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『・・まさか・・当選!?・・』

メインスタッフとの撮影セット見学会 2

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「・・武器を隠して置くなんて・・艦内での白兵戦を想定しているんですか・・?・・」

と、ハル・ハートリーが個室を出て通路を歩きながら、私の隣に来て訊く。

「・・うん・・その可能性もゼロではないと言っていたね・・でもまあ、そんな事態にまでなったら、戦いは大概敗けだろうから・・そんな事にはならないように、考えながら行きますよ・・」

そう応えながら、ターボリフトに乗り込む。デッキ10へ・・。

ここも同じようなトレーニングとエクササイズの施設だ・・然程の差は無い・・。

「・・またこれですか・・私達専用のトレーニングとエクササイズの施設って訳ですよね・・?・・」

と、シエナ・ミュラーがそう言いながら、私の右側に立つ。

「・・アドルさん・・」

ハル・ハートリーも、私の左側に立って言う。皆も私の周りに集まって来る。

「・・うん・・ここ以外の他の2つは、出港したら閉める・・閉めて格納庫と倉庫にするよ・・ここだって通常直時以外には閉める・・警戒態勢時にここに廻せるエネルギーは無い・・」

と、私は番組制作関係者の耳に入らないよう、声を潜めて言う。

「・・ああ!・そー言えば、ここのメンテナンスハッチの場所は教えられていなかった!・皆!、良い機会だから貸与された端末の中のファイルを観て、ここのメンテナンスハッチを探して開けて写真に撮って置いて下さい!・実地訓練です!・では始めて!・・」

そう番組制作関係者たちの耳にも入るように強めに言って皆を促す。

皆端末を取り出して観ながら歩き始める。

私はドリンクディスペンサーに紙コップで水を出させると、飲みながら休憩室に入って座る。

リサ・ミルズも休憩室に入って来たが、お互いには見合わなかった。

水を飲み終わって立ち上がり、紙コップを潰して捨てた時にシエナ・ミュラーが休憩室に入って来る。

「・・アドルさん・・総て発見して開放して撮影しました・・」

「・・ご苦労さん!・・じゃあ、行きましょう!・・」

・・デッキ9に上がる・・。

両開きの大きいドアが開いて、バー・ラウンジに入る。

昨日入った時に得た印象と、変わらないなと思った。

「・・何、ここ・?・・すごく楽しめそう・・」

と、エマ・ラトナー。

「・・今迄に入ったどのお店よりも気に入りそうね・・」

と、シエナ・ミュラー。

「・・あの左のカウンターがすごくお洒落ね・・ああ、これでイケメンのバーテンダーでもいるなら・・!・」

と、ハンナ・ウエアー。

「・・ハンナ・!・」

と、ハル・ハートリーが嗜めようとしたが・・。

「・良いでしょ!・そのくらい・・リアリティ・ショウならその方が絵になるわよ・!・」

「・・まあまあ・・このバー・ラウンジを現場で取り仕切るのは、厨房のファーストシェフとバーのマスターと言う事になってます・・両名とも立場としては、サブスタッフに相当すると言う事なんだけれども・・両名も含めて厨房のスタッフとバー・ラウンジのスタッフは・・人員数もともに、私には人事提案権が無いんですよ・・運営本部が決定して配置してくれると言う事なんで・・まあ好い人が来てくれるように祈るしか無いですね・・只、担当管轄部署は補給支援部になりますから、何か要望があれば補給支援部長に伝える、と言う事になりますね・・」

そこまで言うと、シエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーとエマ・ラトナーが私の前に立った。

「・・アドルさんが補給支援部長と副部長に提案したマレット・フェントンとナレン・シャンカーは、こう言う事が得意な娘です・・」

と、シエナ・ミュラー。

「・・そう・・今迄に多くはないけど、私達がグループで旅行に行くとか、レジャーに行くとか言う時に、その2人に準備を任せてトラブルになった事は、一度もありません・・」

