お待たせしました・・舌平目とスズキとサーモンの切り身がありましたので、ムニエルにしました・・焼き上がりは気を付けて見極めたつもりですが、率直な感想をお願いします・・ソースは6種類用意しました・・こちらからレモンソース、バルサミコソース、タルタルソース、ベシャメルソース、オーロラソース、醤油風味ソースです・・ライスとスープは沢山ありますので、お代わりして下さい・・それではどうぞ、食べてください・・私もご相伴に与かります・・キールのお代わりはいかがですか・・?・・食後にはデザートワインもありますよ・・」

・・そう言ってエプロンを外し、自分のサラダ・ライス・スープ・キールを用意して、彼女達の向かいに座る・・。

「・・アドルさん、急にご連絡して押し掛けてしまったのに、こんなに素敵なおもてなしをして下さって、本当にありがとうございます・・総てが素敵で素晴らしいです・・」

・・と、アンバー・リアムがスズキのムニエルを一口食べて言う・・。

「・・急にお邪魔しましたのに、素敵なおもてなしをありがとうございます・・どれも美味しくて凄いです・・もうアドルさんの素晴らしさに圧倒されています・・」

・・と、シンシア・ラスターも舌平目のムニエルと温野菜サラダを一緒に食べて言う・・。

「・・堅苦しい話し方はしないで良いから、食べながら気楽に話そう・・キールのお代わりは・・?・・」

「・・あ・じゃあ、少なめにお願いします・・」

「・・私も少なめでお願いします・・」

「・・分かった・・」

・・と、最初に作った分量の、6割程に抑えて作り、2人の前に置く・・。

「・・それじゃ、改めて乾杯・・」

「・・乾杯!・・」

「・・どう・?・リキュールが甘いから、少なくする方が好まれるみたいだけどね・・?・・」

「・・私は、これが1番美味しいです・・」

「・・私もです・・」

「・・どのムニエルも中がすごくジューシィなのに、外側のカリカリ具合が素晴らしいコントラストで、とっても美味しいです・・」

「・・どのソースで食べても、すごく合って引き立てていて、美味しいです・・不思議です・・」

「・・温野菜豚肉サラダもマリネサラダも最高ですね・・後でレシピを教えてください・・?・・」

「・・それとこのスープ・・身震いする程美味しいんですけど・・こんなに美味しいスープは飲んだ事が無いです・・」

「・・2人ともありがとう・・好みに合って好かったよ・・レシピと僕なりのカン、コツについては後でメッセージで送るから・・ウチの奥さんがオリジナルのスープストックを作って持たせてくれてるんでね・・スープはそれをベースにして作ってる・・まあ他の料理でも使ったりしているから、家内にはいつも感謝してる・・いつも助けて貰っているよ・・」

「・・それじゃあ、奥様の方が料理はお上手なんですか・・?・・」

・・と、アンバー・リアム・・。

「・・そうだね・・僕よりずっと上手いと思うよ・・知識や理論もしっかりと身に付けているからね・・僕はその場にあるものを使って、感覚的に判断する傾向があるから、たまに予想と実態がズレることがあって、うん?、てなる事もあるんだけどね・・」

「・・でも、今夜のご馳走は総て完璧です!・・」

「・・ありがとう、シンシアさん・・話は変わるけど、ゲーム大会の運営本部からメッセージは来た・・?・・」

「・・来ました・・総合サイトが出来たと言う事で・・」

「・・うん・・その中に全参加者の個人マニュアルテキストファイルが納められているから、必要事項を入力して呼び出して、読み込んでください・・取り敢えず出航前に行う、プレ・フライトチェックの項目は暗記するようにしてください・・フライトチェックを早く済ませられれば、早く出航出来ますから・・」

「・・分かりました、読み込んでおきます・・」

「・・ありがとう、頼むね・・スープ・ライス・サラダもまだあるからお代わりしてね・・?・・」

「・・アドルさん・・?・・」

「・・何だい・・?・・」

「・・アドルさんが・・私達全員とハグしてキスして下さると言う話は聞きました・・奥様が・・私達とアドルさんとの関係について、どのように仰られたのかも聴いています・・また、リサ・ミルズさんが社長令嬢であると言う事も知っています・・アドルさんは・・浮気だと考えているのですか・・?・・」

・・私はキールを飲み干してグラスを置いた・・。

「・・前提から話を始めよう・・私が1番愛しているのは、妻と娘だ・・ゲーム大会に艦長として参加・出演する事になった私は、君達をクルーとした・・私は君達に、色々な理由や様々な側面から気に入られ、好意を寄せられるようになった・・そして君達は、非常に美しく若く魅力的な、トップクラスのアーティストだ・・私は普通の男で、特別な人間でも存在でもないから、自然に君達に惹かれて行っている・・傍から観れば私が・・君達が私に寄せてくれている好意を好い事に、君達全員と恋愛関係になろうとしているように観えるのかも知れない・・シエナ副長からの要請では、個々人から要請があった場合にのみ・・一度はキスやハグの対応をして欲しい、との事だった・・だから君達と私が毎週キスするようなlove loveな関係になる等と言うような事には、極めてなりにくいと言えるだろうし、増してや私が君達を寝室に誘うなどは、あり得ないことだと言えるだろう・・妻が言うには、私が例え他の女性との間に肉体関係を持ったとしても、子供さえ作らなければ浮気だとは思わない、と言ってくれた・・だがもしも関係を持ってしまったら・・その時点で私はもう妻と娘に顔向けが出来なくなる・・だからそれだけは絶対にしない・・と言う事です・・」

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