オリオンの館~集められた招待客~

翔子

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 事情聴取

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一月二十七日(水) 

二時〇〇分 ─────── 


 第一の容疑者

 黒田くろだ 龍三りゅうぞう

 大手・黒田財閥の資産家。禿げ頭を汗で光らせ、太い指にはエメラルドやファイアーオパールの指輪を嵌めてる、見た目通りの金持ちだ。都内に数々のビルを所有し、複合施設、老人ホーム、学校などを経営している。妻である冴子と共に、『オリオンの宴』に招待された。

「夜分遅くに起こしてしまい、申し訳ございません。二、三、質問させてください。まず、騒ぎのあった夜、あなたは何をしていましたか?」

 土倉がメモ帳を手にしながら前かがみで質問すると、黒田龍三はソファの背に体を預けながらしかめっ面で答えた、

「部屋で妻と寝ていたよ!!」

 語気を強め、ソファに激しく人差し指でとんとんと叩いている。男はやけに苛立っていた。
 しかし、顔中に汗が流れ不安を隠しているようにも見えた。土倉は、テーブルにあったティッシュボックスを黒田龍三の方へ押し出した、

「使ってください。────何時ごろにベッドに就かれましたか?」

「プラネタリウムが終わって部屋に戻り、シャワーと歯を磨き終えてすぐだよ。なんだね、アリバイとかいうものを聞こうと言うのかね?」

「まあ、はい」

「言っておくが、わしは殺してはおらんぞ。あんな男、殺して何になるというのだ」

「一応、全員が容疑者なので平等に聞いております。ご協力ください」

 土倉は黒田龍三の勢いに押される事無く、追い立てるように続けた、

「『オリオンの館』には、以前にも招待された事がありますか?」

「それとこれと何の関わりがあるんだね?」

 質問に被せる様に大声を上げる黒田龍三の額には青筋が立っていた。このままでは気分を害してしまうと考えた土倉は、慎重に言葉を選んで答えるように誘導した、

「すみません、単なる興味本位でして。過去に二度もこの『宴』が開かれたと小耳に挟みました。いやぁ、こんな豪華な『館』に、あなたなら何度もいらっしゃったのかなと思ったんですよ」

 気を良くするように笑顔でおだてると、やはり、らしく、腕を組み始めて上から目線でこちらを見た、

「三度目だ!!」

「やはり! 前回もいらっしゃったんですね? その時はどんな『宴』だったのですか?」

「人が殺される以外は変わらんよ。飲んで食べて、星のことを語り合ったりしたのだ」

「星がお好きなんですか?」

「そうだ。世界で三つしかない望遠鏡で時々星を観てるよ」

「素晴らしい趣味ですね」

 土倉は聴取の記録を手帳にメモし、黒田龍三を解放してあげた。

「ありがとうございます。部屋へ戻ってもよろしいですよ。おやすみなさい」

「良いか! これ以上でしゃばるんじゃねえぞ!!」

 黒田龍三は立ち上がりざまに怒号を飛ばして来た。土倉は平然と言い返した、

「二人も死人が出てるんですよ? 探偵として、ただじっとしているわけには参りませんから。さあ」

 掌を伸ばして退出するように促すと、事の重大さを理解したのか定かではないが、黒田龍三は何も言わずのそのそと書斎を出て行った。


───────────────────────

 第二の容疑者

 黒田くろだ 冴子さえこ

 黒田龍三の妻で細面且つ気品溢れる夫人だ。髪を緩く三つ編みに一つに纏め、肩に垂らしている。白の浴衣にミルク色の手編みのストールを羽織っている。

「お騒がせしてしまい、申し訳ございません」

 重崎と共に頭を下げると、黒田冴子は落ち着き払った声で言った、

「いいえ……探偵さんも、刑事さんも大変ですわね……」

 怯えてはいる様子だが、黒田冴子は夫である黒田龍三とは違い、感情的な性格ではないようだ。ところが、夫人の癖なのか、やたらに右腕をさすっていることに土倉は気になっていた。

「早速ですが、騒ぎのあった夜、何をしていましたか?」

 土倉は夫にした同じ質問を黒田冴子に投げかけた。右腕をさすり続けながら夫人は思い出す様に土倉の後ろを見つめた、

「お風呂に入って歯を磨き、夫と眠りましたわ」

「旦那さんの龍三さんに、何か不審な動きはありませんでしたか?」

「不審……と言いますと?」

 土倉の質問に一瞬身体を浮かせて、動揺しているように見えた。この夫人は何か隠し事をしているのではないかと、土倉は感じ取った。

「あなたが言った事は伏せておきます。安心してください」

 優しく諭すような言葉を受けて、夫人はしばらく考えながら重い口を開けた、

「……夫は、自分が殺されるのではないかと不安に感じていた様でしたわ……。それで、昨夜から防犯対策をするようになりました。扉に鍵を閉めても満足せず、机の椅子やソファを入口に立てかけて誰も入らないように徹底しておりました。私は、そんなことしなくてもいいと思ったのですけれども、広間で女の子が殺されたのを思い出し、何も言えなくなりました。それと……」

「それと?」

 土倉は黒田冴子の話に頷きながらペンを走らせた。

「こちらに来る以前、通販で高性能の防弾チョッキを二つ分注文しろと言われました。夫は機械に疎いので私が代理で。昨夜は取り寄せた防弾チョッキを着込んで、前からも後ろからも攻撃されても命を取り留められるように対策をしていました……」

「となると、何か、襲われる心当たりがおありなんですね?」

 土倉が詰め寄ると、黒田冴子は今にも泣き出しそうな程に徐々に青白くなっていた、

「ごめんなさい……それだけは言えませんわ……。もし、この事をあなたたちに教えたと気付かれたら私が夫に殺されます……」

 黒田冴子は両手で顔を覆い、急に泣き出した。二人は突然のことで唖然とした。
 土倉は、顎にペンのキャップを当てながら、この『オリオンの館』と黒田財閥は、何かしらの関わりがあるに違いないと考えた。過去二回も『宴』に参加していたのだったら、援助をしているか、もしくはこの建物を狙おうとしているかのどちらかに相違ない。
 これ以上、黒田冴子に聞いても夫の支配に苦しませるだけだと判断した土倉は夫人を解放した。最後に、部屋を出す前に土倉は気になった事を尋ねた、

「ご夫人。ずっと腕をさすっていますが、どうなさいました?」

「え……?」

 黒田冴子は驚いた顔で、慌てて左腕をおろした、

「こ、これは……小さい頃からの癖で……」

「そうですか、失礼しました」

 土倉は、頭を下げて黒田冴子の姿を見送った。

───────────────────────

 第三の容疑者

 佐藤さとう 晴彦はるひこ 

 政府に勤めているという事務次官。細縁メガネをかけ、上背のあるこの男は整った顔立ちをしている。『宴』に参加したのは一度目だと語り、同伴者を伴わず一人で来たという。異様にも、深夜だというのに、スーツを着ていた。

「いま深夜の二時過ぎですが、なぜスーツを……?」

「騒ぎが起こる前まで仕事をしていたんだよ。あの執事に頼んでWi-Fiを貸してもらい、庁舎にいる部下と連絡を取っていたんだ。コンビニみたいに二十四時間、管理しないと大変なことになりかねないからねえ」

 顎に手を添えながらそう言い終えると、依然黙ったまま土倉たちを凝視して来た。

「な、何か?」

 土倉が不思議に思い尋ねると、今度はソファにもたれ掛けながら腕を組んだ、

「いや、この僕に聴取して、果たして意味があるのかと思ってね」

「意味がなければ、この様な事はしません。私は、殺人を食い止める為にこの『宴』に来たんです」

「ほお? 殺人する為じゃ無いと?」

 佐藤晴彦は片眉を上げた。その、人を小馬鹿にした態度に二人は苛立ちを覚えた。土倉は小さく深呼吸し、冷静を保ちながら聞き返した、

「あなたは人を殺したくてこの『宴』に参加したのですか?」

「黙秘する」

「そうですか。まあ、無理に問い詰めるつもりはありませんので、安心してください」

 土倉は右手で制しながら、改めて全員に尋ねた同じ質問をした、

「騒ぎのあった夜、何をしていましたか?」

「さっきも言ったように、自分の部屋で仕事してたよ」

 佐藤晴彦は徐に灰皿を引き寄せ、背広から煙草を取り出し火をつけた。

「証拠は、その……連絡を取っていた部下ですかね───」

 土倉は質問しようとした途端、を思い出した。急に言葉が途切れたことを佐藤晴彦はメガネを上げながら青白い煙を吐いた、

「───まあ、携帯は没収されてるから君たちには外部との連絡はできないね。それに、部下は八王子の森に閉じ込められてるなんて知らないはずだよ」

 外との連絡網。この男ならできるはずだ。しかしあのスクリーンに映し出された奇妙な『仮面』は気付いていない。

「待ってください? あなた、外と連絡していますよね……なぜ助けを呼ばないんですか?」

「呼んでどうする。絶好のチャンスを逃しちゃうじゃないか」

 佐藤晴彦は煙草の灰を灰皿に落としながら、ニタリと笑った。そうか、もしこの男の殺したい相手がこの『館』にいるとしたら、連絡手段が使えるパソコンを持っても誰も怪しまない。逆に通報してしまえば己の命が危ぶまれると考えるとそんな馬鹿な真似はしないだろう。
 土倉が考え込んでいると、隣に座っていた重崎が前に乗り出し、男に質問をした、

「官僚事務次官であるあなたが、何故この『宴』に来たんだ? ここまで来て仕事なんてするぐらいだから忙しいはずだろ?」

 佐藤晴彦は刑事に顔を向けて目を輝かせながら挑戦的な口調で答えた、

「遅めの冬休みを貰っててね? 僕のマンションに招待状が届いてたからこれは行くしかないかなって。まあそれでも、事務次官としての仕事を果たさなければならなかったからここでも仕事してる。あんたと同類ってわけだ」

 煙草をゆっくりと灰皿に揉み消しながら、主導権を勝ち取ったように質問をし返して来た、

「君たちの方こそどうなんだい? 黒田夫妻を筆頭に、僕らを問い詰めといて、君たちの方こそ怪しいじゃないか」

「(黒田夫妻? なぜ、あえて名指しした?)」

 土倉はふいに違和感を覚えた。土倉は男の質問に答えず、すかさず投げ返した、

「あの夫妻をご存知なんですね? 私達が『宴』に参加した時、あの異様な雰囲気の中で自己紹介し合っていたとは到底思えない。まして、誰が誰を殺すのかしれないこの緊迫感の中で」

「…………」

「それに、あえて夫妻と呼ぶのもちょっと不思議ですね。それに、香川さんがあの夫妻を”黒田様” と呼んだ瞬間は無かったし、名指しするほどあの二人は香川さんを頼っていなかった」

 男はしくじったとでも言いたげな顔をしたが、すぐに気を取り直して居直った、

「ふん、政府に勤めれば、黒田財閥の事を知らない者はいない。知ってて当然だよ」

 明らかに怪しく思えた。官僚事務次官と言えど、財閥の社長と面識がある事自体、奇妙だ。過去に何かただならぬ関係であった事は確かだ。

 土倉は男がした質問に答え、疑いを晴らした後、佐藤晴彦を書斎から退場させた。

 すかさずペンを走らせ、疑わしき容疑者候補に男の名を明記した。

───────────────────────

 第四の容疑者

 つづみ 冷花れいか

 新宿の一等地にあるK美容専門学校に通う二年生。最初の犠牲者である 宮下薫みやしたかおるの同級生で、同伴者としてこの『館』を訪れた。
 突然、一夜にして親友が目の前で殺されたショックからか、あれからずっと怯えきっていた。食事が喉を通らぬ様子で、昨日の朝の時も、昼も夜もただナイフとフォークを動かすだけで口に入れていなかった。そのせいか、書斎に入るだけでも、たどたどしい足取りだった。

