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・・・『集結』・・・

『ディファイアント』激励壮行会・・リサ・ミルズ・・・

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翌日(2/5・金)・・今朝は随分と早く目覚めた・・早く寝たからだな・・覚醒して1分以内に起床して熱いシャワーを浴びる・・コーヒーを飲み、昨夜の残り物を食べながら未読メッセージを処理していく・・業務関連のメッセージもあるが、急ぎのものはない・・メッセージカテゴリーを2つ増やして、ヒットワードを幾つか追加する・・これでもう少し早く処理できるか・・うん・?・自分で作った料理でも、時間が経つと味が沁みて旨いな・・配信ニュースでは私も含めた艦長達の動向が毎日流されている・・選ばれた20人が指揮する艦の中では、『ディファイアント』の編制が一番進んでいると報じられていて、それについての解説やらコメントが色々様々に付け加えられて流されているのを、まるで他人事のように眺めている・・。

気を取り直してコーヒーと一緒に残り物の残りを食べ終える・・今日は腹を空かせて帰って、妻の手料理をたらふく食べよう・・顔を洗って歯を磨き、着換えるとベランダのデッキチェアに座って一服点ける・・いつも喫っている煙草だ・・喫い終えるとお湯を飲んでからバッグを取って社宅を出る・・。

出社してラウンジに入ると、いつものメンバーが一緒に座っていたのでコーヒーを取ってから挨拶をして一緒に座る・・今朝のラウンジは暖房が強めに効いているので、コートは椅子の背凭れに掛けた・・。

「・・やっと金曜日ですね・・今夜はどうするんですか・・?・・」

スコットが飲んでいるのは、渋めに観える熱い緑茶だ・・。

「・・久し振りにウチに帰るよ・・明日は野暮用があるからな・・」

「・・好いですねえ・・それでディナーは奥さんの手料理ですね・?・」

「・・ああ・・そう言えばお前がウチで飯を食ってから、もう1年以上経ったか・・?・・」

「・・1年半ぐらいですね・・奥さんの手料理、最高に旨かったんで今でもたまに思い出しますよ・・」

「・・そうか・・じゃあ開幕前にウチで壮行会をやろう・・このメンバーで・・あと2、3人増えても良いけどね・・ってか、はっ!・・会社で壮行会をやろうって話・・多分出るよな・?・エリック・カンデルチーフなら、やろうって言い出す可能性は80%以上だな・?・」

「・・いいや・・あの人なら95%以上ですね・・充分に想定して置くべき案件だと思います・・これは僕の予想ですけれども・・課かセクションでの壮行会と称しての宴会が、どこかの金曜日の終業後と言う事で企画されるでしょう・・フロアでは、無いでしょうね・・小さいですから・・あと上のコンベンション・ホールか、ラウンジ・キャフェテリアを使用しての盛大な社内昼食会が壮行会と言う名目で開催されると思われます・・こっちにはもしかしたら外部で関係性の深いお偉いさんのお歴々が、招待されるかも知れません・・こっちの昼食会の方が緊張しますね・・お宅での壮行会は・・金曜日の宴会の日程が決まってから企画された方が好いでしょう・・勿論僕は、そちらの壮行会には喜んで、奮って両手に手土産持って参加させて頂きますよ・・今から楽しみです・・」

と、スコットが熱くて渋い緑茶をチビチビ飲みながら言う・・。

リサ・ミルズ女史を見遣ると、彼女もハーブティーを少しずつ飲みながら苦笑いを浮かべて頷く・・私は一つのアイディアかんだので、顔に笑みが浮かぶ・・マーリー・マトリンとズライ・エナオは、ミルクティーとシナモンティーを飲みながら私の顔を観て、期待感を膨らませつつも訝し気な表情を作った・・。

「・・一つ、アイディアがある・・私の自宅の壮行会にも宴会にも昼食会にも、ウチのスタッフに来て貰おう・・自宅に来て貰うのは多くても5人程度で良いだろうと思うが・・宴会と昼食会には、10人以上で来て貰おう・・そうすれば会の進行をこちらである程度主導できるだろう・・何故そう考えるのかと言うと、壮行会に託けて無理難題を言われて通されてしまうのを防ぐ為だ・・必ず優勝してくれとか、冗談じゃないからな・・彼女達は基本的に開幕までは暇だと言っていたから、大丈夫だと思うよ・・」

言いながらコーヒーを3分の2まで飲む・・4人はそれぞれに驚き、眼を見開いて私を観ている・・。

「・・そいつはスゴイですね・・10人以上で宴会にも昼食会にも来て貰えれば、確かにこっちのペースで進められるかも知れないスね・・普段から本物の美女を生で観慣れてないお歴々ですからね・・先輩に対して無理な注文を吹っ掛けるような事も無いでしょう・・」

そう言ってスコットは緑茶を飲み干して、もう一杯注いだ・・。

「・・だろ・?・カンデルチーフに下手に話し掛けると藪蛇になるからな・・そっちはもう暫く待つとして・・昼食会を企画するとしたら、総務かな・?・リサさん・?・」

「・・そうでしょうね・・開幕が今月末ですから、それまでに社内で大規模な昼食会と言う形で、合同で壮行会を開催するとしたら・・もう企画していて、各課で調整を始めていないと間に合わないでしょう・・でもまだ、噂の一つも聴こえて来ないと言う事は・・余程秘密裏に事を進めているのか、そもそも企画していないのかのどちらかでしょうね・・営業各課合同での昼食会と言う線もあります・・営業第3課だけの宴会を以って壮行会としようと言うのは、ちょっとマズイのではないでしょうか・・何れにしてもカンデルチーフがキーパーソンである事に間違いは無いでしょう・・」

「・・そうですか・・成程・・尤もな話だね・・まあ、何れにしてもこっちが無闇にあちこち突き回っても、良い事は無いだろうね・・今はもう暫く、待つのが得策かな・・例え急に決まってやるよって事になったとしても・・彼女達なら声を掛ければ、何人かは来てくれるだろうからね・・じゃあ、僕のウチでの壮行会には・・来てくれるって事で、好いよね・・?・・」

「・・喜んで、手土産持参でお邪魔致します・・」

スコットがそう言って緑茶を飲み干し、カバーカップをセットする。

「・・私も、楽しみにして伺います・・」

リサさんもそう言ってハーブティーを飲み干した・・。

「・・アドル係長のお宅に2回も伺えるなんて嬉しいです・・奥様とお嬢さんにお会いできるのを、楽しみにしています・・」

マーリー・マトリンもミルクティーを飲み終える・・。

「・・私も招いて頂けるなんて光栄ですし、嬉しいですけれども恐縮します・・本当に良いんですか・・?・・」

ズライ・エナオは不安そうな表情で私を観る・・。

「・・何の心配も気兼ねも要らないから気楽に来てよ・・娘も色々な話を聞きたがるだろうから、話してあげて・?・それじゃ、もう朝礼が始まるから上ろうか・?・今日も宜しく・・」

そう言って立ち上り、コートを取り上げると皆も倣う・・。

金曜日だから残業の要請は出ない・・求められる業務量に対して処理の進捗は拮抗していて忙しい事に変わりは無いのだが、週末と言う事もあって皆伸び伸びと進めて行く・・業務量の増大は既に想定の範囲を超えているので、例え少々の遅れが出ても管理から小言を聞かされるような事も無い・・取り敢えず個々には、やれる事をやれる範囲で過不足無くやれれば良いと言う指示と姿勢が定着している・・。

