十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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どうしようもない話

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『本当に彼には詳細を言わないんですか?』

 遠く離れたもの同士。
 けれど、鮮明にそのやりとりはお互いに伝わる。
 片方は多少丁寧に、もう片方は偉そうに。

『知ってどうするのかね? 邪魔をするでもあるまいに』
『人並みに興味を持ってはいけませんかね』

 含み笑い。
 質の悪い冗談を聞いたような、あまりよくない笑い。

『人並みの興味? 君が? 嘘を言っちゃあいけないね』

 数舜の沈黙。

『……嘘という訳でもないんですがね』

 再び、笑いが漏れる。
 子供のウソをほほえましく思うよな、どうにも下に見る笑い。

『気にしているふりだよ、君のはね。同胞探し狂いの寂しがり屋。
なぁスカウト。
君はあの子供に興味を持っているんじゃあない。あの子がまだ不安定にすぎるから、まだちゃあんと同胞として加えきれたのだと、そう実感できないだけだよ。
まさにスカウトの途中だと、君の中からその感覚が抜けていないんだ。
彼が君にとって大人に、つまり他の同類と同じように思えるようにでもなったなら、きっと君はいつも通り平坦に戻る。それこそ、死のうが、生きようが、楽しもうが、苦しもうが。君は即座に次を探し始めるさ』
『…………』

 諭すような言葉。
 何を思ったか、返される言葉はない。

『当然、それが悪いという訳ではない。あの子はふらふらしている。とてもあいらしいよ。が、それ故に突き抜けられもしないし、私たちのようなものに使われてもわからない』
『だから、騙しますか』

 うんざりしたような空気。

『騙す。は人聞きが悪い。実験だよ。彼にだってちゃあんと、そう伝えていることは知っているだろう? 趣味だけの話ではないんだよ? 一応、全体にとっても意味があることだ』
『不満たらたらなのは間違いないと思うんですがね。力が劣っているのは自覚してる。だから、言えないって話で』
『自覚しているのはいいことだ。そうだろう? そうじゃなければ、君が興味を持ってあげなかった集めるままにした幾人かの同胞のように、もういなくなっているさ』
『できると、そう思っているんですか?』

 ちぐはぐの会話。
 痛いところを突かれているか、答えたくないところにスカウトは全く応えようとはせず無視して問い、相手はそうするスカウトを咎めぬままに話を進めていく。

『さてね。それを含めての実験だ。なにより、彼の安定しなさというものがここにきて作用する。彼は子供だ。そういった大きなことを、自分サイズに貶めることに躊躇ないなんて持っていない。疑問もまた、抱かない。私たちもためらいはないが、それとはまた違った純真さだ。だから、可能性というものは生まれると思うよ。
子供で、不安定が故に、その揺れ幅が時に私たちを超える瞬間だってあるさ』
『スイッチが入れば、我々は対抗できない。我々を多少超えた程度で、終わりなんて大きなものをどうこうできるわけもない。そんなものを、こうすればなんとかなるんじゃないか程度で無茶ぶりしようとしている』
『もちろん、サイズは小さくしているさ。というか、そうせざるを得ない。我々複数人で取り掛かって、なんとかそうできた分だけだね。それでも、他の世界なら十分脅威で、終わりの引き金にはなるけどね。私たち自身にも、それ自体を置くことはできても消すことなんてできない。
しかし、それをさらに、貶めて貶めて、人間のできごとにまでしてやろうというのさ』

 とても上手い冗談をいってやった時のように、くくくと自分の言った言葉に自分で笑う。
 スカウトにすれば、下手な冗談を聞いた気分にしかならない。
 スカウトは、それができると思わない。

『くだらない、ですか。貴方は、人の物語が好きなのではなかったんでしたっけ?』
『そうとも! そうだとも。それこそ私の拘りさ。だから、くだらなくともそうでなくともいいんだ。私が直接その話に関わりさえしなければ、なおの事。舞台で上がってくれさえすれば、踊ってくれなくてもいい。それはそれで、愉快だ』

 相手のこだわりをつついてみても、なしのつぶて。

『できる前提だと、彼は信じていましたよ。そうじゃないことくらいは、気付いてしまいましたが。できないことを大丈夫だからというのはやはり誠実ではない』
『うーん? 絶対できないなんてことは私も思ってないよ? できたほがいいと思っているさ。
だから一応我儘だって通してあげたじゃあないか。最初は、彼のサポートさえない予定だったんだから。最初はもっと最低限度だけのはずだったし、余計かなと思ったけれど。
あれはあれで楽しいかなぁと思いなおしてね――他にも配慮はあるよ。彼にはランダムといってあるし、彼の世界を最初にしたし、同じ国の人優先という要望も叶えるつもりだ』

