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・・・『集結』・・・

リサ・ミルズ・・・全員集合会議・・

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翌日(2/3・水)・・晴れてはいるが風が強い・・雲が千切れ飛んで行く。

最近は早く目覚める・・昨日の朝と同じように過ごして出社する。

ラウンジでは、また同じメンバーで一緒に座る。

「・・最近は、皆早いな・・早寝早起きで良い事だね・・」

そう言って4人を見渡す・・。

「・・平日では、この時間が結構貴重で癒されますんでね・・」

スコットがカバーカップのコーヒーを味わって飲む・・。

「・・アドル係長・・今日は、ライフタイムサポート休暇を私と一緒に取得して下さい・・」

リサ・ミルズがカバーカップのハーブティーを置いて、私の顔を真っ直ぐに観て言う。

「・・君と一緒に早く上がるの・?・ああ、早目に行くんだね・・」

ちょっとうっかりしていたので、そう応えてしまう・・。

「・・何があるんですか・・?・・」

マーリー・マトリンがミルクティーのカップを置いて、少し身を乗り出す。

「・・うん・・『ディファイアント』のメインスタッフとサブスタッフが決まったから、初めてのスタッフミーティングと言う事でね・・色々と話したり、発表したり頼んだりってところかな・・」

と、彼女の顔を観ながら言う・・。

「・・へえ・・もうそこまで決まっているんですか・・すごいですね・・何人集まるんですか・・?・・」

ズライ・エナオがカプチーノを前に置いて訊く。

「・・ええと・・僕とリサさんを含めて27人だね・・」

リサ・ミルズを除く3人が驚く・・。

「・・すごいじゃないですか・・まだ何日も経っていないのに、もうそこまで決まってるんですね・・じゃあ、エドナさんも来るんですね・・僕、ファンなんですよ・・」

スコットが私の左側から向き直って言う・・。

「・・ああ、ヤキモキしなくても彼女とは発表会見の時に会えるから心配するな・・お前のメディアカード、彼女に前以て今日渡してやろうか・・?・・」

「・・そのくらいは自分でちゃんとやりますから、ご心配なく・・」

「・・ああ、お前ならそう言うと思ったよ(笑)・・」

「・・アドル係長と有名な女優さんが25人も集まったら、すごく人目を惹きますね・・どこかのお店でやるにしても貸し切りにしないといけませんね・・」

ズライ・エナオがカプチーノを二口飲んでカップを置く・・。

「・・うん・・開催場所はリサさんに頼んで押さえて貰ったんだ・・住所は貰ったけど、どんな場所かはまだ知らない・・」

と・・あまり関心を持たれないように応える・・リサさんは落着いて観える。

「・・あの・・私も一緒について行って良いですか・・?・・」

と、マーリー・マトリンが顔を赤くしてモジモジしながら訊く・・。

「・・マーリー・・今日の会合は機密性を高くしたいんだ・・リサさんは私の秘書だし、場所を押さえてくれたんだから一緒に行く・・どんな話をしたのかは、明日にでも掻い摘んで話すから勘弁してくれるかな・・?・・」

「・・分かりました・・明日、伺います・・」

「・・ありがとう・・今度、何か奢るよ・・そんな訳で今日、僕とリサさんは1時間早く上らせて貰います・・昨日までの皆の頑張りで業務の進捗はちょっとプラスになっていると思うので・・僕とリサさんはちょっと追い込んで、今日は推進して行きますけれども・・皆は無理せずに、やって下さい・・始まったらメンバーには僕から通知します・・1時間程度なので、業務の割振りは特にしませんが・・何か気付いたら、教えて下さい・・フロアリーダーにはリサさんから届けて下さい・・多分残業の要請は出ないだろうと思うから、皆それぞれのペースで集中して充実しよう・・それじゃ、上がろうか・・?・・」

早上がり予定の手前もあり、僕とリサさんは始業から15%程度のアップスピードで進め始める・・10:45頃から少し空腹感が募り始めて来たので、紙コップのコーヒーで気を紛らわしながら続ける・・観るとリサさんも、ハーブティーを飲みながら続けている・・。

今日も朝食は軽く済ませて出てしまったので、どうしてもお昼はパワーランチになる・・大きめのトレイに色々と載せて、パン・スープ・サラダ・オレンジジュースも載せてから皆の座っているテーブルに着く・・コーヒーは後で取りに行こう・・向かいに座るマーリー・マトリンを観ると、昨日食べさせて貰った彼女手造りのお弁当が思い起こされる。

左隣を観ると、スコットがラーメンを啜っている・・。

「・・お前がここでラーメンを食うのは久し振りだな・・?・・」

「・・たまに無性に食べたくなるんですよね・・ここのラーメンは魚介ダシのスープで油も少なくして仕上げているんで、食後もサッパリしてしつこさが残らないんで好きなんですよ・・」

「・・そうか・・でも替え玉やチャーハンの追加は止めて置けよ・・炭水化物の重ね食いは良くないからな・・」

「・・そこまで大食いじゃないですよ・・」

リサ・ミルズ女史とマーリー・マトリン嬢は、自作のお弁当だ・・。

ズライ・エナオはタイプBのランチプレートを自分の前に置いている・・。

「・・今日はリサさんと先輩のスピードが半端ないスね・・?・・」

スコットが焼豚を1枚、口に放り込んで言う。

「・・ああ・・早上がりさせて貰う手前、皆に悪いからな・・」

厚切りトーストにカットバターを塗りながら応える・・。

「・・アドル係長・・ゲーム大会が開幕して直ぐに他艦と遭遇する可能性もありますよね・・?・・」

ズライ・エナオがスープカップを置いて訊く。

「・・無くはないよね・・だから、それがあった場合にも瞬時に対応できるように準備して、慎重に出港するしかない・・ね・・開幕直後に沈められるってのはさすがにカッコ悪い・・何とか2日間は無事に乗り切りたいよね・・番組の制作側が、20隻の出場艦をそれぞれどの位の頻度で他艦と遭遇させるつもりでいるのか・・それが判れば楽だよね・(笑)・・」

そう応えながら厚切りトーストとビーフシチューを交互に口に運ぶ・・。

「・・出港したら・・まずどうします・・?・・」

ズライ・エナオがハンバーグステーキを一口サイズに切り分けながら訊く。

「・・何か同じ質問をインタビューでも受けたね・(笑)・最初の丸1日は訓練に充てようと思ってる・・色々なね・・途中でいきなり襲われるような事でもない限り、戦闘はせずにスルーに徹するつもりだよ・・」

私も料理を一口サイズにまとめながら応える。

「・・それでその後にお疲れさん会?・・でしたよね・・?・・」

スコットがそう言って、最後の麺とメンマをまとめて口に入れる。

「・・お疲れさん会・・?・・ああ、初出航記念の親睦懇親パーティーね・・まあ、そう言う事になるんだろうな・・」

そう言って、オレンジジュースを飲み干した。

「・・初出航記念の親睦懇親パーティー・・ですか・・?・・」

と、ズライ・エナオがそう訊いてハンバーグと付け合わせのキャロットソテーを一緒に口の中に入れる。

「・・うん・・これは全出場艦共通の行動規定マニュアルファイルに記載されている事項の一つでね・・全出場艦は、初出航後24時間を目処に親睦懇親パーティーを開催するように、との事なんだ・・」

「・・へえ・・どんなパーティーになるんですか・・?・・」

「・・全乗員の参加が義務付けられている以外には何も無いから、他は各艦の自由裁量に任されているね・・だから自由で良いんだろうけれども・・問題は、パーティーの開催中に他艦のセンサースイープを躱してどう隠れ切るのか、と言う処にあるね・・」

「・・パーティーひとつ開催するってのも大変ですね・・?・・」

と、スコットが言って煮卵を食べる。

「・・まあな・・でもまあ、何とかなるよ・・悪い・・コーヒー淹れて来る・・何か、欲しい人いる・・?・・」

と、そう言って席を立つと・・。

「・・あ、じゃあ、ミルクティーをお願いします・・」

そう言ってマーリー・マトリンが右手を挙げる。

「・・分かった・・」

そう言ってカウンターに行き、コーヒーとミルクティーを淹れて持って来る。

「・・美味しい・・アドル係長の淹れてくれるミルクティーはとても美味しいですね・・」(・・?・・このわざとらしさは・・?・・)

「・・そんなに美味しいの・・?・・」

と、ズライ・エナオが訊く。

「・・ええ・・私、ミルクティー派なんですけど、アドル係長の淹れてくれるミルクティーは、10年ぶりに飲むような素敵な味わいだったんです・・」

「・・そうなんですか・・アドル係長・・申し訳ないのですが、私にもお願いできますか・・?・・」

「・・畏まりました・・何なりとお申し付け下さい・・暫くお待ちを・・」

そう言って席を立ち、もう一杯淹れて持って来る。

一口飲むと、ズライ・エナオは動きを止めた。

「・・とても美味しいです・・初めて感じるような味わいかも知れません・・」

と、初めて見せるうっとりとしたような表情で、カップを置く。

(・・これはちょっと、マズい方向性になって来たかな・・?・・)

「・・なあ、スコット・・ファンレターでも書いて・・直接渡したら好いんじゃないか・・?・・心証が好くなるぞ・・」

「・・そんなもんですかねえ・・?・・じゃあちょっと、考えてみますかね・・」

「・・ああ、エドナ・ラティスさんには、お前をちゃんと紹介するからな・・その時に渡したら好いよ・・」

「・・どうも、ありがとうございます・・」

「・・良いって事さ・・皆、デザートはどうする・・?・・僕はヨーグルトを貰うよ・・?・・」

「・・僕は餡蜜で・・」

スコットがナルトとシナチクをまとめて食べて言う・・。

「・・チョコレートのミニパフェを頂きます・・」

ズライ・エナオがミルクを飲み干して言う。

「・・私は苺のミニパフェにします・・」と、マーリー・マトリン。

「・・ベイクドチーズケーキをお願いします・・」

もう一杯、カバーカップにハーブティーを注いでリサ・ミルズが言う。

ウエイターを呼んでまとめて注文する。

デザートを別腹に納め、それぞれお茶も飲み干して、昼食を終えた。

午後の業務も密度を上げて推進させていく。

予定よりも10分程ずれ込んだが16時10分に業務を切り上げ、片付けと明日の準備・段取りを手早く終えて、15分に席を立つ。

バッグを取って近隣のメンバーに右手を挙げて挨拶してから、リサ・ミルズと一緒にフロアを出た。

一緒のエレベーターで1階に降り、足早に駐車スペースに入ってエレカーに乗り込む。

ナビゲーションシステムへの入力とセットは彼女に任せて、私は車をスタートさせて通りに合流する。

「・・お疲れ様でした・・」

セットを終えたリサ・ミルズが助手席のシートに座り直して言う。

「・・お疲れ様・・」

ナビゲーションプログラムが起動して目的地への案内表示が始まった3D空間投影図を確認しながら、ステアリングを握り直して応える。

「・・僕に早く来て欲しいというのは、副長の発案・・?・・」

「・・そうです・・昨夜、連絡を貰いまして・・」

「・・そう・・何か企画があるのかな・・?・・」

「・・そのようですね・・」

「・・リサさん・・この住所は、君の自宅だね・・?・・」

私はそれだけ訊いた。

「・・そうです・・」

「・・分かった・・」

「・・アドルさん・・?・・」

「・・何・・?・・」

「・・マーリー・マトリンの好き好きアピールが激しくなっていますね・・?・・何かありましたか・・?・・」

「・・ああ・・週に3回キスしてくれって要求されてね・・押し問答の挙句に、週に2回のキスで押し切られてしまったよ・・でも、それ以上は要求させないよ・・これ以上何かを言ってくるようなら、彼女をメンバーから外すつもりだし・・この事は彼女にも言い渡してある・・」

「・・そうだったんですか・・じゃあ、私とも週に2回キスして下さい・・それで、マーリーと同じになりますから・・」

「・!?・リサさん!・君まで何を言うんだ・!・僕はこれ以上君達との関係を感情的に拗らせたくないんだよ・!・・」

「・分かっています!・これが私とアドルさんとの間での、最終感情関係ラインなんです・・私はこれ以上の感情的な要求は絶対にしません・・だからマーリーにもそれ以上はさせないで下さい・・私からの感情的なお願いは、これが最後なんです・アドルさん・・」

「・・・分かったよ、リサさん・・僕にとっての君は、絶対的な信頼に値する人達の内の1人だ・・受け容れよう・・君との間でもマーリーとの間でも、これが最終ラインだ・・これ以上の要求は、誰に対してでも受け入れないし認めない・・」

「・・ありがとうございます・・週に2回・・マーリーとの曜日は・・?・・」

「・・火曜と木曜だよ・・」

「・・じゃあ私とは、水曜日と金曜日でお願いします・・勿論この事は、誰にも言いませんし気付かれないようにもします・・」

「・・分かった・・僕の方も勿論だ・・」

その後は暫く、2人とも無言で過ごす・・ドライブは順調だ・・目立つような渋滞もない・・現状での予定では、あと20分程で到着すると表示されている・・思っていたよりも早く着きそうだ・・不意に一つ思い出したので、訊いてみる。

「・・君は1人で住んでいるとカウンセラーから聞いたけど、毎朝お母様のブレンドハーブティーを持って来ているから、ご両親は近くに在住されているのかな・・?・・」

「・・はい・・同じマンションですが、もっと上階に住んでいます・・」

「・・そうか・・じゃあ、静かにしないとね・・?・・」

「・・防音については、完備されていますから大丈夫ですよ・・」

「・・それでも、僕とスタッフ達は人目に付くから気を付けないと・・」

「・・そうですね・・」

「・・君の自宅住所の辺りはすごいタワーマンションが林立しているエリアだから、もしかしたらと思っていたけどやっぱりそうなんだね・・?・・」

「・・はい・・」

「・・そうだ・・皆のために、飲み物か何か買って行こうか・・?・・」

「・・もう既に飲み物と軽食は手配してありますから、大丈夫です・・」

「・・分かった・・さすがはリサさんだね・・」

「・・ありがとうございます・・」

生産工場エリアとショッピングタウンを抜けてオフィス街を通過すると、巨大なタワーマンションが林立するエリアが観えて来る・・交差点を左折して更に接近していく・・この前この辺りを走ったのは確か2年ほど前だったが、更に巨大なマンションが既に幾つも完成している。

案内に従って走行するうちに目指すタワーマンションを視認した・・廻りのマンションと比較しても、その巨大さが際立つ。

「・・駐車スペースには、どこから入るのかな・・?・・」

「・・左周りでお願いします・・次の角を左折して40mほどにある入り口からです・・」

言われた通りに角を左折して見付けた入口から入る。

「・・地下3階まで降りて下さい・・その階の半分が来客用の駐車スペースです・・この事は皆さんにも伝えてあります・・」

そのまま地下3階まで降りてリサ女史の指示に従い、来客用駐車スペースの隅に駐車する。

「・・ここがリフトに最も近い位置です・・アドルさん・・このエレカーのナンバーはもう割れている可能性が高いですので、スモークレベルを上げて下さい・・」

「・・分かった・・」

そう応えて私はスモークレベルを最大に上げ、このポイントを登録するとモーターを停止させてベルトを外す・・。

ドアロックを外した時、ベルトを外したリサ・ミルズが覆い被さって来た。

「・!・リサさん!・何を・!・・」

「・・気が付かなかったんですか・アドルさん・?・今日は水曜日ですよ・!」

そう言いながら彼女は私に抱き付き、彼女をなだめようと何かを言おうとしていた私の口を自分の唇でふさいだ・・。

前回のキスよりも少し情熱的でエロチックなキスだが、それ以上に激しくはならない・・私はリサ・ミルズの背に腕を廻して抱き止め、柔らかくハグする・・。

そのまま90秒ほど過ごす・・口を離すとリサ・ミルズは私の左頬に自分のそれを密着させた。

「・・煙草臭いだろ・・?・・」

「・・それも含めて大好きです・・」

言って直ぐに顔が真っ赤になる・・まだ抱き付きながら呼吸を整えて落着こうとしている・・(・・これじゃ、気付かれちゃうな・・)

私は身体を起して彼女を助手席に座り直させる。

彼女が落ち着くまで暫く待とう・・時間はある・・帰宅する前に顔を洗って貰えれば大丈夫だろう・・そう思いながら彼女を観る・・。

「・・ゆっくり深呼吸して・・?・・帰宅する前に、どこかで顔を洗ったら良いと思うよ・・?・・」

「・・はい・・分かりました・・もう少しで大丈夫です・・」

彼女が落ち着きを取り戻して顔の赤味もまあまあ退くまで、10分と少々待っていた。

「・・それじゃあ、そろそろ行きましょうか・・!?・・」

晴れ晴れとしたように観える表情で明るく言い、バッグを携えて助手席から降りる・・私も降りて一つ伸びをして深呼吸をする・・地下3階にしては空気が重くないし、気になるような臭いも無い・・空調システムのグレードがかなり高い証拠だな・・今この階にいるのは、私達2人だけのようだ・・。

「・・少し、待っていて下さい・・」

そう言って彼女は3本並んでいるリフトシャフトの少し先にあるレストルームに入り、数分で戻るとリフトドアを開いて2人で乗り込む。

よく洗ってケアして軽く化粧直しもしたらしく、爽やかにサッパリとした印象を見せて足取りも軽い。

「・・誰か来ているかな・・?・・」

「・・どうでしょう・・?・・」

15階で降りると、シエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーがもう既に来ていて、ドアの前で待っている。

「・・お帰りなさい!・お疲れ様でした・・アドルさん、リサさん・・無理なお願いを聞いて頂きまして、ありがとうございました・・」

シエナ・ミュラーは歩み寄って会釈するとそう言い、私の顔を少し観る。

「・・お待たせしました・・かなり早く着けたと思っていましたが、お待たせしてしまってすみません・・さすがに早いですね・・今日もよろしくお願いします・・」

そう応えて笑顔で2人と握手を交わす・・ハンナ・ウエアーも私の顔を観るが、何故なのかは分からない・・リサ・ミルズも2人に挨拶して握手を交わし、ドアを開けて私達を招き入れた。

さすがの私も驚いた・・マンションの間取りで、これ程に広いリビングルームは観た事が無い・・確かにここなら全スタッフが集合しても、狭苦しさは感じない・・それどころか35人ぐらいで集まっても、丁度良い位だろう・。

「・・ねえ、リサさん・・今日はとっても満ち足りたような感じで、明るくて素敵に可愛いね・・そう・・アドルさんとキスしたんだ・・?・・」

ハンナさんがリサさんの前に立ち、軽く顔を覗き込むようにしてそう言う。

「・!!エッ!?・・」とリサさんは絶句し、

私は「・!?どうして・・?!・・それを・・?・・」

と、思わず声にして出してしまった。

「・・リサさんは完璧にフォローケアが出来ています・・でも、アドルさんの口の左端に・・ほんの少しルージュが付いています・・残念でしたね・・それが無ければ判りませんでした・・さあ、アドルさんも顔を洗って来て下さい・・洗面台はそこを少し行って左側です・・終ったら控えの間にご案内しますから・・」

シエナ・ミュラーが私のジャケットの襟を直し、背中を押しながら言う。

(・しっかりしろよ!アドル・エルク!・キスした後は必ず顔を洗え!・)

と・・顔を洗いながら私はまた、自分で自分を叱咤するのである・・。

顔を拭いて戻った私をリサさんはリビングから連れ出し、素晴らしいグランドピアノが置いてある部屋に案内した。

「・・ここで・・お呼びするまでいて下さい・・飲み物はミニ・バーから何でも取って下さい・・お腹、空いていますか・・?・・」

「・・いや・・大丈夫だけど・・ごめんね、気が付かなくて・・」

「・それは良いんです・私が気を付けなければならない事でしたから・・」

そう言って彼女は部屋から出てリビングへと戻って行く・・私はグランドピアノと部屋を見渡す・・。

(・・ミニ・バーって・・ホテルのラウンジかよ・・?・・)

「・・何か、デリバリーで届けられる物があるの・・?・・」

戻ったリサ・ミルズにシエナ・ミュラーが訊く。

「・・ええ・・軽食と飲み物が、19時くらいの予定です・・小皿等の諸々は、そこのケースに用意して置きましたので・・届けられてから出すようにしましょう・・」

「・・分かったわ・・」

「・・ねえ、リサさん・・最近、アドルさんに対して積極的なの・・?・・」

と、ハンナ・ウエアーがほんの少し探るように訊く。

「・・ええ・・マーリー・マトリンがアドルさんに対して週に2回のキスを押し切りましたので・・私も同じにさせて貰いました・・」

リサ・ミルズが平然と応えたのには、二人とも驚いた。

「・!ヒューー!!・一般の人達は進むのが速いんだねえ・・アタシらなんか次は4か月先・「ハンナ!!」・あっ!・・」

ハンナ・ウエアーが思わず口を滑らせたのを、シエナ・ミュラーが鋭く制しようとしたが遅かった。

「・・やっぱりあったんですね・・そうなんじゃないかとは思っていました・・良いと思いますよ・・別にキスくらい・・週に2回キスしたくらいで、奥様からアドルさんを奪えるとは思っていませんし・・そもそも最初から奪うつもりもありません・・それはお二人も同じでしょう・・?・・」