午前の業務が終る20分ほど前に、エリック・カンデルチーフからのメッセージが入る・・。

噂をすれば影か・・と思いながら開くと、秘書と一緒に役員専用のキャフェテリアで昼飯にしようとの1行だけ・・。

何やら不穏な気配を感じてリサさんの方を見遣れば、彼女も私の方を見ていて視線が絡むが、チャイムが響き渡るまではデスクから立たずに続ける・・。

チャイムが鳴ると私はリサ・ミルズと視線を合わせながら席を立って廊下に出た・・。

「・・君にも来た・・?・・」   「・・勿論・・」

「・・まさかね・・」    「・・とにかく、行きましょう・・」

「・・役員専用のキャフェテリアって、15階だったかな・・?・・」

「・・そうです・・役員専用の3番リフトで行きましょう・・」

「・・ハーマン・パーカー常務も、待っているような気がするね・・」

「・・それは、分かりません・・が・・ここです・・」

2人して話ながら足早に歩き、役員専用3番リフトの前に着くと彼女がパスコードを入力してドアを開ける。

15階で降りると、廊下は全面絨毯で敷き詰められている・・音のしない床を踏み締めて歩いて行くと、突き当りで1人のウエイターが待っていて近付くとドアを開けて私達を招き入れる。

役員専用のキャフェテリアは然程に広くないが、絨毯は更に深い・・足が埋もれそうだ・・中央の円卓にチーフ・カンデルとハーマン・パーカー常務と、あと1人私と同年代のように観える女性が座って待っていたが、入って来た私達を観ると3人とも立ち上って迎えた・・。

「・・急にお呼びたてして申し訳ありませんね、アドル・エルク係長・・まあ、リラックスしてこちらへどうぞ・・」

「・・いえ、大丈夫です・・」とだけ応えて常務の指し示す席に座る・・リサさんは私の右隣の席に着く・・。

「・・初対面であろうかと思いますのでご紹介します・・こちらは、エスター・アーヴ女史・・総務部長に就いて頂いています・・エスター・・こちらが、アドル・エルク係長・・いや・・艦長とお呼びした方が良いのかな・・?(微笑)・・」

「・・いえ、まだ始まっておりませんので、係長でもアドルと呼んで頂いても結構ですよ・・」

そう応えて先に立ち上ったアーヴ女史に続いて私も立ち上り、握手を交わしてメディアカードを交換した・・。

「・・申し訳ありませんが、昼食のメニューはこちらで統一して決めさせて頂き、先程注文しました・・すみません・・」

そう言って常務が頭を下げる。

「・・いえ、大丈夫です・・気になさらないで下さい・・問題はありません・・」

「・・有難うございます・・では、早速本題に入りましょう・・昨日の午後にチーフ・カンデルから私に提案がありまして、今朝の役員会でその案件について協議しましたところ、是非やるべきだろうと言う事で決議されました・・具体的に申し上げますと本社全体を挙げて開催する、アドル・エルクさんに対しての激励壮行会です・・」

(・・やっぱりな・・)「・・激励壮行会・・ですか・・?・・」

「・・はい・・日程は12日・・来週の金曜日ですね・・当日は昼食休憩時間を前後で1時間ずつ拡大して、10階のコンベンションホールと9階のスカイ・ラウンジをダイレクト・レンジで統合して会場とします・・この壮行会には社内各部署のみならず・・社外からも、関係・関連の深い方々を来賓としてお招きしますし・・メディアにもある程度開放する予定です・・私が実行委員長として実行委員会を組織し、企画の立案と準備に当たりますが・・実際具体的に動いて貰うのは、総務部と言う事になりますので・・エスター・アーヴ総務部長にも同席して頂いた次第です・・アドルさんと専任秘書のリサさんにも実行委員として入って頂きますが・・アドルさんは主役ですので、その心積もりでいて頂きたいとお願いする次第です・・スピーチと質疑応答で10分少々は話して頂く事になろうかとは思います・・今のところ大まかには以上ですが、アドルさんから何か提案とか要望はありますか・・?・・」

常務の話が終る辺りからスープとサラダと前菜が運ばれて来ていた・・どうやら略式のランチ・コースのようだ・・腹は減って来ているが、私からの要望は出して置こう・・。

「・・先ず、私の為に本社全体を挙げて盛大な激励壮行会を開催して頂けると言う事については、深く感謝します・・言葉にもならない程です・・そして、主役としての提案を認めて頂けると言う事であれば、お言葉に甘えて一つ申し上げます・・壮行会全体のテンションを上げて盛り上げ、高い宣伝効果を狙うと言う意味に於いても・・私が指揮を執る『ディファイアント』のメインスタッフ達を呼んで、共に壮行会に参加したいのですが宜しいでしょうか・・?・・認めて頂ければこの壮行会を、かなり劇的に盛り上げられると思いますが・・?・・」

私の提案にリサさんを除く3人は驚いて顔を見合わせた。

「・・アドルさん・・その提案はとても素晴らしいアイディアだと思います・・が、『ディファイアント』のメインスタッフの皆さんは・・トップ女優の皆さんでもありますので、スケジュール的には大丈夫なのでしょうか・・?・・」

と、ハーマン・パーカー常務が興味深げに訊く。

「・・それについては問題無いと思います・・彼女達から直接聞きましたが、ゲーム大会が開幕するまで・・基本的に彼女達のスケジュールは空だそうですので・・」

「・・そうですか・・分かりました・・チーフ・カンデル・・エスター・アーヴ総務部長・・アドル・エルクさんからのこの提案は採用するべきだと思いますが・・?・・」

「・・採用しましょう・・願っても無いような話です・・」

と、エリック・カンデル・・。

「・・同感です・・採用しましょう・・」と、エスター・アーヴ総務部長・。

「・・アドルさん・・素晴らしい提案をどうもありがとうございます・・これで激励壮行会が、とても期待の持てる楽しみなイベントになりました・・それでは冷めてしまいますので、昼食に取り掛かりましょう・・」

そう言って常務が手許の飲み物を掲げると、私達も手許の飲み物を掲げて乾杯し、昼食に取り掛かった・・。

「・・『ディファイアント』のメインスタッフは何人になっているんだ・・?・・」

と、エリック・カンデルが食べながら訊いてくる。

「・・私を除いて12人ですね・・サブスタッフまで含めれば、25人くらいです・・」

「・・アドルさんからスタッフの皆さんにお話を呼び掛けて頂いて、何人ぐらいに来て頂けるものでしょうか・・?・・」

と、エスター・アーヴ総務部長が訊く・・。

「・・話をしてみないと分かりませんが、10人は堅いだろうと思います・・」

「・・それはすごい!・では、10人は参加して頂けるものと想定して、企画の立案に入りましょう・・アドルさんから挙げられてくる報告書は、いつも興味深く読ませて頂いています・・『ディファイアント』のスタッフの皆さんについて・・お名前と画像では拝見させて頂いていますが、ご本人を間近で観られると言うのは、本当に素晴らしいと改めて思います・・」

と、常務が応じる・・。

「・・ありがとうございます・・報告書の作成は総てリサさんにお願いしてしまっているので、それは総てリサさんの手腕ですね・・」

と、私はリサさんを見遣って言う・・。

「・・有難いですが、私はアドル・エルクさんの専任秘書として、当然の仕事をしているだけですので・・」

そう言ってリサ・ミルズさんは頬を染めて俯く・・。

「・・リサ・ミルズさんはアドル・エルクさんの専任秘書であると同時に、アドルさんの同僚として同じフロアで業務に当たっていらっしゃるんですよね・?・どうですか・?・求められる業務量が過大で過重ではないですか・?・・」

「・・いえ、何の問題もありません・・極めて充実して、業務に当たらせて頂いております・・疲れは感じますが、その日の内に解消できておりますので、大丈夫です・・」

そのリサさんの返答に対して鷹揚に頷いた常務だったが、チーフ・カンデルに顔を向ける・・。

「・・チーフ・・アドルさんの専任秘書は、リサさん1人で大丈夫なのかな・・?・・」

「・・大丈夫でしょう・・ゲーム大会が開幕するまでは多少バタバタするでしょうが、開幕すれば落ち着いた展開になると思います・・制作発表会見と共同記者会見以外に、何か要請は来ているのか・・?・・」

と、エリック・カンデルが一口分に切り分けたロースト・ビーフと、付け合わせのキャロットソテーを一緒に食べながら私に訊く。

「・・いえ、その2つのイベント以外には今のところ、出席の要請は来ていません・・ですが、開幕迄にはまだ時間がありますので、何某かの企画やイベントへの出席要請が来るものと想定して置いた方が、良いだろうとは思います・・」

と、私も一口のサイズに料理を切り分けながら応える。

「・・それがあるにしても、あと一つか二つだろう・・三つも四つもやるにしては、もう時間が無い・・今からアドル君の専任秘書を増やしても、却って混乱する可能性が出て来ますね、常務・・」

「・・うん・・チーフの見解と懸念は適当であろうと思いますね・・リサさん・・申し訳ないですが、今のところは何とか1人でお願いできますか・?・事態や状況が変わって業務が、より煩雑になるとか・・業務量が増えて、手に余るようになりましたら、何時でも言って下さい・・直ぐに対応しますので・?・」

「・・お気遣いを頂きまして、ありがとうございます・・また、ご心配をお掛け致しまして、申し訳ありません・・ご配慮には感謝致しますが、お気遣いには及びません・・アドルさんのサポートは、私ひとりで十二分に対応出来ますので・・どうぞこれまで通り見守り頂きたく、お願い申し上げます・・」

「・・分かりました・・それでは、そうさせて頂きます・・」

「・・ありがとうございます・・」

リサさんはそう応えるまで、料理に手を付けていなかった・・。

「・・アーヴ総務部長・・参加できるスタッフメンバーの人数と名前が確定しましたら、直ぐに報告しますね・・?・・」

と、オレンジジュースを二口飲んで言う・・。

「・・ありがとうございます・・本当に助かります・・宜しくお願いします・・」

そう言ってエスター・アーヴ女史は、食事の手を止めて頭を下げる・・。

「・・折角の壮行会ですから、目一杯明るく盛り上げましょう・・アーヴ総務部長・・参加できるメンバーに依っては、こちらから企画を提案しても良いですか・・?・・」

と、食べながら努めて明るく訊く。

「・・勿論です!・企画の提案は何でも結構ですので、気軽にお知らせ下さいね・?・」

「・・分かりました!・・カンデルチーフ・・営業本部で終業後に何か考えていますか・・?・・」

「・・何かやった方が好いか・・?笑・・」

「・いえ、それはお任せしますが、やるんでしたら彼女達にも声を掛けますよ・・?笑・・」

「・・分かった、考えるよ・・」

「・・アドルさん・・クルーメンバーの確定は、いつ頃になりますか・・?・・」

と、ハーマン・パーカー常務も食べながら訊いてくる。

「・・そうですね・・来週中には確定するでしょう・・」

私も食べながら、そう応じる。

「・・それは素晴らしく早いですね・・配信ニュースでも観ましたが・・選ばれた20人の艦長達が指揮するそれぞれの艦の中で・・『ディファイアント』のクルー編成の進捗が最も早いと報じられていました・・アドルさん・・何か秘訣があるんですか・・?・・」

そう訊きながら常務は私に白ワインを勧めて来たが、私は右手を挙げてそれを制した。

「・・別にそんな秘訣なんて何も無いですね・・早く進んでいるのは偶然だと思っています・・」

「・・そうですか・・アドルさん・・このゲーム大会では、選ばれて艦長となった方、20人以外の参加者は高額な参加料を払い込んでいますよね・・?・・」

と、料理を切り分けながら続けて訊く。

「・・そうですね・・一般の方が個人的に払い込むには、かなりの高額ですね・・ですから、金銭的に余裕のある人以外でしたら・・各種の法人とか、団体としての参加が多いようですが・・って、まさか・・クライトン商事として参加しているのですか・・!?・・」

と、流石の私も食べる手が止まる・・。

右隣のリサさんも緊張度が増したようだ・・。

「・・流石はアドル・エルクさん・・勘の鋭さは、評判以上ですね・・」

「・・評判?、ですか・・しかし、それはおかしい・・我が社が既に参加しているのなら、報道されない筈が無い・・」

「・・それも鋭いですね・・仰る通り、我が社としての登録はまだですが・・現在、準備を進めていまして・・来週木曜日の午前中には登録します・・そして・・」

「・・壮行会の席上で、電撃発表ですか・・?・・それなら、会社としてはそちらの方が主役でしょう・?・クライトン商事の艦が敗退したり撃沈されるなど、あってはならない事でしょう・・?・・」

「・・いいえ、アドルさん・・我が社としても、主役は飽くまでも貴方の『ディファイアント』なのです・・我が社として参加する艦は、準主役と言う設定としまして・・言わば2枚看板と言う事で、参加して行く積りです・・」

「・・常務・・これだけは今この場ではっきりとお伝えして置きますが・・もしもクライトン商事がほんの僅かにでも、『ディファイアント』に於ける私の指揮権に対して、干渉するような事があった場合・・私は即座に辞表を提出しますので、その旨はお含み置き下さい・・」

「・・アドルさん・・そんなに気色ばまずとも大丈夫ですよ・・もしも貴方に何かを強要するなら・・何もわざわざ社として艦を出す必要も無いでしょう・?・クライトン商事の艦は独自に行動して、上位を目指します・・」

「・・常務・・その逆も駄目ですよ・・クライトン商事の艦が、『ディファイアント』を援護しようとするのも、盾になろうとするのも駄目です・・それらも私の指揮権に干渉している事になります・・纏わり憑くようなら容赦無く撃沈して辞職します・・宜しいですね・・?・・」

「・・委細は承知しておりますよ、アドルさん・・我が社の艦は飽くまでも我が社のPRの為に行動します・・『ディファイアント』を特段に意識するものではありませんので、勿論追尾などしませんよ・・ですが、勝ち抜いて行けばいずれ遭遇する事もあるでしょう・・その際には貴方と、我が社の艦長が周囲の状態や状況に鑑み、判断すれば宜しいでしょう・・?・・」

「・・分かりました・・私としては、取り敢えずそれで結構です・・壮行会の席上でどのように発表されるお積りなのか知りませんが、『ディファイアント』とそちらの艦を、同列に扱うと確約して頂けるのなら、こちらのスタッフにも声を掛けましょう・・それともう一つお聞かせ頂きたいのですが、もしも私が選ばれていなかったら、どうなっていましたか・・?・・」

「・・アドルさん・・貴方が選ばれていなければ、我が社がこのゲーム大会に参加する事も無かったでしょう・・その意味で言うなら、これは是非とも信じて頂きたいのですが・・貴方と『ディファイアント』は、我が社にとっても重要で特別なのです・・どうか、信じて下さい・・」

「・・常務・・俄かには首肯出来ませんし、信じ難い側面もありますが・・そのご発言は、この胸に留めて置きましょう・・」

「・・ありがとうございます・・取り敢えず、そう言って頂けたのは良かったです・・」

「・・それではパーカー常務・・チーフ・カンデル・・アーヴ総務部長・・昼食に招いて頂きまして、ありがとうございました・・そろそろ昼の休憩時間が終わりに近付きますので、戻らせて頂いても宜しいでしょうか・・?・・」

