十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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わたりどり 2/2

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 主人公といっても、種類がある。主人公の種類というよりは、話自体の種類というべきだろうか。
 物語の終わりは、いつだって幸せがあるわけではない。
 それは変わらなかった。によっては、バッドエンド一直線のようなものまでいたのだ。
 だからこそ、誰を選ぶかは確かに重要なことだった。誰でもいいわけではないのだ。主人公にしても、なによりその先にいるものにしても。

 そして、ほどほどに気に入られることが大事なのだ。
 よく物語の質を観察して、それに気に入られるキャラクターとして混ざることが大事なのだ。排除されたり、敵にされてはたまったものではない。使い切りのキャラでは意味がない。
 物語と違うのは――恐る恐る探りながら、ユッタにとって幸運にも気付けたのは――どうやら、『作者』はアドリブが嫌いではものが多いようだという事だ。

 もちろん、心の狭いというか、アドリブが嫌いなタイプもいた。だから、そういったものを選ばない事、趣向を見定めることは何よりも大事な作業だった。
 ユッタは最初から作者に設定されたもの――予定された登場人物としてではなく、『どうですか?』と『私が入ったら更におもしろくはなりませんか?』と自己アピールして入り込む存在としてそこにいるのだ。ユッタは幸か不幸か、最初期から、最初から組み込まれる登場人物に選ばれたことがない。だからこその行動だ。
 気分を損ねないように。

 しかし、引っ込みすぎてつまらないと思われないように。
 慎重に、しかし大胆に。
 そして、

(そこから抜け出せる、とか考える妙に自信満々の馬鹿な奴も多かったんだから、大変だった……まぁ、はまりすぎて調子に乗りすぎて結果はみ出ちゃったみたいなのも厄介といえば厄介だったけど……)

 しかし、うまい事参加させてもらえたとしても障害はあった。

 主人公をいる。

 そう気づいた人間主人公は、そこから、その状況から、抜け出そうとしたものも多かった。

(いや、抜け出そうと――というよりも、気付いて思い悩む機会も――与えていたきっと、それすら一つのイベントとして楽しんでいるふしはあるとは思う……行きすぎなければ、ありなんだろうな)

 なにせ、主人公というのは――それだけで事件の中心になる。なんらかの。
 しかし、それで空気を読めなさすぎる主人公の末路とは、この現実ではいつも残酷なものだ。
 苦悩、葛藤、そこからの昇華はきっときっと見ている側にとって必要で、楽しいものだ。
 でも、シナリオの中であがくのではなく、シナリオ自体から、その本自体から抜け出したいと思ったなら。

(わかりたくはないけどね。気付いて、抜け出したからどうだっていうんだろうか? それより幸せを享受できる能力なんてないくせに、どうしてそこから抜けようと思えるんだろ? ご都合悪い主義な話だったらそれもわかるけど……お話に関係なくそうなんだよねぇ。
なにより、どうしてそれができると思えるのだろう? 主人公だから? そこから抜け出したいのに? 不思議だなぁ……
あぁ、もしかして、だから冷めちゃうのかな。って)

 逆らいようのない大きなものを知っているユッタはそれが不思議だった。
 そして、ただただ鬱陶しいものだった。
 せっかく見つけた、にももしかしたら続くかもしれない環境を、ある日突然ぶっ壊してしまうような存在主人公たちが。
 空気を読めなさすぎるキャラクターはどうなるだろうか。

 勝手にキャラが動く。
 そう表現される現象は確かにある。
 しかし――キャラが役割自体ロールをシナリオに関係なく止めようとする等ということは通常起こりえない。
 そう、範囲を超えたなら。

(最低限、物語登場人物する気がないなら、それは見放されますよってね……巻き添えになるから一言言ってから、ふつーになるなり死ぬなりしてほしいよね。今まで主人公サマしてたのが、になったりそれに満足できたりってのは叶うとは思わないけどねぇ)

 話をせっかく楽しんでいたのに、興ざめさせられるような展開が続けばどうなるだろう。
 読み手はもちろん読むのをやめてしまう可能性が高くなるだろう。
 書き手だったら? どう書いても満足できない、書いていてさえおもしろくないものの連続しか生まれないと知ったらどうだろう。

 やめる。
 書き直す。

 創作ならそれでもいい。
 完成は大事である。しかし、いつまでもどうしようもならないものにしがみつき続けても何も楽しさは生まれないという考え方は確かにあるのだから。
 加えて、無理やり終わらせたり、気に入らないからバッドエンドになんて可能性がないわけではないのだ。
 巻き込まれてバッドエンドは何よりもさけたかった。
 その悲惨な末路も、なんとか運よく近くでなく、遠くから見ることができたからなおさら。

