十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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クリア:本上 如月(ダンジョン:× 掲示板ネーム:名無し)2

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『何か質問はあるかい? 答えやすい奴で面倒くさくならなかったら答えてあげる。あぁ、ばーっと質問並べるのはやめてくれよ、うんざりしちゃうからさ』

 質問、と言われて、いくつも候補は浮かぶが、絞る。
 言われるまでもなく、矢継ぎ早に質問するつもりなどはなかった。

 相手の感じから、そんなことをすれば多分切れるなりして帰ってしまうだろうことは自明の理であった。
 わざと煽りたいか、余程余裕がないか馬鹿ではない限り、そんなことをするやつはいないだろうと如月は思う。

「そうですねぇ、こうしてお話ししているだけでもためにはなりますけど……あぁ、そうだ、お友達がどうなったか知りたいですかね?」
『お友達? あなたのお友達というのは誰を指すんだい? ちょっとわかりにくいな。あなたはいろいろな人とつながりを広げていた様子だったみたいだし。あなた自身がどの範囲を、どういうの関係を友達と呼ぶのか、頭の中を覗いているわけではないからわからないな』

 どこからどう知っているのか、ということを含めた問いであったが、どうやら一応基本的にしてきたことは理解していると思っていいらしい。

 覗けるのか? と聞きたい気分にはなったが、さすがにそれで覗かれるのは不快を覚えるのでやめておいた。受け取るのも、その結果も、自分のものであるという独占欲が如月にはある。

「じゃあ……まず、最後にいた……ヘルの由紀子さんについて教えていただいてもいいですか? クリアになっています?」

 さて、これだけで特定できるだろうか? という気持ちも込めての問いかけ方だ。
 クリアという扱いになるだろうという推測はしているが、せっかくだから本当にそうなのか聞いておこうという気持ち程度で如月は質問をした。

『あぁいいとも――うん。由紀子さんはクリアになっているよ』
(やはり、極端な変化――あの雰囲気、存在感にまでなればクリアになるのは間違いないかな? ――じゃああのサハギン氏もやはりクリアしているのか。しかし、返答が早いな。結構膨大な人数がいると思うのだが、どうやって把握しているのだろうな?)

 疑問を覚えつつも、由紀子やアベル周りの事を、今だくすぶる熱のようなモノを、もう一度燃え上がらせるように思い返す。
 一度だけ、ぶるりと体を震わせた。

「ふぅ……では、ナイトメアで一緒に行動していた――アイナさん、ルフィナさん、エレナさんの3人娘さんはどうなったか教えていただいてもいいですか?」

 如月は、自分が手を出したナイトメアのその後を聞いてみることにした。
 ヘルでは割と長く見れたが、ナイトメアの方はついつい先走ってしまう感情に流された結果、荒らして手を出した後に長く観察することはできなかったから気になっていることではあったのだ。

『あぁ、いいとも――うん。君がいなくなった後に中心の子がさんざん暴れ散らして3人ともクリアになっているよ』
「おや。クリア……3人とも、ですか。アイナさんとルフィナさんはエレナさんが原因、ということでよろしいですか?」
『そうだね。紐づいているからしょうがないよね。まぁ、友達同士で仲良くやれていいんじゃないかな。知らない同士じゃないんだし』
「ふふ、そうですね」

 壊れた価値観だ。
 如月は他人であればそれを自分の常識と照らし合わせて考えることくらいはできる。
 如月も、エレナもおかしいが、それをいいじゃないかななどといえる、この目の前の文字を出しているものもどこか価値観がおかしいことがわかる。が、それをわざわざ否定する気はなかった。

 そもそも、文字であることもあって、それが冗談か本気かもわからないのだから。つっこんで、わざわざここで相手の機嫌を悪くして話せなくなるのも馬鹿らしいかった。これでいつでも会えたり話せるので貼れば、感情を増幅させるためにいくらでも煽ったろうが。

 紐づいている、というのはおそらく従属化と呼ばれるあれが人に適応された形だろうと想像できた。如月自身はそうできるようになるだろうと推測していて、初っ端からそうされないように動いていたが、もしされたら恐らくは一緒の扱いになっただろう、とも。

