『星屑の狭間で』

トーマス・ライカー

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・・・『集結』・・・

・・マーリー・マトリン・・シエナ・ミュラー・・ハンナ・ウェアー

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翌日(2/9・火)始業前、20分・・スコット君は、やはり二日酔いだ・・それは持って来た自作コーヒーの香りがいつもより強い事からも分かる・・この程度の状態で顔を見せたのは、半年振りぐらいだ・・それでもいつもと同じ時間に来た事には感心した・・。

「・・大丈夫か・・スコット・・?・・」

「・・何とかね・・今日も忙しいですから、頑張りますよ・・」

「・・気持ち悪かったらペースは落しても良いから、間違いの無いようにな・・?・・」

「・・了解です・・」

「・・昨夜はご馳走様でした・・とても素敵な時間を過ごさせて頂きました・・ありがとうございます・・」

と、マーリー・マトリン・・。

「・・マーリー・・僕がギターを弾いて歌えるって言う事、あんまり言わないでな・・?・・」

「・・はい、分かっています・・」

リサ・ミルズとズライ・エナオの様子は、いつもと変わらない・・。

「・・よし!、じゃあ行こうか・・」

そう言って立ち上がる・・午前中の業務は、またオンライン・テレネットワークでの特別業務サポートが30分程度で入ったので、順調に推移した・・。

11時頃に、正式に選抜された新加入メンバー16人についての情報が通知される・・ここのオフィスフロアには、もうデスクを入れるスペースが無いので全員がオンライン・テレネットワークでの参加になる・・。

落着いたら(落ち着ける時が来るのかどうかも分からないが)歓迎会を開かないといけないな・・そう思いながら業務をこなしていく・・大分余裕を保って午前中の業務が終る・・。

私は社宅から持って来た小型保温ボトルを手に、リフトで屋上に向かう・・屋上のリフトホール・・休憩所のドアの前で待っていると、約2分でマーリー・マトリンがランチバッグを持って来た・・。

「・・お待たせしました・・」

「・・いや、そんなに待ってはいないよ・・この休憩所は普段、殆ど使っていないからカメラも無いし施錠もされていないんだ・・じゃあ、入ろうか・・?・・」

そう言ってドアを開けて中に入り、また真ん中のテーブルに彼女とは対面で座った・・。

マーリーは同じお弁当を2つ作って来た・・全く同じである・・マーリーらしいと思いながら、保温ボトルからカバーカップにコーヒーを注ぐ・・彼女はミルクティーを持って来ていた・・。

「・・マーリー・・今週は壮行会が終わるまで仕事やそれ以外でもバタバタするだろうし、人の出入りも激しくなって何処に行っても誰かの眼があるから、僕たちが2人きりで逢おうとするのはやめないか・・?・・来週になれば、また落ち着くだろうと思うから・・」

と、食べながら問い掛ける・・。

「・・そうですね・・私もアドルさんに余計なストレスは感じて欲しくないですから、良いですよ・・今週は我慢します・・来週からまた、お願いしますね・・?・・」

「・・ありがとう、マーリー・・君は好い娘だよ・・でもね・・社宅に来るのは禁止だ・・僕の社宅は既に観られているし・・おそらくもう、君の名前も顔も素性もメディアには割れていると思う・・分かるね・・?・・」

「・・分かりました・・今週は我慢します・・相変らず先回りがお上手ですね・・」

「・・悪いね・・」    「・・いいえ・・」

その後は他愛の無い話をしながら食べる・・いつか、お互いに変装して買い物に行こうと言う事でも合意した・・。

食べ終わったお弁当をランチバッグに仕舞い、お互いに最後の一杯を飲み終わって立ち上がると、私はマーリーの腰を引寄せて唇を重ねた・・マーリーは少し驚いたが直ぐに私の背に両手を廻す・・たったままの接吻を20秒続けて、お互いに離れる・・その後は一言も発しないままに自分達のフロアにまで降りて来た・・。

その後も同じペースで業務を進めて無事に終業時刻を迎えた・・スコットは昼飯を食ってから何とか回復したようだ・・まだ若いから回復も早い・・今日は大人しくして早く寝ろ、と声を掛ける・・リサさんやマーリーやズライも含めて、チームメンバー達は普通に挨拶を交わして退社していく・・私も普通に挨拶の言葉を掛けてオフィスフロアを後にし、帰路について・・社宅に帰着した・・。

一通りするべき事を食事とその片付けをも含めて済ませると、固定端末の前に座ってメッセージの処理を始める・・仕事や趣味や地域内での付き合いも含めて、交流を継続させている相手には携帯端末のアドレスを教えてある・・固定端末のメッセンジャーは少し前に設定を換えて、私が端末に登録している人以外からのメッセージは違うカテゴリーボックスに振り分けられて、ワードスキャンが掛けられる・・誹謗や中傷や乱暴な言葉がヒットすると即時に削除される・・残るメッセージの殆どは私への取材要請と、私を利用しようとする様々な業者からのものだ・・。