 対等だろう? と見えないままにしている相手が、なんとなく肩をすくめるような様子が目に見えるようだった。

『しかし、貴方の実験に選定する人物まで、完全なるランダムとはいっていない。事実、基本的な選定が他と違う。そのことを本当に伝えないのですか?』
『サプライズだよ。彼に近しかったり、少し似ていたり。親近感も、無意識でもわきやすいだろう? それでこそ、力も作用しやすいというものさ。むしろ喜ぶんじゃあないかい。興味がある人間や、似たような人間が同じ境遇にでもなれば』
『怒る可能性のほうが大きいと思いますけどね。だいたい、そこまでやっても、成功例が出るとも思えませんがね』
『いやいや、まぁバッドエンドも嫌いじゃないからそれはそれでよろしい事だが、馬鹿にしちゃいかんよ。人は乗り越えられる生き物さ。
そうだろう?
自分たちサイズにまで落としてやれば、なんとかできるやつだってでてきておかしくないもんさ』

 暖簾に腕押しとでもいおうか。
 覆りはしない。
 相手は、もう決めてしまっているとわかっていた。素通りするだけだった。何を通そうとしても。

『こんなものはクソゲ―だーなんていって、自分の関りを否定したがって。こちらにも名前で文句を言っている。子供らしいよ。可愛らしい、小さな小さな反抗だ。ゲームだ、と思って現実が見えていないようなままな所もね。
しかも、自分も同じ視点に立つというじゃあないか。元より、そちらの視点に立つとはいっていたが、そこに飛び込むとは思わなかった。
もしかしたら――もう一歩、私たちよりも進んでしまうかもしれないよ? その時、私たちはどうなるだろう。復讐でも志してくれるだろうか。トップにでも立とうとするだろうか。それとも興味すら失せてしまうだろうか?
それとも、先に進んだ先は弱体化か、他の何かになることかもしれない』

 同じといいつつ、力もってるんだからスタート位置は全然違うけどねぇ。と笑う。

『君はそんな彼を見た時、何を思うんだろうね?
まぁ、できない可能性も当然ある。
どう転んでも、私はおいしい』

 そういう声は、わくわくしている気分を隠そうとしないものだった。
 いつだってスカウトはそれを不快に思う。
 子供扱いするこいつらが、それ以上に子供らしい。
 その声は、まるでおもちゃを前にした子供のままでしかないからだ。
 冷静ぶったりしても、所詮は。

 同類たちは、いつだってそういう存在だ。
 やはり、あの少年のほうがまだまともに思えた。
 自分も、同類たちと同じだと思うと、変に笑いが漏れそうになる。これらより、少しはましだとは思ってはいるが、同じ穴の狢であることも自覚しているから。


『……成功したらしたで、やりたいことができなくなるとは思わないんですか? 制御できるもんじゃないほどのものだった場合、簡単につぶされる事だってあるでしょう』
『それはそれで、次にいかせばいいのさ――ほぅら、世界はいっぱいある。世界は数えきれないほどあるんだ。次に行くのくらいは簡単なもんさ』
『やっぱりあんたらは、俺よりよほど性質が悪いよ。趣味もな……というか、彼自身も参加するって、調整っていうか、運営? みたいなことは誰がするんです? 同類の誰か……はやりそうにないですよね?』

 そんなものどもを集めている自分を棚に上げてスカウトは言う。
 どういっても、相手は揺るぎはなしなかった。

『なんてことなく壊しまくってる存在よりは、よっぽどいい趣味しているだろう? お互いさ……確か、どうでもよさげな奴を引っ張ってきてやらせる予定……だったはずだよ。まぁ、いなくてもある程度問題ないつくりはしている。我々も関わっていることだし』

 どうしようもない話だ。
 どうしようもない力をもった人間の、どうしようもない話。
 きっと、始まった後は直接関わることもないのだから。

『というか、なんでこの仕組みでコミュニケーションツールが掲示板なんだい? まぁ別に大した問題じゃないし気にしなかったけど。スカウト、君、聞いてたりする?』
『……掲示板は多分最近ネット掲示板を教えてもらって覚えたからっていうのと……会話手段がないのは、何か制限の意図とかじゃあなくて、話にならない奴もいるっていうことを覚えちゃったからじゃないですかね? 嫌悪感? 多分ですけど』
『あぁ――だから、こんな無意味な規則があるのかね? 見落としが多いからちぐはぐだけど』
『そうですね。ぶちこんどいて、暴言は制限あんまりないのに住所も本名もくそもありませんからね……無意味な長文を規制したのは、多分自分が不快に思ったからかな?』
『ずれてるなぁ……そういうのが楽しみを生み出すかもしれないからいいのだが』
『ずれてますねぇ……我々に言われちゃおしまいですけどね』
『いうねぇ』
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