それを聴いてハンナ・ウエアーはリサ・ミルズに歩み寄り、彼女の両腕を両手で軽く支える・・。

「・・リサさん・・あなた・・ハルより怖いね・・でもそれより私はあなたがストレスで壊れないか、心配だよ・・?・・」

「・・大丈夫です・・週に2回・・アドルさんに思いっ切り告白してキス出来るんです・・今日が初めてでした・・確かにストレスの蓄積はある程度自覚していましたが・・すごく大きく解消出来ました・・お二人も如何ですか・・?・・私からもおススメしますよ・・?・・」

そう応えてニッコリと笑顔を見せるリサ・ミルズを、複雑な表情で観ていた2人だったが、シエナ・ミュラーが気を取り直した。

「・・もうそろそろ、ハルとエマとリーアとパティとカリーナが来るよ・・この話はここまでにして、私達とアドルさんの今の関係と言うか状況もこの雰囲気も・・皆に気付かれないように・・気取られないようにしよう・・」

それを聴いて2人とも頷く。

程無くしてインターコールのチャイム音が響く・・リサ・ミルズがモニターでハル・ハートリーの来訪を確認し、リフトのロックを解除する。

それから数分して今度はドア・インターコールのベル音が響く・・今度もリサ・ミルズがモニターでハル・ハートリーの顔を確認し、ドアロックを解除して開くとハル・ハートリーと顔を合わせた。

「・・今晩は、リサさん・・」

「・・今晩は、ハルさん・・ようこそおいで下さいました・・どうぞ、お上がり下さい・・」

「・・こちらは、リサさんのお宅ですか・・?・・」

「・・はい、そうです・・」

「・・大人数で来ておりますので、ご両親にご迷惑なのではと思いますが・・?・・」

「・・ハルさん、ここに住んでいるのは、私一人なのです・・」

「・・!?・・そうですか・・分かりました・・それでは、お邪魔させて頂きます・・」

「・・どうぞ、お上がり下さい・・」

「・・失礼致します・・皆、入るよ!・・」

そして、ハル・ハートリーを初めとして次々と入室していく・・土足では上がらないタイプの居宅ではあるが、シューズボックスは全員の履物を収納した・・シエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーも出迎える・・。

「・・全員でまとまって来たんだ・・?・・」

シエナ・ミュラーがハル・ハートリーに訊く。

「・・いや、私とリーアとエマとカリーナとパティで手分けして、それぞれで待ち合わせてここに来たのよ・・全員が集合したのは地下駐車場だったね・・」

ハル・ハートリーが広いリビングルームを見渡しながら応える。

「・・さすがにハルらしい、見事な手際だね・・」

ハンナ・ウエアーの誉めそやしに直接は応えず、顔を観返して訊く。

「・・アドルさんは・・?・・」

「・・別室にて待機して貰っています・・もうすぐデリバリーをお願いしている軽食と飲み物が届きますので・・それらの準備が出来ましたらお呼びします・・」

ハンナ・ウエアーに代わってリサ・ミルズがそう応え、続けて皆に問うた。

「・・皆さん、ハーブティーがありますので、宜しければ如何ですか・・?・・」

四人が手を挙げる・・「・・暫くお待ち下さい・・」言いながらキッチンに退がる・・。

「・・あの娘は・・?・・」

リサ・ミルズの後姿を見遣り、ゴールドブロンドのフェミニンロングハイレイヤーを右手で掻き上げて、エドナ・ラティスがシエナ・ミュラーに訊く。

「・・リサ・ミルズさん・・アドルさんとは同じ会社の同僚でね・・会社の役員会がアドルさんに就けた秘書さんで・・アドルさんと会社を繋ぐパイプ役だってさ・・」

「・・ふーん・・若いのに、やり手なんだね・・」

リサ・ミルズがトレイにティーポットと四つのカップセットとミルクとシュガーのポットを載せて戻る・・手を挙げた4人に近いテーブルにトレイを置いて、4つのカップにハーブティーを注ぐ。

「・・あとはお好みでお願いします・・」

そう言って離れる・・ちょうどその時にインターコールのチャイム音が、デリバリーの到着を告げる・・。

リサ・ミルズを中心に数人で軽食と飲み物を受け取り、収納ケースから小皿・取り皿等の諸々を出してテーブルに並べ、軽食と飲み物の分配を全員で手分けして行い、バランス良く終えた・・。

リサ・ミルズはエプロンを外して畳むと全員を見渡す。

「・・皆さん、お疲れ様でした・・お手伝い頂きまして、ありがとうございます・・そして今日はようこそおいて頂きました・・準備も整いましたので、アドル・エルクさんをお呼び致します・・そのままお待ち下さい・・」

そのまま退がり、私を迎えに来た。

「・・準備が整いました・・どうぞ・・」

私は立ち上がって自分の姿を鏡に映して観て確認すると、彼女の後に続く。

リビングルームに入ると、リサさんは私の左後ろに控えて立つ。

私は全員を見渡して口を開く。

「・・皆さん、今晩は・・初めてお会いする方へは初めまして、と申し上げます・・アドル・エルクです・・宜しくお願いします・・」

その場にいる全員が私を観る・・私も左から右、右から左へと全員を見渡しながら続ける。

「・・先ず、私からのオファーに応えて頂き、そして今日はここに集まって頂いた事に、心から感謝します・・これ程に早く、メインスタッフとサブスタッフの全員を集める事が出来るとは・・正直、思っていませんでした・・私なりに考え抜いて、自信を持って皆さんを選び抜きました・・それは最良の選抜と決断であったと、今では確信していますし・・今私の眼の前にいる皆さんを、私は誇りに思います・・そして皆さんと一緒にこのゲームに参加して戦い抜いていける事が・・今から楽しみですし、期待でワクワクしていますし・・喜びにも感じていますので・・どうか宜しくお願いします・・」

そこまで話した時にリサさんがコーヒーをソーサーごとで渡してくれる。

一口飲んで近くのテーブルにそのまま置く。

「・・今日、初めてお会いする方には改めてご挨拶と自己紹介をさせて頂きます・・がその前に、このゲームに皆さんと一緒に参加するに当たり・・私の基本的な姿勢を申し上げます・・このゲームは確かに、艦対艦の戦闘ゲームなのですが・・私には戦闘に酔い痴れて愉しんだり悦ぶような側面はありません・・既に力を失った艦を殊更に攻撃して撃沈に追い込む事を悦ぶような、サディスティックな側面もありません・・今回このリアリティゲームショウで選ばれた、他の19人の艦長達の事を私は敵だとは思っていません・・その中の1人としかまだ話してはいませんが、言わば仲間だと思っています・・おそらく皆同じ想いで応募して、物凄く低い当選確率を突破して艦長として選ばれ・・今はそれぞれにスタッフの選任作業に取り組んでいるものと信じています・・私は出来れば・・彼ら全員と最終局面まで共にありたいと思っています・・勿論、最後の最後に於いては本艦が上位に食い込む・・事が私達の目標である事に変わりはありません・・が、その為に本艦が、非情で卑劣な戦い方やそのような操艦を採ることはない・・と、この場で皆さんには表明させて頂きます・・ので、是非皆さんもこの姿勢に沿って、意志を統一して共に行動して欲しい・・と、お願いするものです・・」

ここで言葉を切り、コーヒーを取り上げて二口飲む・・マンデリンだ・・初めて気付いた・・リサさん・・旨く淹れたな・・。

「・・皆さん方の1人1人が・・深い友情と友誼心の絆に結ばれた間柄であったことは・・私にとって非常に幸運でした・・何故皆さん方全員を選び抜く事が出来たのか・・今の私に明解な説明はできませんが・・皆さん方の1人1人に、それぞれ何かを感じたのであろう・・とは、申し上げられるでしょう・・改めて皆さんは私の誇りですし・・これから皆さんを率いて行けると言う事に・・誇りと喜びを感じています・・宜しくお願いします・・」

またコーヒーを取り上げて飲み干し、カップとソーサーをリサさんに返す。

そして私は、今日初めて会うメンバー1人1人の顔をしっかりと観ながら続ける。
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