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『まさか…当選!? 』
シエナ・ミュラーとハル・ハートリー
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そう言って撮影の前に外したネクタイを渡してくれる。
控室の中で一服喫い終わり、ネクタイを締め直して90秒ほどでノックが響く。
少しだけ開けたドアの隙間から、綺麗に整えられた上着の上下が差し入れられる。
凄いなと思いながら受け取り、着込んで観れる範囲でチェックする。
今朝着た時よりも良い感じになっている。
控室を後にしてリサ・ミルズと一緒にロビーに出ると、アランシス・カーサーが待っていた。
「…ああ、キマってますね…今からシエナ・ミュラーさんがお待ちになっている応接室にご案内しますが…アドルさんは、彼女を副長として希望されているんですね? 」
「…はい、そうです…」
「…分かりました…彼女が副長への就任を承認しましたらお知らせ下さい…こちらから副長専用の携帯端末・pad・IDメディアカードを貸与して副長としての概要を説明します…」
「…承知しました…確認しますが、彼女の後でハル・ハートリーさんと面談できるんですね? 」
「…ええ、今から1時間後ぐらいに来られる予定になっています…」
「…分かりました…では、シエナ・ミュラーさんが副長への就任を承知して下さった場合、その時点を以て私と彼女とで『ディファイアント』の司令部と言う事になりますので、ハル・ハートリーさんとの面談では、彼女にも同席して貰います…」
「…分かりました…それでは、我々から彼女への概要説明は、その後で行いましょう…」
「…ありがとうございます…よろしくお願いします…」
「…では、ご案内します…こちらへどうぞ…」
アランシス・カーサーに案内されて、3階の少し豪華な応接室に通される。
中に入ると高そうな応接ソファーセットの、向こう側の席に2人の女性がこちらを向いて座っていたが、私達を観ると立ち上がって会釈した。
「…ご紹介します…シエナ・ミュラーさんと、マネージャーの方です…」
シエナ・ミュラーさんは向かって右側の人だと判る…37才…データの画像で観た時にはそれ程に感じなかったが、一見しての印象では32.3と言ったところだろうか。
マネージャーの方は、細くて丸い金属フレームの眼鏡を掛けた50代半ばに観える女性だ。
赤と白とオレンジとピンクの毛糸で編み込まれたモヘア・ウールのニットベレー。
髪の色はラベンダー・パープルで、髪型は多分フェミニンセミディ。
ベレーを脱がないから、はっきりとは分からない。私が178だから、175かな?
虹彩の色はライトグリーン…女性でこの色を観たのは確か4人目だ…クリーミィなライトピンクのルージュが彼女を若く観せているようだ。
「…初めまして…こんにちは。今回艦長に選ばれましたアドル・エルクです…今日はこちらの面談要請に応じて頂きまして、ありがとうございます…私の事はアドルと呼んで下さい…それではどうぞ、お座り下さい」
そう言って握手を交わし、席へと促す。
「…こんにちは…初めまして。シエナ・ミュラーです…どうぞ、シエナと呼んで下さい…彼女は私のマネージャーです」
お互いにソファーに座り、先ず4人でメディアカードを交換し合う。
「…こちらはリサ・ミルズさんと言いまして、私が勤めています会社からの要請により、今回の期間中だけ就任して貰っています、私の専任秘書です…」
「…リサ・ミルズと言います…どうぞ、リサと呼んで下さい…よろしくお願い致します」
シエナ・ミュラーとマネージャーが改めて会釈する。
「…改めまして今回のゲーム大会にご参加頂けると言う事で、ありがとうございます…私が指揮を執る事になります、艦に搭乗して頂けると言う事でよろしいでしょうか? 」
「…はい、アドル・エルクさんの艦で、お世話になりたいと思います…」
「…分かりました。ありがとうございます。実はシエナさんとの面談は、最初に行いたいと希望しました…と言いますのは、私が指揮する艦の最も重要なポストに就いて頂きたいと考えているからです…」
「…それはどんなものでしょう? 」
「副長です。シエナさんには副長として私を補佐して頂くと同時に、私と共に艦の指揮に携わって頂きたいと考えています…」
私がそう言い終ると彼女はニットベレーを頭から外した…ほんの少しウェーブの掛かったラベンダーパープルのフェミニンセミディが拡がる。
「…すみません。被ったままで失礼しました…そこまで仰って頂けるのですから、アドルさんは私の事を色々と調べられた上で、お話をされていると思いますので…勿論経験はありませんけれども、微力ながらお手伝いをさせて頂ければと思います…何も分かりませんので、手取り足取りで宜しくお願い致します…」
「…シエナさん。承認して頂きまして、有り難うございます…本当に感謝します。私が運営本部から貰ったクルー候補者名簿の中で、勿論色々と調べさせて頂いて検討を重ねましたけれども…副長を任せられると思ったのは貴女だけでした…私も艦長をやるのは初めてですから…2人で一緒にどんと構えてやりましょう。私達が2人共オロオロしていたら、他のクルーはもっと不安になりますからね…当面は、私の言動をよく観て頂きたいと思います…こちらこそ、宜しくお願いします…」
そう言い終ると、座ったままだったが私から右手を差し出して握手を交わす。
「…総てお任せしますので、宜しくお願い致します…」
「…ありがとうございます。シエナさん…私が指揮する艦は軽巡宙艦としています…艦名は『ディファイアント』と決めました。そしてシエナさん…現時点を以てここに、略式ではありますが私と貴女の2人で、『ディファイアント』の司令部が構成され成立しました。ここまで、よろしいでしょうか? 」
「…はい。分かります…」
「ありがとうございます。副長の人事は艦長の専任事項ですので、私が決めました。ですがこれからの人事決定は、司令部承認の許に進めるべきですし…そうしていきたいと考えています。ご了承、頂けますか? 」
「…はい。了承します…」
「ありがとうございます。実はこの後、40分程でハル・ハートリーさんがこちらにお見えになるのですが、彼女の事はご存知ですか? 」
「…ハル・ハートリーさんですか…個人的な知り合いでもあります…ネットワークドラマで3作品…映画では2作品に一緒に参加して共演しました…最近ではお互いに忙しくて、個人的にはあまり会えていませんが…」
「…そのハル・ハートリーさんとの面談も、運営本部には希望していました。彼女が『ディファイアント』への乗艦を了承して頂けるのなら、ディファイアントの司令部として彼女には作戦参謀への就任を要請しようと考えています。ですので、副長も面談の際には同席して下さい…よろしいですか? 」
「…分かりました。同席させて頂きます…」
「…ありがとうございます。感謝します。それでは…ハートリーさんがお見えになるまでまだ時間がありますので、それまで私達を引き合わせて下さった運営本部のアランシス・カーサー氏に、副長についてのブリーフィングと様々なレクチャーをお願いしましょう…」
そう言うと私は携帯端末を取り出すとアランシス・カーサーと通話を繋ぎ、面談が終わった事を告げたうえで、ハル・ハートリーさんが見えられるまで時間があるので、来られるまでに副長についてのレクチャーとブリーフィングを終えて欲しいと伝える。
2分も掛らずに彼は応接室に姿を現し、別室で説明しますのでおいで下さいと伝えてシエナさんとマネージャーを促がすと、3人で応接室から出て行った。
入れ替わりに女性スタッフが入って来て、コーヒーと紅茶と苺のショートケーキを置いて行った。
コーヒーは、あまり好みではない豆のものだったが仕方ない。
その場合は甘味を控えて飲み、好みでない味だと言う事を改めて意識する。
リサ・ミルズは紅茶に手を付けようとしない。
「…今日はハーブティーを持って来なかった? 」
「…ええ、荷物になると思ったものですから…」
「…シエナ・ミュラーさんを観て、どう思った? 」
「…良い人だと思います。思慮深くて、良い指導力を持っているようにも感じます。副長として自信を付ければ、強い統率力を発揮されるだろうと思います…」
「…うん、僕もそう思いますよ…」
「…今日、アドルさんのお話を聴いていて判りました…」
「…何が判ったの? 」
「…私がアドルさんへの気持ちに気付いた時に、どうして?って思ったんです…失礼ですけど、アドルさんは一見して美男子と言う訳じゃないし結婚もされているし、不思議だったんですけれどもアドルさんの話を聴いたり、仕事振りを観ていたり、話し合ったりしていく内にどんどん惹かれていったんだなって…判りました…」
私は敢えて返答しなかった…今ここで返答したりすると妙な方向に進む…こんな話をしていて良い場所でも時でもない…あまり旨くないコーヒーを飲んで、褒め言葉と思って置こうか。
「すみませんでした」
暫くしてそれだけ言うと、リサ・ミルズはケーキを食べ始める。
それを横目で観て口許を緩める…ショートケーキの苺を取って頬張り、灰皿を取って窓辺に立ち、半分ほど窓を開けて一服点ける。
喫い終ると灰皿は離れた場所に置き、戻って同じ場所に座る。
「…こう言う考えはどうかな? 私は、他の19人の艦長が率いる艦とは可能な限り戦わない…止むを得ず戦わなければならない場合や状況に於いても、深傷を負わせるような攻撃はしない…この20人は言わば同期の仲間だ…出来れば最終局面まで、可能なら全員で生き延びて残りたい…他に戦う相手が沢山いるならその間は、彼らに出遭っても可能な限りやり合わないで済ませるようにしたい…その方がリアリティショウとしても盛り上がるだろ? 」
「…そう言うお話をされるからですよ…」
リサ・ミルズがやや上目遣いの流し目で言う。
「…当面は出来るだけ被害を受けないように戦い抜きながら、貰える経験値で艦を強化していくって事だろうな…それでゆくゆくは重巡宙艦ともやり合えるようになれれば良いがね…」
「…アドルさん…もしもこれがリアリティゲームショウでなくて…普通にアドルさんがこのゲーム大会に艦長として応募して…当選していたとしたら、乗員メンバーはどう決めました? 」
「…そう…だね…やはり、知り合いの中から選んで…話をして了承して貰って…協力して貰う、と言う事になるんだろうね…でも…」
「…でも? 」
「…そういう形で参加する事になったのだとしたら…ゲーム大会自体は注目されるだろうけれども、私自身がここまで注目されて報道されるような事は無かっただろうから、君と知り合う事も無かったかも知れないね…」
「…いいえ。知り合ってはいませんでしたでしょうけれども、アドルさんがクルーメンバーを探していると言う話は聴こえて来たでしょうから、私は立候補するでしょうね…」
「…そう。それはどうもありがとう。とても心強いね。それで、希望は副長(笑)? 」
「…いいえ、ブリッジで一緒に居られるのならポストはどこでも良いですよ(笑)」
おおっと…訊き過ぎたな…ブレーキ、ブレーキ。
「…でも、それならそっちの方が気楽で良いかも知れないね…最初から気心の知れた仲間たちで参加できれば…遠慮もいらないし…楽しくやれるだろうな…」
言いながら思い切り背を凭せ掛けて、天井を見上げる。
思い切り伸びて座り直した時に、ドアがノックされてアランシス・カーサーが副長とマネージャーを連れて戻って来た。
「…お待たせしました。ご協力、ありがとうございました…」
そう言って副長とマネージャーを元いた席に促して座らせる。
「…レクチャーとかブリーフィングは、終りました? 」
「…おかげ様で、終わりました…」
「…ご苦労様でした。ハル・ハートリーさんがお見えになるまで、後どのくらいでしょうかね? 」
「…そうですね。予定されている時刻までは10分少々ですね…」
「…分りました。それでは来られましたら、この応接室にお入り頂くようにお願いします…」
「…分りました。お見えになりましたら、こちらにお通ししますが…アドルさんは、ハル・ハートリーさんに作戦参謀への就任を希望されているんでしたね? 」
「…はい…その予定と言うか、そのつもりでいます…」
「…分りました。それでは、作戦参謀への就任を承認して頂けましたら、また私に連絡を下さい…ハル・ハートリーさんに作戦参謀についての概要を説明しますので…」
「…分りました。連絡します…シエナさん…副長専用の携帯端末とpadとIDメディアカードは貰いました? 」
アランシス・カーサーが応接室から退室したので、シエナ副長に水を向けてみる。
「…はい。頂きました…」
「…じゃあ、開幕までに中身を精読しておいて下さい。それと、副長のアクセス承認コードは伝えられましたか? 」
「…承知しました。はい、教えて頂きました…」
「…アクセス承認コードは暗唱しておいて下さい…副長の権限でシステムプログラムの改変を行う場合、コンピューターから音声での入力を求められますから…」
「分りました」
「…それでは、申し訳ありませんがちょっと失礼させて頂きまして、暫く席を外します…早目に戻ります…」
「…あっ、私も色々と確認の連絡がありますので、暫く失礼します…」
私とシエナさんのマネージャーが席を立ち、応接室から退室する。
私は右手を軽く挙げてマネージャーさんに挨拶すると、お手洗いに向かった。
彼女は私に会釈してメモ帳と携帯端末を取り出すと、反対方向に歩き始めながら通話を繋いだ。
私が戻るまでの間に応接室の中でどのような会話があったのか、ずっと後になって知った。
「…リサ…ミルズさんでしたね? アドルさんとは同じ職場にいらっしゃるんですか? 」
「…はい、今は同じ職場で一緒に働いています…」
「…アドルさんは会社の中で、篤く信頼されているのではありませんか? 」
「…はい…信頼も篤いですし、すごく頼りにもされています…そして、その事を皆知っています…」
「…リサさんは…アドルさんの事が好きなんですね? 」
「…はい…好きです…でもこれは私の勝手な想いであって、アドルさんにも言いましたが…彼を動揺させるような事は、絶対にしません…ですから…」
「…大丈夫ですよ…誰にも言いません…でもこれは、私の副長としての初めての要請と言いますか、お願いになると思いますが…リサさんにはその姿勢を是非とも最後まで貫いて頂きたいと思います…」
「…ご忠告には感謝します…勿論、承知しています…ご指摘は私の自戒として強く銘じて参りたいと考えています…」
「…解ってくれてどうもありがとう…リサさん…それにしても、アドルさんって不思議な方ですね…一見しただけでは彼が秘めている魅力に気付けない…話を聴いたり受け答えをしている間に、いつの間にか惹き込まれている…芸能界では珍しいタイプですね…」
「…私はシエナさんに驚いています…」
「…どうして? 」
「…今日初めてアドルさんに会ったのに、そこまで解るなんてすごいです…」
「…まあ、演技して見せるのと、人の演技を観る仕事を長年やっていますからね…」
「…芸能界では、珍しいタイプなんですね? 」
「…そうね…あまりいないわね…と言うのも、アドルさんのようなタイプの人は、自己顕示性が低いと見做されて、あまり取り立てられないと言うか、抜擢はされないでしょうからね…」
「…それで…心配している事があるんです…」
「…他のクルーメンバーとこれから一緒にやっていく中で、クルーの中の誰かがアドルさんに惚れないか…ね? 」
「…はい…」
「…そうねえ…皆、プロだから色恋にすぐ溺れるような人はいないと思うけど…私達の艦が勝ち進んで行くなら、その可能性は高まっていくでしょうね…それに、そう言う事を露骨に期待させて観せようとするのも、リアリティ・ライブショウの演出でしょうからね…その点の事を彼には話しました? 」
「…いいえ、まだ話してはいません…」
「…それじゃ、まず貴女からはアドルさんにこの話をして、注意を喚起するようにお願いできる? 私はゲームが始まったら、他のクルーに注意を払うようにしますから…」
「…分かりました…話してみますので、シエナさんの方もよろしくお願いします…」
「…了解したわ…」
そこでお手洗いから戻って来た私がドアをノックし、聴こえて来たリサ・ミルズの返答を受けて入室する。
「…お待たせしました…マネージャーの方は、まだ戻られませんか? 」
「…お帰りなさい…彼女は一度連絡や確認の作業に入りましたら、なかなか終わりませんので気にしなくても大丈夫です…」
「…そうですか…ハル・ハートリーさんは、まだお見えになりませんね…それでは、私がシエナさんの隣に座ってもよろしいですか? リサさんは、こちらの1人用の席に座って下さい…」
「…はい、大丈夫ですが…」
そう返答を貰ったので私はシエナ副長の隣に座る…リサ・ミルズは私の右手側の一人用の席に座る。
「…これでハル・ハートリーさんには、向かいの席に座って頂けますからね…」
そう言い終ってから20秒ほどして私の携帯端末に通話が繋がる…アランシス・カーサーからだったので、スピーカーモードにしてテーブルの上に置く。
「…はい、アドルです…」
「…どうも、お待たせを致しました…只今、ハル・ハートリーさんがお見えになりましたので、そちらにお通し致しますが大丈夫でしょうか? 」
「…はい、大丈夫ですよ。お待ちしております…」
「…分りました、それではお連れ致します…お飲み物とかは如何ですか? 」
「…私はマンデリンをブラックでお願いします…」
そう言ってシエナ副長の顔を訊ねるように観る。
「…じゃあ、ミルクティーをお願いします…」
続けてリサ・ミルズを見遣る。
「…私はロシアン・ティーで、お願いします…」
「…分りました。それでは、ご案内します…」
それから120秒後ぐらいでドアがノックされた。
私が返答するとアランシス・カーサーが開けて、ハル・ハートリーさんを招き入れる。
ハル・ハートリー、35才、髪は暗褐色でライトウェーブのフラッフィボブ。
身長は副長より3.4cm低いぐらいか…既婚で一男一女あり。
ライトカーキのドレープトレンチコートを着込み、レッドアンドネイビーの大判ストールを首・肩・胸まで被うようにゆったりと巻いている…眼の虹彩の色はダークブルー。
ライトカーマインのルージュが、精神力の強さを顕しているようだ。
「…お待たせ致しました…こちらが、ハル・ハートリーさんです…」
「…初めまして、こんにちは、今回艦長に選ばれましたアドル・エルクです…今日はこちらの面談要請に応じて頂きまして、ありがとうございます…私の事はアドルと呼んで下さい…それではどうぞ、お座り下さい…」
そう言って握手を交わし、席へと促す。
「…こんにちは、初めまして、ハル・ハートリーです。どうぞ、宜しくお願い致します」
「…こちらはリサ・ミルズさんと言いまして、私が勤めています会社からの要請により、今回の期間中だけ就任して貰っています、私の専任秘書です…」
「…リサ・ミルズと言います…どうぞ、リサと呼んで下さい…よろしくお願い致します…」
「…初めまして、ハル・ハートリーです。どうぞ、宜しくお願い致します…」
リサと私が彼女に自分のメディアカードを渡し、彼女からも受け取った。
シエナ・ミュラーと彼女が、お互いに会釈を交わし合う。
「…ご存知かと思いますが、こちらはシエナ・ミュラーさんです…」
「…ええ、存じています・・何度かお仕事をご一緒にさせて頂きました…」
「…ええ…お久し振りね、ハル…」
そこでドアがノックされて、飲み物が差し入れられる。
「…ああ、飲み物が来ましたね…一息入れましょう…おや…ハートリーさんはハーブティーがお好みですか? 実はリサ・ミルズさんも、ハーブティーマニアでしてね…」
「…いいえ…私の場合は母がマニアで、毎朝その日のお昼に飲めるように、オリジナルブレンドのハーブティーを持たされるんです…」
「…お優しいお母様なんですね…それにしても、毎日オリジナルブレンドのハーブティーを淹れていらっしゃるなんて、すごいですね…」
「…ありがとうございます…素敵な香りですね…ローズヒップにペパーミントにタイム…それにこれは、カモミール? 」
「…ラベンダーです…貴女の嗅覚もお母様譲りで、相当にすごいですよ…」
「…ありがとうございます…今日はマネージャーの方とご一緒ではないのですか? 」
「…私がマネージャーと一緒に聞くのは、新しい仕事のオファーのお話と、新しい仕事の契約のお話と決めておりますので…」
「…ハル・ハートリーさん…それは、今回のゲーム大会にご参加頂けると言う事と、私が指揮を執る事になります艦に、乗艦して頂けると言う事で宜しいのでしょうか? 」
「…はい…私も、アドル・エルクさんの艦で…お世話になりたいと思います…」
「…分かりました…ご了承を頂きまして、本当にありがとうございます…これからよろしくお願い致します…実はシエナ・ミュラーさんも乗艦して頂けると言う事でご了承を頂きまして、副長にも就任して頂きました…」
これには少し驚きの色を見せた。
「…そうだったんですか…でもシエナさんが副長でしたら、私は適任だと思います…」
「…ありがとうございます…ハートリーさんにそう言って頂けると、心強く自信が持てます…」
「…恐縮です…それで私には、どのような職務を用意されているのですか? 」
「…作戦参謀です…ハートリーさんには是非、ハル参謀としてシエナ副長と共に私の作戦指揮と操艦指示を補佐して頂き、艦の司令部を支えて頂きたいと考えています…」
「…私に、その作戦参謀が務まると思われますか? 」
「…ハル…アドルさんは私達の事を調べ尽くして、面談を希望されて私達を呼んで下さって…ポストを提示されたわ…それは、私達なら出来ると確信して話されていると思うのよ…私だって副長はやった事も無いけど、アドルさんが言われるなら、アドルさんと一緒なら、やれるんじゃないかと思って受けたわ…そして今は、貴女と一緒ならもっと善く出来ると思っているわ。一緒にやってくれない? 」
「…分かりました…私でよろしければ…お受けします…改めて、宜しくお願いします…何も知りませんし、分かりませんが…手取り足取りで教えて下さい…」
「…ハル・ハートリーさん…本当にありがとうございます…深く感謝します…実際の経験は私もありませんので…一緒に学びながら経験を積んでいきましょう…有難うございます…」
そう言って右手を差し出した私に応じて、彼女も右手を差し出して握手を交わす…私は、ここで初めて司令部の確実な誕生を感じた。
「…ハル・ハートリーさん…私が運営本部から貰ったクルー候補者名簿の中で、勿論色々と調べさせて頂いて検討を重ねましたけれども…作戦参謀を任せられると思ったのは貴女だけでした…私も艦長をやるのは初めてですから…この3人で一緒にどんと構えてやりましょう…当面は、私の言動をよく観て頂きたいと思います…こちらこそ、宜しくお願いします…」
「…総てお任せしますので、宜しくお願い致します…」
「…分かりました、ハートリーさん…私達が指揮するのは、軽巡宙艦『ディファイアント』です…そしてこの3人が現時点でのディファイアントの司令部です…司令部と言うのは、メインスタッフメンバーの集まりでして…私が考えているメインスタッフポストはまだあります…挙げますと、カウンセラー…機関部長…観測室長…メイン・センサー・オペレーター…メイン・パイロット…砲術長…メイン・ミサイル・コントローラー…補給支援部長…保安部長…生活環境支援部長まで、考えています…そして今挙げたポストに就任して貰いたい対象者は私が提案しますが、決定と承認は司令部で行います…ここまで、よろしいですか? 」
「…はい…分かりました…」
「…あと10のポストを司令部で決定して承認しますので、私達で最低でも10人と面談する必要があります…対象者の提案とその人達との面談希望は、私から既に運営本部に提出してありますので、スケジュールが合い次第、面談が設定されます…その面談には出来得る限り同席して欲しいのですが、どうでしょう? 」
「…分かりました…最大限、同席します…」
「…私も、出来得る限り、同席します…」
「…分かりました…面談が設定されましたら、直ぐに連絡が届くように致しますので、その際にはよろしくお願いします…」
「了解しました」
「承知しました」
「…ありがとうございます…感謝します…それでは…ハートリーさんには、作戦参謀の職務概要について、アランシス・カーサーさんからブリーフィングとレクチャーが行われますので、その旨をお願いしたいと思います…」
そう言って私は、またアランシス・カーサーと通話を繋ぎ、面談の終了と彼女が作戦参謀への就任を了承した事を告げ、レクチャーを含むブリーフィングを要請する。
また2分も掛らずにドアがノックされて、入室した彼によりハル・ハートリーさんは別室へと案内された…私はその日初めて、充実感・達成感・安堵感を同時に感じた。
もう冷めてしまったマンデリンのブラックコーヒーを半分ほど飲み、カップを置いて息を吐く。
「…シエナ副長…口添えをして頂きまして感謝します…」
「…いいえ…副長として当然です…あと10人ですか…今日の予定はまだありますか? 」
「…いえ、面談の予定はありません…現状で司令部として協議して置くべき事についても、今は思い付きません…午前中に私は撮影セットの見学をさせて頂いたのですが、お時間があるようでしたらシエナさんも如何ですか? 」
「…撮影セットの見学は、私もするつもりでいますが…今でなくても良いと思っています…ここにはまた来る事もあるでしょう…面談もしますしね…これからも色々な企画や制作発表や会見やイベントに、アドルさんやハルや他のメンバーとも、顔を合わせて一緒に参加するでしょうから、その時に合間を視て見学できれば良いと思っています…それより、あと10の司令部ポストですが…アドル艦長ならもう、誰に就任を要請しようか決めていらっしゃるんでしょう? 副長として、知って置くべきだと思いますが? 」
「…確かにそうですね…お話しして置くべきでした…貴女なら、私がいくら調べても掘り出せなかったような情報をご存知かも知れない…先ずカウンセラーですが、ハンナ・ウェアーさんを考えています…機関部長には、リーア・ミスタンテさん…観測室長としては、パティ・シャノンさん…メイン・センサー・オペレーターには、カリーナ・ソリンスキーさん…メイン・パイロットとしては、エマ・ラトナーさん…砲術長には、エドナ・ラティスさん…メイン・ミサイル・コントローラーには、アリシア・シャニーンさん…補給支援部長としては、マレット・フェントンさん…保安部長には、フィオナ・コアーさん…生活環境支援部長としては、ミーシャ・ハーレイさん…ですね…以上です…医療部長と、食堂のメインシェフは私に提案できる人事ではないので、考えてはいません…今挙げた中で、ご存知の方はいらっしゃいますか? 」