 土倉は、慎重に物を尋ねようと努力した、

「突然、怖い思いをさせてすまないね。少し君に聞きたい事があるんだ」

「……な、なんですか……?」

 初めて会った時の笑顔が嘘の様だった。ただでさえ目を合わせずにいた彼女がさらに顔を俯かせ、恐怖に怯えていた。しかし、彼女にはどこか違和感ばかりを感じている。髪を三つ編みにしており、更には、掛けていた眼鏡が消えていた。
 土倉は気になる点をそっとメモに起こし、それを追求する事はせず、改めて質問した、

「騒ぎがあった夜、何をしていたのかな?」

「体を洗ったあ、あと……パ、パジャマに着替えて……そのままベッドに入りました……ドアを勢いよく開ける音がして……私は……すぐに何事かと外に出てみたら……あぁ……あああ! かおるぅぅうッ!!」

 重崎はすかさず駆け寄り、彼女の背中を擦った。土倉は身じろぎもせず、彼女を凝視した。

「おい……土倉!! もうこの子の聴取はしなくていいんじゃねえのか?!」

 熱くなる重崎の訴えに土倉は首を振り、堤冷花への質問を続けた、

「掛けていた眼鏡はどうしたのかな?」

 土倉が聞くと、泣き喚いていた彼女が両手で顔を覆ったまま黙りこくった。しばらく経って、堤冷花は手を下ろし、顔を真っ赤にしながら初めて目を合わせた、

「……こ、壊れてしまったんです……急に電気が消えたあの時に……慌てて眼鏡を取り落として……」

「そうか……分かった、もう部屋へ帰ってもいいよ」

 重崎は訳が分からないという風に、ドアまで誘導してあげ、彼女は書斎を去って行った。

「どういうことだよ、土倉!」

「後で話す。次はあれだ……香川さんを呼んでくれ」


───────────────────────

 第五の容疑者

 香川かがわ わたる

 『館』の諸事万端を統括し管理する執事であり、その役職にふさわしく、常にタキシードを着ている。表情を揺るがすことなく、真っすぐ人の目を捉え、威圧的な態度を示す相手を怯ませる。深く響く声が若々しく、一方で皮膚の皺が歳を感じさせたが、土倉の問いによって、年齢は今年で五十になるということが分かった。
 この『宴』の主催者で館の主と思わしき『仮面』と近しい人物であり、土倉と重崎が不信感を抱く人物である。土倉は、さっきの容疑者のことで乱れた気持ちを抑えながら、例の質問を繰り出した、

「騒ぎがあった夜、あなたは何をしていましたか?」

 香川は柔らかいソファにぎこちなさそうに座りながら背筋を正した、

「皆様の、朝食でご用意する食材の下処理をしておりました。私一人で調理しておりますので、支度に大変時が掛かります。皆さまのお好みに合うよう、洋食、和食と取り揃えてございますから」

「ものすごく美味しくて最高でした! 今度、俺のリクエストを聞いてくれますか?」

「おい、謙太」

「痛って! 何すんだよ」

 重崎が割り込んできて土倉は顔をしかめながら勢いよく叩いた。肩を痛そうにさする重崎にクスリとも顔を緩ませず、香川は淡々と頷いた、

「お安い御用でございます。のちほど、お伺い致しましょう」

 執事は少し声を弾ませながら一瞬、口角が上がったように見えた。どうやら気を良くしたらしい、

「 わたくしは元来、三ツ星レストランの総料理長を勤めて参りましたので、様々なレパートリーを心得ておりますからきっとお気に召すお料理を提供できるかと存じます」

 香川は丁寧な口調で言った。決して自慢している様に聞こえず、聞いてもいない経歴を話してくれた。

「昨日の朝、私たちが、『一人で大変じゃないか』と質問した時、軽くはぐらかされましたが、なぜ今になって教えてくださったのですか?」

「興味本位の質問と現在置かれている事情聴取とは別でございますゆえ。嘘偽りなく話すことが事情聴取なのではないのですか?」

 土倉はもっともなことだとは思ったが、あの時でも自身が総料理長を勤めていたと話すことは可能だったはずだ。たとえ、料理の跡片付けや『館』内の清掃などの予定が目白押しだったとしても。
 この老紳士が、事情聴取でも本心を語るような軽率な人間でないことは初めから見抜いている土倉だったが、あえて気遣いの言葉を述べた、

