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クソゲ:たま/むし/いろ のつぶやき 1/2

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 ぶつぶつと泡のように次に次にと浮き出てくる泡を踏みつぶす。

「……ぃ」

 ここにきてから何も変わらない笑い声と悲鳴が響く。
 それらは全て、知っていて親しいものの顔をしている。
 歩く。潰れる。歩く。潰れる。歩く。潰れる。

(情報ももう新しさはないかなー)

 ここに来るより前には疾うにできていた思考の並列化を有難く思う。
 そうでなければ壊れていた、と自ら実感できているからだ。
 一口食べるたびに歓喜の笑いを上げる――確かにパンだったはずの――家族の一員、中でも一番幼く、可愛がっていた末っ子の顔をしたそれをまた人齧りする。食わねば能力が下がる。下がればもはや、動けなくなる。

 きっと、己はおかしくなっていると自覚している。
 ぎりぎり保っているように動けるのは、逃避する思考がまだあるからだ。
 逃避しようと思考を分割していることこそ、まだ人間性というものが残っているのだという実感に繋がる。家族は思い出せる。思い出は、死によるものではなくいつのまにか削られて行っているけれど、大事なものはまだまだ思い出せるのだと。
 もう、自らの名前は連れていかれてしまったけれど、それでもまだ自分であるのだと。

(やっぱり我々が存在している場所と、他のところは別ものだ。きっと長くはなりすぎないようにクリアする事が前提になっているよね。まぁ、その、我々以外の話ではあるけど)

 溜息をつこうとした口から息の代わりにとろりとした粘着質な生き物が這い出てくる。
 思考の一つが発狂して潰れる。
 それを自らという海に沈めて処理しながら空いたスペースに素早く新たな思考を立ち上げていく。慣れたものだ。しかし、完全ではない。機械ではないのだ、能力が高かろうが、同じことを寸分たがわず毎回できるわけもない。それが、異常な状態であるならなおさらのこと。

 バグのようなものが溜まっていく。
 その隙を狙われる。
 いつも終わりと隣り合わせであることが狂う事を肯定していく。

(難易度は、プレイヤーという視点に立てばきっと『飾り』だ。そもそもがクリアさせたがっている――そのようにしか見えない。イベント、なんて言い方をしたやつがちょっとだけ来たから、『続けさせたいのかな?』って惑わされちゃったけど……
この辺、やっぱり複数いて対立しているとかみたいな可能性高いよね? それともちょっとやってみただけ?)

 掲示板や役に立たない考察に思考をいくつも常駐してさいているのはただ前に進むためなら不必要に思えるが、それをしていなければおそらく疾うに壊れていただろう。本人自体は、そこまで元から肉体も精神も強かったわけではないのだから。
 狙ってやったわけではない。こちらに来るより前にも娯楽のように関係ない思考を並列で走らせていたことが習慣として残っていただけ。
 それが恐らく明暗を分けたのだろう。運が良かった。生き残ることを、まだ前に進み続けることを幸運と呼ぶのならそうだ。

(どうにもクリアできないようにしているのってプレイヤーだよね。人同士で争ってみたり、こんな状態でソロでやることに拘ってみたり、できる、けど推奨していないっぽいことをばんばんやったり。制限する必要のないはずの情報を秘匿してみたり、こんな時でもマウントとってみたり……ダンジョンに関係ないことで、そんなことばっかりやって勝手に難易度あげてるのってプレイヤーだもの。人間の性とはいえ、こんな状況でもよくやるよ。こっちはそんなこともできないのに)

 考える。
 考える。
 考えることを1秒たりとも途切れさせない。
 そうなれば、眠らないデメリットを打ち消せる薬品を低コストで入手できるのはありがたかった。
 いや、それにしても、それがキノコでできるとは思わなかったようではあるが。瓢箪から駒とはこのことだろうかと、笑いたい気分になれるのは本当に幸せなことだ。

(それに、別に争うように仕向けられてたってわけでもないしね。状況がそう、といえばそうではあるけど……逃げ道さえ用意されていた。むしろ、なんか協力させたがっているふしさえあるよね? 我々は違うけど……
あぁ、そうだ。死がゲームオーバーにならないのもそう。あれも嫌がらせっていうよりは――なんか、救済措置じみてると思うんだよね。デスペナルティというか、デメリットが小さすぎると思うんだよね。デメリットはあるけど、大体それにしたって最初は気のせいかなと思ってきたけど、総合的に見たらもうクリアしやすくしているっぽくしかみえないんだよねぇ……)

 じゅくじゅくと泡立ち始めた本と融合していない方の腕を半ば自動的に切り落とす。

「ぁっ……ぉわる゛……」

 鳴いた。
 いつの間にか周りを囲んでいた悍ましき色をした蛙たちが一斉に返事をし、祝福を告げる。

(死の体験。それだって、死を安くしないようにっていうか、安易に死に走らせないようにしている……っていうのはさすがに好意的な解釈にすぎるかな……すぎるなぁ……こんな状況に我々をおいている存在に良心とは……? となるのも事実だし……でも我々以外は死にまくれば勝手にクリアに走り出すっていうのも事実なんだよ。いろいろと削れるのも、生きるために他の生き物を殺す忌避感を減らすための理由にしてくださってる感じがあるよね、ありがた迷惑なことに)