「・・どうぞ・・」

「・・ありがとうございます・・それでは、お先に失礼致します・・」

そう言って頭を下げて立ち上ると、私はもう一度礼をして踵を反した。

リサさんも一瞬遅れて私に続き、一緒にキャフャテリアから退室する・・。

「・・常務・・彼に話すタイミングとしては、これがベターでした・・予想していたよりも穏やかな反応でしたが・・」

と、エリック・カンデルが何も無かったかのように食べながら言う・・。

「・・その点で観ても、流石はニュータイプ、と言ったところかな・?・チーフ・?・」

ハーマン・パーカー常務が白ワインをほんの少し注いで飲みながら応える。

「・・常務・・その言葉は滅多に言わない方が宜しいかと・・?・・」

「・・ああ、分かっているよ、チーフ・・アーヴ総務部長、人選の進捗は・・?・・」

「・・今日中には全スタッフが出揃うでしょう・・来週から一般クルーの人選に入ります・・」

「・・了解したよ・・エスター・・彼は我が社の艦の種別を訊かなかったな・・?・・」

「・・それだけ興味も関心も無いのだと言う事を示したかったのかも知れません・・」

「・・かも知れんな・・」

私は3分の1程料理を残したが、リサさんは半分も食べてはいない・・。

「・・あと15分だけど、ラウンジで何か食べよう・?・奢るから・・」

リフトのタッチパネルに触れて言う。

「・・いえ、大丈夫です・・今日はお弁当を持って来ていますので、休憩室で頂きます・・」

「・・会社で参加するって話・・噂でも聞かなかったな・・」

「・・来週からは、聴こえて来るでしょう・・」

「・・会社が少しでも干渉して来たり、僕のスタッフを侮辱するような事を言ったら、僕は本当に辞めるからね・・君には悪いけど・・」

「・・分かっています・・」

そこで職場のフロアに着く・・まだ誰も戻って来ていない・・私は喫煙休憩室に入り、リサさんは禁煙休憩室に入る・・。

一本喫い終った私はコーヒーを淹れて、禁煙休憩室に入るとリサさんの向かいに座る・・。

彼女はハーブティーを飲んでいた。

「・・食べなくて良いの・・?・・」

「・・もう時間も無いですし、大丈夫です・・」

「・・君の事は全面的に信じる・・それだけは言って置くよ・・」

「・・ありがとうございます・・」

「・・僕に対する会社の評価を知りたいんだけど、君や僕のアクセス権限じゃ詳細は読めないだろうな・・?・・」

「・・そうでしょうね・・」

「・・僕が艦長に選ばれてから、会社は僕の事を詳細に調べた筈だ・・おそらく過去の人間関係も洗って・・聴き取り調査もしたんだろう・・そして僕自身も気付いていなかった、僕の特性を認識した・・会社は多分強要も干渉もしないだろう・・でも、あるベクトルに向けて、僕をそれとなく気付かせないように促そうとする筈だ・・それを読み切る必要がある・・」

そこで言葉を切ってコーヒーを飲む・・気付けば、昼休みは後5分で終わる。

「・・ごめんね、リサさん・・しょうもない事を言ったね・・訊かれたら、壮行会の事は話しても良いんじゃないかな・・ただ、会社が法人としてゲーム大会に参加するって話は言わないで置こう・・言わなくても来週になれば噂が聴こえて来るだろう・・それじゃ、リフトのパスコードはメッセージでね・・?・・」

「・・はい・・」

私はコーヒーを飲み干して立ち上がり、フロアに戻る・・もう仲間が4人、戻って来ていた・・。

心が漣立って鎮まらないので3時まではデスクワークに没頭し、それからは通話業務に集中した・・スコットが何処で昼飯を食ったのかと訊いて来たから、壮行会の事を話したらやっぱりなあと感慨深げに頷いていたが、私からスタッフにも声を掛ける積りだと聞くと、微妙に複雑な表情をしていた・・。

16:30に見渡して進捗状況を確認する・・どの担当に於いても、業務に遅れは出ていない・・私は切り上げて来週の準備と段取りの確認を進める・・リサ・ミルズからのメッセージが届く・・役員専用2番リフトのパスコードだ・・準備と段取りの確認が終わり、片付けと清掃も終えて終業時刻となる・・。

フロアにいる全員にお疲れさんと声を掛けてバッグを手に取ると、自分の退勤を記録してトイレに入り、そのまま駐車スペースまで通常リフトで降りて、私のエレカーにバッグだけを入れてロックし、素早く役員専用2番リフトにリサ・ミルズからメッセージで貰ったパスコードを入力して乗る・・。

役員秘書の控室は18階にある・・一介の営業社員がこんな上階にまで上がる事は無い・・。

降り立つと、この階の通路も絨毯が敷き詰められている・・左に15歩歩いて役員秘書控室のドアの前にまで来ると、人感センサーがチャイムを鳴らす・・。

「・・どうぞ・・」の声とともにドアロックが解除されたので、パネルに触れて開き入室する・・。

彼女は長いソファに座っていたが、立ち上って歩み寄って来る・・。

「・・スコットには壮行会の事を話したよ・・君は・・?・・」

コートと上着を脱いでポールハンガーに掛ける。

「・・マーリーには話しました・・訊かれたので・・驚いていましたけど・・」

言いながら彼女は、私のネクタイを丁寧に外す・・。

「・・どうして・?・」

「・・終ったら、シャワーを浴びて帰って下さい・・私の匂いが移りますから・・」

「・・そこまで必要かな・・?・・」

「・・女の嗅覚は鋭いんですよ・・」

言いながら私の首に両腕を絡ませて引寄せる・・30秒程接吻して口を離し・「・大好き・」と言ってまた吸い付く・・40秒程そのまま過ごし、ゆっくりと顔を離す・・お互いに左頬を密着させて抱き合い、30秒で身体を離した・・。

ソファーでしなくて良かった・・惹き込まれそうだった・・。

「・・明日の朝8時に来るのは、君とマーリーと副長だね・・?・・」

「・・先程終業間際にシエナさんからメツセージを頂きまして、ハンナさんの車に同乗させて頂いて、一緒に伺います・・」

「・・4人か・・」   「・・はい・・」

「・・分かった・・ウチには駐車スペースが無いから、最寄りの公共駐車スペースに置いてくれる・・?・・」

「・・分かりました・・シャワールームはあちらです・・」

「・・ああ・ありがとう・・」

身体を洗い、シャワーで流していく内に、気持ちが落ち着いて考えも落ち着いた・・。

髪を乾かして戻ると、彼女がシャツを手渡してくれる。

「・・はい・・少し綺麗にして消臭して置きました・・」

「・・ありがとう・・どうやら、柄にも無く動揺していたね・・例え何処の団体だろうが誰の艦だろうが、遭遇したなら戦うなら戦う・・スルーするならスルーする・・共闘するなら共闘する・・離脱するなら離脱する・・必ずこの中のどれかって事だ・・ゲームの中でなら、相手が誰であろうと対等だ・・干渉などされないし、影響も受けないさ・・」

言いながらシャツを着てネクタイを締めて上着を着ると、リサさんが2枚のメディアカードを手渡してくれる・・。

「・・帰宅途中にあるケーキ屋さんと生花店です・・宜しければ・・」

「・・リサさん・・最後に一つ確認したいんだけど、作戦会議の事は上に報告したの・・?・・」

「・・していません・・私が報告書に書くのは、番組の制作サイドや運営本部との遣り取りだけですから・・」

「・・そうか、分かった・・ありがとう・・この2枚もありがとう・・妻も娘も喜ぶと思うよ・・じゃあ明日の朝、待ってるよ・・」

2枚のメディアカードを受け取り、上着の内ポケットに入れてそう応え、コートを着込むと最後に彼女と数秒見詰め合って控室を後にした・・ドアが閉まってから10秒程すると、控室の奥のドアが開いて初老で長身の男性が出て来た・・。

「・・彼は・・?・・」

「・・まだ知りません・・」

と、振り返らずに応える・・。

「・・そうか・・じゃあ、帰ろうか・・?・・」   

「・・「はい」・・」
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