「料理は大変美味しかったです」

 土倉が笑顔で言うと、香川はまたもや顔色を変えず、ゆっくりと頭を下げた。

「そう仰って頂き、執事冥利に尽きます」

 土倉は、ふとテーブルに目線を移すと、灰皿の下に敷いてあるスパッタシートに色鮮やかな紋章が描かれていることに気付いた。それを抜き出すと、その紋章が『仮面』に眉間にあったものと、携帯を回収した箱にあったものと同じだった。

「この紋章ってどこかで見た覚えがあるんですが、一体何でしょうか?」

 香川が目線を下にして布に描かれている紋章を一瞥した。

「この『館』のシンボルでございますね」

「シンボル?」

「日本で言うところの家紋と申せばよろしいでしょうか」

「あぁ、なるほど」と土倉はシートを灰皿の下に敷きなおし、納得した。ところが、香川をちらと見ると初めて暗い表情をしてたのを見逃さなかった。

「袖に付いている、その赤いのは、なんでしょう?」

 土倉は、メモ帳とペンを持ち直すと、香川の袖口に付着していた赤く黒ずんでいる箇所を指摘した。香川は自身の腕を捻り、指摘された物を見つめ、吐き捨てるように言った、

「ケチャップでございますね。袖をまくりながらソースを作っておりましたが、跳ねて付いてしまったのでしょう」

「そうですか……。分かりました、以上になります。お忙しい所──」

 土倉が締めの言葉を述べようとすると、途端に老紳士が前かがみの姿勢になって遮って来た、

「───恐れながら……城定じょうじょう様の死因は何だったのでございましょうか?」

「城定? 誰の事ですか?」

 思わず重崎と顔を見合わせて聞き返すと、香川は太ももの上で手を組んだまま、淡々と述べた、

「先ほど、お部屋で矢を突き刺されて亡くなられた方でございます。城定様と申しまして、お察しの通り住所不定のお方でございます」

「ホームレスの男にも敬語を使うんだな?」

 香川は質問して来た重崎を見上げた、

「当然でございます。ご主人様が招待された方々は、この『HOUSE OF THE ORION』のお客様でございますから」

 重崎は土倉と再度顔を見合わせ、自身で行った検視結果を伝えた、

「俺が検視した結果、胸に突き刺さった矢は致命傷では無く、ナイフで突き刺された両てのひら、足の甲、そして、胸と右の肺、腹を三か所、脇腹を二か所─── まあ要はめった刺しだな……それで失血死したんだ。てか、なんでそんなに気になるんだよ」

「はい……【オリオンの裁き】で亡くなられる方は未だかつておられませんでしたもので。安置の処置に手間がかかりそうでして」

「(ふーん……そういう事か……)何故、安置室なんて、この『館』にあるんですか?」

「はい。ご主人様が、いずれご自分が亡くなられた時には、安置室を墓として埋める様、工事をした者にご命じになられたのでございます。民間の寺になどに葬られたくないという、無宗教のご主人様の願いでございまして。まさか、この様な事態になるなど、ご主人様も思っておいでではなかったのでしょうね。安置室へ運ぶよう命じられたのは、ご死者への敬意なのです」

「(敬意だと?殺人が目的でこの『宴』を開いたくせによくもまあ抜け抜けと。俺を殺そうとした城定よりサイコパスだな、あの『仮面』は」

 土倉は思わず、持っていたペンを強く握り締めた。



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