と、ハンナ・ウエアー。

「・・アドルさん・・どうして分かったんですか・・?・・」

と、エマ・ラトナーが私の顔を見ながら真顔で訊いたので、逆に彼女の顔を観返しながら、

「・・さあ・・?・・どうして分かったんだろうね・・?・・」

と、訊き返すと彼女はハッとして赤らめた頬を両手で押さえた。

「・・まあここでなら、どんな正式な催し物から軽い飲み会まで、何でもできるでしょう・・どんな飲食も可能にすると聞かされているし・・非番の時に気軽にフラッと立ち寄れる雰囲気も出せそうだね・・それに通常直、通常配置での勤務態勢の中でなら・・どんなイベントを企画しても許可しますよ・・誰かの誕生日でも・・どんなお祝い事のパーティーでも、やってイイと思いますよ・・但し、警戒警報が鳴ったら中断して貰いますけどね・・それと、私の誕生日はやらなくて良いからね(笑)・・それと・・ちょうど思い出したんで、言って置きますね・・まだここには補給支援部長と生活環境支援部長がいないんだけれども・・ゲーム大会が始まって出港したら24時間以内に、初出航記念の艦内親睦パーティーを開催するようにとのお達しが・・既にマニュアルの中の予定表に記載されています・・ので・・副長とカウンセラーと補給支援部長と生活環境支援部長の4人を中心として、実行委員会を結成して下さい・・パーティーの企画・準備・運営・進行は、実行委員会に一任します・・但し、私のスピーチは短めでお願いしますね(笑)・・ほら、ラウンジ・フロアの奥にステージが見えるでしょ・・?・・あれも活用して下さい・・」

「・・本当に・・すごく楽しい場所になりそうですね・・」

と、シエナ・ミュラー。

「・・同感だね・・でもここに設置されているカメラの数は、通常よりも多いと思うよ・・確認した訳じゃないけどね・・」

「・・あら・・それじゃ露出は、少し控え目にした方がよろしいですわね・・?・・」

ハンナ・ウエアーがそう言って、私に向ってウインクをして見せる。

ハル・ハートリーがハンナ・ウエアーの左腕を引っ張って、私から少し離す。

「・・すみませんね・・あんなのがカウンセラーで・・・」

シエナ・ミュラーが申し訳なさそうに言う。

「・・大丈夫ですよ・・面白いじゃないですか・・旅の恥は掻き捨てですよ・・」

「・・それじゃ、そろそろ上がりましょうか・・?・・」

と、ハル・ハートリー。

「・・そうですね・・じゃあ、行きましょう・・」

「・・デッキ8・・」

「・・ここは・・?・・」

と、エマ・ラトナー。

「・・ここは、全乗員が参加できる全体会議室と、多用途・多目的保管庫のデッキです・・保管庫は、例えどの様な物でも・・安全に、適正・適切に保管・保存のできるスペースになっています・・じゃあ皆さん、ちょっと座って下さい・・」

そう言って会議室に入ると、奥の方の席に座る・・皆も私の廻りの席に腰を降ろす。

「・・シエナさん、ハルさん、ハンナさん・・ゲーム大会が開幕して全員が乗艦したら、先ずここに集めて下さい・・私から訓示とブリーフィングを行います・・内容についてはまだ固まっていないので、これから私達4人で詰めていきましょう・・」

「・・分かりました・・」

「・・了解しました・・」

「・・イエス・サー!・・」

「・・その時に話そうと思っている、今の段階での基本方針ですけれども・・出航して最初の2日間・・最初の土日ですね・・この期間内は原則として訓練に充てます・・まあ、他の艦も大概、訓練をするでしょう・・もし突っかかって来るような艦がいたとしても、遣り過してスルーする方針でいきます・・本艦としては、充分に訓練を積まない内に戦闘に臨むような事はしない、と、明言します・・そして、具体的な訓練内容とスケジュールについては、これから4人で詰めていきましょう・・まあ訓練と言っても、最初から何時間も根を詰めてはやりません・・安心して下さい・・それじゃ、次のデッキに上がりましょうか・・?・・」

