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蠅と宇宙は会話ができない1
しおりを挟む「キャラ、貴方の『趣味』は知っていますけれど、まだ同類が生まれてもいないのに、終わりが確定している世界のそれを加速するような事を積極的にやろうとしているのはなぜです?」
声には棘がある。
気に入らなければ刺し殺してやろうというほどに鋭い。
それは単なる怒りというには粘着質でいて怨念めいている。とても、若いものには出せそうもない積み重ねのある殺意のように思えた。
ただ、それに反して姿は若い。
それは、話しかけたほうも、られた側もそうだった。
「私には私の楽しみ方というものがある。君はそれを邪魔するのかい?
お互いを邪魔しないのがルールでしょう? 加速してる終わりが早まりそう! って君はいうけど、それだって単なる推測だろ?」
殺意にまみれた男――スカウトの周りが、そのにやにやとした笑いに乗せられた言葉に反応するかのようにびりびりと震え出す。
それに反応したか、一斉に飛び立った虫の中、近づきすぎた虫がパン、とはじけ飛んだ。
言われていたキャラという女は、にやにや笑顔を基本としつつそれに嫌そうな顔という器用な真似をする。
「邪魔してるのはてめぇらだろうが――! ウォッチャーもてめぇも、手を出しすぎた結果がこの同類の人数の少なさなんだろうが……! 産まれる前に終わらすつもりかって言ってんだよ……! 前例がある以上、意図的にみられることがわかるだろうが!」
「やめてくれないかなぁ、汚れるの、嫌なんだけど……別に、君の邪魔してるつもりはないんだよ? それだってわかるだろ?」
キャラが肩をすくめるのを見て、更に殺意が膨れ上がる。
かといって、キャラがそれを見て構えるようなことはなかった。まるで、仕方ない子供を見るような視線。お互いの感情には大きな溝がある。
「私だってさぁ、同類がいたほうが色々できることが増えるし、生き繋げる可能性が増えることくらいはわかってるんだから、一応ダメなラインくらいわかってるってば。ハイハイ基本ルール基本るぅーるぅー……私たちは『趣味』が全てだ。でもわかんない? 割と気にしてるんだけどなぁ?」
「かち合ったら消し合いしかねぇってこともわかってるから気にしてるふりしているに見えるっていってんだよ――俺の目的を潰す形で重なるやつが多すぎんだよ。みんな似たようなことをいいやがる。てめぇだけが違うとは思えねぇ」
「逸りすぎってんだよ――寿命のくびきから逃れるっても、成長やら経験手に入らなくなるわけでもなかろうに。君、変わらなすぎじゃない? 拘りにひっかかってるってもさぁ……いや、人っぽいまんまなんだぁーっていや、そうだなんだけど……羨ましがればいいのか、それともお仲間が能力を超えたストレスで禿る心配をするべきなのかな? 抜け毛は我らの力を越えてしまうのか! 禿ましたら励ますね?」
そういう空気でもないのに、一応頭髪を気にしてしまうのはサガのようなものだろうか。
どことなく一瞬シュールな空気が流れるが、それで誤魔化されるわけもなくすぐに元に戻る。
「第一、世界はこんなにある。世界ごとに1人という決まり事だって、私たちが勝手に考えている法則であっていつまでもそうだとも限らないし、近似世界でいつだってそうだとも限らないとその1番力を持つウォッチャーがいっていたじゃあないか。そも、同類が生まれなくなる可能性だっていつくるかわからない。
――というかさすがに抑えろよ。お前の方が台無し確定にしてどうすんだよ。私だけじゃなくて他のも手入れしてんだから、さすがにそれはお前の方がぶちぎれられるぞ」
ガラスがこすれ合うような、ごりごりときしみあって歪みあうような、聞いているものに不安と焦燥を生んでしまうような。
そんな不穏な音。
そして何か、蜃気楼のようにスカウトの周りの空気が歪み始めていた。
見逃せない事だったか、笑顔がひっこんでいるキャラの冷たい視線と忠告に、はっとしてスカウトは自分を抑え込む。
音が止まり、空気が平坦に戻っていく。
「失礼しました」
「……ホントにねぇ。君、ある意味私たちより壊しちゃうの気にしないっていうか……不安定すぎるの、治したほうがいいよぉ? 落ち着け落ち着けー? 探すことにしか興味が持てないのになんかちょっと憤ってる? 感じなのはわかるけどさぁ、ちょっと直情的すぎるんだってば。もっとひろーく色々なことに興味を持とうぜい!」
さすがに、今まさに台無しにしようとしていた側がからすればその皮肉交じりの言葉には反論できそうにもなかった。
スカウトだけではなく、共通の認識としてこの世界はもう崩壊の――世界として終わってしまうのが確定しているのだ。世界が終わる! などというと安っぽく聞こえるかもしれないが、そうとしかいいようのないもの。全部が終わりが着た瞬間無くなって、お片付けされて、なくなってしまうという事。
今いる世界は、スカウトたちの認識ではどうやっても折ることのできないそのフラグが立ってしまっている。遅いか、速いかの違いだ。
そして、スカウトたちにとってはその遅いか早いかの違いはとても重要である。お互いの楽しみのために。
スカウトがあれ以上力を感情に任せて出してしまえば、それはフラグの回収を加速させることに他ならなかった。一応、仲間としてお互い認識はしているが、関係は薄いのだ。やからしたものには厳しい部分がある。
スカウトは自分がこの中では中の上程度でしかない自覚もある。ある程度やらかしても消されないのは、力があるものだけだ。冷静になれば、さすがに自分が終わりをただ激情によって加速などしてしまえば――勢いあまって終わらせるなどしてしまえばカクテキ的に逆に周りの激情によって処分されてしまうだろうと理解でき、さすがに少しひやりとする。
「というかだね、力が分散しちゃいそうだし、それだけ個体が生まれると崩壊が加速しちゃう! 変な個体が生まれたら大変!
っていってるけど、むしろ、私のしているこれは考えようによっては崩壊じゃあなくて辿るべき工程を加速して生まれやすくしている作業ともいえるんじゃない? ほら、温度高くしてるんだよ。煮詰めているんだ。煮詰めれば、濃くなる。いいキャラクター……同類が生まれるのだって早くなりそうじゃん。私は楽しい、生まれて嬉しい。まさしく一石二鳥じゃん?」
「……つくるのが好きなだけなんでしょうが、貴方は。うまれなくとも楽しんでしまえる生き物でしょうが」
少し冷静にはなったし、失敗しそうになったがさすがにごまかされないぞと、にらみつける。
スカウトが返した言葉に対してか、キャラから、ぃひ、という気持ち悪さを感じる喉から思わず出たという笑いが漏れでていた。
すでにキャラの顔はにやにやとした笑いが戻ってきている。
「いやいや! それにさ! 我々のなりそこないのように見えたって、そこから新しいタイプのものも生まれるかもしれないよ!
我々のような逃れるための人類の形じゃあなくて、それこそ本当に救世主のような。私たちを越えた何かが! あれをどうにかうまい感じにどうにかこうにかして私たち万歳みたいな流れにできる感じの! なんか全部怖いのとか心配ごとかなくなってハッピー! な感じにしてくれるような?」
顔をしかめる。
不快で嫌いで生理的に無理な生物を思わぬ場所で見つけたような、そんな顔に近いだろうか。
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