凄いバフされ選ばれているってことがどういうことか、そこに浸りすぎてるからわかないんだろうな。他の創作だってそうじゃん。なんかすごい精霊とか、神様とか、そういう超常的な存在に『選ばれる』展開なんて腐るほどあるでしょ。読み物として楽しんできてないのかな?
そういうのと、自分の状況とで、なんの違いがあるっていうの? ハッピーエンドをくれるっていうんなら、何が不満なんだか……反抗期は身内だけにしてほしいよね。あぁ、生まれて瞬間からってタイプの場合は、ある意味身内なのかな? あ、寒気する。
まぁ、気に入られ過ぎたくない……ってのはわからなくもなけどさ)

 気に入れば気に入られるほどに望まぬとも忙しくなる活躍させられる。自分が動かなくとも向こうからよってくるから。
 そういったものも見ながら、困難の末にユッタは自身にとってのあたりを引いた。
 おそらくバッドエンド志向ではない、ちょうどいい感じで危機が来るが頑張れば全滅はしない、テンプレも嫌いではない感じの。それでいて、ユッタ自身が『邪魔』等と判断されないだろう範囲にいれる。素敵な環境を。

 結果、あたりの証拠にダンジョンという場所に来ることができた。
 ダンジョンという場所にきた事実に、危機がいつも感じているよりも感じるようになった事実に――現在の異常事態に恐怖することなど表向き以外なく、内心絶頂しそうな歓喜しかなかった。
 だから、今日も笑顔で主人公当たりを賞賛する。
 そろそろ次をハズレ見つけなくてはになりそうだと思いつつ。
 見たことあるような、ぎこちなくなった返しをする男を、その奥でなんの気持ちも切り捨てることに籠っていないためらいのない目で見ながら。
 がダメになろうが、ユッタに悲観はない。
 完全にダメになりそうなタイミングは経験から割といい精度でわかるし――

「ふふ、帰りましょう。頑張りすぎはよくないわ」

 現在、次の候補はいないが、そこまで焦ってはいない。焦らないように自制しているし、そうできる。焦ってどうにかできる能力も、発想も、己に無い自覚があるから。
 それに、今すぐには次が見つからなくとも――近くどうにでもなるような、そんな予感がするのだ。

(鈍感な私がわかるくらいだもの――焦りすぎるのは良くない。私は、うまく渡り歩かなきゃ生きていけないんだから)

 ユッタは、自分を信じている。
 ユッタは、自分を幸福だと信じきれる。
 何が足りなくとも、それが必要だから足りないのだと確信している。

 天才的な頭脳がなかろうが。
 誰もが恋するような美貌がなかろうが。
 誰もがひれ伏すような力がなかろうが。
 誰もを説得できるような話術ができなかろうが。
 PTの誰よりも強さもろもろの限界が近かろうが。
 あらゆる点で一番には決して届かないどころか、努力したとしてもそこそこ程度以上になれないのだと知ってしまっても。

 賞賛され、羨ましがられるような綺羅綺羅しく羅列されるそれらが、必ず幸せにつながるわけではないのだという事を知っているからだ。
 運よく、いくつも見てこれたからだ。

「……そうだね、ありがとう。ちょっと焦りすぎてた。ユッタの笑顔を見ると、いつも通りって感じがして、なんだか安心するよ」

 目の前の、ひきつったような、どこか諦めたような笑い表情をする主人公おみくじよりましだと思うからだ。

「足を引っ張ってる私が言えることじゃないんだけどねぇ。笑顔だけは特価で販売してるからもってって?」

 周りで知らぬままキャラクターをやっている、自分よりずっとずっと優秀なはずの仲間たちを見れば、強く実感できるからだ。

「いやぁ、足ひっぱってはねーでしょ。ユッタみたいな明るさ担当は必要だろ?」
「あー、明るいだけだっていいたいんだー。電球扱いなんだー。エルマーったら酷いんだー。フラッシュライトユッタだって思ってるんだー。ホラーゲームのお供なんだー」
「ちょ、そういう事じゃなくて……というかお前の方が酷いこと言ってね……?」
「マルゴットやめな。あんまりからかっちゃエルマーはあとからめんどくさいことになるの知ってるでしょ。割と気にしいなんだから」
「あの、それはそれで酷いと思うのですが……? 普通のフォローして……?」

 ユッタは仲間と会話に包まれながら、幸せそうに笑った。
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