そう言って立ち上がると、皆も倣って立ち上がった。

「・・デッキ7・・」

「・・アドルさん・・ここは何ですか・・?・・すごいですね、小型の宇宙船ですか・・?・・」

と、エマ・ラトナーが顔も眼も興味津々と言った様子で訊いてくる。

「・・ここはシャトルと脱出ポッドの格納庫兼発進デッキです・・シャトルは10人乗りの機体が8機・・脱出ポッドは5人乗りの機体が10機、格納されています・・ので、全乗員が搭乗できます・・シャトルパイロットは本艦のパイロットチームを中心としてその都度、臨機応変に選抜しますが・・機関部員と保安部員の全員には、シャトルコントロールのシミュレーション訓練を受けて貰います・・あくまでもシャトルとしての扱いであって戦闘艇としての扱いではないのですが・・最低限の武装はあります・・脱出ポッドの操縦はより簡単にできるので・・レクチャーシミュレーションは1.2回で良いでしょう・・エマさん・・シャトルのエアロックハッチは、後部と左右両舷にあります・・pidメディアカードをセタッチさせても、貴女のアクセス承認コードをタッチパネルで入力しても開きますから・・中に入ってコックピットを確認しておいて下さい・・リーアさんも他のシャトルに乗ってみて、確認しておいて下さい・・パワーは入っていませんが、コックピットのパネルは通電させられる筈です・・」

エマ・ラトナーとリーア・ミスタンテが手近なシャトルのエアロックハッチを開けて、中に入る。

「・・宇宙戦闘艇を積載している艦もあるんですか・・?・・」

と、ハル・ハートリー。

「・・うん・・重巡宙艦や宇宙戦艦には、戦闘機や戦闘艇を多数積載しているタイプもあるようですね・・」

「・・シミュレーションだけで、操縦できるようになれるんでしょうか・・?・・」

と、シエナ・ミュラー。

「・・うん、実際に搭乗して発進しての操縦訓練を行う必要もあるだろうね・・」

「・・シャトルに乗って、どこへ行くんですか・・?・・」

と、ハンナ・ウエアー。

「・・うん・・他の艦を訪問したり、基地に降りたり、最悪の場合、母艦からの脱出にも使います・・また、シャトルを使ってセンサーの探査範囲を拡げたり、遠隔地の偵察に出て貰うと言う事も出来るでしょう・・ああ、カリーナさんも乗ってみて、シャトルのセンサーシステムを視ておいて下さい・・」

カリーナ・ソリンスキーも別のシャトルのエアロックハッチを開けて、中に入る。

入れ替わるようにエマ・ラトナーがシャトルから降りて歩み寄って来る。

「・・アドルさん・・中を一通り観て触って来ました・・最新エレカーの運転席に似ているような所もあるけど・・格好良さでもセンスの良さでも、上ですね・・気に入りました・・扱いやすさでも、レベルは高いと思います・・」

「・・それは良かった・・シャトルについてのマニュアルも、よく読んでおいて下さい・・」

「・・はい・・それにしても、これが8機もあるのはすごいですね・・慣れてきて落ち着いたら、この8機でエア・レースと言うかスペース・レースをやってみたいですね・・」

「・・エマ・・そんな余裕も暇も無いと思うわよ・・」

と、シエナ・ミュラー。

「・・いや、レースですか・・面白いですね・・セレモニーとしてもレジャーとしても、または陽動作戦としても使える可能性は高いでしょう・・」

「・・陽動作戦・・ですか・・?・・」

と、ハル・ハートリー。

「・・そう・・スペース・レースに見せ掛けた派手な編隊飛行で敵艦の注意を惹き付け、その間に本艦は敵艦に対して優位なマウントに着ける・・こちらの先制攻撃に反応して敵艦が反撃を開始して来たら・・シャトル編隊は反転して反対側から敵艦に攻撃を仕掛ける・・理想的な挟撃作戦になるね・・」

そう説明する私の右横顔を、ハル・ハートリーはジッと見詰めている。

シエナ・ミュラーがそれに気付いて彼女の右肩にそっと左手を乗せると、我に返って視線を正面に戻す。

リーア・ミスタンテも降りて来た。

「・・機体の大きさの割には強大出力のエンジンを搭載しているようですね・・改造や武装・機器の追加がもしも可能なら、攻撃力や防御力・・機動性もアップさせられると思います・・」

「・・実は私もマニュアルを読んで知ったのですが、この機体はポッドモジュール・コンビネーション・バリエントシップと言う事で・・コックピットブロックモジュールとエンジンブロックモジュールを主軸として・・後は様々なポッドモジュールの組み合わせや組み換えで・・その都度に、必要に応じた機体の構成ができる、と言うものなんだそうです・・なので・・もしかしたら強力な宇宙戦闘機も構成できるかも知れないね・・」

そう説明する私の顔をリーア・ミスタンテもジッと観ていたが、ハンナ・ウエアーに背中を軽く叩かれて我に返った。

何時の間にかカリーナ・ソリンスキーも降りて来ている。

「・・アドルさん・・ブリッジのセンサーシステムを観てみないと分かりませんが・・多分センサーリンクを共有して連動できると思います・・」

「・・分かりました・・ブリッジに上がった時に、確認してみましょう・・」

「・・シエナさん、ハルさん、ハンナさん・・訓練スケジュールには、このシャトルの取り扱いについても含めないといけないだろうから・・考えないといけないね・・」

3人とも頷く・・。

「・・エマさん・・貴女には真っ先にシャトルコントロールに於いても、ベテランになって貰わないと困りますんで・・頼みますね・・?・・」

「・・ハイ!!・・」

「・・結構・・じゃあ、次のデッキに上がりましょう・・」

「・・デッキ6・・」

「・・さあ、パティさん・・ここが貴女のメインステージです・・正式には、天体精密測定観測室・・通り名で天体測定ラボ・・ですね・・その隣が総合精密分析室・・まあ簡単に、分析室と言いましょうか・?・貴女にはこの2つを統轄して担当して貰います・・勿論、ブリッジにも貴女の席はありますけれども、ここが貴女の主な担当部署となります・・ブリッジのセンサーシスタムで、ある現象を捉えて様々にデータを採取し、分析を加えて表示させても、その現象の詳細を直ぐには解明できなかった場合に、このラボのシステムで改めて現象を捉え直してデータを採取し直し、隣の分析室で改めて分析し直す事で、捉えた現象の詳細な解明を試行します・・ミーナン・ヘザーさんが副天体観測室長への就任を諒承して頂けるのなら2人で・・3人の観測スタッフと、2人の分析スタッフをここで率いて指揮を執って頂きます・・さあどうぞ・・中に入ってセットと機器を観て下さい・・リーアさんも一緒に入って中のシステムや機器を観て下さい・・パワーは入りませんが、パネルは通電させられる筈です・・そして、分析室の隣が士官室と言う事になっています・・」

「・・士官室・?・ですか・・?・・」

と、シエナ・ミュラーが訊く。

「・・ええ・・まあ、私達メインスタッフのミーティングやブリーフィングや休憩場所としても使えます・・」

「・・でも、ベッドも無いんですね・・?・・」

と、ハンナ・ウエアー。

「・・ハンナ・!・」

と、ハル・ハートリー。

「・・何よ!・仮眠も取れないのかと思って言っただけよ!・・」

「・・まあまあ、・・仮眠を取りたかったら、連絡して貰ったうえで個室で寝んで貰って良いですよ・・但し、警報が鳴ったら来て貰いますけれどもね・・」

パティ・シャノンとリーア・ミスタンテが部屋から出て来る。

「・・アドルさん・・取り敢えずパネルを通電させて、何がどこにあるのかは確認しました・・ちょっと扱いが難しそうな機器が多いですけれども、先ずマニュアルをよく読んで把握と理解に努めます・・出来るだけ早い段階で、扱いを覚えて使いこなせる様になりますので、任せて下さい・・今日は見せて頂いてありがとうございました・・」

「・・何・・これからゲーム大会の開幕までには色々なセレモニーとか、様々に企画された集まりとか、面談もまだまだありますから・・後2回くらいはここに来られると思いますよ・・なので、取り敢えずマニュアルをよく読み込んで貰いながら・・ここに来た時に、また確認してみて下さい・・」

「・・分かりました・・」

「・・シエナさん・・確かにこの休憩室はちょっと殺風景ですから・・今から要望をまとめ始めて、プロデューサーに伝えていきましょう・・」

「・・分かりました・・そうしていきましょう・・」

「・・それじゃあ、次のデッキに上がりましょう・・」

「・・はい・・」

「・・デッキ5・・」

「・・アドル・エルクさんを含めまして、昨日おいでになられた方にはご説明申し上げたのですが、ここが医療室と入院病棟のデッキです・・医療部長とスタッフドクターと看護師長と看護師は、運営本部が任命して配属されます・・医療部長はメインスタッフに相当します・・スタッフドクターと看護師長は、サブスタッフに相当します・・医療部長にのみ、健康・医療上・精神衛生上の理由で艦長を罷免できる権限が与えられています・・」

と、マルセル・ラッチェンスが概要を説明する。

「・・スタッフドクターは何科の方ですか・・?・・」

と、シエナ・ミュラーが訊く。

「・・外科と循環器内科と消化器内科と形成外科ですね・・看護師長は1人、看護師は7人配属されます・・」

「・・メインスタッフは安全プロトコルを閲覧できるのですか・・?・・」

と、ハル・ハートリーが訊く。

「・・はい・・メインスタッフに付与されているアクセスコードでなら、安全プロトコルは閲覧できます・・が、改変はできません・・」

「・・昨日、貴方は例え何があってもクルーが骨折や重い火傷を負うような事にはならない、と言いましたが、今でもそれは断言できますか・・?・・」

「・・断言できます・・もしもそのような事になれば、その時点でゲームの全体が即座に停止され、そのまま強制的に終了されます・・それこそが、私達が第一優先で厳守しなければならない、安全プロトコルなのです・・」

「・・分かりました・・信じましょう・・それで医療部スタッフの配属が確定するのは、いつ頃ですか・・?・・」

「・・遅くとも、開幕の10日前までには確定する筈です・・」

「・・そうですか・・では確定次第、面談できるように手配をお願いします・・」

「・・分かりました・・確実に面談できるように、手配します・・」

「・・骨折や重い火傷を負わせるような事は無いと言うのに、入院病棟があるのはなぜです・・?・・」

と、ハンナ・ウエアーが訊く。

「・・消化器系の内科に於いても循環器系の内科に於いても・・またはそれぞれの外科に於いても・・入院加療が必要な急病の発症に対処しなければならない可能性に配慮しての措置です・・」

「・・分かりました・・」

「・・医療部スタッフは、男性になるのですか・・?・・」

と、エマ・ラトナーが訊く。

「・・ドクターチームは男性で・・看護スタッフは女性になると思われます・・」

「・・定期的な健康診断も、やって頂けるのでしょうか・・?・・」

と、ハル・ハートリーが訊く。

「・・お望みでしたら、充分に対応できる可能性はあるでしょう・・」

「・・こちらとしても、スムーズに受け身の採れる練習とか・・耐ショック、耐振動防御姿勢の習得が必要だろうね・・」

と、その場にいるメインスタッフの顔を見渡しながら言う。

「・・それじゃあ、そろそろ上がりましょうか・・?・・」

と、シエナ・ミュラーが言い、皆がそれを受けて頷く。

「・・デッキ4・・」

「・・さあ、リーアさん、ここがエンジニアリング・ルームです・・メインリアクターのセットが大きいので、3階分吹き抜け相当の広さになっています・・リアクターを整備する必要から上にはキャットウォークが張り巡らされていますが・・警戒態勢に入ったら、キャットウォークへの立ち入りは禁止されます・・艦内に機関部長の席はブリッジに2つと、ここにもあります・・それだけ機関部長とは、重要なポストであると言う事です・・更に言えば、ブリッジよりここの方が重要なんですよ、リーアさん・・ブリッジが壊滅してもここが活きていれば艦は何とか動かせますが、ここが壊滅したらブリッジが活きていても艦はもう動かせません・・戦闘中なら敗北と言う事です・・まあ今日からマニュアルの読み込みに入って下さい・・読んで憶えて置いて貰う事が沢山ありますのでね・・ロリーナ・マッケニットさんが副機関部長に就任して頂ける事になりましたら・・お二人の下には、二名の主任機関士と七名の機関部員を配属させます・・具体的な人事配置案については、メインスタッフとサブスタッフが全員揃った時に発表します・・さあ、リーアさん・・セットの機器を観て、触って視て下さい・・」

