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あい すてる らぶ うー6
しおりを挟む「簡単に認めてくれているようで、求めてくれるだれかって、結局欲しいものなんかじゃないのよ。
代用品にしても、それは酷いものなの。ほとんどの場合がね」
口から出た言葉は果たして、どういう意図のものだったろうか。
諭すもののようで、自嘲でしかないようにも思える。
海は、聞いているのかいないのか、下を向いたままだ。
千都子自身、よく理解できていない。
そのまま話し続ける。
「『自分は大丈夫』巨大化したプライドと、積み重ねてきたくだらない維持が、ありがちなこれをなおさら強固にそう思わせる。
大丈夫なんかじゃない。
大丈夫なんかじゃないんだ。
人は間違う生き物だ」
とつとつと話される言葉は、一方的だ。
立場が逆転しただけのようだった。
その、繋がっていないとしか思えない話も。
「間違ってもやり直せる生き物だって、みんなみんないうけど。
そんなことはないんだ。
なくしたものは戻ってこない。
間違え方を間違えると、戻ってなんてこれやしない」
海が顔を上げている。
表情は、やっぱりわからない。
それでも、千都子は笑って見せた。
「やり直せているように思うのは、それこそひどいごまかしだよ。
『人間はいつからだってやり直せる』『自分の人生はいつからでも始められる』
綺麗な綺麗な言葉だよね。
自分さえ、本当はごまかせていないくせに、他人を巻き添えにするような酷い言葉だって私は思う」
ずっとずっと、千都子がいわれてきた言葉でもある。
他人も、本も。
綺麗な言葉を並べ立てて、そういうことばかりをいう。
それらに対して、なんのためにもならなかった、と千都子は感じている。
何の助けにも、なっていなかったと。
少なくとも、千都子という人間にとっては。
「現に――私にはもう、我が子を産む力はないし、その資格も無くなった」
繰り返した結果だろうか。
それは、自分自身にもわかっていない。
違うと、そういわれても、心の底でそうだと思ってしまうことが原因だったかもしれない。
とにかく、何が原因であろうが、そうなったという結果だけが千都子に残っている。
だから、今回の事で、なおさらその資格がないと思ってしまった。
可能性は、いくばくか残っているかもしれないなどといわれても。
「『反省したんだから大丈夫だよ』?
反省? 誰が!
後悔だ! 後悔でしかない!
ああ馬鹿なことをしたな
だけで終わるもんか!」
叫んだ。
幸せになりたいと思った。
不様に縋って、ゴミみたいなものに。
そのゴミのようなものにさえ捨てられて。
それでも、だからこそ、今度こそはと。
子供と、自分と、ただ認めてくれる人がいて。
そんな中で、もし家族というものをつくることができたならと。
許される気がしたのだ。
これまでの全てに。
いいよと、言ってくれる気がしたのだ。自分自身に。
結果、全てなくなってしまった。
(過去は後ろから追いかけてきたんじゃない。ずっとずっと、すぐ後ろから見ていた)
「どうやったって、消えやしない! 消してはいけない!
後悔が消えた時は、きっと新しい私の始まりなんかじゃない。
それはもう、私とは別の何かだ。
それって、死ぬのと一緒でしょ」
笑顔をつくる。
捨てられて、考えて、立ち直ろうと思って。
いつからかやめていた笑顔をまた作った。
似たようでいて、前とは違う。
強制されたものでも促されたものでも、期待にこたえたいからでもない。
ただ、自分のために笑ってみようと思った。
「私は、私は。
こんなざまになっても、それでも死にたくはない」
死にたい、と思ったことは千都子にもあった。
最初が特にそうで、捨てられてからもそうだった。
それでも――恐怖が勝ってきた。
生きたいという意思が。
「ねぇ?
傷のなめ合いにしたってさ、深さが違うなら飲み込んじゃうんだよ。
なめ合う相手は選ぼう?
君はまだ、ここまで終わってないし、終わらなくたっていいんだから」
まだ、間違ってないのだ。
きっと、言いたいことはこれだけだった。千都子という、先に踏み外したものから海という家族にとらわれて破裂した少年に言いたいことは、きっとそれだけ。
別に、千都子は海という少年が嫌いだから拒絶していたわけではない。
きっと、これがありふれた少年なら、若い日の苦い思い出ですんだだろう。
もっと、海という少年が深く踏み外しそうに見えて、それが千都子が寄り添う事で慰められるならー―きっと千都子はそうしたかもしれない。
ただ、海という少年は傷ついただけの子供に見えた。
濃さは整えられてしまうように。
自分といると、なおさら汚してしまうと、そう思ってしまったから。
共感した。同情した。同じな部分もある。
子供だということもある。
千都子は、子供に手を上げることも、否定することもできない。
いつの日にかそうなっていたし、なるべくためになると決めていた。
だからだ。
千都子自身に不都合があるから拒否していたという事ではないのだ。
少なくとも、千都子にとって続けた拒否は、相手を思ってのものだった。
海は無言のまま、また下を向く。
千都子には、その表情を見ることができなかった。
すっと、立ち上がって、そっと部屋をでる。
顔は上がらず。
声もまた、かけられることはなかった。
数日後、千都子の元に連絡が届いた。
訃報だった。
自室。力が抜けて、座り込む。
(どうして)
千都子に去来する思いはそれだけで埋め尽くされる。
後ろで子供が泣く声が聞こえる。
1つでないそれは、不協和音を思わせる。
ぺたぺたと触られる感触がする。いつも通りに。
すぃ、と視線を這わせれば。
1番後ろに――顔の見えない新しい子供が1人、そこにいた。
そう分かった瞬間に、千都子の意識はブラックアウトして――目が覚めれば、知らない場所にいた。
ここが地獄か、と千都子は思った。
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