シトゥルスヌーの機関車

翔子

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 フレネミー

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 ガタゴトという均整の取れた音がし、目を覚ますと、気付けばオレは、座席に座っていた。真っ黒な車内。コンパートメントの中、革張りの座席が向き合う様に二席ずつ並んでいる。トンネルの中なのか、窓からの景色は一面暗黒だった。
 
 この車内の色合い、そして、先ほどまでいた鉄道博物館での経緯を考えると、ここは……、

「まさか、オレ……シトゥルスヌーの中にいる?!」

「大~~正~~解です~~!! いやぁ、ここまで物わかりの宜しい方は初めてですね~~」

 車内アナウンスが流れ、博物館で出会った気味の悪い背広の男と同じ声が車内に響き渡った。

「ふざけんな!! ここから出せ!」

「駄目です」

 駄目だと? クソッ……。
 冷たく吐き捨てられた「駄目」という言葉が心臓にズキっと突き刺さった気がした。
 機関車の中では冷静な判断を失わせ、心を弱らせる得体の知れない重たい空気がを追い込んでるように感じた。

 初めてこの機関車を聞いたあの瞬間から、オレはシトゥルスヌーの毒牙に掛かっていたのだ。

「人を蹴落とした事について覚えておられない様子なので、よくよく思い出してみてください~~。海の底に落とすのはその後に致しましょう~~」

 アナウンスがブチッと切れると、機関車はキーッと音立てて止まった。どうやらトンネルの真ん中でブレーキが踏まれたようだ。

「人を蹴落とした事……」

 心当たりが無い。それが答えだ。


 コンパートメントを抜けて、オレはとにかく、機関室に向かおうと走った。





 おかしい……。

 夢の中で見た客車は三連だったはず。

 三つのドアを抜けても車内の風景は一向に変わらなかった。目を凝らすと同じ車内の景色が続いている。

 ぜーぜーと、荒くなった息を落ち着かせながら、オレは悟った。

 思い出さなければ……オモイダサナケレバ……

 機関車が動き出す気配は無い。このまま、客車のループに閉じ込まれ、飢え死にするしか無いのだ。

 人を蹴落とした事……ヒトヲケオトシタコト……

 目を閉じ、蝕まれた心で考えを巡らすと、ようやく思い出した……。



 利人……。



 六年前。オレが出版社に送る新作に悩んでいた時の事。
 
 オレは小説家を目指す友人、利人りひとと同居していた。利人はオレより才能があり、出す新作は次々と発売へとこじ付けた天才だった。

 正直言って、オレは利人に嫉妬していた。しかし表ヅラではその素振りは見せないよう努力した。気まずい空気でルームシェアを続けることは出来ないと思ったからだ。

 お互いアドバイスを出し合ったり、読んでる小説を貸し借りするなど信頼し合っていた……はずだった。


 一年が経って、オレより稼ぎが増えた利人は、引っ越すと言うので梱包作業を手伝ってあげた。

 書き溜めていた原稿用紙を箱詰めしていた時、オレは利人の目を盗み、一冊の原稿をオレのデスクの引き出しにしまい込んだ。それが、オレの新人デビューでベストセラーになった小説だ。



 あいつの今の状況は知らないが、出版社では二度と会う事は無かった。

 たくさんの原稿を抱えていた利人にとって一冊の原稿が消えた事に気付くことは無いだろうと……踏んでいた。


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