194 / 296
鬼の首12
しおりを挟む竹中工大には特に仲がいいと思っている異性の友人が2人いる。
最近になって、そういう風になれたらいいなという同性の友人が1人できた……その本人が友人とみてくれているのかはわからないが、少なくとも竹中は『どういう関係?』と聞かれたら『友人』とはっきりと答えるだろう。
「俺はお茶漬けが好きなんだ」
「……変化球過ぎない? 竹中ケンとお茶漬けメーカーの名前につながりがなさすぎてちょっと悩んだよ……」
当該の人物である、雨宮啓一郎という男は、自らと違ってとてもたくましい。
たくましいというか、おかしい。
言葉に絹を着せないのであれば、異常という言葉が似合うだろう。
初めてこの男を竹中が見た時は、そこに鬼か何かがいるかのように感じた。
確かに人の形をしているが、人ではないような圧がある男だと。
いるだけで、周りを屈服させてしまうような。
異性の友人関係のあれこれで、気配だとか殺気だとかが漫画や創作だけの話ではないというのは身をもってしっているが、それでもその男は今まで感じたことがないほどに強い存在だった。
きっと、反発するか屈服するか、どちらかによらずにいられないような気持ちになるだろう、こんなものに始めてあったならと、そう確信できた。
竹中自身、恐怖を持ちながらもそう冷静よりに判断できて、興味を持つことができたのはやはり慣れがあったからだ。
そういう、『少しずれたもの』の気配に。
「お茶漬け出すか?」
「帰れって言ってる……? というかここ俺の部屋なんですけど、どこに帰ればいいんですかねぇ……」
1人が似合う男だった。
似合うようになった男でもあると思った。
似ている人間を知っている。
神田町代子という女がそうだ。
浅井祥子という幼馴染を通じて友人になったその女に、似たような感想を覚えたものだ。
諦めである。
1人でもきっと平気なのだろう。
だって、彼らは強いから。
でもそれは、2人以上であることが楽しく感じないというわけではないことを、すでに竹中という人間は知っていた。
知っていたし、神田町という人間を幼馴染と絡んでいる場面を客観的に見た時に不器用そうでありながら、どこか楽しそうに、しかしそう思う事を封じ込めるような様子でひきつった笑いをしたようなものを見ているのだ。
諦めだった。
それはきっと、無くなってしまうものからの逃避だと思った。
「最近、神田町ちゃんとずっと仲良く漫才するようになったね」
「ボケとつっこみ的な意味で言っているのなら、お前の方がよほどなんだが」
「俺がツッコミに忙しいのはボケの数が多すぎるからだよ……?」
竹中工大という人間は、後悔のある男だ。
力がない。
頭がいいわけでもない。
勇気も、大事な場面で出すことができなかった人間だ。
特に目立った生い立ちでもない。
いいも、悪いもない。
悪い寄りの、でも悪すぎない中間寄りの人間で、異性の友人2人や、目の前の同性の友人1人に比べれば一緒にいるのがおかしなくらい平凡。
でも、だからといって異常よりの人間と共にあることが間違いだとは思っていない。
「良かったよ。そんなに笑えるようになって」
「……お前は近所のガキを気にするお兄さんか何かか」
「そんな筋骨隆々のお子様がいるかよ……!」
「お、おう。そんな必死に突っ込むとこじゃなくないかな……?」
竹中は、一緒にいる自分という存在を相応しくないとは思わない。
必要なのだと思っているから。
『君たちはただの人間である』というのは、きっと自分のような人間でなければできないと考えているから。できないわけではないのだろうが、強いもの同士では難しいと。そもそも、竹中のような存在がいなければお互いが付き合うことも稀だったろうからと。
ぽつんと、1人ぼっちで強く生きなきゃいけない強い獣に見えた。
でも、その目は誰かを求めているとも思った。
自分のようなやつくらい、そうできてもいいんじゃないかと思った。
神田町にしても、啓一郎にしても、ただ存在が強いだけで、恐怖を感じたとしてもおびえ続けなければいけないような人間でないことくらいは少し話せばわかるから。
「人の事を気にするのがいいが、お前のほうはどうなんだ」
「と、いいますと」
「浅井のことだよ。進展させないの?」
「……あれ? あなた、そういうのわかる人でしたっけ?」
「俺の事を何だと」
そうできない人間のほうが多いのは仕方がない事だと思う。
そういう人間に会えなかったのは不運だとも思う。
自分が特別な人間でないことを竹中は自覚している。
そんな人間が今まで啓一郎とう人間の側によれなかった者どもとなんの違いがあるのか。
竹中には、ただ1つ、その心に巣くう後悔があったというだけの話だ。
その後悔がとても恐ろしくて、恐ろしすぎるから、目の前の恐怖を押し殺してしまえるくらいに怖いから。
「……まぁ、その。向こうはわかってないっていうか? 代子たんラブ勢っていうか」
「たまにジョークに思えなくなるんだが」
「俺も……そうじゃなくても、俺じゃ多分駄目だからなぁ」
「そうか……もやしだからか……」
「そんな道端で枯れた花を見かけたような寂寥感に襲われてるみたいな視線で俺を見るのやめてくれます……?」
後悔が消えるわけではない。
消えるわけではないが、こうして仲良くしたいと思った友人が笑えるようになった手助けにもし慣れていたのなら、少しだけ救われると竹中は思っていた。
過去を取り戻すことはできない。
戻ったところで、戻って行動できたところで、1度行動できなかったとういう事実が己の中から消えるわけではない。
けれど、増やさないことはできる。
そうできる自分の事は、少しだけ褒めてもいいと、竹中は少しだけ思えるようになった。
「まぁ、いいんだよ。これで、今は」
「お前がいいなら、いいけどな」
「そんな、率先して気にしてくれるようにまでなって……心が広くなったねぇ」
「会うたび大きくなったねぇとかいう親戚かなんかかお前。近所のあんちゃん的な位置から高速で間を詰めてくるんじゃねぇ」
啓一郎は最近明るくなったと思う。最初からマイペースだったから、きっと周りからすれば何も変わっていないと思われるかもしれないが、大学に入ってからの期間でしかないが近くで見てきた竹中にははっきりわかる差だ。
それは完全にではないが、諦めが消えようとしている目だ。
きっとそれは、神田町という存在が大きいことを知っている。その神田町も、お互い影響し合うように最近もっと楽し気になったことも知っている。
それでも、少なからず自分が影響していることも知っている。最初から、どうでもいいとは思われていないことも。
前より、壁が感じなくなって、ちゃんと仲良くしてくれている事がわかる。そうしようと思ってくれていることがわかる。あえてまっすぐ指摘はしない。茶化すくらいがちょうどいいのだと竹中は知っている。
周りが見るより、ずっと不器用なのだから。
楽しい方がいいのだ。
普通でも、そうじゃなくても。
竹中は、啓一郎にしても異性の友人2人にしても、そういう風に思われる時間を作り出せる自分でありたいと、そう思い続けている。
少し救われた気分になれるから、と思ってしまう己を嫌悪もしつつ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる