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・・・『集結』・・・

カリーナとの朝・・昼食での事件・・報告食事会

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先ず具沢山の味噌汁から頂く・・うん・?・スープストックを隠し味に使ったのか・・なかなかに良い仕上がり具合だ・・味噌汁の具のバランスが凄く良い・・良い上に皆味噌と馴染んでいる・・この娘の料理のスキルとセンスは、女房のそれとはタイプとベクトルは違うけど、レベルでは同じぐらいだな・・玉子焼きは・・旨い・!・この玉子焼き単品だけで言うなら、女房の作るそれより味でも食感でも僅かに上かな・・?・・単なる開き魚乾物の焼き物でも、下拵えと味付けでこれ程に違うとは・・驚きだな・・。

「・・カリーナ・・君の料理のスキルとセンスは、女房のそれとはタイプとベクトルが違うけど、レベルでは同じぐらいだと思うよ・・」

「・・本当ですか!?・・ありがとうございます・!・・」

「・・本当だよ・・君はお母さんと一緒に住んでいるの・・?・・」

「・・はい・・他に弟がいます・・」

「・・そう・・開幕前にお母様にご挨拶しないといけないね・・」

「・・ありがとうございます・・母も喜ぶと思います・・でも、無理しなくて良いですよ・・」

「・・いや・・これは艦長がクルーに対して果たさなければならない責務だよ・・当然の事さ・・」

「・・ありがとうございます・・」

それからは静かに朝食を摂る・・。

「・・ご馳走様・・本当に美味しかったよ・・久し振りにお袋の味の朝食を食べさせて頂きました・・」

「・・ありがとうございます・・喜んで頂けて好かったです・・」

食べ終わると2人で食器を洗い、水気を拭き取って収納する・・軽くキッチン・シンクを掃除してから、もう一度2杯のコーヒーを淹れる・・。

「・・最寄りのステーション迄で良いね・・?・・」

「・・はい、大丈夫です・・」

2人で洗面所に並んで歯を磨き、顔を洗う・・ちょっとふざけて戯れてからお互いに見詰め合うと、どちらからともなく唇を重ねて10秒間ほど接吻した・・。

彼女の顔が上気して赤くなったので落ち着くまで少し待ち、2人でコートを着込むと室内からガレージに入ってエレカーに乗り込み、車内からシャッターの開閉を操作して発車する・・。

最寄りのステーションまで10分程度なので、特に話をするでもなく正面のエントランスに横付けする・・。

「・・じゃあ、明後日は宜しく頼むね・・」

と、自分でドアを開けて降りる彼女に声を掛ける。

振り向いて笑顔で手を振る彼女に、私も左手を挙げて応える・・彼女がドアを閉めてくれるのを待って発車させた。

出社して1階のカフェラウンジに入ると、いつもの4人のメンバーと一緒にエリック・カンデルが座っているので、ちょっと驚く・・。

傍まで歩み寄ると、彼は立ち上がって私の為に席を空けた・・これにも驚く・・。

「・・ああ、ちょっと伝えたい事があって待っていただけだから座ってくれ・・アドル・エルク係長・・19日、金曜日の終業後からスカイラウンジで、営業本部としての壮行会を開催するよ・・と言っても、まあ呑み会だから気軽にやるさ・・だから、ギターは持って来いよ・・それじゃあな・・」

それだけ言うと右手を挙げてラウンジから出て行く・・呆気に取られた体で空けて貰った席に座り、ウェイターを呼び止めてコーヒーを頼む・・。

「・・おはようございます、先輩・・いよいよ動き出しますね・・先輩の弾き語りを生で観られるのは嬉しいですよ・・」

「・・おはよう、スコット・・何だか言いたい事だけ言って帰ったな・・ああそうか・・今日は忙しいのか・・でも、チーフが届け出に行く訳じゃないだろう・・?・・」

「・・おはようございます、アドルさん・・誰が届け出に行くんでしょうね・・?・・」

「・・おはよう、リサさん・・多分・・エスター・アーヴ総務部長と、ドリス・ワーナー女史じゃないのかな・・?・・こう言う届け出は女性にやって貰った方が体裁が良いだろうと考えているんだろうからね・・必ずしもそうじゃないんだけどさ・・」

「・・おはようございます・・何だか今日は顔が明るいですね・・何か良い事でもありましたか・・?・・」

「・・おはよう、マーリー・・今日も変わらず元気で明るい、マーリー・マトリンに逢えたからだよ・(笑)・」

「・・おはようございます、アドル係長・・そうなるとご自宅での壮行会は、何時頃になりそうですか・・?・・」

「・・おはよう、ズライ・・そうだね・・教えてくれてありがとう・・ちょっと待ってね・・」

言いながら携帯端末を取り出す・・。

「・・え~っとね・・28日の土曜日が開幕だから・・27日の金曜日は、出来れば呑まないで早く寝たいんで・・26日の木曜日にしよう・・僕は直帰でこの日は自宅に帰るから、君達は好きな方法で来て・・タクシーを使ったら運賃は、僕が清算するから・・副長とカウンセラーと参謀とメインパイロットと砲術長と機関部長・・ぐらいで良いかな・・?・・あんまり沢山招待すると大変だからさ・・?・・」

「・・分かりました・・久し振りに奥さんの手料理を食べられるんで、楽しみにしてますよ・・前行ったの1年ちょっと前だと思うんですけれども・・お嬢さんも大きくなってるでしょうね・・何にせよ、手土産はガッツリ持参でお邪魔します・・」

「・・また奥様にもお嬢さんにも・・メインスタッフの皆さんにも、お会いできるのは楽しみです・・奥様のお料理スキルとセンスを自分に取り込みたいです・・ありがとうございます・・」

「・・会社の現場とは違う、ご自宅でのアドルさんの表情を観られるのは楽しみですし・・奥様のお手伝いが出来るのも、また楽しみです・・ご招待して下さって、ありがとうございます・・」

「・・最近入ったばかりの私まで招待して下さって、どうもありがとうございます・・奥様とお知り合いになれるのが、今から楽しみです・・」

「・・皆、ありがとう・・それじゃ、行こうか・・」

そう言って立ち上がると、連れ立ってラウンジから出て行った・・。

今日も業務は忙しく、時間的な余裕はそれ程に無いが、各方面からパートタイムでのリモート業務サポートが、延べで48人参加してくれたので、業務進捗はプラスで終日維持する事が出来た・・。

昼休みに朝のメンバーと一緒に昼食を摂っていると、私は今日の日替わり定食だったのだが、知らない女性社員が10人程度入れ替わり立ち代わりにやって来て、おかずを二口ぐらいずつ寄附してくれるのには驚いた・・。

同じテーブルに座っている4人も驚き、呆気に摂られて二の句が告げないような状態で見守るだけだ・・。

まるで小学生の女の子が、好きな男の子におかずを分ける様なものだ・・まさかこの年になってそれを・・しかも自分が受け取る事で観るなんて・・誰に想像できる・・?・・彼女達が去ってから自分のプレートを観ると・・当然の事ながら山盛りだ・・。

「・・これってさ・・小学生の時に・・観た事ないか・・何が起こった・・?・・ああ、今朝チーフが言ってた壮行会の話がもう出回っているのか・・?・・したら当日はガンガン酒を注がれるのかな・・?・・」

「・・先輩・・これ、ヤバいですよ・・皆観てますし・・どうします・・?・・」

「・・食い切れないからさ・・手伝ってくれよ・・捨てる訳にはいかないだろ・・?・・」

「・・ええ?!・・嫌ですよ・・横取りしたように観られるじゃないですか・・後で何て言われるか・・」

私は息を吐いて立ち上がるとカウンターに行き、大きめのテイクアウトパッケージをふたつ貰って来た・・。

座って食事を再開する・・色々なおかずが盛られているので色々な味が楽しめる・・当然だが・・。

「・・こう言うの・・モテてるって言うのかな・・?・・何か餌付けされている気がしないでもないな・・これがモテ期だって言うのなら、マジで勘弁して欲しいよ・・もうここで食べるの、やめた方が好いのかもな・・」

と、自嘲気味に笑いながら食事を進める・・同じテーブルの4人も、かなり驚いた事もあってか掛ける言葉もない・・何しろ今はラウンジの中のほぼ全員に観られている・・早く食べてここから離れよう・・。

大体好いかな・・と言う処迄食べて、残っているおかずをテイクアウトパッケージに詰める・・2つで丁度好い位の分量だ・・詰め終えるともう一度カウンターに行き、密閉できる袋にドライアイスを詰めて貰って購入する・・。

その袋にテイクアウトパッケージを入れて密閉し、コーヒーを飲み干して口を拭ってから食器プレートをお盆ごと返却カウンターに置き、テーブルメンバーに右手を挙げて挨拶すると袋を左手にラウンジから出て、自分のエレカーのトランクに袋を入れてから、自分のオフィスフロアに戻った・・そうだ・・これからはコンビニで弁当を買って出社しよう・・それしかない・・。

無事に終業時間となり、喫煙休憩室でコーヒーを飲みながら2本喫い・・駐車スペースまで降りると、エレカーのボンネットの上に何かが載っている・・良く観るとチョコレートのパッケージだ・・手に取るとそのまま乗り込んで発車する・・。

割とスムーズに社宅に帰着する・・トランクから手提げ袋を出して部屋に入り、テイクアウトパッケージを冷蔵庫に入れてからチョコレートのパッケージを開けると、知らない女性社員のメディアカードと写真とメッセージカードが入っている・・これは重い事態だと判断した私は、リサさんに通話を繋いで事態・事情を説明して対応を要請した・・。

リサさんはチョコレートには手を付けずに総てを元通りに戻してパッケージを閉め、今日は冷蔵庫に入れて保管して明日の朝、私に渡して欲しいと言う・・。

了解した旨を伝えて通話を終えると、彼女の言う通りに処理して冷蔵庫に入れる・・やれやれだ・・開幕前からこんな調子じゃ、先が思い遣られる・・明日は壮行会で全員が集まるから今夜は誰も来ないだろうな・・いや、今日で全員のレクチャー・ブリーフィングと最初の撮影セット見学が終ると言う事だったから、誰かが報告にくるかも知れない・・でもまあそうなってから対応を決めても、別に晩くはないだろう・・。

それから暫くまったりと過ごしていると通話が繋がる・・出ると副長だ・・他にカウンセラー、参謀、機関部長、メインパイロット、砲術長、メインミサイルコントローラーが、程無くして来ると言う・・夕食を摂ったのかどうか訊くと、まだですがお惣菜を買って来るので一緒に夕食にしましょうと言う・・是非もなく、宜しくお願いした・・。

コーヒーと紅茶を点てる・・ミルクティーかレモンティーかはまだ決めない・・だからレモンとミルクも出して置く・・丁度パフェのグラスが8個あるので、冷凍庫に入れて冷やして置く・・苺とオレンジと桃と林檎とキウイも出して置く・・自分用にコーヒーを淹れて香りと味を確かめると、お盆にソーサーごと載せ・・プレミアムシガーのボックスとライターと灰皿を載せて、お盆を手にベランダに出る・・風は無い・・デッキテーブルにお盆を載せてデッキチェアに座る・・。

コーヒーを一口飲んでシガーを咥え、ゆっくりと火を点ける・・いつもの3分の1喫って燻らせ、馨りを楽しむ・・もう一口飲んで喫い、燻らせて馨りを楽しむ・・流石に上物のプレミアムだ・・これも艦に持ち込もう・・コーヒーの飲み終わりと、シガーの喫い終りが同時になるように調整しつつ味と馨りを楽しんでいく・・ベランダに出てから飲み終わって喫い終る迄に、6分は掛けて愉しんだ・・さあ中に入るかと思い、立ち上がった処で2台のタクシーが社宅の前に停車した・・。

インターコール・チャイムに促されてドアを開ける・・皆一つずつ袋を持って入って来る・・笑顔を見せて玄関から上がってくれるが、エドナは私の顔を観るなりちょっと涙ぐんで私の首に手を廻して来たので、優しくハグして背中を撫でてやる・・。

皆に飲み物を訊いて確かめ、準備する・・シエナが指示して夕食の準備が始まる・・出来上がった順に飲み物をそれぞれの近くに置いて、私はダイニングテーブルの端に座って皆の様子を眺めていた・・。

「・・副長・・運賃と食材費用を教えてね・?・振り込むから・・」

「・・了解です・・」

「・・エマさん・・送って貰った資料を読んだんだけれどもね・・もうちょっと詳しく訊きたいんですよ・・」

「・・分かりました・・食べ終わってから、伺いますね・・」

「・・エドナさん・・もう大丈夫・・?・・」

「・・もう大丈夫です・・ご心配をお掛けしました・・」

「・・副長・・大会の運営本部に送信してくれたかな・・?・・」

「・・はい、送信しました・・23日には決定するそうなので、直ぐにこちらからの面談オファーが届けられるように、設定して頂けるそうです・・」

「・・そうですか・・そこまで対応を進めてくれて、ありがとう・・それにしてもあまり時間が無いね・・ひょっとしたら彼等との面談は、平日の日中になるかも知れないね・・そうなっても仕方が無いけど・・それと副長・・明日は本当に全員が会社に来てくれるんだけれども・・3つの貸与アイテムを持って来るように連絡してあるね・・?・・」

「・・それは大丈夫です・・全員に於いて連絡し、確認も取っています・・」

「・・そうですか・・ご苦労様です・・」

そんな他愛の無い内容での会話を掛け合いながら、彼女達の準備作業を見守っている・・そうこうする内に夕食の準備が整い、皆もテーブルに着いた・・。

「・・皆、今日も来てくれて、夕食の準備までしてくれてありがとう・・つくづく、君達を選んでオファーを出して良かったと思っています・・そして、本当に深く感謝しています・・それじゃあ、今日も無事に過ごせたと言う事で、頂きましょう・・」

「・・頂きます・・」

「・・ハルさん・・シエナさんと一緒に、私の出した宿題に正解を導き出したと言う事で、おめでとう・・ハルさんとの3時間デートは、どうしようか・・?・・」

「・・あ・・はい・・ありがとうございます・・それは・・お任せします・・」

食べながらそう応えて、彼女は頬を染めた・・。

「・・そうですね・・では、こうしましょう・・22日の番組制作発表会見の後で、私はハルさんをご自宅まで送り届け、そのままお邪魔させて頂いてご家族の皆さんにもちゃんとご挨拶をした上で、夕食を共にします・・お母様とお子さん達へのお土産には何が好いか、教えて下さいね・・?・・」

「・・あ、あの、アドルさん・・そこまでして頂くのは心苦しいです・・私なら大丈夫ですから・・」

「・・ハルさん・・お子さん達からお母さんを毎週末に取り上げてしまうんですよ・・そうでなくてもこれは、艦長としてクルーに対し、果たさなければならない責務なんです・・これは決定です・・好いですね・・?・・」

「・・はい・・承知しました・・宜しくお願いします・・」
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