十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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イージー:偽兎の草原 工藤俊朗3

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 ガチャリとレバーを回す。

(【劣化ダンジョン移動券】現在より上の難易度ダンジョンにランダムで移動する権利――外れ)

 ガチャリとレバーを回す。

(【スペシャルな料理ロボ】プロの料理人並みの料理を注文通りに調理してくれるロボ――外れ)

 ガチャリとレバーを回す。

(【卵ペッツ:愛玩】ランダムペットボックス――外れ)

 ガチャリとレバーを回す。

(【スキル回数券】短距離転移スキル、50回分――外れ)

 淡々とイベントステージでの狩りを繰り返し。それが終わればガチャを引くという行為を延々と繰り返す。
 チャンスだ。
 俊朗は確信する。確信している。してしまっている。

 引きこもり、情報を集めて続けて結構な日数が立った。正直、まだここからでるほどに精神は安定できていない。
 それは、恐怖心からだ。

 人間が怖い。
 誰がPKなのか、顔もわからない。
 誰が襲ってくるのかわからない。死の苦しみと、鮮明に思い返せる背の痛み。
 友人たちには申し訳ない気持ちだったが、どうしても外に出る事ができないままでいた。

 それでも、諦めたわけではなかった。
 外に出ようとチャレンジしては失敗し、情報を集めて自信を付けようとしては失敗し――ポイントの使い方で物資を特定の購入の仕方を繰り返していると種類などが増えると聞いて、一時的に興奮状態に持っていける薬がでるまでやってそれを使って、などと考えて実行しようとすら考えていた。

 イージーだからということもあって、正直いえばポイントはいまだに余裕があるのだ。
 スキルは発展させるなら、ポイントだけの強化には限界があることはもはやイージー界隈では常識である。少なくとも、イージーではポイントを振るだけでは一定以上になることはできない。上限というものがあった。

 そこまでは簡単なのだ。イージーという難易度においては。ポイントでできる素の強化はやりつくされているのが当たり前という世界だった。
 雑魚を一体殺すだけで、ノーマルの階層ボスのような強敵よりも多くのポイントを得ることができる上、強化などに使うポイント自体も低い。

 今は狩れていないが、それでもこうして引きこもるまでに結構な数を狩っているし、単純強化は完了していた。
 だから、こうしてイベントクリアも特に苦しむこともなくできている。

(『お願いする権利』はチャンスだ)

 イベントステージには人がいない。死を経験したことによってモンスターに対してもある程度の恐怖はあったが、それは人に比べればまだどうにかできる範囲であった。
 そして、外れとしか思えないその権利は、俊朗にはグッドチャンスに思えたのだ。

 より正確にいえば、【お願い券】と、イベント上位報酬の組み合わせにそれを見た。
 最上位の【指定確率を一時的に上げる使い切りスキル】――ちなみに、イベント上位報酬は難易度ごとに違う――が最適だが、自分では取れるとも思っていない。狙いはそれよりも下目にある【もう一つの部屋】。前者もあまりイージーではメリットがないが、それ以上にメリットを感じれないはずの報酬だった。なめている報酬といってもいい。

 それでも、俊朗は可能性に賭けることに決めた。
 このままでは、結局動けない自分を自覚していたから。

(運営は、決してPKの、サイコパスどもの味方っていうわけじゃない。あれはきっと――俺たちPKしないプレイヤーの味方でも、PKの味方でもないものだ)

 現段階ではPKしたほうが得なのは確かだ。
 専用の掲示板しかり、スキルしかり、明らかにバフがかかっている。ポイントもそうだ。
 遊んでいる、と思うのだ。
 全員で、ここにいる全ての生物で。

 だからこそ、このまま一方的に終わりはしないと推測はしていたのだ。
 だから、予定には組み込まれていると俊朗は思った。
 自分は、それを早める形で、権利で更に自分に使いやすく追加してもらうだけだと。
 きっと交渉の仕方によってはそれができると。

(必要なのは、相手が用意した権利をちゃんと持って、こっちが、なんていったっけ――頭悪くて言葉が浮かばないけど、かわりになるものを容易さえすれば、興味を引ける――と思う)

 運営を信じているわけではない。
 運営というものには好印象を絶対的に持てないままなのは確かだ。
 それでも、それ以上にPKという存在を俊朗は容認できない。

 正義が――うんぬんという話ではない。
 これは、極々個人的なものだ。

 恨み。
 恨みだ。
 何を言っても、ただ、殺されたという事実が今もなお自分を蝕んでいて怖さを次々に生み出す装置になっていて――つまり、冷静なようでいて俊朗は全く持って冷静さのかけらもないままだった。

 恨みに飲まれたままだった。
 だから――これは、自分を変えて前向きにあろうでも、仲間を安心させようでもない。『復讐の』チャンスだと思ったのだ。
 ただそう決めてしまった今――それらはもう、頭の中で無意識に隅に隅にと寄せられてしまっていた。

(俺は――じた。開けないんだ。どうしてこうなった? PKのせいだろ。どうして俺だけが閉じたまま、こうしてなきゃいけないんだ。なんであいつらが楽しそうなんだ。間違ってる。間違いだ。間違いなんだから、だから、これはいけるはずなんだよ)

 目が血走ることもない。
 何日寝なくとも、クマができることはない。
 外身に関しての管理は、本当に絶対的に安全にできているのだ。イージーの自分部屋というのはそういう存在なのだ。

 淡々と、爽やかで、清潔感ある様子で。
 意識を飛ばすほどは狂えずとも、俊朗は間違いなく正気ではない。中身だけが、ほどよく濁っていく。
 恨みに飲まれて修正されない程度に。
 じわじわと。枠を押し伸ばすように。
 
(次だ――イベントポイントが尽きた。狩りにいこう)

 無表情に、いったん部屋に戻る。
 イージーのその特性を生かして――食べることも眠ることもしないまま、淡々と、ただただイベントモンスターを狩ってガチャを回す作業を繰り貸していった。
 機械のように。
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