リーア・ミスタンテは先ずエンジンルームの中を見渡して機器の位置を確認すると、1つずつ通電させてパネル動作の確認を始める・・パティ・シャノン、エマ・ラトナー、カリーナ・ソリンスキーも彼女に続いてタッチパネルの動作環境を確認し始める。

私の右にシエナ・ミュラー、左にハンナ・ウエアーが立っている・・リサ・ミルズ女史はハンナ・ウエアーの左側に立っている。

「・・シエナさん・・最悪の場合、ここからでも指揮は執れますけど・・大分キツいですね・・シートの数は足りないし、モニターも使いづらいし・・でも、出来ると言う事は承知して置きましょう・・」

シエナ・ミュラーは頷いたが声にしたのは別の質問だった。

「・・アドルさん・・保安部の編成はどのように考えておられるのですか・・?・・」

「・・保安部長と副保安部長以下、保安部員7名での編成を考えています・・が、具体的な人事配置案を今発表してくれって言うのは勘弁して下さいね・・まだ早いですから・・」

「・・分かりました・・」

暫くして4人が機関室から出て来た。

「・・アドルさん・・機器の配置とそれぞれの基本的動作確認・・基本性能の検証と確認まで終えました・・これからはマニュアルの精読と共に、更なる検証と確認を進めます・・」

「・・宜しくお願いしますね・・それでは、次の第3デッキ・・メインブリッジに上がりましょう・・」

「・・デッキ3・・」

「・・ここがメインブリッジ・・」

と、シエナ・ミュラーが言いながら見廻す。

「・・凄い・・」

と、エマ・ラトナーが感歎する。

「・・何と言ったら良いのか・・この感覚は・・?・・」

と、ハル・ハートリーが戸惑う。

「・・卵の中・・卵の殻の内側に入ったみたい・・でしょ・・?・・」

そう言って私は歩みを進め、メインビューワを眼の前にする所で足を止めると、振り返って軽く両手を拡げた。

「・・ようこそ、『ディファイアント』へ・!・・ここがメインブリッジです・・」

そう呼び掛けて、その場の全員に対して歓迎の意向を表明する。

「・・エマ・ラトナーさん・!・」   

「・・はい!・・」

「・・こちらの・・メインパイロットシートにどうぞ・!・」

「・・は、はい!・ありがとうございます・!・」

招かれて歩み寄ったエマ・ラトナーが、示されたメインパイロットシートに座る。

「・・凄いですね・・こんな素晴らしい席に座れるなんて、感激です・!・」

「・・シートの座り心地を観て下さいね・・そうしたら通電させて、タッチパネルの動作確認をしてみて下さい・・その両脇の席がサブパイロットシートです・・」

「・・分かりました・!・ありがとうございます・!・」

「・・シエナさん・・そちらへどうぞ・・副長の席ですよ・・座ってみて下さい・・」

私は歩みを戻しながらシエナ・ミュラーに声を掛け、副長のシートを指し示す。

「・・あ、はい・・分かりました・・失礼します・・」

「・・貴女が座っている間に貴女の体型データを取得して、開幕までには貴女にピッタリのシートを造ってくれますよ・・そうですよね・!?・・」

私の問い掛けにアランシス・カーサーが左手でサムズアップをキメて見せた。

シエナ・ミュラーが滑り込むようにして副長席に座ると、アランシス・カーサーに指示されたスタッフが、副長席シートの背凭れのポケットに起動させた携帯端末を滑り込ませる。

「・・ハンナさん・・カウンセラーの席は、副長席の左隣です・・座ってみて下さい・・」

「・・分かりました・・失礼します・・」

ハンナ・ウエアーが、シートの感触を確かめながら手許の機器を通電させて動作確認をしているシエナ・ミュラーの左隣のシートに座る。

「・・どう・?・座り心地は・・?・・」

と、ハンナ・ウエアーが訊く。

「・・良いわね・・ちゃんと座っておきなさいよ・・身体データを採取してるからね・・」

「・・シエナは良いわよね・・アドルさんの隣だから・・」

「・・副長なんだから、当然でしょ・・?・・」

「・・ハンナさん・・貴女の席の左側のアームレストのカバーを外して視て下さい・・中にヘッドセット・サイコロジカル・スカウターが入っていますので・・頭に装着して着け心地の確認と、各種の初期設定を開始して下さい・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・」

そう言いながら私の眼と顔を、ほんの少し睨むように見遣って、左側アームレストのカバーを外す。

「・・ハルさん・・作戦参謀の席は私の席の右隣です・・座ってみて下さい・・その右隣の席が、参謀補佐の席です・・」

「・・分かりました・・失礼します・・」

「・・副長席と作戦参謀の席の前にある端末の性能は同じですが、入っているアプリに差異があります・・動作確認と初期設定を始めて下さい・・」

「・・リーアさん・・メインブリッジでの貴女の席はそちらです・・座ってみて、シートの具合とタッチパネルの動作確認をしてみて下さい・・」

そう言ってブリッジ左側後部の席を指し示す。

「・・分かりました・・ありがとうございます・・失礼します・・」

「・・パティさん・・貴女の席は右側後方のそちらです・・同じように座ってみて、シートの具合とタッチパネルの動作確認をしてみて下さい・・」

「・・分かりました・・ありがとうございます・・失礼します・・」

「・・さあカリーナさん・・貴女の席はそこです・・上に吊られている3席の・・中央の席が貴女の席です・・両脇の席は貴女のサブポストの席です・・貴女も同じように座ってみて、シートの具合とタッチパネルの動作確認をしてみて下さい・・え~と・・ここを外すとタラップが伸びますから・・」

そう言って左手の人差し指で上を指し示してから、席の底に設置されている昇降用タラップのロックを外して伸ばしてあげ、彼女の左手を取って掴らせてあげる。

「・・分かりました・・ありがとうございます・・失礼します・・」

「・・リサさんも上の席に座って視て下さい・・良い機会ですから・・」

そう言って彼女の右手を取って、タラップに掴らせてあげた。

「・・身体データは採取中ですね・・?・・」

「・・はい、順調です・・あと30秒ほどで終わります・・アドルさんも座って下さい・・誤差を修正しますよ・・」

そう言ってアランシス・カーサーが笑顔を見せる。

私もコートを掛けて、艦長席に座った。

昨日座った時の感触に比べると、馴染み易さの度合いが上がっているようだ。

左側を向いてシエナ・ミュラーを見遣る。

彼女も気付いて私と顔を見合わせる。

私が笑顔を見せると頬を染めて眼を伏せ、確認作業に戻ろうとする。

「・・どうですか・?・座り心地は・・?・・」

「・・良いですね・・とても座りやすいです・・」

「・・急がなくても良いですから・・落ち着いてね・・」

そう言いながら左手を彼女の右腕に添える。

「・・あ、・はい、・・ありがとうございます・・大丈夫です・・」

ますます顔に赤味が差した。

右側も向いてハル・ハートリーを見遣ると、彼女はもう私を見ていた。

「・・大丈夫です・・順調です・・ご心配なく・・」

「・・ああ、そうですか・・よろしくお願いします・・」

「・・アドルさん・・?・・」
(かなりの小声で)