 大切な友達だから、とらないでほしい。
 嫉妬。

 その結果、やることはといえば、離れないようにお人形にすることだと思えば、如月は楽しくて笑いだしたい気分になる。
 似た者同士が、友達になるものだ、と。

『ここに来た時は、少しだけ接触したけどまーうるさかったね。ヒステリーっていうのかな。感情大爆発! って感じだったよ。あなたはそういうの好きなのかな? ただうるさいだけで困ったものだったけれど。あんな負担がかかるような力を手放さず使い続けたにしては冷静さのかけらもなくてびっくりだよ。いや、使い続けて居たからなのかなぁ?』
「ふふ、それがいいんじゃないですか。抑えきれないほどの感情の本流というのが美しいんですよ……人それぞれではありますけどね。やはり、あれは負担がかかるものなんですね」
『あなたみたいな人の感性は本当によくわからないな……そら、他の生き物を人形のように従えましょうってんだから負担はかかるでしょ。一部を食って、溶かして、紐をつけて、そこに自分を流し込んで染めていくようなものさ。流し終えたって、そのままだと自浄作用というものがあるんだから、紐を外すわけにもいかない。ずっとずっと重いはずさ。それをたくさんつけるんだ。自分が自分でなくなるような感覚もあったはずだよ。実際、そうなっておかしくないというか、そうなる前に怖くなってやめちゃうのが普通なんじゃない?』
「あらまぁ、思いのほか強すぎる力だったんですねぇ……だからあんなに血涙流してたんですかねぇ……」
『まぁ、そこぐらい部分と反応して、自分で使い方をいじったみたいだしね。スキルほど安全にはならないさ』
(スキルほど、安全にならない……? スキルであれば、安全という事かな? いや、そうか。納得できるところはある……)

 スキル。
 それ自体の事を考えた時、確かに納得感があった。

 Gシステムじゃなくても、スキルというものはそのまま使うのであれば一定の安全があった。爆発するものは飛んでいくなりの形をとる。その場で爆発する類のものでも、爆発の方向性ははっきりしていて、確かにあり得ないほどに本人に被害はないのだ。燃えるようなスキルなども、使用者にその熱をそのまま伝えることは基本はない。正しいと思われる使い方と、強めるような使い方、もとからそういう被害が来るようなスキルでなければ安全は一定に確保されていたように如月は思えた。

 他にも行動の補助があったり、強化も減衰も、肉体が壊れるほどにはそのままではなったりしなかった。
 一定以上のものにはならないのは不満であった。

 だから、如月は基本を突き詰めるなどし、いろいろ試すことで応用が利くようにしたのだ。
 実際普通にスキルを使うより強くなったと思っているし、その実績もある。

 ただ、確かにそこからはスキルではあった安全は失われていた。失敗して腕が弾けとんだり、最悪体がはじけ飛び続けるような事態に陥ることもあった。
 スキルというものは、確かに説明等はなかったが、それ自体は警戒して慎重に使っていたならば怪我のリスクも低かったのだ。
 しかし、そこまで考えてもこんなところに突っ込んだ割に、奇妙な親切だとは思う。

『ともかく、そこで紐づけられていたものを開放すれば2人はクリアにはならなかったんだろうけど、まーそんなことするわけもないでしょ! って感じでねぇ。そのままを望んだからねぇ。元の場所に戻る選択をしたら無理だよっていったら即座に次を選択したよ』

 スキルはさておき、どうやら次と元の場所と選択できるらしい。如月は頭を切り替える。
 元、とはどこをさすのだろうか。
 元の世界だろうか。

 次、とはどこをさすのだろうか。
 別のダンジョンにいく、ということだろうか。

「次、とはまだまだ楽しませてくださる、ということですか?」

 元、は、どうでもよかった。
 それが元の世界でも、超常的な力で例えば過ぎ去った時間もなかったことになって元の時間に戻れるのだとしても、どうでもいい。
 今更、強く戻りたいと思う場所ではなかったのだ。如月は元の世界で何があったわけではないし、平穏に過ごしていた。特に何の危険もなく過ごしていた。けれど、ゆえに。もう、執着などなかった。

 今の如月にとっては、ここで、ここが、こここそが、生まれた場所のようなものなのだ。初めて産声というものを上げたのだ。生まれる歓喜という声を。
 そうすれば、元の世界というものは、もう如月にとって抜け殻が暮らしてきた場所にすぎなかった。腹の中の胎児が、母親が産むまでに移動した場所等に愛着など持たないように。
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