それらをスクロールしながら削除していくのだが、10分も続けていると飽きる・・だからワードスキャンプロトコルにまた幾つかの言葉を追加して再スキャンさせる・・すると6分の1ぐらいに減ったので再びスクロールしながら削除していく・・それでも飽きて来たので一度やめた・・。

20:20頃にシエナさんからの通話が繋がる・・3ブロック手前までタクシーで来て、歩いて向かっていると言う・・リサさんと同じだなと思いながら、ガレージの裏口を教えてそこから入るように伝える・・ガレージの内側から解錠して、その場で煙草に火を点けて待つ・・喫い終った吸殻を入れた携帯灰皿をポケットに仕舞った頃合いで裏口のドアが外からノックされた・・。

「・・いらっしゃい・・ご苦労様・・どうぞ・・」

「・・こんばんは・・お邪魔します・・こちらから入るのは初めてですね・・」と、シエナ・ミュラー・・。

「・・これが一番目立たない入り方ですね・・どうぞ、こちらです・・」

直接室内に入れる裏口を開けて、2人を招き入れる・・。

「・・どうも・・間を置かずに呼んでしまってすみませんね・・お腹空いてますよね・・?・・」

「・・いいえ、食べて来ましたので、大丈夫です・・」と、ハンナ・ウェアー・・。

「・・本当ですか(笑)・?・じゃあ、ミルクティーにケーキのセットをお出ししますね・・」

そう言って2人をリビングに通すと、私はキッチンに入ってショートケーキを出し、注意深く2つのミルクティーと自分の為のコーヒーも淹れて、2人の眼の前に置いた・・。

「・・頂きます・・!・・アドルさんの淹れるミルクティーは本当に美味しいですね・・」

と言いながらシエナ・ミュラーが大きく息を吐いた・・。

「・・ありがとう・・ゆっくり飲んでね・・」

「・!・・アドルさん・・このケーキも美味しいですね・・どこのお店ですか・・?・・」

と、ハンナ・ウェアーが一口食べて、目を丸くして訊く・・。

「・・ああ、これはリサさんが教えてくれたケーキ屋さんでね・・最近、評判の好いお店なんだって・・」

「・・へえ・・流石に社長さんの娘だけあって、リサさんも只者じゃないですよね・・?・・」

「・・ああ・・これを君達に白状すると、怒られるだろうなとは思うんだけどさ・・」

「・・またリサさんとキスしたんですか・・?・・」

「・・うん・・昨日の昼に彼女と一緒に昼を摂ったんだけどね・・その時に、今週一杯はバタバタしていて人の眼も多いから、社内で二人きりになるのは止めようって言ったんだ・・その事については承知してくれたんだけど・・昨夜彼女、一人でここに来てね・・追い返す訳にもいかなくて結局、押し切られちゃったよ・・・」

「・・アドルさん・・」と、シエナ・ミュラーがそう言って小さく息を吐く・・。

「・・その時に訊いたんだ・・お父さんは僕達の関係を知っているのかって・・そしたら、知っていると言ってた・・」

「・・アドルさん・・これから会社の中で・・大丈夫なんですか・・?・・」と、ハンナ・ウェアーが心配そうに訊く・・。

「・・うん・・今後会社が僕に対して排除的に干渉し始めるとしたら、僕が原因でプロジェクトが失敗して会社に不利益となる結果をもたらした場合と、『ディファイアント』が早々に撃沈されてしまう場合が考えられるね・・僕とリサさんとの関係が原因になるとしたら・・今頃はもうどこかに跳ばされていると思うよ・・」

そこで言葉を切って自分のコーヒーを二口飲む・・。

「・・順を追って話そう・・君達がご近所さん廻りでウチに来てくれた後、アリソンが「今日、家に来てくれた皆さんは全員、アナタの事が好きね」って言ってね・・リサさんが気付いた僕に対しての戦略もアリソンは認めたよ・・僕の特性には大学時代から気付いていて・・これまで僕にその事を気付かせないようにして来たけど、もうムりねって・・そしてこうも言った・・アナタが何処で誰とどんな話をしていたとしても、私はアナタが浮気をしているとか、その人に本気になっているとか、私を愛していないとか、私と別れようとしているとか・・そんな事は思わない・・だから他の女性と子供を作る事だけはやめてってね・・」