「・・はい・・?・・」

(小声で)「・・あまり思わせ振りな態度を取らないようにお願いします・・皆、もうかなり感情的になっていますから・・」

「・そうですか・・分かりました・注意します・・ご指摘をありがとうございます・・」

「・・ありがとうございます・・」

「・・アドルさん・・全員の身体データの採取が終りました・・」

「・・そうですか・・了解しました・・それでは、皆さん・・まだ見せたい所がありますので・・ちょっと中断して後ろに来て下さい・・」

そう言うと立ち上り、皆をブリッジの後部に促す。

昨日も案内されて見せられた、ブリッジ後部の右側から入る、機関部の集中遠隔制御室だ。

「・・リーアさん・・ここを扱えるのは機関部長と副機関部長だけです・・例えエンジンルームに誰も居なくても・・ここからなら機関部の集中遠隔制御が可能です・・機関部長と副機関部長にとっては、ここが本当の持ち場である、とも言えるでしょう・・ここもよく観て頂いて・・確認作業に入って下さい・・ではここは暫くリーアさんに任せますので・・他の皆さんには艦長の控室と副長の控室を観て頂きます・・こちらです・・」

そう言って、ブリッジ右側前部のドアから入って、艦長控室に案内した。

「・・控室と言う割には・・広くて豪華な印象を受けますね・・」

と、ハル・ハートリー。

「・・このミーティングデスクとソファーセットなら、ブリッジスタッフの全員が座れますね・・」

と、エマ・ラトナー。

「・・飲み物は、何でも出せるみたいだね・・」

と、ハンナ・ウエアー。

「・・これは、水槽ですか・・?・・」

と、シエナ・ミュラー。

「・・うん・・観賞魚も容れられるものとして、造ったと聴いたけどね・・まだどうするかは決めてないですね・・それにここは控室であって個室ではないので、カメラは設置されています・・それでは、反対側の副長控室も観ましょう・・」

副長の控室はブリッジを挟んで正反対の位置にある。

「・・艦長の控室と変わらないね・・」

と、エマ・ラトナー。

「・・水槽は無いんだね・・代わりに空間が空いてる・・」

と、ハンナ・ウエアー。

「・・飾り付け次第で、彼女らしさは出せるわね・・」

と、ハル・ハートリー。

「・・これでメインブリッジは観て貰いましたので・・次のバトルブリッジに上がりましょう・・」

「・・デッキ2・・」

「・・ここがバトルブリッジですね・・戦闘等によって深刻な被害を被り、メインブリッジが使用不能になった場合とか、戦闘目的の為にのみ使用すると言う設定でのブリッジです・・メインスタッフ全員の席はありますが、サブスタッフの席はありません・・パネルもよりコンパクトにまとめられています・・ブリッジスケールも60%程になっています・・控室もありません・・機能的には制限されていますが、戦闘集中制御には特化していると聴かされました・・ここは普段は封じていますので・・まあ今は、観ておくだけでも良いでしょう・・」

「・・さすがに狭くて、殺風景ですね・・」

と、ハンナ・ウエアー。

「・・まあ、用途が用途なだけに、仕方ないですかね・・」と、エマ・ラトナー。

「・・でも、強さは感じますね・・」

と、パティ・シャノン。

ここで、マルセル・ラッチェンスが進み出る。

「・・皆さん、どうもお疲れ様でした・・撮影セットとしましては、デッキ2まで・・ここまでです・・デッキ1もありますが・・そこはスタッフオンリーです・・口頭で説明させて頂きますが・・全セットに配置されています、リモートコントロールカメラの集中遠隔管理制御システムと・・撮影画像、動画の一次編集システムと・・スタッフの仮眠室と休憩室があります・・雑駁なものではありましたが、撮影セットの見学と説明については以上です・・繰り返しの注意喚起で申し訳ありませんが、ゲームルールと各種の性能諸元・・使用と操作方法の詳細については、マニュアルをよく精読して下さい・・何か、ご質問はありますでしょうか・・?・・」

と、締め括った。

「・・また、このセットを見学できますでしょうか・・?・・」

と、リーア・ミスタンテが訊く。

「・・まだゲーム大会の開幕までには、大きいイベントやら記者会見などが複数予定されておりますので・・おいでになって頂ければ、空き時間・待機時間などを利用されての見学は可能であろうかと思います・・」

「・・分かりました・・」

「・・それじゃあ皆さん、1階に戻りましょう・・シエナさん・・戻りましたらマスターに通話を入れて、ピクニックランチのテリバリーを頼んで下さい・・」

「・・分かりました・・」
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