 祝福から蛙色になったおかげで水に強くなったが、その代わり乾くとダメージを受ける特性を得た。卵がでろでろと噴出しだす。

 即座に皮膚をそぎ落とす。そうしなければ自動的に吐き出される卵を餌にするために、蛇によく似た何かがよってくることを経験しているからだ。じわじわと飲み込まれて吐き出すを繰り返されるようなことはごめんであった。その間も卵は産まれ続けるのだ。生かさず殺さずで保存食にされてしまう可能性が高くなってしまう事も経験上知っている。

 その手は一切躊躇う事がないし止まる事もないが、いくら慣れても異常に執着するようにへばりついたそれらは、酷く神経と融合しており全てはぎ取ってしまうまでに思考がいくつも蒸発し、更に表面的にでも再生するまでにいくつかの思考がまた発狂して蒸発を遂げた。問題が起きる前に処理する事は大事であるが、慣れぬことでもあった。

(そもそも……どの難易度でも協力プレイしてれば一定の強さで全員クリアできるっていうね。ノーマル以上は、協力しろよと言わんばかりだと思うよ……いやそれにそもそもソロでもクリアできるようにもなってるところも甘く感じるところだよね。PKにしたって、楽しむなら推奨してもいいくらいなのに安いにしてもデメリットを設けたりPKKのような存在を用意したり……デメリットもきついものでもないしねぇ、なんというか)

 涙がぽろぽろと流れるのは、実際どうこうというよりも反射に等しいと思考は判断している。

「ぃつ」

(長く苦しんだりすることを楽しんでる――風じゃないんだよね本当に。強制的に連れてきたわりに……第一、もしそうなら全員我々がいるようなところにつっこめばいい話なんだよ。格差を生んで軋轢を、っていうんならもっとうまい事見せてくるだろうし)

 ぎしりぎしりと歯を無意識に強くかみすぎて、ばきりと砕ける。ころころとした感触。
 自らで発生させた痛みからか少し表で走っている思考群が安定度をプラスしたようだ。

(キッカーも、クリアの邪魔はしないという時点でクリアしろよっていう後押しする存在でしかない。強制的にさらってきといていつくのは許さないというのはあれだけどさ……クリアと呼ばれる達成が、いいことなのか悪い事なのかという点はおいといても、出口にいくという手段が色々あるすぎだよね。もうね。我々にもそうあってほしかったものだよ)

 逃避思考群のいくつかがスキルを使い、掲示板を見ている。
 新しい情報は少なくなってきたようであるように見える。
 最初からなかったわけではないが、それでも向こうにいたころの話が多くなってきているのが見て取れる。

(まぁ、でも、なんだろう、この掲示板は意味が分からないよね。趣味なのかな? いや、でも、そうしたら逆に掲示板は実際あまり書き込んだりはしないタイプの人がまた聞きで作ったシステム臭く見える。中途半端に実名だせないのとかがそう。何か……知らないけどあったほうがいいよね、みたいな中途半端な……)

 脳にできた触覚が予期せず暴走する。感知が良すぎたそれの影響で眼孔から血やそれ以外があふれ出てくる。

「ぉぉ゛ゎゎゎ」

 自身の反応が人間より上位の存在が近づいている事の証であると、経験から理解しているため負傷して動きにくくなっているが、それでもそれを押して素早く移動を開始した。しなければ負傷どころではなくなるからだ。
 感知した、それだけで逃避思考群の一部まで強制消却されてしまっているようだ。
 しかし――精神的疲労が激しすぎると判断できる上、逃げ切ることも難しいと判断。移動を断念して足を止めた。
 ここで拾ったからできれば使いたくはない――どうやら死へのデメリットをなぜか和らげてくれるらしい、自害するのに機能を尖らせたようなパレットナイフを手に取る。

(我々はともかく――なんか、なんだろう。試してる? ゲームとかのベータテストみたいに。スキルとかアイテムとか、色々。詰め込んでる雰囲気は最初からあった。実験的というか、何かそういう感覚がある。先のように苦しませるにしても中途半端、楽しませるにしても中途半端だから……
――別に、本当にやりたいことがあったりする? ver1.0をお待ちください! みたいな? 実験は実験でもテストプレイヤーとして、みたいならそれは優しさもでるし、クリアしても欲しいし、何もなしにいつまでいられても邪魔だよね……あぁ、やっぱりこれが一番しっくりくるなぁ)

 そうすれば、まるで操られたかの様に滑らかに、一気に目から脳を目指すように――

「れる゛」

(クリアの仕方が色々あるから、クリアの仕方次第で何か特典とかあったりするのかな。テスターへの特典みたいな――)

 慣れた感触が、手から全身に這いまわった。
 その後どうやって終わったのかは、知りようがない事だった。

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