「…はい…全員、知り合いですが…ミーシャ・ハーレイとマレット・フェントンとは、まだ共演した事がありません…他の8人とは旧知の仲でして、今迄にも複数回共演しています…」
「…そうですか…それでこの人事提案についての、感想としてはどうでしょう? 」
「…今初めて具体的に聞かされて…驚いたのと、感心したのと、感動もしました…実は共演経験のある8人と私は…お互いによく知り合っていて12年来にもなる仲間でして…こんな形で集える事になるとは考えてもいなかったので、非常に驚きましたし、感動しています…」
「…そうだったのですか…それで、人事提案については如何でしょう? 」
「…それについてもその…非常に感動している点でありまして…適材適所の考え方の上でも、一人一人の適性に於いても…高いマッチングポイントを感じさせるものでもあり、強いマッチングエッセンスを感じさせる人事の提案だと思いました…仲間の一人として、感謝とお礼を申し上げます…」
「…いや、シエナさん…そんなに持ち上げないで下さい…これでも煽てには弱いんです…それでも、高い適性を示す人事提案であると観て下さって、ありがとうございます…感謝します…それと、これは補足ですが…カウンセラーを除いて他の司令部ポストにはそれぞれ、補佐するサブポストがあります…具体的な人事提案も決めていますが、司令部のメンバーではないので現時点での表明は控えました…司令部ポストのメンバーが全員決定して司令部として承認してから、司令部として面談を始めようと考えています…」
「…了解しました…アドル艦長…」
「(笑)…シエナさん、まだ始まっていませんから…普通に呼んで下さって良いですよ…」
「…分かりました…すみません…」
「…いいえ…ハルさんへのレクチャーが終って戻って来たら、ちょっと話して確認して無ければ今日は解散としましょう…」
「分かりました」
ゆっくりと息を吐いて深く座り直す…ネクタイの結び目を左手でちょっと触って、コーヒーの残りを飲み干す。
リサ・ミルズとシエナ・ミュラーも自分の飲み物に口を付ける。
「…どうも、話していると忘れますね…」
「…アドルさん…クルーポストは全部で幾つなんでしょう? 」
「…サポートクルーも含めると、私の想定では80と少しですかね…午前中に聞いた話では、医療部にスタッフドクターと専任看護士が入るとか…ラウンジの厨房にスタッフシェフが入るとか言う話もありましたので、最終的に何人になるのかはまだ流動的ですが、多くても85名は超えないだろうと思います…軽巡宙艦としては少し所帯が多いような感じもしますが、機関部と保安部にはある程度の人数を揃えたいですので、まあ止むを得ないところでしょう…」
「…全部で、何隻参加する事になるんでしょう? 」
リサ・ミルズが独り言のように問うた。
「…参加隻数は毎日報道されているよね…制作発表会見の前日に締め切られて、参加総数が決定するって話だったけど、何隻にまで昇るのかは…ちょっと分らないね…」
そこまで言った時にドアがノックされたので応えると、アランシス・カーサーがハル・ハートリーさんを伴って戻って来た。
「…待たせ致しました…先程ブリーフィングが終わりましたので、戻りました…」
「…疲れ様でした…ありがとうございました…それで、私が面談を希望した他の方々からの連絡は入りましたでしょうか? 」
「…申し訳ありません…お昼前に一度確認したのですが、午後はまだ確認しておりませんでした…ちょっと失礼させて頂いて確認して参りますので、暫くお待ち下さい…」
そう言ってアランシス・カーサーは退室した。
「…ハートリーさん…参謀専用の携帯端末とpadとIDメディアカードは貸与されましたか? 」
「…はい…貸与されました…」
「…それでは、大会の開幕までに中のファイルを精読しておいて下さい…」
「…分かりました、よく読んでおきます…」
「…言いますのは、これからのイベントスケジュールについても書かれていますので…出来る範囲で参加して頂きたいと言う意向もあります…」
「…分かりました…可能な限り、参加したいと思います…」
「…ありがとうございます…それと、参謀のアクセス承認コードは伝えられましたか? 」
「…はい、教えて頂きました…」
「…アクセス承認コードは暗唱しておいて下さい…参謀の権限でシステムプログラムの改変を行う場合、コンピューターから音声での入力を求められますので…」
「…分りました…暗唱しておきます…」
「…それでは…アランシス・カーサーさんを待つ間に、状況を報告しますね…今日は朝早くにリサさんと一緒に来まして…先ず撮影セットの見学をさせて頂きました…大会の開幕までに、お二人とも観せて貰って下さい…まあ実際に観て貰うのが一番良いと思いますけれども…とても充実していて細部まで造り込まれている…それでいて使い勝手も良さそうに感じさせられる、撮影セットだと思います…その後に、この大会の宣伝用PVの一部として、選ばれた艦長へのインタビューに応える動画を収録しました…その後でこの会社の役員の方々とご挨拶させて頂きまして…そのまま交流昼食会に入りました…その後に、お二人とお会いした訳です…」
「…役員の方々が皆さん来られたんですか? 」
シエナ・ミュラーが訊く。
「…殆どいらっしゃっていたように思いましたね…用意していたメディアカードが足りなくなりそうでしたから…何でも、選ばれた中では私がここを訪問した最初の艦長だったそうで、インタビュー動画の収録の模様も見学されていましたね…」
「…そうだったんですか…お疲れ様でした…」
ハル・ハートリーが労う。
「…いや、まだそれほど疲れてはいませんから、大丈夫です…」
そう言ったところでドアがノックされ、アランシス・カーサーが戻る。
「…お待たせ致しました…つい先程に確認しましたが、やはりこちらから面談をオファーした方々からの返信は、まだ届いていませんでした…もう一度オファーを再送信しましょうか? 」
「…いえ、それには及びません…まだ時間はありますので、待ちましょう…わざわざお手数を掛けて頂きまして、ありがとうございました…」
「…いえ、とんでもないです…それでは今日は、どうしましょうか? 」
「…そうですね…まだ返信が届きませんので次の面談の日程も組めませんし、お預かりしたpadの中のファイルを読み込む事が、今の私達には必要ですから今日はこれで解散します…」
控室の中で一服喫い終わり、ネクタイを締め直して90秒ほどでノックが響く。
少しだけ開けたドアの隙間から、綺麗に整えられた上着の上下が差し入れられる。
凄いなと思いながら受け取り、着込んで観れる範囲でチェックする。
今朝着た時よりも良い感じになっている。
控室を後にしてリサ・ミルズと一緒にロビーに出ると、アランシス・カーサーが待っていた。
「…ああ、キマってますね…今からシエナ・ミュラーさんがお待ちになっている応接室にご案内しますが…アドルさんは、彼女を副長として希望されているんですね? 」
「…はい、そうです…」
「…分かりました…彼女が副長への就任を承認しましたらお知らせ下さい…こちらから副長専用の携帯端末・pad・IDメディアカードを貸与して副長としての概要を説明します…」
「…承知しました…確認しますが、彼女の後でハル・ハートリーさんと面談できるんですね? 」
「…ええ、今から1時間後ぐらいに来られる予定になっています…」
「…分かりました…では、シエナ・ミュラーさんが副長への就任を承知して下さった場合、その時点を以て私と彼女とで『ディファイアント』の司令部と言う事になりますので、ハル・ハートリーさんとの面談では、彼女にも同席して貰います…」
「…分かりました…それでは、我々から彼女への概要説明は、その後で行いましょう…」
「…ありがとうございます…よろしくお願いします…」
「…では、ご案内します…こちらへどうぞ…」
アランシス・カーサーに案内されて、3階の少し豪華な応接室に通される。
中に入ると高そうな応接ソファーセットの、向こう側の席に2人の女性がこちらを向いて座っていたが、私達を観ると立ち上がって会釈した。
「…ご紹介します…シエナ・ミュラーさんと、マネージャーの方です…」
シエナ・ミュラーさんは向かって右側の人だと判る…37才…データの画像で観た時にはそれ程に感じなかったが、一見しての印象では32.3と言ったところだろうか。
マネージャーの方は、細くて丸い金属フレームの眼鏡を掛けた50代半ばに観える女性だ。
赤と白とオレンジとピンクの毛糸で編み込まれたモヘア・ウールのニットベレー。
髪の色はラベンダー・パープルで、髪型は多分フェミニンセミディ。
ベレーを脱がないから、はっきりとは分からない。私が178だから、175かな?
虹彩の色はライトグリーン…女性でこの色を観たのは確か4人目だ…クリーミィなライトピンクのルージュが彼女を若く観せているようだ。
「…初めまして…こんにちは。今回艦長に選ばれましたアドル・エルクです…今日はこちらの面談要請に応じて頂きまして、ありがとうございます…私の事はアドルと呼んで下さい…それではどうぞ、お座り下さい」
そう言って握手を交わし、席へと促す。
「…こんにちは…初めまして。シエナ・ミュラーです…どうぞ、シエナと呼んで下さい…彼女は私のマネージャーです」
お互いにソファーに座り、先ず4人でメディアカードを交換し合う。
「…こちらはリサ・ミルズさんと言いまして、私が勤めています会社からの要請により、今回の期間中だけ就任して貰っています、私の専任秘書です…」
「…リサ・ミルズと言います…どうぞ、リサと呼んで下さい…よろしくお願い致します」
シエナ・ミュラーとマネージャーが改めて会釈する。
「…改めまして今回のゲーム大会にご参加頂けると言う事で、ありがとうございます…私が指揮を執る事になります、艦に搭乗して頂けると言う事でよろしいでしょうか? 」
「…はい、アドル・エルクさんの艦で、お世話になりたいと思います…」
「…分かりました。ありがとうございます。実はシエナさんとの面談は、最初に行いたいと希望しました…と言いますのは、私が指揮する艦の最も重要なポストに就いて頂きたいと考えているからです…」
「…それはどんなものでしょう? 」
「副長です。シエナさんには副長として私を補佐して頂くと同時に、私と共に艦の指揮に携わって頂きたいと考えています…」
私がそう言い終ると彼女はニットベレーを頭から外した…ほんの少しウェーブの掛かったラベンダーパープルのフェミニンセミディが拡がる。
「…すみません。被ったままで失礼しました…そこまで仰って頂けるのですから、アドルさんは私の事を色々と調べられた上で、お話をされていると思いますので…勿論経験はありませんけれども、微力ながらお手伝いをさせて頂ければと思います…何も分かりませんので、手取り足取りで宜しくお願い致します…」
「…シエナさん。承認して頂きまして、有り難うございます…本当に感謝します。私が運営本部から貰ったクルー候補者名簿の中で、勿論色々と調べさせて頂いて検討を重ねましたけれども…副長を任せられると思ったのは貴女だけでした…私も艦長をやるのは初めてですから…2人で一緒にどんと構えてやりましょう。私達が2人共オロオロしていたら、他のクルーはもっと不安になりますからね…当面は、私の言動をよく観て頂きたいと思います…こちらこそ、宜しくお願いします…」
そう言い終ると、座ったままだったが私から右手を差し出して握手を交わす。
「…総てお任せしますので、宜しくお願い致します…」
「…ありがとうございます。シエナさん…私が指揮する艦は軽巡宙艦としています…艦名は『ディファイアント』と決めました。そしてシエナさん…現時点を以てここに、略式ではありますが私と貴女の2人で、『ディファイアント』の司令部が構成され成立しました。ここまで、よろしいでしょうか? 」
「…はい。分かります…」
「ありがとうございます。副長の人事は艦長の専任事項ですので、私が決めました。ですがこれからの人事決定は、司令部承認の許に進めるべきですし…そうしていきたいと考えています。ご了承、頂けますか? 」
「…はい。了承します…」
「ありがとうございます。実はこの後、40分程でハル・ハートリーさんがこちらにお見えになるのですが、彼女の事はご存知ですか? 」
「…ハル・ハートリーさんですか…個人的な知り合いでもあります…ネットワークドラマで3作品…映画では2作品に一緒に参加して共演しました…最近ではお互いに忙しくて、個人的にはあまり会えていませんが…」
「…そのハル・ハートリーさんとの面談も、運営本部には希望していました。彼女が『ディファイアント』への乗艦を了承して頂けるのなら、ディファイアントの司令部として彼女には作戦参謀への就任を要請しようと考えています。ですので、副長も面談の際には同席して下さい…よろしいですか? 」
「…分かりました。同席させて頂きます…」
「…ありがとうございます。感謝します。それでは…ハートリーさんがお見えになるまでまだ時間がありますので、それまで私達を引き合わせて下さった運営本部のアランシス・カーサー氏に、副長についてのブリーフィングと様々なレクチャーをお願いしましょう…」
そう言うと私は携帯端末を取り出すとアランシス・カーサーと通話を繋ぎ、面談が終わった事を告げたうえで、ハル・ハートリーさんが見えられるまで時間があるので、来られるまでに副長についてのレクチャーとブリーフィングを終えて欲しいと伝える。
2分も掛らずに彼は応接室に姿を現し、別室で説明しますのでおいで下さいと伝えてシエナさんとマネージャーを促がすと、3人で応接室から出て行った。
入れ替わりに女性スタッフが入って来て、コーヒーと紅茶と苺のショートケーキを置いて行った。
コーヒーは、あまり好みではない豆のものだったが仕方ない。
その場合は甘味を控えて飲み、好みでない味だと言う事を改めて意識する。
リサ・ミルズは紅茶に手を付けようとしない。
「…今日はハーブティーを持って来なかった? 」
「…ええ、荷物になると思ったものですから…」
「…シエナ・ミュラーさんを観て、どう思った? 」
「…良い人だと思います。思慮深くて、良い指導力を持っているようにも感じます。副長として自信を付ければ、強い統率力を発揮されるだろうと思います…」
「…うん、僕もそう思いますよ…」
「…今日、アドルさんのお話を聴いていて判りました…」
「…何が判ったの? 」
「…私がアドルさんへの気持ちに気付いた時に、どうして?って思ったんです…失礼ですけど、アドルさんは一見して美男子と言う訳じゃないし結婚もされているし、不思議だったんですけれどもアドルさんの話を聴いたり、仕事振りを観ていたり、話し合ったりしていく内にどんどん惹かれていったんだなって…判りました…」
私は敢えて返答しなかった…今ここで返答したりすると妙な方向に進む…こんな話をしていて良い場所でも時でもない…あまり旨くないコーヒーを飲んで、褒め言葉と思って置こうか。
「すみませんでした」
暫くしてそれだけ言うと、リサ・ミルズはケーキを食べ始める。
それを横目で観て口許を緩める…ショートケーキの苺を取って頬張り、灰皿を取って窓辺に立ち、半分ほど窓を開けて一服点ける。
喫い終ると灰皿は離れた場所に置き、戻って同じ場所に座る。
「…こう言う考えはどうかな? 私は、他の19人の艦長が率いる艦とは可能な限り戦わない…止むを得ず戦わなければならない場合や状況に於いても、深傷を負わせるような攻撃はしない…この20人は言わば同期の仲間だ…出来れば最終局面まで、可能なら全員で生き延びて残りたい…他に戦う相手が沢山いるならその間は、彼らに出遭っても可能な限りやり合わないで済ませるようにしたい…その方がリアリティショウとしても盛り上がるだろ? 」
「…そう言うお話をされるからですよ…」
リサ・ミルズがやや上目遣いの流し目で言う。
「…当面は出来るだけ被害を受けないように戦い抜きながら、貰える経験値で艦を強化していくって事だろうな…それでゆくゆくは重巡宙艦ともやり合えるようになれれば良いがね…」
「…アドルさん…もしもこれがリアリティゲームショウでなくて…普通にアドルさんがこのゲーム大会に艦長として応募して…当選していたとしたら、乗員メンバーはどう決めました? 」
「…そう…だね…やはり、知り合いの中から選んで…話をして了承して貰って…協力して貰う、と言う事になるんだろうね…でも…」
「…でも? 」
「…そういう形で参加する事になったのだとしたら…ゲーム大会自体は注目されるだろうけれども、私自身がここまで注目されて報道されるような事は無かっただろうから、君と知り合う事も無かったかも知れないね…」
「…いいえ。知り合ってはいませんでしたでしょうけれども、アドルさんがクルーメンバーを探していると言う話は聴こえて来たでしょうから、私は立候補するでしょうね…」
「…そう。それはどうもありがとう。とても心強いね。それで、希望は副長(笑)? 」
「…いいえ、ブリッジで一緒に居られるのならポストはどこでも良いですよ(笑)」
おおっと…訊き過ぎたな…ブレーキ、ブレーキ。
「…でも、それならそっちの方が気楽で良いかも知れないね…最初から気心の知れた仲間たちで参加できれば…遠慮もいらないし…楽しくやれるだろうな…」
言いながら思い切り背を凭せ掛けて、天井を見上げる。
思い切り伸びて座り直した時に、ドアがノックされてアランシス・カーサーが副長とマネージャーを連れて戻って来た。
「…お待たせしました。ご協力、ありがとうございました…」
そう言って副長とマネージャーを元いた席に促して座らせる。
「…レクチャーとかブリーフィングは、終りました? 」
「…おかげ様で、終わりました…」
「…ご苦労様でした。ハル・ハートリーさんがお見えになるまで、後どのくらいでしょうかね? 」
「…そうですね。予定されている時刻までは10分少々ですね…」
「…分りました。それでは来られましたら、この応接室にお入り頂くようにお願いします…」
「…分りました。お見えになりましたら、こちらにお通ししますが…アドルさんは、ハル・ハートリーさんに作戦参謀への就任を希望されているんでしたね? 」
「…はい…その予定と言うか、そのつもりでいます…」
「…分りました。それでは、作戦参謀への就任を承認して頂けましたら、また私に連絡を下さい…ハル・ハートリーさんに作戦参謀についての概要を説明しますので…」
「…分りました。連絡します…シエナさん…副長専用の携帯端末とpadとIDメディアカードは貰いました? 」
アランシス・カーサーが応接室から退室したので、シエナ副長に水を向けてみる。
「…はい。頂きました…」
「…じゃあ、開幕までに中身を精読しておいて下さい。それと、副長のアクセス承認コードは伝えられましたか? 」
「…承知しました。はい、教えて頂きました…」
「…アクセス承認コードは暗唱しておいて下さい…副長の権限でシステムプログラムの改変を行う場合、コンピューターから音声での入力を求められますから…」
「分りました」
「…それでは、申し訳ありませんがちょっと失礼させて頂きまして、暫く席を外します…早目に戻ります…」
「…あっ、私も色々と確認の連絡がありますので、暫く失礼します…」
私とシエナさんのマネージャーが席を立ち、応接室から退室する。
私は右手を軽く挙げてマネージャーさんに挨拶すると、お手洗いに向かった。
彼女は私に会釈してメモ帳と携帯端末を取り出すと、反対方向に歩き始めながら通話を繋いだ。
私が戻るまでの間に応接室の中でどのような会話があったのか、ずっと後になって知った。
「…リサ…ミルズさんでしたね? アドルさんとは同じ職場にいらっしゃるんですか? 」
「…はい、今は同じ職場で一緒に働いています…」
「…アドルさんは会社の中で、篤く信頼されているのではありませんか? 」
「…はい…信頼も篤いですし、すごく頼りにもされています…そして、その事を皆知っています…」
「…リサさんは…アドルさんの事が好きなんですね? 」
「…はい…好きです…でもこれは私の勝手な想いであって、アドルさんにも言いましたが…彼を動揺させるような事は、絶対にしません…ですから…」
「…大丈夫ですよ…誰にも言いません…でもこれは、私の副長としての初めての要請と言いますか、お願いになると思いますが…リサさんにはその姿勢を是非とも最後まで貫いて頂きたいと思います…」
「…ご忠告には感謝します…勿論、承知しています…ご指摘は私の自戒として強く銘じて参りたいと考えています…」
「…解ってくれてどうもありがとう…リサさん…それにしても、アドルさんって不思議な方ですね…一見しただけでは彼が秘めている魅力に気付けない…話を聴いたり受け答えをしている間に、いつの間にか惹き込まれている…芸能界では珍しいタイプですね…」
「…私はシエナさんに驚いています…」
「…どうして? 」
「…今日初めてアドルさんに会ったのに、そこまで解るなんてすごいです…」
「…まあ、演技して見せるのと、人の演技を観る仕事を長年やっていますからね…」
「…芸能界では、珍しいタイプなんですね? 」
「…そうね…あまりいないわね…と言うのも、アドルさんのようなタイプの人は、自己顕示性が低いと見做されて、あまり取り立てられないと言うか、抜擢はされないでしょうからね…」
「…それで…心配している事があるんです…」
「…他のクルーメンバーとこれから一緒にやっていく中で、クルーの中の誰かがアドルさんに惚れないか…ね? 」
「…はい…」
「…そうねえ…皆、プロだから色恋にすぐ溺れるような人はいないと思うけど…私達の艦が勝ち進んで行くなら、その可能性は高まっていくでしょうね…それに、そう言う事を露骨に期待させて観せようとするのも、リアリティ・ライブショウの演出でしょうからね…その点の事を彼には話しました? 」
「…いいえ、まだ話してはいません…」
「…それじゃ、まず貴女からはアドルさんにこの話をして、注意を喚起するようにお願いできる? 私はゲームが始まったら、他のクルーに注意を払うようにしますから…」
「…分かりました…話してみますので、シエナさんの方もよろしくお願いします…」
「…了解したわ…」
そこでお手洗いから戻って来た私がドアをノックし、聴こえて来たリサ・ミルズの返答を受けて入室する。
「…お待たせしました…マネージャーの方は、まだ戻られませんか? 」
「…お帰りなさい…彼女は一度連絡や確認の作業に入りましたら、なかなか終わりませんので気にしなくても大丈夫です…」
「…そうですか…ハル・ハートリーさんは、まだお見えになりませんね…それでは、私がシエナさんの隣に座ってもよろしいですか? リサさんは、こちらの1人用の席に座って下さい…」
「…はい、大丈夫ですが…」
そう返答を貰ったので私はシエナ副長の隣に座る…リサ・ミルズは私の右手側の一人用の席に座る。
「…これでハル・ハートリーさんには、向かいの席に座って頂けますからね…」
そう言い終ってから20秒ほどして私の携帯端末に通話が繋がる…アランシス・カーサーからだったので、スピーカーモードにしてテーブルの上に置く。
「…はい、アドルです…」
「…どうも、お待たせを致しました…只今、ハル・ハートリーさんがお見えになりましたので、そちらにお通し致しますが大丈夫でしょうか? 」
「…はい、大丈夫ですよ。お待ちしております…」
「…分りました、それではお連れ致します…お飲み物とかは如何ですか? 」
「…私はマンデリンをブラックでお願いします…」
そう言ってシエナ副長の顔を訊ねるように観る。
「…じゃあ、ミルクティーをお願いします…」
続けてリサ・ミルズを見遣る。
「…私はロシアン・ティーで、お願いします…」
「…分りました。それでは、ご案内します…」
それから120秒後ぐらいでドアがノックされた。
私が返答するとアランシス・カーサーが開けて、ハル・ハートリーさんを招き入れる。
ハル・ハートリー、35才、髪は暗褐色でライトウェーブのフラッフィボブ。
身長は副長より3.4cm低いぐらいか…既婚で一男一女あり。
ライトカーキのドレープトレンチコートを着込み、レッドアンドネイビーの大判ストールを首・肩・胸まで被うようにゆったりと巻いている…眼の虹彩の色はダークブルー。
ライトカーマインのルージュが、精神力の強さを顕しているようだ。
「…お待たせ致しました…こちらが、ハル・ハートリーさんです…」
「…初めまして、こんにちは、今回艦長に選ばれましたアドル・エルクです…今日はこちらの面談要請に応じて頂きまして、ありがとうございます…私の事はアドルと呼んで下さい…それではどうぞ、お座り下さい…」
そう言って握手を交わし、席へと促す。
「…こんにちは、初めまして、ハル・ハートリーです。どうぞ、宜しくお願い致します」
「…こちらはリサ・ミルズさんと言いまして、私が勤めています会社からの要請により、今回の期間中だけ就任して貰っています、私の専任秘書です…」
「…リサ・ミルズと言います…どうぞ、リサと呼んで下さい…よろしくお願い致します…」
「…初めまして、ハル・ハートリーです。どうぞ、宜しくお願い致します…」
リサと私が彼女に自分のメディアカードを渡し、彼女からも受け取った。
シエナ・ミュラーと彼女が、お互いに会釈を交わし合う。
「…ご存知かと思いますが、こちらはシエナ・ミュラーさんです…」
「…ええ、存じています・・何度かお仕事をご一緒にさせて頂きました…」
「…ええ…お久し振りね、ハル…」
そこでドアがノックされて、飲み物が差し入れられる。
「…ああ、飲み物が来ましたね…一息入れましょう…おや…ハートリーさんはハーブティーがお好みですか? 実はリサ・ミルズさんも、ハーブティーマニアでしてね…」
「…いいえ…私の場合は母がマニアで、毎朝その日のお昼に飲めるように、オリジナルブレンドのハーブティーを持たされるんです…」
「…お優しいお母様なんですね…それにしても、毎日オリジナルブレンドのハーブティーを淹れていらっしゃるなんて、すごいですね…」
「…ありがとうございます…素敵な香りですね…ローズヒップにペパーミントにタイム…それにこれは、カモミール? 」
「…ラベンダーです…貴女の嗅覚もお母様譲りで、相当にすごいですよ…」
「…ありがとうございます…今日はマネージャーの方とご一緒ではないのですか? 」
「…私がマネージャーと一緒に聞くのは、新しい仕事のオファーのお話と、新しい仕事の契約のお話と決めておりますので…」
「…ハル・ハートリーさん…それは、今回のゲーム大会にご参加頂けると言う事と、私が指揮を執る事になります艦に、乗艦して頂けると言う事で宜しいのでしょうか? 」
「…はい…私も、アドル・エルクさんの艦で…お世話になりたいと思います…」
「…分かりました…ご了承を頂きまして、本当にありがとうございます…これからよろしくお願い致します…実はシエナ・ミュラーさんも乗艦して頂けると言う事でご了承を頂きまして、副長にも就任して頂きました…」
これには少し驚きの色を見せた。
「…そうだったんですか…でもシエナさんが副長でしたら、私は適任だと思います…」
「…ありがとうございます…ハートリーさんにそう言って頂けると、心強く自信が持てます…」
「…恐縮です…それで私には、どのような職務を用意されているのですか? 」
「…作戦参謀です…ハートリーさんには是非、ハル参謀としてシエナ副長と共に私の作戦指揮と操艦指示を補佐して頂き、艦の司令部を支えて頂きたいと考えています…」
「…私に、その作戦参謀が務まると思われますか? 」
「…ハル…アドルさんは私達の事を調べ尽くして、面談を希望されて私達を呼んで下さって…ポストを提示されたわ…それは、私達なら出来ると確信して話されていると思うのよ…私だって副長はやった事も無いけど、アドルさんが言われるなら、アドルさんと一緒なら、やれるんじゃないかと思って受けたわ…そして今は、貴女と一緒ならもっと善く出来ると思っているわ。一緒にやってくれない? 」
「…分かりました…私でよろしければ…お受けします…改めて、宜しくお願いします…何も知りませんし、分かりませんが…手取り足取りで教えて下さい…」
「…ハル・ハートリーさん…本当にありがとうございます…深く感謝します…実際の経験は私もありませんので…一緒に学びながら経験を積んでいきましょう…有難うございます…」
そう言って右手を差し出した私に応じて、彼女も右手を差し出して握手を交わす…私は、ここで初めて司令部の確実な誕生を感じた。
「…ハル・ハートリーさん…私が運営本部から貰ったクルー候補者名簿の中で、勿論色々と調べさせて頂いて検討を重ねましたけれども…作戦参謀を任せられると思ったのは貴女だけでした…私も艦長をやるのは初めてですから…この3人で一緒にどんと構えてやりましょう…当面は、私の言動をよく観て頂きたいと思います…こちらこそ、宜しくお願いします…」
「…総てお任せしますので、宜しくお願い致します…」
「…分かりました、ハートリーさん…私達が指揮するのは、軽巡宙艦『ディファイアント』です…そしてこの3人が現時点でのディファイアントの司令部です…司令部と言うのは、メインスタッフメンバーの集まりでして…私が考えているメインスタッフポストはまだあります…挙げますと、カウンセラー…機関部長…観測室長…メイン・センサー・オペレーター…メイン・パイロット…砲術長…メイン・ミサイル・コントローラー…補給支援部長…保安部長…生活環境支援部長まで、考えています…そして今挙げたポストに就任して貰いたい対象者は私が提案しますが、決定と承認は司令部で行います…ここまで、よろしいですか? 」
「…はい…分かりました…」
「…あと10のポストを司令部で決定して承認しますので、私達で最低でも10人と面談する必要があります…対象者の提案とその人達との面談希望は、私から既に運営本部に提出してありますので、スケジュールが合い次第、面談が設定されます…その面談には出来得る限り同席して欲しいのですが、どうでしょう? 」
「…分かりました…最大限、同席します…」
「…私も、出来得る限り、同席します…」
「…分かりました…面談が設定されましたら、直ぐに連絡が届くように致しますので、その際にはよろしくお願いします…」
「了解しました」
「承知しました」
「…ありがとうございます…感謝します…それでは…ハートリーさんには、作戦参謀の職務概要について、アランシス・カーサーさんからブリーフィングとレクチャーが行われますので、その旨をお願いしたいと思います…」
そう言って私は、またアランシス・カーサーと通話を繋ぎ、面談の終了と彼女が作戦参謀への就任を了承した事を告げ、レクチャーを含むブリーフィングを要請する。
また2分も掛らずにドアがノックされて、入室した彼によりハル・ハートリーさんは別室へと案内された…私はその日初めて、充実感・達成感・安堵感を同時に感じた。
もう冷めてしまったマンデリンのブラックコーヒーを半分ほど飲み、カップを置いて息を吐く。
「…シエナ副長…口添えをして頂きまして感謝します…」
「…いいえ…副長として当然です…あと10人ですか…今日の予定はまだありますか? 」
「…いえ、面談の予定はありません…現状で司令部として協議して置くべき事についても、今は思い付きません…午前中に私は撮影セットの見学をさせて頂いたのですが、お時間があるようでしたらシエナさんも如何ですか? 」
「…撮影セットの見学は、私もするつもりでいますが…今でなくても良いと思っています…ここにはまた来る事もあるでしょう…面談もしますしね…これからも色々な企画や制作発表や会見やイベントに、アドルさんやハルや他のメンバーとも、顔を合わせて一緒に参加するでしょうから、その時に合間を視て見学できれば良いと思っています…それより、あと10の司令部ポストですが…アドル艦長ならもう、誰に就任を要請しようか決めていらっしゃるんでしょう? 副長として、知って置くべきだと思いますが? 」
「…確かにそうですね…お話しして置くべきでした…貴女なら、私がいくら調べても掘り出せなかったような情報をご存知かも知れない…先ずカウンセラーですが、ハンナ・ウェアーさんを考えています…機関部長には、リーア・ミスタンテさん…観測室長としては、パティ・シャノンさん…メイン・センサー・オペレーターには、カリーナ・ソリンスキーさん…メイン・パイロットとしては、エマ・ラトナーさん…砲術長には、エドナ・ラティスさん…メイン・ミサイル・コントローラーには、アリシア・シャニーンさん…補給支援部長としては、マレット・フェントンさん…保安部長には、フィオナ・コアーさん…生活環境支援部長としては、ミーシャ・ハーレイさん…ですね…以上です…医療部長と、食堂のメインシェフは私に提案できる人事ではないので、考えてはいません…今挙げた中で、ご存知の方はいらっしゃいますか? 」
「…はい…全員、知り合いですが…ミーシャ・ハーレイとマレット・フェントンとは、まだ共演した事がありません…他の8人とは旧知の仲でして、今迄にも複数回共演しています…」
「…そうですか…それでこの人事提案についての、感想としてはどうでしょう? 」
「…今初めて具体的に聞かされて…驚いたのと、感心したのと、感動もしました…実は共演経験のある8人と私は…お互いによく知り合っていて12年来にもなる仲間でして…こんな形で集える事になるとは考えてもいなかったので、非常に驚きましたし、感動しています…」
「…そうだったのですか…それで、人事提案については如何でしょう? 」
「…それについてもその…非常に感動している点でありまして…適材適所の考え方の上でも、一人一人の適性に於いても…高いマッチングポイントを感じさせるものでもあり、強いマッチングエッセンスを感じさせる人事の提案だと思いました…仲間の一人として、感謝とお礼を申し上げます…」
「…いや、シエナさん…そんなに持ち上げないで下さい…これでも煽てには弱いんです…それでも、高い適性を示す人事提案であると観て下さって、ありがとうございます…感謝します…それと、これは補足ですが…カウンセラーを除いて他の司令部ポストにはそれぞれ、補佐するサブポストがあります…具体的な人事提案も決めていますが、司令部のメンバーではないので現時点での表明は控えました…司令部ポストのメンバーが全員決定して司令部として承認してから、司令部として面談を始めようと考えています…」
「…了解しました…アドル艦長…」
「(笑)…シエナさん、まだ始まっていませんから…普通に呼んで下さって良いですよ…」
「…分かりました…すみません…」
「…いいえ…ハルさんへのレクチャーが終って戻って来たら、ちょっと話して確認して無ければ今日は解散としましょう…」
「分かりました」
ゆっくりと息を吐いて深く座り直す…ネクタイの結び目を左手でちょっと触って、コーヒーの残りを飲み干す。
リサ・ミルズとシエナ・ミュラーも自分の飲み物に口を付ける。
「…どうも、話していると忘れますね…」
「…アドルさん…クルーポストは全部で幾つなんでしょう? 」
「…サポートクルーも含めると、私の想定では80と少しですかね…午前中に聞いた話では、医療部にスタッフドクターと専任看護士が入るとか…ラウンジの厨房にスタッフシェフが入るとか言う話もありましたので、最終的に何人になるのかはまだ流動的ですが、多くても85名は超えないだろうと思います…軽巡宙艦としては少し所帯が多いような感じもしますが、機関部と保安部にはある程度の人数を揃えたいですので、まあ止むを得ないところでしょう…」
「…全部で、何隻参加する事になるんでしょう? 」
リサ・ミルズが独り言のように問うた。
「…参加隻数は毎日報道されているよね…制作発表会見の前日に締め切られて、参加総数が決定するって話だったけど、何隻にまで昇るのかは…ちょっと分らないね…」
そこまで言った時にドアがノックされたので応えると、アランシス・カーサーがハル・ハートリーさんを伴って戻って来た。
「…待たせ致しました…先程ブリーフィングが終わりましたので、戻りました…」
「…疲れ様でした…ありがとうございました…それで、私が面談を希望した他の方々からの連絡は入りましたでしょうか? 」
「…申し訳ありません…お昼前に一度確認したのですが、午後はまだ確認しておりませんでした…ちょっと失礼させて頂いて確認して参りますので、暫くお待ち下さい…」
そう言ってアランシス・カーサーは退室した。
「…ハートリーさん…参謀専用の携帯端末とpadとIDメディアカードは貸与されましたか? 」
「…はい…貸与されました…」
「…それでは、大会の開幕までに中のファイルを精読しておいて下さい…」
「…分かりました、よく読んでおきます…」
「…言いますのは、これからのイベントスケジュールについても書かれていますので…出来る範囲で参加して頂きたいと言う意向もあります…」
「…分かりました…可能な限り、参加したいと思います…」
「…ありがとうございます…それと、参謀のアクセス承認コードは伝えられましたか? 」
「…はい、教えて頂きました…」
「…アクセス承認コードは暗唱しておいて下さい…参謀の権限でシステムプログラムの改変を行う場合、コンピューターから音声での入力を求められますので…」
「…分りました…暗唱しておきます…」
「…それでは…アランシス・カーサーさんを待つ間に、状況を報告しますね…今日は朝早くにリサさんと一緒に来まして…先ず撮影セットの見学をさせて頂きました…大会の開幕までに、お二人とも観せて貰って下さい…まあ実際に観て貰うのが一番良いと思いますけれども…とても充実していて細部まで造り込まれている…それでいて使い勝手も良さそうに感じさせられる、撮影セットだと思います…その後に、この大会の宣伝用PVの一部として、選ばれた艦長へのインタビューに応える動画を収録しました…その後でこの会社の役員の方々とご挨拶させて頂きまして…そのまま交流昼食会に入りました…その後に、お二人とお会いした訳です…」
「…役員の方々が皆さん来られたんですか? 」
シエナ・ミュラーが訊く。
「…殆どいらっしゃっていたように思いましたね…用意していたメディアカードが足りなくなりそうでしたから…何でも、選ばれた中では私がここを訪問した最初の艦長だったそうで、インタビュー動画の収録の模様も見学されていましたね…」
「…そうだったんですか…お疲れ様でした…」
ハル・ハートリーが労う。
「…いや、まだそれほど疲れてはいませんから、大丈夫です…」
そう言ったところでドアがノックされ、アランシス・カーサーが戻る。
「…お待たせ致しました…つい先程に確認しましたが、やはりこちらから面談をオファーした方々からの返信は、まだ届いていませんでした…もう一度オファーを再送信しましょうか? 」
「…いえ、それには及びません…まだ時間はありますので、待ちましょう…わざわざお手数を掛けて頂きまして、ありがとうございました…」
「…いえ、とんでもないです…それでは今日は、どうしましょうか? 」
「…そうですね…まだ返信が届きませんので次の面談の日程も組めませんし、お預かりしたpadの中のファイルを読み込む事が、今の私達には必要ですから今日はこれで解散します…」
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
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