「・・奥様・・本当に凄いですし、強いですし・・怖いです・・」と、シエナ・ミュラー・・。

「・・私も同感です・・でも、また奥様にはお会いしたいです・・尊敬しています・・」と、ハンナ・ウェアー。

「・・それで、これは昨日の話なんだけど、アイソレーション・タンクベッドのビジネスプランについてと、激励壮行会実行委員会との面会の件についてと、最重要金庫室使用の件についてを役員会に提案したら、ハーマン・パーカー常務に呼ばれてね・・話をしてきたよ・・順を追って簡単に言うと・・今後、僕に仕事で残業をさせるのは、会社にとって損失になると既に出ているから、業務サポートを強化して残業にならないようにするって・・次にアイソレーション・タンクベッドのビジネスプランは全面的に承認されました・・番組の制作サイドがタンクベッドのメーカーを選定次第、ビジネスプロジェクトを立ち上げて起動させると・・そしてこのプロジェクトが立ち上がったら、僕にも中心的な立場として参加して欲しいと・・次に最重要金庫室で何を保管したいのかと訊かれたから、僕達に貸与された専用携帯端末と専用PADと専用PIDメディアカードを保管させて欲しいと要請したら、それも承認されました・・金曜日の激励壮行会には『ディファイアント』の全乗員が参加する為に来社されるから、その際に入庫しましょう・・と言う事になりました・・そして次に、壮行会実行委員会と『ディファイアント』メインスタッフとの面会と懇談を、明日に合同昼食会と言う形で、本社9階のスカイラウンジにて開催すると言う事で合意しました・・そこまで合意してから常務に、僕が艦長に選ばれてから僕の事を調べましたね・?・と・・それで何が判りましたか・?・と訊いたら、我々は貴方の才能を早くから認識していました・・調べた・・と言うよりも、確認作業のようなものでしたね・・そして艦長に選ばれてからの貴方の才能の重要性は、日を追う毎に高まっています・・貴方が豊かに持っている、先見的な時事と心理動向に於ける洞察力は・・我々にとって非常に貴重で得難いものになっています・・と、常務は応えました・・僕が完全に買い被っていますね、と言ったら・・貴方にその自覚が無い事も重要な点です・・自覚が無いから自慢にも傲慢にもならないし・・先走りや思い込みから、足をすくわれるような事にもならない・・でも貴方は自分の感覚と判断を疑ってはいない・・素晴らしい才能ですよ・・と、そう言いました・・これじゃあ、僕が選んだ君達の殆どが同じグループのメンバーだったと知ったら、僕をある種の超能力者として観るようになるかもね・・それで常務は改めてこう言い切った・・だから、我々が貴方やご家族や貴方の艦やクルーの皆さんに対して、干渉するような事は一切無いと・・改めて明言して約束します・・とね・・そして最後に常務から直接、内示を受けました・・」

「・・内示って、課長さんになる話ですか・・?・・」と、シエナ・ミュラー・・。

「・・ええ・・まだ内々の話ですが、決定されました・・営業第4課が創設されて、初代課長に就任します・・社内での通知は3月に入ってから行われて・・対外的な公開は、期末直前になりますね・・これからはその準備でもバタバタし始めるでしょう・・僕は何も気にしませんけど、役員の中には係長が艦長では外聞が悪いだろうと言う人もいたって話です・・」

「・・おめでとうございます!・アドルさん・・会社もアドルさんの特性を知っていたのですね・・だったら会社がアドルさんを排除するなんて、在り得ないでしょう・・」と、シエナ・ミュラー・・。

「・・おめでとうございます!・アドルさん・・アドルさんは何も気にしなくて良いと思いますよ・・寧ろこれからはもっと大胆に先廻りしても好いと私は思います・・」と、ハンナ・ウェアー・・。

「・・2人ともありがとう・・もう僕に対する会社の対応については、心配してはいないよ・・ただ・・社長の気持ちがまだ、分からないけどね・・」

「・・社長さんの気持ちも、今はあまり気にしなくて良いと思いますね・・」と、シエナ・ミュラー・・。

「・・私もそう思います・・それにしてもハーマン・パーカー常務さん、ですか・・?・・その方も凄い人ですね・・」と、ハンナ・ウェアーが感心したように言う・・。

「・・うん・・42才で常務取締役・・現営業本部長でもある・・明日のお昼に皆さんと会えるのが楽しみだと言っていましたよ・・ああ・・それと、リサさんがこう言っていたね・・何処からどう観ても普通の男に観える僕が・・無自覚で・・無意識に・・思いも依らない先廻りで・・思い掛けない事を言ったりやったりする事が・・廻りの人を惹き付けるんだって・・」

そこで、もう冷えたコーヒーを飲み干す・・。

「・・リサさんも凄いし・・怖いね・・」と、そう言ってハンナ・ウェアーも冷えたミルクティーを飲み干した。

「・・大まかですが今までの経緯としては、大体こんなところです・・明日、時間があったら社内を案内します・・ハンナさん・・私のデータベース作成に於いて、参考になりますか・・?・・」

「・・とても参考になります・・ありがとうございます・・」

「・・データベースが仕上がったら、連絡して下さいね・・?・・」

「・・はい、直ぐに連絡します・・」

「・・シエナ副長・・宿題の解答は出ましたか・・?・・」

「・・はい・・出せたと思います・・聴いて頂けますか・・?・・」

「・・拝聴しましょう・・」
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