134 / 296
イリベロトスドルイワ10
しおりを挟むそもそも、と空中に何かがあるようにゆっくり座り込んで少年は言う。
気だるげに頬杖をついている。どうしようもないなこいつという目で天秤を見ている。
「お前がいう所の終わりとはどういうものとしてみたわけ?」
「人が、人類がいなくなってしまう! 俺が終わってしまうんだ! 世界が終わるんだよ! そんなこと、きかなくたってわかるだろう! 人をどうにかして救うんだよお前が! そうしろよ! 人類を終わらせちゃダメだろ!?」
天秤の答えに、少年の馬鹿をみるような目が深まる。
「いや人類て」
はは、という笑う声。つい漏れたというような。
嘲笑であった。
それは、今まで少年を見て、知り合った人間からすれば1度も見たこともないし、想像できないわかりやすく自覚して見下しているという表情だった。
「別に、人類が滅ぶくらいのできごとなら、世界なんて終わらないよ。そんなの、僕でなくたってどうにでもできるだろ? 中心の生物が、交代するだけの話だよそれは。あぁ、だから、こんな希望だのと称して、キュウセイシュガー! とか騒いでストレス解消してたわけ? 呆れるなぁさすがにさぁ」
天秤は喋れない。
絶句しているというわけではなく、立てないことに追加されて、縫い合わされたよりひどく、まるで最初から口などなかったように、開き方がわからない。
「世界の終わりってのは、文字通りなんだよ。ここが全部なかったことになるってことだよ。中心となる生物の交代とかいうイベントじゃないわけ。わかる?
宇宙ってやつが1つ終わることなんだよ。そのスイッチが押されるって事。その条件を踏む? そういうことらしいよ。
そんなの、1生物じゃどうしようもない。カミサマが決めた事なのだから。僕らが思うものではない、カミサマとかいう、人はそう呼ぶしかないような、そんなどうしようもない超常的な存在が決めている。
その超常的な存在にとってはありふれた終わりの1つでしかない」
そこまでいうと少年は立って、どうにもできない天秤に歩み寄ってくる。
「人が毎日どこかでたくさん死ぬように、いくつもいくつも世界は簡単に終わってる。この世界の終りもそんなたくさんあるうちの1つでしかなくて、そんななかで産まれた僕だって、そんなちんけなサイクルの1つでしかないんだよ。止められるほどの力なんて、もてるわけないだろ?
最後に残ったミジンココロニーの危機にミジンコという生物がなんとかしてミジンコヒーローなる存在が生まれました。ミジンコの世界では大変優秀で、なんと味方を癒し続けることができます。力を与えることができます。何倍も大きい蟻すら滅ぼす力を出すことができます。言葉だって話すことができます。知識を与えることもできます……」
それを、天秤は絶望した目でみていた。
恐怖した目でみていた。
近づくなと、近づいてこないで下さいと思っていた。
「おもしろいけどさぁ。めずらしいし、ありえないことだろうけどさぁ……ほら、それが、人にとってどれだけの脅威かい? せいぜい、珍しいな、捕えよう。そのくらいじゃないか? 宇宙にとっては? 太陽がそれで壊れたりする?
なんだっけ。スケール? それが違すぎるでしょって話?
僕は頭が悪いから、たとえがうまくできているかわからないけどさぁ、つまり、そういうもんだってことだよ。僕も、それ以下のお前もさ」
ただただ、自分が殺されてしまう事を恐れている目であった。
なおさらくだらないものを見るような目になっていくのが、その奥で渦巻く焼きつくされてしまいそうな激情が、正面で見ているしかない天秤にはよくわかった。
希望も、絶望も。
天秤にとっては、楽しい事だったはずなのに。
自分がそちら側となった今は、ただただ怖かった。
「あぁ、はは。なんだ。やっぱりそうなんじゃないか。結局、色々御大層なことも言って、考えてたみたいだけどさぁ……お前が死にたくなくて、一方的なヒトゴロシが好きだったってだけの話だったんじゃないか。馬鹿らしい」
目の前に、少年が立つ。
ひぃっと声が漏れる。
気付けば、喋れるようになっていたことにそこで気付く。気付くが、口は言葉を紡ぐ気になれなかった。
足も動く。動くが、立ち上がる気になれなかった。ズボンがびしょびしょに濡れている。いや、全身が濡れている。
「……そうだな。先生さんが、君を殺したいみたいだし――とても強く願っているみたいだから、ゴミの始末はそっちにさせてあげようか……正直、お前なんて今すぐ消したい気分だけど……
本当、大違いだよねぇ、同じなりそこないでもこんなに違う。目を向けなさ過ぎたのかなぁ。なりそこないなんて、僕からすればそうじゃない人たちと同じだからって、無警戒過ぎたよなぁ……」
さらりと、なんともなしに少年の手がふられる。空気を撫でるように。
ほこりでもはらうように。
「……!?」
衝撃だった。
力が抜けていくことに、ではなく。
全能感のような気持ちがなくなっていくから、ではなく。
思考がやけにスピードをなくしていくから、ではなく。
産まれてから、ずっとこびりついて、おびえ続けていたどうしようもない特大の嫌な予感が、感じられなくなったからだ。
「あ……あああああああ!」
嬉しかった。
悲しかった。
どうしようもなかった。
ただ1つではない感情が暴れ出す。初めての気分だった。
ただ、解放された気持ちだった。
どこか、手が届かなくなったという気持ちと、同時に壊れた器が満たされた矛盾のような、しかし悪くはない気持ち。
きっと、救われるとは。
求めた救いとは、こういう。
「あ、別にお前を助けてやるつもりはないんだよね。なんかちょっと幸せそうな顔? なんてしないで欲しいよ。話を聞かないやつってむかつくって今回よく理解できたし、お前みたいなのの手は取りたくないってのもわかったし、ね」
もう1たび、手がふられた。
そんな気分が、洗い流される。
とても小さくなる。
逆流していくような気分で、何かのそばにいることに天秤は気付く。
いいや、初めから何かはそばにあった。
大きすぎて気付くことができなかった。自らという存在が矮小すぎて、相手を視界に入れることすらできていなかったのだということにそこで気付いたのだ。
眼前に広がる光景は。
天秤には極彩色の霧のようにも感じる、巨大な何かである。
これはなんだろうか。
これは、なんだろうか?
吸い寄せられる。近づきたくないのに。
まるで、食べられてしまう。食べられたくなってしまう?
目なんて確認できないのに。
無数の視界が、こちらを見た気がした。
あぁ、今だって、手が、手の指の中から指がまたでてそれが大量にこちらを、こちらにおいでと優しい手招きが。
耐えきれない。焼かれてしまう。
とても、理解できないし、していはけない―――これはきっと。
「あああああああああ!」
「おっと、まだ死なれちゃ困るんだよ、もうちょっとくらいは、そのまま絶望してなよ。そんなもので、気はすまないけど――」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる